蟲毒の檻   作:丸焼きどらごん

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「フリーザから星買ってる宇宙人ってどんな奴だろう」という妄想から出来た短編。ほぼ主人公である宇宙人の身の上話になってしまった……


蟲毒の檻

 私の名はイプシロータ。とある種族の女王である。

 正確には分からないが、今から数百年か、数千年前か……とにかく遥か昔に、私はこの世界に生を受けた。しかしその命の形も、存在そのものも異質で歪なものだった。

 

 

 

 音も光もない、とても静かで暗い場所。そこに、気づけば生命として浮かんでいた。後にその場所が宇宙と呼ばれる場所だと知るが、生まれたばかりの私はとにかく混乱した。……なにも知らずにいれたなら、きっと生まれた場所に疑問を抱く事も無く馴染んだであろう。しかし私には「前世」とも言うべきものが存在し、そこで生きていた「人間」の記憶がそれの邪魔をした。この異質で孤独な場所をその記憶が拒絶したのである。

 

 まず百年。発狂と自失、覚醒を繰り返し、ようやく宇宙に慣れた。その頃には自分がどういった存在であるかもおぼろげに理解しており、睡眠も食事も必要としない体を不思議に思ったものだ。……どうやら、私は確固とした肉体を持たない精神生命体のような存在らしい。

 更に百年。慣れたとはいえ孤独に耐えられず、自分以外の意志持つ生命を探して宇宙をさ迷った。しかし私はよほど辺鄙な場所に居たらしく、長らく誰にも会う事が出来なかった。百年などと言っているが、当時は時間を計るすべなど持ち合わせていなかったので本当は千年だったのかもしれない。

 更に百年。私は自分に特殊な能力があることを知覚した。どうやら私は、自分のイメージしたものを体の中にある靄のようなエネルギーを使用して具現化する事が可能なようである。それによって私は「人間」の記憶を呼び覚まし、様々なものを生み出した。食べ物、書物、機械、植物。永遠とも思えた孤独がそれによって少し癒されたが、宇宙という環境では形を保てる物は限られてしまい、私は自分が生み出したものが滅びる様を幾度となく見る事となった。

 

 

 酷かったのはその後だ。

 

 

 孤独だった私が、何を一番に求めるか。それを考えれば、いずれ私が生み出すものの果てが見えただろう。しかし私はそれに気づかず、少しでも何か自分以外のものが増えるようにと想像し、創造し続けた。…………その結果、私は生き物を生み出すようになってしまった。

 しかし自分以外の生き物を生み出すことでようやく孤独から逃れられるかと思えば、そうではない。…………私が生み出す生物は、そのことごとくが宇宙という環境に耐えられなかったのだ。

 

 虫、魚、鳥、犬、猫、熊、ライオン、ねずみ、猿……そしてやがて「人間」を作った。しかしそれら全て、生まれた瞬間にもがき苦しみ死んでゆく。しかも私の孤独がもたらす欲求はとても強かったようで、生き物たちが死ぬ様を見たくなくて生み出すことを拒否しようとしても深層心理下で求めてしまうのか……やがて一定の間隔で必ず生き物を生み出すようになってしまっていた。

 だから私の周囲はガラクタの山から、日に日に死体の山へと変わっていった。きっと傍から見たら地獄のような光景だっただろう。しかしその中心に居た私こそ、正に生き地獄だった。……せめて死ねたら楽だったろうが、私は「人間」ではない私がどうやれば死ぬのか皆目見当もつかなかったのだ。

 

 そこから更に百年、発狂の中で生きていた。

 

 

________________ああ、何故死んでしまうの。何故生きてはくれないの。何故私を一人にするの。

 

 

 いくら嘆こうとも、苦しみの連鎖は終わらない。

 

 しかし宇宙をさ迷い続けて数百年目……やっと「生命」が生きることができる環境の星を見つける事が出来たのだ。それまでもいくつか「星」と呼べるものは見つけたが、そのどれもが生命が生きるのに適した環境ではなかったのである。……その中でやっと見つけた、私の希望。これでようやく、生み出しては死なせ続けた我が子達を育むことが出来ると思った。

 だが、その星には先住民が居たのだ。そして彼らは、自分たちと違う生命……私たちを拒絶した。きっと、私の姿が彼らにとって化け物に見えたからだろう。だから私が生み出す子供たちがいくら普通の姿でも、恐れられた。……前世の記憶と照らし合わせれば、人間型の姿であるその星の住民が私を異質に感じた理由も理解出来よう。しかし、私の希望が打ち砕かれた事には変わりない。……戦う力をもたなかった私は、成すすべなく目の前で我が子らが殺されるのを見るしかなかったのである。

