双極の理創造   作:シモツキ

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第二百二十三話 欠けた絆

 熾天の聖宝に纏わる問題を、一気に解決する事を目的とした作戦、聖導作戦は終わった。作戦としては概ね成功で……だけどわたし達には、協会には大きな陰を落とす形で。

 普通なら、わたしは作戦そのものの後処理だったり、最後に起きた事態に対する緊急の会議だったりで、終わった後も色々やらなきゃいけない事があった。だけど、そうはならなかった。最低限の事と、聞き取りだけして、今日は終わりって事になった。それは、おかー様達の気遣いで…だけど多分、今のわたしじゃ務めを十全には果たせない、果たせる状態じゃないから、っていうのもあったんだと思う。……それ位、ショックだった。暫くの間は嘘か、何かの間違いだとしか思えない程、ショックだった。あの場に顕人君が現れて、失った筈の力を宿しながら……わたし達に、敵対した事が。

 

(…どうして……)

 

 信じられなくて、でもそれが現実で、本当の事だと受け入れるしかないんだって理解してからは、ずっとその言葉が…どうしてって思いが、わたしの中を回っている。

 顕人君が、霊装者の力を凄く凄く大切にしていた事は、無くなったんだと伝えた日に後悔で押し潰されそうな位に思い知ったし、そこから立ち直ってくれた事には安心したし…でもきっと、完全に立ち直った訳じゃないって…心のどこかは、今も置き去りになったままなんだろうと思って、わたしは顕人君を支えようと思っていた。後悔とか、責任とか、理由は色々だけど…わたしが奪ったも同然なんだから、そうしなくちゃって…そうしたいって、ずっと思っていた。

 だけど、顕人君はもういない。支えたい顕人は、わたしが支えなくちゃいけない顕人君は、どこか遠く離れた場所に行ってしまって……

 

「綾袮…!」

「綾袮さん…!」

 

 ぼうっとしたまま、一人で双統殿に戻ったわたしの名前を呼んだのは、焦った表情のラフィーネとフォリンだった。…その表情の理由は…考えなくたって、分かる。

 

「顕人、顕人は…!?」

「一体何があったんですか…!?」

「…顕人君、だったんだよ。作戦に乱入してきた、霊装者の一人が。…あのゼリアとそっくりな色の霊力を持った、霊装者の一人が……」

『……っ!』

 

 問い詰めるみたいな二人の言葉に、わたしは答える。自分でも情けないと思う程、力の籠っていない声で。

 ゼリアの名前を出した瞬間、目を見開いた二人。BORGからは、無関係を主張するような返答がきたって話だけど…霊装者としての感覚的に、全くの無関係だとは思えない。そう感じられるものがあったし…そもそも霊力は、自由に色を変えたり出来るようなものでもない。

 

「…顕人は、どこに行ったの…?」

「…分からない……」

「追跡はしていないんですか…?」

「してたけど、撒かれたって…分かってるのは、所属不明の潜水艦に降りた事まで……」

「そんな、悠長な…顕人さんの事なんですよ?もっと色々手を……」

「その手があるなら…打てる方法があるなら、もうしてるよ…ッ!」

 

 追及するフォリンの言葉に、思わず声を荒げてしまうわたし。…でも、すぐにわたしは冷静になって…フォリンに、謝る。

 

「…ごめん、フォリン」

「…いえ、私も短慮な問いをしてしまって、すみません…」

 

 わたしが謝って、フォリンもわたしに謝って…でも、お互い謝ったからこれですっきり、なんていかない。

 分かってる。フォリンがわたしを責めたくて言ってきた訳じゃない事も、二人が今抱いている気持ちも。分かるし、同じ気持ちだからこそ…余計に、空気も気持ちも重い。

 

「…綾袮は、今日、帰るの?」

「帰る…?」

「今日は、ここに残るの?それとも…」

 

 一瞬意図の分からなかった、ラフィーネの問い。けど、続く言葉で理解した。ラフィーネが訊いているのは、双統殿…わたしの実家に残るのか、それとも今のわたし達の家に戻るのかって事なんだって。

…正直、双統殿にいた方が、気は楽かもしれない。今はこっちの方が、落ち着けるのかもしれない。…でも……

 

