双極の理創造   作:シモツキ

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第三十六話 舞い戻る者達

吹き飛ばされた俺が落ちたのは、何と木の上だった。木は天然のクッション…って程柔らかい訳じゃないけど地面やアスファルト、建物や車両なんかに比べるとずっと落下した際の身体的ダメージが小さく、それが大怪我を負うかどうかの境目となる事もある。実際転落事故でも木の上に落ちたおかげで一命を取り留めたなんて話がある位には木の衝撃吸収(分散)能力は凄いのだから……そんな木の上に偶然にも落下した俺は、相当な幸運に恵まれたとしか言い様がない。

 

「痛た…うぇ、口の中に葉っぱが……」

 

ぺっ、と口内に迷い込んだ葉を吐き出しながら身体を起き上がらせる。口の中には苦い味が広がっているし、外気にそのまま肌を晒している手や顔が木の枝に引っかかる事で出来た切り傷がひりひりしているが…後数m違う所に落ちていたら良くて大怪我、悪くて即死だったと考えればそんなの全く気にならない。……最も、まだ安心出来る様な状況じゃないけど。

 

「奴はどこ行った…」

 

首を回して魔人を探す俺。するとものの数秒で空中を疾駆する魔人を見つけ、俺の思考はさてここからどうするか…という段階に移行する。

危うく死ぬところだった俺は、勿論その事に恐怖を感じてはいるし元々1%あるからどうかだった勝ち目への希望はいよいよもって風前の灯火になっている。……けれど、不思議と怖気付いた気持ちにはならなかった。

 

(…いや、作戦なんか立てたところで通用する訳ないか…それより、このままじゃ…このままじゃ無意味にやられただけだ…)

 

冷静、というのとも少し違う。一応しっかりと思考は出来ているし、状況把握も行った。恐怖に駆られたり、怒りに我を忘れてたりもしない。……それでも、後から考えるとこの時の俺は普段通りじゃなかった。上手くは言えないけど、何か衝動に後押しされている様な…そんな状態だったと思う。

 

「……肉薄だ。あの速度じゃ当てる事自体が難しいんだから、とにかく近付かないと始まらない…」

 

装備が破損していないかを確認した後俺は浮上。目的を撃破から部隊帰還までの時間稼ぎにシフトした事で何とか戦闘の定を取り戻した味方と魔人が激突する中、俺は再び砲に霊力を充填させていく。速度も反射神経も、とにかく殆どの能力が俺は魔人に劣ってるんだ。だから闇雲に攻める訳にはいかない…。

 

「…………」

 

タイミングを待つ。待ったところで絶好のチャンスなんか恐らく来ないけど、それでも仕掛けるなら比較的マシな状態で攻めた方がいい。魔人は俺を意識している様子はないから、その数少ないアドバンテージを少しでも活かせる様に……

 

「……っ!今──ッ!?」

 

感覚的に「ここだ」という瞬間に、スラスターを吹かそうとした瞬間に、魔人へと近接格闘を仕掛けていた霊装者が、まるで俺へと突撃してくるかの如く一直線に吹っ飛んできた。

咄嗟にその場から後退し、一瞬の余裕を作った後に胴と空いている右手でその人をキャッチ。当然ながら攻撃の機会を自ら潰す形になったけど…さっき俺は危うく死ぬところだったんだ。この人も地面や建物にぶつかるかもしれないって考えたら…避けられる訳があるかよ……。

 

「うっ……け、結構衝撃が…」

「……っ…す、すんません。助かりました…」

「い、いえ……はぁ?せ、千嵜…?」

「……おぉう…」

 

周りの霊装者については顔や姿をよく見てはいなかったし、吹っ飛んできてる相手をじっくりと眺める余裕なんて微塵もない。だからまぁぶつかってから気付くというのは仕方ないと思う。…それはいいんだけど……

 

 

……日に二回も偶然友人にぶつかる(ぶつかりかける)なんて事ありますかね普通…。

 

 

 

 

御道をキレさせてしまってから数分後。一先ず今はやるべき事があるだろうと考え外へと出た俺は、警護部隊及び緊急出動をした面子に混じって対魔人戦に参加した。

魔人の攻撃、反撃が妙に薄い事を不審に思いつつも射撃をかけていたのが少々前。一転して攻勢に出た事に驚きつつ反撃を試み…たものの思いっきり空振ってたのがほんの少し前。そして今、吹っ飛んだ俺は……御道に助けられていた。

