双極の理創造   作:シモツキ

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第七十四話 仕事終わりの姉妹

霊装者は夏季休業があるような仕事じゃない。予定を立てる際綾袮さんはそう言っていて、俺もそうだろうなぁと思っていた。だってそりゃそうだろう。本業である魔物の討伐は、魔物がバカンスで人里離れた場所にでも行ってくれない限り休めないんだから。だが、だがよぉ……

 

(初っ端から出動かかるかね…!)

 

逃げる魔物を綾袮さんと追撃しながら、心の中で呟く。山へと逃げ込むアルマジロみたいな魔物(足小さいのに結構早い)は見た目通りに背中が硬く、散発的に弾丸が当たる程度じゃビクともしない。

 

「山ならスピードは落ちる筈…顕人君はこのまま追撃かけて注意を引いて!」

「はいよッ!」

 

霊力の翼をはためかせ、加速しながら上昇していく綾袮さん。逆に俺は若干高度を落とし、追いかけながらセミオートで射撃を続けると山を駆け上がり始めた魔物は綾袮さんの予想通りスピードが些か落ちて……その直上で、天之尾羽張の斬っ先を下へ向けた綾袮さんが急降下をかける。

 

「てやぁぁぁぁああッ!」

 

高い能力と重力による加速のかかった降下は圧倒的な速度を誇り、その存在に気付かず逃げる魔物の背中を狙い違わず刺し貫く。俺の射撃はその硬さで弾いていた魔物の背中も、勢いの乗った綾袮さんの一撃の前では薄い壁に過ぎなかった。

 

「これで…討伐完了!…っと」

 

魔物の背中に飛び乗った綾袮さんは、ある程度天之尾羽張を抜いたところで横へ振り上げ魔物の身体を掻っ捌く。既に刺し貫かれた時点で重傷を負っていた魔物は、内側から身体を引き裂かれた事で完全に絶命。少し遅れて俺がその場に降りた時には、もう消滅が始まっていた。

 

「これで終了だね。顕人君お疲れ様」

「綾袮さんこそお疲れ様。ふぅ、二体ともすばしっこくて今日は骨が折れたね…」

「うんうん。しかも両方碌に戦いもせず逃げるとは…今回は戦った時間より追っかけてた時間の方が長いかも…」

 

普通の魔物なら手を抜いてでも勝てる綾袮さんでも、逃げに徹せられるとそう簡単にはいかなくなる。勿論簡単にはいかないと言っても、それはあくまで『時間がかかる』ってだけなんだけど…夏場にそれは、ちょいと辛いよね。

 

「…あ、今思ったけど顕人君は『攻撃そっちのけで逃げる』タイプと、『逃げるって発想がない位徹底抗戦してくる』タイプのどっちが苦手だったりする?」

「え?…うーん、綾袮さんとなら前者の方が厄介だけど…一人でなら後者の方が苦手かな。やっぱ攻撃当たるのは怖いし」

「ま、そうだよね。生物としてはどっちが正しいのかなぁ…」

「さぁ…それはなんとも言えないけど…」

 

生きる為に逃げるか、それとも戦うか。それは状態だとか戦力差だとか色々なものが関係するから、一概にはどっちかなんて言えないもの。…と、そう思った俺は、そこでもう一つの事が心に浮かぶ。

 

「……正しい、か…」

「……?」

「今回は早々に撤退を選んだだけ、って感じだったけど…そもそも最初から戦う気がなかった場合でも、やっぱり徹底的に追いかけて討伐するものなの…?」

 

ふと思った…いや、前から頭のどこかにはあって、でも無意識に「そういうものだ」と処理していた、魔物を全て殲滅すべきなのかという疑問。別に魔物を討つ事に強い嫌悪があるとか、魔物にも家族や友がいる筈だ…みたいな発想がある訳でもないけど、ずっと気にはなっても口にはする事なく消えていった考え。…それを聞いた綾袮さんは、「あぁ…」とゆっくり天之尾羽張を鞘へしまいながら声を漏らす。

 

「…多くはないけど、いるんだよね。使命だから、敵だから…って、何でもかんでも倒す事だけが正解なのか疑問に思う人は」

「…綾袮さんは、どうなの?」

「わたし?わたしは典型的な『使命だから』って考えて疑問にも思わないタイプかな。わたしや妃乃、それに霊装者としての歴史が長い家系にとっては、それが『普通』だったからね」

「普通……でも、その口振りだと疑問に思う事をおかしいとは思ってないんだね」

 

