双極の理創造   作:シモツキ

220 / 245
第二百十九話 待っているから

 前に少しからかわれたけど、その時のお兄ちゃんが言った通り、今わたしがしているのは…任されているのは、雑用みたいなもの。でも雑用だって、重要そうじゃなくたって、仕事は仕事。わたしから頼んで紹介してもらった事でもあるから、一つ一つに真剣な気持ちで取り組んだ。

 それに今は、お兄ちゃんが、妃乃さんが…多くの人が、わたしよりずっと大変な事をしている。これまでも、わたしは関わってこなかっただけで、戦いは数え切れない程あったんだと思う。だから…わたしだって、今目の前にある事を、出来る事を頑張りたい。

 

「ふぅ…段々慣れてきた、かな……」

 

 双統殿の廊下。任されていた仕事が一段落ついて、休憩に入ったわたしは、廊下の休憩スペースで腰を下ろしてぽつりと呟いた。

 仕事の内容もそうだけど、ここ…双統殿そのものにも、慣れてきたような気がする。これまでは殆ど来る事自体がなかったから、来る度に少し緊張してたけど…今はもう、そういう緊張感はない。…勿論、仕事はまだ少し緊張するけど。

 

(…さっきお兄ちゃんが急に電話を終わらせたのって、やっぱり戦いが始まったから…だよね…)

 

 あの時はお兄ちゃんが急いでるのが分かったし、あんな雰囲気になる理由なんて一つしかなかったから、訊かなかった。だから確証はないけど…きっと、そう。

 それに関して、わたしには…というか、代理で雑務をしているわたし達には、今のところ連絡がない。最初はそれを変に思ったけど…よく考えたら、戦ってるのはずっと遠くの富士山でだし、戦いが始まったからからって、わたし達のする事に何か変化がある訳じゃない。…って事は、知っても不安な気持ちになるだけで、それを避ける為に秘密にしてる…の、かもしれない。後で伝えられるのかもしれないし、本当の理由は分からない。

 

「大丈夫かな…大丈夫だよね……」

 

 今まではお兄ちゃん達が任務でも、わたしは家にいたからあんまり実感がなかったけど…ここにいると、自然に意識をする。その任務は、お兄ちゃん達のしている事は、命に関わる戦いなんだって。

 わたしはまだ、戦いを知らない。稽古はつけてもらってるけど、実戦を知らない。だから、分からない事への不安もあるし、もっとわたしに何か出来たらって気持ちもあって……

 

「……へ?緋奈ちゃん…?」

「え?……あ」

 

 そんな時、不意に聞こえたわたしの名前。反射的に声のした方を向けば、そこにはこっちを見て驚いている女の子が一人いて…女の子というか、それは依未ちゃんだった。

 

「ど…どうして、こんなところに……?」

「休憩、だよ…?依未ちゃんこそ、どこか行くの?」

「あ、あたしは…その…日課というか、運動というか……」

「日課…?」

 

 あれ?依未ちゃんの部屋があるのってこの階だっけ?…と思って訊いたら、返ってきたのは不思議な返答。それにわたしが首を傾げると、依未ちゃんは恥ずかしそうにしながらその「日課」の意味を答えてくれた。

 

「あぁ、そっか…こういう時でも、続けてるんだね」

「まぁ、その…毎日やってる事だから、やれる状況なのにやらないでいると、そわそわするっていうか…」

「あ、それは分かるかも。時間とか場所も、普段と違ったりすると少し違和感があるっていうか、抵抗があるよね」

 

 こういう事かな、と思ってわたしが返すと、依未ちゃんはこくこくと頷いてそうだとわたしに答えてくれる。…ふふっ。依未ちゃん、こういう何気ない動作に小動物感があって可愛いんだよね。

 

「…けど、偉いなぁ。日課って言っても、すぐ終わる事じゃないし、楽しい訳でもないでしょ?なのに、こういう時までちゃんとやるなんて……」

「うぇっ!?…あ、や、あたしなんて別に…だって、結局はただ歩いてるだけ、だし……」

「それでも、だよ。それに歩きじゃなくてランニングだったとしても、比較対象がアスリートの人なら『ただ軽く走ってるだけ』になるだろうし、卑下する必要なんてないと思うな」

「……っ、緋奈ちゃん…。…けど、やっぱり…偉くは、ないわよ…これに命は、掛かってないんだから…」

 

