双極の理創造   作:シモツキ

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第六十一話 勉強の仕上げ

別段県内トップの進学校という訳ではなく、受験なんてまだまだ先(人によっちゃ先の事じゃないと言うのかもしれないが)な時期であっても、テストの直前となればクラスの雰囲気も変わってくる。ピリピリ…ではないが、どこかそわそわというかドキドキというか、まぁテスト直前ですよー感のある状態が、今のクラスの中。……そんな中で俺は、きっといつも以上に浮いているんだろう。

 

「あー、やっべ…持ってくる教科書半分位間違えた……」

 

二時間目が終わった後の休み時間。二教科続けて教科書とノートがないという、地味に困る事態に陥った俺が鞄と机の中を確認してみると、間違っているのは先の二教科だけじゃないと判明した。…こりゃ入れ替えるべき教科書類と、二日連続であるから鞄に入れたままでいい教科書類を逆にしちまったな…。

 

「あーあ、やっちまった…ノートはともかく教科書はなぁ…借りたくても俺の場合、別のクラスに貸してくれるような友人がいないんだもんなぁ…」

 

もう言わんでも分かっとるわ、と言われそうな位に俺は友人がいない。作ろうと努力する訳でもなく、社交的に生きようともしてないんだから友人がいないのも当然っちゃ当然なんだが、それでもこういう時は悲しくなる。…小学生の頃はそれでも少しは友人がいた筈なんだが…。

 

「……うん、こういう面はマジで俺難のある人間だよな…」

「……いや、さっきから何独り言言ってんの…?」

 

……と、周りが「テスト不安だなー」とか「試験マジ勘弁…」とか考えてる中、一人ぶつくさと友人の少なさを嘆いていると…御道が面倒臭そうな顔で話しかけてきた。

 

「至らぬ己が身を憂いていたところだ…」

「そんな武人的台詞に合う内容じゃなかったと思うんですが…」

「俺にとっちゃ深刻な問題なんだよ。毛先がばらばらになった歯ブラシを変えるかどうか位にな」

「それ全然深刻な問題じゃねぇじゃん…食事の最中にふと思う程度の問題じゃん…」

 

何言ってんだこいつ感溢れる表情で突っ込む御道に対し、俺は突然真面目なトーンに切り替えて「歯ブラシの交換時期は大切なんだぞ?」…辺りの事を言ってみようかと思ったものの、御道の机の上にノートが開いているのを見つけて言葉を飲み込む。

 

「……テスト勉強、追い込みかけてんのか?」

「…まぁね。今やってたのは授業中に書ききれなかった分を書いてるだけだけど」

「なら俺に反応してる場合じゃないんじゃねぇの?」

「ならすぐ近くでぶつぶつ呟くなよ…反応してほしいのかと勘違いしたわ…」

「それはあながち勘違いでもないぞ?」

「…さいですか……」

 

俺自身はテスト勉強なんてやる気ないし、テストの結果にもあまり興味はないが、だからって他人のテスト勉強を邪魔してやろうとは微塵も思わない。……が、よせばいいのにまたボケてしまった。…御道はほんと呆れようが疲れようがしっかり反応してくれるから、ついボケたくなるんだよな…。

 

「…ま、そういう事なら悪かった。勉強続けてくれや」

「ならそうさせてもらいますよー、っと」

 

そう言うと御道は軽い調子で返答しながら勉強を再開。一瞬俺もやっぱり少しは勉強しようか…なんて思ったものの、次の瞬間には「やっぱいいや」となって勉強は断念。…勉強以外を頑張ってるんだよ、俺は。

 

(…真面目だよな、御道も妃乃も……)

 

ノートにシャーペンを走らせる御道を見ながら、ふと思う。教科によっては学ぶ事を楽しいと感じてるだとか、性格的に怠惰にはなれないだとか、それなりに理由はあるんだと思うが…こういう姿を見ると、やっぱり真面目だなと感じる。俺自身が不真面目な人間だから、自分はこんな風にはなれないと自覚しているから、尚更に。

 

「……なぁ、千嵜」

「ん?」

「千嵜はさ、テストで悪い点を取るんじゃ…って不安はないの?」

 

暫く(つっても数分だが)静かにシャーペンを動かしていた御道だったが、不意にそんな質問を投げかけてくる。…不安、ねぇ……。

 

