狙われる対象であり、守らなくてはいけない対象であり、その完成が望まれる存在、熾天の聖宝。…その要素を逆に利用する事で、敢えて聖宝を絶対の防衛対象ではなく餌とする事によって、狙っているであろう魔人を誘き出す。微弱ながら、富士山という土地の中で発生した霊力や魔物、魔人の力を吸収するという性質を活用し、完成という形での作戦完了を目指す為に、誘い込んだ上での迎撃戦を繰り広げる。…それがそう遠くない内に行われると、妃乃は言った。
あの地下空間から動かせないからといって、何もせず、いつになるかも分からない完成を待ち続ける…なんて判断を、協会がする訳がないっていうのは分かっていた。そんな作戦でも何でもない、受け身オブ受け身の選択をしていたんだとしたら、それは先行き不安にも程がある。
けど、だったらその誘い込み作戦に賛成なのか、良い作戦だと思っているのかと言われれば……そうだとは、言い切れない。
「そっか…お兄ちゃん、そんな話をしてきたんだね」
妃乃からの話を聞いてから、数時間。家に戻り、普段通りの事をしていた俺だが…多分、考え事をしてるってのが、顔に出てしまっていたんだろう。何かあったのか、と緋奈から訊かれ…俺は答えた。双統殿の廊下で聞いた、その作戦の話を。
「まぁ、なんつーか…意外だったよ。まさかそんな作戦が立って、しかも実行する方向で話が進む事になったなんてな」
ソファに深く身体を沈めながら、俺は答える。色々思うところはあったが…というか今もあるが、まず抱いたのは驚きだった。思いもしなかった、そんな感情だった。
「誘き寄せる、って事だけど…その、聖宝?…の事を、本当に魔人は知っているの?その確証はないんだよね?」
「そうだな、それはその通りだ。けど確証はなくとも、そう考えられるだけの要因はある。それに…これは俺の推測だが、誘き出されてこなかったら、それはそれで良いんだよ」
「そうなの?」
「ああ、何せその場合は、絶好のチャンスなのに仕掛けてこなかった…つまり、そもそも知られてないって事がはっきりする訳だからな。知られてないなら狙われる事もねぇし、そっちの方がずっと助かる」
まあ尤も、それは誘い込もうとしてるのを見抜かれなかった場合だけどな…と、説明した後心の中で俺は続ける。
何にせよ、こういう作戦はバレない事が重要になる。当然誘い込む為には、チャンスと思わせる…つまり、見える戦力を減らした上で、多くの戦力を伏せておく必要がある訳だが、こういう類いの作戦は一度やったら警戒される以上、やり直しなんて効きはしない。
「やるとすりゃ、また大規模な戦いになるだろうな。奪われちまったら元も子もねぇし、狙い的にも少数精鋭より大規模戦闘の方が良いだろうし…魔人側も、組織立った動きをしてくるなら、攻略戦の定石として半端な戦力で仕掛けようとする筈がねぇ」
「へ、へぇ…定石なの…?」
「ん?…あ、悪ぃ。例外もまあまああるから基本的な考え方の一つに過ぎないんだが、攻撃する側と防御する側だったら、攻撃する側の方が難易度が高いんだよ。攻撃する側は防御を突破しなきゃいけない…つまり、それなり以上の『勝ち』を戦いの中で上げなきゃいけないが、防御する側は突破さえされなければ負け気味でも大丈夫だし、加えてそれが基地や拠点への攻撃だった場合、攻撃側は移動してきたんだから当然自分達の基地から離れた場所で戦う事になる訳だから、な」
しまった、妃乃を始めとする他の面々と違って、緋奈は(当然だが)その辺りの知識がそんなにないんだった…と思い出して俺は説明。上手く説明出来たかどうか分からなかったが、俺の説明に対して緋奈は「お兄ちゃんがそう言うって事は、きっと正しいんだよね」と頷きながら返してくれた。話は誰が言ったかじゃなくて何を言ったかで判断するべきだ、って言葉があるし、実際「誰の発言か」「どんな発言か」はそれぞれ分けて考えるべきだと思うが…緋奈に対しては問題なし!これからも存分に「お兄ちゃんの言葉だから」で判断してくれて構わないぞっ!
