双極の理創造   作:シモツキ

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第二百三十四話 聞きたかった君の心

「痛た…動くとはいえ、まだちょっと痛いな……」

 

 肩に残る、何かを押し付けられているような鈍い痛み。これが頭ではなく肩に当たって、頭に当たらなくて良かったと思いつつ、俺は低空飛行で移動を続ける。

 

「…慧瑠、追っ手はいる?」

「いえ、今のところいないっす」

「そっか。だったら作戦成功、かな」

 

 自分自身でも見回した後、慧瑠に訊く俺。慧瑠からも大丈夫だという答えを受けて、ふぅ…と小さく息を吐く。

 聖宝の移送が疑わしいのは自明の理。それでも仕掛けない訳にはいかないというのが、こっちの状況で…だから、俺達は考えた。無視出来ないなら、戦力を二分し二ヶ所で強襲する事も現実的じゃないなら、途中でやられたと見せかけて離脱し、富士山の方へ奇襲を仕掛けてみたらどうだろうか、と。移送の方へ戦力の全力投入をすれば、富士山の側は(防衛部隊がいるなら)油断し、少数の戦力でも突破する隙が生まれるんじゃないかと。

 そして俺は、その移動からの奇襲をかけるメンバーの一人。目立つように戦っていたのは、士気高揚だけじゃなく、この作戦に気付かれないよう、あの場に全力を注いでいる…と思わせるのも狙いの一つ。とはいえ、やられたふりして姿を眩まし離脱するっていうのは、かなり難しい事で…その点において、綾袮が一人で仕掛けてきてくれたのは、本当に僥倖だった。なにせ綾袮が相手なら、やられたって何の不自然さもないし、綾袮は立場的に、いつまでも俺一人に構ってる事なんて出来ないだろうから。

 

「にしても、大胆な事をしましたね。先輩、自分がいなかったら逃げる前に見つかってたかもしれないんっすよー?」

「慧瑠がいるから、自信を持ってこういう事が出来たんだよ。…まあ、絶対上手くいく、とまでは思えてなかったけどさ」

「…自分がいるから、っすか…普段は恥ずかしがったりする癖に、意識してない時は割とこういう事もさらっと言える、先輩のそういうところも自分は嫌いじゃないです」

「うっ…そ、それはどうも……」

 

 一先ず追っ手はいないとはいえ、油断は出来ない。仮に今は気付かれてなくても、何かの拍子にただ離脱した訳じゃないと気付かれてしまう可能性はあるんだから、急ぐに越した事はない。…そう思っていた中で、こんな事を言われてしまえば調子が狂わない筈がなく…でも少しだけ、安心した。慧瑠め、こんなタイミングでなんちゅう事を…と思った俺だけど、そういう風に考えられるって事は、まだ体力も精神も余裕があるって事なんだから。……まぁ、好意的に解釈すればだけど。言ってくれて嬉しい、とかじゃ全然ないけど。

 

「…で、この後はどうするんです?仲間と合流して仕掛けるんですか?」

「いや、もう後は各々の判断で動くだけだよ。ゆっくり合流してる時間はないし…何人上手くいったかも分からないしね」

 

 やられたふり、しかもその後上手い事姿を眩ますなんて、場所や戦況等の運もかなり関係してくる。だから、最悪俺一人で仕掛ける事になるかもしれないし…仮にそうなったとしても、俺は止めない。一人だとしても、俺は目的を果たすまで。

 

(一人で無茶を覆し、皆の思いを叶える主人公(ヒーロー)になるか、それとも一人じゃ無理なんていう、極当たり前な結果を迎える普通の人間になるか、ここからが分水嶺。……負けるかよ、俺が…負けねぇよ、俺は…!)

