一眠りする事で徹夜の疲れを癒した私は、現在ある場所へと向かっていた。
手元にはバスガイドよろしく旗を持ち、廊下でサボっていた妖精達を連れている。
わいわいしながら進んでいくと、紅魔館の入口にたどり着く。
そこには案の定、門番として美鈴がいたのである。
「はーい。ここが紅魔館前でーす」
「でーす」
「いえーい」
「ちゅうごくー」
「……あの、なにしているんです?」
全員で腕を振り上げていると、微妙な表情の美鈴が声を掛けてきた。
居眠りしているかと思っていたが、意外と真面目に職務を全うしていたらしい。
私なら退屈すぎて、立ったまま寝ているはずだ。
そういう意味で考えれば、彼女は非常に優秀である事が窺えるだろう。
まあ、サボっていると、咲夜に怒られるからかもしれないが。
美鈴の生真面目さに感心しながら、私は首を傾げて答える。
「なにって、案内ごっこ?」
「ごっこー」
「いえーい」
「ちゅうごくー」
「はぁ、そうなんですか。それと、私は中国じゃありません!」
気のない返事をしていた美鈴は、メイド服姿の妖精に反論していた。
とはいえ、怒っているというより、どちらかと言えば叱るような口調だ。
元来の人の良さでも出ているのか、彼女の言葉には怒気が感じられない。
妖精も敏感に察しているようで、呼び名を改める気はない様子である。
むしろ、楽しげに飛び回って、美鈴の服を引っ張ったりしていた。
「あそぼー」
「かねだせー」
「ちゅうごくー」
「あ、ちょ、やめてください。私はお仕事をしているんですから」
あたふたとした様子で、妖精達を宥めようとしている美鈴。
しかし、元々妖精という種族は悪戯好きだ。
ここに来るまでに廊下に落書きしていた事からも、間違いない。
……霊夢達が暴れたせいで、今の紅魔館は散らかっている状態なのだが、それを助長するような悪戯をしているのを見ていると、咲夜に深く同情してしまう。
だから、彼女は妖精達を私に引き連れるように言ったのだろうが。
悲しい事にメイド妖精は、あまり役に立たない存在なのである。
こんなに可愛らしいのに……いや、ドジっ子メイドと考えれば、むしろ妖精達は需要があるのではないだろうか。
一生懸命雑用をしている小さな女の子。彼女を見ていると手伝いたくなり、そのまま二人の間で育まれる絆……これは、売れそうだ。
少しずつ広げた私のコネを駆使すれば、新たな事業の改革ができるに違いない。
さしずめ、妖精プロデュースといった感じだろうか。
「ふっふっふ。楽しくなってきたね!」
「笑ってないで助けてくださいよー!」
「おおっと、ごめんごめん」
捕らぬ狸の皮算用をしていた私の耳に、美鈴の悲鳴が入ってきた。
心なしか涙声で余裕がなさそうだ。
頭を掻いて謝った私は、パンパンと手を叩いて全員の注目を集める。
妖精達がこちらを向いたのを確認して、懐から一つの袋を取り出す。
「はーい、ちゅーもーく!」
「なになにー?」
「たべものかー?」
「イエス、その通り!」
『おおー!』
声を揃えて目を輝かせる妖精達。
彼女達は一様に私を凝視しており、今にも飛びつきそうな勢いを感じる。いや、既にジリジリとにじり寄っていて、静かな威圧感を漂わせ始めていた。
妖精とは思えないその雰囲気に、助かった美鈴は綺麗な瞳をぱちくり。
表情には疑問の色がありありと浮かんでおり、困惑気味な様子で私を見つめている。
「あ、あのぉ?」
「まあ、待ってて。……おっほん。では、妖精諸君! 無事に私をここに案内してくれた君達には、お礼に私お手製の飴を贈呈しようではないか!」
「あめー!」
「たべるー!」
「よこせー!」
「では、君に託そう。皆で分け合って食べるんだよ?」
勢いよく群がってくる妖精達の一人に、私は笑顔で袋を渡した。
