問題児たちが異世界から来るそうですよ?―笑う自由人― 作:カゲショウ
黒ウサギ「え、えっと『天野剣士の駄弁りコーナー』を今日もオモシロオカシク始めさせていただきます!」
剣士「……」
黒ウサギ「きょ、今日は黒ウサギがゲストとしてお呼ばれいたしました。剣士さん、宜しくお願いします」
剣士「……」
黒ウサギ「剣士さん、今日はどんなお話をするんですか?」
剣士「……」
黒ウサギ「あの~……剣士さん?」
剣士「……」
黒ウサギ「何か喋って下さい! このお馬鹿様!」スパーーーン
剣士「ハリセンで叩くなよ黒ウサギ」
黒ウサギ「剣士さんが喋らないからです!」
剣士「いや、ゲストが紹介前に喋るからいっそ全てを任せてみようと思って紹介されるまで待ってたんだよ」
黒ウサギ「それなら先に言ってて下さいよ!」
剣士「すまない、どうしても黒ウサギの困った顔が見たかったんだ……」
黒ウサギ「質が悪いです! このお馬鹿様!!」スパーーーン
剣士「まぁ、落ち着けよ黒ウサギ。疲れるだろ?」
黒ウサギ「誰のせいですか! 誰の!」
剣士「逆廻」
黒ウサギ「剣士さんです!」
剣士「あ、そう」
黒ウサギ「……もういいです」
剣士「もう折れてしまうとは……まだ弄り足りないんだが」
黒ウサギ「弄らなくていいです!」
剣士「落ち着けって、可愛い顔が台無しだぞ?」
黒ウサギ「え、ええ!? う、嘘です! 剣士さんがそんなこと本気で言うはずがありません!」
剣士「うん、嘘」
黒ウサギ「予想どうりですが何か悲しいです……」
剣士「それでは短いですが黒ウサギを弄り倒したことなのでそろそろ終わりたいと思います」
黒ウサギ「次回のゲストはジン坊っちゃんです……」
剣士「それでは皆さん本編の方をどうぞ!」
黒ウサギ「うぅ……次回が心配すぎます……」
世の中どうしようもない事ってあるよね。
例えば時が過ぎていくのは止めようがないし、蛙に世界が狂ってるなんて言っても蛙は世界を変えられない。
なのに人間はそれに抗おうとする。どうしようもない事に立ち向かって変えてみせようとする。それがオレには理解できなかった。
だけど――――オレだって抗いたい時もある。
「あ、春日部とジン君だ」
「剣士と飛鳥……どうして此処に?」
屋敷の前に行くとちょうど逆方向から二人が来ているところだった。
……ジン君が少し疲れた顔をしているのは気のせいだろうか?
「どうしてって……此処だけ調べてなかったからな。ガルドがいるかと思って」
「いるよ、影が見えただけだけど目で確認できた」
「さいで」
やっぱり春日部のギフトは便利だな。動物にすら友達いなかったオレにはあっても意味がないけど……。
「鷹のお友達もいるのね。けど春日部さんが突然異世界に呼び出されて、友達はみんな悲しんでるんじゃない?」
「そ、それを言われると……少し辛い」
しかし春日部と久遠の雑談はさほど興味無いがジン君が疲れてるのが気になるな……おおかた春日部の問題児っぷりに振り回されたとかだと思うがな。ご愁傷様、ジン君。
「そこの坊やや、何をそんなに疲れておるのだ?」
「…………剣士さんのせいですよ」
「何故!?」
それはどんな責任転嫁ですか。
「剣士さんが久遠さんと喧嘩してたので耀さん、ずっと御二人が喧嘩していないか心配してたんですよ?……全部僕に聞いてくるんですが」
「ご迷惑おかけしました」
確かにそれはオレのせいだな。
「だけどジン君、オレと久遠じゃ喧嘩なんて起きないから大丈夫だぜ」
「? どうしてですか?」
頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げるジン君。まぁ、ジン君は良い子だから喧嘩なんて経験ないかもしれないけど喧嘩にはある条件が必要なんだぜ?
