双極の理創造   作:シモツキ

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第八十二話 笑顔になるのは楽しいから

海水浴日和の日に、砂浜で、個性的な友達と、バーベキューで盛り上がる。…なんて充実した時間だろうか。正直言えば初めての経験という訳じゃないけど…砂浜が貸し切りだったり、面子の個性が本当に凄かったりで、刺激や魅力がこれまでに経験したバーベキューの比ではない。まさかこんな良いイベントに参加出来るだなんて、夏休みが始まったばかりの時は思ってもみなかった。

 

「ふぅ…運動してお昼食べたから、少し眠くなっちゃった…」

「子供みたいな事を…と言いたいところだけど、正直分からんでもない」

 

パラソル下のレジャーシートに座ってTシャツの上からお腹をさする茅章の言葉に、砂浜のある場所を眺めながら俺は首肯。運動と食事のダブルパンチ後に眠くなるのは、まぁ子供に限った話じゃないし。

昼食のバーベキューを終え、片付けも済ませた俺達はまた各々の活動に戻っていた。千嵜兄妹は浮き輪で海を漂っていて、ロサイアーズ姉妹は何やら妙に凝った砂の城を作っていて、綾袮さんと妃乃さんは少し離れた場所で何か話している。

 

「…凄ぇなあの城…あそこだけ砂じゃなくて粘土か何かなの…?」

「さ、さぁ……もしかしたら霊力混ぜ込んで、それを操作して崩れないようにしてるとか…」

「……そんな事出来んの?」

「あ、ううん、そうなのかなぁって思っただけ。……ふぁぁ…」

「あ、そう…ほんとに眠そうだねぇ…」

 

砂を盛って山なり城なりを作る、というのはかなり混んでる海水浴場じゃなきゃ砂浜でよくやる遊びの一つ。けど所詮砂浜の砂で作れるものなんて高が知れていて、精々サイズの違うバケツを使って城っぽい物を作るのが限度……の筈なのに、姉妹の作品は遠目に見ても城だと分かる物だった。…何その技術…二人には芸術家方面の才能が……?

 

「顕人君、ちょっといーい?」

「いいけど…って、綾袮さん…いつの間に…?」

「え、今さっきだよ?」

 

と、そこで横からかけられた声。それに反応して振り向くと、そこにいたのは綾袮さん。さて何だろうかと思いつつ、俺はパラソルの下を出て移動する綾袮さんに着いていく。

 

「…………」

「んー…緋奈ちゃんに聞かれるのは不味いけど他の人ならそんなに問題ないし、まぁここでいっか」

「……?霊装者絡みの話?」

「そーゆー事。ここがただのプライベートビーチとかじゃなくて、今月にある合宿風訓練とか偶にやる演習とかで使われる場所だって話は覚えてるよね?」

 

ちらりと距離を確認してから話し始めた綾袮さんに、俺は首肯。ここからは見えないけど、この島の奥の方には建物なんかもあるらしい。

 

「で、今は特に予定がなかったから使わせてもらってるんだけど…実はわたしと妃乃は、ある仕事も請け負ってるんだよね。っていうか、使わせてもらう代わりのお勤めって感じ?」

「仕事……清掃とか?」

「それも間違いではないね。片付けるのはゴミとか汚れじゃなくて、魔物だけど」

「ほぅ……え、はい?」

 

そんな事頼まれてたのか…と俺は一瞬流しかけて、すぐに訊き返す。い、いや確かに敵を倒す事を掃除って言ったり掃討する事を綺麗にするって言ったりはするけど……それって中々にヘビーなお勤めなんじゃ…。

 

「…ここって魔物の出没率が高い場所なの…?」

「ううん。でも無人島って事もあって普段は哨戒されてない場所だから、確認しておかなきゃ危ないんだよ。…あ、ここ周辺は既に確認済みだから大丈夫だよ?」

「そ、それはよかった……じゃあ、邪魔じゃなきゃ俺も手伝うよ?俺だって使わせてもらってるんだし」

「ありがと、でもその必要はないよ。何も確実に根絶しておけって言われてる訳じゃないし、あくまで大量発生してたり明らかにヤバい奴がいたりしたらその報告をして、可能なら倒しておけっていうのがおじー様からの指示だからね」

 

