問題児たちが異世界から来るそうですよ?―笑う自由人―   作:カゲショウ

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シホ「シホです!」
ジョン「ジョンです!」
ジン「え!? じ、ジンです」
シホ「剣士様不在の間の新コーナー! 『教えて? ジン=ラッセル!』始まるよっ!」
「「イエ―イ!!」」
シホ「このコーナーの解説を講師のジン君、お願いします!」
ジン「あ、うん。えっと、このコーナーは僕が知ってる知識を話すだけのコーナーです」
ジョン「……今更だけど、これ説明の必要あったかな?」
シホ「こういうのはノリが大切なんだよ。剣士様も"ノリって大事だよね"って言ってたし」
ジン「シホ、剣士さんの事を悪く言う訳じゃないけど、剣士さんの言葉全てを信じないでね?」
シホ「え? なんで?」
ジン「え、えっと、それは……」
ジョン「と、とりあえず始めよう! 残りの尺も少ないし!」
ジン「そ、そうだね! そうしよう!」
シホ「んー、なんかはぐらかされた気がするけど……ま、いっか」
ジン「ふぅ……」
シホ「じゃあ、今日は箱庭で行われている"ギフトゲーム"について解説お願いね♪」
ジョン「……それって今更解説する必要ある?」
シホ「いや、だって黒ウサギのお姉ちゃんがこの世界に来たばかりの剣士様達に色々説明してた時、剣士様寝てたじゃん」
ジョン「いくらここが自由だからってぶっちゃけすぎじゃない!?」
シホ「いいのいいの。責任はきっと「作」で始まって「者」で終わる人がとってくれるって」
ジン「ヒントのような答え!?」
シホ「それじゃあジン君、お願いね」
ジン「う、うん……。えっと、この箱庭で行われてる"ギフトゲーム"はすごく掻い摘んで説明すると神様たちの遊びみたいなものなんだ」
ジョン「あ、それは白夜叉様から聞いたことある。ギフトゲームは良い暇つぶしだって言ってたよ」
ジン「あはは……」
シホ「でもそのギフトゲームは暇つぶしだけじゃないんでしょ?」
ジン「うん。ギフトゲームはこの世界での政治や経済を担ってると言っても過言ではないね。それにギフトゲームは己がコミュニティのブランド――つまり旗と名前を世に知らしめる意味でも重要な意味を持っているんだ」
シホ「もちろん掛け金が発生するんだよね?」
ジン「そうだね。ゲームの内容によるけど金品から自分の命、自分の"恩恵"を掛けることもできる。……まぁ、そうそう自分の"恩恵"を掛ける人なんていないんだけど……」
ジョン「この世界では"恩恵"が生命線だもんね」
ジン「ギフトゲームの中にはとある伝承をなぞったものとか、主催者が関係してくるギフトゲームもあるんだよ。剣士様は行かなかったけど、"ペルセウス"のゲームがそうだったみたいにね」
シホ「その時は飛鳥様から謹慎令出されてたからねー。結局破っちゃったけど」
ジョン「でも結局はコミュニティのために働いてくださったんだから良いじゃん」
ジン「あはは……。他にも最古の魔王のギフトゲームとかがあるんだけど……それは今はいいかな?」
シホ「そうだね。時間もないし、今日はこれ位にしとこう」
ジョン「次回は何を教えてくれるんだ?」
ジン「そうだね……次回は"階層支配者〈フロアマスター〉"の話でもしようか」
シホ「時系列的にもぴったりだし、それでっけってーいっ!」
ジョン「そろそろ本編が始まるみたいだな」
シホ「次回もお楽しみに―♪」


16話 おや、北側到着のお知らせです

「いくらなんでも遠すぎるでしょう!?」

飛鳥が"六本傷"のの旗印を掲げるカフェテラスで、テーブルを叩いてジンに抗議の声を上げる。

しかし先程まで飛鳥の剣幕に押されていたはずのジンも負けじと飛鳥に叫び返す。

「ええ、遠いですよ!! 箱庭の都市は、中心を見上げた時の遠近感を狂わせるように出来ているため、肉眼で見た縮尺との差異が非常に大きいんです。あの中心を貫く"世界軸"までの実質的な距離は、目に見えている距離よりもはるかに遠いんですよ!!」

