双極の理創造   作:シモツキ

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第七十二話 夏休みの直前に

「…もう夏休みも目前、か…」

 

筆箱や教科書等を鞄に突っ込みながら、ふと呟く。長くなった日中に、青々と茂る草木に、もう半袖でも暑い気候と、誰だって『夏』だと思う季節になった。…俺が言ったのは夏だなぁ、じゃなくて夏休みだなぁ…だが。

 

「…………」

 

反応を期待して呟いた訳じゃないが、俺の言葉に返してくれる奴は誰もいない。だが御道は生徒会の方に行ってるし、妃乃は綾袮と話しているし、そもそも半径1m以内にでもいないと分からねぇだろう…って位の声量しか出してないんだから、反応がなくてもそりゃ当然の事。

 

(…うん、帰ろう)

 

鞄を持ち、教室を出る俺。春先は偶に放課後寝てたりもしたが、暑い中じゃ寝る気にもなれない。

 

「さって、今日は買い出しに……」

 

学校を出て十数秒。冷蔵庫や戸棚には何がどれだけ残ってたかなぁ…と思い出し始めたところで、ポケット内の携帯が通知の音を伝えてくる。

さて何だろうかと携帯を見ると、届いていたのは妃乃からのメッセージ。急ぐ訳でないなら少し待ってほしい…か…。

 

「…これ分かった上で帰ったらどうなるんだろうな」

 

別にやってやろうとは思ってないが、何となく帰った場合の展開を考えてみる。…まぁ、実際には考えるまでもなく「よくも無視したわね…」とか言われるだろうけど。

 

「待って、か…なんか用事あるんだろうなぁ…」

 

もしもこれが「一緒に帰りたいから」とかなら「可愛い奴め…」と言いたくなるが、送り主が緋奈ではなく妃乃なんだからそんな展開ある訳ない。となれば十中八九用事がある訳で、じゃあそれは何だろうか…と考えていたところ、メッセージの送り主さんがやってきた。

 

「悪いわね、足を止めさせて」

「大した事ねぇから気にすんな。…で、何のご用事で?」

「ちょっと話しておきたい事があるのよ。別に家でしてもいいけど、家より帰りながらの方が緋奈ちゃんに聞かれる危険性が低いでしょ?」

「あぁ…そういう話か」

 

緋奈の耳に入れたくない話というなら、それは考えるまでもない事。それを理解した俺は歩き出す。それから暫くは多少距離を開けて歩き、ある程度学校から離れたところで距離を詰めて話を再開。

 

「なんか厄介事か?…まさかまた魔人じゃないだろうな…?」

「まさか。…夏休みの後半に、若手を集めての合宿…っぽいのをするから、その関係で家を空けなきゃいけなくなるのよ」

「…っぽいの?」

 

話というのが気の重くなる内容じゃなくて一安心(前の魔人の件もあるから、一応表情や声音には気を付けなきゃだが)するも、妃乃の回答は中々気になる点が多いもの。その中でも一番気になった点を口にすると…妃乃はまぁそうよねとでも言いたげに肩を竦める。

 

「えぇ。強制じゃないからそこまで多くは人集まらないし、強い信念の下やってるってより前からの恒例だから一応続けてるって感じのやつだもの」

「ふぅん…なら、俺は行かなくていいんだよな?」

「行かなくてもいいし、行く気ないだろうからそういう方向性で話してるんだけど?」

「あ…言われてみりゃそうか…」

 

もし俺も行かなきゃならないのなら、或いは来る事を勧めるのなら、まずは合宿っぽいやつの説明から始める筈。で、それをしないってのはつまり、呼ぶつもりがないって事。…御道や茅章は行くのかねぇ…。

 

「だから、後半は一時期不在になるって覚えておいて頂戴。近くなったらまた言うから、今は正確な日付は覚えてなくても大丈夫だけど」

「あいよ。…そうなると、その間はまた緋奈と二人か…」

「私がいないからって、緋奈ちゃんに変な事するんじゃないわよ?」

「いや、あのなぁ…言っとくが緋奈は妃乃じゃなくて俺の妹だからな?後妃乃が来るまでは元々二人で生活してたんだっての」

 

