広大な富士の領域内で繰り広げられる、幾つもの戦い。人間と人間、人間と魔人…それぞれの立場、それぞれの目的を掲げて激突し、力と力をぶつけ合い、鎬を削る。
正義が勝つのだろうか。それとも勝った方が正義なのか。或いはそもそも、正義は複数あるものなのか。哲学的な思考や観点は無数にあり……だがしかし、正義を含めた自らの意思、思想や信念を高らかに語る事が出来るのは…勝利を収めた者に他ならない。
「ここでッ!」
「これでッ!」
夜空に煌き、疾駆する二対の翼。蒼い光を持つその翼は、同じ光を浴びる刃と共に輝きを放ち…敵を、斬り裂く。
「がッ…ふ……」
天之瓊矛と天之尾羽張。二つの家系で代々受け継がれる、それ自体が宝と言っても過言ではない二振りをそれぞれ持つ少女、時宮妃乃と宮空綾袮の同時攻撃により、相対していた魔人は胴を斬り裂かれ、苦悶の声と共に落ちていく。どちらもその太刀筋に迷いはなく…為すべき事を果たさんとする彼女達を阻んだ魔人に、確かな深い傷を負わせる。
「…前にも戦った事ある相手だけど…前より手強かった気がするよ…」
「執念、でしょうね。敵ながら天晴れ、とでも言いたいところだけど…この重要な時に襲ってくるなんて、勘弁してほしいわ…」
気は抜かずとも振り抜いた得物を戻し、幼馴染でもある相手とのやり取りを交わす二人。
綾袮の言う通り、二人からしてもこの魔人は手強い相手だった。大きなダメージは免れないような重傷を負わされ落ちた魔人だが、そもそも単独でも魔人と互角以上に立ち回れる上、二人で組んだ場合は抜群の連携を見せる妃乃と綾袮を同時に相手にし、ここまで持ち堪えていた…善戦していただけでも大したもの。だからこそ、妃乃も「敵ながら天晴れ」という言葉を思い浮かべたのであり…だがその直後、二人を黒い影が、魔物擬きが下方から襲う。
『……ッ!?』
反射的に二人は得物を振るい、魔物擬きを斬り裂く。虚を突かれた状態でも、瞬間的に対応出来るのが二人であり…しかし内心では、動揺を禁じ得なかった。
魔物擬きそのものは驚異ではない。しかし魔物擬きが現れ、襲ってきたという事実は重く…続けて目にした存在により、魔物擬きが見間違いでも何でもなかった事が確定する。
「…何、終わったみたいな雰囲気出してんだよオイ…言ったよなぁ…?テメェ等は、オレが潰すってよぉ……」
胴体に浴びた斜め十時の深手。人間ならばまともに動く事もままならないような重傷でありながら、その状態でふらつきながらも二人を見上げているのは魔人。重傷とは思えない程に鋭く、戦いの意思が微塵も薄れていない眼光。
それを見て、二人の意識は完全に切り替わった。既に追い詰めているような状態とはいえ…確実な勝利を収めるまでは、目の前の戦いに専念するべきだ、と。でなければ、ここからでも魔人にやられかねないと。
「…ヒメ」
「分かってる。ここまでも手を抜いてた訳じゃないけど…ここからは、本当に全力でいくわよ、アヤ」
それぞれの得物を構え直し、翼を広げるように左右へ展開した二人は、迎撃として放たれた魔物擬きを鋭い機動で避けながら接近する。執念含め、この対峙する魔人を正真正銘の強者だと認めた上で、確実に勝利を掴まんと全力で仕掛ける。
急降下をかける最中、ふっと一瞬脳裏に過ぎったのは、今はもう「大切な人」だと確信を持てる相手の事。その相手へ向け、半ば無意識的に心の中で二人は呟き……交戦を、続ける。
(絶対に、勝って貴方に追い付くわ。…信じてるわよ、悠耶)
(顕人君…君は、君の事は……)
*