 

 不安はない。緊張も、ない事はないけど…それよりも、湧き上がってくる「やってやろうじゃないか」という感情の方がずっと強い。

 上手くいかなかったら…とか、想定外の事が起きたら…なんてのは考えない。備えとしての思考はしても、気持ちは前だけを見続ける。勝つ為に。目的を果たす為に。俺が理想を、掴む為に。

 

 

 

 

 輸送部隊の方で襲撃が起こり、戦闘が始まったという連絡を、暫く前に聞いた。予想していた通りに、協会上層部が思っていた通りに、御道達が動いてきた。

 向こうじゃ、霊装者同士の激しい戦闘になっている事だろう。聞く限りじゃ、御道達は戦力の出し惜しみもしていないらしい。だが、そんな向こうとは対照的に…こっちは、静かなまま。

 

「……こりゃ、フラグかなぁ…」

「え?」

 

 やる事がない。まあ勿論警戒はしてるし、それは絶対疎かにしちゃ駄目な事だが、それにしたってやる事がない。そしてそんな状態に対し俺が呟くと、妃乃は怪訝な顔でこっちを見てきた。

 

「いやほら、別の場所じゃ激しい戦闘が起きているらしいが、こっちは平和なもんだぜ…みたいな展開って、絶対何かが起こるフラグだろ?」

「あ、あぁ…縁起でもない事言うんじゃないわよ。それで本当に何かあったらどうする訳?」

「いやどうもこうも、何かあったら対処するしかないだろ…後何かあったとしても、俺のせいにされても困る…」

 

 確かに口は災いの元と言う。言霊って思想もあるし、精神衛生的な意味で下手に縁起でもない事は言わない方がいいのかもしれない。けどもしも本当に何かが起きたとしても、「俺が言ったから」なんてのを理由にされたら堪ったもんじゃない。ならまず、俺にそういう能力があるって裏付けを用意してから言ってほしい。

…などとどうでもいい事を考えられる位には、とにかく静かなものなのだ。

 

「(…まあ別に、おかしな訳じゃないんだよな。今回の作戦は、向こうに『こうせざるを得ない』…って状況を作るもんなんだから。そういう意味じゃ、むしろ警戒すべきは漁夫の利を狙ってくるやつがいるかどうか……)…ん?」

 

 ふざけた思考を一度切り上げ、代わりに先の事を考える俺。その最中、妃乃は通信が入ったのか、一度離れ……戻ってきた時、その表情は明らかに行く前より真面目な、何かあったと分かるものだった。

 

「…向こうで、大きな動きでもあったのか?」

「大きいかどうかはともかく…そうよ。目的はまだ分かってないけど…綾袮と戦った顕人が、不審な身の眩まし方をしたんだって」

「……!」

 

 その言葉に、俺は身体が反応するのを感じた。何かあった、という予想通りの内容ではあるが…御道が、ってなると途端に自分事の様に感じられる。

 

「…不審な、ってのはどういう事だ?量子化とか光子化でもしたのか?」

「いやそんな、機動兵器や精霊じゃないんだから…そうじゃなくて、地上に蹴り落としたのは間違いないのに、降りてみたら見当たらなかった…って事らしいわ」

「見当たらない…って事は、隠れたって訳か……」

 

 ふと一瞬、透明化してる…みたいな事も考えたが、まあまずない。絶対ないとまでは言わないが、そういう「もしも」を言い出したらキリがない。現実的に考えるなら、隠れたってのが妥当で…でも御道の事だ、そのまま隠れっ放しって事はない筈。だとしたら、反撃のチャンスを伺っているか、隠れて何か仕掛けを…罠か何かを用意しているか、それとも……。

 

「…いや、何にせよ俺達のやる事は変わらない。そうだろ?妃乃」

「えぇ、その通りよ。分からない事は警戒しておくべきだけど、それに惑わされて本来やるべき事を疎かにしちゃったら、それは本末転倒だもの」

 

 それぞれの言葉に、俺も妃乃も頷きを返す。勿論御道の動向も気にはなるが、それはあくまで向こうの事。こっちはこっちで、やるべき事を果たすだけ。

…欲を言えば、御道と直接話す機会がないまま終わってしまうのは残念だが…いや、違うな。どっちかが死にでもしない限り、チャンスは何れやってくるものだ。何せあり得ないとか、ある訳ないと思う事が、案外起こったりするのが…この世の中、ってもんだからな。

 

 

 

 

 迎撃も追撃もなく、想定外の事態が起こる事もなく、俺は富士山の近くまで到達する事が出来た。そういう邪魔を受けないようにする為、やられたふりをしたんだから、何もなくて当然…というか、あっちゃ困るんだけど、とにかくここまでは順調に進んだ。

 周囲を確認し、木陰で少しだけ休憩。仕舞っておいたゼリー飲料を飲み、出来る範囲で…ほんとに絆創膏を貼るとかその程度の手当てをし、息を整えた俺は富士へと突入。山中に入り、木々の間を縫うようにして進んでいく。

 

(落ち着け、焦るな。博打を打つより、慎重に、堅実に事を進める方が、俺は得意な筈だろう…?)