 自分を悪く言わないでほしい。そう思って首を横に振ったわたしだけど、依未ちゃんは虚しそうな顔で俯く。

…その意味は、すぐに分かった。その気持ちは、考えなくても理解出来た。だって…それは、わたしも同じだから。

 

「…信じて待つ、って素敵な言葉だし、実際信じられる位の関係や思いを築けるのは、幸せな事だと思うけど……何も出来ない、待ってるしかないっていうのは、辛いよね…」

「…うん……」

 

 隣に座った依未ちゃんの方は向かないまま、でも依未ちゃんへ向けて言う、依未ちゃんも多分、わたしの事は見ないまま、わたしの言葉に答えてくれる。

 これまでは、ずっとそうだった。今だって、出来る事はあるけど、それをしているけど…直接助けている訳じゃ、支えたりしている訳じゃない。大事なのは、直接かどうかじゃない…そう言う人もいると思うし、そっちの方が正しいんだと思うけど…これは、気持ちの問題。待つ側が、無事を祈る側が、納得出来るかどうかの話。

 だけど、辛くても不服でも、待つしかない。今のわたしには、直接助けるだけの力なんてないから。まだ未熟で力不足の、わたし自身が理由だから。…だから……

 

「…ね、依未ちゃん。だから…こんなにわたしや依未ちゃんに心配をかけてるんだから、無事に帰って来なかったら、お兄ちゃんを怒らなくちゃね」

「それは……いい、かも。…えぇ、そうよ…悠弥の癖にあたしに心配をかけさせてるんだから、帰ってきた時には……って、ひ、緋奈ちゃん…!?あ、あたしは別に、悠弥の事だけとは……」

「うん、分かってるよ?妃乃さんもそうだし、他の沢山の人が、今は頑張ってるんだもんね」

「う…そ、そうなんだけどぉ……!」

 

 勿論そうだよ、と言うみたいに笑ってわたしが言葉を返すと、かぁっと顔を赤くして慌てる依未ちゃん。

 もうこれは、完全に狙った通りの反応。わたしは別に弄る趣味も弄られる趣味もないつもりだったんだけど…どうしよう、わたし依未ちゃんにだけはちょっとSになりそうかも。別に普通に話したりするだけでも楽しいし、その内依未ちゃんの方が慣れて平然と返してくるかもしれないけど…。

 

(…お兄ちゃん。お兄ちゃんの事を気に掛けてるのはわたしだけじゃないんだから、本当に…ちゃんと帰ってきてくれなきゃ、怒るからね?)

 

 ついちょっとふざけたわたしだけど、依未ちゃんに言った言葉は全部本物。妃乃さんだって無事に帰ってきてほしいし、知り合いは勿論だけど、知らない人だって傷付いてほしくないし…お兄ちゃんには、いつもみたいにまた何でもないように、無駄な心配しちゃったかなって思うような顔で、ただいまと言ってほしい。そんなお兄ちゃんに、お帰りってわたしは言いたい。

 今はまだ、出来る事はあっても、直接支える事は出来ない。それが事実、それが現実。だけど…だから、わたしはいつか…今は無理でも、いつかはお兄ちゃんの側で、お兄ちゃんを支えられるようになりたい。…ううん、違う。なりたいんじゃなくて……なるんだ、絶対に。

 

 

 

 

 友軍の後退支援と、陣形再編までの時間稼ぎ。噛み砕いて言えば、魔物を押し留める事が俺の属する部隊の役目であり、これはこれまでよりも数段気を張る必要があった。極論、とにかく見つけた魔物の集団に攻撃を仕掛け、その集団を崩壊させられれば良かったこれまでと違い、下がる味方を常に意識し、時間稼ぎとして部隊単位で魔物の軍勢の注意を引かなくてはいけないというのは、かかるプレッシャーがかなり違う。逆に、こっちから移動して攻め込む必要がない分、楽な部分もある訳だが…俺からすれば、今している事の方が難しい。

 

「そら…よッ!」

 

 右腕を突き出し、飛び掛かってきた魔物を正面から一突き。掛かる衝撃は両脚で踏ん張る事によって何とか耐え、そこから右足の裏で魔物を蹴り出す事によって直刀を引き抜きつつも後続の魔物に対してぶつける。そこで俺は後ろに下がり、味方の射撃で今蹴り出した魔物諸共後ろの個体を撃ち抜いてもらう。

 

(やっぱ、こういう味方は心強いな…!)