空で行われる戦いもあれば、地上で行われる戦いもある。協会の絡む戦いもあれば、絡まない…ある意味で、第三勢力同士とも言える戦いもある。そして、まだ続く戦いもあれば……既に勝敗の決した戦いも、そこにはあった。
「…ァ…が、は……ッ!」
腹部を刺し、背を貫き、尚も伸びる真紅の刃。他の純霊力剣とは一線を画す程に高出力、高収束の霊力刃が魔人にどうしようもない程の深手を負わせ……その使い手、ゼリア・レイアードは刃を振り抜く。発振を止めればそれだけで引き抜いたのと同じ結果を得られる純霊力剣を横に振るい、更に脇腹を捌きながら魔人より離す。
「如何なる対象であろうと消し飛ばす力…成る程確かに強力ですが、所詮連続使用が効かなければ範囲も限定的、加えて手を基点としなければ使えない制約もあるとなれば、まあこんなものでしょう」
「…なん、なんだ…お前、は……」
こんなもの。初めからこの結果は分かり切っていたとばかりに言ってのける彼女は完全な無傷であり、表情も冷ややかなもの。対する魔人は木を背にする形で崩れ落ち…魔人側は連戦であったという事を差し引いても、その勝敗は歴然。
既に明らかな致命傷とはいえ、まだ息がある魔人へと背を向け、ゼリアは見上げる。悠耶と顕人、二人の激突を見やり…それから静かに目を閉じる。
「…ふふ…嗚呼、後少し…後少しで、遂に……」
その言葉と共に浮かんだのは、大抵の事には淡白な反応しか見せない彼女が普段は見せないような、興奮と高揚の混ざった面持ち。開け放ったような反応とは違う、心の奥底から漏れ出たような、無意識の発露とでも言うべき静かながらも感情の熱が籠った表情を浮かべ…しかしその時、魔人は動いていた。致命傷である事を感じながらも、目の前の敵を…余裕を見せてトドメも刺さずに背を向けた敵を葬らんと、一切音を立てる事なく右腕を掲げ……次の瞬間、ゼリアの姿がそこから消え去る。
一瞬、魔人は自らの手で消し去ったのだと思った。だが、すぐに気付く。直感的に、そうではないのだと理解し……その直後、突き出していた右腕が肩から落ちる。…振り下ろされた、刃によって。
「まだ勝てると思っていたのか、それとも一矢報いたかったのか…何れにせよ、無駄な事です」
「…調子に、乗るな霊装者…お前の様な、存在など…我が、主の前では……」
「それは、こちらの台詞です。所詮は紛い物な魔物や魔人風情が、図に乗らないでもらいましょうか。…尤も、これから消えゆく者には関係ありませんが」
特別、何かをした訳ではない。ただ単に、魔人の最後の攻撃を察知したゼリアは真上に飛ぶ事で能力を回避し、斬撃を魔人に返したというだけの事。
致命傷に加え片腕も失い、最早魔人は睨む事しか出来ない。これまでは覇気や強い意思の感じられなかった魔人も、死の間際だからか…或いは圧倒的な力の差で捻り潰された事への苦渋故か、恨みの籠った表情でゼリアを見上げ…見下ろすゼリアは、無情な声と瞳で一蹴。そして刃の斬っ先を魔人に向けて……彼女が純霊力剣の柄を腰の装備へと戻した時、魔人は既に生き絶えていた。
「…さぁ、最後まで戦い抜いて下さい。輝きが満ち、今度こそ来たるべき日を現実のものとする為に」
戦いを終わらせたゼリアは再び見上げる。更に煌めく二つの光、意思をぶつけ合う二人の霊装者の姿を目に収め、一人呟き…それからその場を後にする。
魔人すら余裕を持ったまま屠る存在。妃乃や綾袮をして、世界最強と言わしめる霊装者。彼女の持つ、宿命とすら言える望みが形になる瞬間は……刻一刻と、近付いている。
*
