クソ野郎が転生するプロローグ。今のところは一次創作だけど二次創作に放り込むか検討中。

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クソ


クソ

 神様転生。

 オタクなら大体の人間が聞いたことがあると思われる、この単語。

 神様の手違いで死んでしまい、その辻褄合わせとしてクソ面倒な世界でクソ面倒な人生を送るハメになるという第三者として見る分には面白く、当事者としては相当の阿呆でない限りはたまったものではない、謎シチュである。

 神様転生の歴史はまぁまぁ長い割に中身が無く、テンプレをなぞる水増し作品がアホ程溢れかえって小説投稿サイトを埋め尽くしているが、極めて稀に出版社の目に留まり、世に送り出されて大当たりとして祭り上げられる作品もある。本当に稀だが。

 ただ大当たり、と言われるだけあってその内容は非常に面白く、シリアスやコメディなど方向は違えど、テンプレをなぞる作品とは一線を画す『ウリ』があるわけだが……。

 

「俺の場合はそういうのなんかあんの?」

「無いかな」

「クソかよ」

 

 ソファで踏ん反り返って書類を眺める女神様はこの通り、俺の第二の人生は面白さの欠片もないテンプレになると言い切りやがった。そっちのせいだろ。何とか面白くしろよ。

 しかも死に方すらテンプレート。神様のミスでトラックに轢かれて、五体バラバラで血の雨が降りましたってか。天気予報も真っ青の異常気象だよ。あ、道路は真っ赤ってか! 死ね。俺は死んでんだぞ。死ね。

 往々にして作者が失踪するせいで語ろうとも落ちることはない神様転生の様式美であるこの神様との問答も、言うまでもなくテンプレートの通りである。

 事情説明、謝罪、ガイダンス、特典選び。

 ほんと、なんというか、面白さの欠片もない問答である。

 確かによく語彙が足りない作家モドキが用いるあの『真っ白な空間』は最初観た時は感嘆の声が漏れたが、それだけだ。ただ白いだけの空間など見ていてそんなに楽しいものではない。

 この女神様だって、不定形とか、靄とか、女か男かわからないだとか、色々言われてるが、普通に女だ。芸能人によく居そうなシンメトリックな顔立ちに、髪型が変われば興味がない人間には当人だと認識されなさそうな、美人だが埋没必至なよく見るタイプの顔だ。体形だって巨乳でも貧乳でもねぇ。

 ほんと、何から何までテンプレート。

 俺がもしテンプレートが好きで、好んで小説投稿サイトの神様転生物を読み漁っていたら感動も歓喜もあったろうが、生憎俺はそういうものは大して好きではなかったのだ。嫌いでもなかったが、それは単に興味がなかったからで……。

 まぁ、とにもかくにもテンプレートの雨霰。張り合いもなければ面白さもなく、恐らく苦労だけがあるのだろう。

 単純に面白くないのが悪いわけではない。

 問題なのは面白くないにもかかわらず変に主人公が、この場合は俺の人生が受難塗れになることにある。

 たとえ話をしよう。

 もし自分が少年誌が好きで、かっこいい必殺技で敵を倒し世界を救う英雄譚に憧れていたとしよう。

 だが転生先は毛の先ほどの興味も無い少女漫画の世界で、主人公たちは自分以外でしっかりと用意されていて、物語はそいつらだけでも進んでいくのにそこに少年誌好きの男を放り込んだら、その男はどう思うだろうか。

 そういうことだ。興味がないどころか、そもそも知らない。知ったとしても楽しめない。そんな物語の世界に放り込まれて何が楽しいのか。

 原作ありきの物語な分きっと山も谷もあるだろう。そんな毎日がファッキンワンダーランドな物語に無駄に巻き込まれれば、無駄に疲れるだけなのは日を見るより明らかである。

 嫌だ。神様のミスで殺されて人生いきなりリセットされた上にクソ程の興味も無い世界に飛ばされて無駄に苦労するなんて嫌すぎる。せめてそのまま殺して俺の存在を抹消してくれ。

 まぁ興味のある世界に行ければ何も問題ないのだが。

 

「ちなみに、どこの世界に行こうともそれなりに物語の中心に居ることになると思うよ」

「あぁぁぁ……」

 

 クソ女神。女神のクソビッチめ。どうせ神様には必要ないからセックスなんてしたことなくて処女だけど人間がセックスしてるの何回も見てるから「アイツは下手」とか勝手に言ってんだろ。無駄に目だけ肥えて経験が伴ってない童貞みたいな思考回路してるに決まってる。

 

「言っときますけどモノローグ筒抜けですからね」

「知ってる。神様は何でもお見通しなんて使い古されて苔生した設定一々説明しなくていい」

「モノローグと同じで滅茶苦茶失礼ですね貴方。裏表なさすぎでしょ」

「一方的に電話を終わらせるが如く唐突に俺の命を終わらせた女神様は言うことが違いますね」

「それは――」

「いやいいんだよ別に。親は死んでもう居ないし、俺が死んで悲しむ人は居なかったから」

 

 裏表のない俺の、正直な気持ちの一つだ。

 死んだことに関しては、悲観する要素は殆どない。

 親は死に、親戚は居らず友人もあまり多くなかった俺は、ぽんと死んでも尾を引く悪影響は与えなかっただろう。

 

「……不憫」

「お前に殺されたのが一番不憫だってのわかってて言ってんのかコラ」

 

 殺した張本人が何眼を潤ませてんだ。サイコパスかてめぇ。

 

「なんでもいい。憂いはこの先の興味ない割にしんどいことが確定してる人生だけだ。それで、行く世界は?」

「少なくともあなたの世界にあった漫画やゲームの世界には行かないわ」

「いよいよクソでは」

「クソな貴方にお似合いね」

「ブチ犯すぞクソビッチ」

 

 マジで、俺なんか悪いことしたかな。クソなのは自認してるけど悪いことだけはしなかった……しなかったと思う。法やルールは守った。人を傷つけたりはそもそも関りが無かったからなかったはずだ。

 

「ま、精々楽しむ努力をしなさいな」

「おう、考えてやるよ」

「いや別に私としては貴方がどうなろうと知ったこっちゃないんだけどね?」

「お前も大概クソなのな」

「お互い様ね」

「あー……もういいや。さっさと行く先決めて、適当に特典選ばせろ」

 

 女神が手元の書類に目を通して、俺に選択肢を提示する。

 

「まず、基本特典としてごく一般的な家庭に生まれることが確約されます。あなたの死んだ世界での一般的な家庭ね」

「おう」

「ここであなたに特典を選んでもらいます。

 一つ、基本特典を無視してある現在の状態で転生する。この際住処や戸籍、学校等最低限必要な社会的地位は保証されているものとする。これはまぁ、転生というか、安心お手軽親切設計な異世界渡航的アレよ。

 一つ、転生後の社会で重宝される技術を習得しやすくなる才能を持った状態で転生する。これは侍の世界なら剣術の才能とか、そんな感じよ。親は居るわ。

 一つ、私とお話できる」

「なるほど、異世界渡航か才能かぁ」

「クソが、私にも魅力を感じなさいよ」

「死ねビッチ。行く先の世界は教えてくれねーの?」

「死ね童貞。残念ながら教えられないのよね。ファンタジー系とかSF系とか日常系とかも教えられないわ」

「クソだなマジで。そこだけテンプレから外れるとかマジでクソ」

「あく選びなさいよホラホラホラ次がつかえてんのよ」

「待てい。……じゃあまぁ、特典は――」

 




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