That Is How I Roll !!   作:さとそん
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いつも通り、遅れましたがよろしくお願いします!




This Is My Usual Life

 

 

 

 ──むさくるしい。これが俺の通う雛河高校の今の印象だ。

 入学当初は「どんな素敵な高校生活を送れるんだろう……!」だなんてドキドキが止まらなかったもんだが、入学から1ヶ月ほどだった今となってはただただ苦痛でしかない。

 

「よぉーノヤ! 今日も相変わらずカワイコちゃん達と登校か? 羨ましいやつめ!」

 

 だって、こんな男しかいない高校に青春もクソもあるわけないじゃねぇか!!

 

「朝からうるせぇな、ギン。アイツらはただの幼馴染みで、それ以上でもそれ以下でもねぇよ」

 

 こんな朝っぱらから騒がしく絡んでくるコイツの名前は則本 銀次。中学の頃から俺とバッテリーを組んでいて、鬱陶しいが頼りになる坊主頭だ。いや、俺も坊主なんだけどな?

 

「またそのセリフかよ……。まっ、何年もお前とバッテリー組んでるせいで、俺とお前は一心同体だからお前のことなら何でもわかっちゃうんだけどな!」

 

「はいはい、いいから自分の席に戻れよ。タダでさえ野球部は暑苦しいイメージあるのに余計ややこしいことになっちまう」

 

 俺はギンのウザったいトークを適当にいなして、1時間目にある日本史の授業の準備を進める。一方ギンは俺の冷たい対応にも慣れた様子で、笑いながら自分の席へと戻っていく。

 

 普段からアイツはこんな感じでおちゃらけているふざけた奴だが、野球が関わると急に人柄が変わる。

 守備では、そのデカイ図体を活かし、とてもピッチャーからすると安心感がある。リードはとても研究されており、繊細で、ときに大胆なリードをしてくれる。

 打撃では、キャッチャーならではの相手の配球を読んで打ち、昔から打点、打率が共に高い頼りになる四番打者であった。

 俺が推薦されていた明光学園も、俺とギンをセットで獲得しようとしていたようだ。まぁ評定が足りなくて推薦を受けれなかったそうだが……。

 そういう訳で、俺にとっての相棒はギンただ1人なのだ。あの甲子園の舞台で、ギンに向かって全力でボールを投げ込みたいと俺は思う。

 

 

 

 ~〜〜

 

 

 

「起立、気をつけ、礼」

 

『アーッしゃァ!』

 

 帰りのHRでの、挨拶とはとても形容し難い挨拶を終えて、俺達のクラスは気だるい勉強モードから一気に部活モードへと切り替わる。今日は週に一度の7時間授業だったせいか、先程までは虚ろになっていた目にも、今ではやる気が漲っているように見える。

 

 ここ、雛河高校は体育系の部活が盛んで、生徒の大半がスポーツ推薦で来ている連中だ。

 同じクラスの野球部の連中も同様で、まさに脳筋的思考かつスポーツ大好き人間であるため、我先にと競い合うようにグラウンドへと駆けていく。

 

「おいノヤー、さっさと行くぞー!」

 

 ギンが俺を待っている姿を一瞥し、机に掛けてあったスクールバッグを背負って先にグラウンドへと走っていった連中の背中をギンと共に追いかける。

 夕焼けに照らされる校舎には既に誰もいなくなっており、俺達の足音だけが反響していた。

 

 

 

 

 

 

 既に日も沈み、西の空が綺麗な夕焼けの下、春にしては暑い青春の汗が零れている。

 

「さぁこぉぉーいっ!」

 

「バッチコォォォーイッ!」

 

 今日の練習メニューは試合形式でのバッティング練習だ。うちの野球部の練習は実戦を主に置いている。本番では、練習したことのないような状況に陥ることも多いため、このような練習法を取り入れているのだ。

 

 そんなわけで、俺はいまマウンドに立っている。入部してすぐの練習の時の能力適正テストで投手に合格し、俺は一年生ながら一軍のメンバー候補の中に含まれている。捕手ではギンも順調にメンバー候補の1人であるため、いま俺の球を受けているキャッチャーはギンだ。

 

 セットポジションから大きく足をホームベースに向かって踏み込み、下半身の力を意識して腰を捻り、腕を力強く振り下ろす。

 

 投げたボールは打者の手前で鋭く右バッターボックス側に曲がり、バットの空を切ってギンの構えているミットに吸い込まれる。

 

「ははっ、やっぱり准のスライダーはエグいなぁ! こりゃあなかなか打てんわ」

 

 すると、バッターボックスに入っていた雛河高校野球部キャプテンの聖 誠さんが声をかけてくる。聖さんは細身だが身体がガッチリしている。そのため長打力も高く、うちの不動の4番打者に君臨している。

 

「あははっ、聖さんに褒めてもらえて光栄ですよ」

 

