運命なんて、実生活で感じる事はまあまずない。ない、っていうか…そもそも運命っていうのは概念的なものだから、はっきりと「これは運命だ!」…と感じられるようなものじゃない。せいぜい凄い事に遭遇したり、とても偶然とは思えないような何かが起こった時に、驚きを示す表現として「運命」って言葉を使う程度。
けど、感じられない事と、存在しない事とは別。別に認識がどうたらとか、思考実験的な意味じゃなく、はっきり運命と呼べるような、これは運命だと確信出来るような出来事に、まだ遭遇していないだけであるとも考えられるんだから。
そして今…俺は、対面している。俺にとって、運命と呼べるような…運命と呼べるだけの、戦いに。
「ふっ…はぁぁぁぁッ!」
「うらぁああああぁッ!」
急上昇からの反転。後方宙返りでもするような軌道から身体を逆向きにして、トリガーを引く。千嵜に向けて、霊力の光弾を連射で撃ち込む。
それを千嵜は、バレルロールの機動で避ける。俺の射撃を背中で躱して、そのまま俺へ突っ込んでくる。
「させるかよッ!」
「させてもらうさッ!」
近接攻撃を仕掛けようとする千嵜に先んじて、俺が上から急降下の飛び蹴り。所謂後の先を取るような形で蹴り込んだ俺だけど、千嵜は身を捩り、すれ違うような動きを取る事で蹴りを回避し、上を取りつつ右手の直刀を俺へと振るう。その一撃を、振り向きざまに突き出した左のライフルの銃剣で受け…交錯するのは、力と視線。
「もう距離を取るのは止めたのかよ…ッ!」
「取らせてくれるなら取ってるさ、取らせてくれるならね…ッ!」
純粋な近接武器である直刀と、一応これで近接戦も出来るって程度の銃剣じゃ、どっちが力を込め易いかなんて明白。言葉をぶつけ合っている間にも、少しずつ俺は押され…押し切られる前に、俺は自分から下がる事を選択。千嵜の力と重力を利用して一気に下がり、ユニット各部からの砲撃を用いて追撃を阻む。
(強いな…戦えば戦う程、それが実感出来る……!)
距離を取らせてくれるなら取る、そんな風に返した俺だけど、もうそこまで距離を取る事に拘ってはいない。確かに距離を取った方が、堅実に戦えるけど…それじゃ長期戦になる事を避けられないと、ここまでで十分に理解した。そして味方が来る確率で言えば、俺より千嵜の方がずっと高い以上、堅実な戦い方なんて出来ない。危険度は上がっても、早期の決着を目指す他ない。
…いや、これは少し間違ってんな。距離を開ければ安全に戦える訳じゃない。少なくとも、千嵜が格下の相手ではない以上、どう戦ったって危険は消えない。
「そらよッ!」
「喰らう、かよ…ッ!」
上から撃ち下される射撃を、四基のメインスラスターを複雑に組み合わせる事で避けていく。避け、余裕を作り、反撃を…そう思った瞬間に襲ってくるのは、飛翔する千嵜のオールレンジ攻撃。
アニメで見るような、無茶苦茶な動きはしてこない。早くはあるけど、軌道そのものは割と単純で、一つ一つには然程脅威を感じない。…けど、千嵜もそれを踏まえてか、端末を攻撃の主体にはせず、接近や射撃の隙を埋めたり、今の様に瞬間的な追撃として活躍したりと、端末を主体としない運用に専念している。
だから回避や防御は出来ても、撃ち落とすまでには至らない。ローリスクローリターンの運用をする事によって、千嵜は端末の撃墜を回避している。
「んなろぉッ!」
突進してくる端末を何とか全て避け、お返しにユニット各部の砲を発射。最初のオールレンジ攻撃で一部潰されたとはいえ、砲門はまだ十分な数残っており、曲射の設定も組み込む事で左右から挟み込むような砲撃を放つ。
それを千嵜は、上下に避ける訳でも後退するのでもなく、前に出る事で、挟撃の内側に入る事で避けつつ接近を仕掛けてくる。…俺が、思った通りに。
(ここだ…ッ!)
