本編にはニワカの私による壮絶なキャラ崩壊もしくはそのキャラに正しくない言葉遣いがあるかも知れません。なのであくまでそれと似た名前と見た目をした全くの別人だと思っていただけると大変有難く思います。
尚、今回の話は一部シリアスの皮を被った説明回に近いです。
それでもよろしい方はどうぞ。
佐世保を出港した輸送船団は全行程
「こちら響、電探及び聴音・探信に異常ナシ。そちらはどうか、どうぞ」
『こちら金剛、同じくこちらにも反応は無い。そのまま護衛を続行されたし』
「了解……第3次定期連絡オワリ」
そしてその輪形陣の最も端、船団陣形の最後尾を警戒・航行していた第六駆逐隊旗艦 響 は正面から照らされるまだ低い太陽光を浴びながらも自らの艦橋にて佐世保を出港して坊ノ岬沖・豊後水道沖に次いで3度目の通信を行なっていた。
「2ヶ月前に民間船が敵潜に魚雷攻撃を受けたって報告もあったし気は抜けないな……妖精さん」
『ウム、継続シテ対空・対潜警戒ハ厳トスル』
『目ヲ皿ニシテ見張リマス』
護衛艦艇全ての情報が集積される金剛からもたらされた情報に響は少々安堵するものの自らに乗艦している
「はぁ……」
海兵帽の下、陽光に透かすと銀糸の如き煌めきを魅せるその長髪を揺らしながら響は少々溜め息を吐くがそれは決して安堵したのでも警戒を緩めた訳ではない。……寧ろ逆というか大変頭が痛くなる一見どうでも良さそうで実際のところ全然どうでも良くないヤバい問題が起こっているからである。
それは……
「……ところでさ、なんでキミ達が
先程から見ていた艦首の方角から振り返りこの艦最大の生命線であり通常ならばそれ専門の妖精さんが居るはずの羅針盤に目を向ける。そこには羅針盤の淵に立つ提督からは乗り込みの連絡どころか自分もまた乗艦許可すら出しておらず、それ以前にいつ乗り込んだのかすら覚えがないが乗員に混じっていつのまにか船内に潜り込んでいた
『自主転属ダ』
『ソウソウ』
『今度コソ私達ハ最期ノ最後マデ閣下ノオ側デ御供スル』
『ソレガ我等ガ誓イ』
『其レコソガ今我等ガ此処ニ在ル意味』
そして響の問いに対し軍服や
過去から蘇ったのは『
「そうか……」
そして蘇った者同士艦娘と妖精さんという姿形の差異はあれど両者を構成する素となったのはかつて生きた人の思いや人の
それを理解するが故、響はどうしてもそんな彼らを強く非難する事が出来ない。何故なら彼女とて今の
『マア、コレデモ数ハ限界マデ削ッタ方』
『最大デ艦娘ノ艤装乗員ヲ除ク全テノ者ガ立候補シテタ』
『デモ鎮守府ヲ空ニハデキナイカラ大体3桁カラ今ノ人数マデ減ラシタ』
『……アレハ血デ血ヲ洗ウ、凄惨ナ戦イダッタ……』
『クジ引キダッタゲドナ!』
「そ、そうか……」
が、最後の最後にぶち込まれた妖精さんら一同のブッチャケ話に
しかし、
おそらくきっと……そう……
それは漠然としたモノ、予感。だが70年戦い続けた彼女にとって下手な情報や天気予報よりも信用されている何事からも彼女を救ってきた直感により彼女は思う。
「横須賀か…………きっと
響は二重の輪形に守られたその中枢、堺の右舷を航行する輸送艦 大隅を見つめ、そこにいるはずのこの国この世界にとって核にも勝り得るかも知れぬ爆弾であり彼女にとってなによりも大切な男の姿を思い浮かべそう呟いた。
❀ ✿ ✾ ✿ ❀
一方、響にそんな事を思われているとは露知らず件の男はと言うと大隅の左舷甲板後部にてただ何をする事もなく目前を航行する大型艦、堺型強襲揚陸艦の1番艦である堺を眺めていた。
「ああ、こちらに居ましたか。探しましたよ沖田さん」
「ん、ああ……これは西住少佐」
と、その時甲板上に吹き荒ぶ潮風で足音は聞こえなかったが長年戦場に立っていた所為か死なない為に勝手に身に付いた勘と気配を掴む技術により零の背後に誰が立った気配がした同時に女性の声が出て届く。振り返った先に居たのは艦内での案内人兼お目付役であった西住まほ陸軍少佐であった。
「何か御用でしょうか?」
