双極の理創造   作:シモツキ

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第三十五話 圧倒的な差

俺と千嵜は一年以上の付き合いで、高校からの友人の中じゃ一番やり取りをしているであろう相手だが、これまで特に衝突する様な事は無かった。それは俺が(自分で言うのもアレだけど)人を不快にさせない様言動を気を付けられているというのもあるし、千嵜が自分が人付き合いがあまり得意じゃないと自覚してるなりに注意を払っていたからというのもあるだろうけど……やはり一番の理由は、良くも悪くも俺達が互いに踏み込んだ話をしない、表面的な間柄だったからなんじゃないだろうか。

別に俺と千嵜が薄っぺらい関係だったって言いたい訳じゃない。友人というのは作る事にも減らす事にも制限なんてないし、どちらにせよ家族や仕事仲間よりも難度が低いからそれ等の関係より軽くなるのはある意味仕方のない事で、密接な関係はそれはそれで大変なのだから軽くても間違いじゃないと思っている。実際、そういう軽さがこれまでの俺達にとっては丁度良い距離感だった。……だからこそ、痛感する。俺と千嵜は……本気で踏み込む様な話をする様な関係では、無かったんだと。

 

「……くっそ…」

 

装備を身に纏って、異変や不調が無いか確認して、外へと向かう。ムシャクシャする、ムシャクシャする、ここ最近では最高潮にムシャクシャする。その原因は…さっきの千嵜とのやり取り以外にある訳がない。

 

「…あー…クソッ!」

 

ばりばりと乱暴に頭を掻いた後、その手を裏拳を放つ様に思い切り振るう。勿論近くに敵がいた訳ではなく、それは単なる八つ当たり。……人どころか物理的な物質ですらない『空間』にするのを八つ当たりと言うのかどうかは知らないが。

 

「…………」

 

千嵜との会話で、初め俺は千嵜が俺の身を案じてくれているんだろうと思った。だから千嵜を安心…させる事は出来ずとも、そこまで心配する必要はないという事を伝えようと思って返答していた俺だったけど…段々と千嵜は言葉が刺々しくなっていった。それだけならまだこっちも多少むっと思う程度で済んだんだろうが……千嵜は、俺を否定した。俺を自身とは違うんだと、並み居る大勢の内の一人の様に言ってきた。それを聞いた瞬間……俺の怒りは一気に最高潮へと達した。だってそれは俺にとって、最も不快で最も言われたくない、夢と今俺が歩み始めている道に対する否定なのだから。

 

(…思い出しただけでもイライラするな…今はこんな事で心乱してる場合じゃないってのに……)

 

ついカッとなって立ち去った俺だが、今ここが置かれている状況を忘れたりどうでもよくなったりはしていない。だから戦闘準備をして移動している訳で、戦う気は相変わらず満々のまま。けど…今の心境じゃ、これから戦闘に集中出来るか怪しい。とにかく一旦気持ちを切り替えないと…。

 

「……っと、扉が開いてる…?…ここから出てるって事、か…?」

 

廊下を早足で歩く最中、俺は開きっ放しの非常口を発見。非常口というのは平常時には開けられる事がないからこその『非常』口であり、今この状況で外に繋がる扉が開きっ放しになってる理由なんて一つしか思い浮かばない。

よし、と軽く頬を叩いて気持ちを切り替え…たつもりで非常口へと向かう俺。腰に吊るした縮小状態のライフルを左手で抜き、非常口を潜って外へと────

 

「……ッ!?」

 

……その瞬間、空気が変わった。無論それは比喩表現で、実際に大気の化学組成が変わっている訳ではないけど…確かに、変わっていた。分かり易いところで言えば、先生や上司が怒っている際の部屋に入ってしまった時の様な、しかしそれとは比べ物にならない程に強く鮮烈な戦場の雰囲気。もし初陣の時の俺なら後退りしてしまいそうな空気が、環境が外には広がっていた。

 

「……っ…落ち着け、俺…ここでビビって呆然としてたら、それこそ千嵜の言った通りだろうが…!」

 