彼女は満面の笑みで受け取り、輪を抜けて空に飛び立つ。
その背中は自信に満ち溢れていて、身体全体からはキラキラとした粒子が舞う。
よく見ると粒子の一つ一つが氷のようで、それらが光に反射して幻想的な景色に彩っているらしい。
「……あれ?」
ふと、空にいる妖精がメイド服を着ていない事に気がつく。
同じ妖精には違いないのだが、なんだか他の妖精より存在感があるというか、天真爛漫な姿が記憶にあるというか。
思わず小首を傾げていると、彼女は途中で回転して私達を見下ろす。
両腰に手を当ててふんぞり返り、見ているこちらが楽しくなるような可憐な笑みで口を開く。
「アメはさいきょーのあたいがもらったわ!」
「ああ、ずるい!」
「わたしも食べたいのー!」
「ふふん。あたいのものはあたいのものよ! だから、これもあたいのものだから!」
そう告げると、妖精はどこかへ飛んでいった。
当然、メイド妖精達は逃すはずがなく、慌てた様子で彼女を追いかけていく。
自然と場には私と美鈴だけが残り、顔を見合わせる。
「行っちゃいましたけど……」
どうしますか、といった面立ちの彼女を尻目に、私は全身から冷や汗を垂らしていた。
衝動的に紅魔館へと振り向き、瀟洒なメイドがいない事実に安堵のため息。
落ち着いた事で、内心の思いがポツリと零れる。
「……咲夜に、怒られるかな?」
無断で彼女達を野に放ってしまったから、このまま帰ってくる保証がない。
そもそも、妖精は気まぐれな性質な事もあり、かなりまずい事態なのではないだろうか。
最初の想定では、妖精達を餌付けて仲良くなるつもりだったのだが、これでは妖精どころか、咲夜からの印象も悪くなりそうだ。
というか、さっきの妖精……恐らく、チルノだろう。
妖精としては破格の力を持つ、さいきょーの氷結娘。
あまりにも自然に馴染んでいたので、今の今まで存在に全く気がつかなかった。
思った以上に抜けている自分に、苦笑いしか出てこない。
まさか、あんな強烈な子を見逃すとは。
それほど美鈴に目を奪われていたのか、あるいは他の原因か。実際はわからないが、とりあえず目先の問題を解決すべきだろう。
刹那でそう結論づけた私は、リュックから一つの機械を取り出す。
これは妖怪探知機で、設定を弄れば他の種族も探す事ができるのだ。
「それは?」
「ただのレーダーだよ。とりあえず、これで妖精達を探す。じゃあ、私は急いで連れ戻してくるから!」
「あ、それだったら私も手伝いますよ」
「え、いいの?」
「はい。これでも、私は人を探すのが得意ですから」
思わず問い返した私に、頷いた美鈴は朗らかな笑みを向けた。拳を手のひらに叩きつけた後、むんっと力こぶを作ってやる気を見せつけている。
そんな頼りがいのある姿を見た私は、笑顔で近寄って彼女の両手を握る。
「ありがとう! いやー、本当に助かるよ!」
「あはは。お嬢様の客人ですからね。私にできる事があるなら、手伝いますよ」
「うぅ……紅魔館の人って、良い人が多くて嬉しいよ」
感無量な気持ちで目頭を押さえながら、美鈴は紅魔館最後の良心、といった言葉が脳裏を過ぎった。
いや、咲夜やパチュリーも優しいし、レミリアも面白いから違うか。
ともかく、心強い味方を得た私は、メイド妖精達を探すため奔走するのだった。
♦♦♦
「ふぃー、なんとかなったぁ」
最後のメイド妖精が紅魔館に入ったのを目撃した私は、額の汗を拭って息を漏らした。
傍にいる美鈴も同じようで、どことなく安堵した様子だ。
あれから、美鈴の能力を行使した気の探知と、私のレーダーを使って探した結果、短時間で妖精達を回収する事ができたのである。
数々の悪戯に翻弄されながらも、どうにか一息つけて良かった良かった。
