双極の理創造   作:シモツキ

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第九十二話 今の限界

茅章が相手側にいる事は、準備の段階で分かっていた。だって二チームに分かれてからは姿を見ていなかったんだから。そして相手側にいるのなら、もしかしたら戦う事にもなるだろうと思っていた。…けど、まさかこんなタイミングでそれが現実になるとは、夢にも思っていなかった。

 

「ぐ、ぅぅ……!」

 

吊り上げられそうになる身体を、左手で気を掴み両脚で踏ん張る事によって押し留める俺。右腕には驚く程の強度を持つ糸が絡み付いていて……その糸の先には、こちらへ視線を向ける茅章がいる。

 

「びっくりしたよ、顕人君…まさか顕人君が突撃してくるなんて…!」

「そういう策なもんでね…!」

 

綱引きならぬ糸引きとでも言うべき状況の中で、俺と茅章は言葉を交わす。

こうして交戦状態になった事には、勿論驚いた。けどそれに負けない程俺に驚きを与えているのは、この糸の…いや、茅章の使う武器の存在。

 

(糸や縄を武器にするキャラってのは色んな作品にいるけど……まさかリアルで戦う事になるとは…!)

 

俺の右腕、そして先程リーダーさんを落とした何かが茅章の糸であるのは疑いようのない事実。強度についても、よく見ると仄かに青みがかっている点からして霊力で強化されていると見て間違いない。更に言えば……これと同様の糸が、トラップとして他の場所に仕掛けられている可能性も、十分にある。…林の中を通るっていうこっちの判断が、こんな形で裏目に出るなんて……。

 

「逃がさないよ…!」

「だろうね…けど、力比べしてるだけじゃ状況は変わらないんじゃない…?」

「ううん、変わるよ…だって僕は、顕人君を足止め出来ればそれで十分なんだからッ!」

「……っ!そういう事か…ッ!」

 

出方を伺う狙いで言った言葉に返ってくる、茅章の気合いが入った声。それが聞こえた次の瞬間、俺の視界の端にこちらへと飛んでくる別の霊装者の姿が映って……茅章は援護や支援、それも俺以上にサポート特化の役割を担っていたんだという事を理解した。

迫る相手の霊装者。自由にならない右腕と、逆に茅章を引き摺り降ろすなんて淘汰不可能な俺の状態。ゆっくり落ち着いて考える時間は……一切ない。

 

「だったら……ッ!」

 

肉薄される寸前、心を決めた俺は左手を離す。引き上げに対する最大の抵抗力を失った俺の身体はぐっと上に引っ張られるも、両手が塞がったまま攻撃されるよりはずっとマシ。

手を離した直後、その左手で拳銃を引き抜き相手へ撃ちつつ視線は上に。近付く相手は勿論だけど、茅章だって無視は出来ない。

 

「来ると思ったよ…ッ!」

「だろうな……ッ!」

 

引き上げられる俺の視線へと移るのは、ぼんやりと光の見える茅章の糸。俺の腕に絡み付いているのとは別の糸。その細さ故にはっきりとは見えないものの……何本かがこちらへ向かっているという事実は認識出来た。

糸ならば切ってしまえばいい。けど正確には見えていない糸を切るなんてのは至難の業。だが俺には、点ではなく線で遠隔攻撃を行う手段がある。

 

「んにゃろぉッ!」

「わ、わ……ッ!?」

 

即座に砲へと霊力を注ぎ、跳ね上げる動作をしながら照射を開始。普通に考えれば霊力の垂れ流しも同然、だからこそ他の人には選択肢にならなくても俺には出来るその手段でもって、俺は糸の迎撃を図る。そしてこの攻撃が功を奏し……数本の迎撃と茅章の姿勢崩しに成功した。

 

「うっし!これで……おわぁッ!?」

「ちっ、惜しい……!」

 

茅章の姿勢が崩れた事で絡み付いていた糸が緩み、俺は引き抜く形で右腕の自由を取り戻す。…が、それに安堵するのも束の間。俺が茅章に意識を割いていた内に先程接近してきた相手に肉薄され、その人の手斧が肩を掠める。くっ…接近されたら砲がまともに使えない……ッ!

