双極の理創造   作:シモツキ

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第二百二十二話 突き付けられた選択

 聖導作戦は、作戦としては成功に終わった。誘い出した魔物との戦いに勝利し、聖宝も守り切る事が出来た。今回の作戦では、聖宝が完成には至らなかったが…確実に、完成へと近付いていると、そんな話を聞く事が出来た。

 それはまあ、喜ばしい事と言えるだろう。もし守り切れず、聖宝が魔人の手に渡っていたのなら間違いなく最悪の結果で、けれどそんな事にはならず、俺も妃乃も負うのは軽傷だけで済んだ。だから想定していた作戦の範囲内で言うのなら、文句のない結果と言えるだろう。

 だが…恐らくこの作戦において、少なくとも最後に起こった事を知る者においては、成功ではあっても決して大団円ではない。大団円である筈がない。そう思う程に、そう思わざるを得ない程に……終わった今の空気は、重かった。

 

「…………」

 

 富士山を管轄区域に持つ、霊源協会の支部。作戦が終了した現在、聖宝の防衛部隊を除く大半の霊装者が、ここに戻ってきていた。

 大規模な激戦を勝利で収めた今、本来なら活気と高揚感がこの支部に広がっていたんだろう。されどそうはならない。勝利の余韻に浸る間もなく、想像絶する事態を、現実を目の当たりにする事になったのだから。

 そして、俺もその一人。あれが現実だという事は、十分に分かっている。それでも俺はまだ…その現実を、信じ切れていない。

 

「……悠耶」

「…妃乃……」

 

 暫くここで待っていてほしい。そう言われた部屋で、ぼんやりとしていた俺を呼んだのは、部屋へと入ってきた妃乃。その表情は、いつになく暗く…俺も恐らくは、今の妃乃と似たような顔をしている。

 

「…確認が取れたわ。やっぱり…顕人の所在は、不明よ…」

 

 分かっていた。他人の空似でも、同姓同名の別人でもない事は、分かり切っていた。それでも、妃乃の言葉は…その事実は、突き刺さる。

 はっきりしたのだ。はっきりしてしまったのだ。あそこに現れた、赤い霊力の霊装者達の正体が。その内の一人が…顕人だった事が。

 そうして、俺の頭の中で再び流れる。その時の光景、言葉…衝撃を。

 

 

 

 

 仮面の様に顔を隠していたバイザーの下、そこにあったのは、御道の顔。発されたのは、御道顕人という名前。ここにいない筈の、そんな事なんて出来ない筈の御道が……そこに、いた。

 

「顕人、君……?」

「はい。偽者でも、幻影でもありません。…と言っても、それだけで納得してもらえるとは思いませんが」

 

 俺や綾袮、御道を知る人間が茫然として見つめる中、ぽつりと声を上げたのは恭士さんと共に来た霊装者。彼からの声に、御道はこくりと頷いて…見回す。

 

「…は、はは…何、やってるのさ…どうしちゃったの、顕人君……」

「何をしているかは、今話した通り…そして、ここまでに行動した通りだよ。どうしたかは…少なくとも切っ掛けは、分からない訳じゃないでしょ?」

「……っ!」

 

 乾いた笑いと、震えた声。先程の雰囲気が完全に消え去り、ただの少女の様になった綾袮の言葉に、御道は静かに答える。感情の籠った…その上で、静かな声で。

 

「…私は御道顕人。霊源協会の霊装者として銃を持ち、刃を振るい、予言されし霊装者と呼ばれ……そしてここで力を失った、嘗ては貴君等と同じように、協会の正義を、正しさを信じていた人間の一人だ」

 

 再び演じるように、仮面を被るように、口調の変わった御道はここにいる霊装者の全員へと向けて言う。言い、続ける。

 

「そしてそれは、私だけではない。ここには同じように信じ、だが裏切られた霊装者達がいる。富士の真実、力の消失の可能性を知っていながら秘匿とした協会に騙され、力を失い…それでいて、さも予期出来なかった事故かのように処理された…協会が違う選択をしていたら、今も貴君等と共に戦っていたかもしれない、仲間達が」

「……!まさか……」

 

