双極の理創造   作:シモツキ

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第二百三十五話 迫り来る者達

 移送車両を守る協会側と、聖宝を狙う離反側の戦闘は、続いていた。協会側は数で勝りつつも躊躇いを捨て切れず、それが攻撃の甘さとなり、協会側よりも少数且つ若者が中心である離反側の攻撃を何とか押し留めつつも、離反側の勢いを殺し切れないという状況のままだった。

 されど、離反側の勢いもまた、初めよりは落ちている。そもそも数は勿論、連携や個々人の技量等質の面でも離反側は劣っているのであり、それ等の要素は戦いが長引けば長引く程如実に表れていく。だかしかし、離反側も諦めず…というより、激情に突き動かされているかの如く、少しずつ劣勢になろうとも攻める意思だけは一切変わらず、誰一人として撤退するような素振りは見せない。

 

「そうだ、突破さえさせなければいい。確実な撃墜を狙ったところで、それをした人間の精神が削られるだけだ」

「もう少しで双統殿の守備範囲に入るわ。後一歩だって事を、各員に伝えて頂戴」

 

 宮空深介と時宮由美乃、それぞれの家系の血を引く二人の指示が通信で走る。

 戦闘そのものはどちらかに偏り切らない状況ながら、協会側の目的は移送…つまり双統殿に辿り着く事であり、離反側はその前に聖宝を奪取、或いは移送が嘘ならばそれが嘘だという確信を得る事。そして双統殿までの道はもうそう遠くなく、即ちそれは協会側の勝利もまた近いという事。走る指示はそれを踏まえてのものであり…この場での勝利が近付いている事は事実ながら、指揮を司る者達の顔は明るくなかった。

 

「くそっ、くそぉぉッ!どうして、こんな…ッ!」

「ごめんね、でも…!」

 

 全力で後退をかけながらも、乱射をかける一人の霊装者。離反側であるその霊装者が相手取るのは、綾袮であり…実力者という訳でもなければ、綾袮の戦い方をよく知る訳でもない彼にとっては、あまりにも分の悪過ぎる存在。トリガーを引きっ放しにして撃とうとも、舞うように飛ぶ綾袮を捉え切る事は出来ず…肉薄の直後、持っていた火器を両断される。一瞬呆気に取られた後、彼は歯噛みしながら近接戦用の装備を抜こうとしたが、それも手にした瞬間手刀を膝に受けた事で落としてしまい、駄目押しが如くすれ違う瞬間翼で身体を叩かれる。手加減された攻撃ながら、姿勢が崩れた彼は落ちていき、綾袮は次の相手の無力化へ向かう。

 

(後少しで、ここは勝てる…勝てるけど……!)

 

 ここまで誰一人として命を奪わないどころか大怪我すらもさせず無力化してきた綾袮だが、それでいて自身はほぼ無傷な彼女だが、動きに反して表情は硬い。浮かべているのは焦燥とも言える表情であり…その理由は、富士山を管轄内とする支部から入ったある通信。

 それは、富士に離反側の霊装者が現れ、侵攻しているというもの。その通信により、顕人がいなくなった理由へ対する予想が確信へと変わり…元々作戦の関係から富士には少数の戦力しか配置されておらず、それもあって未だ止め切れていないという現状から、綾袮は焦燥感を抱いていた。

 

「綾袮様…わたし、信じてたんですよ…?大きい組織に秘密は付きもの、でも綾袮様は嘘も隠し事もなく、誠実にわたし達に接してくれてるって…!」

「そうだ…裏切ったのはオレ達じゃない…協会が、協会がオレ達を……!」

「……っ!」

 

 無意識的に、移動を止めてしまっていた身体。そこへ側面から襲いかかる、二人の霊装者。

 切実な叫びにも、呪詛にも聞こえる言葉を発しながら、二人は綾袮に向けて迫る。先手を取られてしまった綾袮は反射的に防御態勢を取り、その綾袮へ銃口が向けられ…だが放たれる直前、一条の青い光が双方の間を駆け抜けた。直撃こそしていない、されど目の前を駆け抜けた光芒に、思わず二人は身を竦ませ…次の瞬間、光実それぞれのナイフを逆手で構えた霊装者が、素早く接近すると一瞬で女性側の武器を破壊。続けてその身体を蹴り飛ばし、もう一人にぶつけて二人纏めて落下させる。