一進一退の戦い。互いに長所、得意とするところが違い、目的や勝利条件も違うが為に、俺も御道も消耗を重ねながらも大きなダメージは追う事なく…今も戦いは、続いている。
「なぁ、覚えてるかよ千嵜!魔王と戦いになった日の事、綾袮や妃乃さん達と一緒に戦った日の事をさぁッ!」
「普通に死んでてもおかしくない相手だったんだ、忘れるかよ…ッ!」
四基ある主推進器の内、下の二つで機動力を確保しつつ御道は上の二つで砲撃を放ってくる。それを旋回機動でさければライフルのフルオートによる射撃が続き、俺もライフルで撃って反撃。…が、既にただ撃つだけじゃ勝負が付かないなんて事はお互い分かっており、回避しながらも接近戦の間合いへ踏み込む。
「あぁ、確かに誰が命を落としてもおかしくはなかった!自分の危機だって何度も感じた!けど、千嵜と共闘する事になって、綾袮や妃乃さんがこれでもかってタイミングで戻ってきて、二人とも共に戦う事になって…俺は感じた、感じたんだッ!ある意味、本格的に俺の霊装者としての道が幕を開けたのは、あの時だったのかもしれないって!」
「大した度胸してんじゃねぇか、よッ!俺ならそんな壮絶な始まり方、真っ平御免だがな!」
突進からの、銃剣を備えるライフルからの単射。それをギリギリで、紙一重で避けた俺は、続く銃剣での刺突も直刀で逸らし、逸らしたところから跳ね返すような動きで柄尻での打撃をかける。御道は腕に装備したユニットのパーツでそれを受け、推力で俺諸共弾き返しにかかる。
大きなダメージこそ与えられていないが、攻撃自体はもう何度も当たっている。逆にこっちは武装の破壊こそされているが、ダメージに関してはヘッドバットを一発受けた程度で、俺の方が優位な筈。…だというのに、御道の勢いは衰えない。体力というより、精神面でのギアが全開になりっ放しなようで、御道は止まらない。
「俺だって、まともじゃない感じ方だってのは分かってるさ!けど…だとしても俺は焦がれる!心が踊る!こういう世界を、非日常を感じる事に!そこに俺が、いるって事にッ!」
「だったら、ここまでの行動をする必要はねぇだろうがよ…ッ!ここまでの事をして、お前は何が望みなんだ!本当に、世界を憂いてんのかよ!刺激を、闘争を…御道の言う『非日常』を、自分で作って感じる為の建前に過ぎないんじゃないのか!?」
「いいや違うねッ!世界を変えたいのも、俺だけが力を取り戻せれば良いだなんて思わなかったのも、全部俺の意思で、思いだッ!笑いたきゃ笑え千嵜!俺はずっと……ヒーローに、主人公に憧れてたんだよッ!」
「……ッ!」
更に数度激突と撃ち合いをした末に、御道は両手の武器を共に純霊力剣へと持ち変えるという思い切った選択をし、そのまま俺に向けて突進。砲撃は行う事なく、特攻でも掛けるのかとばかりに突っ込んできて…反射的に俺は三点バースト射撃を放つ。その内の一発がまだ無事だった方の肩ユニットの一部を砕き、一発が御道の首を掠め…なのに御道は止まらない。そのまま真っ直ぐ肉薄をかけ、二本同時に刃を振り出す。
その行動に、発された言葉に、反射的に俺は面食らってしまった。その一瞬で、俺は回避のチャンスを逃し…何とか直刀での防御はしたが、姿勢を崩される。二本越しの両腕と片手じゃ力負けにも繋がり、御道は勢いと力で振り抜く。
押し切られた俺は、真下へ落下。ならばと身体の前面を空に、御道のいる方へと向け、今度はフルオート射撃を浴びせようとライフルを振り出す……が、その時にはもう、御道は完全に砲撃態勢。主推進器を兼ねる砲での、都合四門による砲撃が放たれ、その内の一発でライフルを撃ち抜かれる。
(ぐッ…これは、不味い……ッ!)