……ごほん。違うな。いや、俺のスタンスは変わらんが…流石に今は、んな事考える流れじゃない。
「とにかく実行したとすれば、協会の想定する形で事が進むなら、大きな戦いになる事は間違いない。気になるのは、それを実行する場合のこっち、双統殿側の戦力で……」
「…ねぇ、お兄ちゃん」
「うん?また何か分かり辛かったか?」
「ううん。…お兄ちゃんはさ、この作戦に賛成なの?」
その後もぶつくさと話していた俺へ対する、緋奈からの新たな問い。それは、かなり単純な質問で…それでいて、核心を突いた問いでもある。
俺はそれを、ここまで意図的に話さないでいた。話したくなかったんじゃなく…言わない事で、ぼかしていた。
「…そう、だな。少なくとも、絶対反対…って訳じゃない。現実問題として、雪山でいつ終わるのかもよく分からないまま、何がどの程度来るかもはっきりしない敵に対する備えをし続ける…っていうのは、心身共に負担が大き過ぎるからな。これは可能なら、出来る限り早くケリをつけた方が良い。こっちから状況を動かせるなら、それに越した事はない」
「…けど、だから賛成…って訳でもないんだね」
「…よく分かったな」
「分かるよ。生まれてからずっとお兄ちゃんの妹やってきたんだもん」
そりゃそうか、と俺は納得。ずっと俺の妹だったんだから…そこには具体的な理由も根拠もなかったが、納得出来る。そうだと思える。それだけの積み重ねが、俺と緋奈の間にはある。
「…協会の判断が合理的で、現実に即してる…ってのは分かる。俺だって、そうだと思う。けど…結局のところ、これはこっちの意思で起こす戦闘なんだよな。しかも通常の任務とは違う、普段の魔物討伐とは比べ物にならない程の大規模戦闘を、こっちから誘い込む形で起こすんだ。はっきり言ってこれは、魔人側から普通に襲撃を受けた場合よりも、大規模な戦闘になるかもしれない」
「…そっか…そうだよね。仕掛けてくるように、こっちからそうしたくなるようにする訳だもんね…」
「それに…多分、これまでと同じように聖宝の事は公表しない。大半の霊装者には別の名目で作戦参加をさせるんだと思う。…前の時と、同じようにな」
仮にそうだったもしても、そうする理由は「公表する事で別の勢力、別の組織による横槍や漁夫の利を狙った襲撃が起こる可能性を生じさせない為」という、これまた合理的なものだろう。総合的に考えても、この誘い込む作戦には、妥当性も正しさもあるんだと思う。そして合理的で、妥当で、正しさもあるのなら…やはり、余程の問題が起きない限り、この作戦が実行されるのは間違いない。
だが…結局のところそれは、協会の上層部が、組織が決めた事だ。確かに合理的で、しかも富士での任務に当たっている霊装者の負担の事も考慮している作戦ではあるが…一方通行な、上から押し付けられる正しさであるような気が、俺にはしている。
組織っていうのは、そういうものなのかもしれない。合理的、って言うとまるで冷たいように感じるが、色々考えた上で、一番良い結果になるもの、なりそうなものを選んでるって意味じゃ、何も間違ってなんかいない。ただ、それでも……
「…正義は一つじゃない、正義は人の数だけある…っていうのを支持する訳じゃないが、一人一人価値観や重視するものは違う。けど組織は、集団全員分じゃなくて、何か一つの事を決めなきゃいけない。…それって、凄く難しい事だよな」
「難しいね…」
長々と緋奈に対して話してしまったが、自分の思考を話す事で、少しだけ纏まった。
俺はこの作戦に、賛成出来ていない。けど、これにある正しさが分かっているからこそ、反対も出来ないんだ。こういうどっち付かずなのが一番困るもんだが…それが今の、俺の考えなんだ。
