双極の理創造   作:シモツキ

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第九十五話 感謝と、そして…

「うーむ……動きが単調になってる時がちょくちょくあるし、特に砲撃の時は止まっちゃってるなぁ……」

 

朝食後、真っ先にぶち当たったのはやる事ねぇじゃん、という問題。やれる事は色々あるけど、わざわざ今やらなきゃいけない事でもないし、明日には今度こそ帰るのにゲームやら読書やらで時間を潰すというのも詰まらない。……で、思い付いたのは昨日の模擬戦の映像視聴。

 

「動きに関してはもっと色々考えるとして…砲撃はどうするかねぇ。動きながら撃つと反動で危ないし、スラスターの噴射で打ち消すんじゃその分移動に回せる推進器が減るし……」

 

成長に必要なのは、現状…特に欠点を理解し、改善を図る事。それにおいて有効なのは、自分の動きを第三者視点で見てみる事。折角色んな人にアドバイス貰ったんだから、俺自身でも色々と考えて、改善の道を模索してみたいという気持ちになって、今俺はこうしている。……映像見るなら帰ってからでも出来る?…いや、ほら…こういうのって、時間を開けない方が振り返り易いし…?

 

「…試したいけど…言ったら許可貰えるかな……?」

 

色々思い付いてくると、今度はそれを試してみたくなるもの。丁度ここは人目を気にせず訓練が出来る場所で、人や建物にさえ撃ち込まなければ問題ない筈(というか人や建物にはどの場所でも許される訳がない)。…という訳で、視聴を止めて部屋を出る俺。

 

「綾袮さーん、居るー?」

 

廊下に出て、綾袮さんが使っている部屋の前まで行って、扉をノック。その後中へと声をかけて、反応が返ってくるのを待つ。……けど、反応はなし。どうも綾袮さんは部屋にいないか、俺の声が聞こえていないからしい。

 

「…っとそうだ、そういやこの時間は何か話があるって言ってたな……」

 

もう一度声をかけてみるか迷っていたところで、俺は朝食の際聞いた話を思い出す。何でも宮空と時宮の両家で会議?…をするらしくて、時計を確認するとやはりまだ話をしててもおかしくない時間。

 

(…ここだと誰が何の管理してるか分からないし……待つか)

 

仕事(俺は社会人じゃないけど)では何か許可を得たい時取り敢えず直属の上司に話をするのがベターであるように、霊装者だって組織としての動きは他のところと変わらない。それもあって俺は待つ事を決め、部屋の前で待機開始。話がいつ終わるか分からないからこそこの場を動かず、五分十分と待ってみる。そして……

 

「…ふぁぁ……」

「……あれ、顕人君?わたしに用事?」

 

二十分弱の時間が経った頃、部屋に綾袮さんが戻ってきた。…よかった、一時間とか待つ羽目にならなくて……。

 

「用事っていうか…あー、うん。用事だね」

「あ、そうなの。何かな何かな?」

 

興味あり気に訊いてくれた綾袮さんへ、俺は説明。面白い用事ではないから綾袮さんの抱いているであろう期待には添えないけど、まぁそれは流石に仕方ない。

 

「…という訳で、装備使っても大丈夫かな?」

「んー…まあいいと思うよ?でも整備状態はどうなの?昨日あれだけ撃ってた訳だし、どこか調子悪くなってるかもしれないよ?」

「あ、それは確かに……」

 

肯定から続いた確認の言葉に、おっとどうだったかなという思いがよぎる俺。乱暴な扱いはしないよう気を付けてはいるものの、何かと霊力量に物を言わせようとする…即ち大量の霊力を短時間で武器に注ぐ事が多い俺は、どうしても他の人より装備の磨耗が早くなりがち。…俺じゃしっかりした整備は出来ないし、状態によってはやらない方がいいかもなぁ…。

 

「…っていうか、それを訊きたかったならメールなりなんなりしてくれればよかったのに」

「いや、話してる最中に携帯なっちゃったら悪いかなって…」

「あはは、顕人君はほんとに細かいところまで気を回してくれるね。…で、やるの?」

「うーん……止めとくよ。色々試すってなると、撃つ回数も自然と多くなるだろうから」

「そっか。だったら訓練の事は忘れてゆっくりしようよ。折角普段は来ない場所にいるんだからさ」

 

