というわけで今回は、あまりオリジナル要素はありません。原作同様戦争に参加の意思表示、世界観説明となります。
────気がつけば、白い世界にいた。
上も下も、周囲の全ても、見渡す限りただひたすら白い空間で距離感がまるで掴めない。地面を踏む感触は確かに返ってくるのに、視線を向ければそこに地面があると認識することが困難になる。ともすれば、そのままどこまでも落ちていってしまいそうだ。今まで自分が体験してきたどの感覚と似ても似つかない状況だ。
「やあ、白夜くん、元気かな?」
唐突に声がかかる。
唖然としながら首を向ければ、そこには───光があった。光の玉という表現の方が近いだろう。それは、白すぎるこの空間においても、悠然と存在を提示している。同じ白のはずなのに、しっかりと視認できた。
────ああ、そうか。お前か
「そう、我だ────エヒトだよ」
エヒト、光の玉は不思議と言葉を発し、フレンドリーな口調で白夜に声を投げる。
白夜の口調も、しっかりと目の前の存在を認めているかのように、しっかりとしたものだ。
そう、白夜はエヒトと言う名の光の玉を知っている。忘れるはずもない。白夜は少しため息をつくと、やれやれとばかりにため息をついた。
────そうか、今日だったんだな。異世界召喚は。
「言ってなかったかな? けどそんなのは誤差だろ? たかが数年や数十年」
─────俺はお前の誤差の間に死ぬぞ……
相変わらず、この口調とテンションはなれない。まるで感情をぞわりと撫でられているようで、少し不快な気持ちになってくる。
なぜ、白夜はエヒトを知っているのか。なぜ、白夜は異世界召喚という単語を口にしたのか。それは、この一言で説明がつく。
『白夜は、異世界の神エヒトの使徒である』
つまり、そういうことだ。
数十年前、白夜はエヒトにあることを頼まれた。『今度異世界召喚するから、ちょっと君にも手伝ってくれと』。
その当時から異世界に興味のあった白夜は、簡単にエヒトの言葉を了承した。幼いこともあったのだろう。手伝いの具体的内容は、至ってシンプルで、
「高校生南雲ハジメと友人関係になり、青春を謳歌せよ───我はそう言ったね。見事に実行してくれたようで安心だよ」
───まあ約束通り異世界召喚してくれるならな。けど、友達になってみればいいやつだったぞ?
「我は嫌いだ」
エヒトは、明らかに不機嫌な感情を隠さずにそう告げる。
どうしてそこまで嫌っているのかは不明だが、大方クラスメイトがいじめる理由と変わらないだろう。神がそんな幼稚な理由で人間をいじめてもいいのかと思うが……
「さて、雑談はこれまでにして本題に入ろう」
エヒトはピシャと会話を遮り、声を重くして話し始めた。
「まず一つ、今までご苦労だった」
労いの言葉をかけられ、白夜は少しホッとする。
今までの経験からエヒトはキレやすいとわかっているので、少しでも癪に触ることがあればキレられているところだ。が、この反応を見る限り大丈夫そうである。
だが……
「本当にありがとう────まったく、予想以上さ。あいつのヘイトを代わりに集めてくれて、どうもありがとう」
───どういう、意味だ……!?
「簡単なことさ、我は君に頼みごとをした。南雲ハジメを助け、仲良くなり、化け物となるのを援助しろと。けど、我の目的は別のところにあった。君もクラスメイトからヘイトを集めることで、南雲ハジメの被害を少なくする。これが我の目的だ」
────なにを……
「実は我にも友達がいてね。そいつは未来予知がだぁいすき。それで見てもらったんだ。『南雲ハジメがエヒトを殺す』。そういう未来を。さらに、南雲ハジメが化け物となる所以、理由、根拠を。するとどうだろう、クラスメイトから攻撃を受けたのが化け物になった理由だそうじゃないか。南雲ハジメはいじめを受けていたという。そこで我は、なるべく簡単な方法で化け物を潰そうと考えた。すなわち、いじめの対象を多くし、南雲ハジメの強化を止める。君が女子生徒と付き合うことでヘイトを集め、攻撃されることを防ぐのさ。それが目的───おっと、そうキレるなよ」
────ふざけるなよ?