 

「二人共…。…ごめん、ちょっと油断してた…」

「分かってる、そう思ったから代わりに片付けた」

「綾袮さんでしたら、やられる事はなかったでしょうし、余計なお世話だったかもしれませんけど、ね」

 

 二人の霊装者を落としたラフィーネと、その隙を作ったフォリンの姉妹を見て、綾袮は一瞬目を丸くする。

 彼女達二人は、暫し前に綾袮と話して以降、綾袮の近くで戦っていた。そしてその結果、綾袮を助ける形に…或いは止まっていた綾袮が囮の様に機能したところを、上手く横から叩いた形となったのだ。

 

「顕人の事、気になる?」

「うん……って、あ…い、いや顕人君の事だけじゃないよ?顕人君もだけど、他にも……」

「分かっていますから大丈夫ですよ。…やはり、立場ある人間は大変ですね。目の前の事以外も考えなくてはいけないんですから」

 

 理解はしている、というようなフォリンの言葉に、綾袮は苦笑い。確かにそれはその通りで、もし綾袮が一介の兵であれば、先のように隙を晒す事はなかっただろう。ラフィーネやフォリンも、顕人の事は気になっているが…逆に言えば彼の事以外は気にする立場にいない為に、綾袮の様な状態にはなっていない。

 

「はは…まあでもそれは今言ったって仕方ないからね。油断したわたしが言える事じゃないけど、今は目の前の事と役目に集中して……」

「いや、綾袮。お前は今すぐ富士へ向かえ」

「え…おじー様…?」

 

 軽く頭を振り、思考をリセットするような素振りを見せた綾袮。そこから綾袮は飛び出そうとし…だがそこで、刀一郎からの通信が入る。

 

「富士へって…どういう事?まさか、顕人君が最後まで……」

「いいや。だが今の状況では、予想外の侵攻をされる可能性もある。それに…どうも勘が騒ぐのだ。であれば下手に部隊単位で向かわせるよりは、足が速く実力も確かな綾袮が向かった方が確実だからな」

「か、勘って……」

 

 戦闘こそしていないものの、戦場に来てまで万一に備えている祖父が口にした、勘という単語。それに一瞬呆気に取られる綾袮だったが、その祖父は嘗ての大戦を潜り抜けた猛者。経験なら今の自分より遥かに豊富な祖父の勘なら軽視は出来ないと思い直し…その上で、言葉を返す。

 

「でも、おじー様。そうした場合、ここは……」

「問題があればその時は深介達が、万が一の時は私が対応する。…が、綾袮。既に我々は、十分な距離を移動している。その意味が分からない訳でもないだろう?」

 

 そう。綾袮の懸念も間違ってはいないが、これはあくまで『偽』移送作戦。目的は謂わば、騙して誘き寄せる事であり、仮に綾袮が抜けた結果突破されてしまったとしても、聖宝を奪われる事はない。そして本当の場所が分かったところで、既に大きく引き離しており、尚且つ戦力もそれなり以上に損耗させているのだから、この場自体はどうとでもなる……それが今の、協会側としての状況なのだ。

 無論、だからと言って油断は出来ない。第三勢力の可能性は勿論、如何に被害を抑えて終わらせるかもまた、戦闘においては重要なのだから。それを踏まえた上で、刀一郎は綾袮に指示を出したのであり…綾袮の言葉や様子から通信の内容を察した姉妹は、後を押すように言う。

 

「大丈夫です、綾袮さん。私達が、ここに残りますから」

「え?…けど、二人だって……」

「わたし達は、望む結果さえ得られればいい。役や立場は、気にしない」

「……分かった。おじー様、後で文句が出てきたら…」

「戦場は、その場に応じた判断こそが正義だ。そして結果さえ残せば、後はどうとでもなる」

「それはさらっとプレッシャーだよおじー様…でも、任せて…!」

 