私達も紅魔館の前に降りると、美鈴がほっぺたを動かしながら口を開く。
「それにしても、美味しいですね。みずはさんの作った飴」
「当然さ! なんたって、あれは完成品だからね」
私が開発した緑色の飴は、きゅうりの成分を濃縮しており、あの飴玉一つできゅうり五つ分と同じ感覚を味わえる。
また、味も追求しているので、非常に美味に感じるようになっている。
つまり、ちょー美味いきゅうり味の飴なのだ。
妖精達にも好評で、次も持ってくるように要求されたほどである。
きゅうりを気に入ってくれた人が増えて、私としても大満足だ。
ゆくゆくは、きゅうりそのものの愛好家になるように……
「夢が広がるよね!」
「夢?」
「いや、こっちの話」
首を傾げた美鈴に手を振りつつ、さぁて本題に入ろうかと考えた時、不意に私の肩が誰かに叩かれた。
急速に嫌な予感が膨れ上がり、同時に目の前にいる美鈴が目を見開く。
彼女は目を逸らそうとしていたが、直ぐに直立不動の形となって固まる。
「少々、よろしいでしょうか?」
「……よろしくないです」
そう答えると、肩に置かれた手の力が増した。
また、美鈴の顔色が同情一色に染まり、さり気なくすり足で後ろに移動している。
物音どころか気配一つ感じさせない、忍者の如き静かな動き。
流石は武道を磨いている妖怪だろう。こんな所で知りたくない凄さだったが。
しかし、背後にいる誰かの気配が黒くなれば、途端に元の位置に戻っていた。
調教されているというか、見捨てきれない人の良さが滲んでいるというか。
ともかく、後ろの人物は美鈴も逃がすつもりがないらしい。
「手間は取らせません」
「嫌です」
「こちらを向いてください」
「いーやーだー!」
勢いよく首を横に振っていると、突然眼前に怜悧な美貌が出現。
思わずひっくり返りそうになる私に、心なしか冷たい目の彼女──咲夜が告げる。
「屋敷にいる妖精メイドのほとんどが、汚れているのですが」
「知らなーい。しーらない!」
目を逸らして口笛を吹くも、無言の圧力を感じて冷や汗が垂れてしまう。
視界の端にいる美鈴は諦めているのか、愛想笑いのまま静観していた。
そんな私達の様子を見て、咲夜は手を動かす。
数瞬鋭く光るナイフが覗き、直後にはマジックのように消え失せる。
同時に、私の背後ですとんと音が鳴り、髪の毛が数本舞った。
「みずは様はお嬢様のお客人ですので、私の方からとやかく述べるつもりはありません」
「は、はい」
「ですが、私にも感情という物がある事を、お忘れなきように」
「妖精達を外に逃がしてしまい大変申し訳ありませんでした!」
直角に腰を曲げた私は、咲夜へと深く深く頭を下げた。
もっと、彼女達の行動を予想しておくべきだった。
少し考えれば、外に出ていく事がわかったはずだろう。
メイド妖精が野に放たれた責任は私にある……だから、次に告げる言葉も決まっていた。
「美鈴は怒らないであげて。彼女は私のお手伝いをしてくれただけだから。むしろ、美鈴のおかげで妖精が早く見つかったから、褒めるべきだよ」
「そんな、違いますよ咲夜さん。私も妖精を見逃してしまったから、同罪です! だから、みずはさんを叱るなら一緒にお願いします!」
「美鈴……」
慌てた様子で近づき、そう咲夜に訴えかけた美鈴。
瞳からは今の言葉を本気で思っていると窺え、力強く彼女を射抜いていた。
燃えるような紅髪を風に揺らし、しかし身体は凛と伸びたまま。
何百年も経た巨木の如き佇まいだったが、それが今崩れていく。
私を庇うため、謝罪という意を示すため。
まだ話して数時間にも満たないのに、一人の妖怪のために頭を下げられる性格。
我が強くて自己中なのが多い妖怪とは思えないほど、美鈴の在り方は眩しく輝いていた。
知らず知らず感動で目を潤ませていると、咲夜はゆっくりと目を伏せる。