 

「っておい、嘘だろ……!」

 

離れながら拳銃で牽制をし、目の動きだけで見回した俺。さっと見ただけだから、多少の見間違いはあるだろうけど……俺が茅章と力比べをしていた間に、味方がほぼいなくなっていた。

 

(不味い不味い不味い不味い!間違いなくこれは大ピンチだ…ッ!)

 

拳銃とライフルで弾幕を張る俺の胸中は、物凄い勢いで焦りを覚えてしまっている。やられて退場したのか、立て直す為に移動したのかは分からないが…俺が孤立無援状態である事には変わりない。それに、こっちへ更に二人の相手が向かってきている事も。

 

「君、確か妃乃様達と魔王の相手をした人だよね!」

「模擬戦で見たあの砲撃をされちゃ厄介だからな!四対一でも悪く思うなよッ!」

「なッ、ぐっ……痛…ッ!」

 

飛んでくる弾丸を避けつつこっちも反撃の射撃をかけるも、実力差がない限り一人で三人と正面戦闘が出来る訳がない。だから歯噛みしつつも後退を図ると、その途中で頭が木の枝に引っかかり後頭部へダメージ。細い枝だったから一瞬痛いと感じるだけで済んだけど……ここじゃ同じ事が後何度起きるか分からない。

ただでさえ四倍の人数を相手にしなきゃいけない上に、向こうは俺の戦い方を知っている様子。……勝てない。もうシンプルにこの状況は、負けがほぼ確定してる。

 

「…けど……ッ!」

 

立て直した茅章が追い打ちに加わり、完全にこれで一対四。半円状に広がって相手が迫る中、俺は砲撃を両端に撃ち込んで一瞬動きを止め、その間に一気に上昇。

 

(ただで負けるつもりは、ねぇんだよ…ッ!)

 

ある程度上昇したところでバク宙をかけ、空へ背を向けたところで二門の砲を下へ向ける。そして追って昇ってくる四人に向けて……全力砲火を叩き込む。

 

「喰らいやがれ……ッ!」

 

自由落下しながらの、後先考えない全力攻撃。どっちにしろここでやられりゃ後なんてないんだから、出し惜しみしてる場合じゃない。それに援護していた時より相手との距離が近いから、多少収束率低下で射程が落ちていたって関係ない。ただ……

 

「うげ、マジで滅茶苦茶な霊力量だな……!」

「けど、避けられない程じゃ…ない…ッ!」

 

……悲しいかな、茅章の言う通り…四人全員に避けきれない程の攻撃を仕掛けられるだけの実力が、俺にはなかった。霊力量だけじゃどうしようもない……それが現実だった。

 

「せぇいッ!」

「……っ…貰った…!」

「それは、こっちの台詞だ……ッ!」

 

砲撃の合間を縫って(砲は連射性に欠けるから、縫ってって言う程でもないけど)接近してきた相手の振るう、純霊力の刃。それを身体の捻りで避けつつ反転し、そのまま登っていった相手にライフルを向けるも、撃つ直前に別方向から放たれた射撃に阻まれ、その内の一発がライフルに着弾。ならばとライフル放棄から短刀を抜くと、今度は弾幕が襲いかかる。

 

(高機動戦の学習…流石に昨日の今日じゃ無理があるか……ッ!)

 

上下左右と動き回り、不規則に急加減速もかけて、何とか二人掛かりの射撃を避ける。避け切っていざ反撃…と思ったものの、その暇もなく茅章が追撃。林の中に比べれば怖くないと言っても、対多数戦においてこの系統は非常に厄介。だってビームの照射同様、一瞬避ければそれでお終いって訳にはいかないから。

 

「…って、三人…?じゃあ、後一人は……」

「こっちだ、ぜッ!」

「ちぃ……ッ!」

 

気付いた時には既に遅し。そう言わんばかりに茅章から逃れた俺の背後へ迫る、残り一人の霊装者。彼の手斧を避け切れなかった事で右の砲が破損認定され、更に俺の戦闘能力は低下する。

それでも、俺は諦めない。半分はやけくその気持ちで、もう半分は逆境で燃える心に突き動かされて、俺は戦う。

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

今し方砲に一撃与えた相手へ追い縋り、斬撃からのせめぎ合い。他の相手に近付かれた時点でそこから離れて、とにかく囲ませるかと残った二門を乱射。その後相手が接近しながらの近接攻撃を仕掛けてきた時には短刀を横に振り出し俺自身も身体を捻る事で受け流し、拳銃で射撃をかけようとする相手を逆に牽制。