 はっとした表情と声でまさかと言ったのは妃乃。俺も御道の言葉から、ある可能性が脳裏を過ぎり…その答え合わせをするように、御道の言葉の意味を示すように、他の赤い霊力の霊装者達も、それぞれにバイザーを外していった。

 次々露わになっていく顔。俺は、その殆どを知らない。辛うじて一人二人、見た事があるような…と思う程度で、はっきり誰なのか分かったのは、それこそ最初の御道だけ。…だが、ちらほら声が聞こえてくる。驚きの声が。愕然の声が。恐らくはあの中の誰かなのであろう、ぽつりぽつりと呟かれる幾つもの名前が。

…もう、誰もが分かる。ここに現れたあの霊装者達は…皆、協会の霊装者だった人間だ。元は霊装者で、されど力を失い、もう戦場に立つ事はなかった筈の仲間達だ。

 

「これは他でもない、協会が招いた結果だ。真実を隠し、偽りを語り…そして隠されていた真実を知った事で、信用が失われた結果だ。そして我々は、それを過ぎ去った事としないべく、ここにいる」

「……復讐か。騙した事、騙されたという事実にすら気付けないよう嘘を重ねた協会へ対する怒りが、復讐心が、原動力か」

「いいや、違う。怒りはある。復讐心を持つ者もいるだろう。だが私は言った筈だ。それも組織の為であり、組織を守る事こそが、組織を構成する人々へ向けた最善の選択ならば、悪とは言わないと。正義を示し、世界を導く…それが私であると」

 

 初めは、知る者が…仲間だった者が、失った筈の力を再び手にし、仲間ではない形で目の前に現れた事への驚きが中心だった。だが次第に、御道の言葉へ…協会の嘘へと味方の意識が移っていく。…当然だろう。割合は分からないが…大半の霊装者は、それを知らなかった筈なんだから。

 その空気の中で、恭士さんは問い掛ける。静かに問い詰めるようなその言葉に、御道は真っ向から視線を向けて返す。怒りではなく、仕返しではなく、変革…その為に自分は、ここにいるんだ…と。

 

「故に、私は戦う事に躊躇いなどない。これは敵を害する為でも、私欲を肥やす為でもない、世界をより良くする為の行いなのだから」

「……っ!」

 

 止まる事なく紡がれる言葉と共に、向けられる銃口。それが向く先にあるのは…地下空間へと繋がる洞窟。

 そうなった瞬間、最大まで高まる緊張感。御道は言った。自分達の目的を果たす為に、聖宝が…機能ではなく保持する事そのものが必要であり、故にそれを頂くと。

 されど当然、それを協会が飲む訳がない。逆に御道達が諦めるとも到底思えず、話し合いで解決するような事でもない。つまり、この先にあるのは間違いなく戦いで……だがいつ戦いが始まってもおかしくないと思うような沈黙が、静かな緊張が数秒の間続いた末に、御道はすっと武器を降ろす。

 

「…が、今回の目的は、我々の意思を貴君等に示す事だけだ、何も今、このまま一戦交えようというつもりはない」

「…余裕だな。それとも、このまま事を交えても勝ち目は薄いという判断か?」

「今はまだ、その時ではないという事だ。貴君等にも、よく考えてもらいたい。これまで信じてきたものは、本当に信用に値するのかを。自分は本当に、正しく真実を知らされているのだろうかという事を」

 

 茫然と立ち竦むばかりの綾袮や、綾袮程ではないにしろ動揺している妃乃と違い、恭士さんは冷静に…明確に『味方ではない勢力』として御道達を見て、言葉を交わしている。御道も恭士さんに、依然として真っ向から言葉を返している。

 実際のところは、どうなのだろうか。大分消耗しているとはいえ、数は勿論、質でも恐らくこちらが優勢で、恭士さんの言葉通りにそれが分かっているからこそ、御道はこのまま戦うのを避けようとしているのかもしれない。その一方、こちら側に動揺が…協会へ対する不信が多少なりとも生まれたが為に、このまま戦うのではなく、一度落ち着ける状況を作る事で、個々人の不信に思った気持ちをより意識させようとしているのかもしれない。

 ただ、何れにせよ御道達は、このまま撤退する事を選んだ。御道が目配せをし、それを受けた味方は順に、振り向きどこかへ飛び去っていく。

 