俺の抱く不安とは裏腹に、あっけらかんとしている綾袮さん。普段通りの態度って事は、そこまで重く受け止めなくていい仕事なんだと思うけど…実際どの程度に大変なのかよく分からないんだよね、普段の態度だと…。

 

「…今からそれをしに行くの?」

「うん。だからわたし達の事訊かれたら適当に誤魔化しておいてくれないかな?勿論話しちゃいけない訳じゃないけど、緋奈ちゃんの耳に入るのは不味いし」

「了解。俺も言ってくれれば手伝うから、何かあったら頼ってね。…って言っても、俺は頼りじゃなくて足手まといになる可能性の方が高いけど…」

「あはは、どっちになるかはさておきそう言ってくれるのは嬉しいよ。じゃ、行ってくるね」

 

にこにこと笑顔で軽く手を振って、それから綾袮さんは妃乃さんと一緒に奥の方へと歩いていった。…時間が経って多少は慣れてきたけど、それでもやはり水着の綾袮さんは眩しい。水着+笑顔+ばいばいのジェスチャーは……とても可愛かった。…後はどっちになるかをさておかず、顕人君だって頼りになるよ…とか言ってくれたら言う事なしだったけど、それは望み過ぎか。

 

(実際、まだまだ綾袮さんや妃乃さんとは天と地程の差があるしね)

 

頼ってもらえるのならそれは嬉しいけど、気休めを言われたい訳じゃない。俺とあの二人とは何倍何十倍もの経験の差があるんだから、雲泥の差じゃなきゃむしろおかしい。だから別に気にする事じゃないさ、綾袮さんの言葉に悪意もなかったんだからね。

そんな事を思いながら、俺はパラソルの下へと帰還。するとそこにはいつの間にか千嵜もいて……

 

「…すぅ……」

 

なんと、茅章が寝息を立てていた。…確かに俺が席を外す前から眠そうにはしていたけど…まさか本当に寝るとは……。

 

「…千嵜、なんかした?」

「俺が睡眠薬でも飲ませたとでも思ってんのか」

「いや、訊いただけ……うーん、寝不足だったのか…?」

 

先程俺は眠くなったという言葉に対して、分からんでもないと言ったけど…流石に寝てしまうとは思わなかった。…楽しみで寝られなかったとか、そんな訳ないし…実はかなりスタミナないとか、割とどこでも寝られるタイプとか…そういう系?

 

「……こうして見ると…てか、こういう状態だと尚更茅章って野郎感ないよな…」

「確かに…俺もあんまり男らしくない人間だけど、茅章はなんか…レベルが違うよね…」

 

小さく囁くような寝息を立て、軽く身体を丸めて寝る茅章はほんとにまるで少女のよう。…冗談抜きに、俺は茅章が実は女の子だったと言われても驚かない。そして多分千嵜も同じだと思われる。

 

「…………」

「…………」

「…危ねぇ、なんか色んな意味で危ねぇ……!」

「落ち着け千嵜、気持ちは分かるがマジ落ち着け…!」

 

目元を覆うようにこめかみの辺りを掴んでそう溢す千嵜と、落ち着くよう言いつつも視線を逸らす俺。何が危ないって、そりゃもう茅章に決まってる。俺も千嵜も多感な男子高校生だけど、世の多くの男子高校生同様常識も理性もきちんと備えている。だから綾袮さんを可愛いと思ったり、ラフィーネさんやフォリンさんにドキッとしても襲ったりはしないけど……それは無意識に『異性』というストッパーが機能してくれている事が大きい。…まぁ、同性だって襲ったらアウトだけど…異性というのは、それだけで人に踏み留まらせる力がある。

…が、茅章は異性ではない。加えて言えば、外見なんか気にせず遠慮無しの友達関係を築いている。だからこそ茅章は危ない。だって何かとストッパーが効き辛いポジションに茅章はいるんだから!