疑問顔のジン君にオレは自慢気に言ってやった。
「喧嘩っていうのは対等の相手との間で起こるもんなんだぜ!」
「…………あ、はい」
何故か哀れみの視線を向けられてしまった。いや、確かに久遠とは喧嘩というより一方的に何か言われるだけなんだけどさ……。
「ジン君、剣士君、そろそろ行きましょう」
「はい」
「ういーっす」
久遠を先頭に春日部、ジン君、オレの順番で屋敷に入っていく。
「うっわ、これは凄いな……」
屋敷の中までも植物が入り込んでおり、扉はおろか窓や外装や装飾品までもがツタに呑み込まれていた。
「ガルドは二階に居た。一階は大丈夫」
春日部の言葉に少し警戒心が緩む。しかしここで完全に気を抜いてはいけない、もし抜いたら久遠に怒られる!
「それにしてもこの奇妙な森の舞台は……本当に彼が作ったものなの?」
「……分かりません。"主催者"側の人間はガルドだけに縛られていますが、舞台を作るのは代理を頼めますから」
「代理を頼むにしても、罠の一つも無かったわよ?」
「きっと心優しい業者さんがやってくれたんだろ。わぁ、なんて良い人たちなんだー(棒読み)」
「黙りなさい」
ひと睨み。いやー久遠には本当に敵わないな。足が震えてきたよ。これが武者震いってやつかな?
「森は虎のテリトリー。有利な舞台を用意したのは奇襲のため……でもなかった。それが理由なら本拠に隠れる意味がない。ううん、そもそも本拠を破壊する必要なんてない」
……春日部の言ったことが一番の疑問だよな。あの自分大好きっぽいガルドがこんな馬鹿でかい屋敷を建てたのは自己顕示のはず。それならこんな無残な姿にする意味がない。これじゃまるで理性が欠けているとしか思えない……。
「もしそうならヤバイな……」
オレのゲームの目的はガルドと話し合って安全なゲームに切り替えることだ。だけど正しい判断ができない状態ならばそれができなくなり、結果的にこのゲームを勝つか負けるかしなければならなくなる。久遠と春日部は間違いなくクリアするだろうからガルドが死ぬことに……。
「剣士」
思考の海に沈みかかっていると春日部が声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと考え事をしてて……」
「そんな嘘は良いから、早く武器を探しに行こう」
嘘だと言いますか。そんなにオレは考えごとをしないようなバカに見えますか。
「はいはい、今行きますよ……」
春日部のせいで若干下がったテンションのまま春日部達の後を追って散策を始めた。
「無いな。それはもう見事に」
一階にはそれらしき物は見当たらなかった。ヒントもなかったし。あーあ働き損だよ、瓦礫とかほとんどオレが掘り返して探したのにさ。
「そうなると二階に上がることになるわね……。ジン君、貴方は此処で待ってなさい」
久遠の言葉にジン君は驚いた顔をする。まぁ遠回しに戦力外通告されたらそんな顔になるわな。
「ど、どうしてですか? 僕だってギフトを持っています。足手まといには」
「そうじゃないわ。上で何が起こるか分からないからよ。だから二手に分かれて、私達はゲームクリアのヒントを探してくる。貴方はこの退路を守って欲しいの」
うん、実に理に適った回答だね。だけどそれならジン君の他にもう一人残していくべきなんじゃないかな?
「飛鳥、それならもう一人残ってた方が良いんじゃないかな? その方がジン君も安全だし」
考えたことを殆どそのまま春日部に言われた。箱庭ってやっぱり他の人の思考が読めるのが当たり前なのか? オレは読めないのに……。
「そうね……。剣士君」
「ん?」
「ジャンケン、ポン」
「え? は?」
パー(久遠) グー(オレ)
「それじゃ居残りよろしくね♪」
汚い! お嬢様なのにやってることが汚いぞ!
オレの心の叫びは久遠には届かず、春日部と久遠は二階へを姿を消した。
「…………はぁ」
久遠ではないがため息が漏れてしまう。あのお嬢様め、いつか仕返ししてやる……っ!