「顕人君…!君は、私達がこのまま見過ごすと思うのかい…?」

「…えぇ、思いますよ。少なくとも深介さんは、ここでこのまま撃って、仲間にも、仲間だった霊装者にも、ちゃんと向き合わず強引に終わりにするような事はしない…俺は、そう思っています」

「……言ってくれるね、君は…」

 

 次々離脱していく中で、恭士さんの隣の男性…深介さんは、どこか引き止めるように御道を呼ぶ。呼ばれた御道は、また普段の口調に戻り…信用を感じさせる声で、問いに答える。

 深介さんは、その返答に対し、肯定も否定も行わなかった。だが、攻撃を…その指示を出さない事が、何よりの答え。

 

「……っ…御道…!」

 

 最後の一人となった御道も、ここから離脱しようとする。どこに向かうのかは分からないが…少なくとも、それは今の御道の家や、実家なんかじゃ絶対にない。

 分からない。どこへ向かうのかも、御道をそうさせたのが今言った理由だけなのかも、一人で決めた事なのか、いつ決めた事なのかも。何も知らないし、分からない。けど、このまま何もせず、ただ見ているだけではいられなくて…何か考えがあった訳でもないのに、俺は御道を呼んだ。声を上げ、呼び止めた。

 

「…御道、お前は……」

「…千嵜。俺はずっと…ずっと、思っていたよ。俺と、千嵜は違う。何もかも違う、って。…そうだろ?」

 

 ゆっくりと振り向いた御道と、視線が交わる。衝動だけで呼び止めた俺は、紡げる言葉がなくて詰まり…そんな俺に向けて、御道は言う。俺と御道は、千嵜悠耶と御道顕人は、違うんだと。

 その意味は、御道が俺に向けていた感情は、言葉に出来ない。分かるような気も、分からないような気もして…俺が黙り込む中、再び御道は背を向けた。今度こそ、この場から飛び去った。そして、赤い霊力の光が消えた時……富士の空は、不気味な程に静まり返っていた。

 

 

 

 

 あれから、別の場所の霊装者達も離脱をしていったらしい。今は、離脱先を特定するべく、協会側も動いてるとの事だが…その結果は、まだ出ていない。

 

「…悠耶。顕人から、何か…伝えられてたり、しなかった…?」

「…してりゃ、止めるなり妃乃に伝えるなりしてたさ。何をするかは、普通その本人の自由だが…これはもう、普通の域じゃねぇんだからよ…」

 

 腰を下ろした妃乃からの、視線を合わさず発された問い。俺も少し顔を逸らし、一切何も知らないと返す。

 これが妃乃からの、疑いの言葉ではない事は分かっていた。声音や表情で、それ位は分かる。

 

「…協会としちゃ、どうする気なんだ…?」

「そりゃ…何もしない訳にはいかないわ…。どんな目的だろうと、聖宝を狙ってる以上は敵対人物、敵対組織と見なきゃいけないし…今の段階でも、協会内でかなり動揺が広がっているんだもの…」

 

 今度は俺から訊いてみたが、その答えは殆ど思っていた通り。正しいとか、正しくないとかじゃなくて、それが組織として当然の思考。

 それに、今挙がった事以外でも、御道達を見過ごせない理由は数多くあるんだろう。あの装備はどこから用意したものなのかや、富士に現れた霊装者以外にも仲間はいるのかや、そもそもあの赤い霊力は……

 

「…って、そうだ…あれは、あの霊力はなんだったんだよ…?御道は霊装者としての力を失ったんじゃなかったのか?違ったのか?違うんだとしたら、あの色は一体……」

「…分からないわよ、私だって。顕人も、あそこにいた他の霊装者も、確かに力は失っていた筈だもの。…けど…あの赤い霊力には、見覚えがあるわ…」

「知ってる、って事か…?だったら、それは……」

「…ゼリアよ。BORGの代表秘書、ゼリア・レイアード。…彼女の霊力も、そっくりな紅色をしていたわ」

 

 俺が問いの言葉を言い切る前に、妃乃は答える。赤い霊力、御道達が放っていたあの光と酷似した霊力の使い手である、その人物の名前を。

 名前を聞いて、思い出す。会ったのは、一度きり。それも戦場ではない双統殿内で、どんな戦い方をする霊装者なのかは知らないが…会うだけ、見ただけでもよく分かった。そのゼリアという霊装者が、凄まじく強いという事は。