 

「…こ、こほん。そういや昼の時は悪かった。俺も焼く位は出来るのに…」

「あー…気にすんな。むしろ俺はそのおかげで緋奈に食べさせてもらえたとも言えるからな」

「分っかり易いシスコンだなぁ…」

「家族愛だ、疚しい気持ちなどない」

 

とはいえ、効き辛いからって茅章をどうこうしたりはしない。ストッパー云々は比較的の話であって、効き辛い分を差し引いても今自分を律する位の理性は俺も千嵜も持ち合わせているんだから。それに……気の良い友達悲しませてどうするんだっての。

 

「普通は妹に食べさせてもらったからって、そこまで喜んだりはしないと思うけどねぇ…」

「そんな事はない」

「そう?まぁ俺は妹いないから想像でしかな……うぉわっ!?ラフィーネさん!?」

 

人は自分が持っていないものを持つ人を羨むもの。けれど持っていないから羨望には偏見が混じり、逆に持つ人は持っていない人の気持ちが分からない上自分が普通だと思っているからこちらもやはり偏見が混じる。でもよくよく考えると、本来この話って俺が「妹といちゃいちゃしてるんだろ〜?」とか言って、千嵜が「んな訳あるか。妹なんか可愛くねーよ」みたいな返答するのが普通のパターンな筈で……なんて思ってたら、いつの間にかラフィーネさんが隣にいた。…び、ビビったぁ……。

 

「気が緩んでたとはいえ、全く気付けねぇとは……凄ぇなラフィーネ…」

「そう思うならもっと褒めてくれて構わない」

「う、うん凄いねラフィーネさん…で、えぇと…ラフィーネさんは、フォリンさんとの事を言ってるの…?」

「そう。わたしなら嬉しい」

「へ、へぇー…」

 

取り敢えずいつの間にかいたラフィーネさんに驚いた俺と千嵜だけど、そもそもラフィーネさんはある事を言っていた。それは俺の意見に対する否定の言葉で……確認すると、彼女はこくんと頷いた。

それから話が途切れた事もあって、静かとなってしまったアンダーザパラソル。…まさかラフィーネさん、否定をする為だけに会話へ……?

 

「…………」

「…………」

「……あ…」

『……?』

「顕人に用事があるの、忘れてた」

 

不意に声を漏らしたラフィーネさんは、何でも俺に用事があってここへ来たらしかった。…という事で、再び俺はその場から離れる。

 

「……?用事って、ただ話があるってだけじゃないの?」

「違う。顕人には手伝ってほしい事がある」

「手伝ってほしい事…?」

「うん。顕人、わたしの貝殻探しに協力して」

 

連れてかれた俺が質問を口にすると、ラフィーネさんは首を横に振る。そこから訊き返しを行って…用事の内容が判明した。

 

「貝殻?…お土産にでもするの?」

「違う。城の装飾に使う」

「城……って、さっき作ってた砂の?」

「砂の」

「……持ってきた物の中から使えそうなの選ぶとかは?」

「それじゃ意味がない。現地にある物だけで、作品を完成させる。それこそが美学」

 

質問を進めていくと、段々ラフィーネさんが何となく、ではなく結構凝って砂の城を作っていた事が判明していく。特に美学云々の話をする時は、得意そう且つ「分かってないなぁ…」と言いそうな顔になっていた。…砂の城って、そんな意気込みで作るものだっけ…?

 

「は、はぁ……あれ?じゃあフォリンさんは?フォリンさんさっきから城の前で座ってるけど…」

「フォリンは城を見張りながら、細かい調整をしてる。万が一波が来たり魚が打ち上げられたりしたら、守る担当が必要不可欠」

「……本気で城を作ってるんだね…」

「本気で作ってる。だから、手伝ってほしい」

 

じぃ、と俺の顔…というか多分目を見つめて、改めて頼んでくるラフィーネさん。その真剣且つ曇りのない瞳で見つめられた俺は、気恥ずかしさから数秒程返答が遅れて……

 

「…OK、貝殻探しを手伝うよ」

 

それから、頼みに応えて貝殻…それも砂の城に合いそうな物探しをスタートした。

 

 

 

 

「へぇー、イギリスってそんな天気が変わり易いんだ」

「うん、天気がすぐに変わる」

「そうなんだ…雨でもすぐ晴れる可能性があるって意味じゃ羨ましいけど、その逆も然りってなると一長一短だなぁ…」

 

貝殻探しを始めてから数十分。こんな日に黙って下を向いてるのはあんまりだと思った俺は、ラフィーネさんと雑談しながら採取を進めていた。

 

「…来るの?」

「え?…あぁ、日本と比較しただけだよ。…っと、これはどう?」

「…良さそう。確保しておいて」

「りょーかい」

 