とにかく全力で、全力で、全力で戦った。自分でもびっくりする位、全身全霊で食い下がった。だからこそ、俺はそう簡単にはやられず……けど、遂に限界を迎える。

 

「まだだ、まだ俺は……ッ!」

 

歯を食い縛り、引き撃ちで距離を取ろうとする相手を追撃。その根性が功を奏して相手のライフルを撃ち抜く(模擬戦仕様だから壊れてはいない)事には成功するも、周りへの注意力が切れかけていた俺は横からの接近を許してしまう。

 

「くぅ……ッ!」

「遅ぇッ!」

 

咄嗟に向きを合わせて砲撃によるカウンターを行おうとした俺。けどその時にはもう遅く、展開しかけた砲を蹴り上げられてビームはそのまま何も無い空へ。ならばと俺はその衝撃を利用して退き、拳銃で今度こそ迎撃しようと腕を振るうも……銃口が正面を向く直前、背後から俺の腕へ強固な糸が絡み付いた。

 

「……ッ!しまっ……!」

 

前方へ出かかっていた腕は、逆に後ろへ引っ張られる。迎撃どころか体勢すら崩され、不味いと思った次の瞬間には俺の眼前に迫ってくる相手の霊装者。そして、彼の持つ霊力の刃が振り下ろされ……俺の戦いは、終了した。

 

 

 

 

討ち取られてしまった俺が退場してから数十分後、模擬戦にも決着が付いた。結果としては、策に嵌められてしまった俺達側の敗北。けどその後そこそこ盛り返す事にも成功し(俺や同じく侵攻した数人での奮闘は、それなりに効果があったらしい)、負けは負けでも善戦の上での負け、相手からすれば辛勝と言うべき模擬戦になった。

 

「…けど、やっぱ勝ちたかった…てか、最後まで生き残りたかったなぁ……」

 

ここでの最後の訓練が終わり、後はまた集会っぽいのをした後帰るだけ。今はその集会っぽいのの時間を待ってる状態で、軽くシャワーを浴びた後部屋のソファでくつろいでいる。

 

(……霊力ばかりあってもしょうがない、ってのはこういう事なんだろうな…)

 

模擬戦を振り返ってみて、俺は思う。俺は呆れる程の霊力があるおかげで四人相手でもガス欠に陥る事がなく、あそこまで粘れたのも霊力量のおかげだとは思うけど……他の能力も高ければ、というか実力があればあの場で勝てていたかもしれない。ここまで何だかんだ霊力量任せの戦い方で何とかなってきた俺にとっては、悔しくもどかしく…そして同時に、今の自分の限界を知れた。

 

「…まぁ、今後の自分の課題が見えたって意味じゃ、この模擬戦の本来の目的を果たせてるんだろうけど……」

「顕人君、居るかなー?」

「あー、居るよー」

 

優等生ぶるつもりはないけど、模擬戦なんて勝てなきゃなんの意味もない!…なんて短絡的思考をしてる訳でもない俺は、ゆるゆると模擬戦を「価値あるものだった」という結論に持っていく。

…と、そこで扉の向こうから聞こえてきた綾袮さんの声。それに家と同じテンションで答えると、まず綾袮さんが入ってきて……それからもう一人、そこには入ってくる人物がいた。

 

「お邪魔するわね、顕人」

「あ、妃乃さん……綾袮さんのお守り?」

「そう、お守りよ」

「ちょっと…二人共いきなり酷くない?何気なく言う冗談としては酷過ぎるとわたしは思うんだけどー?」

 

入ってきた妃乃さんにさらっと綾袮さん弄りの冗談を言うと、妃乃さんは驚く事なく即回答。…確かに酷いっちゃ酷いけど…綾袮さんにも少なからず思い当たる節があると思うんだけどなぁ…。

 

「はいはい。…で、取り敢えずお疲れ様ね。私も模擬戦は見てたけど、中々奮闘してたじゃない」

「そ、そう?…そう言ってもらえるなら光栄、かな」

「いやー、まぁ顕人君ならざっとこんなものだよ」

「…なんで貴女が胸張ってるのよ」

「だって顕人君を鍛えたのは他でもないわたしだからね!顕人君の活躍は、即ちわたしの指導力の証明!ドヤァ!」

 