俺の指導役も担っている綾袮さんがそれを言っていいの…?…という思いはさておくとして、折角ここにいるんだからという点には大いに同意。同じ理由で訓練しようかというところまで至ったんだから、そこに異を唱える理由はなく……でもそうなると、問題は当初のところに戻る。

 

「…俺、何してよう……」

「それはわたしに訊かれても困るかなぁ。…あ、花火やる?」

「また日中に!?…昨日ドンパチしまくったから花火はいいや…」

「なら逆に、騒がしさとは無縁な瞑想とか…」

「それもちょっと…それで何十分も潰せる程俺達観してないし…」

「だったらあれだね。夏しか出来ない事の代名詞である夏休みの宿題を、なんとわたしの分まで顕人君にやらせて……」

「結構です」

 

…とまぁ、目的の話が済んだ&やる事がなくなった事で、俺は暫し綾袮さんとの雑談に興じる。考えてみればこの数日は綾袮さんと殆ど話してない…って事はないものの、家にいる時よりは会話の数が少なかった訳で、普段如何に会話していたのかと期せずして俺は気付く事になった。…気付こうが気付きまいがどっちでもよさそうな気もするけど。

 

「俺ごめんだよ?夏休み最終日になって泣き付かれるとか」

「それ、数日前ならOKって事?」

「な訳あるか……ぶっちゃけ俺だってまだ全部終わらせた訳じゃないんだから、ほんとに俺を頼りにされても困るからね?」

 

案の定、綾袮さんは夏休みの課題をきちんとやっていない模様。そして俺には見えている。後々切羽詰まった表情で手伝いを頼んでくる綾袮さんの姿と、結局断り切れずに手伝ってしまう自分の姿が。

 

「…大変なんだよ、霊装者と学生の二重生活は……」

「や、それに関しては分かるってか同感だけど…マジで何して過ごそうかなぁ……」

「だったら、少し時間いいかしら?」

「あ、おかー様…」

 

軽く頭を掻きつつ天井へと視線を向けたその瞬間、聞こえてきた第三者の声。それに反応して首を回すと、そこにいたのは声の主である綾袮さんのお母さん。

 

「別に用事はないんでしょう?顕人君」

「あ…はい、ないですけど……」

「なら決まりね。大丈夫よ、難しい事を頼む訳じゃないから」

 

威圧感…って程ではないものの、有無を言わせない感じで話を進める宮空紗希さん。あれよあれよと話が進み、あっという間に俺は頼みを聞く事に。

 

「おかー様、顕人君に何してもらうつもりなの?」

「ちょっとした事よ。場所を移すから、貴女は着いてこないで頂戴」

「え、わたし駄目なの?なんで?」

「秘密よ。終わったからアタシでも顕人君にでも訊いてくれていいから……立ち聞きなんてするんじゃないわよ?」

「あ、う、うん……」

「という訳で、着いてきてくれる?」

 

ほんのりと凄みを効かせて綾袮さんに釘を刺した紗希さんに連れられ、俺は綾袮さんの部屋前を後にする。

頼みとは一体なんなのか。綾袮さんに秘密にするなんて、何か厄介な話なのか。そう思いながら後に続くと、案内されたのは初日に深介さんとも話したあの部屋。

 

「さ、座って頂戴」

「えぇと…失礼、します…」

 

言われた通りにソファへ腰を下ろすと、紗希さんはコップを出して二人分の冷茶を用意。淹れて、運んで、テーブルに置くという何の変哲も無い動作が進む中、俺はほぼ借りてきた猫状態。

 

(…あー、駄目だ…やっぱ緊張する……)

 

親しみ易い綾袮さんや、物腰柔らかな深介さんと違い、紗希さんは……その、所謂『キツい性格』の雰囲気がある。初日の会話で俺を気遣ってくれた事からも分かる通り、実際には優しい人なんだろうけど…深介さん以上に接する機会が少なかった相手だから、正直全く緊張が解けない。

…と、そんな事を考えている内に、紗希さんは俺の向かいのソファへすっと着席。それから真剣そうな表情を浮かべて、俺の目を見て……言った。

 