「まったく、あのお嬢様は本当に恐ろしいよ」
「あはは……」
愚痴をこぼすと隣でジン君が苦笑している。そういえばジン君に聞きたいことがあったや。
「ねぇジン君。君はこの木のことを知ってるんじゃないの?」
「っ!?」
ビクッと体が飛び跳ねるジン君。やっぱり、予想どうりだ。
「この屋敷に入る前からジン君はこの木のこと……というよりもこの木に起きてる現象について少なからず心当たりがある。そうだよね?」
オレの言葉に黙って俯いてしまうジン君。だけどその行為は肯定と取るには十分だった。
「よかったら話してくれないか? ジン君が知ってることを」
「それは……」
若干ためらいながらもジン君が話そうとする。
「――――……GEEEEEYAAAAAaaaa!!!!」
しかしそれは凶暴な叫び声によってかき消された。
「春日部! 久遠!」
叫んでジン君を置いてその場から駆け出す。
もしあれがガルドのものだったらオレが思う中で最悪のパターンになる。そうあって欲しくないという思いと、二人が無事であって欲しいという思いを抱きながら今も聞こえる凶暴な叫び声の方へと急ぐ。
「GEEEYAAAaaaa!!」
「ははっ……嘘だろ……?」
目の前に広がる光景につい足を止めてしまう。
そこには紅い瞳を光らせる虎の怪物が叫びながら春日部と対峙していた。
「鬼、しかも吸血種! やっぱり彼女が」
遅れて様子を見に来たジン君が驚愕の表情を浮かべる。問わなくてもジン君の表情を見れば目の前に居るのが何なのか分かる。
目の前にいる怪物はかつてガルド=ガスパーだったものだ。
「つべこべ言わずに逃げるわよ!」
久遠がジン君の襟を掴んで階段から飛び降りる。しかしガルドは目ざとく二人を見つけると後を追うように部屋から飛び出そうとする。
「させるかよ!」
背後に天井まで届く壁を作り出しガルドの行く手を阻む。
「GEEEYAAaaa!?」
その壁に勢いよくぶつかったガルドは叫びながらその場に転がりこむ。
しかし、その行動は最悪のシナリオの幕開けでもあった。
「ヤバイな……」
ガルドから理性を感じない。言語からもそうだが、戦闘能力が高そうに見えたガルドがほんの一秒前に出現した壁にぶつかるはずがない。なのにぶつかった。しかも勢いを殺す動作も前足を壁につくなどの動作の欠片も見せずに。
「理性の欠片もない……」
本能に赴くまま行動している。つまり話し合いが通じないということだ。
「剣士!」
白銀の十字剣を持った春日部が駆け寄る。恐らく今春日部が持っているのが"契約書類"に書かれていた指定武具なのだろう。
「剣士、私が倒すから安全なところに逃げて」
「は?」
すでに剣先をガルドに向けている春日部。その背中には手助け不要と書かれているようにも見えた。
…………どいつもこいつも本当にふざけるなよ。終いにはキレてリリちゃんの尻尾をもふもふするぞ。
「春日部、オレはサポートに回る」
「いらない。剣士は早くにげ――――」
「い・や・だ!」
「……へ?」
この緊迫した場面で随分と間の抜けた返事だな、春日部。
「あのな、春日部。コイツを一人で倒せると思ったら大間違いだぞ」
「え? へ?」
未だに困惑している春日部を気にせず言葉を続ける。
「確かに春日部は強いかもしれない。ガルドなんか相手にならないくらいにな。だが、それは相手がまともだった場合だけだ」
「…………どういうこと?」
自分の力を否定されたからか不機嫌そうにオレを睨みつける。
「理性さえあれば相手は自分より格上の相手には恐怖する、ガルドみたいな奴は恐怖で力が出せないのが相手の強さと勘違いするような奴だっただろうな」
あの世界でオレを殺そうとした奴等もそうだった。圧倒的な力の前にそいつ等はただ恐怖し、逃げ出すことしかできなかった。
…………嫌なことを思い出したな。
思い出すだけで吐き気すら覚える記憶を頭から振り払い言葉を紡ぐ。
「だが理性のなくなったまともじゃない奴等は違う。いくら傷つこうとも死にかけようとも向かってくる。本能でしか行動できないからいくら相手が強くても関係ない、それこそ本能的に危険を感じるまで何度も何度もだ」
