ありふれてない魔物で最強を目指してみよう   作:春夏秋

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結構今回は変わっていると思います。誤字脱字報告、よろしくお願いします。


仮初のチート

 規格外の潜在能力。そんなものを要していたとしても、元は平和主義国日本の単なる高校生である。魔物や魔族─────地球では考えられないような化け物と戦うのだから、このままでは無理というのは当たり前の話である。戦争に参加すると決意したのだから、そのための術や能力は必要不可欠だ。

 

 しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

 王国は聖教教会と親密な関係にあるらしく、創造神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国のバックに教会があるのだから、如何にその繋がりが強いかはっきり理解できるだろう。

 

 

 ハクヤ達は聖教教会の正面門にやって来た。下山しハイリヒ王国に行くためだ。聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。高山特有の息苦しさなど感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかったのだ。雫の家が経営している道場での修行、その時間に山登りの訓練があった。なぜか足音を消すための訓練などもあったが……今となっては謎である。太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れた。

 

 そこで初めて、ハクヤは異世界に来たのだという実感がわく。日本では考えられないような自然、そして光景。どこか閉ざされた空間ではなく、まるで自由を象徴するかのように輝く世界を目にして、自分が望んだ世界に来られたのおだと、今一度実感したのだ。

 

ガコンッ

 

「っと」

「おっと、ハクヤ、ぼーっとしてどうしたの?」

 

 どうやら感動に浸りすぎていたようで、自分の足場が等々に動き出した瞬間、思わずたたらを踏んでしまった。雫が心配そうに顔を覗き込んでくるので、「なんでもない」とハクヤは照れ臭そうに笑う。

 まるでロープウェイのような足場だ。その足場が地上に向かって斜めに降りていく。どうやら、先ほどの詠唱で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。ある意味、初めて見る魔法に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎになっていて、少し煩かった。

 

 

 やがて、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、いや国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。

 

 その後、王宮に着くと真っ直ぐに玉座の間に案内された。教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。

 

 あまり居心地がいい気はしないが、まあ期待されているのだから邪険に扱うのもなんだろう。

 

美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。

 

 イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。

 

 扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって待っている。

 

 その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

 

 そこからは唯の自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

 

 後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに、途中、美少年の目が香織や雫に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから地球の美少女の魅力は異世界でも通用するようである。

 

 その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまに変な色彩の料理が出てきて、虹色に輝く液体なんてものあった。真っ黒い球体、あえて名前を付けるとすればダークマターを食し、ジャガイモの味だった時には何故だかとても悲しくなった。

 

 ちなみに、雫がいそいそとハクヤ用のさらに食材を盛り、「あ~ん」をするという場面もあった。ハクヤも断る理由はないし、ちょっと恥ずかしい思いをしながらそれを食べる。瞬間、周りにいるメイドや執事、王宮の者などからわっと歓声が上がる、なんて場面があった。

 

 それを見た香織がハジメに近づいて同じ行為をしようとしたが、ハジメはそそくさと逃げて、香織がガッカリしていた。

 

 

 王宮では、ハジメ達の衣食住が保障されている旨と訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。

 

 晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋付きのベッドなど、おとぎ話でしか聞いたことがないため、思わず驚いてしまったのはハクヤだけではないはずだ。いまいち落ち着かないが、まあ、これはこれはいいだろうと内心あきらめにも似た感情を宿す。

 

 あとは寝るだけだが────────ハクヤには、まだやることがあった。その体を起こし、部屋を出ていく。

 

 向かうのはとある二人の部屋。外出は許可されていないが、逆に許可されないこともないだろう。まあ、それでも注意されたら戻るしかないので、慎重に進んでいく。

 

 たどり着いたのはハジメの部屋だ。

 この世界にハクヤが来た理由はハジメが『化け物』になるのを手伝うためである。さすがに直接そのことを言ったりしないが、一応、様子が気になったので少し話そうと思ったのだが─────ドアをノックしても応答なし。どうやら寝ているようなので、もう一つの部屋へと向かう。

 

 これはもはや説明は不要だろう。本当に、どこまで愛しているのかと疑問に思う程だ。だけど、そんな風に様子を見ないと安心できない。さすがに同部屋というわけにはいかないが、毎晩こうして様子を見る様にしよう。

 

 ハクヤは雫の部屋に到着した。

 

 余計お世話だと怒られるかもしれない、心配しすぎと笑われるかもしれない。ハクヤは心配だった。

 

 ドアをノックする。

 

 コンコン

 

「雫まだ起きてるか? ハクヤだけど、ちょっと中に入れてもらえるか?」

 

 礼儀は大切なので、言葉も添えておく。

 するとその瞬間、「え!? ハクヤ!? ち、ちょっと待ってて!」と、中からどんどんという大きな音が聞こえてきた。部屋の片づけを行っているか、それとも別の何かか。

 