 けれど、やはり私だけは死ねず……再び宇宙に舞い戻ることになった。どうやらこの身は戦う力こそないが、精神生命体であるため他者に干渉されることが無いらしい。まったくもって、忌々しい事よ。

 

 

 生み出しては死なせ、彷徨い、私はただひたすらに求めた。我が子らが安寧に暮らせる地を。

 

 

 そしてこの世に生まれ出でて幾星霜の時を経て……私は運命的な出会いを果たす。私はその者を見た瞬間、恥も外聞もなく申し出ていた。

 

 

 

 

『あなたが望むものを、対価として存分に差し出そう。だからお願いだ。生命が暮らせる星を、どんな手段を使ってでもいい。貴殿の力で奪ってくれ。そして私に売ってほしい』

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

「フリーザ様。クライアントがフリーザ様にお会いしたいと訪ねてきていますが……」

「おや、どなたです?」

「イプシロータ様です」

「ほほっ、またですか。性懲りもなくまた星が足りなくなったようですね。……いいでしょう、通しなさい」

 

 フリーザの命を受け、ザーボンは「承知いたしました」と頭を下げて客人を招き入れる手配をするため退室した。それを見送りつつ、フリーザのもう一人の腹心であるドドリアはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「まったく、いいお得意様ですねぇ、あの女王様は。これでいくつ目のお買い上げでしたっけね?」

「たしか八個目ですよ。ドドリアさん、私はいつものように彼女とお茶をしますので準備を」

「かしこまりました」

 

 そしてドドリアが手配し客人を招く場が整うと、タイミングよくザーボンが客……イプシロータを連れて室内に入ってきた。フリーザは大仰な仕草で腕を広げると、友好的な態度でイプシロータを歓迎する。

 

「お久しぶりですねぇ、イプシロータ。どうやら相変わらずの子だくさんのようで」

『ええ、お久しぶりですフリーザ。毎回、世話になりますね』

 

 イプシロータ……そう呼ばれる客人は、一見巨大な蜂と蟻を掛け合わせたような昆虫型の宇宙人だ。しかしその身は半透明で、手を伸ばしても実体に触れる事は出来ない。そういう種族なのである。……といっても、フリーザはイプシロータ以外に彼女と同じ種族を見た事は無いのだが。彼女は子供を生み出すが、それらは直接イプシロータから"産まれる"わけではないので彼女の同種、というわけではないのだ。便宜上フリーザはイプシロータと、彼女を女王とした生物の群れをまとめて一族として扱っているが、少々ややこしい。

 虫の姿の女王はその"声"も独特で、意味こそ伝わるものの声帯から発しているわけでは無いのか「言葉」というより「音」を聞いている感覚に近い。

 

 イプシロータは勧められた席へ移動すると、用意されていたティーセットを見て嬉しそうに礼を言った。表情こそ虫の顔なのでほとんど分からないが、彼女は意外と感情豊かなので雰囲気で伝わってくるのだ。

 

『いつもお気遣いありがとうございます』

「いえいえ、大事なお得意様ですならね。これくらいかまいませんよ」

 

 イプシロータは睡眠も、食事も、排泄も必要としない。よって飲み物を用意しても無意味なのだが、どうにもこの女王様は「知人とお茶をする」というシチュエーションが好きらしく、こういった事をとても喜ぶのだ。フリーザとしても大事な得意先……地上げした星を売る相手であると同時に、それなりに付き合いの長い相手であるため多少の手間は許容範囲である。といっても、フリーザは部下に命じるだけなのだが。

 

「それにしても、あなたの種族は弱いくせによく繁殖しますねぇ。ああ、弱いからこそ数が増えるのでしたっけ」

『ふふっ、事実ですが言ってくれますね。……ええ、私の子供たちはとても弱い。そのため、自力で新しい生活圏を確保できぬのです。だからフリーザには感謝していますよ。貴方に出会えてよかった』

「ホーッホッホ! 最初、あなたが私に星を奪って売れだなんて言ってきた時は何事かと思いましたがね。ゴミみたいに弱いくせに、なにをこの宇宙の帝王に命令するのか生意気な……と」

『でも、それがきっかけで地上げビジネスを始めて軌道に乗ったのですからいいじゃありませんか。ただ強いだけより、宇宙の帝王としての威光は広がったでしょう? 素晴らしい趣味を提供したと、褒めてほしいくらいです。……それにしても、いつも思いますが私はとても弱いのに、なぜ貴方にも殺せないのでしょうね。我が子らには悪いですが、いっそ殺してもらえたなら色々考えずに楽なのに』