 離反の中心人物、御道顕人を擁していた宮空側に聖宝の防衛は任せられない。その論調を覆し切れなかった為、妃乃と違って移送側にいた綾袮だったが、ラフィーネとフォリンに頷き、刀一郎に言葉を返し、戦線を離脱。フォリンが狙撃で援護し、ラフィーネが積極的な攻勢に出る事で注意を引き、一気に綾袮は富士へと向けて加速していく。

 刀一郎の感じた、悪い勘。それが決して勘違いではなく…そして想像とは違う形で現実のものとなるのは、これから少しだけ先の事だった。

 

 

 

 

 富士山を管轄に持つ支部の部隊…言うなれば、俺達最低限の戦力以外で唯一怪しまれる事なく配置出来る戦力の中に、茅章がいる事を知ったのはついさっきだった。御道の侵攻…行方が分からなくなっていた御道が、そのまま隠れてギリギリまで富士山に接近してきていたのだと知るのと、ほぼ同時の出来事だった。

 

「増援の援護を受けて、突破した、ね…やるじゃない、今は全く喜ばしくないけど…」

 

 侵攻を遅らせは出来たものの、今も御道はこっちに向かってきている。その事実を前に、妃乃はそう呟いていた。

 あぁ、確かに凄い。仲間ありきとはいえ、協会全体で言えばまだ経験が浅く、実力も特別高い訳じゃない御道が、ここまで迎撃を切り抜けて、まだ足を止めていないなんて。

 

(いや、違う。こんだけやれてる時点で、少なくとも御道の実力は低くない、そう言えるレベルにあるんだ。それに経験だって、日数がそのまま経験の量になる訳じゃねぇ)

 

 運も実力の内なんていうが、運だけで出来る事なんざたかが知れてる。そしてその運だけじゃ出来る訳ない事をしているんだから、それ自体が今の御道にそれなり以上の実力があるという事への裏付け。加えて経験ってのは、質や密度も重要な訳で…何度かその経験に被りがある俺だからこそ、分かる。御道の重ねてきた経験は、並みの霊装者とは比較にもならないものだと。

 

「…妃乃?」

 

 だとすれば、御道がここまでやれているのも、必然かもそれない。そんな事まで俺は考えていて…次の瞬間、妃乃は立ち上がる。

 

「何ぼさっとしてるのよ」

「え、いや…動くのか…?」

「えぇ。これ以上、顕人を近付かせる訳にはいかない。…迎撃するわよ、悠耶」

「……っ…」

 

 訊き返しへ対する言葉、妃乃からの答えが、俺に緊張感を抱かせる。迎撃する…その言葉が持つ意味なんて、一つしかない。

 

「…戦えない、なんて言わないわよね?」

「…言わねぇよ、その覚悟がなきゃここにゃいねぇ。…けど、良いのか?こっちから離れて迎撃をしてる間に、別方向から仕掛けられて奪取されたら、洒落にならないだろ?」

「だからこそ、他に敵の影がない今の内に動くのよ。何も全員で迎撃に出る訳じゃないし…このままここに陣取ってたとしても、複数方向から同時に仕掛けられたら厄介なのは変わりないでしょ?」

 

 思うところはある。それを隠す気はないが…覚悟だって、ちゃんとしてきてる。それに、戦術的な意味できになったのも本当で…だがそっちに関しては、妃乃の言う事もご尤も。防御に専念するってのは、相手を自由にさせるのと同じな訳で、そこは臨機応変に行動を考えなくちゃ意味がない。

 それに…ある意味で、良かったのかもしれない。この件、この戦いに関しては…自分の知らぬ間に、知らぬ所で終わってただなんて、なってほしくないから。

 

「…ふー……よし」

 

 息を吸い、ゆっくりと吐き出す。深呼吸そのもの…というより、深呼吸という行為をスイッチにするようにして心を整え、俺も立つ。

 

「妃乃。理由はどうあれ、曲がりなりにも綾袮が御道に出し抜かれたのは事実だ。だから……」

「分かってる、本気でいくし油断もしないわ」

「…油断に関しちゃ、誰もしようと思ってするもんじゃないと思うけどな」

「う…だったらどう言えってのよ…」

 