 

 今の連携攻撃は、別に打ち合わせたものじゃない。それでも成功した事に対し、俺は軽く口角を上げ、また次の魔物に仕掛けていく。

 ある程度経験を重ねてくると、状況や味方の動きから、味方が何をしようとしてるか、何を求めてるかが何となく分かるようになる。それはあくまでざっくりしたもので、緻密な連携は入念に打ち合わせをするか、深い信頼関係を築くかしないと成立しないが、単純な連携だったらそれだけてもいける。そして単純だとしても、瞬時に連携が成立するというのは強いもので…っと、集中集中。余分な事を考えてる暇はねぇぞ、俺…!

 

「これで、終わりだ…ッ!…よし、次……」

「お待たせしました、皆さん!」

 

 一撃浴びせて動きを鈍らせた魔物への、光実二振りによる同時斬り。斜め十字、Xを描くように斬り裂く事で魔物を沈め、次の魔物へと向かおうとした直後、背後からうちの部隊員じゃない霊装者が前へと降り立つ。

 いや、一人だけじゃない。続く形で数人が現れ、更に射撃が魔物へと飛ぶ。現れた見知らぬ霊装者達に、その一人が言った言葉。それが示す答えは一つ。

 

「…よし。目的は果たされた、一度後退する」

「了解、っと……!」

 

 隊長の声に応じながら、俺は左手の武器を持ち替え。ライフルを握って、魔物を狙い、今装填してある分を撃ち切る勢いで放ちながら跳躍をかけて後退していく。

 

「ふー…取り敢えず何とかなったみたいだが……」

 

 そうして戦闘になっていない場所まで後退した俺達は、ささやかながらも休憩に入る。まずは火器に弾を込め直して、接近戦用の装備も大きな破損がないか確認して、それから楽な姿勢でゆっくりと呼吸を整える。

 戦闘継続、ではなく後退の判断が下されたって事は、陣形の再編がきっちり出来たと思って間違いない。魔人の方も、妃乃達が撃退したと聞いている。つまり、魔人強襲からの状況には、完全に対応し切れたって事で…だがまだ所詮、一つのピンチを乗り越えたに過ぎない。

 

(止むを得ずの退いたのか、これ以上は無駄な消耗になるって考えて退いたのか…前者だったらありがたいが、実際は恐らく……)

 

 そこまでの思考をしたところで、次の指示が隊長の口から発せられる。もう休憩終わりか…と思いきや、また移動するんだとか。

 何でも司令部曰く、魔物側の攻勢に関して気になる部分があるらしい。だから念の為、遊撃系の部隊はやや後ろ寄りに位置を変えるとの事。

 

「…順調、ではあるんだよな……」

 

 指定された位置まで下がり、そこでまた小規模な群れの各個撃破に当たる。ほんとに魔物の数は多いが、こっちもかなりの人数がいる訳で、先の魔人の様な事がなければもうこっちが押されるような事にはならない。まだ余裕はないと思うが、戦況としては順調に進んでいる…そう感じられる状況が続いている。

 だからこそ、逆に気掛かりだった。順調に進んでるなら、司令部の感じたものは何だったのか。相手側は結局、数を集めたのごり押しってだけで、魔人の強襲が一回こっきりで終わるのか。…いいや違う。それは幾ら何でもこっちに都合が良過ぎる。…そう思った、時だった。

 

「……ッ!?この、魔物は…ッ!」

 

 突如突っ込んできた、一体の魔物。反射的に直刀を振るい、それが見事に当たった事で、斬り伏せる事に成功したが…現れたのは、一体じゃない。それに現れた魔物には、魔物群の外見には…見覚えがある。

 

「奴か……ッ!」

 

 魔物であって魔物でない、この魔物の正体はあの…例の魔人が使役する魔物擬き。俺自身は、奴との戦闘経験なんてないが…その能力の厄介さは、十分に聞いている。

 まだ見えていないだけで、別の魔物擬きがいてもおかしくない。そう思って目を走らせながら、俺はこれが魔人によるものだと味方に伝える。そしてその発生源、即ち魔人を叩かなくてはキリがないと、魔物擬きだけでなく魔人本体も探そうとした俺だったが、次の瞬間連絡が入る。──今俺達が戦っている場所以外でも数ヶ所、同様に新たな魔物が現れたと。そしてその内の一つ…ここまで最も攻勢が激しく、こちら側としても戦い易くなるよう誘導していた方位の真逆から、かなりの数が押し寄せていると。

 

(一気に押し切ろうってか…?くそっ、物量戦と相性良過ぎんだろ…って、そりゃ相性良いに決まってるよなこんちくしょう……ッ!)