緋奈と友好な関係を築くのは一向に構わないが、姉ぶろうとするなら実兄の俺を軽んじてもらっちゃ困る。…なんて思いで一度返した後、それより…と俺は言葉を続ける。

 

「いない間は、何かあっても俺一人で緋奈を守らなきゃいけない訳か…時間に余裕のある夏休みなのが幸いだな…」

「…一応、緋奈ちゃんをこっちに呼ぶ事も考えたわよ?前にも言ったけど、緋奈ちゃんも多分こちら側だから呼んじゃいけない理由はないし」

「けど、それは俺に反対されるだろうから止めた…って訳か」

 

俺の言葉に、妃乃は首肯。前に散々言ったから覚えているのは不思議じゃないが、やっぱりこうして常に考慮してくれているのは凄く助かる。

 

「幾つかプランはあるけど、取り敢えずは期間中緋奈ちゃんの安全確保に人を回してもらう方向でいこうと考えてるわ」

「…それは、もう依頼出したりしてるのか?」

「ううん。貴方に話してからするのが道理ってものでしょ?」

「ならよかった。…妃乃、その必要はねぇよ。その期間中、緋奈は俺がきちんと守る」

「え……?」

 

欠員が出たら、別の人に補充に入ってもらう。それは至極当然の事で、良いとか悪いとか以前の事。…だが、俺はそれを否定する。

 

「元々は俺一人で守るつもりだったんだ。妃乃がいなくなるからって、欠員補充を要求しようとは思わねぇよ」

「いや、それは…最悪緋奈ちゃんの命に関わるんだから、遠慮なんかするんじゃないわよ。別に忙しい人へ更に追加の仕事を与える訳じゃないんだから、借りられる手は素直に……」

「…それじゃ、筋が通らないだろ。今は俺の我が儘を聞いてもらう事で成り立ってる環境なんだ。だったら大変な事や想定外な事があっても、安易に協会を頼っちゃいけない。…そういう事は、妃乃だって分かってるんじゃないのか?」

 

俺は足を止め、こちらを向いた妃乃を真っ直ぐに見据えて言う。遠慮なんかじゃない。自分で選んだ道の責任は、自分で取らなきゃいけないという、人として当たり前の事。

俺は周りの善意に助けられなくても生きていけるような人間じゃないが、善意を受けるのが当たり前だと思うような人間にはなりたくないし、ましてや「緋奈を守る」なんて言いながらやってる事は善意におんぶに抱っこだなんて…そんなの、自分が可愛いだけでしかねぇよ。

 

「…ここで別の人に頼っても、筋が通らない事はない…私はそう思うわ」

「かもな。だが俺はそう思わねぇし、一度重要な事で自分を誤魔化したら、今後も俺は面倒な事がある度誤魔化そうとしちまう…そんな気がするんだよ」

「……万が一があったら?」

「本当にどうしようもなくなったら、頼れるものを片っ端から頼るさ。…その前に、打てる手を全て尽くしてからな」

 

自分の道の責任は自分で取るつもりだが、何も絶対に誰にも頼らない訳じゃない。…それは、妃乃に納得してもらう為の方便という面もあったが…同時に俺の本心でもあった。さっき出したろ?俺は周りの善意無しで生きられるような人間じゃないって。

妃乃を見据えて、言い切ってから十数秒。言葉を受けた妃乃は瞳に思案の色を浮かべ…それから軽く頭をかいて、再び歩き出した。

 

「…分かったわ。いない間の事は悠弥に任せる。貴方が責任を大切にするなら、きちんとその責任を果たしなさい」

「任せろ。ちょっとの期間位、妃乃が離れていても問題ないって証明してやるよ」

「それなんか悪い事が起きるフラグになりそうなんだけど…」

 

後を追うように俺も動き出し、妃乃の隣を歩く。100%、完全に…って訳じゃないんだろうが、妃乃の言葉からは納得の意思が感じられた。…一応でも納得してくれたのなら、それで十分だろう。

 

「…でも、そんなに責任を意識して背負わなくてもいいと思うけどね。事情や立場はどうあれ、私も貴方もまだ高校生なんだから」

「…そうだな。特殊でも何でも高校生は高校生だもんな。俺も、妃乃も」

「……今、私を強調した?」

「疑問形かよ…まぁ、気付かないよりはまだマシだが…」

「え、いや、何?何の話?」

「こっちの話だ。それより家帰る前に買い出し行くから、暇なら付き合え」

 