踏み込んできた瞬間、そのタイミングを見計らって俺は二丁を同時発射。挟撃からの、カウンターとして突っ込んだところへ撃ち込まれる同時射撃には千嵜も堪らず回避を選び、俺の上を抜けるような形で回避に移った千嵜へ俺は追撃に入る。
避けられはしたが、これで良い。向き合った状態じゃ、俺の攻撃は回避を交える事で千嵜に捌き切られるが、後ろから追いつつ撃つ形なら、千嵜だって捌けない。制圧射撃で押し切れる。
「……っ、なら…!」
「火力ならっ、こっちの方がずっと上なんだよッ!」
背後への攻撃手段がほぼない(というか、普通の人はない。俺だって、やろうと思えば出来るけどまともな狙いなんかつけられない)千嵜は、振り向きざまの射撃を放ってくる。けどそう来るのは分かってた事、当然の事で、予め構えていた俺は千嵜の射線か、逸れつつ角度を変えて攻撃続行。
火力の違いは圧の違い。その違いがあるまま撃ち合えば、どっちが優位かなんて明白。
「ちっ…けど、忘れちゃいないよな?俺にもまだ、遠距離で打てる手が……」
「オールレンジ攻撃は、ちゃんと見てなきゃ使えない!脳波とか特殊な力で動かせるもんじゃない!違うかよ、千嵜ッ!」
「ご明察だよ、鋭いやつめ……ッ!」
射撃を止め、また逃げる千嵜を追いながら、千嵜の策へ言葉を返す。
これまで千嵜は、一度も死角を補うような形で端末を使用していない事や、自分自身の複雑な動きと端末の使用を同時に行っていない事から、俺は遠隔操作端末がフリーハンドで使えるラジコンみたいなものだと予測し…そして、その通りだったらしい。もし違うなら、この状況を打破するのに使える筈なのに、そうしていない事からしても、あの端末はそこまで便利じゃない……強力ではあっても、あくまで一つの武装に過ぎないものだという認識で間違いない。
(このまま攻め続ければ、オールレンジ攻撃も封殺出来る。撃ち合いになったとしても、俺の優位は揺らがない。…いける、のか…?俺が、千嵜に……)
オーバーシュートを狙ってか、上下左右に動き回る千嵜を追いながら、千嵜に火力のプレッシャーを与えつつも近接攻撃によるカウンターが出来ない微妙な距離を維持しながら、俺は考える。感情混じりの思考が頭を過ぎる。
負ける気はないと言ったけど、そこに嘘は一つもないけど、千嵜は俺より強いと、俺の先を行く存在だと、そう思っている部分が俺の心の中にはある。でも今、優位なのは俺だ。押しているのは千嵜ではなく俺なんだ。そう思うと、心が震えて、心の中から何か熱いものが込み上げてきて……
「千嵜…勝つのは、俺だッ!俺が、千嵜に…勝つッ!」
登る思いがそのまま口から出たかのように、気付けば俺は言っていた。叫んでいた。
あぁ、そうだ。俺はずっと千嵜を意識していた。意識するに決まってる。同じ日に霊装者の道を踏み出した、同じ予言された霊装者で、その前から付き合いがあって……けど俺と違って過去がある、霊装者として生きていた『昔』という記憶を、経験を持つ相手が、千嵜なんだから。敵ではなくとも、壁ではなくとも、千嵜という存在は…俺にとって常に、綾袮とは違う形で俺の前にいる相手だったんだから。
目指していたと、憧れていたと言ってもいい。その千嵜に今、追い付きかけている。追い付き、追い抜けそうになっている。それ故の興奮が、だからこその衝動と高揚感が俺にはあって……思いのままに、されど頭もフル回転させて偏差射撃をかけようとしたその時──千嵜から、刃が飛来する。
「……──ッ!?」
反射的に、ブレーキをかける。後ろ向きにしていた主推進器を前に振り出し、逆噴射の形を取って、慣性で身体が軋むのも構わず俺は無理矢理減速をかけた。
それと同時に、剥離するが如く飛来した刃へ射撃をかける。飛来する刃の数は五。とにかく撃って、俺の方へ迫る一本を撃ち落として…そこで気付く。それは射出されないと思っていた遠隔操作端末である事と…それは囮である事に。
「舐めんなよ…御道ぉおおおおおおッ!」
「ぐッ、ぁ……ッ!」
気付いた時点で既に千嵜は攻撃態勢。肉薄をかけた千嵜の直刀が俺に突き出され…避けようと思った次の瞬間には、綾袮の踵落としでひしゃげていた肩のユニットを貫かれ、そのまま肩のユニットは剥がれるように瓦解する。