 

 自分に言い聞かせるようにしながら、気を張り詰めながらも俺は急ぐ。木より上、上空を飛ぶ形で進む方が速いし障害物がないから飛ぶのも楽だが、当然そうすれば見つかり易くもなってしまう。そして俺は、その二択なら絶対隠れて進む方が性に合ってるんだから、一気に進みたい気持ちを抑えて低空飛行を続ける。

 ただそれでも、そこそこの距離は進んだ。流石に聖宝(があるなら)の所には部隊が配置されてるだろうけど、ひょっとしたらそこまでは一切邪魔される事なく進めるかもしれない。──そんな希望的観測を俺が抱いた、次の瞬間だった。

 

「え?…な……ッ!?」

 

 突然感じた、微妙な衝撃。綾袮の踵落としを浴びた時の、激しく響くような衝撃とは違う…緊張感のないたとえだが、「あれっ?今なんかぶつかった?」…みたいな、そんな感覚。

 何でもない、ただ街中を歩いてる時なら、そこまで気にはしない。けど今は、ほんの些細な不調でも無視は出来ない。だから俺は一気に減速し、その衝撃を感じた場所を見て…愕然とした。そこにあったユニットの一部が、本当に端の部分ではあるが…何かで切断されたように、なくなっていた事で。

 

(攻撃!?追い付かれた…!?…いや、違う…確かこれは、前にも……ッ!)

 

 反射的に振り返るが、追撃の姿はない。ならばなんだ、何が切断した。そう俺は考えようとし…直後に、思い出す。

 あの時も、そうだった。同じように、木々の間を縫うように飛んでいて……けどその時は、引っかかり、絡まるだけだった。今のように、切断されるとまではいかず……あぁでも、同じだ。夏に行った、あの大規模模擬戦と。

 

「…って、事は……ッ!」

 

 周囲へと、目を走らせる。走らせ、凝らす。そしてそれは、見つける。暗さもあって見つけ辛い…けれど確かにそこにある、何本もの糸を。

 それ等は俺が気付いた時、既に俺へと向かっていた。俺を捕らえようと、領域とでも言うべきものが狭まっていた。

 

「やられた…けど、この程度…ッ!」

 

 跳ね上げるように、背部の四基の内二基を振り出し、肩越しに霊力の砲撃を放つ。四門中の二門、半分の数とはいえ、一門辺りの火力は今の装備の中でも最大である砲の攻撃は、見えていた糸全てを焼き払い……

 

「流石に一度受けた事のある手だと、対応も早いな、顕人…ッ!」

「……っ!上嶋さん…!」

 

 だが、糸がただの罠ではなく、俺を狙った明確な攻撃をしてきた時点で…いや、軽微なダメージとはいえ俺が糸に引っかかってしまった時点で、俺は策に嵌まっていた。

 真上から感じた気配に飛び退けば、そこへ勢い良く飛び込んできたのは上嶋さん。続けざまに十字砲火が俺を襲い、俺は上昇。まだ他にも糸の罠があるかもしれない木々の中には逃げられず、遮蔽物なんて何もない空へと押し出される。

 

「…中々元気そうじゃないか。そのゴツい装備の割に、動きも悪くない…いや、装備に推進器を点在させて、それをお前の霊力の豊富さでフル稼働させてるのか…」

「…一瞬で見抜いてきますね、上嶋さん……」

「ま、瞬時に相手や状況を把握するのも、隊長に必要な技能だからな。…っつっても、今のはひょっとしたら…と思っただけだが」

 

 誰がいる、何人いる。そう俺が考え、視線を走らせる中、上嶋さんも上昇してくる。恐らく今さっきの十字砲火を行ったのであろう、赤松さんと杉野さんも姿を現し……そしてもう一人、糸の罠を仕掛けていた霊装者とも、俺は対面した。

