双極の理創造   作:シモツキ

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第六十七話 意外は案外あるもので

何でも、協会に外国からの霊装者が来てるんだとか。戦後日本の霊装者がどういう道を歩んだのかよく知らない俺にとって、外国の霊装者は敵か形の上では味方だけど油断は出来ない相手かの二択(学のなかった前の俺だからその二択だと思ってた可能性も高いが)…という認識があったから、その話を聞いた時には少し驚いた。

だが、俺だって生まれ変わってから色々と学んできたし、考え方も大分変わった。前の俺にとってはそうだったとしても、今の俺にとって外国の霊装者は別に敵じゃない。だから接する機会があればちゃんとしようと思っていたんだが……

 

「今年は向こうが主催だ。関わりたいというなら妃乃に同行しても構わねぇが、そうでもないなら別に顔を出す必要はないぞ?」

「…えぇー……」

 

当主たる宗元さんから直々に、こんな事を言われてしまった。……わざわざここに来たのに…緋奈も誤魔化してきたってのに…。

 

「はぁ…まあ面倒な仕事させられるよりはいいけどよ……」

 

聞くところによると、他国との交流の際には両家が交互に主催を務めているらしい。何故一緒にやらないかと言うと、そこはまぁ派閥云々だったり来てる側の負担も増えてしまったりが理由だって話だが…詳しくは知らん。……不要だって予め教えておいてくれりゃあなぁ…確認しないで勝手に何かあると思ってた俺も悪いんだが…。

…で、用事がなくなった(ってか、用事がないと判明した)俺は今、双統殿の中をほっつき歩いている。

 

「……うん、やっぱ覚えておかないと迷うわ、ここ」

 

嘘で誤魔化した以上、余計な疑いを持たれないよう用事がなくてもすぐに帰る訳にはいかない。そんな中で俺が時間潰しとして思い付いたのが、双統殿内の作りをきちんと覚えようという事だった。何せ俺は、前に一度ここで迷子になってるからな。

 

「えーと、これがここで…」

 

携帯のカメラで撮った案内図を見ながら、ぶらぶらと気ままに歩き回る。最初の頃にちゃんと妃乃から案内してもらっていればこうする必要もなかったんだと思うが、どうせその必要はないだろうとその時の俺は考えてしまったものだから仕方ない。

 

「……前分からなくなったのは、ここら辺だったかなぁ…」

 

そうして過ごす事十数分。適当に歩きつつも前に迷った事を頭の中で思い浮かべていたからか、気付けばその迷った場所周辺(だと思う階)に来ていた。

この階のこの場所は、特に目立つものもなければ作りも上の階や下の階と似ている感じでいまいち「自分はどこの階のどこにいる」という認識がはっきりし辛い。そういうのも迷った要因の一つだろうなぁと思いつつ歩いていると……

 

「…はぁ…はぁ…抜かった……調子乗り過ぎた……」

 

……廊下を曲がった先で、見るからに疲労困憊している人がいた。

 

「で、でも…これで…ゴー、ル……!」

 

壁に手を付き、持久走直後みたいなふらふら状態で扉の前へと座り込むその人。見たところ俺より数歳下かどうか位の少女で、肌は日焼けという概念自体を知らないのかという程白く、顔も…って……

 

(…うん?俺はあいつをどっかで…いや、ここで見た事あるような気が……)

 

距離的に顔がしっかり見えている訳じゃない。だが遠巻きからでも得られる情報と、先程まで思い浮かべていた迷子時の事とが合致してすぐに初めて見る人ではないと気付き……思い出す。今も扉に背を預けている少女が、誰なのかを。

 

(……あん時のダウナー少女…)

 

偶々部屋から音が漏れ出ていた(ヘッドホンのプラグが抜けてた…だったな)事により出会った、何とも陰気そうな少女。俺の記憶が間違っていない限り、そこにいるのはその時の少女だった。

思い返せばあの時は、魔王の強襲によってそれどころじゃなくなったが色々あった。けどまさか、またも偶然遭遇するとはな…。

 

「…………」

 

廊下の角に隠れ、暫し少女の様子を伺う。流石に気付かれたら戦闘になる…って事はないだろうが、前の時点でやや悪い印象を持たれたっぽいから気軽に接触するのは避けたい。どうせ用事がある訳じゃないんだから部屋に戻ってくれたらその後通ればいいし、最悪引き返して他の場所を歩いたっていい。……なんて考えながら見てた訳だが…俺は途中で違和感を抱く。

 

「……あれ?動いてなくね…?」

 

座り込んだ少女は、部屋に入るどころかまるで動く気配がない。恐らくは疲れて動きたくないんだろうが…それにしたって、まるで動かないのはおかしい。…で、動かない場合それは動かないのではなく『動けない』の可能性が出てくる訳で、更によく考えてみればこの少女は前に会った時も、扉を閉じるや否やぶっ倒れるというヒヤヒヤな展開があって……

