双極の理創造   作:シモツキ

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第八話 もう一人の理解

宮空さんに連れられて入った部屋での、ご両親とお祖父さんとの面会。それを終えて下がった俺は……近くの部屋で、ぐでーっとしていた。

 

「あー……疲れた…」

 

これでもかという位脱力して、ソファに身体を預ける。確認したところ、面会はたった十数分だったけど…俺は長距離走をやった後並みに疲れていた。後、大分お腹も空いてきた。

俺が滅多にない経験したなぁ…なんて思っていると、一旦席を外していた宮空さんが戻ってくる

 

「お疲れー、顕人君緊張してた割に凄い上手かったじゃん。わたしびっくりしちゃったよ」

「俺も宮空さんのラフさにビビったよ…今回はプライベートじゃなくて仕事で来たんだよね…?」

「うん、でも過ぎたる形式重視はわたし良くないと思うんだー」

「絶対それ建て前で実際はやりたくないからってだけだよね…?」

「酷いなぁ…そんな事言う君にはこれあげないよ?」

 

ちょっと不満げにしながらすっと手を差し出した宮空さん。彼女の手に乗っていたのは……おにぎり。…え、これってまさか……

 

「……手作り?」

「それはどうでしょう?」

「どうでしょうって…それ誤魔化す必要ある?」

「それもどうでしょう?…顕人君はわたしの手作りであってほしいの?」

「それは…えと……」

 

ソファにもたれかかる俺を見下ろす形の宮空さんに、俺は口籠る。くりくりとした瞳に整った形の耳鼻口。柔らかそうな頬にきめ細やかな髪と、よっぽど偏った性癖を持っている人物でもない限りは確実に可愛いと称するであろう宮空さんが俺の為におにぎりを作ってくれたとするならば……なんて格好付けたのはよしてそのまま言おう。嬉しい、普通に嬉しい。ちょっとドキっとしてしまう。だって、俺は男で思春期なんだもの。

 

「……手作りであってほしいです」

「そっかぁ……残念!これはわたしの手作りではありません!」

「嘘ぉ!?この流れは絶対手作りだと思ったのに!」

「あはははは!わたしは貰ってきただけだよー」

「ぐっ…男の純情弄んだな!悪女め!」

「ごめんごめん、でも顕人君も男の子なんだねやっぱ」

「当たり前でしょうが……はぁ…」

「まぁまぁ食べなよ、お腹空いてると思って貰ってきてあげたんだよ?」

「それはありがたいけどさ…ありがたいけどさぁ……」

 

恨めしさを込めた目で宮空さんを見ながら、頂きますと言っておにぎりを口に運ぶ。おにぎり自体はまぁ…出来たてなのか温かい事もあって美味しい。…というか、これを作ったのが宮空さんでなくとも誰かしらが作ってくれたのは事実なんだから、美味しく頂かなきゃその人に失礼だね、うん。

 

「…こう、おにぎりって安心する美味しさがあるよね。格別に美味い!…って感じじゃないけど、食べた後自然と『ふぅ、ご馳走様』と言いたくなる感じの」

「お、なんかほんわかした空気纏ってるね」

「疲労と空腹が溜まった中で悪女に弄ばれたからねぇ…温かいおにぎりは色んな意味で俺を満たしてくれるんだよ…」

「そこまでショッキングだったの…?」

「それ単体ならまだセーフだったけど、いかんせん今日は心身共に余裕が無さ過ぎだったから…」

「あー……よし、じゃあ今度気が向いた時にでもおにぎり作ってあげよう!」

 

話しつつも淡々と食べていたおにぎりが残り一口、となったところで宮空さんの口から発せられたその言葉。それに俺は……まぁまず疑う。

 

「…結局気が向く前に忘れちゃってお流れのパターンとかじゃなく?」

「そ、そんなつもりはないよ…いつ気が向くかは分からないけど…」

「と、言っていつまで経っても作ってくれないのですね?」

「わたしの信頼低っ…そう言うなら作ってあげないよ?」

「いいよもう、取り敢えず空腹問題は解決したし」

「ほんとにいいの?お昼休みが始まったばかりで皆がまたクラスにいるタイミングで『顕人くーん。約束のお弁当、作ってきてあげたよっ♪』っていうドキドキイベントが生まれる可能性だってあるんだよ?」