「いえ、てっきり食堂で朝食を摂られているのかと思い御同食できればと行ってみたもののその姿をお見かけしませんでしたので。一応昨日に艦内は案内しましたが全てではありませんし迷子になられて居ないか正直少し心配で……」
「それは申し訳ありませんでした。ご心配をお掛けしまして」
「いえ!それ程でもありません。私の個人的なものでしたし」
彼女は零のすぐ近く、彼女に対し向き直った零の目の前に立ちそこそこ大き目の声でそう話す。これは艦中央部に艦上構造物が艦橋とマスト・煙突が一体化した形であり、些か全通甲板とは言い難いがそれ以外に大隅の甲板上には風を遮る障害物がほぼ存在しない事や現在海上航行中なのもあってそれなりに強い潮風がそこに立つモノへと吹き付ける事で並みの声量では風に流されて消されてしまうからである。現にその強風によりそこに立っていた零の前のボタンを外したスーツの裾とネクタイは風に煽られはためていており、同じくそこにやって来た西住まほも風で髪型がぐしゃぐしゃに乱れてしまわないよう右手で髪を押さえていた。
「……ところで何をお見になっておられたのですか?」
朝日と潮風に煽られながらもまほは波と風の音に負けない音量の声で零に問う。目の前にいるはずのこの黒服の男が何故か一瞬白い軍服に身を包み、そして何処か遠い遠い彼女では思いもよらない場所を眺めているようでともすれば彼は本当はここに居ないのではないかという不安と違和感を何故か感じてしまった所為だ。
「あの船……強襲揚陸艦を見てたんですよ。何処かよく知る艦の面影と言うか特徴があるような気がしたので」
だがその不安と違和感も零がしっかりと彼女を見据え口を開いた事によって霧散する。そしてそう言いつつも彼が指をさした先にあったのは昨日艦隊に合流した出雲型
「……ああ、堺の事ですか?堺型艦載機搭載型強襲揚陸艦の1番艦 堺、旧日本軍において陸海軍が合同で編成した海兵隊が運用していた秋津型強襲揚陸艦を基に海兵隊や陸軍車両を搭載した揚陸艇の他にヘリや
「なるほど……あの秋津の……だからか」
「はい、ですがそれ程似ていますか?私みたいな陸軍出身の素人目には良く分からないのですが」
「ええ、まあ分かる人には分かりますよ…………
「?」
まほは零が指さした艦、堺について自分が知り得る情報の内当たり障りのない部分を抜き出して説明する。が、しかしあくまで知っているだけで陸軍出身であり生粋の戦車乗りである彼女からすればそんなに興味深く船を見た事も覚えもない為正直彼女自身差異を理解している訳でも見分けがついている訳ではない。……これが戦車、特に
「こほん、ところでこの船団の最終目的地は横須賀らしいですが
「いえ、護衛は父島『旧』前線要塞と入れ替わりますが我々はこのままこの船で横須賀で新たな人員と機材を収容次第硫黄島に向かいます。今は硫黄島が最前線ですので」
硫黄島
その名を聞けば誰もが思い浮かべるのは大戦末期の1945年5月5日に行われた米軍による日本軍の本土絶対防衛線の中核であったサイパン島支援の一大中継地であった硫黄島要塞の破壊と占領による支援遮断を狙った一大強襲上陸作戦、米軍作戦名「
この戦いにおいて米軍は史上最大規模の超大艦隊と第5水陸両用兵団を動員、対する日本側は内地に引き上げ一部改装中の艦艇を除いた残存第二艦隊及び本土・硫黄島陸海航空隊、陸軍硫黄島要塞守備隊3万と硫黄島秘密潜水艦ドッグ配備の伊016型攻撃潜水艦を動員しこれを迎え撃ち米軍は日本軍の巧妙な陸海空海中の3次元立体戦術に戦力を文字通り消滅させられる事となる。結果最終的に硫黄島並びにサイパンはアメリカに陥落する事はなかったが硫黄島の戦いは日本近代戦史上サイパン・沖縄・樺太・千島列島に次ぐ大激戦地として有名である。
「硫黄島か……確か陸軍が野砲が足りない分を本土から持ってきた重戦車と「使わねぇだろ?」って言って駆逐艦の砲を海軍から分捕って半地下式トーチカに押し込んで防衛戦力に加えたって言う話を聞いたような…………」