 もっとも、部屋が与えられて数時間も立たないうちに汚せる性格ではないので、別の理由があるのだと思うが……

 

 数十秒後、ガチャリとドアが開かれ、そこには頬を染めた雫が立っていた。

 

「どうしたの? ハクヤ」

「いや、何……ちょっと心配になってな。雫のことを」

「……うん、ありがとう。とりあえず中に入って?」

 

 にこっと笑みを浮かべ、ハクヤを部屋に招き入れる雫。

 

 ──────ぁ、気づいた。何故雫がドタバタしていたのか。それは、ハクヤと分かり、身だしなみを整えていたのだ。夜のせいかいまいちハッキリしないが、先ほどの食事の際とは少し違って、髪や服装がしっかり整えられている気がする。

 

「雫!」

「わっ! どうしたの!?」

 

 思わず愛おしくなって雫を背後から抱きしめてしまった。雫が驚くが、構わず頭も撫でる。

 満更でないのはいつも通りのこと、すぐに雫も見をゆだねてしまった。だけど、やっぱり反発するようで「もうっ」と言っている。

 

 やはり雫も少し不安だったようで、その後の雑談は心に安らぎを与えた。

 結局話過ぎてハクヤは寝不足になるのだが……本望であった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

 騎士団長が勇者たちにつきっきりでいいのか、とほぼ全員が思ったが、神の使徒である勇者たちを、実力も中途半端なそこら辺のやつに任せるわけにはいかならしい。

 むしろ、「面倒な雑事を副長に押し付ける口実が出来て良かった!」と豪快に笑っていた。副長の苦労が目に浮かび、ハクヤは苦笑い。合唱。

 

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ? プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 『ステータスオープン』と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

 アーティファクト。ハクヤやハジメのようにそういう話に耐性のある物ならば、それが異世界の便利アイテムだと察することが出来るだろう。

 が、光輝たちはそうもいかないようで、聞きなれない言葉に質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰めながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ハクヤも同様に、針を指先へ刺す。あ、深い。

 

 

===============================

時雨ハクヤ 17歳 男 レベル:1

天職:魔物使い

筋力:10

体力:5

耐性:10

敏捷:150

魔力:15

魔耐:20

技能:魔物服従[+魔装]・剣術・魔力感知・言語理解・

===============================

 

 と、表示される。

 

 このステータスがいいのか悪いのかは分からないが、少なくとも『剣術』という技能があったことが嬉しい。もう一つ言うとすれば、職業の魔物使いだ。読んで字の如くであれば『魔物を使役する職業』となるのだが……

 

 メルド団長からステータスの説明がなされた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に『レベル』があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に『天職』ってのがあるだろう? それは言うなれば『才能』だ。末尾にある『技能』と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

 ハクヤの天職魔物使いは、魔物使役というものに才能があるとみていいだろう。文字通り、魔物を従わせる技能のはずだ。

 上位世界の人間だから、トータスの人達よりハイスペックなのはイシュタルから聞いていたこと。何らかの才能があると言われれば嬉しいものだが、どうせだったら剣士がよかったなと思う。

 

 

 しかし、メルド団長の言葉で凍り付くことがある。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 この世界のレベル1の平均は10らしい。敏捷が飛び出ていることにも驚きだが、それ以上に驚きのことがある。

 

──────たたたたたたた体力ごぉぉぉぉぉぉ!?

 

 平均の半分。つまりハクヤ二人で一般人一人分だという事。下手したら一撃で死ぬような紙耐久である。かといって耐性が高いわけではないし、見事に10だ。

 

メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

 

 

============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

==============================

 

 ガチート、その言葉が似合いそうなステータスだった。

 

まさにチートの権化だった。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

 団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。

 ハクヤが勝てるのは敏捷だけ。思えば、100メートル走で負けたことはなかったが……

 

 ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が『派生技能』だ。

 

 これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる『壁を越える』に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

 

 しかし、ハクヤには魔物使役の派生技能、『魔装』というものがある。これは言葉だけではわからない。というよりも、ハクヤは魔物を使役する経験などない。なのになぜ、派生技能が存在しているのだろうか……

 

 光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……

 

「ハクヤ」

 

 と、そこで背後から声がかかった。

 振り返れば、同じくステータスプレートを持った雫の姿が。そのまま「ん」とステータスプレートを差し出し、ハクヤに見せてきた。

 

 

============================

八重樫雫 17歳 女 レベル:1

天職:剣士

筋力:65

体力:75

耐性:52

敏捷:100

魔力:50

魔耐:50

技能:剣術・縮地・先読・気配感知・隠業・言語理解

==============================

 

 こっちもこっちでチートだよ!?