「…ううん、帰るよ。わたし達の、家に」

 

 気は楽でも、それは目を逸らしているだけだから。見なくて済むなら、そっちを選びたい気持ちもあるけど…見たものが、起こった事が、現実だから。それは逃げられるようなものじゃなくて…だからわたしは、帰るよと返した。わたし達の家に…顕人君もいた、あの家に。

 

(…嫌でも、見なきゃいけないんだ…だってわたしは、宮空の…宮空綾袮なんだから……)

 

 双統殿の中に入って、こっちでやらなきゃいけない事だけはして、聖導作戦が終了した時点で同じように任務の終わっている二人と一緒にわたしは帰る。

 その道中、殆ど会話はなかった。普段なら、ずっと黙ってるだけの空気なんて嫌いなわたしだけど…今はとても、雑談なんて出来そうになかった。

 

「……!綾袮様…!」

「あ…うん、ご苦労様」

 

 そうしてわたし達が家に戻ると、家…というか、玄関では二人の霊装者が待っていた。

 この人達の事は聞いている。顕人君の所在を確認する為に、双統殿の方から派遣された霊装者で…その時家の鍵を壊して入ったらしいから、その事もあって帰らずに待っていてくれたんだとか。

 

「鍵の修理は手配済みです。そろそろ来ると思いますが…」

「分かった。修理屋さんの対応はこっちでするから、二人はもう帰っても大丈夫だよ」

『はっ』

 

 今は取り敢えずでも頭が回っているおかげで、表面上だけでも取り繕って会話が出来る。それが出来るから、二人に対しても普段通りっぽい受け答えが出来て……でも何故か、二人は気不味そうな表情を浮かべる。

 

「…どうか、したの…?」

「その…この件に関する情報がないか探る為、家の中もある程度調べさせて頂いたのですが、彼の部屋らしき場所を確認した際、お三人の気を悪くするかもしれない事を致しまして……」

「ただ、これも任務上無視出来ない事だったのです。それはどうか、ご理解頂けますでしょうか」

 

 二人が気不味そうにしていた理由。それは、自分達の行動でわたし達が気を悪くするかも…という事らしかった。そういう事なら責める気はないし、ラフィーネ達も任務や命令の重さは理解しているから、大丈夫…って事でこの件はお終い。今度こそ二人は帰っていって…わたし達も、家の中に。

 

「…ただいま」

 

 玄関に入ったところで、当たり前の言葉を呟く。帰ったらただいまって言う、これは普通の事で……だけど、それに対する返答は、「お帰り」の言葉はない。言ってくれる人が、待っている人が……今は、いない。

 

「…殆ど、変わっていませんね。長い間いなかった訳ではないので、当然ですけど……」

「うん……」

 

 リビングに入って、フォリンが言った言葉に、わたしは頷く。…ほんとに、変わってない。変わってないから、分かる。ほんの少し前まで、ちゃんと顕人君はここにいて、普通に生活してたんだって。

 少ししたところで、聞いていた鍵屋さんが来てくれた。その人に修理をしてもらって、見送って、またリビングに戻って…でも空気は暗いまま。

 

「…取り、敢えず…ご飯とか、お風呂とかにする…?」

「…賛成。ただ座っていても、意味ない」

 

 深くなるばかりのような気がした重苦しさを誤魔化すように、わたしは提案。けど、疲れてる筈なのに食欲がなくて、二人も食べる気分じゃないみたいで、二人は荷物の片付けだったりお風呂の準備だったりでリビングを出ていく。

 わたしだって、荷物の片付けをしなきゃいけない。…それは、分かってるけど…手に付かない。

 

(顕人君…やっぱり、わたしのせいなのかな…わたしがもっと、顕人君の心を支えられていれば…もっと頼れる、信頼出来るわたしだったら…ううん、そもそもわたしが最初に本当の事を伝えていれば……)

 

 ぐるぐると、後悔ばかりが頭を巡る。過去の事、過ぎた事を気にしても仕方ない。…いつものわたしなら、そう言うかもしれないけど…無理だ。出来る訳がない。顕人君が遠く離れてしまった事を、きっとその原因になってる事を、仕方ないで済ますなんて。