自身にそう言い聞かせ、周囲に視線を巡らせる。まずは魔人の場所を…と思っていた訳だが、それはほぼ一瞬で分かった。何せ視界に映る全ての霊装者が、霊装者達が放つ射撃の飛ぶ先が、空中のある一点を向いていたのだから。

空中にいるのは、ゆらゆらと揺らめく靄の様なエネルギーを纏った人型の存在。その存在へと光実織り混ざった射撃が襲いかかるが…それ等の多くは靄に止められ、残りも回避されてただの一発足りとも直撃へは至っていない。もうそれを見るだけで、その存在が…魔人が別格の強さを持っているのだとよく分かった。

 

「…やるだけやってやるさ……」

 

背負った二門の砲を稼動させ、砲口の先を魔人へ向ける。 あんな強さの魔人に俺が敵う事なんて万に一つもないだろうが…別に俺一人で戦う訳ではないし、そもそも情報を聞いた時点でそんな事は分かっていた。だから俺は邪魔にならない様支援射撃が出来れば、それで十分。

砲へ霊力を集中させ、いつもより入念にエネルギーを収束させていく。魔人が攻撃に対する防御行動を取っているという事はつまり、霊装者の射撃があの魔人にも通用するという事で、それならば俺の攻撃も最低限防御なり回避なりの手間を取らせる程度の意味を持てる可能性が高い。そしてその通りなら、俺がこの戦いに参加した意味は…間違いなく、ある!

 

「いけ……ッ!」

 

最大出力で、今の俺が出来る最大収束で霊力の光芒を放つ。それは脆い魔物なら一射で貫通、そうでなくともしっかりとダメージを与える事の出来る、砲のサイズに見合う高火力の一撃。その一撃が、真っ直ぐと伸び魔人の背へ……

 

「……ちっ…」

 

──届く直前、振り向いた魔人の靄によって二条のビームは四散した。そして四散したビームもまた別の靄にぶつかり消えるか魔人のいない方向へ飛ぶかで直撃には至らなかった。

砲撃を防がれた時点で非常口前から飛び退いた俺。攻撃をするという行為はその攻撃の発生方向を相手に伝えるという事で、反撃を喰らわない為にも攻撃した後棒立ちしていてはいけない…と、俺は教えられた通りに動いたものの、魔人は反撃をしてこないどころか俺の方へ目をやる事すらしてこない。

 

「…わざわざ意識する程の相手でもない、ってか……」

 

悔しい判明標的にされなかった事にほっとした俺は飛行速度を大きく落とし、砲がブレない程度の動きで移動しながら再度霊力をチャージしていく。最大出力でも防御されるとなれば、あまり連射には向いていないとはいえ単発の威力よりも手数を増やすという選択肢の方が一見有益そうだけど…手数云々で言うと、既にこの魔人はほぼ全方位からの攻撃を捌き続けている。そんな奴相手に多少砲撃回数を増やしたところで意味なんてある筈がなく、だったらこのまま威力を維持した方が良いだろうと俺は判断した。

チャージと同時に立ち位置を変え、現状比較的靄の薄い場所を狙える場所に移動したところで再度砲撃。その攻撃には今度こそ、とほんの少し期待を込めていたものの…やはりこちらも防がれてしまった。

撃って、防がれて、移動して、また撃って。そんな単純故に焦れったい行為を繰り返す事数度。俺は魔人のある事に気付いた。

 

「……どういうつもりだ…?」

 

霊力チャージは忘れずに行いながら、俺は一時狙いを付ける事を止め視線を周囲へ。その数秒後、物陰に移動し弾倉の交換を行っている一人を発見しその人の近くへ移動。

 

「すいません!あの魔人、これまでに攻撃をする素振りを見せましたか!?」

「あぁ?急になんだ!?……ってんな事はどうでもいいか…見せてないな」

「やはりですか…」

 