だから止めましょうってあれほど言ったんじゃないですかーッ!! とジンが叫ぶ。

耀と十六夜の二人は黙って二人のやり取りを見ていた。

そもそも何故二人がこのように叫びあっていたかというと、ジンを拉致してリリに手紙を渡した三人は"六本傷"のカフェテラスを陣取ってどうやって北側まで行くかを話し始めた。

しかし和気藹々と話してる三人に水を差すようにジンが北側までの距離の事を話したところ現在の状況に至ったという訳だ。

いつもはだからどうしたと一蹴するような三人だが、今回はそうもいかずに考え込んでいる。

「…………そうか。箱庭に呼び出された時、箱庭の向こうの地平線が見えたのは、縮尺そのものを誤認させるようなトリックがあったわけか」

十六夜が納得したように一人で頷く。

彼らが箱庭の縮尺を間違え、北側に歩いて行こうとした理由は、この箱庭に呼び出された時に箱庭のトリックに騙されていたからに他ならない。

巨大な外壁を持つ箱庭は、三人の想像以上に巨大なのだ。

そのことに飛鳥は具合が悪そうに黙り込むが、足を組みなおしてジンに再提案する。

「そう。なら仕方がないわ。"ペルセウス"のコミュニティに向かった時の様に、外門と外門を繋いでもらいましょう」

「………………それはもしかして"境界門"を起動してもらうという事ですか?」

ジンが苦々しい顔をしながら飛鳥に問い返す。

――"境界門〈アストラルゲート〉"とは、莫大な土地を有する箱庭を行き来する為に設けられた外門と外門を繋ぐシステムの事である。

地域の権力者が外門の造形をコーディネートする利権を欲しがるのは、行商や興行、ギフトゲームの開催や出場など、移動の拠点として多く使われるからだ。

コミュニティとしては、名前を広く宣伝することのできるアピール方法としてはこれ以上のものは無いだろう。

しかしジンはこれにも難色を示した。

「"境界門"の起動にはお金がかかります! "サウザンドアイズ"発行の金貨で一人一枚! 四人で四枚! これはコミュニティのほぼ全財産と同額です!」

きっとこの場に黒ウサギがいたら「皆様は子供達を餓死させるつもりなのですかーッ!!」と髪を緋色に染めて怒るだろう。

それは飛鳥達も分かり切っている事だし、なによりそんな事をすれば剣士が何をしでかすか分かったものではないので苦々しい顔で再度黙り込む。

「九八〇〇〇〇㎞か。流石にちょっと遠いな」

軽薄な笑みを浮かべる十六夜だが、流石の十六夜でも打つ手がない様子だ。

無駄な散財は避けたいし、如何に桁外れのギフトを持つ彼らでも地球二五個分も歩く訳にはいかない。ジンは怒鳴り散らして息が切れたのか、大きくため息を一つ吐く。そして先程よりやや落ち着いた口調で三人を諭す。