 

「……え、と…」

 

…気不味い。大変気不味い。これまでにも気不味い出来事なんて幾らでもあったが、今回の事は気不味い出来事ベスト5にも確実に入るレベルなんじゃないだろうか…って位気不味いのである。キャッチしてくれた事は助かったが、これならスルーしてくれた方が……いや流石にそれはねぇか。うん、助けてくれた事はほんとにありがたい。…まぁだからこそ余計気不味いんだが…。

 

「あー、えと…そのだな…」

「……今は余計な話してる場合じゃないでしょ。命懸かってるんだから」

「そ、そうだな…分かってんじゃねぇか…」

 

まさか御道が言う側になるとは…とは思うものの、それは紛れもない事実。さっきの事を後回しにしたい訳じゃねぇが、今はそれより考えなきゃいけない事、やらなきゃいけない事がある。

 

「そりゃ分かってるさ。俺だってみすみす死にたくはないからね」

「そらそうだわな…」

 

御道から離れた俺は空中で体勢を立て直す。さて、普通に戦ってもまるで歯の立たない奴に一太刀入れるにはどうしたら……と策を練ろうとしていたところ、隣の御道が突進をかける様子を見せる。

 

「…って待て待て待て!ちょっ、待てや御道!」

「うおわっ!?あ、危なっ!いきなり腕引っ張るなよ!?」

 

動き出した瞬間に俺が腕を掴んだ結果、ガクンとつんのめる御道。

 

「引っ張ってねぇよ、掴んだだけだ」

「そんな細かいところはどうでもいいわ!」

「さいですか…お前その装備で突っ込む気かよ。近距離じゃ大型砲はかなりのデッドウェイトになるぞ?」

「別にゼロ距離射撃しようってんじゃないよ。…いや…これだけの実力差があるんだ、ゼロ距離射撃する位の心持ちじゃなきゃまた跳ね飛ばされるだけか…?」

「…お前……」

 

圧倒的な力を持ち、現に無双状態と言っても過言ではない程の大立ち回りを見せつけている魔人…らしき存在。対して御道はつい先日まで戦いとは無縁だった、どう考えても普通の人間(霊装者だが)。だと言うのに、御道からは気圧されている様子が全く感じられない。俺の予想よりもずっとこの短い間に戦闘を経験してきたのか、一般人離れした精神力を持っているのか、それとも何かが欠落しているのか……ただとにかく、御道は実戦慣れしていない新人…とは呼べない事だけは確かだった。

 

「…折角大仰な砲があるんだから、お前は距離取っての射撃に専念してろ。じゃなきゃ宝の持ち腐れなんだよ」

「そうは言ったって、この状況でちまちま撃つだけじゃ意味は…」

「意味はある。例え楽々対処出来る様な攻撃でも、何度も何度も仕掛けられりゃ少なからず意識は割かれるものなんだよ。人間ちょっと強いだけの風は幾ら受けたって怪我しねぇが、だからって気にならないなんて事はないだろ?」

「…そっか、言われてみれば確かにそうだ…」

「そういう訳だから、変に焦って前に出ようとする必要はねぇよ。……それと、御道」

「…ん?」

「…受け止めてくれて助かった、感謝するよ」

 

去り際の言葉の様にそう言って、俺は再び奴へと向かっていく。後ろから「いやお前は突っ込むのかよ!?」…と聞こえたが、遠距離戦寄りの装備を持つ御道と近接戦寄りの武器構成をしている俺じゃ戦い方も違うんだからそれは当然の事。それに…昔から俺は、敵に向かって突っ込む事ばっかりしてたしな。

 

「ふ……ッ!」

 

相手の動きに合わせて先回りし、先程短時間ながら一対一で相手をしていた警護部隊隊長の様に正面から受け止め…ようとしたが、いとも簡単に弾き飛ばされてしまった。案の定、俺とさっきの隊長とじゃ経験はともかく能力が全然違うらしい。…やっぱ多少は関連しておいた方がいいかもしれないな…。

 

「まだまだ…!」

 

今度は自力で姿勢を立て直し、再度接近をかける。またもや能力の差で門前払い状態の俺だが、ぶっちゃけそっちの方がありがたい。だって吹っ飛ばされるだけなら、奴の動きを見る余裕が出来るからな。