「よくご存知ですね。大戦末期に満州・本土決戦の為に温存……というかその場以外では重量問題で運用不可能だった百式重戦車と天一号作戦実施準備に基づき改装中だった駆逐艦が下ろした旧式の12.7cm速射単装高角砲を陸砲に改造した陸上固定式12.7cm速射単装高角砲を運び込み各砲台陣地及び対空砲陣地を構築した技術や思想は戦後の深海棲艦による沖縄侵攻で証明・活用され今の私達、新設された島嶼防衛特化機械化装甲部隊の礎となった聖地です。…………まあ今は予算も時間もないので硫黄島では先に基地を建設していた空軍の施設を間借りする事になるんですが」
「……貧乏っていつの時代も世知辛いですよね」
「ええ……世知辛いです。特に我が国は海洋国家ですから」
陸海空全てが国家防衛の為にはどれもが過不足無くされど周辺国家に対し必要以上の脅威を与えない程度の軍備が必要なのに違いはない。だが古今東西軍事とはとにかくお金がかかるものであり、今も昔も軍事費が嵩む国こそがおよそ大体が貧乏な国なのである。そしてそのどうしようもなく虚しい法則から日本も逃れる事はできず幾ら高度な経済的発展を遂げ『大海戦』以前は
国家は国民あっての国家であり彼らは誰かの命を担保に金を渋る訳にもいかない、それは国家の矛であり国民の盾である軍も同様であり文句を言える立場でもないのだが金をケチって最初に大損害を受けるのは前線の兵士であると言うジレンマもあって特に最近では深海棲艦による脅威に対応する為に唯一深海棲艦に有効打を与えられる「艦娘」の大半が所属する海軍が優遇されている事も相まって陸軍からすれば色々と苦しいものである。
「それに実は私は地元に配属されましたが同じく妹も陸軍に入っていて士官学校卒業後の今は対米対露の要、北海道第11師団の第11戦車大隊で10式戦車の車長候補生をしています」
「ほう、車長のですか。少佐の妹であるとすればまだ二十代前半で士官に成り立て、しかもその中でも車長候補と言うことはとても優秀な戦車乗りなのですね」
「ええ、私の自慢の妹です。………もしかしたら私なんて目では無いかもしれない指揮官として戦車乗りとしての才能があるかもしれません」
「それは凄いですね!俺にも妹が居ますが正直俺よりもカリスマ性というか人を魅了させる人身掌握能力が素で高くてですね……気が付いたらいたる所で配下というか仲間をいうかを引っ掛けてくるんですよね……しかもやたら有能な奴ばっかりを」
「分かります、凄く分かります」
「それに普段は人見知りする癖にここぞと言う時には言う事は言うし頑固だし結構腹黒いし」
「分かりますっ!すっごく分かります!」
「あとそれに見た目によらず……」
「「案外図太い」」
2人揃って妹に下した評価に思わず零とまほは堪らず笑ってしまった。正直何故か話の途中から
「と、そう言えば以前連絡をとった時に確か横須賀への出張命令を受けたと言っていましたのでもしかしたら沖田さんと何処かで鉢合わせることもあるかも知れませんね。その時はよろしければ私の妹にもよくしてあげて下さい」
「ええ、流石に会えるかどうかは分かりませんが勿論です」
「お願いしますね」
そして楽しいお話しも一区切りがついた頃、楽しげに妹談義に花を咲かせていた2人だったが流石にいつまでも
────時刻は
❀ ✿ ✾ ✿ ❀
東京、某所。そこにあるとあるひとつの重厚な雰囲気を持つ木製の扉の前に1人の女性が立っていた。
「失礼します」
「入り給え」
三度のノックの後彼女はその扉の奥、会議室の中央に置かれた長円卓に座る7人の前に立つ。よく見るとそこに座る人と人の間の隙間がちょくちょく空いている事から欠席者も居るようでその間隔から見て空き席は6席、どうやらこの部屋に集う筈だった人物は13人だったらしい。
「あの……何の御用でしょうか?」
「ああ、君に頼みたい事があってね」
だが人数はさして重要ではない、問題は彼女の眼前に並ぶメンツとこの場を借り切って軍人である彼女を軍規的に合法的かつ秘密裏にこの場所に呼び出せる事である。
「これから至急横須賀に行ってとある人物を此処に案内して貰いたい。ああ……移動手段は此方が手配するので君が心配する必要はない」