 

「……ぐぅぅ、タイミング悪いなぁ…!」

 

俺は、角から出ていく事にした。これで何もなかったら恨むぞ……何に対して恨めばいいかは知らないが…。

 

「あー、ちょっと……って、ん…?」

 

まずは静かに近付いて、十分な距離だと思ったところで控えめに発声。それをしながら更に歩みを進め、そうしていく内にそれまではっきりとは見えなかった表情が見えてきた。少しだけ下を向き、瞼がしっかりとではないものの閉じてしまったいるその表情は……

 

「いや寝てるのかよ!?」

「ふぇぇっ!?」

 

…と、つい俺は大きめの声で突っ込んでしまった。オチか、こいつは俺に対してオチを用意してたのかよ!…いや絶対違うだろうがな!……って、やべっ…起こしちゃった…。

 

「……な、何よあんた…」

「な、何って…まぁその、通りすがりだ…」

「通りすがり?どこの世界に人の部屋の中に通りすがる人間が……って、あれ…?」

 

目を覚ました少女がまず目にしたのは俺の姿で、驚きからか少々ビビりつつも俺に訝しげな視線を送ってくる。それに俺が正直に返すと、少女は一瞬不愉快そうな表情を浮かべ……それから、周囲を見回した。どうやら、自分が自室にいると思っていたらしい。

 

「……廊、下…?」

「…お前、ここで座ってそのまま寝てたぞ」

「……こ、こほん。こんな場所、普通は通りかかる事なんてないと思うんだけど」

(堂々と言ってる事変えやがった…)

 

いい根性してるというか、なんというか…取り敢えず俺を疑ってかかってるのな…。

 

「内装覚える為に歩き回ってる最中なんだよ。そっちこそ何で廊下で寝ちまう程疲れてたんだ?」

「…あたしの勝手でしょ」

「いやそれは何してたか答えて、それに対して俺が何かしら言った後に出てくる言葉だろ…言葉のキャッチボールを一往復分飛ばすなよ…」

「あたしの勝手でしょ」

「何故同じ反応…ってまさか、次に言う言葉を一つ前でも採用していたパターン!?何だその意味不明な技術!?」

「五月蝿いんだけど…っていうか、ほんとに誰…?」

 

少女は俺とまともに話す気がないのか、簡素な返答ばかりを並べる。相手に好意を持ってもらおうだとか、円滑に会話をしようだとかの意思が微塵も感じられない、無愛想そのものな反応。……これ、俺より酷いんじゃ…?

 

「誰って…まぁ俺もすぐ思い出した訳じゃねぇしそんなものか。前に部屋から音が漏れてるって言ってきた奴がいなかったか?」

「音?……あぁ、そういえばいい歳して迷子になってた人ならいた気が…え?…あんた、その時の…?」

「あー、そうそうその時のそいつだ。…迷子って部分は覚えてんのかよ…」

 

迷子かと言われた時は、凄ぇ雑に誤魔化した気がするが…今更そこはどうでもいい。改めて誤魔化したって、それこそ誤魔化してるなぁ…としか思われないだろうし。

 

「…ここに来たのは?」

「多分前来てから一度も来てないから、これで二回目だな」

「…何その偶然…二回中二回ともってどうなってるのよ……」

「そりゃご愁傷様なこったな」

 

座ったままの少女と、それを見下ろす俺。一応会話は続いているが、とてもじゃないがこれを『和やか』とは言えない。無愛想で相手に歩み寄ろうとしてない奴同士が会話すると、どうなるか……今はそれを表しているような状況だった。

 

(なんで普通に話してるんだろうな、俺…)

 

反射的に突っ込んでしまったのは仕方ないが、相手が熱心に話しかけてきている訳でもないのだから、早々に話を終わらせて立ち去る事も出来た筈。にも関わらず会話を続けていたのは…正直、自分でも何故だかよく分からない。

 

「はぁ…で、何が目的な訳?」

「目的?」

「何が目的があって、わざわざあたしを起こしたんでしょ?それが何なのかって聞いてんの」

「いや、それは別に……」

 

具合が悪いのかもと思って近付いたらただ寝てただけで、それに拍子抜けしてつい突っ込んでしまった…というのが事実な訳だが、それを素直に信じてくれるとは思えねぇし、何よりこれを言うのは恥ずい。前半はともかく、後半は出来れば秘密にしたい。…けど、何かやましい事がある訳でもないのに嘘を吐くってのも癪だし、前半だけ言うとするか…。

 