俺は数度砲撃を行ったが、一度も反撃をされる事は無かった。最初の一撃の時は気にもしていないからだろうと思って、その後は俺以外にも敵は沢山いるから偶々これまで俺が狙われなかっただけだと思った。……が、改めて魔人を見てみた結果、気付いた。俺に対してだけじゃなく、どの霊装者に対しても魔人は攻撃をしていない、と。それはどう考えても、まぁいいや…で済ませられる事じゃない。

 

「やはり?…そういやさっきから奴は攻撃してきてないな…」

「何か、意図があるんでしょうか…」

「さぁな。もしかすると攻撃吸収系の能力かもしれん」

「え……じゃあ、無策に撃ち続けるのは不味いのでは…?」

「そうとも限らないぞ?許容限界があるならむしろ撃ち続ける事こそ撃破に繋がるだろうし、そうでなくとも攻撃してこないってならそれは間違いなくこちらの利だ。少なくとも…ここであーだこーだ想像膨らませてるよりは動いた方がいいに決まってる!」

 

そう言って彼は物陰から離れ、魔人への攻撃を再開する。…あーだこーだ想像膨らませてるよりは動いた方が、か……。

 

「…確かにそりゃそうだ…!」

 

後を追う様に俺も物陰を離れ、充填しておいた霊力を砲撃として叩き込む。今の会話じゃ俺の気付きに確証が持てただけで、何か変わった訳でもなんでもない。…が、それなら…いやだからこそ撃てる時に撃つべきだろうと彼の言葉に同意した俺は、砲撃を続けるのだった。

 

 

 

 

魔人が一切攻撃せず、形の上ではこちらが一方的に仕掛け続ける時間が十数分程続いた。最初の爆発の後すぐ戦闘が始まっていたとすれば戦闘開始から既に数十分が経っていると予想出来る。一向に直撃をさせられないまま、ただひたすらに撃ち続ける時間が過ぎて、油断こそ無いものの段々緊張感が緩み始めたところで……状況が動いた。

 

「……この程度か」

 

射撃の音に紛れる様に、しかしはっきりと聞こえたその声。そして次の瞬間、魔人の放つ靄が一気に広がり……迫り来る射撃を全て飲み込んでしまった。

 

「な……っ!?」

「悪くはない。…が、悪くはない止まりとはな」

 

それまでとは範囲も密度も違う靄に、その靄に攻撃が纏めて潰されてしまった事に驚く俺達霊装者。そこで再び声が聞こえ…その声の主が魔人である事を、俺達は理解した。

 

「奴等はいないのか、それとも温存しているのか…何れにせよ、有象無象の能力がこの程度なのであればこれ以上観る必要もない」

「な、なに…奴は何を言っているの…?」

「この程度だと?野郎、舐めた事言いやがって…」

 

どこか試す様な、そして下に見ている様な魔人の言葉を受け、味方に多少ながら騒つきが生じ始める。端からまともな成果を上げられるとは思っていなかった上に参戦も遅い方だった俺はともかく、味方の中にはこの戦況を焦ったく思っていた人もそこそこいるようで、そんなところに不遜な言葉を投げかけられればその人達が苛つくのも仕方のない話。……けど、ここで戦っている人の多くは未成年でもなければ素人でもない。

 

「各員落ち着け!確かに奴は未だ致命傷を負ってはいないが、こちらの攻勢により防戦一方となっていたのは事実だ!故に我々が心を乱す必要はない、各員攻撃を再開せよ!」

『了解!』

 

周囲の味方よりも一段高い高度に飛び上がり、声を張ったのは恐らく警護部隊の隊長。その人は魔人が次の言葉を発するのに先んじる事でヒートアップしそうになっていた味方を制し、その流れで攻撃続行を指示。同じく警護部隊所属らしき方達がその指示に真っ先に反応し、半月状の隊列を組んで射撃再開。そして隊長の言葉と警護部隊の動きに感化される事で他の霊装者も後に続いていく。

 

(…って、ぼんやり眺めてる場合じゃねぇ…)

 