「…前も言ったが、俺はテスト結果を報告しなきゃいけない相手がいないからな。点が良かろうが悪かろうが結果が何かに影響する訳じゃねぇんだから、不安にもならねぇよ。……留年の危険とかが出てきたら、流石に不安にはなるがな」

「そう……」

「…これを訊いてどうしたかったんだ?」

「…参考にしようと思ったんだよ。残念ながら参考にはならなそうだけど…」

 

少しだけ考えた後に、俺は問いに返答した。…参考ってのは、恐らく綾袮のテスト勉強の手伝いにだろう。テストの直前で不安になっているかもしれないから、気遣えるよう俺で情報収集…ってつもりだったんだろうが、現実として俺は殆ど不安じゃないんだから仕方ない。…けど俺もあんま宜しくないよなぁ、テスト結果なんてどうでもいいと思ってるのは。

 

「…お前は教師でも指導のプロでもないんだから、無理せず出来る事を頑張ればいいんじゃねぇの?相手は名家の娘なんだから、慣れない気遣いなんかしても見抜かれて気不味くなるだけだと思うぞ」

「……かもしれないね。助言助かるよ」

「これ位気にすんな」

 

俺が言いたかっただけなんだからよ、と心の中で呟く。まだ一年強の付き合いでしかない俺だから断定までは出来ないが…御道は善良な人間ではあっても、優秀な人間ではない。…いや…多分そこそこは優秀なんだろうが、それでも普通の域から出るレベルではなくて…そんな人間が安易な手を取っても、妃乃や綾袮の様な生まれからして人並み外れてる相手に通用する訳がない。…そういう事は、俺だって知ってる。

 

(…けど、普通な奴だからこそ出来る事、人並み外れてる奴より上手くやれる事だってある。……結局幸福ってのは、普通の中にあるんだからな)

 

一度教室を離れ、校内の自販機前へ。そこで紙パックのジュースを買い、戻った俺はそれを御道の机に置く。

 

「…頑張る少年に、お兄さんからこれをプレゼントしよう」

「え、いいの?」

「あぁ、利子は20%な」

「おう、ありがと……って金取るのかよ!しかも利子まであるのかよ!?悪どいなぁオイ!」

「はっはっは、これも世渡り術というやつだ」

「五月蝿いわ!要らんからな!本来の値段だけならまだしも、利子まで取るなら絶対要らんからな!」

 

本店は返品を受け付けておりません、とばかりに御道の言葉を流して席へと帰還。御道は俺へと送り返してこようもするも、そこでチャイムが鳴って教師が来た事で、真面目な御道はジュースを鞄へ。かくして御道は俺に恨めしそうな視線を送りながらもジュースを受け取る事になるのだった。……ったく、冗談を間に受けるなっての。

 

 

 

 

「顕人君、今日は何の勉強する?やっぱり明日の教科?」

 

遂にテストは明日になった。勿論一日で全部やるんじゃなくて、数日かけてテストをやるんだけど…これは別に深く説明しなくてもいっか。読んでる人も「一日目は何の教科だよ〜」とか教えられても何も嬉しくないよね。

 

「そうねぇ…まぁやる教科は明日のやつにしようか」

「敢えて今回テストの無い教科をやったりは?」

「そんな暴挙に出てたまるか…てかなんで自分で言っといて同意されたら覆すのよ…」

「えへへー、一ボケ入れておいてから勉強に入りたくて」

「じゃあこれまで毎度毎度ボケてたのはそういう事なの!?」

 

もう勉強もラストスパートという事で、わたしはこれまで言わなかった事を口に。うんうん、ここまで溜めただけあって顕人君いい反応してくれるなぁ。

 

「…で、内容は?もうここまで来たんだしなんだって頑張るよ?」

「…徹夜で詰め込みまくる、って言っても?」

「うん。ここまで顕人君は付き合ってくれたんだもん、それがベストだってなら出来る限りで頑張るよ」

「そ、そう…なんかごめん、しょうもない事言って…」

「大丈夫大丈夫。わたしだって今さっきボケたんだし」

 

顕人君はこれまで、雨の日も風の日もわたしの勉強に付き合ってくれた(室内なんだから関係ないだろって?ノンノン、それは言いっこなしだよ)。だから顕人君の言葉に乗ったんだけど…うーん、結果的には不味い形になっちゃったね。

 

「…じゃあ、今日は復習…ってかさらっとノートやプリントを見るだけにしようか。少なくとも新たにインプットするのは無しの方向で」

「それは今更インプットしても焼け石に水だから?」

「それもあるし、精神的なものもあるかな。これは分からないかもって気持ちになるより、これは確実に分かるって気持ちの方がモチベーション向上に繋がるでしょ?」

「成功体験、ってやつだね。OK、そうしよっか」

 

