双極の理創造   作:シモツキ

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第二百十五話 それでも親は子を思う

 あのホテルで再びウェインさんと言葉を交わしてからも、俺は色々な人と話し、思いや考えを聞き、それを俺の中で溜め込んでいった。聞く度に俺は考えていった。それとなく、今の協会や霊装者の世界について聞いてみて、自分の中に蓄積していった。

 当然ながら、一人一人の意見は違う。同じ事について、同じ条件であったとしても、それぞれ大事にしている事や重要としている部分が違って、だから簡単には括れない。

 けど…全員が全員、全く違う考えや意見なのかといえば、そうでもない。多くの人に共通する部分というものはある。共通認識の様に、常識の様に見られていて、それ故に肯定されている…部分的に批判される事はあっても、根底までを否定される事はない、そういう部分が確かにあって…それ等は要約すると、こうなる。──協会は、真っ当な判断をしている、と。

 

「…まあ、確かにそうだろうさ。それはそれも否定しないけど、さ……」

 

 ベットに横たわり、膝から下はベットの外に出した状態のまま、ぽつりと呟く。

 寝起きでも、これから寝るところでもない。昼食を取ってからもう数時間。自分の部屋で、何をするでもなく俺は黙々と考えていて…けれど、行き詰まっていた。その行き詰まりが漏れ出るように、俺は独り言を呟いていた。

 

(そういやさっきから、全然慧瑠が話しかけてこないな……)

 

 普段ならこういう時、割と慧瑠は声を掛けてくる。真面目に俺の考えている事について意見や質問をしてくる事もあれば、茶化すような事を言ってくる事もあるのに、今日はさっきその姿を目にして以降、全く見えなければ慧瑠から話しかけてもこない。

 俺が黙々と考えていたから、邪魔をしないようにと気を遣ってくれたのだろうか。それとも俺の意識が思考に集中していて、普段以上に全く別の事を考えていたりしないから、慧瑠は現れようにも現れられないという事だろうか。…どちらなのかは分からない。どっちも違う可能性もある。ただ、今は…今頭の中にある思想以外へ、あまり意識を割きたくない。

 

「組織がそう決めたのなら、協会も協会で出来る限りの事をしている筈だから…その考え方も間違っちゃいないだろうが…結局これって、組織にとっちゃ都合の良い思考なんだよな…」

 

 協会への擁護。それは力を失った人達からも、よく耳にしている。まあ確かに、あの場の真実を知らなきゃただの事故な訳で、そうでなくとも組織に所属するか否かは自己意思で決めるものなんだから、協会に責任を求めない、というか責任転嫁しないって事なんだろうけども……

 

「…あー…駄目だ、やっぱり駄目だ。どうにももやもやしてる感じがある…イマイチ集中し切れない……」

 

 右手の甲を目元に当てて、一人ぼやく。こう、やる気はあるのに集中出来ない、考えなきゃとは思っているのに思考は纏まらない…多分誰しも偶にあるその状態に、今の俺は陥っていた。

 こうなると、もう時間をかけたってどうにもならない。普通にこのまま寝てしまう可能性もある。

 

「…散歩でも行くか…」

 

 だから俺は、気分転換をする事にした。ゲームしたりしても良いけど、散歩ならばついでに外の空気も吸う事が出来る。それに段々暖かく…というか暑くなってきてるけど、まだ今なら外に出ても過ごし易い時期。気分転換としては、結構悪くない選択肢だろう。

 

 

 

 

「…と、思って出たは良いものの…どうすっかなぁ……」

 

 家を出てから数分後。初めは散歩なんだから目的も決めず、ぶらぶらと歩こう…と思っていた俺だけど、すぐにそのプランは駄目だと気付いた。

 残念ながら、俺はまだまだ多感な高校生。さっきまで思考がもやもやしまくっていたとはいえ、何も考えずぶらぶらと歩き続けられる程、のんびりした心は持ち合わせていないのだ。

 加えて言うまでもなく、ここは見知った住宅街。景色を楽しみながら、知らない方へ適当に…という事も出来ず、はっきり言って全然気分転換になっていない。むしろ「どう散歩したものか…」と、悩みが増えてしまってすらいる。

 