突然の戦況変化と言葉を発した魔人、それにより乱れた味方の空気を素早く立て直した警護部隊という目まぐるしい動きに状況を忘れ、俺はしばし「わぁ凄ぇ…」なんてお客さん感覚で傍観してしまっていた。何をやってるんだか俺は…。

 

「…というか、よくよく考えてみればその内綾袮さん達が戻ってくる筈なんだ。それまで抑えればこっちの戦力は跳ね上がるんだから、やっぱり今は攻撃し続けるのが最善の策…!」

 

魔人の拠点を潰して帰ってくるのか、こちらの強襲作戦を中断して戻ってくるのかは知らないけど、ここが強襲作戦に向かった人達の本拠地なんだから戻ってこない訳がない。そう考えれば気も楽じゃないか。今ここに居る人達と協力して、俺自身も出来る限りの行動をして、それで部隊が戻ってきたらその人達共協力すれば、この魔人もきっと倒せる。勝利の可能性が確かに見えているんだから、今はそこに向かって行動を続ければ────

 

 

 

 

 

 

「……散れ」

 

 

「え…………?」

 

撃とうとした瞬間、再び靄の範囲と密度が増した。靄が膨張する様に、まるで鳥が翼を開くかの様に広がったその、一人の霊装者がきょとんとした様な声を上げた。声を上げて……血飛沫と共に、落下していった。

 

『……──ッ!?』

「次だ」

「……っ…貴様…ッ!」

 

落下していくその人の前に立つ(空中にいるから立つというより浮くというべきかもしれない)のは、ほんの一瞬前まで靄の中心にいた筈の魔人。魔人がそこまで移動する姿こそ俺は…大半の霊装者は見逃してしまったが、この状況が奴によって引き起こされたのは火を見るよりも明らかな事実。だからこそその場にいた全員が目を見開き…その内の一人が、弾かれた様に抜剣して魔人へと向かっていった。……だが、その人も次の瞬間には返り討ちに遭い、最初の人の後を追う様に落ちていく。

 

「は、速い……ッ!」

「今までほんとに手を抜いていただけっての!?」

「ちぃ…狼狽えるな!慌てたところで奴が付け入る隙を増やすだけだ!」

「そ、そうは言いましても隊長…この動きでは…!」

「ならば…私が奴を止めるッ!」

 

殆ど同じ場所から動かず防戦をするのみだった先程までとは打って変わって縦横無尽に飛び回る魔人。これまで俺が戦ってきた魔物とは一線を画す速度で動き、辻斬りが如く進路上付近の霊装者を次々と薙ぎ倒していくこの様子にこちら側は完全に動揺してしまい、魔人の圧倒的能力も相まってまともな迎撃が出来ずにいた。そして俺と言えば…その光景に圧倒され、ぼんやりとどころか完全に傍観者となってしまっていた。魔人からすれば俺もまた、敵の一人なというのに。

そんな中、芯の通った声と共に魔人の行く先へと割り込んだ一人の霊装者。それは、ついさっきも声を上げた警護部隊の隊長だった。

 

「…ほぅ…貴様は有象無象とは少し違う様だな」

「舐めるなよ魔の者。私は警護部隊隊長、拠点を守る部隊の長が弱いとでも思っていたか?」

「確かにそれはその通りだ。…だが、いつまで持つのだろうな」

 

接近と同時に抜刀した警護部隊隊長さんは、その刀で魔人の突撃を受け止める。靄を纏った腕と刀がせめぎ合う中両者は数言会話を交え、そこから近接戦闘へと移行した。

 

「さ、流石隊長…奴を一人で押さえ込んでやがる…」

「い、いや待て…あの動き、隊長は既にフルスロットルなんじゃ…」

「だったら、私達も手助けしないと…!」

 

ここからじゃ遠くて細かな様子は分からないが…どうも隊長さんは魔人と互角というより出し惜しみ無しの全力で何とか動きに食らい付いている…という状態らしい。それでも俺や対応出来ずにいる人達に比べれば凄い訳で、間違いなくこの隊長さんは実力者なのだろうけど……危機的状況だという事は、一切変わっていない。実際それは隊長さんの部下らしき人達による援護射撃を受けても魔人の動きが鈍らない点からして明らかな事。