わたしは一度部屋へと戻り、明日の教科のセットを持ってリビングに帰還。最近は本来の役目をちゃんと果たしているノートを開き、早速テスト範囲の見直しを開始する。

 

「…テスト前日なんだから当たり前っちゃ当たり前だけど、今日はいつも以上にやる気だね」

「今日やらなかったら後はもうテスト前の休み時間しかやるタイミングないもん。流石のわたしも手を抜こうとは思わないよ」

「ま、そうだよね。俺もさっさと始めないと…」

 

同じタイミングで取りに行っていた顕人君もノートを開いて、わたし達はテーブルを挟んで向かい合ういつもの形に。普段はここから顕人君が教えてくれたり、わたしが自分から質問したりでそこそこ言葉を交わすんだけど……

 

「…………」

「…………」

 

今日は『学ぶ』じゃなくて『確認する』だから、いつもよりずっと静かだった。時々わたしが「あれ?」って思ったところを訊いてるから、全く会話がない訳じゃないけど…わたしにとっては、ちょっと違和感のある状態になっていた。

 

(ど、どうしよう…わたしとしてはもうちょっと会話があった方が集中出来そうだけど、さっきやる気見せた手前雑談なんて出来ないし……)

 

見栄を張るつもりはないけど、ふざけた訳でもない場面で悪評を受けるのはあんまり気分が良いものじゃない。だから、悪評を受けずにそれなりに会話をする為には勉強絡みの事を色々訊くしかなくて、でも今のわたしは勉強を頑張ったおかげでがっつり訊きたいレベルの部分は殆どなく……うぅ、努力がこんな形で裏目に出るなんて…。

 

「…………」

「…………」

「……あ、あのさ顕人君…」

「ん?」

「…やっぱ何でもない……」

「……?そう…」

 

ノートを頭の高さまで持ち上げて、文章や図を見直しつつちらちらと顕人君を見るわたし。なんかこれじゃ軽く怪しい人だけど…仕方ないじゃん!わたしは明るい場でこそ輝く人間だもん!いや人間だもの!

…と、段々集中力が切れ始めた頃……

 

「…そういえばさ、綾袮さんはどんな感じでテスト結果を報告するか考えてある?」

「へ……?」

 

かなり以外な切り口で、顕人君が話しかけてきた。勿論それはわたしにとってありがたい事だけど…思いもしない質問だったから、わたしは目をぱちくりさせてしまう。

 

「……その様子だと…全く考えないパターンだったり…?」

「あ…いや、そういう事じゃないよ?…しっかり考えてる訳でもないけど…」

「じゃあ、どんな感じに?」

「…用事で戻った時に、そのついでに見せる…とか?」

 

……実を言えば、しっかり考えてる訳でもないどころか「結果出たら見せに行かなきゃな〜」位にしか思ってなかったんだけど…そこはぼかしても許されるよね。…って考えながら質問に答えると、顕人君は腕を組んで考え込む。

 

「…何か不味かった?」

「いいや、不味くはないと思うけど…ほら、仮に点が良くてもこれまでサボってた事を勘付かれたらアウトでしょ?だから出来る限り違和感を持たれない、自然な感じで伝えた方がいいよなぁ…って」

「あ、そういう…」

 

わたしが勉強を頑張っているのは、これまでのだらけをバレないようにする為。だからテストで良い点を取るのは手段であって目的じゃないし、バレちゃったら全てが無駄になる。そういう意味じゃ、報告の方法も考えておくべきだと思うけど……

 

「……自然性を追求するならさ、対策を考える事自体が本末転倒じゃない?」

「それは…まぁ、そうっちゃそうなんだけど……」

「…わたしの場合、何も考えずにおくとどこかでヘマやらかすかもしれない?」

「……ぶっちゃけ、ちょっとそう思ってる…」

「…気にしなくてもいいよ、顕人君。…わたしもそれは否定出来ないから…」

 

それなりの点を取れたわたしが、調子に乗って余計な事を言った結果バレてしまう…なんて光景は、ちょっと想像するだけでもありありと見える。…あはは、そうなったら……もう全く洒落にならない…。

 