しぶとく仕掛け、その度に吹っ飛ばされるを繰り返す事数回。衝撃で少しずつ身体の節々が痛くなってくるがそれと引き換えに俺は奴の動きを認識していき、そして……何度目なのかはちょっと分からないが、とにかく俺は何度目かの接近で奴の突撃を受け止める事に成功した。

 

「何……?」

「……ッ…やっと届いたぜ…うおっ!?」

 

突撃を受け止めたのも束の間、奴が腕を振り抜いた事で残念ながらまた弾かれてしまった俺。だが、先程までとは違う。一瞬足りとも止める事が出来ずに返り討ちに遭うのと、一瞬でも動きを止められた後に返り討ちに遭うのとじゃ天と地程の違いがある。それに……奴は確かに驚いた様な声を漏らしていたし、な。

 

「いつまでもやられっぱなし、ってのは癪だからな…そこだッ!」

 

それまでは気にも留めていなかった奴も、一瞬とはいえ受け止めた事によって俺を認識する様になったらしく弾いた俺へと急接近をかけてくる。しかしそれを予測していた俺は敢えて姿勢を崩したままでいる事で衝撃をある程度流し、更に直刀の峰で奴手刀の軌道を逸らす事により攻撃を防ぎきった。

無論それは容易な事じゃない。実際俺はまともに攻撃するつもりの奴の攻撃を正面から受け止めるだけの能力はないし、ぶっちゃけ動きも完全に見切れている訳じゃない。…だが、奴が人型である事は俺にとって有利な要素だった。

人型というのは即ち自然と動きも人と似てくるという事で、大概の霊装者にとっては普段慣れてる対魔物ノウハウが通用し辛い分敵としての厄介さは増す。しかしながら俺は、これに該当しないどころかむしろその逆すらあり得る。何せ生まれ変わる前の俺は霊装大戦の最中に軍の霊装者部隊に所属していた人間で、その関係上対魔物よりも対霊装者…人の姿の相手と刃を交える機会の方が多かったのだから。さっき奮戦していた隊長に比べ俺は能力や魔物戦の経験は大きく劣っているだろうが、対人(型)に関しては同等かそれ以上だろうと俺は言えるし、だからこそ今の一撃も防ぎきる事が出来た。……が、それは同時に俺もまた経験でもって何とか食らいついているだけという事でもあった。

 

「……甘いな」

「うぐっ……!」

 

攻撃を逸らすと同時に俺は左手で短刀を引き抜き喉元へと振るったものの、短刀の刃は靄に防がれすれ違いざまに膝蹴りを打ち込まれる。今のは元々狙っていた一撃ではなく可能そうだったから一発引っ掛けておいた、という感じの蹴りで幸い大きなダメージにはならなかったが、このチャンスを取り零してしまった事は非常に痛い。

 

「貴様も少しは見所があるが、先程の奴には劣っている。よくその程度で我の前に出られたものだ」

「生憎何もせずやられるつもりはないんでね。ついでに言えば、俺は死ぬつもりもな……」

「鬱陶しい」

 

蹴られて真横に飛ばされる中、奴の攻撃は続く。一瞬今さっき同様一本で受けてもう一本でカウンター…なんて考えたが、奴の力はそれを許してくれる程緩くは無かった。奴のの攻撃は一撃一撃が重く、スピードも並外れているせいでカウンターどころか両手で直刀を持っていても防御すらままならない。だから結果俺は致命傷を回避するのが精一杯で、次々と攻撃を受けてしまっていた。

 

「げほげほっ…さ、最後まで言わせろよ…!」

 

掌底を直刀の腹で受けた俺は、その衝撃でもって吹き飛ばされる。吹っ飛ばされるのはもうこれで何度目だろうか。…まぁ何度目だろうがどうだっていいが。

俺が吹っ飛んだ先は双統殿の一角で、窓ガラスをぶち破りながら中へとイン。床を転がった後、更なる追撃に備える為跳ね起き直刀を構え直した俺だったが…奴が突入してくる事はなかった。

 

「……今ので仕留めたと勘違い…してる訳はねぇか…だとしたら、取るに足らないとでも思ってんのか…?」

 