わざと千嵜が外したのか。それとも辛うじて、僅かにでも回避が間に合った結果がこれなのか。何れにせよ…まだ千嵜との距離は、近い。
「こ、の……ッ!」
「遅ぇッ!」
突き貫いたまますれ違う千嵜に対し、何とか身体を捻って射撃。けど右手のライフルで一発撃った時点で腕ごと千嵜の左腕に振り払われ、逆に直刀を振り出される。寸前で左手のライフルの銃剣で受けたものの、崩れた今の体勢じゃあっという間に押し切られる。
「遠隔操作端末は、ちゃんと見てなきゃ使えない。確かにそうだ、その通りだ。…けど、ちゃんとじゃなくてもいいなら、見ていなくても使えるんだよッ!」
「……っ…!」
やはり俺は押し切られ、飛ばされる。三点バーストの射撃が続き、それを無理に回避した俺は余計に姿勢が無茶苦茶になる。
油断していた。判断を間違えていた。自在に動かす遠隔操作端末じゃなく、ただの飛び道具として、適当な方向に放つだけならノールックでも動かせるのは当然の事。でも俺は、無意識に思っていた。外れても、雑に撃っても霊力をその攻撃分消耗するだけな砲撃と違って、一度破壊されたらそれきりな遠隔操作端末を、雑に放ってくる事なんてしないだろうという、勝手な思い込みで警戒するのを忘れてしまっていた。結果的に、一基を破壊出来たとはいえ…代償は、重い。
「それとな、御道…お前が強くなった事は認めるが…俺に勝とうなんざ、何年か早ぇッ!」
「くっ、ぅぅ……ッ!」
もう反撃やカウンターは一度諦め、とにかく姿勢の立て直しを優先しようと考える俺。スラスターを崩れた姿勢とは逆側に吹かす事で強引に正し、何とかまともな姿勢に戻れたものの、その時には既に四基の端末が迫っていた。二基は避け、一基は銃剣で逸らす事が出来たが、もう一基が対処し切れずに右腰のユニットを貫かれ、尚且つ千嵜自身も突っ込んでくる。
「先に言っておくが…なんか癪なんだよッ!御道に、そう思われるっつーのはッ!」
これ以上後手に回ったら本当に対処が追い付かなくなる。反射的にそう思った俺は、近接攻撃を受けるより先に俺からも踏み込み、銃剣を振るい…けど、分かってたとばかりに銃剣を直刀で弾かれる。そこから突き出すような蹴りに移られ、ユニットがなくなった右腰へ正面蹴りを一発喰らう。
斬撃や射撃よりはマシとはいえ、これだって痛いし衝撃もある。…でも…今の攻防と同時にぶつけられた言葉が、俺の中で響く。反響し、俺の心を内側から叩き…俺の中で、何かが爆ぜる。
前屈みのような姿勢になった俺の前で、動く気配。恐らくそれは、今度こそ本命の攻撃に出ようとした千嵜のもので…そこは俺は、突っ込む。構えも技術もありはしない、ただただスラスターを吹かしながら頭を上げるだけの動きで以って…千嵜にヘッドバットを叩き込む。
「…何だよ、それ…何年かって、なんでそこざっくりとしてんだよッ!」
「つぁ……ッ!?」
衝突する頭と頭。鈍器で殴られたような…頭同士がぶつかったんだから、そりゃそうだろって感じの痛みが走り、くらっとして、俺も千嵜も揃って蹌踉めく。そこから何とか喝を入れ…もう一度、突っ込む。
「おまっ…気にするとこ、そこかよ…ッ!」
「そこも気になったんだ、悪いかッ!」
立て直しよりも攻撃を優先した結果、出来たのはただの体当たり。それでも少なくはない反動と引き換えに、俺は千嵜を突き飛ばす事に成功し…右手の武器を、ライフルから純霊力の剣に変える。
「あれかよ千嵜ッ!自分の生まれ変わる前から今までの時間分換算しようと思ったが、流石にそれは長過ぎるってか、自分だってその期間の半分以上は飛んでるから変な感じになるよな、的な事考えていい感じの時間を思い浮かべられず、結果さっきの適当な表現になったってか!?」
「お…お前はサイコメトラーかッ!霊装者の力を取り戻したついでに、固有能力まで手にしたのかよッ!?」
「違ぇよッ!そんな事があったら良かったんだが、なッ!」
形成した霊力の刃を振るい、掲げられた千嵜の直刀と斬り結ぶ。手を伸ばせば相手の身体に手が届く程の至近距離故にお互いライフルの銃口は向けられず、砲も上手く向けられない。千嵜の端末も、僅かなミスで自分を刺す事になるだろうからか、使ってくる気配はない。こう近付けば、四方からの攻撃は無理だな、ってな…ッ!