「これは完全に選択ミスだったかもしれない…」

 

 はぁ、と軽く項垂れながら、取り敢えず知っている道を歩いて進む。せめて誰かと一緒にいたのなら、とも思うけど、今そう思ったところで後の祭りだし、いきなり散歩に誘われたら、何かあるのかも…と思われかねない。…うーん、何だろうこのしょぼい八方塞がりは。

 

(やっばいな、マジでなんも良い方法が思い付かない…俺やだよ、こんな変な事に思考を割いて無駄に歩き回った挙句、家に戻ってもやもやしてて考え再開するとか……)

 

 気分転換をする為に出てきたのに、全くその気分は晴れず、微妙な心境だけ抱えて帰ってくるんじゃ話にならない。それならそれこそ、寝ていた方がまだ気分転換になるというもの。

 でもそれが分かっていたって、良い案が出てくるもんじゃない。出ない時はほんとに出ないし、もういっそ散歩はこの時点で切り上げちゃう方がまだダメージ(時間の無駄遣い)は軽く済むかもしれない…と、そこまで思った時だった。

 

「…あれ…?この道筋、って……」

 

 半ば無意識的に、けどちゃんと信号を見て横断歩道を渡っていた俺は、渡り合えたところで気付く。

 ここは、俺の家…綾袮達と住んでいる家ではなく、元々の家の近くの交差点だ。そして、思い返せば俺がここまで通ってきた道は、普段実家に帰る時の道筋と全くもって違いない。

 

「…………」

 

 偶然か?偶然俺は、実家に帰る時の道筋を的確に歩いていたって事か?……まさか。そんな事、ある筈がない。色々練り歩いた末、偶々実家の近くに来たとかならともかく…これは、偶然なんかじゃない。

 分からない。はっきりした理由なんて、分かりやしない。けど…これは、無意識的に俺が家への道を歩んでいたって事。理由は分からずとも…それは、事実。

 

「…家、か……」

 

 立ち止まったまま、少し考える。無意識に家へと向かっていた事、そこにある意味を。今の自分の事と、ずっと考えていた事を。そして……

 

「…ただいま」

「へ?…どうしたのよ、急に。今日、帰ってくるなんて電話した?」

 

 俺は、実家へ…父さんと母さんの下へ立ち寄る事を決めた。はっきりとした理由がある訳じゃなく…ただ、そうしたいと思ったから。

 

「や、その…近くに来たから、立ち寄ろうと思ってさ」

「そう…ま、元々歩いて来ようと思えば来られる距離だし、そういう事もあるわよね」

 

 丁度二階から降りてきた母さんは、俺がいきなり帰ってきた事に驚き…でも俺の説明で納得したのか、それとも何か察してくれたのかは分からないものの、普通の調子で迎え入れてくれた。

 リビングへ向かう母さんに続く形で、俺もリビングへ。今日は休みという事もあり、ソファに座っていた父さんは母さん同様俺に驚き…母さんの時と同じ説明で、分かってくれた。

 

「久し振り…って感じもあまりしないな。最近はどうだ?」

「まあ…ぼちぼちかな」

「ぼちぼちぃ?…まぁ、悪くないなら別にいいが…今は三年なんだ、真面目に大学行く気あるなら、ちゃんと勉強もするんだぞ?」

「はは…分かってるって…」

 

 父親からの、ちゃんと勉強しろ発言。それは子供なら、言われて当然の事で…だけど凄く、懐かしく感じる。

 というか実際、言われるのは久し振りだ。何せ、今は別の場所に住んでいるんだから。

 

「顕人、そこのところ協会はどう言ってるの?」

「ああ、うんまぁ…協会としては…というか、協会から行く行かないの指示を受けてるって事はないよ。勿論意思表示はしなきゃだから、大学行くつもりだって返してるし、綾袮もそのつもりらしいし」

「ふぅん。そういう事なら、ちゃんと大学も行って…って待った。今、『綾袮』って言った?」

「え?…あ……」

 

 二人は、俺が一度力を失った事を知らない。伝えてないんだから当然の事で、だからこれまで通りだと思って接してきている。でも別に、それが理由で辛くなったり微妙な気持ちになったりする事はなく…むしろ問題は、その直後。

