フッと思いついてから、一時間クオリティです。
何か気に食わないとか、変えた方がいい点などございましたら、教えていただきたく思います。
※キャラの死、喘息などの描写がございます。ご注意ください。

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対話にはしましたが、言ってしまえばほぼ自問自答。
椅子に座って向かい合って、同じ口調で自問自答している描写の方が読みやすい人もいるかもしれません。


死と病・歪んだ愛

 当時の僕の恋人であり、幼馴染であり、生涯の友人となるはずだった少女、七瀬香苗が死んだのは、僕が高校二年のときの春。

 そろそろ夏になりそうかと考えて、日々をゆったりと微温湯に揺蕩うように過ごしていたある日のことだった。

 彼女は、もともと体の弱く、だが芯の強い、大和撫子の見本のような少女だった。

 そんな彼女は、一度決めるとやり切らなければいけない、という戒めとも言うべき信条があった。

 そしてそれが、あの悲劇の原因となったのだ。ここまでの皮肉はなかなか見ない。

 ある日の保健体育のランニングで無理をしたらしい。

 喘息の彼女がそんなことをして無事なはずも無く、走っている途中に倒れてそのまま病院で向かった。

 その時には、いくつか不運が重なったらしい。

 その日は外周を三周のランニング。

 読者諸君も予想出来ているだろうが、彼女は体が弱く、従ってあまり運動神経が好ましくなく、あまり運動もしていない。

 それによって彼女は周回遅れとなり、最後尾の中、何とか走り抜こうと全力を出していた。

 その全力の結果、彼女の意識は最後の半周で切れたらしい。

 道に倒れこんで、どんどんと時間が経った。

 周回遅れの最後尾、おまけに倒れこんだのは教師の目の届かない学校の反対側。

 病院に運ばれたのは、倒れてから二十分後。その時点ではまだ息があったらしかった。

 

 その日——五月十二日に彼女は息を引き取った。

 

「いつまで落ち込んでいる気ですか、あなたは。」

 そんな声が掛かった。

 もう八月に入ろうかというくらいに暑い、七月二十日の放課後の事だ。

 香苗とは違う短い黒髪を揺らして、僕一人の残る二年の三組を訪ねてきたのは、香苗の双子の妹の七瀬小苗だった。

「そろそろ立ち直らないと、姉さんも安心して天国には行けません。きっと、心配のあまり墜落して地獄に落ちてしまいます。」

「いや、どういう理屈なのさ、それ。」

「どうもこうも、あれもそれもありません。理屈とか抜きにそろそろ立ち直れと言っているのです。」

 無茶を言うなと、そう思った。

 自分が愛していた人間が自分の近くで、僕に知れずに死んだのだ。

 二か月かそこらで立ち直れというのが無理な話だろう。

「もしそうであったとしても、人前でそれを出すべきでは無いのです。それは心配を強要しているようではないですか。」

「そうかな。…いや、そうかも。」

「そうですよ。貴方は愚かで、脆くて。……全く、酷く罪な人です。」

 そうだろうか。

「いや、違うよ。僕はただ香苗が今でも好きなだけだ。そこに罪も罰も無い。」

「でしょうね、知ってます。私も、勿論あなたも。」

 だからこそ、罪な人だと言っているのです。

 そう付け加えた。

「なんでさ。それだと矛盾してしまう。」

「その理由は貴方自身がよく知っています。…何度も何度も、貴方の悪意も、善意ですらも関係ないと言っているのに、在りもしない罪を償おうとする貴方がよく知っているのですよ。」

 傍から見れば全く以て意味不明な会話だろうが、その言葉は、僕の心にグサリと深く傷を穿った。

「姉さんが死んだ日から毎日言っています。貴方の愛したあの人は、貴方と全く関係のない原因で、貴方と全く関係なく死んだのです。貴方自身には被害も加害も存在しない。そう言っているではないですか。」