「それは魅力的……ではないよ!?むしろありもしない噂立つし宮空さんのファンから刺々しい視線受けるだろうし何より俺が恥ず過ぎて逃げ出したくなるキラーイベントだよ!?得られるドキドキの方向性が違い過ぎるわ!」

 

人によってはいい意味でのドキドキイベントかもしれないけど…俺にとっては最悪の展開でしかなかった。俺そういうイベント苦手だっての…見てるこっちまで穴があったら入りたくなる位苦手なのに、何故それを選ぶ宮空綾袮……まぁ知る由も無いだろうから仕方ないんだけど。

 

「そこまで拒否されるとは…まぁ折角なんだから信じてよ。これでもわたし、約束は守る方なんだからね?」

「…なら騒動が起きそうな時は止めてね?」

「分かってる分かってる、というかわたしもそのイベント勘弁だし…」

「なのに提案したんだ…宮空さんのボケ魂にはびっくりだよ……」

 

突っ込んでもらう事前提のボケは別段不思議ではない…というか突っ込んでもらうつもりのないボケは天然でしかないんだから、それ自体は分かる。けど…今のは身体張り過ぎじゃないだろうか。宮空さんが言葉通り約束を守る人なら、もし俺がそのドキドキイベントに乗っかった場合とんでもなく後悔する事になるのが目に見えてるというのに…。

 

「……あ…えーと顕人君、別件になるけど二ついいかな?」

「別件?まぁいいけど、何?」

「うん、まず一つ目は…出来ればさ、わたしの事は名前かあだ名で呼んでくれない?」

「…な、名前で……?」

 

別件、というのだから何かしら脈絡のない事なんだろう…とは思っていたけど、これは予想以上だった。名前、って……

 

「…親愛の印に、とか…?」

「あー…期待してるなら悪いんだけどさ、そういう事じゃなくてわたしを呼んでるんだって分かり易くする為だよ。ほら、宮空さんじゃわたしなのかおかー様やおとー様なのか分からないでしょ?」

「そういう事か…何だか家族経営の会社みたいな理由だね」

「霊装者は基本祖先に霊装者かその血を持つ人からしか生まれないし、保護と管理の為に出来る限り霊装者には協会に所属してもらってるからね。うち以外にも家族で所属してる人は多いし、苗字より名前や役職で呼ぶ方が効率的なんだ」

「なら…宮空さん…じゃなくて、ええと…綾袮さんでいい?」

「勿論」

「じゃ…綾袮さんが最初から俺の事を名前で呼んでたのは、そういう環境に慣れてるから?」

「そうなるね。正直わたしにとっては人を苗字で呼ぶ方が慣れないかも」

 

一般的に人を名前で呼ぶのは家族や親しい友人の様な間柄か、相手が幼年の場合の時であって、大概の人は年齢が上がるに連れ人を名前で呼ばなくなっていく。でも、もし『大人も子供も名前で呼ぶのが普通』という環境で過ごしてきたなら、その一般的に該当しなくても何もおかしくはない。…こういうとこも一般的と霊装者は違うんだなぁ。

 

「…あ、学校ではどうする?いきなり呼び方変わってたらおにぎりイベントと似た展開になる気がするんだけど…」

「人の名前の呼び方をいちいち気にしてる人はいないだろうし、注目されてない時なら大丈夫だとは思うけど…一先ずは今まで通りでお願い」

「了解。それで、二つ目ってのは?」

「それはね、これから少し動いてもらうけどいい?って事。着いてきて」

 

綾袮さんは部屋の扉を開け、ちょいちょいと俺を手招きする。正直に言えばもうちょいだらーっとしたいところだけど…その動くというのは気になるし、まだちょっとお腹は空いてるけど体力は大方回復している。時間も勿体無いし俺は立って後に続く事にした。