「今なら笑い話ですみますから……皆さんも、もう戻りませんか?」

「断固拒否」

「右に同じ」

「以下同文」

ガクリ、と肩を落とすジン。黒ウサギにあんな挑発的な手紙を残して来た手前、彼らも引くに引けないのだ。

「それにもしかしたら剣士はこの手紙の事を知ってて先に行ったのかもしれない。もしそうなら許されざる事」

耀が言うと飛鳥は頷いて同意を示し、十六夜はニヤニヤと笑って耀を見た。

「春日部は本当に天野の事が好きみたいだな」

十六夜の一言で周りの空気が一瞬にして凍りついた。

呆然とする耀。何故か顔を輝かせて耀の様子を窺う飛鳥。そして何故かびくびくと怯えているジン。きっと今の状況を離れた場所から見るととても奇妙に見えるだろう。

「……なんで、そう思うの?」

沈黙を破って耀が十六夜に問いかける。

「何でって……何かあるたびに剣士剣士言われてたらそう思うだろ」

彼らが出会ってまだそんなに月日は経っていない。しかし耀はよく剣士と行動を共にしている。十六夜はそのことを指しているのだろう。

耀は否定も肯定もせず、ただ純粋な疑問として十六夜の言葉を頭の中で反芻して考え込む。

「…………………………………確かにそうかも」

たっぷり考え込んだ後にぽつりと呟いた。

そしてその言葉のすぐ後に「だけど」と付け加えて、首を傾げつつ言葉を続ける。

「でもこれは恋とかじゃなくて、こう……親愛? みたいな。なんか剣士と居ると懐かしい気持ちになるというか…………上手く説明できない」

うーん、と唸って黙り込んでしまう耀。しかし飛鳥は耀の言葉に同意するように頷く。

「春日部さんの言いたいことは分からないでもないわね。正直な所私も似たような事を剣士君から感じてるわ」

「飛鳥も?」

「ええ。だから何かしっかりしてほしくてちょっと小言を言ってしまうわ」

その言葉にジンは「ちょっとじゃないですよ?」とツッコみたかったが、言えば最後。ジン自身もどうなるかわからないので大人しく引き下がった。

十六夜は二人の話を聞いて思う事があったのか、唇の端を少し釣り上げる。

「俺はお嬢様達の言う懐かしいって感覚は無いが……まぁ昔からつるんでる悪友って感じはあるな」

「確かに昔から一緒にいたみたいな感覚はするわね」

「それだけ馴染みやすかった」

三人がうんうんと頷き合う。

ジンはその光景を見ながら少し安堵する。というのも、三人の剣士に対する日ごろの接し方らもしかしたら嫌われているのではないかと極うっすらと思っていたからである。

しかしそれはジンの取り越し苦労に終わり、実際は三人は思ったよりも剣士の事を信頼している事が分かったのだ。コミュニティのリーダーとしてはコミュニティ内に不和が生まれ無かった事に胸をなでおろずばかりである。

そして今なら北側に行かずに済むのでは? と考えたジンはその顔に微笑みを浮かべながら提案する。

「それじゃあ皆さんそろそろ……」

「そうね。そろそろ……」

「白夜叉の所に行くか!」

「え!?」

三人は勢い良く立ち上がるとジンのローブを引っ掴んで走り出す。ジンは抵抗することもできずに引きずられていく。

「ちょ、み、皆さん!? コミュニティに戻りましょうって! それが無理でもせめて剣士さんを探してあげましょうよ!!」

「馬鹿な事言わないで! 黒ウサギ達にあんな手紙残してきて引けるものですか! それに剣士君が先にあっちで楽しんでるかもしれないでしょう!」

「おう! こうなったら駄目で元々! "サウザンドアイズ"に交渉に行くぞゴラァ!」

「行くぞコラ」

自棄気味にハイテンションに笑う十六夜とキレ気味の飛鳥に続き、その場のノリだけで声を出す耀。

こうして哀れなジン少年は問題児に色んな意味で首を絞められつつ連れまわされるのであった。

 

 

 

□■□■□

 

 

 