 前髪を搔き上げるように掌で目元を覆って、何度も何度も後悔する。こうしてたって何も変わらない、無意味だって事も分かってるけど、分かってたってわたしは気持ちを切り替える事も、立ち上がる事も出来なくて……

 

「綾袮っ!」

「……っ!?…ラフィーネ…?それに、フォリンも…どうしたの…?」

 

 数分か、それとも十数分か分からないけど、俯いていたわたしを我に返らせたのは、酷く慌てたラフィーネの声。入っていたラフィーネの後ろには、フォリンもいて…ラフィーネの手にあるのは、一枚の紙。

 

「…それは……?」

「顕人さんからの、手紙です…!ラフィーネが、顕人さんの部屋の机で、見つけたんです…!」

「……──ッ!」

 

 どくん、とその瞬間…顕人君からの手紙だと聞いた瞬間、わたしの胸は跳ね上がった。

 読まなくたって分かる。それは間違いなく、顕人君の置き手紙。それにわたしは、理解する。さっき二人が言っていた、わたし達が気を悪くするかもしれないっていうのは…多分、これを読んだ事なんだって。

 

「な、なんて…なんて書いてあったの…!?」

「…まだ、読んでない」

「読むより先に、綾袮さんに伝えようと思いまして…」

「そ、そっか…」

 

 身を乗り出して、その内容を聞いたわたしだけど、ラフィーネはふるふると首を横に振る。それからフォリンの言葉で、気を遣ってくれたんだって事を理解して…自分で自分を、落ち着かせる。

 それからラフィーネはリビングのテーブルに手紙を置いて、そのすぐ前に座る。フォリンはその左に、わたしは右に。

 何が書いてあるかは分からない。読んで後悔する可能性だって、ゼロじゃない。…けど、読まずには…顕人君からの手紙を読まないままにする事なんて、今のわたしには絶対出来ない。だからわたしは、早鐘を打つ心臓を押さえるように、胸の前に握った右手を当てて…読み始める。わたし達へ向けて残された、顕人君からの手紙を。

 

 

 

 

──綾袮、ラフィーネ、フォリンへ。

 

 この手紙を読んでいるって事は、もう俺が協会に反する立場を示した後かな。…なんて書き出しをすると、何だかそれっぽいね。この手紙を読んでいるという事は…なんて文章を、実際に書く日がくるとは思わなかったよ。

 

 まずは、ごめん。皆に何の相談もせず、何も話さず、こんな事をして。他の多くの人にもそうだけど、三人には本当に、悪い事をしたと思っている。混乱させたと思うし…もしも悲しんでいるなら、心から謝りたい。

 

 俺にとって、皆との日々は楽しかった。綾袮と二人で、ここで暮らす事になったあの日から、二人で一緒に、同じテーブルで食事をした事も、テスト勉強をした事も、ラフィーネやフォリンと出会って、多くの話をした事も、皆で海に行った事も、色々あった末に二人だった食卓が、四人で囲むようになった事も、それからあった沢山の事…クリスマスとかお正月とかのイベントも、毎日の何気ない会話や遊びも……全部全部、楽しかった。一つ一つが良い思い出で、大切な記憶で、霊装者である事とか、経歴とか、そういう事は一切関係なく……俺にとって充実した毎日が、ここにはあった。そんな幸せな時間を、皆はくれた。

 

 俺は皆に、感謝してる。明るくて、賑やかで、ふざける事も多いけど、凄く頼れて俺を気にかけてくれる綾袮。純粋で、真っ直ぐで、意図が読めない事もあるけど、いつも真摯に俺と向き合ってくれるラフィーネ。優しくて、気遣い上手で、しれっと俺をからかってくる事もあるけど、それ以上に俺の味方になってくれるフォリン。…皆、俺が一緒に生活するには勿体無い位良い人達で…こう書くのは恥ずかしいけど、俺は皆の事が好きだ。何書いてんだ、と思うかもしれないけど…本当に、俺は皆と過ごせて良かったと思ってる。

 

 だけど…間違いなく俺は幸せで、そう思ってもいるけど…それだけじゃ、嫌なんだ。俺は俺の夢を、諦められない。夢を、憧れを諦めて今に満足する事なんて出来ないし、俺は何としても夢を、理想を叶えたい。それがどんなに馬鹿げている事だとしても、他の人から見れば下らない子供の妄想だとしても、俺にとっては、譲れない…命だって懸けられる、心からの夢だから。