 目敏く(この場合は耳敏く?)気付いた母さんの言葉に、俺ははっとする。…そう、これも二人は知らないのだ。昨年度末から、俺が綾袮達を呼び捨てにするようになった事は。隠してた訳じゃないけど…いざそこに目を付けられると、ぶっちゃけ恥ずい。

 

「へぇ…何かあった訳ね」

「う…特別何かあった訳じゃないよ。ただ、そういう話の流れになったってだけで……」

 

 にやりと口元を緩める母さんに対し、目を逸らす。何か言い訳みたいな言い方になってしまったけど、ほんとに特別な何かがあって変えた訳じゃないし…あの時は、結構恥もかいたから、掘り下げないでほしい。うん、いや、マジで止めて母さん…。

 

「呼び捨てなぁ…呼び方一つで一喜一憂したってしょうがないぞ、顕人」

「べ、別に一喜一憂してる訳じゃないよ。そもそもこの話題にしたのは母さんだし…(ぐふっ…父さんも止めてくれ…その発言は、あの時滅茶苦茶躊躇った俺に効く……)」

 

 恐らくは偶発的ながら両親のコンボ攻撃を受ける事になった俺は内心でまあまあダメージを受けつつ…けれど同時に、気付く。

 実家に戻り、母さんと最初に言葉を交わして以降、完全に俺は気兼ねなく会話をしていた。向こうの家ではもやもやとした思考に、外では全然気分転換が出来ない事に頭を悩ませていた俺が、今は普通の調子で、いつも通りに父さん母さんと話せている。

 

(…これが、家族…いや、親ってもんなのかな……)

 

 言うまでもなく、俺の両親はカウンセラーでなければ、人の心理の把握に長けた人間でもない(と、思う)。なのにこうも気兼ねなく、普段通りの調子で話せるのは…やっぱり相手が父さんと母さんで、俺が二人の子供だからだと思う。

 

「…あの、さ。父さん、母さん」

「どうした、顕人」

 

 そう、頭で理解した…いや、心の中で感じた俺は、ぽつりと呟くようにして呼び掛ける。父さんと母さんへ、俺の両親へ。

 それに返ってきたのは、至ってシンプルな言葉。けれど父さんも母さんも、俺を見ている。今のだけで、或いはここまでのやり取りで察してくれたのか…俺が話せるように、待っている。

 

「…俺さ、少し分からなくなってきちゃって…。前は俺、がむしゃらに目の前の事へ全力を注いできたんだ。その頃はまだそれが精一杯だったっていうのもあるし、あまり遠くまでも見えていなかったから、それが一番だって思ってたんだよ」

 

 だから俺は、両親に話す。二人の親に、語り始める。今俺の中にある、正直な気持ちを。

 

「それから少しずつ経験を重ねたり、これまでのようにはいかない事にもぶつかったりして、俺の考えも変わっていった。色々な見方、考え方があって、真っさらなものから裏があるものまで在り方も沢山だけど…何があろうと、俺は俺だって、俺は自分の思いを貫きたいって、そういう気持ちを大切にするようになったんだよ」

「自分の思いを、か…大切な事だな。常にとは言わずとも、自分に正直にいられないんじゃ、そんな生活は苦しくなっていく一方だ」

 

 俺の語りに頷いて、父さんは理解を示してくれる。ただそれだけで、深く長く何かを言う事はしなかったけど…それがありがたい。聞き手に徹してくれていたから、俺も躊躇う事なく言葉を続ける。

 

「俺は今も、自分の思いを貫きたいと思ってる。でも今思うと、これまでは思いを貫きつつも、八方美人っていうか、上手く立ち回れていたからこそ、迷いなくそう思えてた気がするんだよ。貫いても、何とかなりそうな状況で、何とかなる立ち回りが出来てたんだよ。でも…結局それは、運が良かったり、頼れる人がいる状況だったからこそのもので……」

「…どうにもならない、どうしようもない壁にぶつかったのね」

「…うん。その前にも結構大きい事があったりして、本気で落ち込んだりもした事もあって…だけどそれでも、それだけなら良かったんだよ。…いや、良くないけど、やっぱり自分の思いを貫き続ける為には多くの障害があって、多くの力も必要でっていう事を、より深く認識するだけに留まっていたんだと思う」