脳裏に浮かぶのはオレに恐怖し、正気をうしなった奴等の奇声にも似た声で笑う地獄絵図。
春日部も何か頭に思い浮かんだのか若干顔を青ざめさせて震えている。
「今のガルドは今春日部が想像しているような状態だ。…………そんな奴に春日部は一人で勝てるのか?」
「っ!」
ビクンと軽く跳ねる。そしてオレに向けていた視線をガルドに向ける。
今の春日部にガルドがどう映っているのかはオレには分からない。多くの人質を殺してきた外道に見えるのか、それとも理性を失った獣に見えるのか……。
だがオレ的には後者であった方が都合が良い。もし、ここで春日部がガルドを危険と判断し一度後退することを選べばその分ガルドを助ける算段を立てることができる。
「私は…………戦う」
しかし春日部が口にした言葉はオレの望んでいないものだった。まぁ、それがコイツ等らしいよな。
「そうか……」
ならオレはガルドを殺さず、春日部を殺させず上手く立ち回らなければな。
「G、GEEEYAAAaaaaa!!」
ガルドが巨体を起こしてこちらを紅い瞳で睨みながら吠える。
「剣士はさがっ――」
「らないよ。オレはこの手の届く範囲全てを守るつもりだからね」
「……なら邪魔にならないようにしてて」
剣を構えてガルドに突撃する春日部。まったく、人を頼るのが下手だなぁ。
オレは身の丈ほどの頑丈な鉄の棒を作り、春日部に続く。
「ふっ!」
春日部が剣を横に薙いでガルドを牽制する。それは後ろに跳んでかわされたがオレは体勢を整えられる前に懐へ入り込み思いっきり顎を殴りつける。
「GE……YAAaa……」
軽い脳震盪を起こしたガルドは僅かにふらふらとするがそこは流石と言うべきかすぐに持ち直す。
「剣士!」
「了解!」
今度は顎ではなく左目を叩き一時的に視界を奪う。その隙に春日部が左からガルドの後ろに回り込み左後足を切りつける。
「GEEYAAAAaaaaaaaaaa!?」
切り付けられた瞬間ガルドはさっきとは別種の叫び声をあげて暴れだす。
「くっ……!」
めちゃくちゃに前足、尻尾、体を暴れさせるガルドの攻撃をギリギリのところでかわす。どうしたんだよ、一体……!
前足が床を壊し、尻尾が装飾品を薙倒し、巨体がオレ達の接近を拒むように暴れる。しかしその行動にオレ達を殺そうという攻撃が無く、ただ暴れているという印象がある。
「春日部、一旦後退を――」
「嫌だ」
オレの言葉に被せるように短く言い放つと再びガルドに向かって突撃する。
右へ左へと流石と言えるような身のこなしであの無茶苦茶な攻撃を掻い潜る春日部。時折剣で受け止めようとするがガルドが触れる前に軌道を変えて床を砕く。
「っ!?」
「春日部!」
そんな攻防が続き後一歩でガルドの懐に入り込めそうになったのだがガルドが砕いた床に引っかかり春日部がバランスを崩す。
「! GEEEYAAAAaaaaaaa!!」
それを好機と見たのか、ガルドはその鋭い爪をもった前足を振り上げた。
「っの野郎!」
春日部を守るためにガルドとの間に壁を作る。
「かはっ……!」
しかしガルドの攻撃は壁を壊すだけでは勢いが死なず、そのまま春日部を壁まで吹き飛ばした。
「春日部!?」
「がっ……はっ……!」
壁にぶつかったためか春日部は息もまともにできずに倒れこむ。
「GEEYAAAaa!」
ガルドがそんなことお構いなしに春日部にもう一撃入れるために再び前足を振り上げる。
「させるかよ!」
振り上げた足を鎖を作って天井に繋ぐ。しかし今のガルドにとっては気休めにしかならないだろう。
オレは春日部を急いで抱き上げその場から全力で駆け出す。そしてその一秒ごにバキッという鈍い音と共にガルドの爪がさっきまで春日部が倒れてた場所に突き刺さる。
「あ、危なかった……」
正直基本スペックが凡人のオレがあの一瞬で助かるとは思わなかった……。
「はっ、くっ……!」
「おい、無理すんな」
未だにうまく息継ぎができていない春日部がオレの肩を支えにして立ち上がろうとする。しかしすぐに咽て膝から崩れ落ちる。
ヤバイ。もしかしたら気管がいかれたか? それとも肋骨が肺に刺さったのか?