「それはもう何度も試したでしょう? 諦めなさい」

 

 そう言いつつも、フリーザはものの試しに人差し指をつきだしイプシロータに向けて光線を放つ。が、それはイプシロータをすりぬけて、その後方に居た兵士の頭を貫いた。しかしその兵士が死んだことなど両名とも気にもかけず、会話は続く。

 

「ほらね?」

『残念です』

 

 

 

 

 イプシロータは宇宙をさ迷った末に、とある惑星でフリーザと出会った。そしてイプシロータにとっては最早忌々しいものでしかない前世の記憶に、彼の姿はあったのだ。

 記憶の中の彼は漫画の中の敵役として描かれていたが、イプシロータにとって重要なのはそこではなかった。彼女にとって注目すべき情報は、フリーザが「星を原住民から武力で奪い、他の宇宙人に高値で売る」という仕事をしている事。……生まれてはすぐに死にゆく我が子たちのために安寧の地を探していたイプシロータにとって、彼との出会いは渡りに船だったのである。救世主、と言ってもいい。

 すでに精神的に極限状態だったイプシロータは、記憶の真偽など関係無かった。ただただ、自分が求めるものを満たしてくれる可能性がある相手が目の前に現れた事実に縋ったのだ。

 しかしイプシロータが出会ったころのフリーザは、記憶の情報とは異なり地上げビジネスを行っていなかった。そこにイプシロータが依頼を持ち込み、色々悶着はあったが成立。……奇しくもイプシロータは、フリーザのビジネスのクライアント第一号と相成ったのである。

 

 ちなみに代金だが、一度見たものならばどんな物質でも自らのエネルギーで生み出すことが可能であるイプシロータはその時々でフリーザが望む物資を生み出し対価として渡している。それがどんなに貴重な物であろうと、イプシロータは想像だけで生み出すことが可能なのだ。

 そんな便利な依頼人である女王イプシロータ。フリーザは彼女自身に危害を加えることは出来ないが、その子供たち相手ならば可能だ。そのためやろうと思えばフリーザはイプシロータの子供たちを人質にして脅し、いくらでも好きな物資を生み出させることもできる。しかしそれをしないのは、両名の間に商売人、依頼人としての信頼が確立しているためだ。……信頼というには、いささか奇妙な関係ではあるが。

 

 

 

 イプシロータは、常に生命を産み続ける。そして彼女が生んだ子供らも、生殖し増えていく。……すると、あっという間に星一つでは足りなくなるのだ。そのため自分の一族達の生活圏を確保するために、彼女は常にフリーザから地上げされた星を買い続ける。……そしてそんな彼女にとって、見過ごせない事があった。

 

 忌々しい前世の記憶。その中にある物語で、目の前の救世主はいずれ死ぬ。

 

(それでは、困る)

 

 

 

 

 

 何が正義なのか、何が悪かなど、どうでもいい。愛すべきは我が子だけ。

 

 ならば、か弱い自分達がこの先も繁栄し、生き続けるために……目の前の帝王には生きていてもらわねばならぬ。

 

 

 

 

 

 

『ところで、今日は依頼の他に興味深い話があるのですが……お時間もう少し頂いても?』

「ほう……。いいでしょう。丁度退屈していた所ですし、話してもらってもかまいませんよ」

 

 

 

 

 女王は心の中でほくそ笑む。

 

 

 

『スーパーサイヤ人についてと、破壊神ビルス様とかの方の簡単な殺し方。……あなたの体に眠る、黄金の可能性』

 

 

 

 更に覇権を握るがいい、宇宙の帝王フリーザよ。誰にも干渉されぬよう、完膚なきまでの力を手にいれてしまえ。

 

 

 

(我らはその陰で、ただただ生きよう。我が一族が健やかなままに繁栄し、私はそれを見守れたならばそれでよい。そしてそのためには……あなたが必要なのだ、フリーザよ)

 

 

 

 

 

 女王は帝王に未来を委ね______________________この時より、宇宙は緩やかに絶望への道を辿ってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どんな宇宙人と取引してるのかな、という想像+うっかり主人公を前世持ちにさせたら、何故かフリーザ様大勝利な未来へ進んでしまいそうな予感。
ちなみに主人公のビジュアルはH×Hのキメラアントの女王とかレベルEのマクバク族女王(先代)っぽいのを想像してもらえばいいかと。
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