そんな状態で、斬り結ぶ互いの刃越しに、言葉をぶつけ合う。いきなり下らない言い争いに発展し…互いが互いを押し出す。結果俺も千嵜も下がり、遠隔攻撃も出来る距離となり……
『……っ…でりぁああぁぁぁぁッ!』
……だが俺も千嵜も、選んだのは再度の接近戦だった。恐らく、お互いが狙われる前に懐へ飛び込もうとしたが為に、再び斬り結ぶ形となる。
「大胆な事、しやがるな…ッ!だが、接近戦なら…ッ!」
「んな事こっちも、織り込み済みだ…ッ!」
さっきは防御を強いる事が出来た為に、互角の状態となった。けど条件が同じとなると、経験の差で近距離は千嵜が上回る。技術や細かな駆け引きで俺は押し返され…だから左のライフルを横にし、外側から千嵜へ振るう。引っ掛けるような動きで、銃剣での斬撃をかける。
それは躱される…が、追撃を阻止する事には成功。結果また距離が開き…今度は肩越しに二門での砲撃を放つ。
ここまでは、近付かせない戦い方をしていた。時間ばかりを消耗する攻防を打ち切る為に勝負を仕掛け、それには失敗した。であれば、残る道は一つ。積極的な近接格闘も視野に入れた、これまでより近い距離での白兵戦のみ。
「まだやる気かよ、御道ッ!消耗戦になりゃ、有利になるのは俺の方だッ!経験的にも、時間の問題でもなッ!」
「はっ、何言ってるんだかッ!消耗戦なら、霊力量の面でガス欠が遠い俺の方が有利だと思うがなッ!」
「そりゃどうだろう、よッ!」
「どうだろう、ねッ!」
ライフルで撃ち、回避先へ突っ込んで横薙ぎ。それは直刀で擦り上げるように凌がれ、ライフルでそのまま殴ってくる。その打撃を、前に振り出した主推進器の逆噴射でギリギリ避けて、ユニットからの砲撃を撃ち込む。…が、寸前で避けられる。俺の様に装備をフル活用するのではなく、純粋且つ単純な回避行動で。
あぁ、実感させられる。近い距離での戦闘は、相手の動き…視線や手足の、一つ一つの動きから先の行動を瞬時に、反射的に予測し行うものであり…それは遠距離戦より、よっぽど経験が表れる。分かっちゃいたけど、ほんとに近距離戦じゃ千嵜の方が一枚も二枚も上手。
だとしても、俺が勝利を…目の前の一勝ではなく、作戦としての価値を得る為には、こうして攻めるしかない。もっと先を見据えた、戦術的な……
(…いや、違うな。聖宝の奪取の為に、それに繋がる選択と結果が必要なのは勿論だ。…けど、俺は…俺が望んでいたのは……)
四基の端末が、それぞれ別方向から迫ってくる。微妙にタイミングがズレて飛んでくるそれが、ズレを利用し避ける…そんな動きを誘発する為の策だと気付いたのは、まんまと誘導された後。回避し切った先に飛んで来た千嵜のけさがけを受け止め切れず、姿勢が崩れた俺は……そのまま蹴り上げる。仰け反るように崩れたのだからと、そこからサマーソルトに移行し追撃しようとしていた千嵜に向けてカウンターを打ち込む。
慣れない事をやったせいで、キックは空振り。…だが、意表を突いたカウンターにより、千嵜の追撃も止まった。そして、一回転した俺と千嵜の視線が交わり……俺は、確信する。今の俺の中の、俺の心で燃え立つ思いを。
「…こんな日が来るなんて、思わなかった……」
「ったりめーだ。俺だって、こんな事になるなんざ……」
「こんな劇的な…想像の世界の話みたいな事を、当事者として、実際に経験するなんて…思ってもみなかったよ、千嵜ッ!」
「……っ!?御道、お前……!」
振り出すように左手のライフルで一発撃って突進。俺の言葉に面食らった様子で、一瞬反応が遅れた千嵜に接近をかけ、何度目かの激突とせめぎ合いを繰り広げる。