上部が消し飛び、どう見ても使い物にならなくなったライフルを投げ捨てる。すぐに拳銃を引き抜こうと考えたが、そこに再び御道が迫る。重力に引かれ、落下という形で主推進器無しの接近を御道は敢行し……俺は、窮地に立たされる。
引き付けてからの一撃で、振るわれた一太刀を逆に弾き返す事は出来た。けどまだ、御道には左の剣が残っている。端からそれは分かっていた事だが、今の自由落下で余裕のある御道じゃ下手に直刀で防御しても、もう一本で確実に斬られると分かっていたからこそ、こうするしかなかった。思い切り弾き、それで姿勢を崩してくれるのを期待する他なかった。
だが、御道の姿勢は崩れない。若干は崩れたが、まだ振るえる状態にある。そして俺は、弾く為に直刀を振り抜いてしまった以上防御が出来ず…脳裏に浮かぶのは、どうにもならないという可能性。このまま負けてしまう未来。俺が御道に…俺より消耗している筈の、色んな面でまだ俺が上回っている筈だった御道に、接近戦の距離で……
「……ッ…負けて…堪るかよぉぉおおおおおおぉッ!!」
──その瞬間爆ぜる、俺の感情。俺は反射的に、本能的に、腰にかけるだけにしておいたある物を左手で引き抜き……それで御道の斬撃を止める。
受けた瞬間、切れてはらりと落ちたのは布。…妃乃から受け取った一本の刀剣、その刀身を包んでいた部分。
「千嵜…お前、まだ刀を…って、それは……」
せめぎ合いにより散る霊力。それに焼かれるように、触れた部位の布が消え、段々と剥がれていき……露わとなった刃を見て、御道は目を見開いた。
だがこの時、俺も驚いていた。腕に感じる重み…重量とは違う、存在そのものが持つような重みと、霊力を吸われるような感覚に。普通の霊力付加装備とは明らかに違う…この一振りを扱う事の、難しさに。
(…とんでもねぇものを託してくれたな、妃乃……)
身体を捻るように押し返して、同時に後退もして、俺は距離を取る。御道も『これ』を警戒してか、構え直し…正対する。
……間違いない。この刀は、この一振りは、妃乃や綾袮の得物と同じ…両家で代々受け継がれている大槍や大太刀と同じ、特別な素材で作られた一本だ。恐らくだが、聖宝のあった空間で取れた分を使って、生み出された一本なんだ。
その一振りを、俺は託された。初めから俺の為に作られたのか、俺しかいなかったから渡されただけなのかは分からないが…重い。これを扱うというのは、物凄く重いものであり…だが、やれる。やってやる。怖気付くなんて選択肢は…俺には、ない。
「…終わらせようぜ、御道。全力で、全身全霊で……俺が、お前を倒す」
「…あぁ、そうだね。そっくりそのまま…その言葉を返すよ、千嵜」
託された刀と、ずっと使い続けてきた愛刀。その二振りを両手に構え、俺は小さく息を吐く。御道も赤い光を放つ、二本の純霊力の剣を広げ……次の瞬間、また俺達はぶつかり、刃と刃で打ち合い…離れる。
「俺はッ、変えるんだよッ!誰かにしてもらうんじゃない、変わるのを待つのでもない…俺自身の力で、意思で、世界を!俺の未来をッ!」
「好きにすりゃいいさッ!だがな、俺にも守りたいものがある!大切なものが、日々がある!それを曇らせるなら、陰を落とすなら…俺はそれを、ぶっ潰すッ!」
次々放たれる砲撃を、縦横無尽に飛び回り避ける。反撃として、左の刀から飛翔する斬撃を放ち、御道は上昇で反撃を躱す。見よう見まねで放った斬撃は粗末なもので、飛距離は勿論威力に関しても妃乃や綾袮がやるものには大きく劣るだろうが…今は飛ぶだけでも十分。
躱した先へ、捻り込むような機動で突っ込む。左の刀を振り上げ、武器そのものの力も交えてこちらに注意を向けさせつつ、素早く右の直刀で刺突。ギリギリで御道が引いた事により、刺突は斬っ先が掠めるだけに留まり、逆に俺がまた砲撃で追い立てられるが…俺も俺で、端末を放つ。二振りの剣に端末を操作する機能なんてないが、操作イメージを強くする為に双方振るい、四方向から御道へ打ち込む。