 

「動いてもらうって…体力テストでもするの?」

「惜しいね、テストはテストだけど…計測するのは霊装者としての能力だよ」

「ま、それはそうか……」

 

霊源協会…だったよな?組織の名前は…は教育委員会系列組織ではないだろうから、学生の身体能力測ったってしょうがない筈。……霊装者の能力、かぁ…。

 

「…なんか楽しそうだね」

「そりゃ、俺の能力が分かる訳だからね。いつの時代も男の子ってのは能力を数値化、パラメーター化、ランク化される事に燃えるんだよ」

「あー、それは分かるよ?わたしもそこそこバトル漫画とかゲームとかするし」

「え、そうなの?」

「そりゃ、生まれてこの方何度も何度も現実でバトルしてるんだもん。バトル物に関しては一般女子とは価値観乖離してると思うよわたし」

「…現実でバトルしてるならわざわざ架空のバトルを読んだりやったりする必要はないんじゃ?」

「そんな事はないよ、霊装者のバトルは霊装者のバトルでしかないもん。女神に変身して戦ったり、モンスターを指揮して戦ったりなんて霊装者には出来ないんだよ?」

「あ…全くもってその通りだね、俺が浅はかだったよ」

 

創作系娯楽というのは得てして『自分では拝見、体験出来ないものを擬似的に体験する娯楽』というもの。だから俺にとっては非日常な等しい経験をしてる綾袮さんには興味の持てないもの…と思ったけど、考えてみれば、綾袮さんにとって霊装者としてのバトルは日常であって、自分で体験しまくってる慣れたものに過ぎないんだから、自分とは違うバトルを擬似的に知れる媒体へ興味を持ってもおかしくない。…というかそもそもの話として、一種類のゲームや本で永遠に楽しめる人なんてほぼいないんだから、俺は前提からして間違ってたとも言えるか…。

 

「分かったのなら宜しい。さて、着いたよ」

 

暫く歩いた後、俺と綾袮さんは部屋へと入る。そこは大きなモニターと自販機のある、広めの待合室の様だった。

 

「ここでテスト…じゃ、ないよね?」

「違うよ、テストを行うのはそっちの扉をくぐった先の場所。さっきここ来るって連絡したから、準備が出来次第扉は開くんじゃないかな」

「そう…さっき程じゃないけど、これも緊張するなぁ…」

「テストって言っても一回目はただの検査みたいなものだし、アナウンスの通りにやればいいだけだよ。それに、どうしても結果が不満なら再テストもしてもらえるし」

「それはそれで申し訳ない気がする」

「えぇー……じゃあ一発で満足いく結果出そうよ、丁度準備出来たみたいだから」

 

我ながら面倒臭い返ししたなぁ…と思っていたところで扉が開く。見た所隣が直接テストルームになってる訳じゃなくて、廊下が間にある様子。…いや別に廊下があろうがなかろうがどっちでもいいんだけどね。

そんな事を考えながら廊下を進む俺。さて、それじゃあテスト…頑張りますか。

 

 

 

 

手にした剣に、霊力を流し込む。手の平から伸びた血管が剣にも行き渡り、そこへ血液が流れる感じやら、身体から発せられた電流が剣の先にまで通電する感じやら幾つかのイメージパターンがアナウンスから教えられたけど、教えられたからと言ってすぐに出来る訳じゃない。…というか、現状霊力が剣に流れてるのかどうかすらよく分からない。

 

(むむ…試しに振ってみる?でも流れてなかったら恥ずいよなぁ…)

 

目の前にあるのは居合い斬りなんかで使われる藁の的。既に検査はある程度進んでいて、今は武器への霊力付加検査となっている。その前に行った、身体への霊力付加はまだ何とか出来たけど…ここで俺は躓きかけていた。

一応制限時間は無いし、どうしても無理ならリタイアしてもいい(当然ペナルティーなんかは無し)。…けど、出来るならば全てこなしたい。自分の霊装者としての能力を、詳しく知ってみたい。……となりゃ、もうごちゃごちゃ考えてたって仕方ないね。