そう言って角を曲がり、進路を家への道から最寄りのスーパーへと移す。

過ぎたるは猶及ばざるが如し。宗元さんは妃乃をそう評価していて、実際その時俺も少なからずそれに同感だったが…まだまだ妃乃の過ぎたるが直るのは先らしい。…まぁ、こういうのは口頭で伝えたって中々実感出来ねぇし、俺も下手に意識するよりは意識せず接した方がいいんだろうな。

 

 

 

 

スーパーへ寄ってから数十分。買う予定の物と買う予定はなかったものの、今後の手間を減らす為に買い物かごへ入れた物を買って店を出た俺達は、特に寄り道せず帰路へと戻った。…まぁ、スーパーに寄った事自体が寄り道ではあるが。

 

「よかったわね。買い物行くつもりの時に私が来て」

「はいはいありがとうごぜぇます」

 

今回の買い物は袋二つ分で、その内片方を妃乃が持っている。袋二つ位鞄があったって俺一人で持てるが…片方持ってくれるってなら断る理由もない。流石に俺も一応男だから、渡したのは軽い方なんだけどな。

 

「しかし暑いな…今日は決めてるから別として、近い内に素麺でも食べるか…」

「へぇ、貴方も季節に合わせた料理するのね」

「当たり前だろ、どこに暑い時鍋にしたりグラタン食ったりする奴がいるってんだ」

「…いると思うわよ?世の中には」

「いやそりゃそうだが…」

 

風情とか季節感とかじゃなく、寒い時は温まる物が食べたいし、暑い時は冷たい物やさらさらと食べられる物が欲しくなるもの。否定するつもりはないが、暑い時にこそ熱いものを…なんて奴の考えはよく分からないね。

 

「…そういえば、千嵜家には一般家庭用のかき氷機があったりする?」

「ん?…探しゃどっかにしまってあると思うが…使いたいのか?」

「使いたいっていうか、興味があるのよ。一人暮らしするまではそんなの使う機会一度もなかったし、一人暮らしになってからも買うのは躊躇われたし…」

「あぁ、大概子供向けのデザインしてるもんな」

「綾袮なんかは買ってそうだけど…って、あら…?」

 

俺が店でかき氷機を遠巻きに見ながら買うか否か迷う妃乃の姿を想像して笑いそうになっていたところ、想像ではなく現実の妃乃が何かを見つけたらしき声を上げる。

 

「どうした、かき氷機の特売でもあったか?」

「な訳ないでしょ…ちょっと見知った顔を見つけてね」

「見知った…協会絡みか?」

「正解。あそこの自販機で飲み物買ってる二人よ」

 

妃乃の示す方向に目をやると、そこにいたのは外国人らしき二人組。……うん?外国人…?

 

「…ぱっと見日本人じゃないんだが…協会って、結構幅広い人材を確保してるのか…?」

「あぁ違う違う。協会絡みの人ではあるけど、別にうちの協会所属って訳じゃないわ」

「そりゃどういう…って、あー…あれが例の…」

 

一瞬返答の意味が分からなかった俺だが、訊き返しの最中に気付く。どうもあの二人が、最近来た外国からの来客らしい。

 

「…なんであんな所に?」

「さぁ?散歩してて喉乾いたとかじゃないの?」

「…二人だけで?」

「護衛は付かないわよ。別に要人って訳じゃないし、双統殿周辺の案内は綾袮と顕人がしたらしいし」

「ふぅん……」

 

来客の二人ってああいう感じなのか…というのがぱっと見の感想。自販機で飲み物買って飲む、なんて動作に国ごとの個性なんざある訳ない(多分)から、抱く感想はほぼ外見のみからのものだが…なんつーか、落ち着いてそうだなぁ…。

 

「…話してみたい?」

「いや別に」

「…そういうところよ、貴方の交友関係が狭い原因は」

「うっせぇ。最近一人増えたわ」

「あ、そうなの?」

「俺だってその気になりゃちょろいもんなんだよ。後予言者含めたら二人だな。こっちは精々知り合い程度だが」

 

交友関係が広いに越した事はないが、交友関係広げる為に誰かへ話しかけるのはどうなのか。交友関係が広くなるのは結果的なものであって、それ目当てに人と接するのは相手に失礼っものだろう。…と、綾袮とやり取りしながら俺はそんな事を考えていた。これが俺の本心だと見るか、積極的に人と関わろうとしない事への言い訳と見るかは貴方次第。まぁ、どっちで取られようが俺は構わない……

 

(……あ、今目が合っ……た…?)