「…自分から言うんじゃなくて、訊かれるまで待ってた方がいいかな…?」

「これまで見せてこなかった以上はその方がいいと思うけど…怖いのは『見せない=見せられないような事情がある』って思われる事だね」

「じゃあやっぱり、何かのついでに見せる?」

「ついでってのは危険かも…こっちは自然な流れで見せたつもりでも、相手には不自然に思われてしまうかもしれないし…」

「むぅ、言うのも待つのも駄目ならどうしたらいいのさ…」

「それを現在考えているのです…」

「そっか…」

 

ノートをテーブルに置き、わたしも腕を組んで考え始める。どのタイミングで、どういう流れで報告するのが一番自然か。それは『変に思われない為には』っていう漠然とした問題だから中々良い案も出てこなくて、でも変に思われた場合のリスクが大き過ぎるから考えない訳にもいかなくて……。

 

……って、ん…?

 

「盤石なのはやっぱり訊かれるまで待つ事…でもただ待つのは不安があるから、待ちつつ相手に訊こうと思わせる事が出来れば……」

「……えーっと…あのさ、顕人君…」

「ん、何?」

 

 

 

 

「……今は結果が出てからの事より、その結果を出す準備に時間を使うべきじゃない…?」

「あ……」

 

漫画やアニメなら頭の辺りに朝の表現が出てそうな顔で、わたしが思った事を伝えると……顕人君は、固まった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……この事は保留にして、勉強再開しようか…」

「うん、だよね…」

 

……しっかり者の顕人君は、時々抜けてるっていうか思慮が足りなくなるっていうか…わたしの同居人は、そんな人です。

 

 

 

 

一度思考が大幅に脱線した後も、わたし達はいつもより口数少なく勉強を続けた。そして……

 

「ふぃー…綾袮さん、今日はこの位にしておこうか」

 

いつもよりずっと早く、顕人君は勉強を切り上げようと言ってきた。でも、わたしだって早めに切り上げようとする理由は分かる。

 

「パフォーマンスを第一に考えた準備、ってのは大切だもんね。これまでもちゃんと付き合ってくれたし、顕人君は割と指導者に向いてるんじゃない?」

「はは、そういう才能があるならありがたいかな」

「人間どんな才能があるか分からないからね。…けど、わたしなら大丈夫だよ?」

 

顕人君が勉強だけじゃなく当日の事まで気にかけてくれるのは嬉しいし、実力を発揮する為には身体の状態を整えておくべきっていうのは言われるまでもなく分かってる。…でも、わたしはその提案に異を唱えた。

 

「…大丈夫、ってのは…まだ勉強出来るって意味?」

「うん。まだって言うか、正直徹夜もいけると思う」

「いや、確かに俺も綾袮さんも若いし徹夜なんてしようと思えば出来る事だけどさ、テスト受ける事を考えればそれは……」

「だから、それ含めて大丈夫って事。…わたし、結構無理が効く身体してるんだよ?だって無理が効かなきゃやっていけないような将来が、生まれた時から決まってるんだもん」

 

…それは、宮空家の娘として元々持っていた強靭さと、教育によって培われた技能と精神。機械のように何十時間、何百時間と一定のパフォーマンスを維持し続けられる訳じゃないけど、合間合間で短い仮眠を入れればそれだけで数日の徹夜なんてこなせてしまう。ここのところはそんな機会なんてなかったから、多少鈍ってるかもしれないけど……それでも、顕人君が心配してるような結果にはならないと自信を持って言える。

 

「……そうだったとしても、休んだ方がいいと思うよ?世の中万が一があるんだし」

「もしもを片っ端から心配してたらキリがないよ。わたしは大丈夫だって」

「…そう言うなら俺も強くは言わないけど……」

「…別に顕人君の心配が余計だって言いたい訳じゃないよ。ただ、なんていうかな…ここまで頑張ってきたし、協力してくれた顕人君の為にもやれる限りはやっておきたいっていうか……」

 

やらないで後悔するならやって後悔する方が……なんて言うつもりはないけど、頑張れたところで頑張らなかったから結果に繋がらなかった…ってなるのは嫌。ましてや今回結果を出せなかったら顕人君の努力と思いまで無下にする事になるんだから、例え徹夜をしてでもわたしはやり切りたい。……勿論、それだけしたって結果が出なければ顕人君に顔向け出来ないけど。

そんな気持ちの一部を口にしたわたし。気恥ずかしさと顕人君に気を遣わせたくないって思いから、少しお茶を濁した表現をしちゃったんだけど……

 