「お帰り下さい」

「まだ何も言ってないでしょう?」

"サウザンドアイズ"の支店前、いつもと同じ割烹着に竹ぼうきを装備をした女性店員にいつもと同じ様に門前払いされていた。

この問題児達は女性店員に嫌われている節がある。きっとファーストコンタクトで失敗したのが原因だろう。

しかし飛鳥は髪を?きあげて、口を尖らせて抗議する。

「そこそこ常連客なんだし、もう少し愛想よくしてくれてもいいとおもうのだけれど」

「常連客というのは店にお金を落としていくお客様の事を言うのです。少なくとも貴方達の仲間のお馬鹿さんはお金を落としていきますよ」

「ねこばばは犯罪よ?」

「そういう意味ではありません。ちゃんと買い物をしているという意味です」

絶対零度の眼で飛鳥達を睨む女性店員。しかし問題児達はそんなの気にもしない。

「というか剣士は良くここを利用しているの?」

耀がそういうと店員は苦虫を噛み潰したような表情になる。

「……ええ。私はいつも追い返しているのですが、言葉が通じないのでそのまま入られるのが常ですが」

悔しそうに竹ぼうきを握りしめる。飛鳥はその姿に多少の親近感を感じて思わず頷いてしまった。

しかし女性店員も(あまり知られてはいないが)支店長として、そして誇りある"サウザンドアイズ"の御旗に集う者としてこのまま問題児達に負けるわけにもいかない。

彼女は握りしめていた竹ぼうきの先を十六夜達に向けて言う。

「それでもお金を一銭も落としていかない貴方達よりはましなお客です。そもそも貴方達のような人たちは常連客ではなく取引相手というのです」

「あら、それもそうね。じゃあ御邪魔します」

あっさり納得し、そのまま自然な流れで侵入する。が、飛鳥達の前に女性店員が大の字に立ち塞がる。

竹ぼうきを片手に八重歯をむきながら唸ると、十六夜達に向かって叫ぶ。

「だからうちの店は! "ノーネーム"御断りです! オーナーが居る時ならともかく今は」

「やっふぉおおおおおお! ようやく来おったか小僧どもおおおおおお!」

何処から叫んだのか和装で白髪の少女、白夜叉が空の彼方から降ってきた。

白夜叉は嬉しそうな声を上げて空中でスーパーアクセルを見せつつ荒々しく着地する。

十六夜は土煙を払いながら、呆れたように女性店員に言う。

「ぶっ飛んで現れなきゃ気が済まねえのか、此処のオーナーは」

「………………」

痛烈に頭が痛そうな女性店員は、言い返せずに頭を抱えた。

白夜叉が着地の際に巻き起こした土埃を吸い込んでしまい咳き込む飛鳥の代わりに耀が持っていた招待状を白夜叉に見せる。

「招待、ありがと。だけど、どうやって北側に行こうか悩んでで…………」

「よいよい、全部わかっておる。まずは店の中に入れ。条件次第で路銀は私が支払ってやる。………秘密裏に話しておきたい事もあるしな」

最初の陽気な話し方から一変して最後の言葉だけ真剣な声音が宿る。スッと目を細めた白夜叉からはふざけた様子は窺えない。

それに反応した三人は顔を見合わせて悪戯っぽく笑った。

「それ、楽しい事?」

「さて、どうかの。まあおんしら次第だな」

意味深に話す白夜叉。三人はジンを引きずりつつ、嬉々として暖簾をくぐった。

女性店員は制止を掛けようとしたが、彼らはオーナーである白夜叉が通した客人であるので悔しそうに歯を食いしばりながら五人の背中を見送って……ある事に気が付く。

「…………今日は一人足りませんね」

 

 

「そういえば今日はあの小僧の姿が見当たらんが別行動か?」

中庭を通って白夜叉の座敷に招かれ、さあ話を始めるぞとした所で白夜叉が剣士の不在に気が付き十六夜達に問う。

「? 先に来て北側に連れて行ったんじゃないの?」

「いや来てないぞ。というか最近小僧とあっとらんのでな、正直退屈しておった」

剣士がコミュニティ内に居ない事を知っていた耀たちは問い返すが、白夜叉が知っているはずもなくお互いに首を傾げる。

(((((………………何処に行ったんだ、アイツ)))))

五人の心の声が重なる。そして頭の中にいつものヘラヘラ顔のまま平気で迷子になっている剣士の様子が思い浮かんだ。

白夜叉は咳払いを一つして頭の中の剣士を追い払い、真剣な顔をする。

「本題に入る前にまず、一つ問いたい。"フォレス・ガロ"の一件以降、おんしらが魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂があるそうだが…………真か?」

「ああ、その話? それなら本当よ」

飛鳥が首肯すると、白夜叉は小さく頷き視線をジンへと移す。

「ジンよ。それはコミュニティのトップとしての方針か?」

「はい。名と旗印を奪われたコミュニティの存在を手早く広めるには、これが一番いい方法だと思いました」

いつか十六夜に言われた事を白夜叉に伝えるジン。最初こそ反対したのだが、十六夜の言う通り名も旗印もないコミュニティはリーダーの名前を大々的に売り込むしかない。それに"打倒魔王"を掲げることによってこの箱庭の世界で特色のあるコミュニティとなり自分達の存在を広く宣伝することができる。

「リスクは承知の上なのだな? そのような噂は、同時に魔王を引きつける事にもなるぞ」

鋭い視線で白夜叉がジンを射抜く。ジンは若干たじろぐがそれでも佇まいを正し、どこか堂々とした様子で返答する。

「覚悟の上です。それに仇の魔王からシンボルを取り戻そうにも、今の組織力では上層に行けません。決闘に出向く事が出来ないなら、誘き出して迎え撃つしかありません」

対等な条件で勝負しようとするとそれまでに何年もかかってしまう。ならば、分が悪くても此方から一手投じる時も必要になる。

たとえ周りから無茶だと言われてもただ仲間を……問題児四人衆を信じて戦うだけだ。

「……無関係な魔王と敵対するやもしれん。それでもか?」

腕を組んでジンを試すかのように威圧感を放ちながら更に切り込む白夜叉。

その問いに、傍で控えていた十六夜が不敵な笑みで答える。

「それこそ望むところだ。倒した魔王を隷属させ、より強力な魔王に挑む"打倒魔王"を掲げるコミュニティ――どうだ? 修羅神仏が集う箱庭の世界でも、こんなにカッコいいコミュニティは他には無いだろ?」