「馬鹿だって思うかよ、戦う事を…命のやり取りを舐めるなって思うかよ?けどな、千嵜…こっちだって本気なんだよッ!本気だから貫きたい、貫きたい程に本気だってんだよッ!それが、これが、俺の……望んでいた世界なんだよッ!」
刃同士をぶつけ合ったまま、スラスター前回で突進をかける。押し切るのではなく、そのまま突っ込み空中で千嵜を引き摺り回す。
我ながら、訊かれてもいないのに何をいきなり言っているんだ、とも思う。だが、俺はこの思いを千嵜にぶつけたかった。俺とはまるで違う人生を歩んできた…俺の憧れる、夢見た非日常的の中で生きてきて、なのに非日常より日常を、何もない日々を望んでいた千嵜だからこそ…俺は、ぶつけたかった。恨みでも、妬みでもなく…対極な存在である千嵜に、俺の理想をぶつけ…貫いて、みせたかった。
「だから俺は、力を望んだんだッ!どんなに充実していたって、周りの人に恵まれてたって…力がなきゃ、俺の理想には届かないッ!この戦いだって、何もしなきゃ触れる事すら出来ない経験だった!理解なんか求めねぇよ!俺はただ、俺の……」
「…ふん、分かるさ…これっぽっちも、分からねぇけどなッ!」
押し込むだけ押し込んだ後、俺は何度も斬撃を浴びせる。仕掛け続け、直刀を防御に回させ続ければ反撃もされないだろうと見立て、とにかく攻撃を重ねる。言葉と共に、何度も何度も。遠隔攻撃での対応もさせない為、距離を開けないまま、全力全開で。
感情が乗る。これまで以上の力が出る。聖宝を手に入れるという目的も忘れちゃいないが、それと同じ位に今は千嵜に勝ちたくて、対極且つ俺の先を歩んでいた、ある種憧れすらあった千嵜に真正面から勝利を掴み取りたくて……けど次の瞬間、思い切り振り抜いた一太刀で、千嵜の直刀を持つ腕を完全に外側へ弾いた次の瞬間に、俺の身体は跳ね飛ばされる。弾いた直後、弾かれた腕の遠心力で逆の肩をこちらに向け、そこから千嵜が打ち込んできたショルダータックルを諸に受けてしまった事で。
「がふっ…千嵜、お前…また曖昧な事を……」
「共感どころか理解も出来やしねぇが、本気だっつー思いも、何が何でも叶えたい、貫きたい願いが存在する事も分かるって事だッ!…だがな、そんな思いを聞こうが俺のやる事は変わらねぇ。俺にだって、譲れないものはあるし…純粋に、御道に負けるのは気に食わねぇんだよッ!」
肩を胸元にぶつけられた事で怯んだ俺だが、千嵜も強引な攻撃で追撃までは進めず、一瞬の間が空く。先に刃を振るってきた千嵜の攻撃を銃剣で受け止め、その間に霊力剣で横薙ぎをしようとし、前腕に前腕をぶつけるという形でこっちからの攻撃も止められて…睨み合う。ほぼ同時にお互い離れ、ライフル同士で撃ち合い、回避し旋回しながら俺は砲撃、千嵜は遠隔操作端末での追撃をかけ…相手の攻撃を避けながら、攻撃をしながら、頭をフル回転させ次に仕掛ける瞬間を図る。
(気に食わないってなんなんだ…だけど……本気で来てくれるなら、それで良い…!気に食わないってのが気に食わないが、そうこなくちゃ意味がない……ッ!)
ただ勝ったって、勝ちを譲られたって意味がない。本気の千嵜に勝たなきゃ、互いに全力を、全身全霊を尽くした先の決着じゃなきゃ、決戦じゃない。そしてその全力を尽くした先の決着にこそ…俺にとっては何物にも代え難い、それ位の価値がある瞬間が待っている筈だ。
推力として霊力を吹かし、射撃に砲撃、それに斬撃と霊力を惜しみなく注ぎ、互いに力を振り絞り、富士の空で俺と千嵜は激突を繰り返す。霊装者として、思いをぶつけ続ける。そうして向かう先にある決着は、終わりは…きっと、そう遠くはない。無意識に、心のどこかで、そう感じていた俺だった。