「…前、部屋入った途端に気絶してただろ?」

「そういえば、そんな事もあったわね」

「だからだよ。座る前も明らかに肩で息してたし、そっからまた気絶してるんじゃないのかと思っただけだ」

「…だから、気絶してる姿見にきたと?」

「は?気絶してるならヤバいと思って容体確認しにきたんだけど?」

「え?」

「え?」

 

自分の考えていた答えとは違ったのか、この少女は驚いた顔を見せるが…俺も俺でまさか驚かれるとは思っておらず、驚いた事に驚いてしまう。そして、お互い目を瞬かせる事数秒。

 

「……待って、じゃあまさか…あたしを、心配してたって事…?」

「そういう事だが……」

「…………」

「…………」

「…殆ど赤の他人なのよ?仲の良い相手でもないのよ?…なのに心配したって言うの?」

「そりゃ、知らん奴が相手だろうか気絶してたら『大丈夫か…?』位は思うだろ…今回の場合は気絶が確定してた訳じゃないが…」

 

俺は自分を優しい人間だとは思ってないが、そんな俺でも気絶している(かもしれない)相手を無視しようとは思わない。そこまで薄情な人間にはなりたくないし、親父とお袋にそんな息子の姿は見せたくない。……ってのは質問を受けて頭に浮かんだ事で、近付いた時点では単に『見て見ぬ振りは出来ない』と思っただけの事。

…なんて考えていると、驚きの表情を浮かべていた少女は、いつしかその表情が変わっていた。

 

「…………」

「…えーと…あのー……?」

「…余計なお世話。ちょっと疲れてうとうとしてただけなのに、気絶したんじゃ…?…なんて気にされてたら、こっちはおちおち休む事も出来ないじゃない」

「おちおちも何も、それならちゃんと部屋に入って……」

「……だから、気持ちだけ受け取っておく。…心配したって、気持ちだけは…」

 

目を逸らして、会話というよりただ自分の考えを口にしているだけという印象を抱かせる少女。そんな姿を見て、俺は思った。

 

 

……ほほぅ、これは妃乃と同じ匂いがするぞ…。

 

「…って、ちょっと…何悪そうな笑み浮かべてんのよ…」

「心からの笑みだ」

「それが!?悪そうな笑みが!?あ、あんたどんだけ性根が腐ってるのよ!?」

「腐っ腐っ腐……」

「腐りまくりね!それが冗談だったとしたら、あんたギャグのセンスが壊滅的に腐ってるわね!」

 

ダウナー且つ陰気な雰囲気が吹き飛び…まではしてないものの、目を剥いて少女は突っ込んでくる。…うむ、やっぱり俺の感じた通りだったな。

 

「腐ってるねぇ…あんまりそっちの興味はないな」

「そっち?そっちって、一体どっち……って、ば、馬鹿じゃないの!?何でそうなるのよ!?あたしだってそういう意味では言ってないわよ!」

「え、年頃の女性は皆そういう意味の話をしてるのかと…」

「偏見が酷過ぎる!?…本気で言ってるとしたら、あんたはもうちょっと人と接するべきよ……どの口が言ってんだって話だけど…」

「流石に本気じゃねぇよ。…てか、最後の部分もうちょい声張ってくれないと聞こえないんだが…」

「…聞こえてなくていいわよ、独り言だから…」

 

一見俺と同じように捻くれてる奴だと思ったが…割と捻くれてない部分があるのも、俺と同じのようだった。そして俺の冗談が終わると、少女の雰囲気も再び暗い感じに。…類は友を呼ぶ、かねぇ…まだ俺はこの少女の表面を部分的に見たに過ぎないんだから、勘違いの可能性も普通にあるが。

 

「そうですかい…まぁ何にせよ、寝るならちゃんとした場所で寝ろよ?」

「はいはい…」

「俺が駄々捏ねてるみたいな反応すんなよ…ったく、じゃあな」

 

背を向け、ひらひらと適当に手を振って俺はその場を後にする。団体は出来ないが…まあまた廊下で寝る事はないだろう。というかちゃんとした場所で寝るかどうかまでは俺だって見ていられない。俺は親でも子守役でもないってーの。

 

(……けど、丁度いい暇潰しににはなったな)

 

元々は空いた時間を利用して内装の記憶を…なんて思って歩いていたが、ぶっちゃけそれは一人でやるには暇過ぎる行為。だから内容はどうあれ、あの少女とのやり取りは良い気分転換になったと思う。……ほんと、内容はどうあれ。

 

(…ってか……)

 

 

 

 

「……結局、あいつは誰だったんだ…?」

 

 

 

 

具体的に何をしていたのかは知らないが、妃乃の方も役目は滞りなく進んだらしい。と言ってもそれは『今日』の事であって、来客である霊装者も暫くは双統殿に留まるみたいだが。…で、俺は……

 