 

「…あの、これってイメージは何でもいいんですよね?」

「えぇ、その通りです。計算と同じで、結果さえ正しければ導き方は人それぞれ…それこそ当てずっぽうでも良いというものですよ。…最も、学校の定期テストは決められた方法で解かなければ完全正答とはしてもらえませんけどね」

「はは……」

 

アナウンス担当の人は、俺に気を遣ってくれたのか後半に冗談を混ぜてくれる。こういうのに対して『真面目にやってるんだから冗談混ぜんなや…』と思う人もいるけど、幸いにも俺はそういうのを混ぜてもらえた方がやり易いタイプ。それに好きなイメージで良いとお墨付きをもらったんだから……俺なりのイメージを、試してみようと決める。

横にした剣を肩の高さまで掲げ、目を瞑る。霊力は、粒子の様な、光の帯の様な、そんなイメージ。それを内側から対外へと放出し、周囲に霊力の空間を作り、そこから剣に霊力を纏わせ浸透させていく。それは霊力を付加するというよりも、霊力のみで編まれた剣を作るかの様に。俺は集中する。想像する。イメージを、確固たるものとする。

そして……

 

「……うぉ…っ!」

 

細部までイメージが浮かび、描く才能さえあれば絵に出来そうな位の状態になった瞬間、剣に霊力が流れ込んだ…という実感がどこからか感じられた。目を開けると、そこにある剣は仄かに青の光を帯びている。

思い出せば、綾袮さんの大太刀も青い光を帯びていた。光の翼は、澄んだ青色だった。

 

「……よし…」

 

剣を構え、切っ先を藁の的へと向ける。もし剣にきちんと霊力が流れているのなら、刃じゃなくて腹をぶつけでもしない限りほぼ確実に藁の的は斬れるとアナウンスは言っていた。だったら…斬れる筈ッ!

 

「はぁぁぁぁッ!」

 

振りかぶり、斜めに一閃。剣は青い軌道を後に引きながら藁の的へと駆け抜け……あっさりと、両断した。

 

「…お見事です」

 

聞こえてくる称賛の声。もしそんな事を言われたらクールに謙遜の一つでもしようかと思っていた俺だけど…返答は出来なかった。だって、俺の予想よりずっとあっさり藁が斬れてしまったから。

剣、と言えば斬る武器だけど、そんなほいほいと物が斬れる訳じゃない。西洋剣が斬れるのは皮の鎧や鎖帷子の様な比較的強度が低いものだけでれっきとした鎧に対しては鈍器の様に殴り倒してたとも言われるし、東洋剣(というか刀)は技術のない人間が振るっても碌に斬れ味を発揮出来ないと言われている。なのに、今藁の的は段ボールか何かの様に斬れてしまった。……まぁ、早い話が予想外の結果に驚いてる訳だ。

 

「…ふぅ……」

「お疲れ様です。次の検査に進みますが、大丈夫ですか?」

「あ…はい、分かりました」

 

次なるアナウンスで我に返った俺は、指示に従い剣を壁の投入口的な所へ入れる。すると今度は銃が出てきて、それと同時に次の検査の説明が始まる。

こんな感じで進むテスト。武器に関しては完全に初経験だし、最初の身体強化テストも身体が思いもよらない程動くせいであたふたしたけど…なんとかどれもこなす事が出来た。さっ…残りのテストも頑張るぞ。

 

 

 

 

「お疲れ〜、初めてとしてはよく出来てた方だと思うよ」

「そう言ってくれると嬉しいよ。…ほんとにそう思ってる?」

「本音は『あー、こんなものか…』と思ってたり…」

「おい……」

「なんてね。ほんとによく出来てたと思ってるよ」

 

全ての検査を終え、待合室…ではなく休憩室へと戻った俺に綾袮さんが声をかけてくる。…時間としちゃ一時間も経ってないのに、検査内容が検査内容なだけに結構時間経った様な気がするなぁ…。