用心しながら外へと顔を出すと、奴はまた別の対象へと向かっている。普通に考えれば仕留め損ない又は何らかの罠だと思うが…どうも奴からはここにいる霊装者を(俺含めて)格下扱いしている風に感じられる。…実際これだけの物量差があってさえ劣勢なんだから格下なのは間違いないが…ともかくそんな奴なら俺を確実に殺そうとはしてこないだろう。大方「死んでいればそれで良し、まだ戦えるならまた来た時に改めて仕留めれば良い」…って考えてんだろうな…。

 

「…こいつ、本当に魔人なのか……?」

 

致命傷ではなくとも放っておいたら貧血になってしまう、という事で俺は一先ず傷口を止血。同時に参戦した直後から感じ始め、奴の動きを見ていくに連れどんどんと増してきた違和感に一度向き直る。

奴は間違いなく魔物ではない。魔物とは段違いの動きにエネルギーの靄、人間の言語を理解し扱うだけの知性と完全に魔人の要素を兼ね備えていて、協会の方も奴を魔人と考えている。……だが、本当に奴は魔人なのだろうか?確かに魔人と言って差し支えないだけの力を持っているが、はっきり言って奴の強さは差し支えないどころか魔人の域を超えている様に感じる。例えば前に交戦した身体を伸ばす魔人は時宮一人でも十分に戦えていたが、今いる奴は時宮程じゃないものの現代は勿論大戦時の俺の先輩達と比較しても互角かそれ以上の力を持つ(様に見える)警護部隊隊長相手にすら優位に……しかも固有能力を使わず立ち回っている。…まぁ、奴の固有能力が不可視なタイプだとか戦闘には一切役立たないタイプだとかの可能性もあるが…何れにせよ、恐らく全力ではない状態でここまでやってのける奴が魔人なら、俺の知識や前の魔人はどうなるんだって話。だからもし、魔人に対する俺の認識が正しいのであれば、奴は魔人ではなくそれ以上の存在──

 

「……っておいおい何やってんだよあの馬鹿は…!」

 

…と、そこまで思ったところで俺は部屋から飛び出し戦線に復帰した。

推進器を吹かして上昇し、左手に持った突撃銃で弾丸をばら撒く。その目的は……何故か奴との距離が縮まっている御道が狙われない様にする為。

 

「お前、何前に出てきてるんだよ!そんな装備しておきながら接近戦してみたいのか!?」

「うっ……わ、悪い千嵜。助けられそうな範囲にいる人達の援護をしてたら少しずつ前に出ちゃったみたいで…」

「出ちゃったみたいで…じゃねぇっての…。御道は奴相手に自分の身をきちんと守るだけの力があるのか?無いんだったら安易に援護に向かおうとするんじゃねぇよ。無事援護出来たならそりゃ喜ばしい事だが、逆に援護に失敗してそいつどころか自分までやられたらどうする?狙われてなかった自分までやられたんじゃそれこそ洒落にならないだろ…」

「それは……そう、だけどさ…」

「八面六臂の活躍をするのはエースだけでいいんだよ。そうじゃない奴は変に何でもしようとするんじゃなく、自分の役目に全力を尽くす事こそが味方の為になるんだ。お前も今も俺も、エースじゃないんだからよ」

 

今交戦してる中じゃ比較的自分は狙われ易いだろうと思い、俺は御道から離れる。離れながら……よくもまぁ言ったもんだぜと自嘲的な気分になった。自分はエースじゃないと言いながら、俺は御道へ助けに入った。他人には自分の役目に専念しろと言いながら、自分はその役目を外れて(そもそも役目を与えられて参戦した訳じゃないが)援護なんかしている俺の行動は完全に『人のふり見て我がふり直せ』じゃねぇかよと俺は自分に突っ込みたい。というか現に心の中で突っ込んでいる。全く、俺もしょうもない奴だぜ──

 

「戻るまでに随分かかったな」

「んな……ッ!?」

 

御道から離れた俺は突撃のタイミングを図ろうと……考えた時には奴が眼前に迫っていた。咄嗟に直刀を掲げて防御体勢を取ったものの、奴は手刀の軌道を自ら逸らす事で俺の防御を潜り抜け俺の顔へと腕を伸ばす。

最早回避は不能なその攻撃。だが俺は顔を横に傾ける事でど真ん中から貫かれる事を回避し、頬の表面を裂かれるだけで済ませる事に成功した。今のに関しては奴の狙いが肩や腰を含む胴体ではなく、一応は末端であり胴体よりは位置をズラし易い頭を狙ってくれたのが幸いだったとしか言いようがない。

 

(俺を狙ってたのかよ…ッ!)