「悠弥君…ッ!」

「へ?あ、はい…!」

 

 次々と…それこそ弾丸位の感覚で魔物擬きを行使する、行使出来る奴の能力は、対多数戦で強力な武器となるのは当然の事。

 だがそこに納得がいったところで意味はなく、兎にも角にも戦うしかない。…そう思った直後、隊長が飛び蹴りで魔物擬きの一体を蹴り飛ばしつつ、俺の正面に現れる。

 

「今は丁寧に説明している時間がない。だから単刀直入に言わせてもらうよ。悠弥君、君は魔人の捜索に向かってほしい」

「お、俺…自分が、ですか…?」

「そうだ。この状況、目の前の魔物を無視する訳にはいかないが、それだけでは解決しない。無論、対魔人の動きも始まってはいるだろうが…君には複数の魔人との交戦経験、そして恭士様達と共に撃破した経験を持つ霊装者だ。違うか?」

 

 火器で魔物に牽制を掛けながらの、隊長の言葉。丁寧に説明している時間は…と言いつつも、結構ちゃんと示された理由。

 これが、どういう心境からの言葉なのかは分からない。俺になら任せられると思ってくれたのか、知っている情報からただ判断しただけなのか、聞いただけじゃ判別のしようがない。…けど、はっきりしている事もある。俺は今の、隊長の要求に対して…100%、賛成だ…ッ!

 

「了解……ッ!」

 

 隊長からの頷きを受け、俺は飛び上がる。殺到する魔物擬きの元凶…魔人を捜索する為に、戦域を離脱し高く空へ…。

 

(…けど、どこにいる?普通に考えりゃ、隠れて魔物擬きの運用に徹してるんだろうが……)

 

 空から富士を見回しながら、俺は考える。普通なら、兵器の生産工場、兵士の訓練校を最前線に持ってくるなんて事はしない。もし魔物擬きが自立していない、遠隔操作端末の様なものだとしたら、尚更後方に下がって操る方が戦い方としては堅実と言える。

 だが聞いた話じゃ、この能力を持つ魔人は、好戦的且つ人への見下しが特に強い性格らしい。…なら、そんな性格をしている魔人が、自分は後ろに引っ込んでいるなんて戦い方を…ある種臆病な、相手が強い事を前提にしているような戦法を取るだろうか?…答えは、否だ。

 

「…けど、今んところ本体の発見報告はねぇ。魔物や地形に隠れてるってのも、可能性としちゃ低い筈。…いや待てよ?安全の為じゃなくて、魔物擬きを前座にして、場を整えてから自分自身で一気に突破ってのを考えてる可能性も……」

 

 視線を走らせ、頭も回転させ続ける。色々と可能性はある。だがこれだというもの、確信が持てる程のものはない。

 それでも、どこかにいる事は事実。推理で見つけられなくても、とにかく発見さえ出来りゃそれで良い。だから俺は思考を続けつつも目を凝らし、せめて手掛かりだけでもと探し続ける。その中で雲が広がっていたのか、空からの光がほんのりと弱まり……

 

(……空?…まさか……!)

 

 直感なんて、閃きなんて大層なものじゃない、ただの気付き。これまで俺は下ばかり、地上ばかり見ていたという、普通ならば別段おかしくもない状況。

 けどその時、その可能性が頭の中に浮かび上がると同時に、俺ははっとした。そして、弾かれるように振り向いた……次の瞬間だった。

 

「──よぉ、漸く気付いたかよ」

「……ッッ!」

 

 眼前に、すぐ側にいた、一体の魔人。ずっといたのか、それとも俺がはっとした際、気付いた事に気付いて接近してきたのかは分からない。だが、奴が……魔人が目の前にいる事は、紛れもない絶対の真実。

 反射的に、俺は直刀を振り抜いた。しかしそれを、魔人はひらりと難なく回避。

 

「地上じゃなくて空…合理的な判断だろ?ここなら全体が見えるし、見えるからどこにどれだけ送れば良いかも一目瞭然。しかもテメェ等は、地上の敵で手一杯で、空にいるだなんて事は思いもしねぇ。…ま、テメェは気付いた訳だがな」