私達に見えない角度まで俯き、彼女の表情に妖しい影が差す。
「さ、咲夜さん……?」
ゴクリ、と美鈴の生唾を飲み込む音が、いやに大きく響いた。
太陽はもうすぐで上まで昇りきり、瀟洒なメイドに向けて光を降り注ぐ。
陽光で輝くシルバーブロンドと、暗闇から伸びるような影のコントラストは、目が離せなくなるほどの妖艶さがあった。
自然と緊張していると、やがて咲夜は影を取り払って顔に光を浴びる。
その鋭くも見惚れるような美貌は、淑やかな笑みを浮かべていた。
「へっ?」
予想だにしない表情に、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
一体、どういう事だろうか。
先ほどまでの雰囲気と、ナイフを投げられた点を考慮すれば、咲夜に怒られると思っていたのだが。
しかし、今の彼女は怒りどころか、むしろ愉快とすら感じる笑顔だ。
端的に表すと、してやったりといった風に。
美鈴も同様な気持ちなのか、あれだけ固く引き締まっていた視線が緩まり、可愛らしく何度も瞬きしている。
私達の疑問の眼差しを充分に浴びる中、咲夜は口元に指を添えて上品な微笑を一つ。
鈴の音が鳴るような笑い声を落とした後、指を立てて子供に言い聞かせる母親の口調で告げる。
「みずは様。先ほどの私の言葉を、よく思い出してください」
「えーっと、咲夜にも感情があるって……あっ!」
「ふふっ。お気づきになられましたか」
そう──今まで一度も、咲夜は怒ったなどと口にはしていない。
ただ、妖精が汚れていた理由を問い、自分にも感情があると言っただけ。
後ろめたい気持ちがある私達が、それを勝手に怒りの感情だと決めつけたのだ。
つまり、咲夜は私達をからかった、という事なのだろう。
「かーっ! やられたー!」
騙されてムカつく、なんて感情は微塵もない。
これは咲夜の手腕を賞賛すべきであり、むしろ彼女の有能さを知られて満足すらしている。
私達の思考を誘導する言葉選びに、それを補強させる演技力。
瀟洒なメイドは、家事以外にも秀でていた。
……レミリアを翻弄しているのは、天然ではないと考えるべきか。
この強かさを、素では中々出せないだろう。
「えぇと?」
「じゃあ、私の髪の毛が舞った理由は?」
「みずは様のお世話をしていた時に、抜けて落ちた髪を使用いたしました」
「なるほどねー。後は、時間を止めてそれっぽく見せればいいって事かな」
「ご明察でございます」
慇懃に頭を下げる咲夜をよそに、私は振り向いて壁を確認してみる。
そこには、壁の前に置かれた木の板と、そこに刺さっていたナイフがあった。
改めて見ると、納得だ。壁に刺さったにしては軽い音だと思っていたが、このようなカラクリになっていたらしい。
場所の関係から美鈴の死角にもなっており、咲夜の瞬間判断能力がずば抜けている事が窺える。
「その、咲夜さんは怒ってないのですか?」
「そうよ。そう言っているじゃない」
「……良かったぁ。私、また咲夜さんに叱られるかと思っていましたよ」
安堵した様子で胸をなで下ろす美鈴を見て、咲夜は微かに眉尻を上げた。
おとがいに手を添えて思案する素振りを見せた後、唐突にその場から消え去る。
同時に、美鈴の背に現れ、肩に手を乗せて口を開く。
「美鈴。あなた、厨房のデザートをつまみ食いしたでしょう」
「な、なぜそれを……あっ」
「あなたがビクビクする時は、大抵デザート関係だからに決まっているからよ」
美鈴って、大食いキャラだったんだ。
さっきまでの凛々しい姿とのギャップに、正直微妙な気持ちにならざるを得ない。
咲夜に告げられるたびに小さくなっている彼女は、控えめに言っても子供みたいだ。
……可愛い、のだろうか?