 冗談めかしてそんな事を言いながらも、俺と妃乃は移動。まずは地下空間を出て、周囲を見回し確認し…飛び立つ。

 今はまだ見えていない。だが御道の方もこっちに向かってきてる事を考えれば、数分足らずで接触になる。

 

(茅章は、ちゃんと御道と話せたんだろうか…いや、きっと話せてるよな。ああ見えて、茅章は意思がしっかりしてんだからよ)

 

 確証はないが、茅章は訊きたい事、言いたい事をちゃんとぶつけられたような気がする。そして、ぶつけられているのなら…御道は、答えている筈だ。御道顕人って男は、そういう律儀なやつなんだから。

…そう、誰かの事を気にするのはここまで。ここからはまず自分の事を、自分と妃乃の事を考える。相手がなんであれ、誰であれ、それが戦い、生き残る為に必要な事で…遂に、俺は視認する。木々の間を見え隠れする、赤い光を。

 

「…妃乃」

「…分かってるわ」

 

 妃乃が空中で制動をかけたのは、俺とほぼ同時。ただ、俺が呼び掛けた時、妃乃はもう天乃瓊矛を振り上げていて…一閃。振るわれた刃の軌道が形になったような、飛翔する斬撃が放たれ…眼下へ、赤い光が見えた場所の少し先へと飛来する。

 斬り裂かれる草木。舞い上がる煙。その煙によって、御道の位置もどうなったのかも分からなくなり……次の瞬間俺のすぐ近くを駆け抜けたのは、赤の光芒。

 

「……っ!…今のは……」

「視界が効かない中で、飛んできた攻撃の方位を頼りに撃ち返してきたわね…ほんと、やるようになったじゃない…」

 

 返ってきた光芒は二条。どちらも外れたとはいえ、これは闇雲に撃ったんじゃない、明らかに場所を読んでの攻撃。その反撃で実力を感じ取る中、砲撃によって一気に煙は晴れ……その敵が、御道が上昇してくる。

 

「…ここまで姿が見えなかったから、ひょっとして、とは思っていたけど……」

「そういうこった。今度はやられたふりして隠れず、すぐに出てくるんだな」

 

 姿の見えた御道に、今の斬撃で受けたらしいダメージはない。ひょっとしたら、何かしらの武装には当たって、それは投棄してきた…なんて事もあるかもしれないが、とになくまだ御道には、十分な戦闘能力がある。目に浮かんでいるのも、退く気はないという意思に他ならない。

 

「ここじゃあ、隠れたところでじっくりと探されて終わりだからね。…やっぱり、移送はされてなかった訳か」

「あら、何の事かしら。…一応言うけど、綾袮の様に出し抜こうなんて思わない事ね。そもそも綾袮の時だって、あの状況で、何も知られてない状態でやったからこそ…でしょ?」

「まぁ、ね。けど、出し抜けるかどうかは別の問題だよ。そっちこそ、俺がもう何も策なく、ただ突っ込んでくるだけだと思う?」

 

 こっちと同程度の高度まで上がり、御道は止まる。遠距離攻撃の間合いのまま、妃乃と御道は駆け引きを交わす。

 御道に何か策があるのか。そんな事は分からない。本当に策があるなら、わざわざ心理戦を仕掛けたりはせず、策を警戒される前にさっさと行動に移す筈。だが一方で、これも策の一部…策に誘い込む為の会話という線も捨て切れない。

 つまり、はっきりしているのは二つ。策があるかどうかは、判別のしようがないって事と……まともにやり合えば、やはり勝つのはこっちだって事。

 

「…御道。妃乃は違うだろうが、少なくとも俺は器用じゃねぇ。押し通るつもりなら…覚悟しろよ?」

「今更だよ、千嵜。俺が覚悟もなしに行動してると思ってるなら……」

「そうは思っちゃいねぇよ。俺が言ってんのは…別の覚悟だ」

「そっか。……してないよ、その覚悟は。そうはならないから。そうなる事が、俺の望む道じゃないから」

 