 

「…なら、BORGがこの件に関わってる、って事じゃないのか?いや、じゃないのか…っていうか、こんな事を何かしらの組織も無しに出来る訳ないだろ…?とにかく一度、その方面で確認を……」

「それ位、もうしてるわよ。彼女が特殊な霊力の持ち主だって事は、私しか知らない訳じゃないんだから。…けど、問い合わせた結果はこうよ。ただ色が酷似しているというだけで、疑いの目を向けるのは止めてほしい。それだけの理由で疑うのであれば、身内による自演自作を始め、他にも疑うべき要素はあった筈だ、ってね」

「自演自作…?そんな事して、何の意味が……」

 

 再び言いかける形になった俺に、妃乃は頷く。俺自身、言い切る前に気が付いた。意味云々を言い出すのなら、BORGだってそうだろう、と。考えてみればBORGがそんな事をする理由も浮かぶかもしれないが…それを言い出したら、キリがない。

 

「…けど、何かしらの後ろ盾もなしに、こんな事が出来る訳ない…って言うのも事実よ。それに…もうこの情報が、起きた事が、各地に流出してる…意図的に顕人達の行動を流してる人物なり組織がいるって事よ…」

「…何だよ、それ…どうなってんだよ、そりゃ……」

 

 危険を隠されていた事、そのせいで力を失った事、更にそこからまた騙されていた事…彼等からすれば、その恨みや怒りを離反という形で爆発させるのも無理はないかもしれない。御道は正義だなんて語っていたが、御道の言葉が全体の総意かどうかも全くの不明。だから、負の感情による反逆であれば…十分、理解出来る。

 だが、同じ怒りを持つ者同士の組織的反逆…その域を、遥かに超えている。ほぼ間違いなく後ろ盾となる組織がいて、その組織は積極的な支援をしていて…そうなるともう、単なる内ゲバなんかじゃなくなる。もっと厄介な、組織間の問題になる。

 

「…分からないわよ、私だって…なんで、こんな……」

 

 俯く妃乃の拳は震えている。それは上に立つ者としての焦りか、離反した御道達への怒りか、それともそんな事態になってしまった事への不甲斐なさか。

 

(御道…お前は、お前はどうして……)

 

 言葉の途切れる妃乃だが、俺も今はかけてやる言葉が見つからない。俺自身まだ、見たもの、起こった事の処理をし切れていなくて……あの時と同じような言葉を、心の中でまた呟く。

 意思を、行動を、本気を俺達は示された。嘘でも何でもない、本心からの離反である事は、あそこで十分に伝わった。…けど、分からない。御道にとって力を失った事、それに協会の選んだ道は、そこまで許容出来ない事だったのか。それがここまで御道を変えてしまったのか。力を失ってから、これまで俺が接してきた御道は、全部偽りだったのか。分からない事があまりにも多く、大きくて…全然俺には飲み込めていない。

 そして、最後に御道が言った言葉。俺と御道とは違うんだという、俺に向けて発された言葉。それは音が響くように、何度も俺の心の中で渦巻いていた。

 

 

 

 

 海中を進む、潜水艦。洋上に出た艦へと降り、潜水によって追跡を断った俺は、俺達は、そこで漸く一息吐いた。

 

「ふー……緊張した…」

 

 霊装者としての装備を解除し、壁にもたれかかりながら呟きを漏らす。けれどすぐに、俺は仲間達に囲まれる。

 

「いやー、やったなオイ!あの時は、完全に俺等が空気を支配してたよな!」

「堂々とした語りだったぜ?流石、予言された霊装者は違うな!」

 

 戦勝ムード(目的は達成出来たし間違っちゃいないけど)で次々とかけられる言葉に、俺は苦笑をしつつも当たり障りのない言葉を返す。

 とはいえ別に、距離を取りたい訳じゃない。ただ、思うところがあるのと…とにかく緊張で疲労したから、同じテンションにはなれそうになかった。

 

「君達、ご苦労様。無事に目的を果たせたようで何よりだ」

「あ…ウェインさん…」

 

 暫くその空気が続いたところで、現れたのはウェインさんとゼリアさん。二人に気が付いた途端、空気は静かになり…視線で呼ばれた俺は、一つ頷き場所を移る。

 