どうやら貝殻は城の天辺に一つ載せればそれで満足、という訳ではないらしく、また実際に載せてどれがいいか選びたいらしく、既に幾つかの貝殻をキープしている。…もしかすると、どこかで俺が声を上げなきゃ何時間も探す事になるかもしれない。

 

「しっかし、割と割れてたり欠けてる貝が多いね…海で揉まれて流されてくるんだから、当たり前といえば当たり前だけど…」

「後、ヤドカリも多い…いい貝殻だと思ったら中にヤドカリがいた時の残念さは、キャラメルを拾ったら箱だけだった時に匹敵する…」

「いや、俺はヤドカリを何度も見つけてるラフィーネさんに驚き……ってなんでその替え歌知ってるの!?」

 

予想の遥か斜め上を行くラフィーネさんの言葉に俺は仰天するも、当のラフィーネさんはきょとんとしながら小首を傾げている。…偶々TVか何かで聞いたのか、お笑い好きな人に教えられたのか…とにかくもうびっくりです。

 

「…まぁ、いいや…えーっと、貝殻貝殻……」

「…………」

「…ってか、流石にちょっと首疲れてきたかも…ねぇラフィーネさん、少し休憩でも……わぁぁっ!?」

「……!?」

 

俺は気を取り直し、採取再開。…したけどずっと下を見ていたせいで首に疲れを感じ、一度上を見て首を回す。それから休憩を提案しようと振り返ると……すぐ近くにラフィーネさんがいた。

 

「お、驚かさないでよラフィーネさん…」

「それはこっちの台詞…いきなり大声出されたら驚く…」

「いや、だっていつの間にかまた近くにいたし……今度は何…?」

 

先程と似たような状況ながら、今回はラフィーネさんも驚いたらしくびっくりした表情を浮かべていた。…まぁ、それはそれとして、すぐ側にいるって事は恐らくまた何かあるという事。そう思って心を落ち着けつつ訊くと……

 

「…どうして顕人は、わたしと話してそんなに楽しそうなの?」

 

……これまでのやり取りとは違う、それよりもずっと深いもの…そう感じる質問が、返ってきた。

 

「…楽しそうにされるのは、不愉快だった?」

「そうじゃない。…そんな事は、思ってない…」

「…そっか。じゃ…ちょっと休憩しようか」

 

そう言って俺は、崖…と言うにはかなり低い、岩盤の出っ張りとでも言うべき場所へ移動し腰を下ろす。…提案ではなく、断定表現での言葉。それを受けたラフィーネさんは、特に何も言わず…でも、俺の隣に座ってくれた。

 

「……珍しい事だった?」

「…それは、顕人が楽しそうにしてたのが?」

「そう。俺っていうか、ラフィーネさんと話してる相手が…だけどね」

 

座ってから数秒待って、それからラフィーネさんへ問いかける。それに対する質問返しに俺が首肯すると、ラフィーネさんも小さく頷く。

 

「…珍しい。フォリンは楽しそうにしてくれるけど、他の人はそうじゃない。皆、気不味そうだったり、面倒そうだったりする」

「…そっか……」

「それはどこでも同じ。…でも、理由は分かってる。皆が楽しそうじゃないのは、わたしが話すのが下手だから。意思疎通能力が低いから」

 

目を海に向けながら、淡々と話すラフィーネさん。調子も声音もいつも通り。でも…ほんの少し、ラフィーネさんの目は寂しそうに見えた。

 

「…なのに、顕人は楽しそうだった。今日もそうだし、これまでにもそういう事があった。…わたしは、話すの下手なままなのに」

「…だから、気になったんだね」

「うん…」

 

理由を聞いて、俺は考えた。確かに、ラフィーネさんはコミュニケーションがあまり得意ではない。初めて二人きりになった時はもうどうしたものか…と思ったし、今だって俺の知り合いの中じゃかなり会話が弾み辛い相手だと思う。そしてそう俺が考えている中、ラフィーネさんは続ける。

 

「…もし、顕人が無理してるなら、そんな事しなくていい。気遣いは不要。自分が悪いって分かってるから」

「…………」

「むしろ、気遣いさせてしまう事の方が嫌。わたしはフォリンが楽しそうにしてくれるなら、それでいい。だから……」

「…そんな事はないよ、ラフィーネさん」

 