 

「…茅章……」

「待ってたよ、顕人君。君が来るのを…こうしてまた、会えるのを」

 

 真剣な眼差しと、真っ直ぐな声。普段の穏やかな…もっと言ってしまえば少し気弱な様子とは大きく離れた、本気そのものの茅章。糸の罠の時点で、そうだとは思っていたけど…直接対面した事で、より一層俺の心に緊張が走る。

 分かっていた。綾袮以外でも、見知った相手、仲の良い相手と、こうして正対し得るという事は。そして今…俺は、それを迎えている。

 

「…顕人君。どうしてこんな事を…とは訊かないよ。なんでこんな方法で…なんて事も訊かない。顕人君なりの意思、決心でやってるんだって事は…悠耶君から、聞いたから」

「(千嵜から…?…あぁ、そうか…)…けど…訊く事はしなくても、俺の前に立ち、行く手を阻む…そうなんだね、茅章」

「うん。僕は顕人君達がしている事を正しいとは思ってないし、任務関係なく、知らんぷりも出来ないから。……だから…その上で訊かせて、顕人君。どうして顕人君は…悠耶君にも、僕にも…何も言ってくれなかったの?それは、反対されると思ったから?味方になってくれないと思ったから?」

 

 気を遣っているのか、それとも何か策があるのか、上嶋さん達は動かない。茅章も仕掛ける事なく、俺に語りかけ…訊く。きっと茅章が、ずっと思っていた事を。俺が離反してから、今この瞬間まで、胸の中に秘めていた思いを。

 当然それに、答える義務はない。特に今は、敵対している関係なんだから。……でも、茅章は友達だ。茅章も友として訊いていて…立場が逆なら、俺だって訊いていた事だろう。…だから、俺が取る選択は一つ。

 

「…誰にも相談しなかった訳じゃない。だけど、俺が選んだ道は…最初から決めてた事なんだよ。一度は霊装者の道を失って、でも取り戻して、これまでとは違う景色が、世界が見えて…迷う事なく、俺はこうするって決めたんだ。…けど、迷っていたら…決められず、決め切れず、迷って悩んでいたなら……茅章や千嵜にも、きっと話していたと思う」

「…そっか。……うん、今はそれだけ聞ければ十分だよ。他の話は…また後で、また改めて聞けばいいんだから」

 

 嘘じゃない。父さん母さんと話すだけじゃ決め切れず、綾袮やラフィーネ、フォリン達と話しても尚迷っていたとするなら…俺はきっと、茅章や千嵜の事も頼っていた。二人の事も、俺は信頼しているから。勿論、協会を離反する事を、協会所属の相手に素直に話す事はなかっただろうけど…いやむしろ、そういう事情を考えれば、綾袮より先に茅章には話していたかもしれない。現実とは違う架空の話だから、絶対はないけど…きっとそうだったろうと、俺は思う。

 そんな俺の答えを聞いた茅章は、満足そうに表情を緩める。…また後で、の意味は訊かない。その言葉だけで、茅章の思いは伝わったから。

 

「悪いけど、俺はここで止まる気も、引き返すつもりもない。だから…押し通る……ッ!」

 

 二丁のライフルを同時に撃ち、それで正面の空間を空けて突っ込む。狙うのは、少しでも今いる場所から離れる事。このまま一気に振り切る事は難しくても、ある程度離れる事が出来れば、糸の罠を気にしなくて済む。そうなれば、木々を盾に振り切りを図る事だって出来る。でも勿論、そんな簡単に成功するような話でもない。

 

「……!すみません…!僕の話の間、待ってもらって…!」

「いいや、気にすんな…!その話のおかげで、話している間ここに足止め出来たんだからな…ッ!」

 

 先手を打った攻撃で、抜ける事は出来た。されどその際を射撃で阻まれ、回避行動を取ったところで上嶋さんが突進してくる。

 振るわれた斬撃を、銃剣で防御。押し返しは一切考えず、その勢いを利用して離れようとし…そこへ回り込んでくるのは、束ねられた糸の追撃。

 