だが恐らく、そうだとしても、呼ばれりゃ俺は従うしかない。こんなどっち付かずな考えで、上層部を変えられるとも思わない。だとすれば俺に出来るのは、楽して余計な事は考えないようにするか、俺の中での考えを変えるか、或いは……
(従う中で、俺が納得出来る事を出来る限りするか、だな……)
「…ねぇ、お兄ちゃん。わたしに出来る事って…ある、かな」
そんな思考に耽る中、不意に緋奈が言った言葉。それは俺にとって、全く予想もしてなかった事で…だが、緋奈は優しい性格をしている。そんな緋奈が、こんな話を聞けば、「自分にも何か出来ないか」…そう思うのも、無理はない。
「…緋奈、それは……」
「うん。全部、含めてだよ」
兄妹故の以心伝心…かどうかは置いておくとして、緋奈は答える。俺が最後まで言うよりも早く、はっきりと。俺の目を見て、真っ直ぐに。
…いつの間に、こんなにも頼もしくなったのだろうか。あれからの一年間と少しで、俺が大きく変わったように、緋奈も変わったという事だろうか。或いは、俺が変わった事で、『今の緋奈』をちゃんと見られるようになったのか。…まあ、どっちだっていい。どっちであろうと…今の緋奈は頼もしく、且つこれまでと変わらず可愛いのだから。
「それが、本気の言葉なら…ってのは、無粋だよな。…そういう事なら、妃乃に言った方が良い。妃乃なら、緋奈が力になれる事があれば…言ってくれるさ」
「うん。お兄ちゃん、わたしも頑張るよ。…出来る事があったら、だけどね」
「ははっ、そりゃそうだな。…けど、あるさ。緋奈は、お兄ちゃんの妹なんだからよ」
そう言って俺が笑えば、緋奈も頷き笑みを返す。大丈夫だと、そう答えるような笑みを。
反対する気持ちが、何もないといえば嘘になる。今の俺は変わったと言ったって、緋奈に危険な事はしてほしくないという気持ちは変わらずにあるし、緋奈が安心安全に過ごせる事が一番良いに決まってる。だが…当たり前だが、緋奈だって一人の人だ。だから自分の事を自分で決める権利があるし、緋奈が何も知らない、何の力もない少女だったのは、もう完全に過去の事。何より俺は兄だからこそ…緋奈の味方でいたい。緋奈を応援出来る、背中を押せる兄でありたい。
そして…それならばやはり、俺のやる事は決まっている。ただ流されるか、更に変わるか、変わらないまま出来る事に力を尽くすか。やれる事をやろうとしている、立派な妹に相応しい兄として選ぶべきは、選びたいのは……一つだ。
*
「ラフィーネ、フォリン、話があるんだ。…いや、話があるっていうか…聞きたい事がある、かな」
その日俺は、リビングで二人へとおもむろに切り出した。えらい唐突に聞こえるかもしれない…というか、二人からすれば完全に唐突なんだけど、これは順を追ってするような話でもない。
「聞きたい事、ですか?」
「ひとつなぎの大財宝の正体?それなら……」
「いや違う違う、それを訊きたいんじゃ…え、知ってるの!?嘘ぉ!?なんで知ってるの!?」
内容を言いもしない内から答える姿勢に入るラフィーネ。けど当然俺がまず言ってないんだから、その回答もトンチンカンなもので…ただそのトンチンカンな回答というのが、予想外の極みみたいな回答だった。
もし知ってるなら、それはそれで訊きたい。超訊きたいけど…そうじゃない(後、普通に冗談だった。…そりゃそうだよね…)。
「けど、読む人の時期によっては、既に普通に知っている可能性も……」
「そうだけども!俺は今現在の話してるから!投稿日時点の話だからね!?」
「あのー、顕人さん…私の勘違いなら別に良いのですが、顕人さんは割と真剣に訊きたい話があったのでは…?」
「あ…ご、ごほんっ。しまった、完全に乗ってしまった……」
返しがエキセントリック過ぎて思わず乗ってしまったけど、俺は駄弁りたかった訳じゃない。だから指摘された俺は咳払いをする事で意識を切り替え…って、よく見たらちょっと笑ってるじゃんフォリン…!さては俺とラフィーネのやり取りを見て楽しんでたな…!…全く……。