 

 そんな言葉が出そうなステータスである。先ほど「技能は二、三」と言われたばかりだというのに、雫の技能は言語理解を除いても五つある。その上、天職:剣士だ。ハクヤが剣士でなかったのは残念だが、それでも剣術が被っているので良しとしよう。

 

 同じくハクヤもステータスを見せると、「5!? でも大丈夫。いざとなったら私が守るわ!」と、気合を入れていた。頭をこれでもかというほど撫でた。可愛かった。

 

 その後、すぐにハジメの番になった。どうやらステータスがよくなかったのかびくびくしているようで、恐る恐るといった感じでステータスを提示した。

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

===============================

 

 今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

 

 

 その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。

 

 檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

 檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤っている。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

「南雲君! 元気だしt」

「趣味悪いな、お前ら」

 

 すかさず、ハクヤが前に出てハジメを守る。

 

 メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗に聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。事実、香織や雫などは不快げに眉を顰めている。

 

 だが、ハクヤはそれでは収まらない。ハジメを近くで見てきたのであるから、当然いいところを知っていれば、ステータスが低い如きで貶すような性格でもない。

 

 ハクヤの言葉に檜山は「あぁ?」と不機嫌そうに振り返る。

 

「だったらお前はどうだっていうんだよ!? どうせ高いんだろ?」

 

 ステータスプレートをプレートを取られ……というか、取らせた。

 檜山は最初、「どうせ……」なんて表情をしていたが、確認を終えるころにはハジメを見ている時と同じ目になった。

 

「なんだよ、体力:5って! お前も南雲と同じで雑魚じゃねえか!」

 

 ぎゃははは! と、何が面白いのか嘲笑う檜山たち。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。

 

「むしろ南雲よりザコか! その辺の子供にも殺されるんじゃねえの!? ぶはははは~」

「二人とも雑魚な事には変わらねえって! どうせ俺らより……弱いんだからぁ! ぎゃははは!」

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツら! 肉壁にもならねぇよ! むしろ……本当に人間? ははははは!」

 

 次々と笑いだす檜山たちに、ほかの生徒はドン引きだ。だが、これはハクヤがいる効果だろう。ハクヤが居なければ、ハジメはほぼ全員から笑われていたはず。まあ、だからと言ってハクヤは天狗になる気はない。むしろはじめへのいじめの抑止力になるのなら笑われた方がましだ。

 

 そして、ステータスプレートは周りに回ってメルド団長の所へ。

 彼はハクヤのステータスを見るなり、喜んだり、落ち込んだり、百面相を見せた。

 

「こいつぁ……珍しい天職を引いたな。魔物使い、現代じゃあんまり見ねえぞ? その名の通り心を通わせた、服従させた魔物を使役できる。所謂召喚術とかにも精通するかもな」

 

 どうやら、かなり珍しい職業らしい。団長の話では、今この世界で確認されている魔物使いの数はおよそ三人だという。ハクヤで四人目だ。しかも一人を除いてどの国にも属していないらしい。そのため、この国でも魔物使いはいないという。

 

 しかも、従わせる魔物の強さによって本人の強さも変化すると言っても過言ではないほど、魔物頼りの職業らしい。そのため、珍しいが強いかと言われると……微妙だそうだ。

 

「まあ、お前は敏捷が特に高い。『当たらなければどうという事はない』の精神でがんばれ!」

「なんで団長そのネタ知っているんですか……」

 

 豪快に笑いつつ、ハクヤにステータスプレートを返してくれた。

 が、ハクヤとしては何とも言えない気分である。悔しいが、団長の言う通り敏捷を生かす戦術の方がよさそうだ。強い魔物を使役できれば話は別だが、それも今では敵わないだろう。

 

 視界の横で愛子先生があわあわしているのが見える。どうやら先ほどから口を挟もうとしているのに、ハクヤに遮られて出るタイミングを無くしたらしい。

 

「おい……檜山」

「あ? なんだよ時雨」

「そんなにバカにするんだったらよ……勝負しねえか? これから、俺とお前で」

 

 檜山に近づき、突飛にそんな提案をする。

 さすがに頭に来たのもあるが、ハジメとハクヤが一緒に貶されているのは逆にチャンスだ。ここでハクヤが檜山を下せば、ステータス=実力ではないことを証明できる。

 

 単純なもので、檜山は「俺が負けるはずがない!」と、高いステータスを手に入れたせいかハクヤに勝った気になっているようで、その挑発を容易に受けた。

 

 雫が一瞬「なっ!?」と前に出そうになるが、ハジメが雫を止める。

 普段なら男子が「なに触ってんだこら!」となる所だが、状況が状況だけにそれは眼に入っていない様子。ハクヤの方を見て香織はニコニコ笑い、光輝は溜息をつき、龍太郎は「リア充は死ね!」と関係ないことを言っている。とりあえず、後で拳骨を入れておこう。