「…こほん。じゃあ、まず始めに……ありがとう、顕人君。普段綾袮の面倒を見てくれて」

「へ?……あ…いや、別に面倒なんて…」

「……見てない?」

「……と、時に見つつ、時に見られつつ…みたいな感じです…」

 

はは…と乾いた笑いを零しながら、何とも微妙な返答を口にする俺。お茶を濁したような回答をしたのは…当然普段の綾袮さんが原因。正直に言えばかなり面倒を見てる気がするけど、親に面と向かってそんな事を言える訳がない。…下手すると勉強の件もバレかねないし。

 

「いいのよ、綾袮に気を遣わなくても。あの子が日常生活においてしっかりしてないのは十分分かってるもの」

「い、いえ…別に気を遣ってるとかではなくて…それに……」

「…それに?」

「……綾袮さんが俺を気に掛けてくれてるのは、間違いありませんから」

「…そう。なら良かったわ」

 

紗希さんの言う通り、綾袮さんはしっかりした人じゃない。面倒見つつ見られつつみたいに言ったけど、その割合は半々じゃない。…けど、それでも綾袮さんが俺を気に掛けてくれてると、俺を導く立場として気を配ってくれていると、俺は常日頃から肌や心で感じていたから、はっきりとそれは口に出して言った。…すると、聞いた紗希さんの反応は簡潔なもので…けれど俺はその時見た。ほんの僅かにだけど、口元には笑みが浮かんでいた事に。

 

「…それで、頼みというのは……」

「えぇそうね。けどもう、頼みは始まってるようなものよ」

「へ……?…そうなん、ですか…?」

「そうよ。…顕人君、これまで綾袮と過ごしてきた中での出来事を、アタシに話してくれないかしら?」

 

少しだけ自分の中で緊張が緩んだ事を感じた俺は、本題に入ろうと話を進める。…が、なんともう本題は始まっているらしく、でも俺には何の事かさっぱり分からない。

そんな中で告げられた、頼みの内容。その内容に対し、まず俺が抱いたのは…何故?という疑問。

 

「話す、って…魔物に襲われてから今日に至るまで、全部の事をですか…?」

「出来ればね。けれど君だってよく覚えてない事や、秘密にしたい事の一つや二つはあるでしょう?だから話していいと思った事だけで構わないわ」

 

動機はまだ見えてこないものの、別に何かはっきりとした情報が欲しい…とかではない模様。だとすれば可能性として一番あり得そうなのは「娘の生活が気になる」という親心で、それなら俺も話をするのは吝かじゃない(元々嫌々来た訳でもないけど)。

 

「…分かりました。じゃあ……」

 

あやふやな話を幾つも並べても仕方ないと、俺はしっかり思い出せる出来事を中心に話し出す。魔王や魔人戦の様な霊装者絡みの事から、ぬいぐるみ購入に付き合わされた時の事や、最近で言えば海水浴の事なんかまで、出来る限り沢山話す。その間紗希さんは口を挟まず、けど俺が話し易いよう適宜相槌や頷きを返してくれた。

そして、数十分。時々お茶を口にし、時々あった出来事を整理する為に時間をもらい、気付けば俺はかなり長く話していた。少なくとも、ちびちび飲んでいたお茶が空になってしまう程度には。

 

「…まだ欲しい?」

「あ…お願いします…」

 

湯呑みが空である事に気付き、巻き戻しのように茶托へ戻したところでさり気なく紗希さんはもう一杯欲しいかどうか訊いてくれた。その自然な気配りに「流石母親…やっぱこういうところは普段から気にしてるのかな…」と何視点だかよく分からない感想を抱いた俺は、こくりと頷き二杯目を貰う。

 

「…すみません、こんな話すつもりじゃなかったんですが…」

「構わないわ。…君にはそれだけ刺激の多い日々だったって事でしょ?」

「…はい、そうです」

 

刺激の多い日々。…これまでの俺の生活を端的に言うなら、正にその通りだった。良い事もあれば困る事もあって、頭を悩ませたり何かに全力を注いだり…とにかく印象深い事ばかりだったからこそ、俺は思った以上に話していた。

そんな俺の話を、紗希さんは…綾袮さんのお母さんは、一体どう感じたのか。…その答えは、すぐに本人の口から聞く事が出来た。

 