「まぁな? ただアレやな、男だったらストレート勝負やろ! 次の球はストレートな、これは先輩からの命令や!!」

 

 聖さんは中学が関西の方だったらしく、少し関西訛りが混じった口調で、そう命じてくる。

 笑いながら喋っているようにも見えるが、目はマジだ。たぶん空振りさせられたことが相当悔しかったのだろう。聖さんは獲物を捕食する獣の様な視線で俺を見つめている。

 

(超怖ぇぇぇ……)

 

 一軍の候補入りを果たしたとは言えど、俺が所詮は中卒のチェリーボーイであることに変わりはない。3年の先輩、それも関西弁混じりの坊主頭の主将にそんな目で見られたら萎縮してしまう。

 

 そんな状態でマトモにストレートを投げられるわけもなく──

 

 ドスッ!!

 

 俺がビビりながら投げた球は、あろうことか先輩に向かって一直線。そのまま背中を向けた聖先輩のケツに直撃し、辺りに硬球特有の鈍い音が響き渡る。

 

「あっ……」

 

 その瞬間、場が驚くほどシーンと静まり返り、俺の喉からでた蚊の鳴くような声がそれに続く。

 

「准……覚悟はできてるんか?」

 

「すいませんでしたぁぁぁあーっ!」

 

 怒気を孕んだその声に俺はその場から逃げることも出来ず、被っていた汗臭い帽子を脱ぎ捨て、誠心誠意土下座をする。先程までグランドの中で一番高いところにいたはずなのに、いつの間にか俺は一番低いところに頭を擦りつけていた。

 そんな俺を嘲笑うかのように、既に赤くなっている西の空を飛ぶカラスが「アホー、アホー」と鳴いていた。

 

 