「…俺が聞きたいのは、二人が見てきた世界各国の事だよ。これまで二人は、色んな国に行ってきたんだよね?」
「それは、そう」
「うん。だから、その時の話を聞きたいんだ。…って言っても、別に観光とか名所とかの話じゃなくて…霊装者としての視点から、見てきたもの、感じた事を、聞かせてほしい」
頭をクールダウンさせて、俺は軽く二人を見回し本題に入る。俺が何を二人から聞きたかったのかを、そのままに話す。
「…どうして、そのような事を?」
「知りたくなったから、かな。日本の外、それそれの国の事を。…俺はまだ、知らない事が多いから」
「そう、ですか…顕人さんのお望みであれば、話すのは構いません。ただ、その……」
「分かってる。二人の話せる範囲で…話していいと思う範囲で大丈夫だよ。無理して話すなんて事は、しなくたっていい」
漠然とした回答でも俺の心が伝わったのか、或いは察してくれたのか、フォリンさんは今の説明だけでも了承してくれた。そして、それからフォリンさんは表情を曇らせ…今度はそれに、俺の方から言う。無理はしなくていいんだ、と。
…当然だ。二人は、好きで世界各地へ行っていた訳じゃない。それはBORGからの命令で、他に行く宛てがなく従わざるを得ない中で行ってきた、暗殺という陰惨な過去そのものであり…俺は断れる事も、普通に考えていた。断られたら、喰い下がる事なく諦めようとも思っていた。
けれど、二人は話してくれるという。ならば、感謝しなくてはいけない。拒絶する事なく話してくれようとする、二人の気持ちに。
「ありがとうございます。…ですが、私達もどこまで顕人さんの期待に添えるかは分かりません」
「わたし達が潜入してきたのは、霊装者の組織だけじゃない。殺してきたのも…霊装者、だけじゃない」
「それも、分かってる。その上で、俺は二人に訊いたんだよ。だから…二人の出来る、二人の話。それを、お願い」
そうして二人は話し始める。二人がこれまでに行ってきた、経験してきた、数多くの事を。
当然それは、楽しい話なんかじゃなかった。それぞれの国、それぞれの場所での目的が明るくなんてない、暗いばかりのものなんだから、楽しい話になる筈がない。
それでも二人は、俺の意図を最大限汲んでか、見てきた国の霊装者、組織、それ等の雰囲気や現状を、知っている範囲で語ってくれた。過去について話すなんて、どうしたって忘れたくても忘れられない、抱え続けなきゃならない闇を掘り返す行為だというのに、一つ一つ教えてくれた。
「…こんな、ところでしょうか。そして、その次は…顕人さんの、知っての通りです」
「そ、っか…それで、日本に……」
「…顕人、今の話で良かった?顕人の気になる事、聞けた?」
「…うん。ありがとう、二人共。二人には、感謝しかないよ」
ラフィーネからの問い掛けに、強く頷く。頷いて、感謝を伝える。
要望に応えてくれた事、知れた事。これは勿論ありがたい。けどそれ以上に、話してくれた事そのものが、嬉しかった。感謝したいと、強く思った。二人はきっと、俺の頼みならばと話してくれたんだと思うから。
「それなら、良かった。…けど顕人、フォリンにもっと、感謝してるって伝えてあげて。フォリンはきっと、話している間辛かった筈だから。だからもっと……」
「そ、それを言うならラフィーネの方ですよ…!顕人さん、もっとラフィーネを労ってあげて下さい…!ラフィーネは平気な顔をしてるだけで、本当は……」
「あ、う、うん。分かったから二人共落ち着いて、ね…?」
お互いに「相手へもっと感謝してあげて」と迫ってくる二人。それは互いを思い合う、自分以上に相手の事を大切にしている姉妹の絆の表れで…でもそんな感じで迫られてしまえば、正直反応に困るのも事実。