「横須賀……」
「そうだ、本日
そして彼女から最も遠い位置かつ対面に座る初老の男性が切り出した内容とは「お願い」であった。当たり前だ、彼女は日本陸軍の一員であるが彼女を直接命令できるのは彼女が所属する第11師団の上位士官かもしくは国防省長官ないし
「問題が問題だ、一つだけなら質問を許そう、質問は有るかね?」
「はっ、しかし何故私が………?」
本来ならばこういった系の命令に質問などは一切厳禁となるはずなのだが何故かひとつだけとは言え質問を許可されたので思わず「何故?」と問うてしまった彼女だったが、それに答えたのはこちらから見て円卓右側に座る
「貴女が
妙齢の女性曰く、彼女が中央の影響を受けていないからと言う事であるがそれと同時に敢えて声には出さないが彼女は国防省出向の要件が終わり次第中央を離れて北の任地へと帰ってしまう為情報の秘匿・隔離がしやすいという事があった為である…………まあそれだけでもないのだが。
「我々も今は制服組の一員だがそれでも今の生粋の制服組を信じる事は出来ない、政府の政治屋の腐敗や軍内部においても汚職や中ソ米英諜報工作員と後ろ手を組んで国を売り甘い汁を啜る
そして今度はこちらから見て円卓左側の手前の方に座っていた老練な雰囲気を持つご老体は今の日本国そのものを自嘲気味にそう皮肉った。かつて今や功績からは抹消されてしまった護国の英雄の下で戦火を生き抜き
「故になんとしても
ご老体の皮肉の後を始めに彼女に「お願い」と言うなの指示を下した男が話を続けるが、その内容は特にそれ程国家を憂いでいる訳でもなく愛国心が飛び抜けて強い訳でもない、ただ明日もまた今日の様な細やかな幸せを幸福に思える程度の日常であって欲しいと願う彼女にとっては聞き捨てならないものだった。なら分かっているならやめて欲しい、もしくは自分にそんな重大な問題を明かさないでくれと叫びたい衝動に駆られる彼女だが目の前のメンツの手前そんな事はできない。しかしだからといってこの軍部の意向、
「…………承知しました」
だがだ、そうまで言われてこの件についてどれだけ不味い事なのかを理解していても今この場で断わる事も無視する事を出来るほど彼女は愚かでも馬鹿でもなかった。
「頼んだぞ、
逃げ道を塞がれた彼女──西住みほ陸軍少尉は頷く事しか出来なかった。
ガルパンはイイゾ(ボソッ
補足メモ
●堺型強襲揚陸艦
強襲揚陸艦の祖にして最優と讃えられた秋津型強襲揚陸艦の系統を汲む後継艦であり、それ故に艦体規模は拡張され艦内部構造の最適化は行われているものの艦外形は秋津に似通っている部分が多々ある。
艦名の命名基準は中世日本の主要貿易港やその地名であり1番艦が『堺』、2番艦が『坊津』、3番艦『大湊』、4番艦『博多』の計4隻が建造、就役している
【艦型情報諸元】
建造所
運用者 日本海軍(日本軍海兵隊)
艦種 艦載機搭載型
艦型 堺型強襲揚陸艦
建造費 5000億円(4隻分)
母港 呉
所属 第4艦隊
計画 平成1年度軍備計画
発注開始時期 1999年
建造期間 2000年9月17日〜2013年
就航期間 2005年6月9日〜2015年
全長 261.3m
全幅 32.5m
喫水 8.9m
排水量 46.000t(満載時)
主機 御国99式電気・ガス複合推進機関×4基 2軸推進
最大速力 28ノット
乗員 1054名
海兵隊員 1853名
兵装
▪︎ファンランクス高性能20㎜機関砲
▪︎05式艦対空迎撃ミサイル
艦載機
▪︎御国 F-44 天桜Ⅱ ステルス艦載機
▪︎御国 ASF–X03/YF-3 震電Ⅱ 垂直離着陸戦闘機
▪︎御国 AFH-02 戦闘攻撃ヘリコプター
▪︎三菱 SH-60J/k 哨戒ヘリコプター
▪︎AW101 輸送ヘリコプター
艦載艇
▪︎エアクッション揚陸艇
C4ISTAR
▪︎OYQ-9E 戦術データリンクシステム
レーダー
▪︎FCS-3 00式射撃指揮レーダー装置3型
▪︎OPS-20C 対水上レーダー
ソナー
▪︎OQQ-22 統合ソナー・システム