エヒトの驚きの感情がなぜか白夜に伝わってくる。対して、白夜は激しい怒りを覚えていた。
自分を踏みにじられたことも、最初から騙されていたことも、そんな理由で利用されていたことも、ハジメとも友情を踏みにじられたことも────そして一番、雫との関係を利用されたことが許せないッ!!
────ふざけ、るな。ふざけるなァァァ! 許さない。雫をバカにするんじゃねえぇぇ!
「何もあの女をバカにしているわけじゃないだろう? 怒りで冷静を失っているのか……無様だな───『エヒトの名を持って命ずる、跪け』」
その言葉がトリガーとなり、刹那、ハクヤの体が白い空間に沈んだ。
地面という概念が存在するかは謎だが、冷たくて平たい地面に押し付けられたような感覚である。エヒトは少し間を起きて、息をついた。光の玉なので定かではないが、吐息を吐くような音が聞こえたのである。
それには、終わりという感情が秘められているように聞こえた。
「ああ、そうそう。君が異世界に行った時、ここの記憶は消える。そして、君はまた無様に我に騙されるというわけだ。お笑いだなぁ────じゃ、お疲れ。愚か者くんぅ?」
エヒトは最後に、嫌味ったらしく、そう呟いたのだ。
───────────許さねえぞォォォっォッ! エヒトォォォォォォォォォッ!!!!! 後悔させてやるッ! 雫と俺の関係を踏みにじったこと、絶対に後悔させてやるぅぅぅぅぅぅッ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
────────景色が彩りを取り戻していく。
最後の瞬間まで目など閉じていなかったハクヤは、目の前が光を取り戻す光景に、思わずギュッと目を瞑る。数秒後、目が慣れたことを確認し、ゆっくりと目を開けた。同時に、情報を求めて視線を巡らせる。
まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。しかし、どこか不思議と邪悪な気配がする。普通の人間なら、思わず目を逸らしているところだが……ハクヤは違った。
─────エヒト……か?
その壁画の中性的な人物、それは、ハクヤをこの世界に呼んだ人物のように見えた。|会ったのは一度きりで、しかも球体であった。そう、ハクヤはこうなることをあらかじめ知っていた。タイミングなどは分からないにせよ、『南雲ハジメとそのクライメイトと共に異世界召喚される』ことを、召喚した人物(?)エヒトから言われていたのである。
その事実を今一度整理し、さらに視線を巡らせる。
よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。素材は大理石だろうか? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石作りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が掘られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。
ハクヤ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りにはハクヤと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。
当然その中には雫やハジメ、光輝などもしっかりいる。ハクヤは雫を視界に収めると、ほっと息をついた。いくら異世界召喚を事前に知っていたとはいえ、そしてその性質を聞かされていたとはいえ、イレギュラーなど起きたらたまったものではないが……どうやら、そういうことはないらしい。
そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。
そう、この広間にいるのはハクヤ達だけではない。少なくとも三十人近い人々が、ハクヤ達の乗っている台座の前にいたのだ。まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。
彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い、傍らに錫杖のような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。
その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子えぼしのような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。
そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハクヤ達に話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。
さて────ここからは、エヒトからも聞かされていない未知の領域だ。果たして、ハクヤは自身の役割を、きちんと果たせるだろうか。
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現在、ハクヤ達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達五人組(ハクヤも含む)が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。ハジメは最後方だ。
ちなみに、当然のようにハクヤと雫は隣同士である。みんながみんな、二人を隣にするかのような行動を見せていた。そんな行動を雫が察し、呆れと歓喜を浮かべ、ニンマリと笑みを浮かべていた。さらにそんな雫をハクヤは愛おしそうに見つめ、ガッツポーズをしていたのは別の話である。
ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせた事、ハクヤと雫がいつも通りのテンションでいた事が理由であるのかもしれない。
教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。あと、結婚についてもつぶやいていた。
全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。そう、生メイドである! 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!
こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだが……
ハクヤは側に来て飲み物を給仕してくれたメイドさんにお礼を言い、雫の頭を軽く撫でる。
凝視なんかしたら絶対零度以上の瞳で、いや、拳が飛んでくるかもしれない。そもそも、雫がいるというのになぜメイドを凝視する必要があるというのか。雫もハクヤがメイドさんを見ていないのを理解しているかのように、撫でをありのまま受け入れている。
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なもの、そして、ハクヤがある程度予想できたものだった。
まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差を人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。それが、魔人族による魔物の使役だ。
今まで、人間族は数の優位で対抗していた。
だが、魔人族が魔物を指揮するとこにより、戦術、連携というものが生まれる。早い話、数という人間の優位が崩れたせいでピンチなのである。
「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。
ハクヤが、主が嫌な奴ならそれを信仰するやつも嫌なやつかと心の中で悪態をついていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。
愛子先生だ。
「ふざけないでください! 結局はこの子たちに戦争をさせようって事でしょう!? 許しませんよ、親御さんも心配しているはずです! 早く元の場所に返してください! あなたたちのやっていることは立派な誘拐ですっ!」
ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿は何とも微笑ましく、その何時でも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられた生徒は少なくない。
愛ちゃんと愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ぶと直ぐに怒る。何でも威厳ある教師を目指しているのだとか。
今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に乗りかかっているようだ。ハクヤ以外が何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになる生徒達。それに対して、ハクヤは当然冷静だ。この情報を事前に知らされていただけでなく、知らされたのは昨日今日の話ではない。心構えなど十分だし、これで動揺していたらどうなるのかたまったもんじゃない、というのが本音である。
誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。だが、ハクヤは、何となくその目の奥に侮蔑が込められているような気がした。今までの言動から考えると「エヒト様に選ばれておいて何故喜べないのか」とでも思っているのかもしれない。
ふとそこで、ハジメの方へ眼を向ける。ハジメも同じく、慌ててはいるが、ほかの生徒よりも冷静だ。オタク故、このような状況の創作物などいくらでもあるのだろう。だからこそ、冷静でいられるのだ。
未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。
同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「まあ、光輝は一度言いだしたら止めないもんなぁ」
「ハクヤ……」
「気に食わないけど……それしかないわよね」
「雫……」
雫の言葉は若干震えており、ハクヤの手をぎゅっと握る。言葉は威勢のいいものだが、やはり内心怖いのだろう。雫だって女の子。こんな状況に直面して正常でいられるはずがない。
そんな状況で、いくらハクヤであっても瞬時に落ち付消せることは出来ない。ゆえに、ハクヤは握ってくる手を握り返し、再度頭を撫でながら「大丈夫だよ……」と、耳元でささやいておく。後ろから呆れたような雰囲気を感じるが、スルーだ。
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつもの五人組が光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。
結局、全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスメイト達は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるかもしれない。
ハクヤは、それと同時に、イシュタルを危険視することにした。クラス中が光輝たちを見ているせいで気づいていないが、イシュタルはこれを予想していたかのようで、満足そうに頷いている。イシュタルが事情説明をする間、それとなく光輝を観察し、どの言葉に、どんな話に反応するのか確かめていたことを。正義感の強い光輝が人間族の悲劇を語られた時の反応は実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。おそらく、イシュタルは見抜いていたのだろう。この集団の中で誰が一番影響力を持っているのか。
だが……イシュタルを危険視しているのはハジメも同様のようだ。なので、いっその後と一に任せることにする。むしろ、雫を守ることを最優先にしたい。この子は、自ら先頭に立とうとするところがあるから。
─────せめて、精一杯守らないと
速く、戦闘させたい