段々と後ろ向きさを増す、ラフィーネさんの言葉。ラフィーネさんは何を考えているのかが分かり辛い人で、分かる時の方が少ないけど…まさかこんな事を思っているとは、それこそ思ってもみなかった。

もしラフィーネさんが俺の思っている通りの人なら、自分で感じてる以上の卑下はしないだろうし、フォリンさえ…という言葉も本心なんだと思う。自分はそういう人間なんだっていう、無関係の人間の様な冷めた自己評価。多分、そこにラフィーネさんは悲しみなんて感じていなくて……そういうのは、嫌だと思った。可哀想とか、同情するとかじゃなくて…俺が嫌だと。

 

「…それは、本心?それとも…」

「建前でも気休めでもないよ。俺が気遣いで楽しそうにしてたと思ってるなら…それは間違いなく、思い違いだから」

「…………」

「そもそも、なんで楽しそうにしてたと思う?あ、勿論気遣いとか、そういうの以外でだよ?」

 

海から俺へと移る、ラフィーネさんの視線。それに俺も目を合わせ、ラフィーネさんへと問いかける。単純な…変に考えると逆に分からなくなる、本当に単純な問いを。

 

「……今日楽しかった事を、思い出してたから?」

「そうじゃないよ」

「…これからある、楽しい事を考えて…?」

「それでもないね」

「じゃあ…貝殻探しが、趣味…?」

「うーん、答えから離れちゃってるね」

「だったら……あっ…」

「…分かった?」

「……まさか、変なキノコを…?」

「食べてな……食べてないよ!?それだったら俺結構ヤバい状態だよねぇ!?」

 

……単純な問いだった筈なんだけどなぁ…変なキノコな訳あるか…。

 

「…もしかして、楽しかったから…?」

「そういう事。やっと答えに辿り着いた……」

「…これはちょっと出題が悪い。楽しそうにしてるなら、楽しいのは当たり前の話…」

「あはは、そうだね。…だから、そういう事なんだよ」

「どういう……あ…」

 

普通なら当然過ぎて回答にならない…そんな意図が籠っているであろう様子で口を尖らせるラフィーネさん。まぁそれはその通りだけど、楽しかったから…という回答には意味がある。そしてそれに気付いたようで、ラフィーネさんはほんの少し目を見開く。

 

「ね?楽しそうにしてるって事自体が楽しんでる証明だし、楽しいって事に理由は要らないんだよ。…というより、突き止めていくと『何となく』に至る感じかな」

「……無理してた訳じゃないのは、分かった」

「どうして楽しいのかの方は?」

「まだ、説明してもらってない」

「…うーん…まぁ、そうなんだけど…」

 

だよねぇ…と俺はラフィーネさんの返答に軽く頭を掻く。今言った通り、楽しいってのは突き止めた説明が難しいもので、だからそれっぽい事を言って納得してもらおうと思ったんだけど…小細工は通用しないらしい。……ラフィーネさんは真剣に訊いてる訳だし…なら俺も、その真剣さに応えなきゃ、だよね。

 

「…ラフィーネさんさ、自分の会話能力に問題があるから相手は楽しそうじゃないって言ったけど…多分、それは半分間違いだよ。半分は、そうだと思うけどね」

「…間違い?」

「うん。これは予想に過ぎないけど…ラフィーネさんって、プライベートで誰かと話す事ってあんまりないんじゃない?大概は業務絡みか、その延長線上だったりしてない?」

「……そうだと、思う」

「やっぱりね。…皆知らないんだよ、ラフィーネさんの事を。静かで、話すのが下手な人…そういう表面的な事しか知らないから、ラフィーネさんとの間に壁を感じたり壁を作ったりしてるんだって、俺は思ってる」

 

俺は言葉を続ける。自分が思っている事を、変に気取らずそのままに。

 

「…模擬戦の後、少し話したの覚えてる?」

「覚えてる」

「…あの時さ、俺も何話したもんか、そもそも話さない方がいいのかって迷ったけど、ラフィーネさんがアドバイスくれたおかげで分かったんだよ。ラフィーネさんは飾らない、良くも悪くもとにかく素直な人なんだって」

 

話しながら思い出す。もしあの時ラフィーネさんがアドバイスを口にしてくれなければ、もっと早い段階で会話を止めていたら…今こうして話してはいなかったかもしれない。

 