「……酷いな。加害も被害も無い僕には、悲しむ権利も無いの?」

「権利とは買うものです。」

 僕には関係がないとでも言う風に、彼女はぼそりと呟いた。

「……まあ、いいです。とりあえず生徒会室に向かいましょう。会議が始まりません。」

「……………うん、わかった。」

 彼女の後について、立ち上がる。

 そのまま教室を出て階段を降りる途中で、彼女の首筋が映る。

 香苗は長い髪で隠れていたが、小苗の髪は首筋を隠さず、浮き出る脊髄の上で毛先がチロチロと動いている。

 ふと、少し前までやっていた、彼女の髪を手で梳く仕草を思い出す。

 と同時に、前の方からピャッという悲鳴が聞こえた。

 無意識のうちに手が動いてしまっていたらしい。

 踊り場に着いて、ゆっくりと小苗が振り向いた。

 目がこちらを睨むように鋭い。少し怖いと思った。

「……貴方、今、何をしました?」

「………昔を思い出していたかな。」

「違います、いえ、きっと違わないのでしょうけれど、今の一瞬、私を姉さんと重ね合わせましたよね?」

「………そんなことは」

「もう二度とこんなことをしないでください。私は姉さんじゃない、七瀬小苗です。」

「…知ってるよ、そんなことは。」

「そうでしょうね。でも、貴方は知っているだけで理解はしていない。もう一度言います。私は七瀬小苗です。七瀬香苗じゃなく、七瀬小苗です。」

「………………。」

「私は七瀬小苗という自己がある。姉さんの代わりでも、人形でも、ましてや姉さん自身でもありません。幻影ばかりで無く、しっかりと分けて認識してください。」

 知っているし、分かっている。

 そんなことはとっくの昔に理解したはずだったけれど。

「どう思うかは貴方の勝手ですが、私や姉さんまで巻き込まないでください。貴方は昔からそうですが、姉さんと私を同一視しすぎです。もっと私個人は個人として、丁重に扱ってください。」

「……ああ、悪かった。」

 心から胸を張ってそう謝りたかったけれど、少し目線が逸れた。

「…いえ、少し熱くなりました。こちらこそごめんなさい。」

 小苗はそう言って、頭を下げた。

 それから元通りに上げた顔は、いつも通りの無表情だった。

 謝るべきは僕なのに、謝らせてしまった。

「急ぎましょう。皆さんが待っています。」

「………うん。」

 階段を下りる。

 なんだか、なにかが心につっかえた気がした。

 

「そういえば。」

「どうしました?」

 階段を下りて行って四階から二階の踊り場。

 少し思い出したことがあった。

「香苗の奴、あの日は薬はどうしてたんだ?確か普段から吸入器を持ってたはずだろう?」

「ああ、その話ですか。」

 はぁ、とため息を吐いて俯いて、だが口は止めずに、小苗は説明をくれた。

「あの日は、ちょうど忘れていたらしいですよ。前日に学校に会った吸入器を間違えて持ってきてしまって、翌日に二つとも家に忘れたのです。」

 と、そう言った。

 まあ、彼奴だって人間だったのだ。

 そういうミスもするだろう。

 そのミスが今回は笑えないものだったけれど、それも人間。様々な生き方があるように、様々な死に方もあるのだろう。

 そう、無理やり割り切った。

 と、ここでも違和感。

 生前の彼女の声と言葉を思い出した。

「いや、でも確か……彼奴、体育の時もって…。」

「?どうしました?」

「いや、香苗、彼奴さ。前にこう言ってたんだ。『もしもの時のために体操着のズボンのポケットにも吸入器を入れている。』って。」

「…………そうですか。」

 少し考えるように、小苗は俯く。

 そのまま数秒、固まっていた。

「もし、抜かれていたとしたらどうでしょうね。」

「なんか言ったか?」

「いえ、何も。」

 おかしいな。

 何か呟いた気がしたけれど。

 でもまあ、本人は言っていないと言っているし、何も言っていないのだろう。

「きっと姉さんは、あの日の運勢が百年に一度レベルで悪かったのですよ。」

「………そんなもんかな。」

「きっとそんなものです。」

 そうか。

 あの日の彼奴は、とことん運勢が悪かったらしい。

 運だけは人間の力だけではどうしようもないし、ならばきっと、あの日の死もどうしようもないのだろう。

 そう考えて、心を落ち着かせた。

 もう行きましょうと言って身を翻す小苗に、フッと香苗の姿がまたも重なった。

「なあ、小苗。」

「なんです?」

「XXX、XXXXXXXXXXXXXXXX。」

「………ッ」

 あれ?

 今、何を言った?

 なにか、無意識でとんでもないことを呟いたような気がした。

 小苗の口が歪んで、だがすぐ元に戻った。

「………そうですね、貴方が言うならきっとそうなのでしょう。」

 僕の混乱を気にもせず、小苗はそのまま言葉を紡ぐ。

 

「貴方が死んだら、私も髪を伸ばしましょうか。」




簡単に短くまとめました。
結局、彼女の死はなんなのか。
いろいろな考え方が浮かぶのではないでしょうか。

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