「…安心したわ。顕人君が、綾袮を真っ直ぐに受け止めてくれる人で」

 

紗希さんが浮かべているのは、綾袮さんの事を大切に思っている事が一目で分かる表情。見ている俺も温かな気持ちになれそうな、優しい顔。

 

「綾袮は優秀な子よ。霊装者としての能力は言うまでもないとして…普段はふざけ過ぎな位ふざけてるけど、必要とあればいつだって真面目になれるし、宮空に生まれた者としての責務も理解してる。…それは顕人君も一度や二度は感じた事があるでしょう?」

「…えぇ、綾袮さんが凄い人だって事は、もう何度も」

「…でも、優秀である事が幸せに繋がるとは限らない。宮空の娘ではなく、綾袮という一人の人として見た時に、あの子が幸せだと思える日々を送れるかどうかは分からない。それが母親として不安だったけど……少なくとも君といる時は、年相応の『楽しみ』を得られているって確信出来たわ。だから改めて言わせて頂戴。…ありがとう、顕人君」

 

そう言って頭を下げる紗希さん。どの観点から見ても俺より立場が上な人の、形だけじゃない感謝の表明。…それに俺は慌てる事なく、黙って言葉を受け止める。

…俺には、親の気持ちというものが分からない。こういう感じなんだろう、そういうものだろうって考え、頭で理解する事は出来ても、心からの理解には及ばない。だってまだ俺は子供で、息子も娘もいないから。…けど、それでも…子を思う親の優しさは、今はっきりと知る事が出来た。

 

「…俺からも、お礼を言わせて下さい。綾袮さんと生活するのは、色々大変で、疲れもしますが…それでも毎日、楽しいです。だから、ありがとうございます」

「どう致しまして…と言いたいところだけど、それをアタシに言われても困るわ。言う相手が違うんじゃないかしら?」

「あ……そ、そうですね…」

 

お返し…ではないけど、紗希さんの言葉に俺もお礼を返したいと思った。その思いのままお礼を言うと……返ってきたのは冷めた反応。……おおぅ…何故これを紗希さんに言ったし…産んでくれてありがとうとかになっちゃうだろこれ…。

 

「…まぁ、顕人君が綾袮に対してそう思ってるって事は覚えておくわ。覚えておかれて困る事でもないでしょう?」

「は、はい…えぇと、それで俺は……」

「もう十分聞けたから大丈夫よ。それとこれのお礼として、今後どうしても気になる事があったら訪ねてくると良いわ。話せる事であれば教えてあげる」

「気になる事……分かりました。もしそういう事があれば、その時は尋ねさせてもらいます」

 

話が終わり、俺は二杯目のお茶も飲み干した後立ち上がる。ご苦労様、と労ってくれる紗希さんに軽く頭を下げて、それから部屋の扉の前へ。

多分また、紗希さんと話す事があればその時俺は緊張すると思う。…っていうか、間違いなく緊張する。…けど、話した回数が一回増えたという経験以上に、次話す機会があれば…その時はきっと、今日より肩の力を抜いて話せる。…そんな事を思いながら、俺は部屋を出るのだっ……

 

「……あぁそうだ顕人君。君…綾袮を異性として見ていたりするのかしら?」

「ぶ……ッ!?」

 

……最後の最後にぶち込まれた巨大爆弾。一瞬飲んだお茶が出てくるんじゃないかという感覚を味わった俺が目を剥きながら振り向くと、紗希さんは俺を見定めるような目でこっちを見ていた。

 

「図星なのか、単に初心なだけなのか…どちらとも取れる反応ね…」

「な、何を言い出すんですか急に!もう十分聞けたんじゃなかったんですか!?」

「余談よこれは。…で、どうなの?」

「それは……いや、あの…えと……」

 

ふざけてるとしか思えない、でも真面目そうな紗希さんの表情。同居してる異性の母親から「うちの娘を女性として見ているの?」という質問自体、テンパるのに十分過ぎるパワーを持っているというのに、そこは加えてこの真面目そうな表情というのは色んな意味でタチが悪過ぎる。

で、この反応からも分かる通り肯定も否定も出来ず俺が口籠っていると……

 