「…………ふむ」

「それにこの御チビもアンタが思ってるほど子供じゃない。いつまでも過保護になってると、いくら恩人とはいえ嫌われるぜ?」

茶化して笑う十六夜だが、その瞳は相も変わらず笑っていない。この男は一見して何も考えていないようだが、リスクを天秤に掛けて考えられるという程度には、白夜叉は評価していた。

白夜叉は二人の言い分を噛み砕く様に瞳を閉じる。

目の前に居るジンという少年は白夜叉の中ではまだまだ子供だった。十六夜達が来る前はまるで小さな子供が背伸びをしたような理想論ばかり語っていた少年は白夜叉の眼には幼く、自分が守らねばという感情がこみ上げてくるほどだった。

しかしどうだろう、今目の前に居るジンという少年はつい数日前とは比べ物にならない位――まだ無理している気がしないでもないが――成長しているではないか。

(ジンを変えたのはこの小僧達か、はたまたこの生意気な小僧か……。だが、こやつ等が居るのなら心配は無用じゃな)

しばし瞑想した後、呆れた笑みを唇に浮かべた。

「そこまで考えての事ならば良い。これ以上の世話は老婆心というものだろう」

「ま、そういう事だな――で? 本題は何だ?」

「うむ。実はその"打倒魔王"を掲げたコミュニティに、東のフロアマスターから正式に頼みたい事がある。此度の共同祭典についてだ。よろしいかな、ジン殿?」

「は、はい! 謹んで承ります!」

子供を愛でるような物言いではなく、組織の長として言い改める白夜叉。

ジンは少しでも認められた事にパッと表情を明るくして応えた。その変化にやはりまだまだ幼い所があるな、と白夜叉は苦笑を漏らしつつ煙管を咥える。

「さて、何処から話そうかの……」

カン。と煙管で紅塗りの灰吹きを軽く叩き、一息つく白夜叉。視線を中庭に移して遠い目をして考え込んだ後、ふっと思い出したように話し始める。

「ああ、そうだ。北のフロアマスターの一角が世代交代するというのはしっておるか?」

「え?」

「急病で引退だとか。まあ亜龍にしては高齢だったからのう。寄る年波には勝てなかったと見える。此度の大祭は新たなフロアマスターである、火竜の誕生祭でな」

「「龍?」」

キラリと耀と十六夜の瞳が輝く。その反応に白夜叉は苦笑しつつも説明を続ける。

「五桁・五四五四五外門に本拠を構える"サラマンドラ"――――それが北のマスターの一角だ。ところでおんしらフロアマスターについてどれくらい知っておる?」

「私は全く知らないわ」

「私も全く知らない」

「俺はそこそこ知ってる。要するに、下層の秩序と成長を見守る連中だろ?」

十六夜が軽く挙手をして"階層支配者〈フロアマスター〉"についての説明をし、飛鳥と耀は説明を清聴した。

そしてその話が終わると、ジンは十六夜説明に捕捉をする。

「しかし、北側は複数のマスター達が存在しています。精霊に鬼種、それに悪魔と呼ばれる力ある種が混在した土地なので、それだけ治安が良くないですから……」

そういうとジンは悲しげに眼を伏せた。

「けど、そうですか。"サラマンドラ"とは親交があったのですけど……まさか頭首が替わっていたとは知りませんでした。それで、今はどなたが頭首を? やっぱり長女のサラ様か、次男のマンドラ様が」

「いや。頭首は末の娘――おんしと同い年のサンドラが火龍を襲名した」

白夜叉の言葉が頭ですんなり処理できなかったのか、は? と小首を傾げて二度ほど眼を瞬く。

しかし次の瞬間にはジンは驚嘆の声を上げて、驚きのあまり身を乗り出した。

「サ、サンドラが!? え、ちょ、ちょっと待ってください! 彼女はまだ十一歳ですよ!?」

「あら、ジン君だって十一歳で私たちのリーダーじゃない」

「そ、それはそうですけど……! いえ、だけど」

「なんだ? まさか御チビの恋人か?」

「ち、違っ、違います! 失礼な事を言うのは止めてください!」

ヤハハと茶化す十六夜と飛鳥に迫力なく怒鳴り返すジン。

そういえばさっきも似たようなやり取りをしたな、とうっすら思いつつも全く関心の無い耀が続きを促す。

「それで? 私達に何をして欲しいの?」

「そう急かすな。実は今回の誕生祭だが、北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねておる。しかしその幼さの故、東のマスターである私に共同の主催者を依頼してきたのだ」