 

何とか今の一撃は凌いだが、奴がその一撃だけで勘弁してくれる訳がない。思考も感覚器官もフルドライブで抵抗したって焼け石に水で、俺の傷は増えていくばかり。名も知らぬ霊装者の一人が果敢にも近接格闘で俺の援護に来てくれたが…その人は、片手間の様に奴の殴打を喰らって落ちていった。俺の為に来てくれた、恐らくは勇敢なその人の顔位確認したいというのに、奴はそれすら許さない。…一歩間違えば、俺や御道もああなってたんだよな…。

 

「…しぶといな。強いのは底力か、それとも生への執着か…」

「前者、と言いたいところだが…多分後者、だろうな…ッ!」

 

生まれ変わる前の俺は、今思えば本能的な部分を除いてあまり生への執着が無かった様に思えるが…今は違う。死にたくないとはっきり思うし、それ以上に死ねないと思っている。

俺は死ねない。生まれ変わって一般的な人生を送ったおかげで自分の命が安易に捨てていいものじゃないと分かったし、死んでしまったら恐らくは無念の内に死んでいった親父とお袋を更に悲しませる事になるし、何より緋奈が独りぼっちになってしまう。前に死にかけた時はどこか諦めてしまっていたが、死にかけた事で今の俺がどんな存在なのかと再確認出来た俺は、緋奈を独りぼっちになんて出来ない。時宮なら俺が死んでも緋奈を守り続けてくれると思うが、今の時宮じゃ俺の代わりになんて絶対なれない。そして、もしそうなってしまったら、緋奈は……。

 

(…死ねるかよ…終われるかよ…諦められるかよ……ッ!)

 

歯を食いしばって、持てる力の全てを振り絞って、一撃一撃が致命傷となり得る連撃に抵抗を続ける。抵抗する度数が増え、アドレナリンをもってしても感じる痛みに苦しめられるが、楽になろうとなんて微塵も思わない。俺は死ねないんだから。今死んだらどうしようもない位に後悔が残るんだから。

 

「…その程度の能力でよくここまで持ち堪えたものだ。貴様の精神力は評価に値する。…故に、その精神力の高さを誇りながら…散れ」

 

左腕で直刀を右腕毎弾かれ、手刀による突きが俺の胸元へと迫る。死の間際を表すかの様に視界に映る全てがゆっくりに見えて、それ故もう後退も、迎撃も、直刀による防御ももう間に合わない事がはっきりと分かってしまった。ミスをした訳でも油断した訳でもなく、ただ実力の差で押し切られたというだけの話。奴の言う通り、ここで散っても恥じる事はないだろう。……でも、やっぱり諦められない。

死ぬよりは片腕失った方がマシ。そう思って盾にしようと左腕を伸ばす。間に合ない様な気がするが、そんなの関係ない。腕を貫かれそのまま胸も…という事になりそうだが、そんなの知ったこっちゃない。確率がどんなに低かろうが、何ならゼロだろうが俺は諦めない。死ねないんだから。だから、だから俺は、だから俺は絶対…絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対諦める事なんか────

 

 

 

 

 

 

 

 

……その時、彼女は舞い降りた。あの時と同じ様に、舞い降りると言うにはあまりにも強い勢いで、しかし洗練された動きで彼女は空を駆け抜けていった。

寸前でそれを察知した奴は俺への攻撃を中断し、回避の為に後退。俺と奴の間に割って入る形となった少女に対して奴は攻撃を仕掛けようとしたが……その瞬間、更なる一撃が奴を襲った。鋭い軌道で奴の正面へと躍り出たもう一人の少女は横薙ぎを放ち、奴はもう一度攻撃中断からの後退を余儀なくされた。

 

「危ない危ない…ギリギリセーフって奴ね」

「今のは最高のタイミングだったね。…早く来れた方がもっと良いとは思うけどさ」

 

大槍を、大太刀を構えて奴と正対する二人の少女。──それは、魔人の拠点へ侵攻していた時宮妃乃と宮空綾袮その人だった。

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