「…そういう事なら、そこまで気負う必要はないんじゃないかな」

 

…顕人君は肩を竦めて、少しだけ頬を緩ませてそう言った。それにわたしが目をぱちくりさせていると、顕人君は続ける。

 

「俺の主観だから断定は出来ないし、やるに越した事はないけどさ、綾袮さんはここまでしっかりやってきたじゃん。最初に比べればかなり学力向上したじゃん。…だから多分、心配しなくても悪い点にはならないって俺は思うよ」

「…そうかな」

「そうだよ、きっとね」

 

多分とか、きっととか、顕人君は断定の言葉を避けて言う。実際顕人君はテストを作る側じゃないし、塾の講師でもないんだから強く言えないのは当たり前で、その言葉は顕人君の『感想』に過ぎない。…でも……

 

(…ふふっ、顕人君ってば甘いんだから…)

 

それは、わたしのやってきた事を誰よりも近くで見てきて、一番協力してくれた人の言葉。だからその言葉に確信がなくても、個人の感想だったとしても……大丈夫だって、自然と思えた。

 

「……もう、駄目だよ顕人君。勉強嫌いなわたしが珍しくやる気を出してるのに、それを摘み取るような事言っちゃ」

「じゃあ、言わない方がよかった?」

「ううん、なんかちょっと安心したよ」

「だったらいいじゃん。今だから言うけど定期試験は短期の詰め込みで割と何とかなるし、ほんとに大丈夫だって。…勿論テスト後忘れてたら本来の勉強の意義からは離れちゃうけどさ」

「わ、ぶっちゃけたねぇ…そこに関しては大丈夫!わたし端からこのテスト乗り切れればそれでいいやって思ってるから!」

「うん、何にも大丈夫じゃないよね!その精神だといつかまた同じ羽目に陥るよねっ!」

「あははははっ!それじゃあわたしお風呂入ってくるね〜」

 

ヤベぇ、この子に気が楽になるような事言うべきじゃなかった…みたいな反応をしている顕人君を尻目に、わたしは笑いながらリビングを出る。ほんとに顕人君はボケてて気持ちいい突っ込みをしてくれるから面白い。テスト前日に大笑いしてるのもどうかと思うけど……これは顕人君がわたしに精神的余裕を持たせてくれたって事にしよう、うん。

という事でお風呂に入ったわたし。いつも通りにゆっくり入って、ぽかぽか状態でパジャマに着替えて…でも時期的にちょっと暑いなぁと思ったわたしは、冷茶を飲もうと再びリビングへ。すると……

 

「…ん…ぅ……」

(あ、珍しい……)

 

…リビングでは、ソファに上半身を預けて顕人君が眠っていた。寝ているソファは三人で座れるタイプだから寝るには申し分ない大きさだし、わたしも時々ここでお昼寝するけど…まさかわたしがお風呂入ってる間に寝ちゃうとは思っていなかった。

 

「おーい顕人君、今寝ちゃっていいのー?」

「……んふ…」

「いやんふじゃなくてね、わたしならともかく男の子のおねんね描写なんてウケないと思うよー?」

 

絶対そのつもりなく寝ちゃったパターンだろうなぁと思ったわたしは、肩を揺すってみるけど…起きる様子は一切なし。…って事はまさか…死んでる!?……なーんてね。寝息立てながら死んでたら普通に死んでる以上にびっくりだよ。

 

「…やっぱり、疲れてるのかな……」

 

毎日わたしの勉強に付き合って、霊装者としてのお仕事もして、勿論学校でも真面目に勉強してきたんだから、疲れてない訳がない。それを気にしてわたしは妃乃にも勉強協力してもらってきたけど、それでも顕人君には結構な負担があった筈で…ここで寝ちゃったのも、きっとそれが要因の一つ。……つまりこれは、わたしのせい。

だからわたしは少し考えて、それで……

 

「……わたし、ちゃんと結果出すからね。でも受けるのはわたしだけじゃないんだから…一緒に頑張ろうね、顕人君」

 

……わたしは、薄い掛け布団を持ってきて、それを顕人君に掛ける事にした。一応霊装者の力を使えばわたしより大きくて重い顕人君を部屋まで運ぶ事も出来るけど…そうしたら顕人君は起きてから恥ずかしくなっちゃう筈だもん。…それ位は、わたしだって分かってるよ。

 

 

 

 

──そうして、テスト前の最終日は終わり……テスト当日が、わたしにとっての戦いの日が…やってくる。

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