 

 ラフィーネとフォリンの事、慧瑠の事、力を失った事、刀一郎さんに完全に説き伏せられてしまった事…一つ一つ思い出しながら、自分自身俺の頭の中にある事を纏めるようにして、二人に言っていく。

…あぁ、そうだ。ここまでだったら、悩む事はなかった。自分の不甲斐なさ、未熟さに歯噛みをする事はあっても、すぐには『今』を変えられないと、認めるしかなかったんだから。けど……

 

「…だけど、今はそれだけじゃなくて、さ。今の俺には、これまで通り…いや、これまで以上に、俺の奥底にある思いすらも貫ける道があって、でもそれは多くの人に支持されない…これまでは味方になってくれた、手を貸してくれた人達でも否定をするような、父さんや母さんもきっと止めろというような道で……だから、迷ってるんだ。凄く、凄く…どうしたらいいか、迷ってる」

 

 そこまで話して、迷ってた理由と経緯を全部言って、それでやっと俺は一度話を区切る。

 我ながら、凄く抽象的な話だ。細かい部分までは言っても恐らく伝わらない、余計分かり辛くしてしまうだけだとはいえ、相談に乗ってほしいと本気で思ってるなら、もっと分かり易い話し方をするべきだったんだろう。

 だけど…そもそもの話、俺は二人に、相談に乗ってほしかったのだろうか?それともただ、もやもやしたものを誰かに聞いてほしかっただけなのだろうか?…それも、よく分からない。父さんと母さんになら話せる…今俺が語ったのは、二人に対してそう思っただけだから。

 

「そう、か……」

(あぁ、やっぱり困ってる…悪い事したな……)

 

 一言父さんが呟いて、それから二人は黙り込む。…当然だと思う。俺だってこんな話をされたら、なんて返せば良いのかよく分からない。

 でも、一つ言える事はある。ただ話しただけでも、少しすっきりしたような気がする。誰かに話せたというだけで、感じ方が変わってくる。

 それにこれは、俺の問題だ。どうするにせよ、俺が考えて、俺が選ばなきゃいけない事だ。じゃなきゃ俺自身が納得出来ない、そんな話なんだ。だからこれでいい、これだけでいい。いきなり来て、親子らしい会話もそこそこによく分からない話をしたにも関わらず、嫌な顔一つしないで父さんと母さんは最後まで聞いてくれた…それだけだとしても、今の俺には十分ありがたい事で……

 

「…よく、頑張ってるんだな、顕人」

「え……?」

 

 そう、思っていた…困らせてしまったであろう両親からの返答ではなく、自分自身で納得させようとした俺へとかけられたのは、優しい表情をした父さんからの言葉だった。

 戸惑った。そんな言葉をかけられるなんて、「頑張ってるんだな」と言ってもらえるなんて、思いもしなかったから。

 

「そうね。霊装者…の事はよく分からないから、顕人がちゃんとやれているのかどうかいつも気になっていたけど…この様子なら、問題はなさそうね。まあ、大変そうではあるけども」

「なんであれ、仕事は仕事だ。大変なのは仕方ないだろうさ」

「あ、や、ちょっ…ふ、二人共…?」

 

 何気なく、俺がただのバイトか何かの話でもしたような返答を口にする二人。

 更に戸惑う。更に訳が分からなくなる。そりゃ、好意的に捉えてくれるのはありがたいけど…そ、そういう事じゃ、ないでしょう…?

 

「顕人、どうかしたの?」

「ど、もうかしたって…いや、あの…俺結構、『そんな話をされてもな…』って感じの事を話したよね…?厄介そうで、しかも漠然とした話をしてたよね…?」

「そうだな」

「うん…って、い、いやだからさ…俺はちょっとした困り事を話したんじゃなく、俺なりに滅茶苦茶迷ってるっていうか…正直これ、場合によっては父さんや母さんにも迷惑が及びかねない事っていうか…だからその、そんなあっさり飲み込まれても逆に困る──」

「なーに言ってるんだ、お前は」

「へっ……?」

 