 

「…あ、喉乾いてるならそこの自販機使っていいよ。無料だからお金もかからないし」

「それは助かる、あんまり過度な運動した訳でもないのに汗かいちゃったし」

「慣れない事したんだもん、当然だよ」

 

あくまで水分補給用、という事なのかそこまでバリエーション豊富ではない自販機だけど、別段美味しいジュースが飲みたい訳じゃないから問題ない。そもそもスポーツ飲料も美味しいしね。

 

「…結果どうなんだろ……」

「大概どの面も低いと思うよ?だって今の顕人君はまだレベル1〜2位だもん」

「んまぁ、それはそうだろうね…」

 

ちょこちょこ飲料を口に含みながら雑談を交わす俺と綾袮さん。その最中俺が「…ただ待ってるだけでいいの?」と聞こうと思ったところで、休憩室の扉が開く。

 

「やぁ、待たせてしまったかな?」

「ううん、わたしも今来たところー」

「それはよかった。これは随分とタイミングがいい」

「……え?」

 

現れたのは髪を適当に纏めた一人の女性。綾袮さんはともかく、面識がない筈の俺に対してまでフレンドリーに話しかけてきた事にも多少驚いたけど、そんな事よりも……

 

「…ね、ねぇ綾袮さん。今この人普通に返さなかった?突っ込むでも狼狽えるでもなく、ただただ普通に返さなかった…?」

「あはは…うん、普通に返したね…」

「…この人、何者…?」

「えーっと…天然な人なんだよ。すっごく天然な人なんだよ」

「……?」

 

苦笑いしたままそんな事を言う綾袮さん。しかもその間、女性は不思議そうな顔で俺と綾袮さんの会話を聞いている。…おいおい嘘でしょ……?

 

「ある意味凄い人なのかもしれない…」

「ある意味、じゃなくて普通に凄い人だよ博士は。…あ、この人は園咲晶仔さん。うーんと、なんて言ったらいいんだろう…」

「研究と開発しか能のない人間、とでも思ってくれればいいよ。宜しく御道顕人君」

「え……は、はいこちらこそ…」

 

自虐なのかなんなのか分からない言葉と共に宜しく、と言われ狼狽する俺。一応返答は出来たけど…内心は全然反応出来てなかった。緊張こそないものの、もしかすると綾袮さんの家族と話した時より会話難易度高いのかもしれない…勿論変な意味で。

 

「さて、自己紹介も済んだところで本題に戻そうか。顕人君、これが君の検査結果だよ」

「あ…わざわざこちらに来させてしまってすいません…」

「この位構わないよ。ふふ、流石に予言された霊装者なだけあって凄い才能の持ち主だね君は」

「あ、なにか凄い点あったの?」

「あったさ、君も見てみるといい」

「じゃあちょっと見せて〜」

 

園咲さんに渡された書類を読もう…としたところで早速綾袮さんが首を突っ込んでくる。……読めない。背丈の関係で覗き込んでる綾袮さんの頭が邪魔になって全然読めない。

 

「…ねぇ綾袮さん、俺綾袮さんの頭しか見えないんだけど」

「大丈夫、急がなくても書類は逃げたりしないよ」

「いやあのねぇ…ほら、俺座れば二人共見えるでしょ?だから一回退いてくれない?」

「えー…まぁ別にいいけどね」

 

やっと退いてくれた綾袮さんに嘆息しつつ長ソファへ座る俺。勿論綾袮は隣に座り…手持ち無沙汰だったのか、園咲さんも綾袮さんとは逆の側に座る。…結果、左右に女性…しかも美少女(園咲さんは美少女というより美人か)が座るという中々レア且つ嬉しい状況に。

 

「……でもちょっと恥ずいな…」

「恥ずい?」

「や、なんでもない…えーと、付加が実体剣や通常弾頭、収束がビーム武装に関連する項目…なの?」

「その通りだよ、よく分かったね」

「名前から想像しただけです。それに…創作界隈では収束ビーム、なんて言葉があったりもしますしね」

 