「えぇ、と…もっとって事だけど、具合的にはどうしたら…?」
「…………」
「…………」
『…撫でて』
「あっ、はい…」
そしてどうしたらいいのか訊くと、二人は顔を見合わせ、それから揃って「撫でて」、と回答。…なんだろう、この微妙にシュールな流れ…。
「…じゃあ、失礼して……」
「ん……」
「んっ……」
差し出された二人の頭に触れ、頭の形に沿うようにしてゆっくりと撫でる。始めるとすぐに、二人は小さな吐息を漏らして…どきりとする。どきりとさせられてしまう。
髪の色は違えど、その柔らかさは同じ。柔らかく、さらさらとした髪はただ撫でているだけでも心地良く、加えてその下で二人もまた心地良さそうに、気分が良さそうに表情を緩めてくれるものだから、なんか普通に続けたくなってしまう。
けど、俺は知っているのだ。こういう時調子に乗ると…誰か(大方は綾袮)に見つかって、大変慌てる羽目になると。
「…ごほん。二人共、そろそろいいかな?」
「…何故に咳払いを?」
「う…な、何でもない……」
「…顕人、後ろめたい事が?」
「だ、だから何でもないって…!」
じぃっと見てくる二人の視線から流れるように顔を逸らしつつ、でもちらちらと二人を見る。
最後まで淀みなく話してくれたとはいえ、やっぱり本当は語った事で心に影が差し込んでいるんじゃないかと、そんな不安が俺にはあった。
けど…二人が浮かべていたのは、少し意地の悪い笑み。顔を逸らした俺を見て、してやったりと思っている…そんな風な顔をしていて…だから、安心した。
(…けど、そうか……)
ほっとした事で、意識は二人の事から、二人から聞いた内容へと移る。
何故、他国の事を訊いたのか。…これは本当に、他国の事も知りたかったから。協会だけじゃない、世界全体における、『霊装者の世界』を知りたいと思っていたから。
そしてその点においては、残念ながら詳しいレベルまでは分からなった。まあでもそれは、仕方のない事。俺の知りたい組織の在り方、組織の中の人の認識なんて、長期間そこに所属して、組織の人間として思われていなければ、ちゃんとは分からないものだから。
「……ねぇ、ラフィーネ、フォリン」
「ん、何?」
「二人から見て、霊源協会は…良い組織だと、思う?」
背けていた顔を戻して、二人へと訊く。それは二人からすれば、多少の脈絡こそあれど、やっぱり「急に何を」という話で…けれど顔を見合わせた後、ちゃんと問いに答えてくれる。
「…正直、特別良い組織だ…とまでは言いません。私達の扱いの事を考えれば、情のある組織だとは思いますが…良くも悪くも、霊装者の世界において強大である『日本』の組織なのだなと、私は思います。ただ……」
「顕人もそう。綾袮もそう。ここには…優しい人が、多い。だから…感謝している」
引き継ぐ形でラフィーネが言い、「ですね」とフォリンが微笑み頷く。…それは、正直な思いなんだろう。間違いない。ラフィーネもフォリンも、そういう人だ。優しい人が多いと思ってもらえているのなら、その中の一人として自分が思われているのなら…光栄だって、心から思える。
けど、これが答えだ。ラフィーネの言葉は、一人の人としての思いだろうけど…フォリンが語った部分は、「霊装者として」の認識だろう。やはり現代の霊装者の世界においては、「こういうものだ」という認識が一人一人の中にも、組織全体にもあって…それは今の霊装者世界においては正しくとも、俺の信じる正しさじゃない。
……少しずつ、俺の中で心が、意思が固まっていく。その先あるものが、まだどうなるかは分からない。それでも俺の心は…確かに「そちら」へと向かいつつあった。
因みにこれはもう完全に余談だが、その後暫くしても、リビングに誰かが来る事はなかった。…なんか少し、損をした気分だった。