 

こちらの視線を感じたのか偶々なのかは分からないが…俺達の方へと首を回した二人の内の一人。その一人と、ぼけーっと見ていた俺の視線とが、この時一瞬合った。……気がする。んで、結論から言うと……合ってた。

 

「────」

「────」

「──……あぁ、やはり時宮家の方でしたか」

 

背の高い方が俺と目の合ってた方へ話しかけ、何かしらの会話をした後二人はこちらへ。俺とは初対面という事もあり、背の高い方は妃乃の方へと声をかける。

 

「奇遇ね、二人共。私達の視線に気付いたの?」

「いえ、ラフィーネが横向いていたので何かあったのかと訊きましたら、誰かと目が合ったと言われまして。で、ラフィーネの見ていた方を向いてみたら…」

「私達がいたって訳なのね」

 

妃乃と彼女とのやり取りにより、案の定目が合っていた事、合っていた人はラフィーネというらしい事が判明する。…国外の霊装者でも一部は日本語使ってるって生まれ変わる前に聞いたが、それにしても流暢だなぁ…。

 

「…して、こちらの方は?」

「千嵜悠弥。前に会った時ちょっと触れた彼よ」

「あぁ、あの…私はフォリン・ロサイアーズと申します。こちらは姉の…」

「ラフィーネ・ロサイアーズ」

「あ、どうも。…って事は、姉妹なのか…」

 

背丈や積極性からしてフォリンの方が姉と思いきや、実際にはラフィーネの方が姉。…まぁ、うちだって社交性は俺より緋奈の方が高いだろうからおかしい話でもないが。てか、どうりで似てる訳だ…。

 

「貴女達は散歩?」

「はい、そんなところです。お二人は…あ、お買い物ですか」

「暇なら荷物持ちしろと言われてな…人使いの荒い時宮様だ…」

「ちょっと、暇なら付き合えって言ったのは貴方でしょうが」

「痛っ…す、脛は蹴るなよ……」

 

日本にやってきた二人に小粋なジャパニーズジョークを披露しただけなのに、妃乃は脛を蹴ってきた。酷い奴だ。

……というジャパニーズジョークはさておき、妃乃とフォリンが会話を続行。勿論二人だけ場所を移した訳じゃないが…それぞれ相方が無愛想と無口(と思われる)なんだから、会話の中心が二人になるのは自然な流れ。俺は女子同士の話に耳を傾けるつもりはなく、かと言って会話に積極的参加をするつもりもなかったから何となく聞き流していると……また、ラフィーネと目が合った。

 

(二度目…ってか、さっきからずっとこっち見てないか…?)

 

それぞれ適当に視線を動かしていた結果合ったなら偶然だが、片方がずっと見ているのならそれは半分必然のようなもの。…っていやいや、俺をずっと見てるとかねぇだろ普通…とも思ったが、今もこっち見てるから多分間違いない。

 

「…………」

「…………」

「……な、なんか俺に付いてるか…?」

『……?』

 

気付いてから数十秒。流石に気になってしょうがない俺が声を発すると、話していた二人の視線が俺へと向けられた。…まあそりゃ、二人からすれば俺がいきなり謎の発言をした訳だから変に思うのも当然なんだが。

 

「…………」

「…あの、ラフィーネさん…?」

「……わたし?」

「そう、わたし」

「……そう」

 

俺が問いてから、自分が問いかけられた事に気付くまで数回のやり取りを要したラフィーネ。…天然だったか……。

 

「……妃乃。前に話した時、貴女は彼がまだ新人だと言っていたと記憶している。それに間違いはない?」

「え?…えぇ、間違いないわ」

「なら……貴方は、中々出来る人」

「……!」

 