「…自分は一人、文字通り高みの見物ってか」

「見物?違うな、待ってたんだよ。必死こいて戦ってるテメェ等人間の守りを、一気にぶっ潰す瞬間をなぁ…」

 

 そう言って、魔人はにやりと笑みを浮かべる。情報通り好戦的な、見るからに人を自分より格下だと思っている、そんな笑みを。

 だが、それだけじゃない。今の発言ではっきりしたが、こいつは頭が回る…というか、人を見下してはいても、何も考えずごり押しするような奴じゃない。

 

「…けどまあ、お前みたいな餓鬼が一人で気付いたんだ。その頑張りに応じて、少しだけ遊んでやろうじゃねぇか」

「…………」

「さあ来いよ。それとも逃げるか?どうせ勝てやしねぇんだ、逃げたって構わねぇぜ?」

 

 悠々と、俺より上方から見下ろしてくる魔人。その表情に浮かんでいるのは、余裕の笑み。

 余程自分に自信があるのか、負ける筈がないと考えているのか、向こうから仕掛けてくる気配はない。どうやら本当に、「少し遊んでやるからかかってこい」…と思っているらしい。……だったら。

 

「…なら、少しばかり付き合ってもらおうか」

「はっ、足掻いてみろよ人間」

 

 笑みを深める魔人に対し、俺はゆっくりとライフルを抜く。…だが、その銃口を向けるのは、魔人に対してじゃない。俺が向ける先は……下。

 その瞬間、魔人の表情は怪訝なものに。それは当然の反応で…同時に、俺の意図に気付いていないという証明でもある。だから俺は、狙う先を確認し……放つ。

 

「あぁ?お前、何して……って、まさか…」

 

 トリガーを引きっ放しにした事により、眼下へと飛来する弾丸。それ等は狙った木へ、次々と降り注ぎ……そして、気付く。その周辺にいた味方が、霊装者が、木の異変に。空で何か、起きているのだという事に。

 

「…ちっ、テメェ…詰まらねぇ事してくれるじゃねぇかよぉッ!」

「……ッ!悪いな、趣味が合わなくて…ッ!」

 

 舌打ちが聞こえ、ゆらりと身体を動かした次の瞬間、魔人は俺の真正面へと一気に肉薄。反射的に掲げた直刀の腹に魔人の蹴りが衝突し、一撃で姿勢を崩される。

 とはいえ、それは想定内。崩された姿勢のまま、俺はその衝撃を利用して距離を離し、振り上げたライフルで迎撃を掛ける。

 

「はん、緩いんだよ攻撃がッ!」

 

 最初の一太刀を避けた時とは違う、機敏な動きで射撃を回避した魔人は、腕を振るい小型の魔物擬きを放ってくる。

 速度とサイズのせいで、どんな見た目をしているのかよく分からない無数の魔物擬き。対して俺は飛び回りながら射撃を撃ち込み、凌ぎ切れなかった魔物擬きは斬り払う事で何とか対応していくが……俺の装備じゃ部が悪い。

 

(くそっ、顕人が使ってた背負うタイプの霊力砲でもありゃ楽なんだけどな…ッ!)

 

 群体生物の様に固まって飛んでくる魔物擬きは、照射型の霊力砲なら一撃で相当数を蹴散らす事が出来ただろう。或いは地上なら、上手く障害物を利用する事で躱す事も出来たかもしれない。

 けど、そんなたらればに意味はない。俺が今相対しているのは、この厄介な状況であり……しかしそれも、俺一人で切り抜ける必要はない。その為に俺は、下へと射撃を撃ったんだから。

 

「けッ…敵いもしねぇのにわらわら来やがって…」

 

 俺へ魔物擬きの第二波を仕掛けようとしていた魔人だったが、その魔人へ下から射撃が殺到。押し寄せる弾丸と光芒は攻撃を潰し、続けて何人もの味方が攻撃をかけながら登ってくる。

 その間に魔物擬きを片付けた俺は、空中で武器を構え直す。あの魔人と違って、端から俺はこの戦闘を楽しもうなんざ思っちゃいない。敵を軽んじてもいない。

 だから、これで良い。俺の目的は、ただ一つ。しっかりと、無事に勝って…これまでと同じように、妃乃達と帰る事だけだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。