疑問ってのは自分の思う『普通』から外れている、或いは外れてしまったものに対して抱くもので、魔物討伐が普通の根底部分にあるであろう綾袮さんがなんとも思わないのは、それこそ普通の話。けど、俺の思った通り綾袮さんは首肯する。

 

「その疑問を聞いたのは初めてじゃないからね。…で、顕人君が求めてるのはこれが正しいのかどうか…でしょ?」

「…うん。正解があるなら、それを聞いてみたい」

「だよね。…でも残念だけど、これに絶対的な正解はないよ。多くの人が納得出来る答えとか、正しく聞こえるこあはあるけどさ」

「…と、言うと?」

「最初から戦う気がない魔物は、その場では無害かもしれない。けれど普通の人が相手なら襲うかもしれないし、力を付けた上で霊装者に牙を剥くかもしれない。敵を気遣うのも悪くはないけど、まず気遣うべきは仲間や守るべき人が安全に生活出来る事だろう…とかかな」

「それは…うん、そうだね。寸分の隙もない…とまでは言わないけど、少なくともそれは間違ってないと思う」

 

その場では無害でも、今後も無害だとは限らない。それは本当にその通りで、襲われるのだって無関係な相手になる可能性は十分ある。…そう考えれば、やっぱり倒せる魔物は倒せる時に倒すのが正しいんだって、俺も思う。……もやっとする所がないと言えば、嘘になるけど。

 

「…まあでも、大事なのは自分の考えを持つ事だよ。納得出来る答えを持てればベストだし、それがなければ焦らずじっくり探せばいいんだし。一番良くないのは、きっと疑問を何も持たない事だよ。それじゃ道具と変わらないもん」

「……それって…」

「…あ、別に自虐とかじゃないよ?さっきは疑問にも思わないタイプって言ったけど、あれはあくまで自分から疑問を抱いたりはしなかったってだけ……」

「…綾袮さん?」

「…もう一体、こっちに来てる」

 

後一息、というところで言葉が途切れた綾袮さん。何か思うところがあったのかと俺が名前を呼ぶと…返ってきたのは、真剣な眼差しと抜刀された刃の音。それから綾袮さんは、山の一方へと目を向ける。

 

「もう一体って…三体目…?」

「今日は多いねぇ…まだ戦える?」

「まだまだ戦えるよ。霊力量には自信があるからね」

 

綾袮さんと会話をする中で、俺も魔物の存在を感じ取る。俺が感じ取れたって事は、かなり接近してきている証拠。その魔物に敵意があるのかどうかはまだ分からないけど…分からないからこそ、臨戦態勢を整えておくに越した事はない。

 

「さって、来るよ顕人君。…5、4、3、2、1……」

 

俺はライフルと二門の砲を、綾袮さんは天之尾羽張を来るであろう方向へ向け、魔物を待ち構える。そして綾袮さんのカウントダウンが終わるとほぼ同時に、草木の間から円盤の様なモンスターが姿を現し……その背後から、何十発もの銃弾が魔物を撃ち抜いた。

 

「え……?」

「……!これは…!」

 

思いもよらない事態に俺は目を見開き、綾袮さんは何かに気付いたような声を発する。その間も銃撃は続き……それが止むと同時に銃撃と同じ方向から現れた何かが、落下し始めた魔物を両断した。

着地した何かと、墜落する魔物。真っ二つとなった魔物を尻目に立ち上がったのは、群青色の髪を持つ少女。

 

「……ラフィーネ、さん…?」

「…ん、そう」

「あー、やっぱりラフィーネだったんだね」

 

反射的に口から出た名前に反応して、こちらを向きつつ小さく頷くラフィーネさん。それに続いて綾袮さんも口を開くけど…こっちは俺より先に分かっていた様子。

 

「…って事は、さっきの銃撃は……」

「私ですよ、顕人さん」

 

途中まで言った俺の言葉に応答しつつ、先程の俺と同様前衛に遅れてこの場へフォリンさんが到着。真っ二つの魔物が消滅する中で、俺達と姉妹は合流する。

 

「…驚いたよ。まさか二人がいるなんて…」

「それは私達もです。お二人は…もう終わった後ですか?」

「丁度さっきね。…二人って、うちとの合同討伐が入ってたんだっけ?」

「いえ、自主的に頼んだんです。訓練だけでは実戦の勘が鈍ってしまいますから」

 