表情も声音も変えないまま、事も無げにそう言ったラフィーネ。その言葉に俺は……純粋に驚いた。

余程霊力探知に長けているのか、優秀な洞察力を持っているのか、或いはその両方なのか。何にせよ、ラフィーネはこの瞬間までに俺の実力をかなりの域まで理解したようだった。…少なくとも、ラフィーネの瞳からはそういうものを感じる。

 

「…よく分かったな。その様子だと、妃乃の実力の全容も分かったりするのか?」

「それは無理。簡単に分かる程底の浅い実力じゃない」

「ま、それもそうか。…ふーむ、中々出来るのは日々の鍛錬のおかげかな?」

「…そこまでは分からない」

 

眉一つそういう事言われると、ラフィーネも物凄い実力者なんじゃないかと思っちまうよなぁ…なんて考えながら、内心安堵する俺。

どこまで読まれたか分からなかった俺は、ラフィーネへとカマをかけた。だが、その返答から…そこまでは分からない、という言葉から俺の過去までは見通せていない事が判明した。全部読まれてたら…とヒヤヒヤしたところだが、これならまぁ大丈夫そうだな…。……嘘は言ってないぞ?筋トレだって日々の鍛錬なんだからよ。

 

「新人にしては中々出来るのよね、悠弥は。まあそれを鼻にかけてちゃんと学ぼうとしないのが問題だけど」

「勝手な事言うなよ…そりゃ全くの事実無根って訳じゃないが…」

「なら、別に勝手な事じゃないでしょ?」

「……さっきの事、根に持ってやがったな…」

 

ここぞとばかりにさっきの仕返しをしてくる妃乃は、やっぱり酷い奴だった。…追求されないよう話を逸らしてくれた可能性もあるから、それを口にはしないけど。

 

「さて、散歩中ならあまり長く引き止めるのも悪いわよね。私達はそろそろお邪魔させてもらうわ」

「お邪魔…?…えぇ、と…双統殿に来られる、という事ですか…?」

「え?…あぁ、お邪魔するは立ち去るとか帰るとかそういう意味でも使うのよ。お邪魔します、じゃなくてお邪魔しました、の方…って言えば分かる?」

「そういう事でしたか。勉強になります」

「うんうん、なるなぁ…」

「いや貴方は知ってるでしょ、何のボケよそれ…」

 

会話の最後は日本語のお勉強になり、俺達と姉妹は別れる。…てか、よく考えたら謎だよな。入る時も邪魔するなのに、出る時去る時も同じ邪魔するで意味が通ってしまうのは。本当に日本語は奥が深い…。

 

「…凄いもんだよな。外国行って、短期とはいえそこで普通に暮らすってのは」

「そうね。…でも貴方もある意味大したものじゃない?国じゃなくて何十年もの『時間』を、一方通行で渡っても尚普通に生活してるんだもの」

「案外慣れるもんさ。俺の場合、前世の事を忘れたまま過ごしてた期間も長い訳だし」

 

別れたとはいえ、暫くの話は姉妹絡み。多分妃乃は「そんな簡単な事じゃない気がするんだけど…」とか思ってるんだろうが、人間自分が過去に経験したものより経験した事のないものの方が大変だと思うもの。実際のところはともかくとして、な。

 

「…意外だったりした?当然模擬戦での全勝はあの二人なんだけど」

「意外じゃねぇよ。そんな感じはしたからな」

「へぇ、よく感じられたわね」

「探知で、じゃないがな。俺は実力を測れる程の力はないが…強い奴の雰囲気は、沢山見てきて知ってるつもりだ」

「そうだったわね。確かに二人の雰囲気には、私も奥の深さを感じたわ」

 

本当に強い奴は、それを気取られないよう隠す術も知っている。だが表面は隠せても本質は変えられないもので、何度も見ればそれを『何となく』感じる事が出来る。そして二人にもまた、そんな感じが雰囲気の中にあった。

妃乃に綾袮、あの姉妹と、俺と同年代ながら卓越した力を持つ霊装者は何人もいる。このレベルをこの年齢で、なんて普通はない筈なんだが……

 

(…世間は狭い割に、世界は広いもんだな)

 

再び霊装者となってから、俺の中の常識がちょいちょい変わっていく……ふと自然に、そんな事を思った俺だった。

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