美人系の顔立ちの少女が、涙目でメイドに許しを乞うている様子。
普通にありだ。むしろ、ギャップ萌えと考えれば、素晴らしいとすら思えそうだ。
「ごめんなさい! 許してください!」
「ダメよ。後でお仕置きね」
「そんなー!?」
「さ。あなたは早く仕事に戻りなさい」
「……はい、わかりました」
悲鳴を上げていた美鈴だったが、咲夜にばっさりと切り捨てられると、とぼとぼとした足取りで門の前に向かっていた。
自業自得だとはいえ、少し同情してしまう。
哀愁漂う背中を見送っていると、私の側に出現した咲夜が紅魔館へと手を伸ばす。
「まもなく昼食の用意ができますので、食堂にいらしてください」
「あいあい。美鈴は?」
「彼女には反省していただかなければいけませんので」
「そ、そう」
深くは触れないでおこう。
なにやら美鈴は常習犯のようだし、藪をつついて蛇を出す事もあるまい。
目が笑っていない咲夜の笑顔を見た私は、そう結論づけて足早に紅魔館に向かう。
途中、子犬のような眼差しを美鈴が送ってきていたが、私に彼女を助けられる理論武装はなかった。
庇ってもらった恩を仇で返す事をして、申し訳ない気持ちである。
内心で美鈴に謝っていたが、不意に察知した殺気に臨戦態勢。
どこから攻撃されても良いよう、重心を落として我流の構えを取る。
「──申し訳ありません。言い忘れておりました」
音もなく私の背後に現れた、冷血な狩人。
表情を見なくとも容易に理解できるほど、背後の人物からは剣呑な雰囲気が漂っていた。
今いる玄関ホールには、私達の二人しかいない。
よって、ここでなにかが起きても、目撃者がいないというわけだ。
「穏やかじゃないねぇ。それで、私に言いたい事って?」
「今一度、忠告しておきます。くれぐれも、お嬢様を失望させないでください」
「レミリアを?」
問い返すと、鋭利な殺気が更に研がれていく。
万物を切り裂く如き鋭い威圧に、私は口角を上げながら振り返る。
紅い満月と、目が合った。
いや──そんな錯覚を抱くほどの、無機質で幻想的な瞳だったのだ。
この一瞬では到底測れないであろう、深い忠誠が込められた視線。
今の彼女の艶やかに光る瞳には、レミリア以外なにも映っていない。
レミリアから殺せと命じられれば、誰であろうと任務を遂行するだろう。
例え、美鈴やパチュリーといった紅魔館の住人でも。
「貴女様に限って、ないとは思いますが。お嬢様のお手を煩わせる事はなきように」
「……わかった。肝に銘じておく」
真っ直ぐ見つめ返し、神妙に頷いた。
無言で視線を絡ませ合うこと暫し、咲夜の雰囲気が常の瀟洒なメイドに戻る。
涼しい美貌で眉尻を下げ、申し訳なさそうな仕草で頭を下げていく。
「御無礼を、申し訳ございません」
「いやいや、それだけ咲夜がレミリアを好きって事だからね。むしろ、微笑ましいかな?」
「そう仰っていただけると、恐縮です」
歩みを再開しながら、私達は会話を交えていくのだが。
やはり、咲夜の雰囲気が先ほどより固い。
仕方ない事だとはいえ、私にとっても居心地が悪いので、ここは一つ冗談でも飛ばそう。
咲夜が喜びそうな話題……あ、そうだ。
「ふむ……例えば、私の発明品を使って、レミリアのカリスマ写真集とか」
「乗ります」
「お、おお?」
前に回り込んだ咲夜が、私の両肩に手を乗せて顔を近づける。
ぐぐいっといった擬音が聞こえるほどで、あまりの勢いにタジタジだ。
まさか、ここまで強く飛びつくとは。
良くも悪くも、咲夜の忠誠心は随一なのだろう。
「お嬢様の写真集、素晴らしい響きです。みずは様、私と一瞬に制作いたしましょう」
「わ、わかったから落ち着いて!」
「……はっ! も、申し訳ありません!」
私の促しで我に返ったのか、慌てた様子で離れた咲夜。
珍しく頬が赤く色づいており、見慣れぬ彼女の動揺した姿に、思わず顔をにやけさせて懐からスマホ型カメラを取り出す。
画面をタップしてカメラモードを開き、パシャリと一枚。
直ぐにしまって何事もなく振舞ったので、自身を取り繕うので忙しい咲夜は気がついていないだろう。
これは、先ほどのやり取りの仕返しだ。いきなりやられたのだから、これぐらいの役得があっても許されるべきである。
「ささ、早く行こう。私、お腹空いちゃったからさ」
「は、はい。こちらです」
内心で自己弁護していた私は、いまだに恥ずかしそうな咲夜と共に食堂へ向かうのだった。