ふむふむと二人の会話に頷いてみるも、姉妹の予定なんて知らない俺は「へー、そうだったんだ」位の感想しか出てこない。一方同じく口を開いていないラフィーネさんはと言えば、武器のナイフと拳銃の状態を確認していた。

 

「うーん、折角こんな驚きの形であったんだからお喋りしたいところだけど、とても雑談に適した場ではないよねぇ…」

「暑いですし虫の鳴き声も結構大きいですからね…ふぅ、ほんとに暑い……」

「…一応、水分補給した方がいいかも」

「…あ、じゃあさ、二人共ちょっとうちに寄っていかない?双統殿戻るならそんなに遠回りにならないし、この後予定あったりしないでしょ?」

「それは…えぇ、ありませんけど…」

 

そんなに二人とお喋りしたかったのか、それともお喋りは建前で別の意図があるのか…ともかく綾袮さんは二人を家に誘って、フォリンさんからも無理ではない、という様子の言葉が返ってくる。後はラフィーネさんが否定的な事を言わなければ恐らく二人は綾袮さんの……って、ん?…という事は……

 

(……うち来るの?)

 

俺は綾袮さんと同じ家に住んでいるんだから、綾袮さんの家に来るという事は即ちうちに来るという事。…となるとちょっと話は変わってくるぞ…?別に来てほしくない訳じゃないけどさ…。

 

「ラフィーネ、どうします?」

「…わたしはそれでも構わない。フォリンは?」

「私もですよ。…という事で、寄らせて頂いてもいいですか?」

「うんうん、いいよー。顕人君もそれでいいよね?」

「あ…まぁ、異存はない…かな」

「じゃ、早速帰ろー!」

 

善は急げ、とばかりに移動を始める綾袮さん。そんな急ぐ事はないんじゃ…と思いつつも、俺や姉妹も着いていく。

これまでにも家に女の子が来る事はあったし、妃乃さんなんかはもう何度も来ている。でもこれまで来た女の子は基本『綾袮さん絡み』であったのに対し、今回は半々…ではないかもしれないけど、4:6や3:7位で『俺絡み』の相手でもある筈。…そうなればまあ、ちょこっと心の準備が必要になるよね。もう既に整いつつある位、些細な準備ではあるけど。

 

「…なんか悪いね。綾袮さんに付き合ってもらっちゃって」

「いえ、この位お気になさらず。それに、どのような生活をしてるのか少し興味もありましたから」

 

移動の最中に交わした、何気ないやり取り。綾袮さんの生活に興味が?…と一瞬思ったものの、「綾袮さんの」ではなく「日本の」と考えたらしっくりきた。…そりゃ、俺だって外国の家庭やそこにあるものには興味が湧くからね。

早くこの暑さから逃れたいという気持ちも手伝い、さっさと移動した俺達は家に到着。しっかり日本の作法も理解していた二人は靴のまま中に…という事はなく、ちゃんと玄関で脱いでから上がってくれる。

 

「ふー、涼し…くないよねぇ、エアコン消してあったんだから…」

「今麦茶入れるからちょっと待ってて。…あ、それとも紅茶とかコーヒーの方がいい?」

「…麦茶でいい」

「私も麦茶で大丈夫ですよ」

 

ここに住むようになって以降、お客への気遣いが前より自然に出来るようになったなぁ…と思いつつ麦茶をコップへ。ついでに何かお茶菓子を…と思ったものの、普段来客用のお茶菓子が入っている棚は生憎空っぽ。

 

「しまった、買い忘れてた…綾袮さーん」

「なーにー?」

「何か二人に出せそうなお菓子ある?」

 

ちょいちょいと綾袮さんを手招きし、事情を飛ばして質問だけを口にする俺。でも期待通り綾袮さんは察してくれて、何かあったかと腕を組む。そして数秒後……

 

「…あ、今日顕人君が夕飯に作った卵焼きはどう?あれ甘かったよ?」

「卵焼きはどう考えたって茶菓子じゃねぇ…!お客さんに麦茶と一緒に出すのが卵焼きって、幾ら何でもシュール過ぎ……」

「あるなら食べる。少しお腹空いてるから」

「うわっ!?…き、聞いてたのね……」

 

いつの間にかラフィーネさんはキッチンの近くに来ており、声を抑えた突っ込みも彼女には筒抜け。しかもソファに座っているフォリンさんも「お願いします〜」みたいな感じの顔をしていて(フォリンさんには聞こえてないよね…?)、その結果…なんと綾袮さんの提案通り、お茶菓子の代わりに卵焼きを出す事に。