 自分で考えていたよりもずっと軽い、あっさりとした反応に俺は混乱していくばかり。分からないし混乱するしで俺は上手く話を紡げず、ただ感情を羅列するだけみたいになって…そんな中で、父さんは言う。俺の言葉を遮って……言ってくれる。

 

「確かに顕人の言う通り、漠然としていたな。母さんも言ったが、父さん達にはよく分からない部分も多い。だが、そんなの関係ないんだよ。なんだろうと、父さん達は顕人を応援するさ。何せ顕人は、父さんと母さんの子なんだからな」

「……──っ!」

 

 漠然かどうか、分かるかどうかは関係ない。なんであろうと、応援する。…父さんは、そう言った。

 よく分からないけど応援だなんて、そんなの普通社会人じゃあり得ない。ほんとにただの応援、言葉だけのものならともかく、利害が発生するもので適当に応援すると言うだなんてのは、いっそ非常識な行為の筈。

 それでも父さんは俺に言った。一切躊躇う事も、迷う事もなく。

 

「他人に迷惑をかけないように、っていうのは大切だけど、家族にまでそういう事は気にしなくて良いの。勿論、悪いと分かっている事なら止めなさい、って言うけど…そうじゃないんでしょう?顕人なりに、貫きたい事なんでしょう?…なら、やるだけやってみなさい」

「母さん、まで…けど、だけど…迷惑っていうのは、そんなちょっとした事じゃ……」

「子供のした事の責任を取る、それを受け入れる事が、大人の役目だ。そして…子がちゃんとした道を進めるよう、後悔しないように歩けるように育てるのが、親の責任なんだ、顕人。だから…そんな事は、気にするな。一年前に、言っただろう?顕人は、もう一人でも大丈夫だと思える程成長していると、そう信じてると」

「私も言ったわね。顕人の味方だって。…胸を張って、自分の思うようにやってみなさい。それが一番の、親孝行ってものなんだから」

「父さん…母さん……」

 

 リスクなんて考えない言葉を、応援をかけてくれるのは、父さんだけじゃなかった。迷惑な事なんか考えなくていいと、母さんまでもが言ってくれた。

…いや、違う。きっと、そうじゃないんだ。リスクとか、そういう話じゃなくて…ただただ、俺を信じてくれてるんだ。家族として、親として、俺の味方として…俺の事を思ってくれているんだ。

 胸が熱くなる。一年前のあの時と同じように、涙が出てきそうになる。…嬉しい。嬉しいからこそ、応えたい。二人の思いに、信じてくれる親の気持ちに。だから、あぁ…だから……

 

「──俺、決めたよ。もう迷わない。もう躊躇ったりしない。父さんと母さんの子として…俺は夢の、理想の、目指すものの為に、全力で、全身全霊で……自分を、貫く」

 

 父さんと母さんの子で良かった。その思いを噛み締めて、二人の前で宣言する。御道顕人の意思を、決意を。

 それに二人は、黙って頷いてくれた。俺を見る目に、その頷きに、俺は背中を押してもらった…そんな、気がした。

 

「…ごめん。来たばっかりだけど、俺行くよ。けどまた、帰ってくるから」

「ああ。行ってこい、顕人」

「また今度、話を聞かせてね?」

 

 今度は俺が二人の言葉に頷き、席を立つ。また来ると、帰ってくると行って、俺は俺の実家を出る。

 ゆっくりしたい気持ちもあったけど、普通に夕食の準備もある。それに今すぐ行いたい、ちゃんと話したい事もある。だから俺は家を出て、振り返って、心の中で行ってきますと家に…両親に伝えた。そして……

 

「…突然すみません、ゼリアさん。会って、ちゃんと話すつもりでもありますが…まずはこれだけ、ウェインさんにお伝え下さい。────俺が、俺達が憧れる世界の様に、霊装者の世界を……在るべき形へ、変えてみせると」

 

 俺は貫く。俺の意思を、俺の理想を。俺は変えてみせる。成熟した結果、組織に、その形に、複雑な社会に縛られてしまっている霊装者の世界を。

 その事に、躊躇いはない。不安もない。だって、そうだろう?物語の主人公が、正義の味方が、その行動を…正義を貫く事へ躊躇ったりしないように……俺もまた、そんな憧れの存在へと、未来へと、本気で到達する気なんだから。

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