 

 だから俺は、この道を選んだ。たとえそれが、今ある幸せを手放す道だとしても…夢を、憧れを、理想を諦めない道を進む。

 

 本当に、ごめん。それに、今までありがとう。俺は皆と出会えて、過ごせて、笑い合えて……幸せだった。

 

                顕人

 

 

 

 

 綴られていた。紡がれていた。顕人君の、思いが。顕人君の文字で、顕人君の言葉で。

 読み終わった。読み終わったけど、またわたしは始めから読む。何度も何度も、読み返して……言う。

 

「…何さ…ごめんって…楽しかったって…幸せだったって…だけど夢を諦められないって…そんなの、そんなの……直接言いなよッ、馬鹿ぁッ!」

 

 抑え切れない、身体の奥から…心の奥から溢れ出した言葉と共に、わたしはテーブルを叩く。

 顕人君の気持ちは、よく伝わった。文字から思いが、伝わってきた。でも…あんまりだ、こんなのあんまりだよ…!そんな大切な言葉を、思いを手紙にして、それだけ残して行っちゃうなんて…!そんなに大切に思ってるのに、それだけ大切だって分かってるのに、なのになんで…なんで……っ!

 

「……っ、ぅ…わたし、だって…わたしだって、楽しかったに…幸せだったに、決まってるじゃん…!なんで、自分だけ伝えてっ…自分の思いだけ残して、顕人君は……っ!…ぁ、ぐっ…うぁ、ぁっ……!」

 

 テーブルを叩いた手を握り締めて、抑えの効かない思いを、届かない言葉を吐き出す。

 その内に、溢れてくる涙。視界が歪んで、目が熱くなって、その熱は頬に流れて…落ちる。悲しい、悔しい、不甲斐ない…色んな気持ちが混ぜこぜになって、自分でもなんて言えば良いのか分からない感情になっていって、それも一緒に溢れていく。

 

「…そう、ですよ…あんまり、です…顔も、合わせないまま…手紙と、思いだけを残して……顕人さん、顕人さんは…貴方は…私達の幸せの為なら、何でもするって言ってくれたじゃないですか…っ!」

 

 聞こえてきたのは、絞り出すような…今にも折れてしまいそうな、そんな切なさの溢れる声。それは、フォリンの声で…フォリンも、泣いていた。ぽたぽたと涙を流して、きゅっと太腿の上で両手を握り締めて、訴えるように手紙へ言葉をぶつけていた。

 

「…フォリン……」

「…ごめん、なさい…こんな事を、ここで言ったって…意味はない事は、分かってます…分かって、いるんです…でも、でも……っ!」

「いい、いいよフォリン…フォリンは、何も悪くなんてない…その気持ちは、わたしだって……」

「……探しに、行く」

 

 いつもは冷静…っていうか穏やかで落ち着いていて、わたし達の中じゃ一番年下なのに、むしろ一番大人っぽいフォリン。そのフォリンが感情を、悲しみを露わにして、肩を震わせている。

 悪い事なんてない。謝る必要もない。やり切れない思いなのは、ぶつけたい言葉があるのは、わたしだって同じだから。

 その思いもあって、寄り添いたい、寄り添わなくちゃ…そんな気持ちになっていく。だけど、わたしが何かするよりも早く、ラフィーネが呟く。呟いて、立ち上がる。

 

「…ラフィー、ネ…?…探しに行く、って…何を、です……?」

「決まってる。勿論、顕人」

「あ、顕人君を…?…どこにいるか、分かるの…?」

「分からない…でも、探す」

 

 そう言って、ラフィーネはリビングの出入り口に向かう。ラフィーネが思いもしなかった言動をするのは普段からある事で、それ自体には慣れている。…けど、慣れていても今の言葉、やろうとしている事には驚かない訳がないし…何より、無謀だ。何の手掛かりも無しに、闇雲に探そうとするなんて。

 