「ぐ、ぉッ…まだ、まだぁぁッ!」
完全同時にぶつけるんじゃ、一度の回避で済む分逆に避けられ易い。それを踏まえた俺の攻撃の一基目を避け、二基目も避け、三基目は純霊力剣で受けた御道だが、そこで姿勢を崩し、最後の一基が御道に迫る。
…が、あんな啖呵を切ってるだけあり、御道もそう簡単には終わらない。崩れた姿勢のまま、四門の砲での砲撃をする事で身体をずらし、寸前で避けたかと思えば今度はユニットの方から明後日の方向へ霊力ビームを……
「つぁ……ッ!(しまった、曲射狙いだったのかよ…ッ!)」
がくんと曲がり、俺の頭上を通り過ぎる数本の光線。狙いが甘かったのか、曲げられる角度にも限界があるのか、その反撃自体は動くまでもなく外れたものの…追い討ちを阻まれている隙に御道は立て直し、また突っ込んでくる。
迎え撃つ俺と突っ込む御道との、互いの右手の刃が激突。即座に俺は左脚で蹴り、当たってよろめきながらも御道はユニットの砲の一つを俺に向け、近距離砲撃をひっくり返るような回避運動で何とか避け…そのまま一回転した俺は、今度は左の刀を振るう。左手の刃同士で、またせめぎ合う。
「だったらッ!」
「そう来るならッ!」
右の刃の時は、ほぼ互角だった。だが左での激突では、初めこそ互角だったものの、少しずつ俺の刀が食い込み始める。武器の性能と、能力面の差が現れてか、刀が霊力の刃を断ち斬り始める。
それにこのままじゃ駄目だと判断したのか御道は下がり、俺は追う。四基全てを推進に回し、右手の武装を連射型ライフルに持ち替えた御道の射撃を旋回機動で避けながら、こっちも端末での追撃をかける。
「……っ…いい加減、四基だけなら…ッ!」
「俺からの射撃もなきゃ、何とかなる?…甘ぇんだよッ!」
端末、それも四基のみなら、対応し切れない事もない…というのは俺も分かる。アニメで出てくる遠隔操作端末程自在には動いていないんだから、それなりに実力がある霊装者なら、見切りも出来るようになるだろう。
が、俺だってそれは分かっている。だから三基突進させたところで、今度は俺が接近を仕掛け…だが接近戦の距離に入る直前に、急上昇。射撃から逃げる動きを取り…俺自身を壁にする事で隠していたもう一基を、突撃させた。俺自身に注意を引かれ、射撃も上に向けてしまった御道は左の霊力剣を掲げるのが精一杯で…霊力の刃を発振した端末が、その突撃で剣を手から弾き飛ばす。
無論、それだけじゃ終わらせない。急上昇していた俺は直刀を一度空に放り、代わりに抜きはなった拳銃で上から追い討ち。手から落ちた霊力剣の柄を目で追えない(まあ夜なんだからどっちにしろ追えないだろうが)ようにし、撃てるだけ撃って投げ捨てる。落ちてきた直刀を再び掴み、御道の回避先へと急降下。
「はぁああぁぁぁぁッ!」
勢いそのままの斬撃で、御道の左腕のユニットを斬り裂く。逆の手の刀も振るう事で、当たりはせずとも反撃を封じ、その間に端末を回収。霊力の再充填をしながら、斬撃と打撃を交えた連続近接攻撃を仕掛ける。
「負けるかよ…まだ負けてないんだよッ、俺はぁああああッ!」
刺突をし、それを躱され、だがそこから腕を曲げて肘打ちへと移行する事によって、御道がもう一本の純霊力剣を引き抜いた瞬間そっちも手から落とさせる。大きく下がり、両手にライフルを握る形へと戻った御道に距離を取らせず、散発的な斬撃飛ばしをしながらも推力全開で追い掛ける。
もう諦めろとは言わない。まだ十分戦えるだけの装備があるのは勿論だが、言ったって止まらないと…感情の火に油を注ぐだけにしかならないと分かっているから。それに…今更諦めろなんて言葉をかけるのは、御道の本気へ対する愚弄。…そんな風に、俺には思えた。
