問題児たちが異世界から来るそうですよ?―笑う自由人― 作:カゲショウ
剣士「さて、今回のゲストはヤっさんの店の守り神、気に入らない奴はその鋭い目で睨んで追い返す! もっと人に思いやりを、店長ことテンちゃんです!」
店長「ただ今ご紹介に預かりました"サウザンドアイズ"支店の店長です」
剣士「テンちゃん……」
店長「何ですか? 最底辺の分際で話しかけないでください」
剣士「ありがとう!」ガシッ
店長「いきなり手を握ってきたりお礼を言ったりなんですか貴方は。放してください、ロリコンがうつります」
剣士「オレに紹介される前に喋らなくて本当にありがとう! オレは今日と言う日を一生忘れない!」
店長「話を聞いてください。と言うか手を放してください」
剣士「この手は一生放さない(キリッ)」
店長「そんな事言われるとただでさえ触れていたくないのに、さらに触れたくなくなりますね」
剣士「ノリ悪いなぁ、テンちゃん」
店長「普通はこのノリについていけません」
剣士「そうか、テンちゃん『には』むりかぁ……『他の人達』にはできたのになぁ……」
店長「……何が言いたいんですか」
剣士「いや、別にぃ。ただぁ、皆できてたのにテンちゃんはできないんだなぁってぇ、思っただけでぇ、特にぃ、意味はないんだけどぉ……」
店長「もしかして貴方は私がはっちゃけることができないと思ってますか?」
剣士「出来ないからやらないんじゃないの?」
店長「できますよ。ただ貴方のような人の前ではやらないだけです」
剣士「はいはい、できない人の常套句。別に隠さなくてもいいんだぜ?」
店長「言ってくれますね。良いでしょう、今から貴方のテンションに合わせてこのコーナーを進めてやりますよ」
剣士「あ、そう? でも無理はしなくても――」
店長「できます」
剣士「……さいで。それじゃ、始めるぞ」
店長「いつでもどうぞ」
剣士「天野剣士のぉおおお、駄弁りコーナーぁあああ!」
店長「い、イエ――イ!///」
剣士「終わります(キリッ)」
※この後めちゃくちゃ罵倒された
「それで、何か言い訳はあるかしら? 剣士君」
「人々の笑顔のために働いて何が悪い」
現在オレは喧嘩の訪問販売から帰ってきた久遠達(逆廻は遠くからニヤニヤ)によって正座+説教をさせられていた。
オレの言い分を聞いた久遠がため息をついて、呆れた目でこちらを見る。
何だよ、オレは間違った事は言ってないだろ?
「そう……。春日部さん、バトンタッチ」
「了解」
久遠と入れ替わりでオレの前に春日部が立つ。
数秒オレと視線を合わせると、ゆっくりと座り視線の高さを合わせる。
「剣士」
そう言ってそっとオレの両頬に手を添えて――
「謹慎破ったお仕置き」
「い゛だい゛だい゛!」
思いっきり頬を引っ張った。この痛さ……全力ですね、春日部さん。千切れそうで凄く痛いです。
「春日部さん、もっと思いっきり引っ張ってもいいわよ」
「分かった」
「ちょ、ま――っ!?」
オレが制止する前にオレの頬を引っ張る手にさらに力が加わる。すると何という事でしょう、頬から痛覚が消えてきたではありませんか。
…………あれ、これってヤバいんじゃね?
「ま、まぁまぁ春日部さん。今回はリリ達からのお願いだったわけだからこれくらいで……」
「……ジンが言うならこれ位で勘弁しとく」
何故か不満そうな顔でオレの頬から手を放す春日部。おいおい、何でそんな顔するんだよ。不満ならこっちの方があるのに。
「あー痛かった……。もうちょっと加減と言うものを覚えてくれませんかね、春日部さんよ」
「ごめん、それ無理」
驚くことなかれ、この間わずか一秒未満である。
「ヤハハ。にしても随分と大規模な修理だったようだな」
「修理と言うか別館全体を建て替えたからな、めっちゃ疲れた。一生分の仕事をしたぜ」
「お前のギフト使えばあの廃墟区元道理になるんじゃねぇの?」
『………………あ』
逆廻の言葉にオレを除く全員がぽかんとした表情になる。いや、確かにできなくはないんだけど、やりたくないというのが本音だ。
だって別館丸々建て替えるのだって、まず骨組みを頭の中である程度組み立ててそこから壁や床、屋根とかを付け足して釘が必要な所にどれくらいの長さの釘を何本使うかをイメージする。そのあとに"解析眼"で見たことある使える物質の記憶を掘り起こして何処に使うかを決めて、それを生み出す場所の座標を決定する……体こそ動かさないが頭をかなり使うので面倒くさい。
