模擬戦が終わってから、装備の片付けや簡単なレポート(模擬戦出た人は書く事になってたらしい)を済ませた俺は、例の如く俺よりずっとやらなきゃいけない事がある綾袮さんを待っていた。
けれど綾袮さん待ちはもう慣れた事で、そういう時俺は近くの休憩所なりなんなりでゆっくりまったり過ごしている。だから今日もそうするつもりだった。…そうなると思っていた。
「…………」
「…………」
──俺が座る長ソファに、ストロー付きボトル(漫画やアニメで運動部がよく使ってるアレ)を持ったラフィーネさんがやって来なければ。
(……き、気不味い…)
一人分空けて座ったラフィーネさんは、俺の事を気にもしない様子でボトル内の飲料を飲んでいる。ちゅー、と暫し吸っては口を離し、少ししたらまた吸うという単純行動を繰り返す彼女は……何を考えているのか、さっぱり分からない。そしてそんな人が相手では、流石に俺も気後れの一つや二つはしてしまう。
(…けど、表情に出てないだけでラフィーネさんも気不味く思ってる可能性はあるよね……だったら…)
気遣い半分、気不味さをなんとかしたい気持ち半分でそんな事を考える俺。ラフィーネさんは必要以上に話す事はしない印象があるけど、別に俺を無視する…って事はない筈。そう心の中で自分に言い聞かせ…数秒の逡巡の後、俺は口を開いた。
「…えっ、と…フォリンさんは一緒じゃないの…?」
「フォリンは呼ばれていった。フォリンが一人で大丈夫だって言ったから、わたしは今待ってる」
「そ、そうですか…」
声をかけたのは、ラフィーネさんが口からストローを離した瞬間。そのおかげで返答はしてもらえたものの…俺はそこから話を広げられなかった。…いや、だって…凄い淡々と返してきたんだもん…淡々に返してくるんだろうなぁとは思ってたけど、思っててもこれは今みたいな反応になっちゃうって……。
「…………」
「…………」
「…す、凄かったですね、三連勝…」
「それはわたしとフォリンが強かったというだけ。別に凄いと言われる程じゃない」
「そ、そうですか…ってうぉぉ…俺同じ反応しとる……」
次なる言葉も淡々に返された俺は、無意識に同じ言葉を口にする。加えてそれに対して自分への突っ込みをつい行うも、ラフィーネさんは一度ちらりとこちらを見ただけ。笑うでも変な目をするでもなく、ただ確認しただけのような反応に、俺は早くも手詰まりを感じ始めていた。
(これはあれか?俺に…というか俺との会話に興味がないって事か…?)
興味があればもっと喰い付いてくるだろうし、逆にしたくない話であればそれはそれで何らかの変化がある筈。にも関わらずそのどちらでもないって事は、恐らくラフィーネさんは俺との会話自体に興味がない。それは何とも悲しい理由だけど…そうであれば、もう仕方がない。
ラフィーネさんが再びストローに口を付けたところで、俺は向けていた顔を元に戻す。話す気のない相手に話題を振り続けるのはお互い良い気持ちにはなれないし、相手から会話は無しでいいと示してくれるのなら気不味さも減るというもの。だったら潔く引き下がった方が得じゃないか。……と、顔を戻してから数十秒し、そう思っている時だった。
「……あの攻撃には、驚いた」
「へ…?」
横から突然聞こえた、脈絡のない言葉。俺は一瞬誰がそれを言ったのか分からなくて、でもこの場で声を発する人なんて俺以外じゃ一人しかいなくて、戻した顔をまた横に向けると……いつの間にかラフィーネさんは、俺の方を見ていた。
「顕人の動きは、無駄があるし精度も未熟。はっきり言って、これ位ならイギリスにも他の国にも沢山いる」
「……で、ですよね…」
「…でも、あの砲撃は並みの霊装者には出来ない。あれは元々それなりの能力のある霊装者が、鍛錬を積んでやっと出来るようなもの。だから、顕人のその力は、武器になる。もしもっと実力を付けたいなら、それは伸ばすべき力」