「一部でも表面的じゃない一面を知れば、ずっと接し易くなるからね。それにこれは綾袮さんのおかげって部分が多いけど、それから街の案内したり一緒に活動したりもしたし、夏休み以降はよくラフィーネさんとフォリンさんが家に来るようになったでしょ?…接し易くなって、接する機会も増えたから、俺はよりラフィーネさんを知る事が出来た。だから後は、簡単な話だよ」

「…どういう、事……?」

「ラフィーネさんは話しててつまんない相手なんかじゃないって事。いつもストレートな表現するからある意味逆に緩く話せるし、割とノリがいいから面白いし、ゲームの勝敗でムキになったり自慢気になったりするのなんて可愛…もとい良い個性だと思うし、偶に出る妹自慢はなんか和むし。後、天然ボケ強いのも良いよね」

 

思い返せば、ロサイアーズ姉妹とはまだ全然長い付き合いじゃない。会ったり話したりする機会はまぁまぁ多かったと思うけど、それでもこの程度の期間でここまでぶっちゃけた話が出来るのは、何かしら理由がないとあり得ない。そしてその理由が……ラフィーネさんとは一緒にいて楽しいんだっていう、俺の思い。

 

「…………」

「ラフィーネさん自身はどう思ってるか知らないけど、俺からしたらラフィーネさんは十分楽しいと思える相手だよ。そう思ってるから…いや、ラフィーネさんとの会話を躊躇う理由なんてないから今日だって、楽しく会話出来たんだよ。…楽しいんだよ、ラフィーネさんと話すのは」

「…………」

「…まぁ、いつもいつでも絶対楽しいとまでは言えないよ?けどそれは誰が相手でも言える……って、ラフィーネさん…?」

「……困った…」

「困った…?」

「そんなにわたしの良いところを言ってもらえるなんて、思ってなかった…だから、困った…」

「あ、あー…そう……」

 

思うままに、気持ちのままに話していった俺。ラフィーネさんの為…というより純粋に思いを口にしていただけだから、これをラフィーネさんがどう感じるかは分からなかったものの…まさか「困った」と言われるとは思っていなかった。…というか…そんなに、って程良いところ上げたっけ…?確かに良いところも上げたけど、ゲームの話とか天然ボケは別に誉めた訳じゃないんだけど…。

 

「……もう少し、控えめにした方がよかった?」

「ううん、そんな事ない。…嬉しい。そう言ってもらえて、楽しいって言ってくれて…凄く、嬉しい…」

「そっ、か…じゃあ、楽しい訳も分かってくれた?」

「…うん、分かった。……でも、もっと話してほしい」

「え……?」

 

困り顔のラフィーネさんに肩を竦めながら訊いてみると、ラフィーネさんはふるふると首を横に振って否定。それから小さな笑みを浮かべて…でも本当に嬉しそうな雰囲気で、嬉しいと言ってくれた。それにほっとした俺が更に訊くと、今度は肯定が返ってきて……次の瞬間、岩盤に置いていた俺の手に柔らかく温かなものが触れた。

それは、ラフィーネさんの手。もっと話してほしいというラフィーネさんは身を乗り出していて、その手が俺の手に重なっているという形。そして恐らく…ラフィーネさんはその事に、気付いてないか気にしていない。

 

「凄く嬉しい。こんな気持ちになるとは思ってなかった。だからもっと教えて。顕人がこれまでどう思ってて、わたしと話してどんな気持ちになっていたかを」

「え…と、いや…あの……」

「…駄目……?」

「…いいや、何でもないよ。じゃあ、何から話そうかな…」

 

思春期且つ女性慣れしてない(恋愛的な意味で)俺にとっては手が触れるだけでも「あっ……」と思うんだから、こうして顔を近付けられた上に手を重ねられれば否が応にもドキッとしてしまう。だから一度口籠ったものの……ラフィーネさんの純粋な気持ちが伝わってきた俺は、肩の力を抜いてそのまま話す事を決めた。…今はそれより、って事で。

それから俺は、求めに応じてこれまでの事を話した。俺の話がラフィーネさんを満足させるものだったかどうかは分からない。でも……陽気の良い空と穏やかな海を前にするラフィーネさんとの話は…やっぱり、楽しかった。

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