 楽観視ではなく、現実の話として、御道に勝ち目なんざありはしない。思い切り高く見積もって、一対一なら妃乃相手にも善戦出来る…そこまでの実力があったとしても、二対一である以上は、勝てやしない。

 それでも押し通る気なら…それ相応の覚悟があるって事だ。そう思っていた俺だが…御道からの返しを聞いて、一瞬呆気に取られた。何を言っているんだ、こいつは…と。

 だが…御道は本気だ。その考え方は理解出来ないが、本気で自分を、自分の思いややろうとしている事を信じている。

 

(御道に策がある可能性はゼロじゃねぇ。御道に勝ったって、その時点で戦いが終わる訳でもねぇ。何より…こういう目をしている人間は、最後まで何をするか分からねぇ。……だったら…)

 

 速攻で決める。初手から全力で、出し惜しみなしで、策だろうと本気だろうと、とにかく何かをされる前に勝負を付ける。そうするべきだと俺は感じ、アイコンタクトを妃乃に送り…微かにだが、妃乃もそれに頷いた。

 呆気ない終わり方になるかもしれない。御道からすれば、納得なんて微塵もいかない終わり方になる事だろう。だが、それでいい。譲れないものは…俺にだって、あるんだから。

 気取られないよう、息を吐く。神経を張り詰め、全身に力を行き渡らせ、そして……

 

『……!』

 

 動こうとした、その時だった。側面から、魔物が飛来するミサイルが如く襲ってきたのは。

 

「ちっ、間が悪い…ッ!」

 

 瞬時に飛び退き、引き抜いたライフルで迎撃をかける。速度はかなりのものだが、動きは直線なおかげで偏差射撃自体はし易い。

 躱し、迎撃し、視線を周囲に向ける。群れで、それこそミサイルの一斉射の様に襲ってきた魔物は妃乃や御道にも襲いかかっており…けど二人も躱しながら着実に迎撃している。妃乃は巧みに躱しながら次々と、御道はその火力で以って複数纏めて落としていく。

 

(然程強くない…が、おかしいな…余裕で倒せる程度の魔物なら、俺や御道はまだしも、妃乃まで攻撃をかけられるまで気付かないなんて事はない筈…。見た目も動きもミサイルっぽいだけに、ステルスタイプだってか…?…いや、待て…こいつは……)

 

 引き離し、振り向き、連射で一体を撃破。続けて引き付け、真っ直ぐに突進してきた個体へは右手に持った直刀の刺突で一撃必殺。引き抜きその場から離脱しながら、同時に俺は考える。

 魔物が現れる事自体は何もおかしくない。だが、そこそこの数いる魔物が、攻撃の直前まで誰にも気付かれなかったってのはおかしい訳で…俺は気付く。この魔物に、見覚えがある事に。この魔物群そのものに見覚えはなくとも…似た見た目、似た特徴を持つ魔物なら……魔物擬きなら、俺は知っている。

 けど、その通りなら…俺の見立てが間違っていないっていうなら、これは……

 

「悠耶ッ!上よッ!」

「……──ッ!」

 

 弾かれるように、妃乃の声で直刀を振り上げる俺。次の瞬間、振り上げた直刀に、右腕に衝撃が走り…俺は目にする。爛々と瞳をぎらつかせ、俺へ向けて拳を振り下ろしていた、一体の魔人を。魔人の姿を。

 

「よぉ…待ってたぜぇ、この時を…テメェを、テメェ等を…このオレにこれ以上ない程の屈辱を味わわせてくれやがったテメェ等に、その礼をする時をなぁッ!!」

 

 力任せの振り抜きで、強引に弾かれる。距離を取りながらも立て直し、俺は今一度魔人を見る。

 あぁ、やはり間違いない。この魔人は、魔物擬きを使う魔人だ。前の戦いで、重傷を負わせ…後一歩のところで見失った、あの魔人だ。

 だが、全く同じという訳じゃない。姿形はあの魔人で間違いないが…その身には、傷痕が残っている。あの時、俺と妃乃が与えた傷…その痕が、身体にくっきりと残っていた。

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