渡された書類の内、一つ一つの詳細を載せてある物へ目を通す俺。綾袮さんは詳細には興味がなかったのか、一番上の全体を簡単にまとめた物をちらちらと見ている。

 

「…俺まだこっち読むし、これ見る?」

「あ、うん。というかこうして書類分けるなら、最初から座る必要も無かったかもね」

「それ以前に俺に対しての書類なんだから、読み終わるまで待つのが普通だと思うんですけどね…」

「んもう、大目に見てよそれは。…しかし、凄い才能っていう割には平凡な気が…」

「平凡ゆーな」

「ま、初めての検査と考えれば普通の……あれ…?」

 

突如、素っ頓狂な声を上げる綾袮さん。聞き慣れない声音に興味を惹かれた俺が書類から顔を上げると…綾袮さんは目を擦っていた。

 

「やっぱり、見間違いじゃない…」

「なんか変なところでもあった?」

「う、うん…博士、これ検査ミスだったりしない?」

「私も初めはそう思ったよ。けど、ミスは見受けられなかった。…正真正銘、これが彼の能力さ」

「うっそぉ……」

「…どゆ事?」

「ほらここ、各能力値を一纏めにしてるから分かるでしょ?」

 

綾袮さんは書類を持ち上げ一箇所を指差す。そこを見ると、EやらFやら決して高いとは思えない判定の中に…一つだけ、異彩を放つものがあった。えー、っと……え、S?

 

「……これって、所謂ABC判定ですよね?」

「そうだね」

「…じゃあ、SってもしやT以上R以下って事だったりは……」

「いいや、A以上…最高値としてのSさ」

「…じゃあ、これは…凄い、って事ですか?」

「凄い、なんてものじゃないさ。一流の天才が、努力も経験も十分に積んでやっと可能性が出てくる…そのレベルだよ、Sというのは」

 

園咲さんの言葉を聞いた俺は、ごくりと唾を飲み込む。まず、驚いた。ぺーぺーもいいところな俺が、そこまでの力を有しているという事に驚いた。そして、戸惑った。何故俺がそんな力を有しているんだと、不思議で疑わしくて、でも同時に興奮もしてしまって結果戸惑った。……本当に、そんな力を俺が…?

 

「…綾袮さんからしても、これは凄い?」

「凄いよ。悔しいけど…霊力貯蔵Sはわたし以上だもん」

「マジか…俺ってもしや、才能に恵まれてたり…?」

「正直、そうとしか思えないよ。って言うかもう、凄いを通り越しておかしいの域だし」

「おかしいの域か……てか、俺って一芸特化タイプ?他全部低いし…」

「それはまだ判断出来ないね。努力も勉強もまだ皆無な以上、他の能力もまだまだ上がる可能性は十分にあるのだから」

「じゃあ、いつかは全能力Sという事も…」

「それは流石にないって。あったらもう、ほんとに化け物だよ。わたしは霊源協会全体から見てもトップクラスだけど、それでも現状Sなんてないんだから」

 

しれっと自画自賛している綾袮さんだけど…顔は真面目そのものだった。その顔を見て、俺は再び自身の能力に戸惑いを覚えてしまう。…けど、そこで園咲さんが立ち上がる。

 

「さて、と…すまないけど、私はこの辺でお暇させてもらうよ。まだ到着していない様だけど、今日はもう一人検査しなければならないからね」

「あ、まだ着いてないんだ…わたしより遅いなんて珍しいなぁ」

「ふふ、中々面白い逸材に出会えてよかったよ。それではね」

 

そう言って園咲さんは出ていく。……なんか、ミステリアスって感じの人だったなぁ…天然さえなければ…。

 

「…そっかそっか、顕人君はそんな特殊なタイプだったかぁ……」

「らしい、ね」

「あ、今の結果で傲っちゃ駄目だよ?今の能力…霊能力値っていうのは、あくまで知識や技量を考慮しない純粋なスペックだけの結果なんだから。どんなに性能のいいマシンでも、使い手が下手くそなら約に立たないのと同じ様にね」