俺と妃乃さんは言うまでもなく同級生で、その点においては同じ立場。けど霊装者としては立場も実力も妃乃さんの方が上で、だから上からの評価は全くもって普通の事。

一方普通じゃないのは、褒められてもいないのにご機嫌な綾袮さん。…まぁ、俺の戦闘能力はその多くが綾袮さんから教えてもらったものだから、合ってるかどうかで言えば勿論合ってるんだけど……ドヤァって実際に言うかねドヤァって…。

 

「あ、そう……けど力任せの面は否めないわね。昨日少し手合わせした時も思ったけど、援護に徹するつもりはないの?」

「それはないかな。まぁ、向いてもないのに無理言ってやる…なんて程じゃないけど」

「んー、前に出るのが向いてないって言うより、距離取って戦う方が持ち味を生かせるって感じだよね、顕人君は。…あ、でも阿修羅とか千手観音みたいに手を生やせるなら別だよ?」

 

綾袮さんの言葉を軽くあしらい、妃乃さんは話を元の路線に。そこでも綾袮さんは「んな無茶な…」と言いたくなる事を言ったけど、どういう意味かは普通に伝わる。…要は、近接戦でも色んな武器を同時に使えるなら…って事だよね。

 

「…でもそれなら、何も近接武器に拘る必要はないよね?近距離で撃ちまくったっていい訳だし」

「それを言うなら、近距離戦をする必要もないと思うけどね」

「あ、それはごもっとも…」

 

二門の砲の様に直接手に持たなくても使える火器はあるんだから、という思いで切り返してみると、ストレートに正しい意見を返されてしまった。…ほんとに妃乃さんの言う通り、俺は二人のように近接戦闘が得意って訳じゃないから、積極的に近接戦を仕掛ける必要もない。

 

「…ま、どっちにしろ近接戦や高機動戦がどういうものかは知っておいた方がいいわよ。そうすればそういう戦いに持ち込もうとする相手への対応も自然と分かるもの」

「あ、うん。それはそのつもりだよ。綾袮さんにも言われてるし」

「ふぅん……ちゃんと指導してるのね、貴女も」

「そりゃそうだよ。…っていうか妃乃、悠弥君に指導出来ないからって顕人君へ目を付けようとしても無駄だからね?何せ顕人君はわたしを尊敬してるんだから!」

「何でそうなるのよ…綾袮はこんな事言ってるけど、もし指導に疑問を持ったら私の所に来てくれて構わないわ。私は綾袮より論理派だから、貴方に合った指導も出来るだろうし」

「ちょっと!?しっかりした勧誘はほんとに止めてくれる!?顕人君もなびいちゃ駄目だからね!?」

 

俺に指南してくれようとしてるのか、それとも指南の話題でふざけ合ってるだけなのか。どちらにせよ綾袮さんも妃乃さんも賑やかで、相変わらず仲良いなぁ…と思っていた俺は、そこでふと気付いた。

 

「…ところでさ、二人はどうして俺の部屋に?ここまでの話って、来たついで…みたいなものだよね?」

「っと、そうだったそうだった…もー、本題忘れちゃ駄目だよ妃乃〜」

「本題も何も、伝える事があるから寄り道したいって言ったのは綾袮でしょうが…!」

「あはは、バレた?…じゃあ、こほん。顕人君、今日と明日でもう二泊していっても大丈夫?」

「え、もう二泊?」

 

意外な事を言われ、驚きながらおうむ返しをしてしまう俺。質問自体は「はい」か「いいえ」で答えられるし、予定的な意味じゃ大丈夫だけど……流石に今の言葉だけじゃ話が見えてこない。

 

「うん。元々他の人達と違ってうちや妃乃達はここでもう一日過ごすんだけど、それだと顕人君は一人で帰る形になっちゃうでしょ?それに折角の機会だから顕人君も大丈夫ならもう一日滞在してもらったらどうだ、っておとー様に言われてね」