 

 メルド団長やその他クラスメイトはすっかりお祭り騒ぎだ。

 ハクヤと檜山が対決すると聞いて盛り上がっているらしい。傍迷惑ではあるが、今はそれぐらいの方がやりやすいというもの。

 

 メルド団長が豪快に笑って「戦闘訓練? おもしろいな!」と許してくれたので、案内をされながら訓練場に向かう。

 

 ───────さあ、どこまで俺に耐えられるかな。

 

 負ける気はない。いわば檜山は『強い武器を手に入れただけで強くなった気でいる子供』だ。実際今回強くなって入るが、ハクヤには戦闘経験がある。負けることはないと祈ろう。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 場所は変わって、戦闘場。

 ハクヤと檜山はそれぞれ武器を構え、対峙していた。ほかの生徒たちや兵士などは端で待機している。念のため、メルド団長だけは剣を構えていた。

 

 ハクヤが選んだ武器は普通に剣。刀や木刀とは使い勝手が違うので、なるべく形状の近いものを選んだ。一本だ。盾などの使用も認められてはいるが、ハクヤは基本的に使わない方針で行くことに決めた。

 

 対して、檜山が選んだのは槍と盾だ。彼の天職は軽戦士。その名の通り軽装で戦う戦士だ。槍は良いとして、重そうな盾を使う分、天職を潰しているとしか思えないが……

 

 もちろんであるが、どっちも木製である。

 

 両者が構えたのをメルド団長が見届けると、頷いて、

 

 

「両者、よぉぉぉぉーい……始ぇ!」

 

 と生き良いよく宣言した。

 

 タンッ

 

「おらぁ!」

 

 最初に動いたのは檜山だ────というより、ハクヤが先に行動させるよう、誘導した。八重樫道場にて、雫のお父さんから特別に教わっていた剣術。雫の父によれば、「ちょっと創作物で面白そうな感じだったから再現してみました!」だ、そうで。

 

 相手の視線や自分の小刻みな動きを巧みに利用し、相手を先に動かせる技だ。見事に引っかかってくれたようで、ハクヤにとっては気持ちがいい。もっとも、それを相手が知らないとなると笑えて来るのだが……

 

 しかし、盾を構えているせいか遅い。いや、ステータスも相まって遅くはないのだが、それでも今までたかってきた剣士の動きとは比べ物にならないほどだ。もっとも、何もかも初心者なのだから所がないと言えばしょうがないが……

 

 やがて近づいてくると、檜山はでたらめに槍を突き刺そうとしてくる。

 ハクヤはそれを肉眼で捉え、剣で槍のけら首(槍の刀身と棒部分の中間)を剣で強く打つ。

 

「ぐあッ!」

 

 其れだけで檜山は情けなく声を出し、体勢を崩しそうになる。が、踏みとどまって体勢を立て直すと、もう一度突っ込んできた。

 学習しないのか何なのかは分からないが、先ほどと同じ動きだ。他のクラスメイトの様子を観察する暇さえある。雫の方を見れば「あれはだめだ」とばかりに頭を抱え、輝光の方を見れば「戦いをバカにしているのか!?」とばかりになぜか怒鳴っている。

 

 ハクヤは視線を檜山に戻すと、次で決めることにした。この戦い……蹂躙は何も生まない。唯の時間の浪費だ。

 檜山が再度槍を突き出すのに合わせ、ハクヤは少し横に移動する。同時に、雫のお父さんから教わった技を放った。

 

「『八重樫流:腕落とし』」

 

 檜山の両腕の小手を一瞬で狙い、叩く。同時に檜山は腕の力を抜き、槍と盾を落としてしまった。無様に転がる。

 

 ハクヤは檜山に木刀を突きつけると、

 

「俺の勝ちだ」

「ちっ……くそ野郎がァッ……!」

 

 勝ちを宣言した。

 この時のハクヤはまだ知らない。この時の勝利が、檜山の負けが、後の後悔につながるなんて……

 

 




龍太郎……完全ギャグ化……

今回は檜山と戦わせたり、八重樫流に勝手に追加したり、あとは内心檜山との戦闘をもう少しうまくできなかったのかなと、びくびくしたりしました。戦闘部分とハクヤのステータスは変更する可能性があるかもしれません。

其れでは次回で。

※タイトルを少し変更いたします。見切り発車なもので、魔物使いをレア化することにいたします。前の方がいい! という場合は、結構ルートを考えているのでコメントいただければ((

※死んではおりません。ただ少し忙しいので書けていない状況です。やめる際は自ら言います。おおう……ありふれたがアニメ化に伴い枠に追加されている……(十二月二十八日)。生きてます。

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