これまで通りオブラートの存在すら知らないような、手加減無しの言葉。…でも、続く言葉では俺を評価してくれていた。俺に対してアドバイスをしてくれていた。
改めてラフィーネさんの目を見て、気付く。この人は、真っ直ぐな目をしてるって。綾袮さんにも負けない、真っ直ぐな心と思いの持ち主なんだって。
「…ありがとう、ございます」
「…うん」
「あの攻撃は、まだまだ問題点ばっかりなので、改竄していこうと思います」
「うん」
俺のお礼と返答に、ラフィーネさんはこくんと首を振っただけ。けれどその簡素な返答には、「うん」という言葉には、俺へのエールも含まれている。そんな気が、俺にはした。
……と、思ったんだけどなぁ…。
「……でも、あれはフォリンにも出来る」
「え?…えっと、それは…?」
「同じように照射に耐えられる武器さえあれば、フォリンも出来る。少なくとも、わたしはそう思ってる」
「…つまり……?」
「自分がフォリンに勝ってると思ったら、大間違い。フォリンは一芸で破られたりなんてしない」
「あ、はい…(俺そんな事言ったっけ…?)」
何がどう作用したのか、今話に出てきていなかったフォリンさんの事を、しかも俺へのアドバイスより熱を感じられる言葉で、ラフィーネさんは言い切っていた。…やっぱり、ラフィーネさんは何を考えているのかよく分からない。
「お待たせー顕人君…と、やっぱラフィーネもいたんだ」
「お疲れ様、綾袮さん。…フォリンさんもいるって事は、二人は同じ場所にいたの?」
「はい。私も用事は済みましたよ、ラフィーネ」
それから用事を終えた綾袮さんとラフィーネさんが来て、俺達はそれぞれ合流。同じ場所で何してたんだろう…と一瞬思ったものの、聞いても数時間で忘れそうな気がするから訊かない事にした。
「じゃ、帰ろっか。二人も今日は四連戦したんだし、ゆっくり休んでね」
「えぇ、そうさせてもらいます」
「…これからも暫くお二人はここに?」
「そうですよ。なので何かあればまた宜しくお願いしますね」
時計を見れば、針はもう深夜…ではないものの、誰に聞いても夜だと答えるような時間を指している。…何かあればまた宜しく…って、まさか再戦のお誘い?…いや、今のはただの社交辞令か……。
「はぁ、疲れたぁ…」
「今日は良い動きしてたよ。先生は顕人君がちゃんと成長していて嬉しいなぁ」
「良い動き、ね…」
「うん?何か気になる?」
「いや、ちょっと思うところがあっただけ」
外へと向かう道すがら、俺は綾袮さんが発した一つの言葉に意識を向けた。
綾袮さんもラフィーネさんも、今日見た俺の動きは同じ。でもラフィーネさんはそれにマイナスの評価を下していて、逆に綾袮さんはプラスの評価をしてくれた。…別にどっちかが嘘を吐いてるとは思ってない。評価基準が違うだとか、綾袮さんは『成長が見られるから』良いと評価してくれただとか、双方の評価が両立する場合なんて沢山あるし、そこまで俺は繊細じゃない。ただ、短い間に真逆の評価を受けたからちょっと意識してしまっただけの事。
「そっか……あ、思うところってなら、わたしも一個あるんだけど」
「…と、言うと?」
俺の雰囲気や表情から考えを察したのか、深くは突っ込まず(でも気遣う様子もなく)話を切り替えた綾袮さん。それに俺も合わせていつも通りに返答すると……
「顕人君ってさ、ラフィーネとフォリンの事年上だと思ってる?っていうか、思ってるから敬語なんだよね?」
「え?…まぁ、そうなのかもなぁとは思ってるけど…」
「やっぱりね。…二人共、わたし達より年下だよ?年下って言っても、一つしか違わないけど」
「そ、そうだったんだ…ん?もしや二人って、双子だったの?」
「ううん。わたしもさっき聞くまで年齢までしか知らなかったけど、ラフィーネが四月生まれ、フォリンが三月生まれだから年度の上では二人共同じ年に生まれてるんだって」