苦しそうな春日部を見てそんなことが頭の中を支配する。
「剣士……離し、て。邪魔、だから」
そんな状態でもまだ春日部の闘志は消えておらず、弱々しい力でオレを突き放そうとする。が、もちろんその位の力で突き放されるオレではない。
「ったく、何意地になってんだ――よっ!」
「っ!?」
オレは強引に春日部をお姫様抱っこをして向かいの壁に向かって走り出す。
「け、剣士降ろして。私はまだ戦えるから!」
春日部がオレの腕の中で暴れだす。いい感じの裏拳が何発かオレの胸を強打するが堪えて走る。まぁ、ここまで元気になったからそんなに心配する必要はなさそうだな。
「GEEYAAaaa!!」
後ろからガルドが追いかけてくるのが振り向かずとも音でわかる。……ホント、こんな怪物にどう話をつければいいんだよ。
「春日部、暫く黙ってろよ。じゃないと舌噛むぞ」
「え? は?」
疑問顔でこっちを見る春日部を無視してもうほぼ目の前に迫っている壁に"創造者"を使い壁の中に縦横三本ずつ巨大な紙を横にした状態で作り出し壁に亀裂を作る。
「GEEEYAAAAaaaa!!」
「っ! 剣士、後ろ!」
春日部が叫ぶ。それを合図にオレは体の向きを百八十度回転させる。
「溢れる」
眼前に迫るガルド。それから離れるように後ろに全力で跳ぶ。
「パッション!」
背中が壁に激突する。が少しの衝撃が体にくるがそれはすぐに浮遊感へと変わる。
何故か、それはさっき亀裂を入れておいた場所に突っ込んだからだ。
だが、オレは此処で大切なことを忘れていた。
「ふぐっ!!??」
着地したオレの両足にかなりの負荷が襲う。
オレが忘れていたこと、それは此処が二階だということだ。
「け、剣士。大丈夫?」
オレの腕の中で春日部が心配してくるが、その目は明らかに哀れなものを見るそれだ。本人は心配しているつもりなんだろうけど表情が(というより目だが)噛み合ってないぞ。
「ちょ、ちょっとどうしたの!?」
「御二人とも無事ですか!?」
「久遠……ジン君……」
何故ここに? とは聞かない。というよりいきなり屋敷の壁がぶっ壊れれば何事かと思うわな。普通。
久遠が屋敷の壁を気にしているうちに気付かれたら何言われるのかわからないので春日部を降ろす。本人は複雑そうな顔をしていたが気にしない。
「この壁……ガルドがやったの?」
久遠は凄く真剣な顔をしてオレ達に問いかける。それにオレは首を横に振って否定する。それを見た久遠は「そう……」と言って残念そうな顔をする。
……恐らく久遠はガルドが強くなっていることを望んでいるのだろう。このゲーム中久遠を見るたびに思う、純粋さは時に残酷だということを……。
春日部もそうなのかはわからないがしきりに一人で戦いたがっていたところを見ると協力プレイが嫌いというわけではなく、強敵を自分で倒したいという気持ちがあったのだろう。
だがその結果がこれだ。春日部は一瞬だったがガルドに殺されかけた。春日部より弱い久遠はなお危険だ。それにもしこの二人がガルドに勝つ方法を持っているとしてもそれはガルドを殺すことになる。
…………オレはどうすればいいんだ。
二人はこのゲームをクリアしたがっている。しかしそれは二人を危険にさらすことになるし、ガルドが死ぬことにもなる。
なら最初考えたように話し合うか? いや、あの理性を失った怪物と会話が成り立つとは到底思えない。
まさに八方塞だな……。どっちかしか助けることができない。両方という選択肢が存在しない。
「ふぅ……」
誰かを殺すということはたとえそれが正義という名の下にあったとしても罪悪感が生まれるものだ。だから日本では死刑する際にその負担を軽減させるために三人で殺す。
しかしこの二人はそんなこと気にせず一人でもガルドを倒すだろう。そうなれば罪悪感をいつ感じるかはわからないが、気付いた時には一人で背負うことになる。そんなのコイツ等に背負わせるわけにはいかない。
なら――――オレがガルドを殺す。
「三人ともちょっとそこに集まってくれない?」
「……どうしてかしら?」
久遠が半眼で睨む。怖くないと言えば嘘になるが、それでもいつものヘラヘラとした笑いを崩さないようにする。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だって」