「中々凝った言いようだったじゃないか。正に征服者、世界を征服せんとする者に相応しい言だったよ」

「ありがとうございます。…その表現だと、悪人みたいですけどね……」

 

 道中での、ウェインさんからの言葉。賛辞を送られるのは、そりゃ嬉しいけど…その評価は、俺の目指すところとは大分違うような気がする。

 それに俺としては、ほんとに緊張してたせいで、なんと言ったかよく覚えていない部分もある。それでいて、ウェインさんや仲間からは賞賛される訳だから、俺はこういう事をするのが得意なのか苦手なのかよく分からない。

 

「…それで、どうだったかな、御道顕人クン。君の意思を、君の持つ正義を、霊源協会に示す事が出来て」

「どう、ですか…。それは……」

 

 そうして移動した先は、艦内の個室。そこで穏やかな口調のまま…けれど俺の心の中を見据えるような雰囲気と共に向けられる、ウェインさんからの問い。

 ただ感想を聞きたいのか、それともそれ以上の意味があるのか。心を読む事も見抜く事も出来ない俺に、今の言葉だけでウェインさんの真意を掴む事は出来ない。けど、その問いに答える事は出来る。今、心にあるものなら伝えられる。そしてそれは、それがウェインさんの求めているもので…だから俺は、真っ直ぐに顔を見返して言う。

 

「…どうも何も、ありませんよ。今日はまだ、今日はただ、俺達の存在を…意思を、示しただけなんですから。…ここからです、霊装者の世界を変えるのは。この世界を、もっと望む形に変えていくのは」

「…ああ、そうだ。その通りだね、顕人クン。僕は君に、君が進む道の為に、幾らでも力を貸そう。だから…見せてくれるかな。君の選んだ道の先を…僕の見たい、世界征服の先の世界を」

 

 そう。今はまだ、多く見積もっても一歩目を踏み出しただけ。まだ始まったばかりだというのに、満足も何もある訳がない。感じるものが、満たされるものがあるとすれば…それは、これから先の事だから。

 その返答を、答えを聞いたウェインさんは、期待した通りだとばかりの表情を浮かべる。それから俺の肩に手を置き、心強い…けれど引き込まれてしまいそうな笑みと共に、これから進む先を見せてほしいと俺に言う。

 重い。ウェインさんからのその言葉は、重みがある。けど、それをプレッシャーには感じない。だってこれは…方向性は違えど、同じ夢を持つ人からの期待なんだから。

 

「…あの、ウェインさん。一つ、お願いをしてもいいですか?」

「うん?何かな?」

 

 俺はウェインさんに、ある頼みを口にする。それを聞いたウェインさんは、ほんの少しだけ目を丸くして…俺の頼みを、快諾してくれる。

 そうして俺は、部屋を出る。出て、通路を歩きながら…振り返る。

 

(後悔はない…けど、罪悪感…というか、悪い事をした…って感じはあるよな……)

 

 思い出すのは、綾袮や千嵜、妃乃さんや深介さん達の顔。皆愕然としていて、俺の話を聞く中で酷く複雑そうな表情を浮かべていて……心が、痛む。俺は今の霊装者の世界を変えたいし、それは今の綾袮達の否定でもあるけど…俺は皆を、嫌いな訳じゃないから。今だって大切に思っていたり、尊敬していたり…これまでと変わらない思いを、抱いているから。

 それに…仲間の事も、今の俺の頭にはある。俺と同じように力を失い、俺の言葉に賛同し、そして俺と同じくウェインさんの能力によって力を取り戻した…今の俺にとっての仲間。全員が全員、力を失った元霊装者という訳じゃないけど…この仲間への責任も、呼び掛け導いたからこそ背負わなくちゃいけないものも、頭で…心で感じている。

 これから、どうなっていくのか。俺の望みが果たされるかどうから分からないし、皆がどうなるかも分からない。今の時点でも、気になる事が…まだほんの違和感程度だけど、思うものがあるのも事実。けど…俺はもう、動き出している。本気の意思で、信念で、歩み始めている。なら、立ち止まる事なんてしない。俺は俺の願いを、理想を叶える為に……俺の道を、進むだけだ。

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