……俺は自分が恥ずかしくなった。人の年齢なんて外見だけじゃざっくりとしか分からないし、そのざっくりすら当たらない事があるものだけど、年上だと思って接してた相手が実は年下だった…というのはとにかく恥ずかしい。どれ程かと言えば、それは「ま、まぁ霊装者としては二人が先輩だし?」…と自分で自分に言い訳したくなる位に。
「…さ、先に言ってよぉぉ……」
「先って…顕人君が勘違いするかどうか、敬語を使うかどうかは流石にわたしでも分からないから…」
「うっ、それもそうか…はぁ、これで次から敬語抜けてたら絶対違和感持たれる…」
疲れていて、尚且つ今日は価値ある一日だったと思っているところにこの衝撃はキツい。サブカル業界だとこういうのをオチがついたとか言うけど……実際あるとほんとキツいっすわ、これ…。
……そんな事を思いながら家へと帰るのが、今日の俺だった。
*
「うーん…ちょっと日焼けしてる…」
夕飯を終え、課題……は置いといてのんびりとリビングで過ごす夜。バラエティ番組をまったり見ていると、同じくリビングにいた緋奈が腕を見ながらそんな事を口にした。
「…してるか?」
「してるよ、ほら」
緋奈は俺にも腕を見せてくる(見せてこなくたって半袖だから見えてる)が、女性らしく細い緋奈の腕には柔らかそうだという感想しか出てこない。…あー後、健康的だって感想もあるか。
「少なくとも、あんま日焼け気にしてない奴からは気にならない程度だと思うぞ?」
「うーん、お兄ちゃんが気付かないとは…」
「いや、俺をなんだと思ってるんだ…確かに緋奈の事なら大体知ってる自覚あるが」
「…それ、わたし以外に言ったらほぼ確実に引かれるからね…?」
「んな事緋奈以外にほいほい言うか」とか、「緋奈は良いのか…それはそれで問題だと思うぞ…」とか腕よりずっと色んな感想が思い浮かんだが、どれ言っても変な話になりそうなので全て却下。しかし、緋奈は俺なら気付くと思ってたのか……悪い気はしない。
「…それなら、妃乃にも訊いてみたらどうだ?訊くってか、俺は自分から首突っ込んだ訳だが」
「別に意見集めたい訳じゃないけどね…はぁ、もっと日焼け止め塗る時は気を付けないと…」
「少し位日焼けしてても悪くないと思うけどな」
「え、お兄ちゃん小麦色の肌とか好きなタイプ?」
「何故そうなる…てか、そうだって言ったら日焼け止め塗るの止めるのか?」
「止める…かも?」
「……お兄ちゃんは緋奈に愛されてて嬉しいです」
かもとは言え、一蹴されない事に俺は何とも言えない気持ちになる。緋奈よ、君は女の子としてそれで良いのか…世の中には兄を毛嫌いする妹も多い(らしい、実際はよく知らん)中、こうして好感を持ってくれてるのはほんとに嬉しい事だが…。
「まぁ、今のところ友達にも『焼けた?』って言われてないし、気にし過ぎと言われればそれまでだけどね。…っとそうだ、録画したい番組あるからリモコン貸してくれる?」
「はいよ」
日焼けの件はもういいのか、緋奈は俺が渡したリモコンを手にTVを操作。やっぱ焼けたようには見えねぇよなぁ…とその後ろ姿を眺めていると……玄関から「ただいま」という声が聞こえてきた。
「あ、妃乃さんお帰りなさい」
「えぇ。もう夜なのにまだ暑いわね」
「そういう時期だからな。夕飯は冷蔵庫入れてあるぞー」
廊下を通ってリビングに来た妃乃は、その言葉とは裏腹に汗をかいている様子はない。…まぁ、双統殿から飛んでくりゃ風で汗はかかねぇわな。空ならアスファルトの上歩くよりずっと涼しくもあるし。
それから数分後。俺からすれば興味すら抱かない内容のガールズトークに花を咲かせていた女子二人は、それぞれ食事と入浴へ。妃乃がレンジで温めた夕飯を食べ始めてから数十秒程したところで、俺は妃乃へと問いかける。
「…今日は模擬戦があったんだってな」
「あら、知ってたのね。…見たかった?」
「いいや、俺は自分から模擬戦見に行く程向上心のある人間じゃねぇよ」