「だとしても、勝つのは…俺、なんだよッ!」
こっちだって、ライフルと純霊力の刀、端末一基を失い、自分からだが拳銃を捨てている。まだ逆される可能性は、残っている。
だからこそ追い下がり、直刀を振り、ライフルの銃剣で受けた御道を弾き飛ばす。フルチャージは出来ていないが、勝負を決める為に端末四基を再展開し、四基全てを向けて放つ。同じタイミングで届くように、託された刀を振り抜き飛翔する斬撃も正面から打ち込む。
五方向からの、斬撃と端末による一斉同時攻撃。これでもう決まるかもしれない。そんな気すら心に抱きながら俺は放ち……されど、御道は超える。攻撃を、危機を…全力で以って、乗り越える。
「いッ、けぇええええええぇぇッ!」
両手のライフル、主推進器兼用の四門の砲、それに残るユニットの全砲門。その全てを用いて、今一度見せる一斉掃射で、真っ向から御道は超える。大出力の砲撃で斬撃を飲み込み、乱射による面制圧で端末を全て撃ち落とし、避けるでも防ぐでもなく、真正面から迫る攻撃を全てを打ち砕く。
砲門が減っている事を加味しても、大した一斉掃射…本当に、大した霊力量と、それを最大限活用した戦い方であると、俺は思う。だから、だからこそ……それを大きく注ぎ込んだこの瞬間に、俺も残りの力をありったけ懸ける…ッ!力の全てを、叩き込む…ッ!
「御道ぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!」
「千嵜ぃぃぃぃいいいいいいいいッ!!」
斬撃と端末を蹴散らしても尚止まらない全開攻撃の中を駆け抜け、一閃。回避も防御も一切合切を許さず、突き出した直刀で左上部の砲を貫く。続く一太刀、左での斬撃で右側の砲の両方を斬り裂き、右側へと回り込みながら引っ掛けるようにして脚のユニットも破壊する。
俺が直刀を振り抜いたのと、御道が掃射を止めて同じように左のライフルを振るったのはほぼ同時。直刀と銃剣がお互いの渾身の力と共にぶつかり合う形となり…一瞬の激突の末、どちらの刃もへし折れる。だが俺は止めない。折れた直刀をそのまま振るい、ユニットを次々と壊した末に御道の主推進器、その最後の一つへと突き立て、そのまま手放す。空いた右手で御道の右のライフルの銃身を掴み、左の刀でそのライフルも破壊する。火器としての機能は残っていた左のライフルを放たれ、その射撃でこっちのスラスターも大半が駄目になったが…裏拳をぶつけて、最後に残ったライフルも御道の手から落とさせる。
こっちに残ったのは、託された一振りのみ。御道は、まだ護身用の武器を残しているかもしれないが…今見えている武器は、もう何もない。ユニット各部の砲も、きっとあっても後数門だけ。お互いまともに飛ぶだけの推進器はもうなく……それでも御道は諦めなかった。俺も、まだ止めなかった。身体を振るい、捻り…期せずして、お互いに蹴りを振り出し放つ。
「ぁぁぁぁああああああああああッ!」
「ぉぉぉぉおおおおおお……──ッ!」
多分、互角だった。もう技術なんてなく、ただただ気力と根性だけで放った一撃だったから、その時点では優劣などなく……だが、最後まで振り抜けたのは俺の方だった。御道は激突の最中、不意に表情が歪み、力が鈍り…それが、勝敗を決する事となった。
落ちていく御道。追う形で落下する俺。何とか残りのスラスターで減速は出来そうな俺と違い、完全に御道は落ちていき……俺は、手を伸ばす。思考はせずに、戦闘における判断も微塵も介さず…考えるより先に、手を伸ばしていた。伸ばし、掴もうとし、指が御道に触れかけて……
────その瞬間だった。地上から…地下空間のある方向から、神々しいまでの光が、真白き光の奔流が天へと駆け昇り……奇跡が、顕現したのは。