「え、と…そんな軽い感じで特別扱いされちゃっていいの…?」

「いーのいーの。…それに……」

「…それに?」

「あ、ううん今のは気にしないで。あんま説明するような事でもないから」

「は、はぁ…(そう言われるとむしろ気になるんだけど…)」

 

ふわっとした説明の後、綾袮さんは何かをはぐらかした。…説明するような事じゃない、というのが説明するまでもない瑣末事という意味なのか、俺には説明出来ない理由なのかは分からないけど…前者なら追求する必要もないだろうし、後者ならどうせ訊いたって教えてくれない。だからいいや、と俺は気になる事を保留にした。それに必要な事なら、そのうち話してくれるだろうしね。

 

「って訳でどう?嫌?」

「うーん…ま、問題ないよ。別に一刻も早く帰りたい訳じゃないしさ」

「そっか、じゃあOKだって伝えとくね」

 

それから綾袮さんは今後の予定(と言ってもざっくりしたものだけど。そもそももう一日でやる事はそこまできっちりかっちりしてる訳じゃないらしいし)を俺に話して、妃乃さんと共に部屋を出ていった。……という訳で、俺…外出期間が二泊、増えました。

 

「…なら、今日の夕飯や明日の朝食は作らなくて済むか……って、最初に思う事がそれかよ俺ぇ…」

 

自分の思考が大分主夫的になっている事に頭を抱え、座ったままげんなりとする俺。えぇいならばと俺は男子高校生らしい事をしようと考えるものの…疲れのせいかうとうとしてしまい、気付けば集まる時間のギリギリになっていたのだった。

 

 

 

 

「ったく、何うっかり口滑らせそうになってるのよ」

「あはは、うっかりだようっかり。でもばっちり誤魔化せてたでしょ?」

「…どうかしらね」

 

顕人の使っている部屋を後にし、ある程度離れたところで妃乃は綾袮に対して軽く小突いた。しかし小突きに全く威力を持たせなかった事もあってか綾袮はあっけらかんと笑うだけで、その反面に彼女は嘆息を漏らす。

 

「ほんと、気を付けなさいよ?好奇心にしろ不安にしろ、聞けば何かしら思うところが生まれる筈だもの」

「分かってるって。…妃乃こそ、悠弥君放っておいていいの?」

「大丈夫よ、一応代わりに警戒してくれてる人はいるし…貴女も知っての通り、悠弥はそこそこやる奴だから」

「へぇ…また一段と信頼してるねぇ、悠弥君を」

「は、はぁ?…一段とって何よ、一段とって……」

 

その後真面目な顔になる…と思いきや、またもふざける綾袮に妃乃は肩を落とす。……が、冗談はそれまでとばかりに綾袮はそれから笑みを消し、真面目な表情で話を続ける。

 

「…妃乃はどう思ってる?これまでこっちに全部お任せスタンスだったBORGが、急に姉妹にももう一泊させてもらえないか…って言ってくるなんて」

「…何かしらありそうな感じは確かにあるわね。二人からの要望、って説明通りな可能性もあるから、あんまり邪推はしたくないけど」

「邪推の一つや二つ、平然と出来なきゃトップは担えないと思うよ?」

「ご心配なく。邪推を心から何ともないと思うようなトップにはなりたくないだけよ」

 

穏やかに話す二人だが、その内心では様々な思案が巡っている。BORGの真意は本当に説明通りのものなのか、違うのならそれは何なのか、何故それを隠そうとするのか……分からないというのは見えている危機以上に危険なものであり、顕人を先に帰らせなかったのもそれが理由の一つだった。

 

「…ま、何れにせよ厄介事は起きてほしくないわね。対処が面倒だし、組織同士の関係が悪くなるのもありがたくないし」

「だよね、特にBORGは霊力の研究関係に積極的だし、わたしもそういうのは勘弁かなぁ…」

 

その後も二人は、疑念について話しながら大ホールへと向かう。

二人が話している内容は、別段二人が考えなくてはいけないものではない。だが必要不要に関わらず、組織を運営する人間としての思考を自然にしてしまうのが時宮と宮空の家に生まれた人間の、そこで育った人間の性であり…そういう少女が時宮妃乃と宮空綾袮なのだった。

 

 

 

 

「……って、絶賛女子高生やってる女の子二人が夏休み中にする話じゃないよこれ…」

「いや、それは…まぁ……」

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