「こっちこそ悪いな、四対一で…ッ!」

 

 素早く目を動かして糸の軌道を捉え、射撃で撃ち抜く。その間に再び上嶋さんが距離を詰め、仕掛けてくる。それに対し、俺は防御に回らざるを得ない。

 動きで言えば、上嶋さんは綾袮程じゃない。けど、大きく離れようとすれば赤松さんと杉野さんの射撃が襲い、誤射の危険のある距離は茅章が自在に動く糸で支援を務め、その三人への攻撃は上嶋さんが前衛を、距離を詰め続ける突撃型前衛を担う事で徹底的に潰してくる。一人一人の脅威度はさっきより低くても、連携を活かした戦い方は中々付け入る隙を見せてはくれず…振り切るどころか、離れる事もままならなかった。

 

(…けど、茅章は元から上嶋さんの部隊にいた訳じゃない…どこかで必ず、連携のほつれが生まれる筈だ…ッ!)

 

 当たらなくとも、大体の位置でも攻撃を飛ばす事が出来れば、回避や警戒を優先させられる。当たり前だけど、有利な状態で一か八かの攻撃を仕掛ける人は、まずいない。だから右手のライフルのフルオートで後衛の二人に牽制をかけつつ、左手のライフルを腰に戻す。代わりに左手で純霊力剣の柄を掴み、突進を仕掛けてきた上嶋さんの振り下ろしを受ける。引き抜くと同時の、斬り上げ気味の横薙ぎで上嶋さんと斬り結ぶ。

 すぐに切り抜ける事は出来ない。けど突破口はきっと出来る筈だ。そしてその為に必要なのは、耐える事。

 

「なぁ、顕人…お前の言う正しさを示して、世界を変えて…それで、どうする気だ…?」

 

 互いの刃越しに、上嶋さんが投げかけてくる問い。それは、訊かれた内容は、完全に予想外の事で…一拍置いてから、俺は答える。

 

「示す事、変える事…それ自体が、目標です。俺は、自分が望む世界を作る…それが俺の、行動理由です…ッ!」

「デカい目標だな、俺よりよっぽど目指す先が壮大だ…!けどな顕人、その先で続くものが…果たした後に、新しい目標を見つけられないような望みじゃ、果たしても虚しくなるだけじゃねぇのか、よッ!」

 

 斬り結ぶ距離となれば、支援の射撃は飛んでこない。茅章からの糸も、せめぎ合う中で少しずつ動けば上嶋さんに絡まってしまう事を避ける為に、刺突や捕縛を狙ってこない。

 とはいえ今はまだ良くても、ここから肉弾戦に移行されたら、動き易さの差から俺は一気にやられてしまう。そんな状況下で、返した言葉を上嶋さんらしい、ただの否定じゃない投げかけで更に返され、直後に上嶋さんは剣から左手を離してナイフを抜く。そこからそのまま、逆手持ちで横に振るい…堪らず俺は後ろに下がる。

 

「……ッ…俺はそうは、思いませんよ…ッ!むしろ望んだ世界になるんだ、そこからの日々が虚しくなんてなるものか…ッ!」

「ま、望んだ世界にする事そのものがゴールじゃなきゃ、確かに虚しくはならないかもな…ッ!その世界が、本当に望んだ通りだったんなら…ッ!」

「……!」

 

 後退した直後に、再び十字砲火が襲ってくる。避けた先には無数の糸で編まれた網が、そこを砲撃で突破しようとも再度上嶋さんの近接格闘が迫ってくる。

 俺はこの連携に対し、茅章の存在がどこかで穴となると思っていた。けど…実際は違う。茅章の動きは常に誰かの後であり、その誰かが落ち着いて行動する為の余裕を作っているのであり…それ故に、そう簡単には綻びない。綻び辛いような連携を敷いて、上嶋さん達は仕掛けてきている。当然その分、上嶋さん達は負担が大きいだろうし、長時間の維持は厳しいんだろうけど…体力の消耗においては、一人である俺の方がずっと劣勢。つまり負担から崩れるのを待つのも、得策じゃない。

 そしてそこに、俺の心に上嶋さんの言葉が響く。望む世界が、本当に望む通りになるのなら。その指摘は、何ら特別なものじゃなく…けれどだからこそ、絶対に避けては通れないもの。

 

(…あぁ、そうだ。何もかも、全部理想の通りになる保証はない。そもそも俺の理想は、設計図の様に細部まできっちり決まってる訳じゃない。…でも……ッ!)