 

「前代未聞だよ…絶対おかしいって……」

「……悪くない」

「そうですね。美味しいですよ、顕人さん」

「…それはどうも……」

 

箸でもぐもぐと卵焼きを食べる二人は、俺に気を使っている様子はない。……でもね、違うのよ…そういう問題じゃないから…。

 

「はふぅ、やっと部屋全体が涼しくなってきた…二人共、寒過ぎたりしない?」

「大丈夫」

「丁度良いですよ。…で、お喋りとは……」

「あーうん。そうだねぇ、何話そうかなぁ…」

 

二人同様卵焼きを食べながら、綾袮さんは思案。話題が思い付かないのか、それともあり過ぎて選ぶのに困っているのかと言われれば…多分後者。

 

「…そうだ、二人はどういう所に住んでるの?」

「私達の、ですか?」

「うん。っていうか、もしかして別の場所で住んでたり?」

「いえ、私もラフィーネも同じBORG所有の建物で住んでいますよ。内装はまぁ…ここより質素ですけど」

 

少し考えた後綾袮さんが選んだのは、二人への質問。…確かに二人はあんまり華美な内装にしたりはしなさそう…勝手なイメージだけど。

 

「へぇー。…そういえば、顕人君の実家の部屋はどんな内装してるの?」

「それは大体今の部屋と同じ感じ…って俺に関する質問!?もう二人が直接関係しない話題になってるよ!?」

「いいじゃん別に。二人も気になってるかもしれないよ?」

「え……そう?」

 

早々に「今それを訊く?」と言いたくなる質問がきて、つい俺はノリ突っ込み。…が、綾袮さんは二人の興味も意識しているような返答をしてきて、それを受けた俺が二人を見ると……

 

「…いや、別に」

「そもそも私達、今の顕人さんの部屋の内装も知らないので……」

「ですよねー…はは……」

 

…二人はとても正直者だった。というか…割と当たり前な気がする、この反応は。

 

「あっさり否定されちゃったねぇ…あ、なら顕人君の部屋見てみる?」

「あぁ、それなら…えぇ!?何自分の部屋みたいな軽さで提案してんの!?」

「これぞ顕人の部屋!」

『……?』

「どこが!?ねぇどこに長寿番組感あったの!?てか伝わってないからね!?二人共きょとんとしてるからね!」

 

今日も綾袮さんの突飛なボケは絶好調。でも残念ながらイギリスの人である二人にはネタが伝わっていなかった。……って違う違うそうじゃない、ボケに流されるな俺…。

 

「むー……で、どうする?行く?」

「いやいやだからおかしいって…というか行く訳が……」

「……行ってみる?」

「行ってみますか」

「あった!?」

 

綾袮さんのノリに流されるものかと俺は自分を律し、冷静に話を逸らそうとするも……どういう訳か行くという旨の発言をされてしまった。な、何故に…!?

 

「いや、あの…お、お二人共…俺の部屋は興味ないのでは…?」

「興味、と言いますか…折角の提案を無下にするのは悪いかと思いまして…」

「そういう意図!?…うぅ…(それだと断り辛い…)」

 

興味本位で見たいというなら、こっちの都合もあるの一点張りで断る事も出来るけど…気遣いによるものとなると、途端に断り辛く(断り『難い』ではない)なる。…と、いう訳で……

 

「…こういう部屋をしているんですか…」

「…普通」

 

今月知り合ったばかりの女の子二人が、よく分からない流れで俺の部屋を訪れていた。綾袮さんもいるから、現在俺の部屋の男女比は1:3となっていた。…しかもラフィーネさんから『普通』認定されてるし…。

 

「…ご満足ですかい、ご両人……」

「えぇ、まぁ…一応……?」

「……フォリンさん、そんな微妙されたら俺はどうすりゃいいかさっぱり分からないよ…」

「…何か、すみません……」

 

意味不明さに加えてパッとしない反応をされ、テンションが超低空飛行状態となった俺と、反省…というか選択ミスを自覚した様子のフォリンさん。そして綾袮さんはといえば「あちゃー…思ったより盛り上がらないなぁ…」みたいな顔をしていて、ラフィーネさんは……ベットの下を覗いていた。

 

…………。

 

「わぁぁぁぁっ!?な、なな何してんの!?そんな所には何も隠してないよ!?」

「…残念。この下に布団をしまっているのかもと思ったのに…」

「そんなベタな……ん?…布団…?」

「うん、布団」

 

とんでもないブツを探され始めたと俺は大慌て。何故そんな知識があるのか、ベット下に隠すというネタは世界共通なのか、というかラフィーネさんはそれを探してどうしたいのか……超加速を起こした俺の頭をそんな思考が次々と流れていく中、ふと引っかかった布団という言葉。…布団?布団って、あの布団?…という事は、つまり……俺が()()()()()()()と?