問いかけたと言っても、俺の目はTVへ向けたまま。真面目な話として訊いているんじゃなく、単に妃乃を見て思い出したから訊いただけの事。
「ま、そうよね。結構見応えのある模擬戦だったわよ?最後は綾袮がエクストラマッチを仕掛けにいったし」
「パワフルな事してんなぁ…仕掛ける姿は容易に想像出来るが」
「多分その想像、半分は正解で半分は間違いだと思うわよ?」
「半分?」
「そうよ。だって、その模擬戦に顕人引っ張り込んでたもの」
「……相手は?」
「三戦全勝の来客組よ」
「…俺、性格的には妃乃より綾袮の方が近いと思うが…担当になったのが妃乃で良かったって、時々マジで思うわ……」
綾袮がただの欲望第一主義じゃない事は、普段千嵜や妃乃と会話する中でも伝わってきている。…けどまぁ、理由があろうとなかろうと、無茶振りなんてされる側からしたら堪ったもんじゃないんだよなぁ……時々俺もしたりするが。
「時々って…まあ、そう思うならもっと感謝してよね。……顕人、結構腕上げてたわよ」
「そりゃ、あいつは真面目だからな」
「でしょうね、でも今日の模擬戦では熱意も感じられたわ」
「…………」
顕人も苦労人だよなぁ…なんて気持ちになる中、あいつの話は続く。…が、どうも妃乃の口振りからは含みを感じる。色恋沙汰とかそういう意味じゃない、何かこれを通して伝えたい事があるような…そんな感覚。
「熱意も過ぎれば冷静な思考に支障をきたすけど、それが無ければ基本はいいもの。けどもしかすると、綾袮の性格が熱意に一役買っているのかもしれないわね」
「……俺には、熱意が足りない…って言いたいのか?」
「…そう聞こえた?」
「熱意に欠ける自覚はあるからな」
言葉にこそしていないが、今の妃乃の質問返しには「やっぱりそう思う?」…というニュアンスが感じられた。…熱意、ね……。
「…いいの?後からどんなに後悔しても、やり直す事は出来ないのよ?」
「…どうだろうな。生まれ変わりの実例があるんだ、時間遡行も絶対あり得ないとは言えないと思うぞ?」
「それを任意に行えるのなら、時間遡行を当てにするのもいいかもね」
「……後悔したくはねぇよ。でも、今だって後悔したくねぇからこの道を歩いてるんだ。そんなほいほい変わる程、俺は意志薄弱じゃない」
妃乃は食卓で、俺はソファで、目どころか姿勢も合わせないまま会話を続ける。…これが妃乃の正体を知ったばかりの頃なら、余計なお世話だと一蹴していたかもしれない。
「…まあ、あなたならそう言うわよね。けど、霊装者だって結局は人と同じ…限界のある存在よ。限界は乗り越えられないものじゃないけど、それはあくまで積み重ねがあった上での事。……思いだけじゃ、どうにもならない事はあるわ」
「…珍しく、自信なさ気な事言うな。普段に比べたら、だが」
「うっさい、経験則から語ってるだけよ。…つい最近だって、辛酸を嘗めさせられたばかりなんだから」
例え顔が見えなくとも、妃乃が複雑そうな表情を浮かべているのは声音から伝わってくる。…つい最近ってのは、妃乃を嵌めた魔人の事だろう。その前の魔人や魔王の事だってあるかもしれない。…ならば……
(…これは、自分に対する言葉でもあるんだろうな……)
熱意を持って自らを高める千嵜に、全勝という結果を叩き出した来客に、今日の模擬戦に出た全ての霊装者。その姿に自分もまだ停滞するような時期じゃないと、停滞なんてしていられないと、妃乃は触発されたんだと思う。それがなくたって妃乃なら鍛錬は欠かさないんだろうが、それを受けて余計にって形で。
そういう意味では、俺はとばっちりを受けてるとも言える。妃乃のやる気に巻き込まれてるとも言える。だが……本当に、そう言い切れるのだろうか。
(…俺は無関係な人間じゃねぇし、むしろ妃乃がここにいるのは、俺が関係『させている』からだ。…もし俺の意思に意地を張っている部分があるってなら……)