「分かってるよ、というか俺が傲るタイプに見える?」

「そう言われると見えないかも」

 

ソファから立ち、園咲さんと同じ様に部屋を出る綾袮さん。当然俺も付いていくと、彼女は下層へと向かっていく。

 

「さって、顕人君今日はお疲れ様」

「あら、今日はもう終わり?」

「うん、やるべき事はしたし今はキリがいいからね」

「そういう事…じゃあ次はいつ?次に俺は何を頑張ればいい?」

 

その内霊装者としての訓練もするんだろうなとか、もしかしたら実戦はすぐなのかもしれないとか、そんな事を考えながらの質問。夢へと一歩踏み入れた俺の声は、更なる歩みへの期待に少しだけど興奮の色が混じっていた。…だからだろうか。綾袮さんは、そんな俺の質問を受け…真剣そうな顔を見せる。

 

「……あのさ顕人君。顕人君は、協会に霊装者として所属するつもり?」

「え?…そう、だけど……」

「なら、それは早計だよ。すぐに決めなきゃいけない話じゃないんだから、顕人君はしっかりと考えるべきだよ」

「綾袮さん……?」

 

 

歩みを止め、俺の方を向く綾袮さん。綾袮さんの真剣そうな顔に、彼女から感じる雰囲気に、俺は少しだけ気圧される。

 

「偶にいるんだよ、面白そうとか刺激的っぽいとかの理由で軽々しく所属を決めちゃう人が。…分かるよね?霊装者の戦いは、遊びじゃないって」

「べ、別に戦いを軽んじてるつもりは…」

「そうだね。顕人君は今日話しただけでも物事を安直に考える人じゃないって分かったし、実際魔物との戦闘も経験してる。…でも、それでもだよ。戦いってのは…文字通り『命懸け』なんだから」

「……っ…!」

 

綾袮さんの瞳に、俺は一瞬言葉を奪われた。その瞳は、言葉は戦場も死もそれこそ一度しか経験した事のない俺でもひしひさと感じる程、重く響くものだった。そして、同時に俺はあの時の恐怖を思い出す。

 

「……綾袮さんは、俺に霊装者として所属してほしくないって事…?」

「そうじゃないよ。戦力が増えるのはありがたいし、なんたって顕人君は予言された霊装者だもん。だから……わたしはただ、答えを安易に出した事を後悔する様な結果にはなってほしくないだけ」

「そっ、か……分かった、時間をかけてしっかり考えてみるよ」

「うん、その方がいいよ」

 

俺がそういうと、綾袮さんはにこりと笑ってくれた。正直、初めは俺の夢を否定された様な思いもあったけど…綾袮さんはただ俺を心配してくれていただけだと知って、ほんの少し心がじんわりとする。……今の綾袮さんの笑顔、可愛かったな…。

 

「…あ、そうそう。多分明日もいつも通り会うだろうから、先に教えておくね」

「教える、って何を?」

「ほら、予言の霊装者って言ったじゃん?あれって実は顕人君だけじゃなくて、もう一人いるんだよね」

 

最下層まで下り、そこから今度は双統殿から出る為のエレベーターに乗ったところでそんな事を言う綾袮さん。予言の霊装者がもう一人いると聞いた俺は、まぁ当然ながら驚く。へぇ、もう一人いた訳か…って事はさっき園咲さんが言ってたもう一人検査、ってのもその事だろうな。にしても明日いつも通りに会うって、一体どういう────

 

「顕人君の仲良い友達に、千嵜悠耶君っているでしょ?もう一人っていうのがその悠耶君なんだよ。それと、その悠耶君に付いたのが、わたしの親友であり霊装者としてのライバル、妃乃なんだよね。…あ、妃乃って時宮妃乃ね」

 

──人間は、驚き過ぎると一周回って逆に平然とした思考をしてしまうもの。だから、俺もそれを聞いた時、こう思ったんだよね。

 

 

 

 

────世間って、案外狭いもんだなぁ…。

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