 

「…………」

「…………」

「……は、はっはっはー!布団が見たかったのかー!それは残念だったねぇラフィーネさん!」

「……そのテンションは、何…?」

「気にしなくて宜しいッ!」

 

安心と同時に襲いかかる、勘違いしていた事への恥ずかしさと追求されては不味いという焦り。そのせいでテンションが妙に高ぶり、それに対する指摘は強めの一言で一蹴という中々俺らしからぬ態度を取ってしまった。

けど、不幸中の幸いの幸いと言うべきか、その強めの一言が功を奏してラフィーネさんは追求をしてこなかった。それは布団がないと分かった時点で興味が失せたという可能性もあるけど…まぁそこはどっちでもいいところ。危ない危ない、でもこれで一先ず危機は……

 

「顕人くーん、君は布団を何と勘違いしてたのかなー?」

「顕人さん、明らかに動揺していましたね…」

 

……去っていなかった。一難去って二難…いや、最初からあった三難の内一つが無くなっただけだった。

 

「……ナ、ナンノコトカナ-?」

「うわっ、分かり易っ!凄いあからさまな反応だね!」

「ここまであからさまだと、逆に演技っぽく見えますね…」

「……!そ、そう演技!これはそういうボケ!い、いやぁこんなに早くバレるとはなぁ──」

「いや、それは嘘だよね」

「……そうです、はい…後追求はしないで下さい…後生ですから…」

 

普通に鋭い綾袮さんと、普通に俺が何か隠してると見抜いているフォリンさん相手に誤魔化し切れる訳がない。しかも話してる内にラフィーネさんも「あれ?まだ話続くの?」みたいな感じの新たな興味を抱きつつあって……俺は切り抜ける事を諦めた。…いや、マジ無理だって…これもう追求は勘弁してもらうよう頼んだ方が賢明だって…。

 

「全く……犯人、確保」

「…ごめんなさい、罪はちゃんと償います刑事さん…」

 

ハンガーに掛けてあったシャツを綾袮さんに持ってこられた俺は、両手を合わせて前に出すと……そのシャツを両手に被せられて、刑事と捕まった犯罪者っぽい二人組が完成した。

 

「…………」

「…………」

「…ほら、二人も乗って乗って」

「え…の、乗ってって……」

「……悲しい、事件だった…」

「あ、あぁそういう……悲しい、事件でしたね…」

 

更に綾袮さんが振って、ロサイアーズ姉妹も茶番劇に参加する事となった。ゆっくりと首を振るラフィーネさんと、悲しそうに俯くフォリンさんの前を、綾袮さんに連行されて廊下へと出ていく。……こうして『小っ恥ずかしい勘違いしちゃった罪』で捕まった俺は、背中から哀愁を漂わせながら部屋を後にするのだった。……案外二人、ノリがいいなぁ…。

 

「…うん、良いオチ付いたかな」

「付いたかな、じゃないよ…俺散々だよ……」

「勘違いは自爆じゃん。でも、慌てた反応したって事はつまり……」

「つ、追求しないでって言ったじゃん!てかむしろ、そうだよっつってそっち系の物出されたらどうする気だったの!?」

「え……た、多分引っ叩いてたと思う…」

「ノープラン!?今考えたよねそれ!ちょっ、思い付きで人を陥れようとしないで!?」

 

茶番劇を終えるや否や、俺の突っ込みパートが再開。っていうか、綾袮さんの行いはあんまりだった。…これはほんとに反省してほしい…。

偶然山で姉妹と会い、こうして家に招く事となった今日。何故かお茶菓子の代わりに卵焼きを出す事になり、自爆で窮地に立たされ、挙句茶番劇でお茶を濁した夜。これを言葉で表すなら……意味不明の一言に尽きるよ、もう…。

 

「……はぁ…てか全然お喋りしてねぇじゃん綾袮さん…」

「…………」

「……?…あ、ラフィーネさん…どうかした?」

「…さっきの、わたしも刑事役やりたい」

「まさかの茶番劇に興味!?」

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