「……ご馳走様、っと」
「…ん?…あ…そこそこ時間経ってたんだな…」
意識が思考の海に落ちつつあった中で聞こえた、完食の言葉。それに意識を引っ張られて時計を見ると、妃乃が帰ってきてから数十分が経っていた。
「…色々、考えさせちゃった?」
「…考えねぇでおいたら、それこそいつか後悔するだろ。だから、考える位はするさ」
「そう。私、貴方の無気力なようでいて考えなきゃいけない事はしっかり考えてるところ、良いと思うわよ」
「何事でもしっかり考えてる妃乃程じゃねぇよ」
褒められるようなとこでもないところを褒められても、悪い気はしないが違和感がある。自分がどう見られていてどう思われているかなんて、意外と分からんもんだな。
「何事も、って程じゃないわ。それに…私もそこまで貴方にどうこう言える立場じゃないしね」
「そうか?」
「そうでしょ。対魔物とか組織運営とかの方面なら私の方が上だけど…対人戦に関しては、貴方の方がずっと経験豊富な筈だもの」
「…まぁ、そりゃ…な」
まさかこの話に飛ぶとは、と少々驚く俺。…平和な今と、世界規模で人類がドンパチやってた昔じゃ、対人戦の機会に差があるのは当然の話。ってか、対人の実戦なんて無い方がいい訳で……けれど、そうも言っていられない事だって現実にはあり得る。そして特殊な立場を持つ妃乃なら、それは尚更の話。
「…よし。じゃあ一つ対人戦の極意を教えてやろう」
「極意…?」
「なぁに、簡単な話だ。魔物が相手なら発揮出来るパフォーマンスも、人が相手だと躊躇っちまう事はあるだろ?」
「えぇ」
「……だから、実戦じゃ相手を人だなんて思うな。罪の意識も和解の可能性も必要ない。人と同じ見た目をしているだけの魔物…そう思えば、パフォーマンスが落ちる事なんてない」
「……それは…」
「…ってのが、今適当に考えた極意だ」
「そう…って今適当に考えた極意!?は、はぁ!?」
…自分でもよく分からないが、なんかついふざけてしまった。…なんだろうな、ほんとに。空気が重苦しくて耐えられなくなったのか…?
「いや、そりゃ適当に決まってんだろ。人間割り切っていい部分と悪い部分があるだろうし」
「だ、だったら物々しいトーンで言うんじゃないわよ…もう……」
「はっはっは。けど実際相手が人だからって特別視する必要はないと思うぞ?結局大事なのは、実力とそれを発揮する精神だからな」
「…なら、やっぱり訓練はしておく方がいいわよね」
「うっ…しまった、墓穴を掘ったか……」
対人ったって霊装者もピンからキリだし、もし魔物をペットの様に飼っていて、その魔物と戦う事になったら見ず知らずの霊装者以上に刃を向ける事を躊躇うだろう。…だから、人も魔物も変わらない。ただ躊躇う要素が多いかどうかだけの話で、それは実力と精神次第で乗り切る事が出来る。……まぁ、昔の俺は…色々と欠けてる奴だったから、これも今の俺が考える事に過ぎないんだがな。
そんな事を話している内に、真面目な話は終わっていた。まあ元々雑談として始まったんだから、終わるのがいつの間にかなのも割と当然の事。真面目な話になった事自体が、そこそこイレギュラーだったって事なんだろう。
(……楽観視、だったのかね…)
今の会話で引っかかる事があったとすれば、やはり俺の考えの事。まだ半年も経っていないのに複数回魔人以上の存在と相対してるとなれば、俺自身もこれまで程考えに自信を持てなくなる。…ただ、それでも……失いたくないからこそ、踏み切る事は出来ないし、今の考えを信じている俺もいる。…だから……
(…もう暫くは、維持しながら考える…そうさせてくれ)
その思いは、妃乃に対してか、緋奈に対してか、世界に対してか…或いは、俺自身に対してか。自分でもはっきりとは言えないが……それが惰性だとか現実逃避だとかではなく、意思があり考えた上での思いだって事だけは断言出来る俺だった。