「ちょ…ま、待ってよラフィーネ…!気持ちは分かるよ、分かるけど…幾ら何でも、手掛かり無しじゃ無理だって事位分かるでしょ…?」

「分かっている。でも、ここでじっとしているよりは、可能性がある。何もせずにいる事は、出来ない」

「で、ですがラフィーネ…そんなの、ラフィーネらしくないですよ…。私が言える立場ではないですが、少し落ち着いて……」

「…落ち着いてなんて、いられない…。顕人は、勝手過ぎる。顕人は、フォリンを泣かせた。顕人は、顕人は……わたしにも、約束、してくれた…何かあれば、頼りにするって…また、力になるって…」

 

 引き止めるわたしとフォリンの言葉に、ラフィーネは振り向く。振り向いて、こっちを見て……わたし達を見るラフィーネの瞳にも、目尻に涙が浮かんでいた。

 段々と弱く…震えるようになっていく、ラフィーネの言葉。…もう、誰も…何も、言えなかった。

 

(…顕人君の人生は、顕人君のもの。自分の夢を、本当にやりたい事を心の奥に仕舞って、見ないようにして、周りを優先するだけの人生なんて、辛いしそれを誰かに求めるなんて…そんなの絶対、間違ってる。…けど、だけど……)

 

 頭では、理解も出来る。良い事か悪い事かは別として、それを顕人君が本気で、心から選んだ道だって言うなら、その選択を駄目だって言うのは違う。顕人君の事を思うなら、応援してあげるのも一つの手だ…ってのも分かってる。止めるとしても、それは顕人君の為にするべきであって……わたし達が嫌だから、そんな理由で否定するのは本当に間違っている。そんな事は、分かってる。

 だけど…分かっていても、この気持ちは、悲しみは止められない。ラフィーネを止めはしたけど、ちょっとでも手掛かりがあるなら、何よりもまずわたしが探しに行きたい。探したい、会いたい。会って訊きたい。どうしてって、なんでって。訊いて、言って、それからわたしは、わたしは……っ!

 

「……っ…」

 

 二人の事で意識が逸れて、一度は止まっていた涙がまた流れそうになる。そんな中で不意に響いたのは、わたしの携帯の着信音。

 正直、今誰かと落ち着いて話せるとは思えない。だけどだからって、無視をする事もしたくない。だからわたしは、何とか今の気持ちを胸の片隅に移動させて、携帯を取り出し……

 

「……ぁ、え…?」

「…綾袮……?」

「……う、そ…顕人、君…?」

 

 画面に表示された名前を見た時、茫然とした。一瞬、訳が分からなくて…次に思ったのは、見間違いなんじゃって思いだった。電話なんてくる筈ない、かけたって通じる筈ない…無意識に、そう思っていたから。

 だけど、見間違いじゃない。本当に、顕人君の名前が表示されていて……今も、着信音は鳴り続けている。本当だって分かった瞬間、一気にわたしは緊張して…手が震えるのを感じながらも、その電話に出る。

 

「……顕、人…君…?」

「…あぁ、良かった。出てくれたんだね、綾袮」

「……っ!…顕人君…顕人君、今どこにいるのっ!?手紙、あの手紙は何!?そんな、あんな、一方的に自分の思いだけ書くなんて……っ!」

「綾袮」

 

 声が聞こえて瞬間、呼び掛けた声に応えてくれた瞬間、わたしの中で抑えていた感情が破裂した。宮空家の人間としては、もっと訊かなくちゃいけない事や、連絡が取れたからこそやらなくちゃいけない事があるって分かっていても、わたしはわたしの気持ちを抑えられなかった。

 だけど、わたしは止まる。顕人君に一言名前を呼ばれて…それだけで少し、冷静になる。…何故かは分からない。だけど顕人君の、落ち着いてて…静かだけど優しい声を聞いた途端、流れる思いは一瞬止まった。

 

「…そこにさ、ラフィーネとフォリンはいるかな?」

「え…?…う、うん…いる、けど……」

「なら良かった。それじゃあさ、二人に伝えてほしい事があるんだよ」

 

 わたしがはっとする中、顕人君は訊いてくる。それにわたしが答えると、顕人君は安心したように言葉を続ける。そして、顕人君は二人に…ううん、わたし達全員に対して……言った。

 

「──綾袮、ラフィーネ、フォリン。皆でさ…デート、しようよ」

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