そして、ここにきてこちら側の問題点が露見した。

 

「えぇい、とにかくこっちは数で勝ってるんだ!とにかく物量を叩き込めば…!」

「そうだ!警護部隊に続くぞ!」

「……っ…待て!それでは奴の思う壺…ぐぁッ!」

「残念だったな、部隊長。数は力となるが…その力は統率あったのものだ」

「……っ!隊長ッ!」

 

警護部隊に続かんと火器を構え直し、反撃行動に出た警護部隊と魔人周辺の霊装者。相変わらず傍観者状態の俺よりずっとその人達は立派だけど…隊長さんと魔人による超高速戦闘の中で、同部隊所属故に統率が取れ互いの動きも分かっている警護部隊だからこそ何とか援護が出来ている中で、そのどちらにも届かない寄せ集めの部隊による攻撃は、残念ながら力にならないどころか警護部隊の邪魔になってしまった。

掌に靄を収束させ、弾丸の様に放った魔人。それを咄嗟に察知し魔人と狙われた霊装者の間に割って入った隊長さんが斬り払ったが…それこそが魔人の目的。隊長さんが迎撃の為に力を割いたその一瞬を突き、一撃で魔人は隊長さんの刀を弾き飛ばしその胴を斬り裂いた。

同時に斬り裂かれたのかライフルの銃身が明後日の方向へ飛んでいく中落下していく隊長さん。……それは、いよいよもって霊装者側の戦線が崩壊する事を意味していた。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!」

「くそ…くそがッ!」

 

再び霊装者を狩っていく魔人を前に、一人、また一人と落ちていく。まともに動けずにいる者、何とか状況を立て直そうと声を上げる者、果敢に立ち向かう者…それぞれの反応を見せる霊装者を、それこそ『有象無象』と嘲笑う様に魔人は倒していく。そして次の瞬間……俺のすぐ近くに、一人の霊装者が落下した。

 

「あぐッ……ぅ…」

「…あ……だ、大丈夫ですか…?」

「お、れの事は…気に、すんな…それより…奴、を……」

 

すぐ近くに人が落ちてきて、やっと自分も傍観者ではなく関係者である事を思い出した俺。初めて大怪我をした人を間近に見て動揺しながらも言葉をかけると…その人は、荒い息を漏らしながら魔人を指差した。……その人の指は、その人の瞳は、訴えかけている。奴を…魔人を討ってくれ、と。

 

「……ッ…ぁぁぁぁああああッ!」

 

弾かれた様に飛び上がり、ライフルと砲を放ちながら飛び回る魔人へと突進する。そうだ、何をやってるんだ俺は。俺は戦う為にここに来たんじゃないか。やれる事があると思って、ただ隠れているだけじゃ嫌だと思って戦う事を決めたんじゃないか。だったら、今戦わないで…立ち向かわないでどうするというんだ。

 

「こ、のぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

火器を乱射しながら追いかける。致命傷なんて望まない、英雄的な戦果なんて最初から出来ると思ってない。ただそれでも、何もせず終わる事だけは嫌だ。少しでもいい、僅かでも構わない、だからどんな形でも俺が戦った意味を作り出させれば、それだけで……

 

「────え?」

 

……気付けば、俺は衝撃と共に吹き飛んでいた。何がどうなったのかは分からない。ただ、魔人が方向転換して、それまで追いかけていた魔人が反対に向かってくる形となって…いつの間にか、吹き飛んでいた。

斬り裂かれた、或いは抉られたかの様な痛みはない。何かを損失した感覚もない。そこから予想出来るのは……魔人が纏う靄に交通事故が如く跳ね飛ばされた、という可能性だけ。

 

(…何だよ…何なんだよこの強さ…これが、魔人だって言うのかよ……ッ!)

 

悔しいとか怖いとかではなく、最早意味不明として言い様のない差に歯噛みする。そうして吹き飛ばされた俺に激突の衝撃が走るのは…それからすぐ後の事だった。

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