しかし、逆廻の言うようにオレの"創造者"の力を使えば廃墟区の復元ができるというのはこのコミュニティにとって大きな進歩となる。
断りたいけど断れない、そんな微妙な気持ちでいると意外なところから援護射撃が入った。
「あの、それでは剣士様の負担が大きすぎると思います……」
そう遠慮がちに言うのはリリちゃんだ。
「廃墟区はとても広いですし、別館を建て替えた後の剣士様はとてもお疲れの様子だったので……。一人でやらせるのは少々酷かと思います」
「リリちゃん……」
何だろう、悲しくないのに……久遠にもテンちゃんにも罵倒されてないのに泣きそうだ。
リリちゃんの言葉に逆廻は少々面くらったような表情になるが、その次の瞬間には通常モードのニヤニヤした表情に戻る。
「心配すんな、半分冗談だ」
「じゃあ何処から何処までが本気なんだよ」
「ヤハハ」
「笑ってごまかすなよ。気になって夜眠れなくなっちゃうだろうが」
睡眠不足で肌が荒れたらどうするんだ。今まで気にしたこともないけど。
オレと逆廻がそんなやり取りをしていると、久遠が腰に手を当ててため息を吐いた。
「はぁ……。とりあえず、謹慎を破った剣士君には罰則を与えます」
「せんせーい。罰ならさっき春日部さんから受けましたー」
「黙りなさい」
相変わらずの暴君っぷりですね。最近では久遠ってお嬢様じゃなくて独裁者だったんじゃないかって思うよ、割と本気で。
「今回謹慎を破った剣士君には泣き叫ぶほどの罰を……」
血も涙もない鬼というのは久遠の事だったのか。
「……と、思っていたのだけれど。事情が事情なので軽い罰にしておくわ」
「鬼とか思ってすみませんでした」
「そう。それじゃあ暫く私たちの奴隷としてしっかり働いてもらうわね」
「返せ! オレの謝罪の言葉と良心を返せ!」
「じゃ、一日交代な。順番はどうする?」
「じゃんけんで決める?」
「逆廻、春日部。人権って知ってるか?」
「「「ジャンケン、ポン」」」
「話をきっけぇええええええ!!」
オレの叫び声が屋敷中にむなしく響いた。
□■□■□
「えー、それでは! 新たな同士を迎えた"ノーネーム"の歓迎会を始めます!」
黒ウサギの音頭の後に子供達の歓声がワッと上がる。しかし、オレは力なく「イェーイ……」と言うのが精一杯で一人だけ疲れ切っていた。
あの日から三日、オレは逆廻、久遠の世話をしていた。それはもう地獄のような毎日で、初日の逆廻の時は屋敷の地下にある書庫に籠って文献を読み漁る逆廻の所に食事を持っていったり、頼まれた本を数十冊単位で運搬したり、座り心地の良い椅子を出せなどの命令を忠実にこなした。
二日目の久遠の時は久遠の要望で朝起き時から夜寝るまで従者をやれと言われた。奴隷じゃなくて良かったと思っていたのだが、ここでも久遠の暴君ぶりが発揮されてやれ紅茶を淹れろだのやれ退屈だから面白い話をしろだの結構な無茶ぶりをさせられた。
しかし、幸か不幸か二人からの評判はあまりよくなく「もういいや。飽きた」と言われて解雇処分となった。その時オレは喜ぶべきか凄く悩んだ。
……え? 一人足りないだって? いやいや、そんなことないですって。だって今日は三日目ですよ? だからつまり――
「剣士」
「……何でしょう、春日部様」
今日は一日春日部の奴隷なので何の間違いもないです。はい。
疲れ切った体に鞭打って春日部のもとへと歩み寄る。
「歓迎会は楽しい?」
「唐突だな……。でもまぁ、春日部のおかげで今日一日歓迎会のようなものだったからな。それなりに楽しんでるよ」
「そう。それは良かった」
そう言って手に持っているコップに口をつける。
今は夜で満点の星空の下で皆でわいわい食事をしているが、その前、午前中は春日部の命令で『前に約束したから、皆で遊ぼう』となり"ノーネーム"の子供達と久遠、逆廻。そしてジン君と黒ウサギ、新しく(?)"ノーネーム"のメイドになったレティシアを交えて敷地を大きく使った鬼ごっこなどの遊びを開催したので、実際一日歓迎会の様なものだった。
因みにレティシアの所有権は一:二.五:二.五:四となっており、オレは一だ。別にいらなかったのだが、仲間外れは淋しいので一応権利は持っておこうという考えだ。
今日一日のことを思い出していると近くにいた久遠が疑問顔で尋ねてきた。
「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」
「うん。私も思った」
久遠の言葉に賛同する春日部。しかし、そこまで疑問に思うことがあるだろうか?