 

 ~~~

 

 

 

 先程まで街を明るく照らしていた太陽も暮れて、真っ暗になった夜の商店街を街灯が明るく照らしている。

 ポケットに入っているスマホに繋がったイヤホンからは、とても聞き慣れた音楽が聴こえくる。幼馴染みが歌っているその歌を口ずさみながら、1人で帰宅の途につく。

 

 主将にデッドボールを当ててしまった後は本当に地獄だった。1人でバックネットの前に立たされて千本ノックとか、どこの漫画の話だよ……。

 お陰で俺の身体はボロボロだ。ユニフォームに土が入りまくって気持ち悪かったから、いまは学校の指定ジャージに変えているが、それでも身体にまだ砂やらなんやらが付いていて気持ち悪い。

 

 ふと、前方を見ると見慣れた後ろ姿を発見した。あれはつぐか?

 

「おーい、つぐ〜!!」

 

「……?? あっ、准くん!!」

 

 つぐは俺の声に気づいて、こちらの方に振り返る。買い物の帰りだったのか、彼女は今にもはち切れてしまいそうなほどパンパンに膨らんだ買い物袋を両手で持っていた。

 

「またそんな重そうな荷物を一人で運んでんのかよ……この前おばさんに言いつけといたばっかりなんだけどなぁ」

 

 俺はそう1人呟き、つぐの方へと駆け寄って手に持っていた荷物をひょいと持ち上げる。

 

「えっ!? いや、いいよいいよ! 准くんは野球のカバンだって背負ってるんだし……」

 

「まぁまぁ、こういう荷物を持つのは男の役目だろ? それに女の子のつぐにムキムキになられても困るしな、ははっ!」

 

「ムキ、ムキ……? 私が……? いやいや、そんなことにはならないよっ!」

 

 俺の言葉でつぐはムキムキになった自分の姿を想像してしまったのか、顔をブンブンと左右に振って否定する。

 

「とりあえずこれは羽沢珈琲店の買い物だから、袋は私が持つよ!」

 

 そう言ってつぐは、再び荷物を取り返そうと袋に手をかけたため、2人で荷物を引っ張り合うような形になる。

 

「ふむふむ……つまり、この問題は俺が羽沢家の一員になれば解決するってことだな?」

 

「ふぇ……?

 

 

 

 

 

 

 ──ええぇぇぇ〜〜!?」

 

 俺が無意識に発言すると、つぐは顔から火が出るように赤面をして身体を仰け反らせ、ここが商店街であるのにも関わらず、大声で驚嘆する。

 

「おいっ、つぐ! 声がでかいって!!」

 

「えっ、いや、だって……それって私と准くんが、け、けけけ、結婚するって……ちょっと、まだそれは早いっていうか、その……」

 

 ……はい??

 俺が羽沢家に入るってだけだろ?

 

 それって……あれ、確かにそうだな。俺が羽沢家に入るってことは……うん、結婚するしかないな。

 

「ええぇぇぇ〜っ!?」

 

「ちょっ、准くん! 准くんも声大きいよ!!」

 

「だ、だだだ、だって! 無意識の発言だったのに、そんな、口説き文句みたいな……」

 

 やばいやばい恥ずかしい死にたい恥ずかしい赤面してるつぐ可愛い。

 

 確かにつぐのことは好きだし、いつか結婚できたら幸せだろうな〜とかは考えてるけど、告白するのは甲子園に行ったらって決めてるんだ!!

 

 ダメだ……!このままじゃマトモにつぐの顔を見ることなんて、、俺には出来ない……!

 つぐも頬を紅潮させて、何をしていいか分からないような様子でオロオロしている。

 

 頼む、神様。そこにいるなら助けてくれ……!

 

 

「あれれ〜? 2人ともなにやってんの〜?」

 

 

 こ、この独特な間延びした声の持ち主はまさか──

 

「よ、よぉ〜モカじゃねぇか!」

 

 

 パンの神様──青葉モカ!!

 

 

「も、モカちゃんっ!!」

 

「ん〜? あ〜、なるほど〜。いやぁ〜、こんな夜に2人で帰ってるだなんて、お熱いですな〜」

 

 パンの神様こと、モカは悪巧みをしていそうな表情で、ニヤニヤしながら俺達のことを交互にチラチラ見ている。

 前言撤回。こいつ神様じゃなくて悪魔だわ。

 

「ちょっとモカちゃん! これは、そっ、そういうのじゃないから!」

 

「え〜、でも2人とも手を繋いでたし〜」

 

「は?? 俺達は手なんか繋いでないぞ……?

 

 

 ……あ。」

 

 モカに手を繋いでたと言われ、そんなことしてたかなぁと思い返す。すると数秒考えると一つだけ思い当たることがあった。

 

 

「買い物袋ェ……!!」

 

 

 恐らくモカが言っているのは、さきほど俺とつぐが買い物袋を取り合っていた時のことだろう。そのときは手と手が触れ合うレベルに距離が近かったため、それを見たモカが勘違いしたようだ。

 

「なぁモカ、ちょっとこっち来て」

 

「ん〜、なに〜?」

 

「パン奢ってやるからもうやめてくれ……俺とつぐのライフは既にゼロなんだ……」

 

「ん〜? なんのことか、よく分からないけどラッキ〜。なんもしてないのにパンを10個も奢ってもらえるなんて、モカちゃん大勝利〜」

 

「えぇ、そんなに食うのぉ〜……まぁいいけどさ」

 

 なぜか大量にパンを買わされることになっていたが、こちらにVサインをしながら微笑んでいるモカを見ていると何故か「仕方ない」という気持ちになってしまうから不思議だ。これご幼馴染みパワーというものなのだろうか。いや、たぶん一刻も早くこの場から逃げ出したいだけなんだろうけど。

 どうせ野球やってたら月の小遣いなんて食にしか使わないし、あって無いようなもんだろう。パン10個くらい山吹ベーカリーで買えば1000円ぐらいで買えるだろうしな。

 

「な、なんかごめんねっ、准くん……」

 

「いいよいいよ、とりあえず荷物は俺が持つからさ」

 

「じゃあお願いしてもいいかな? お詫びと言ってはなんだけど、うちでゆっくりしていかない?」

 

「おっ、いいのか? じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

 折角のつぐからのお誘いだ。まぁ2日に1回くらい行ってるんだが、ここはお言葉に甘えてお邪魔するとしよう。

 

「それじゃあ、あたしは帰るね〜」

 

「あれ、モカは来ないのか?」

 

「あたしは家帰ってパン食べなきゃいけないし〜」

 

「え、お前がパン食ってる理由って使命感なの!?」

 

「……まぁね〜」

 

 モカはそういうと踵を返し、自分の家がある方向へと向かって歩き出す。微かにそよぐ春風が、モカがいつも着ているお気に入りのパーカーのフードを揺らしている。その様子はまるで、自由気ままなモカの性格を的確に表わしているようだった。

 

「モカちゃん、どうしたんだろうね?」

 

 つぐが少し心配そうな声色で、俺に問いかける。

 

「さぁな。ただひとつ言えるのは、モカっていつもあんな感じだろ?」

 

 いつものほほんとした態度で自由に行動して、パンが大好きで、人をおちょくって遊ぶのが得意で。

 それでいてなんだかんだで1番周りを見ている────。

 

 そのとき、俺のポケットに入っていたスマホが振動した。映し出されたホーム画面を見て、俺は小さく笑みを零す。

 

『じゅんじゅんが「やめてくれ」って言ったんじゃ〜ん』

 

「じゅんくん? どうしたの??」

 

「いや、なんでもないよ。さて、早速つぐの家でも行くか〜!」

 

 俺は、小憎たらしい顔をしてニヤついているであろうモカの顔を脳裏に浮かべながら、既に真っ暗になった帰り道をつぐと共に歩き出した。

 

 

 

 




ヨハネスさん、チョコテラスさん、高評価ありがとうございます!






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