 

 理想通りじゃないかもしれない。多分これは、何をしようとも絶対にゼロには出来ない可能性で、それか後悔に繋がる事だってあり得るかもしれない。どうなるかなんて、分かる筈がない。

 でも…いやだからこそ、分からないからこそ、そうだとしても止める理由には、諦める理由にはならない。そして、そんな可能性があろうとも突き進むだけの覚悟なら…ある…ッ!

 

「先輩、ここまでこのまま長い間戦うのは不味いんじゃないっすか…?」

「不味いね、色んな意味で本当に不味い…!…だから、こうなったら……」

 

 それぞれが独立可動し別々の方向へ向けられる主推進器の柔軟性を活かし、回避と迎撃に専念する事で何とか波状攻撃を凌いでいく俺。その中で聞こえた慧瑠からの言葉に俺は頷き…強行突破を、考える。

 けどそれは、この高度での突破じゃない。木々の中まで降り、砲撃で前を開けながら…あるかもしれない糸の罠を強引に破壊しながら進む強行突破。当然撃ちながらじゃ速度は落ちるし、こっちから道を開く分後ろからの追撃が容易になる…つまり追ってくれと言うような方法で、決して賢明な策じゃないけど…このままジリ貧になり、時間を浪費するだけよりは、ずっと良い。

 決めたのなら、即刻行動するまで。躊躇う時間すら、今は惜しい。そんな意思の下、俺は一瞬でも連撃から逃れ、そこから一気に降下を……そう考えていた時だった。

 

「……ッ!?長距離攻撃…!?」

「まさか、増援…!?」

 

 誰か…というより、この場へとにかく放つ事を目的としたような赤い光芒。その光に、赤松さんと杉野さんが振り向き…俺は振り向くより早く、理解する。その光芒、放たれた霊力ビームの意味を。

 

「今だ、行けッ!」

「悪いけど、私達の目的はあんた達なんかに邪魔されて良いものじゃないってのよッ!」

 

 背中で聞いた言葉に振り向き、俺はその声に…追い付いてくれた二人の味方に頷きを返して、そのままターン。主推進器は勿論、他のスラスターも全て用いて、全力で加速。新たな敵の攻撃に止まった連携の穴から抜けて、再び振り向く。ユニット各部からの一斉砲撃で全員に回避行動を取らせて、今度こそこの場から離脱する。

 

「……ッ!隊長、顕人君が…ッ!」

「気持ちは分かるが追うな!今下手に追えば、前後からの挟撃を受けるぞ!」

 

 恐らく追おうとしたのだろう茅章の声と、それを制止した上嶋さんの声。次に聞こえたのは戦闘音で…もう、俺に向けられる声はない。

 よく言えば元々の作戦が功を奏して、悪く言えばただただ運良く、俺は茅章達の迎撃を突破出来た。こんな形で迎撃が来たって事は……やっぱり、まだ富士山に聖宝があると見て間違いない。

 

(…また聞けばいい…世界が望み通りになるのなら…そうだよな、皆だって……)

 

 向けられた言葉を、心の中で思い出す。二人共…いや、赤松さんや杉野さんも、俺を裏切り者として恨んだり、軽蔑したりしてるような様子はなかった。そうしなかった理由の中には、協会にも非はあるから、ってのもあるかもだけど…同時に、四人がそういう人格、そういう精神の持ち主だって事もあるんだと思う。

 止めようとした四人にも、それぞれ思いや意思がある。引き受けてくれた二人だった同じ事。望みがあり、その為に覚悟を決めてるのは俺だけじゃなくて…これは、そのぶつかり合いだ。それをぶつけ合い、意地でも自分の意思を通そうとする戦いだ。

 だからこそ、俺は止まれない。最後まで走り切らなきゃいけない。それが、自分の意思を、正義を押し通す人間の…責任ってやつだ。

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