確かに屋敷にはこれだけの人数が入れる部屋があるので絶対に外でないとできないという訳でもない。実際どこでやっても同じだと思っている。
「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねぇか?」
逆廻が肩を竦めながら言う。その言葉にオレ達は思わず苦笑してしまう。
何故なら"ノーネーム"の財政問題はかなり深刻で仮に今日歓迎会を開かなくても後数日でお金が底をつきそうだという。
百二十人+αの生活費を考えると一日でもかなりのお金が消費される事になるし、こういったお腹いっぱい食べられるとなるとそれの倍かかると考えられる。それを知っているからこそ苦笑が漏れてしまう。
「無理しなくっていいって言ったのに……馬鹿な子ね」
「そうだね」
春日部と久遠が顔を見合わせてそう言う。……『馬鹿な子』の部分でちらりとこちらを見たのはきっと気のせいだろう。
「それでは本日の大イベントが始まります! みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」
黒ウサギの一言でコミュニティの全員が空を仰ぎ見る。
黒い夜空に煌めく様に輝く無数の星が幻想的な光景を作っている。それはまるで苦しい状況ながらも一人一人が懸命に生きている"ノーネーム"そのものに思えた。
「……あっ」
誰かがそう小さく声を漏らした。
そしてそれを皮切りに無数の星が光の尾を引いて流れていく。それが流星群だという事に理解するのにそんなに時間はかからなかった。
嬉々としてはしゃぐ子供達に聞かせるような穏やかな口調で黒ウサギが語りだす。
「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群のきっかけを作ったのです」
「え?」
黒ウサギの言葉に俺達は驚きの声を上げてしまった。しかし、黒ウサギは気にせずに同じ口調で言葉を続ける。
…………そこからの話は難しかったので割愛させてもらおう。難しい話は苦手なんだ。
「剣士」
「ん? どうした」
クイクイとブレザーの袖を引っ張って春日部がオレを呼ぶ。どうしたのかと思って春日部を見ると、無言である一点を指差していた。
その方向に視線を移すと逆廻と黒ウサギが良い雰囲気で星が流れる夜空を見上げていた。
「二人とも、良い雰囲気」
「そうみたいだな。……からかってやろうか?」
「私もそう思うけど、人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるからやめといた方がいいよ」
「だな。正直疲れたし今日はそっとしておいてやるか」
そう言ってオレはその場に腰を下ろした。春日部もそのすぐ隣に膝を抱えて座る。
「……綺麗だな」
「……うん」
星空を見上げながらそう呟く。
オレの元いた世界では町の光などのせいで中々綺麗な星が見れなかったので、こんな満天星を眺めるのは初めてなのだが悪くないな。
「……なぁ、春日部」
「何?」
「お前は何か目標とかあるか?」
「目標……」
そう言って暫く考えるそぶりを見せた後に、「一つだけなら……」と呟く。
「私の目標はもっといっぱいこの世界で友達を作ること。動物だけじゃなくて今回は色んな人とも友達になる、それが私の目標」
春日部の強い意志の籠った言葉に一瞬呆気にとられるが、春日部らしいと思い微笑む。……訂正、ヘラッとした笑いを零す。
「……そうか。頑張れよ」
「剣士は? 何か目標あるの?」
「オレ? そうだな……」
春日部に言われて考える。オレがこの世界に来たのは『人間』になるためなのだが、それはこの箱庭に来て……"ノーネーム"という場所に来て達成されたようなものなので別の目標を立てることにする。
頭の中でこの世界に来てからの日々が鮮明に蘇る。久遠に罵倒され、久遠に馬鹿にされ、テンちゃんに罵倒され…………。あれ? オレ罵倒しかされてない?
箱庭に来てからの悲しい事実に少しブルーになるが、そのおかげで目標が定まった。
「皆を笑顔にする事……かな」
「笑顔に……?」
隣りで首を傾げる春日部。オレは地につけていた右手を空にかざして言葉を続ける。
「コミュニティの仲間はもちろん。他にもヤっさんやテンちゃん、オレの知り合いを全員笑顔にすることが今のオレの目標」
「剣士……」
指の間から見える流星群はまるで掴もうとしても掴めない、そんな儚さを感じる。
だが、それでも頑張ればいつかは掴める。そんな根拠のない確信と共に星を掴むようにその手を閉じる。
「なんかそのセリフくさい」
「せっかくの感動のシーンが台無しだなおい」
春日部の容赦のない言葉に泣きそうになる。ほんと、箱庭の唯一の癒しはリリちゃんだな。
「でも…………」
そう言って今まで見たことがない穏やかな微笑みをその顔に浮かべてオレを見る。
「すごく、良い目標だと私は思うよ」
「……そうか」
春日部に言われて急に照れくさくなって誤魔化す様に頬をポリポリと掻く。
…………絶対に叶えてみせる。
そう心に決めて再び星空を見上げる。
やっぱり、箱庭の星空は綺麗だった。
一巻完結です。
何か最後らへんは全然剣士が活躍してなかった気が……。
で、でも二巻からは活躍しますよ? 本当ですからね!?
さて、次回は番外編を挟もうと思います。剣士のフリーダムな性格が爆発するかは未定ですが通常運転させようと思ってます。
此処まで読んで下さった皆様ありがとうございます! これからも頑張りますのでどうかよろしくお願いします!