「上層階で変わった人に会った?」

 

自宅へ帰った後に、割とマジで誰なんだか分からない少女の事を妃乃へと訊いてみた。

 

「会ったっつーか、発見したっつーか…遭遇した?」

「いやそこの表現はなんだっていいわよ…っていうか何?私は今から貴方のナンパ話を聞かされる訳?」

「違うわ!いきなり話が飛躍し過ぎだ!」

 

今のは何かしら知ってるかな〜、位の感覚で言った質問。…だったんだが…返ってきたのは、嫌そうな顔での質問返しだった。な、ナンパって……。

 

「あらそう。だったらいいけど」

「だったらいいけど、じゃねぇよ…で、何か知ってるか?」

「知ってるか、ねぇ…今のままだと該当する人が何十人といるんだけど?」

「あ、それもそうか…」

 

いきなり思いもしない解釈をされたせいでうっかりしていたが、俺はまだ特定出来るような情報を何も言っていない。確かにそれじゃ知ってるかどうか以前の問題だよな…。

 

「そうさなぁ…まず言える事は、日本語が流暢だった」

「へぇ、それで?」

「俺の事を覚えてたな。正確には初見じゃないって思い出した形だが」

「…他には?」

「話した時間は大体数分。長くても十数分ってとこだろ」

「……馬鹿にしてんの?」

「悪い悪い冗談だ」

 

……というボケを一旦入れて、俺は妃乃へと手掛かりになりそうな事を話してみる。

 

「暗い赤…赤銅色って感じか?…な髪に、これまた暗いオレンジの目。身長は緋奈より低くて、歳は…俺達よりちょい下…っぽく見えたな」

「…性格の方は?」

「なーんか捻くれてたな、髪や目と同じように暗かったし。…あ、でも弄り甲斐はありそうだったぞ?」

「…弄ったの?」

「そりゃ想像にお任せするわ」

「そう……」

 

人を特定する上でまず使えるのは、外見の情報。そう思って伝えると妃乃からは追加の質問が入り、その内容である性格に関してもざっくりとした返答…というか話してみた感想を口にする。…ちょっと余計な事まで口にしてしまった気もするが……それはさておき、聞き終えた妃乃は顎に親指と人差し指を当てて考え込み始めた。

 

「…心当たりがあるのか?」

「まぁ、ね…その人って、日焼けはしてた?」

「いや、全然してなかったな」

「なら、身体は?…変な意味じゃなくて、筋肉量とかの話よ?」

「それも全然なかったな。言い方は悪いが、日焼けしてない点と含めてあんまり健康っぽくは見えなかった」

「やっぱりか……」

 

更なる問いに答えていくと、その度妃乃の表情が深みを増していく。そして……

 

「…良かったわね悠弥。その人が誰なのかの目処が立ったわよ」

 

遂に、「誰だったんだ?」という疑問への答えが現実味を帯びてきた。妃乃だって流石に協会の人間全員を把握するのは無理難題だろうし、分からない可能性も視野に入れていたんだから、こんなに早く分かるってんならそれは僥倖というもの。さーて、誰なんですかね。

 

(……って、よく考えたらただのインドア派霊装者だった場合、そうなんだ…以上の反応出来ねぇじゃん…どうすっかな…)

「けどまさか、貴方がこんな形で会うとはねぇ…しかも悠弥の事だから、あんまり良い印象は持たれてないだろうし…」

「え、何その含みのある言い方…」

「含むところ大有りだからこうなってるのよ」

 

顎から指を離した妃乃は、俺が何かミスをしたかのような顔に。…え、何?俺なんか不味い人に話しかけちゃったの…?

 

「……よ、よーし。風呂入ってくるかなぁ」

「こら、そっちから訊いてきたんだから逃げようとするんじゃないわよ」

「うぐぐ…えぇい、ならば一思いに殺せぇッ!」

「貴方私からの回答を死刑宣告か何かだとでも思ってるの!?…はぁ、普通に聞きなさい普通に…」

 

身を翻しリビングを出ようとした俺の肩を掴み、引き戻す妃乃。誰なの?ヤバい人なの?…と内心どんどん不安になりつつある俺の姿に妃乃は呆れつつも……遂に、その人が誰なのかを口にする。

 

「…悠弥、貴方と顕人がどうして見出されたかは覚えてるわよね?」

「へ?…まぁそりゃ、予言者さんとやらが予知したんだろ?」

「そう。で、悠弥が会ったのがその子よ」

「へぇ……ん?…はい?」

「いや、だから……貴方が会ったのはその予言者、篠夜依未なの」

「…………」

 

 

 

 

「……おおぅ、マジすか…」

 

……そこそこ前にも似た様な事があったが…ほんと世の中、どこでどんな奴と関係持つか分からんものだな…。

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