「貴方じゃなかったら警戒なんてしないわよ」
信用度ゼロということですか。
「飛鳥、とりあえず集まってみよう。もしかしたら何か理由があるかもしれないし」
「……はぁ。わかったわよ」
春日部の説得に渋々といった様子で三人が一か所に固まる。
「それで、これにどんな意味があるんですか?」
ジン君の問い掛けにオレはさらにへらっと笑い、右手をかざす。
「ごめんな」
「え? けん――」
春日部の言葉は三人を囲むように出現した壁によって阻まれた。
「ちょ、剣士君!?」
久遠が壁の中で叫ぶ。いきなりのことで驚くだろうけど今は我慢してくれ。
「それじゃ、ゲーム終了まで待っててね」
「な!? 剣士君どういうつもりよ」
久遠の姿は見えない。だけどきっと凄く怖い顔をしてオレを睨みながら壁を叩いているだろう。
「剣士、指定武具はこっちにあるんだよ。どうやって勝つつもり?」
春日部の冷静な――だけれども少し怒気を帯びた――声が聞こえる。
確かにこのゲームのクリア条件は指定武具での打倒で、その武器は今春日部の手の内にある。本当ならばクリアするなど不可能だ。だけど――
「そんなの作ってみせるよ」
そう言ってオレは春日部達に背を向けて屋敷へと歩く。その時後ろから何か言われていたが上手く聞き取れなかった。
□■□■□
二階へと続く階段の一番上、そこにはオレが作った壁がまだ破壊されずに残っていた。
この屋敷の外壁の一部をそのまま使ったようなものなので、この壁だけ周囲の雰囲気から少し浮いている。
「この壁の向こうにはガルドがいるんだよな……」
一応覚悟はして来たつもりだったつもりだったけど、やっぱりまだ躊躇いが残るな。
相手がいくら外道だとしても生きている命を殺めるという行為は躊躇してしまう。『あの日』の光景がフラッシュバックするからってのもあるけど、純粋に殺したくないからだ。
それに相手は少なからず言葉を交わした奴だ。今は人型ではなくなってしまったとしても言葉を交わしたという事実がオレのなかで枷になっている。
「でも何とかしないとあの三人が危ないからな……」
ジン君はともかく春日部と久遠の二人は確実に戦うだろう。もしそうなれば二人に大きな危険が迫ることになる。それだけは絶対に避けなければならない。
「…………よし。行くか」
まだ心に躊躇いが残るがそれを抑え込んで覚悟を決める。
オレは、ガルドを倒す。
壁を過ぎて部屋をのぞいてみるとガルドは部屋の中をうろうろと動き回っていた。
まずは話しかけて会話ができるか確認してみるか。
「よぉ、ガルド。元気だったか?」
「GEEEYAAAAaaaaa!!」
「そうかそうか、元気だったか。元気なのはいいことだ」
「GEEYAAAaaa!」
「ハハハ」
会話が成り立たない。というよりも使ってる言語が違う。
交渉作戦失敗。これが失敗となるともう倒すしか選択肢がないんだけどな……。
動かないオレをガルドが警戒するように、そしていつでも飛びかかれるように姿勢を低くしている。
「なぁ、ガルド。お前はこのルールに逃げを作ったのか?」
語りかけるが反応は帰ってこない。
「負けたら箱庭の法に裁かれる。それが怖くてオレ達に殺されることでそれから逃げたのか?」
「GEEYAAAAaaaa!!」
痺れを切らしたのか体全身を使ってオレに跳びかかってくる。
…………それが答えなのか?
ガルドがオレの所に着くまですごく時間があったような気がする。実際は数瞬なのだがその間はオレにとっては凄く長く感じられた。
「……さようなら。そしてごめんな」
ガルドの体から数十本の白銀の十字剣が生える。
「GEE……YAAaa……」
ガルドの攻撃がオレに届くことはなく、その巨体は目の前で崩れ落ちた。
まず謝らせていただきたい。
更新遅れてすんませんでした!!
言い訳をさせていただくと、ここ最近テストだのなんだので学校行事が続き書く時間が作れなかったのです。それに加えて一度書きかけのデータを紛失してしまい一から書き直す破目に……。
えー、今回はどうでしたか? 最近シリアスが続いてギャグパートが書けず若干フラストレーションがたまっている今日この頃です。
次回はvsガルドとvsペルセウスの間の繋ぎの話です。展開が遅くて飽きてしまう方もいらっしゃるかと思いますが今後ともこの自由人をよろしくお願いします。