「…まぁいいわ、余談だし答えなくても。そもそもアタシに訊かれても答え辛いでしょうからね」

「で、ではそういう事にさせて下さい……(よ、よかった…何とか答えずに済みそうだ…)」

「……けど、もし少なからず異性として見ているのなら…もっと男としても霊装者としても力を付ける事ね。君の性格には今のところ好感を持っているし、霊装者としての可能性も感じるけど……まだ綾袮に釣り合うとは到底思えないわ」

「…が、頑張ります……」

 

エールなのか、それとも遠回しな拒絶なのか。紗希さんの真意は全くもって分からないまま、俺は雰囲気に押されて頑張りますなんて言ってしまった。これじゃ綾袮さんとの交際を申し込みに来た奴である。……いや、ほんと…なんでおまけ感覚でこんなキツいのぶっ込んでくるんですか紗希さん……(ある意味綾袮さんの母親らしい、と思ったのはそれから数分後の事だったりする)。

 

 

 

 

今日は何もない素晴らしい一日だった…って程何もなかった訳じゃなく、かといって素晴らしいと言える程充実していたかというとそれにも首を傾げなきゃいけない、そんな一日だった。ただまぁ朝の散歩は価値あるものだったと思うし、紗希さんとの話もして良かったと思ってるから、プラスかマイナスかで言えばプラスだった一日。詰まる所…休みとしては、十分良かったんじゃないかと思う。

 

「とはいえ、思ってたのとはなんか違うなぁ…何かしらするのかと思ったらそんな事はなかったし…」

 

折角の機会だからお風呂上がりはバスローブを…と思って着たはいいものの、なんか落ち着かずに結局寝巻き代わりの服を着てベットに腰を下ろした俺は、ふとそんな事を呟いた。

宮空と時宮、それに一部の人間だけが残った状態なら、何かはあるんじゃないか…期待という程ではないものの、俺はそう思っていた。けれど結果、個人的なイベントやら宮空時宮での話し合いやらはあったものの、思っていたようなものは無し。

 

「……まあ、根拠もなしに期待してちゃ世話ないよね。…ふぁぁ……」

 

自嘲的な事を言ってたところで出てくる、眠気の象徴。時間的にはもう深夜な訳で、そりゃ欠伸の一つや二つも出るというもの。…んじゃ、まぁ…寝るか。

 

「明日の朝は…っと」

 

冷房をタイマーに切り替え、起きる予定の時間を携帯のアラームでセットした後部屋の電気をオフにする。けれどそこから入る月明かりのおかげで、電気がなしでも移動には困らない。

 

「……ふぅ…」

 

それから俺はベットに横になって、小さく息を吐きながら目を閉じた。ぼけーっとしてる内に眠気が強くなってきて、段々意識が眠りへと落ちていく。

帰るのは明日で、当然次に目が覚めた時にはもう自宅…なんて事はあり得ない。けど明日ここでやる事なんて、それこそ『帰る』事位で、実質ここでの生活は今日が最後。そしてその最後の一日は、俺が眠りに着く事によって、終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

……。

 

…………。

 

……………………。

 

 

 

 

 

 

(…………うん?)

 

寝入ってから数分か、数十分か、或いは数時間後。不意に俺は目が覚めた。目が覚めて……身体に妙な重さを感じた。

 

(…なんだ…誰か、いる……?)

 

目はまだ閉じたままだから、時間も状況も全く分からない。…が、人の気配の様なものと、何かが身体に乗っかっているような重みを感じる。寝起きは意識がはっきりしないものだけど…これは恐らく勘違いじゃない。

この感覚を無視したまま寝直せる図太さなんて持たない俺は、まだちゃんと動いていない頭を働かせつつ薄っすらと目を開く。そして最初に見えてきたのは……卯の花色の、綺麗な髪。

 

「え……?」

「──ふふっ、起きちゃったんですね。顕人さん」

 

一瞬にして覚醒する意識。それと同時に襲いかかる、何故という疑問。あり得ないと目の前の光景を疑う、俺の心。

けれど、見間違いじゃない。何故という疑問はそのままだけど、目の前の光景は見間違いでも勘違いでもない。…そう、そこに…俺の上に跨ぐ形で座っていたのは……

 

 

 

 

 

 

──これまでに見た事もないような表情を浮かべた、下着姿のフォリンさんだった。

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