「アンタも見た目は十分幼いけどな」

「しばくぞ小僧。それに私はあれだ、着痩せする感じのあれだからな」

「ではそういう事にしておきましょう。それでも、それはおかしな話ね。北は他にもマスター達が居るのでしょう? ならそのコミュニティにお願いして共同主催すればいい話じゃない?」

「…………うむ。まあ、そうなのだがの」

急に歯切れが悪くなる白夜叉。

ポリポリと頭を掻いて言い難そうにしていると、十六夜が隣から助け船を出した。

「幼い権力者を良く思わない組織が在る。――――とか、在り来りにそんなところだろ?」

「んー……ま、そんなところだ」

途端に飛鳥の顔が不快そうに歪む。その顔は依然ガルドを目の前にした時と同じそれだ。まさかそんな陳腐な話が絡んでくるとは思わなかったのだろう。その眼には激しい怒りと落胆の色が浮かんだ。

「…………そう。神仏の集う箱庭の長達でも、思考回路は人間並みなのね」

「うう、手厳しい。だが全くもってその通りだ。実は東のフロアマスターである私に共同祭典の話を持ち掛けてきたのも、様々な事情があっての事なのだ」

申し訳なさそうな苦々しい顔で項垂れる白夜叉。

重々しく口を開こうとした白夜叉を、耀がハッと何かに気が付いたような仕草で制す。

「ちょっと待って。その話、まだ長くなる?」

「ん? んん、そうだな。短くともあと一時間程度はかかるかの?」

「それまずいかも。…………黒ウサギ達に追いつかれる」

耀の言葉にハッ、と他の問題児二人とジンも気が付く。一時間も悠長に"サウザンドアイズ"に留まっていれば、黒ウサギ達に見つかることは避けられないだろう。

忘れていたが、今は黒ウサギ達との追いかけっこの最中なのだ。気が付いたジンは咄嗟に立ち上がった。

「し、白夜叉様! どうかこのまま――」

「ジン君、黙りなさい!」

ガチンッ! と勢いよくジンの意思とは無関係に下顎が閉じる。飛鳥の支配するギフトの力が働いたのだろう。

その隙を逃がす十六夜ではなく、すかさず白夜叉を促す。

「白夜叉! 今すぐ北側へ向かってくれ!」

「む、むぅ? 別に構わんが、何か急用か? というか、内容を聞かずに受諾してよいのか?」

「構わねえから早く! 事情は追々話すし何より――その方が面白い! 俺が保証する!」

その言葉を聞いた白夜叉は瞳を丸くし、呵々と哄笑を上げて頷いた。

「そうか、面白いか。いやいや、それは大事だ! 娯楽こそ我々神仏の生きる糧なのだからな。ジンには悪いが、面白いなら仕方ないのぅ?」

「…………!? ………………!??」

悪戯っぽい笑みを浮かべる白夜叉に声にならない悲鳴を上げるジン。しかしこの白夜叉も問題児と同類なのだ。今更何を言おうとも何もかもが遅い。

暴れるジンを嬉々として押さえつける十六夜達。彼らを余所目に、白夜叉は両手を前にだし、パンパンと柏手を打つ。

「――――ふむ。これでよし。これで御望み通り、北側に着いたぞ」

「「「「――――…………は?」」」」




皆さん、遅ればせながらあけましておめでとうございます。
本来この話は年末にでもと思っていたのですが、剣士が出ないだけでここまで書くのが難しくなるとは思いませんでした……。
早く剣士を出したいなと思いつつも、暫くこのままなんだよなぁと嘆いてる毎日です。これからも更新が遅くなると思いますがどうか御付き合い下さい。

息抜きでラブライブ!の二次創作も書き始めたのでよかったらそっちもご覧になってみてください。一応コメディを目指して書いています。

それでは皆さん。今年もどうかよろしくお願いします。
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