問題児たちが異世界から来るそうですよ?―笑う自由人― 作:カゲショウ
では、どうぞお付き合いください。
気が付くとオレは空から落ちていた。
……夢だな。うん、きっと夢だ。そうに違いない。
下の世界が見たこともない形をしているのも、空からすごい勢いで落下しているのも、オレの他に三人も同じように落下しているのも夢で気のせいだ。
三人のうち一人が何故か楽しそうに大声で笑っているようだが、きっとそれも夢だろう。
あーあ、なんだ、結局夢落ちかー。
よし寝よう。夢から覚めよう。はいお休みー。
落下中に寝る体勢を取り、目を閉じる。
眠りに落ちるまで、3、2、1……
ドパーーンッ!
カウント終了と同時に水に落ちた。
つか、痛い……てことは夢じゃない?
とりあえず浮上して辺りを見回すと、知らない場所の湖みたいなところに浮いていた。
「何処だよ、此処……」
あまりの急展開に頭が追いついていない。
しかし、オレはこういう時の打開策を知っていた。
それはとても簡単で、良くしていたことだ。
「お休み……」
とりあえず頭を休める。これに限る!
水の上? ハハッ、そんな些細な問題は睡眠よ……この状況には関係ないのさ!
「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
オレが水に仰向けに寝ていると、少年の声と少女の声が聞こえてきた。
生きてたんだ……まぁ、俺も生きてるけどね!
「…………いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょ?」
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
身勝手のレベルじゃないだろ、それは……。
目を開けて視線を岸の方へ移すと、ロングヘアーの少女とヘッドホンの少年はフン、と互いに鼻を鳴らして服の端を絞っていた。
「此処……どこだろう?」
ショートカットの少女が猫を拭きながら呟いた。
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」
え、あの落下している中で確認できたの? 凄いなーオレそんなの見えなかったし……あ、寝ようとしてたんだっけ?
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前たちのも変な手紙が?」
「そうだけど、まずは"オマエ"って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」
「……春日部耀。以下同文」
黒髪ロングの娘、ショートカットの娘と自己紹介が続く。
というか、ショートカットの娘自己紹介はしょり過ぎじゃない?
「それで、最後に、野蛮で凶悪そうなそこの貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶悪な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよお嬢様」
明らかに久遠にケンカ売ってるよな……。
あ、なんか浮いてたら眠くなってきた……。
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」
心からケラケラと笑う逆廻十六夜。
傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。
我関せず無関心を装う春日部耀。
……自己主張が強いやつばっかだなぁ……じゃ、寝よう。お休み―。
「で、さっきから水に浮いてるあいつは誰なんだよ」
Zzz……
「さぁ? 私は知らないわよ。春日部さんは?」
「知らない」
Zzz……
「……あいつ生きてんのか?」
「…………行ってくる」
バシャバシャという水音が近づいてきた。
起きるのだるいな……寝とこ……。
「……」
あれ?なんか体が引っ張られてる……岸まで連れて行ってくれるのかな?
「で、彼は大丈夫なの?」
「…………寝てる」
「は?」
「へぇ……」
あれ? もしかしてオレの安否確認しに来てくれたの?
…………しょうがない、起きるか。
「ふぁ……っと」
「あ、起きた」
上体を起こして目を開けると、逆廻のニヤニヤした顔と久遠の呆れた表情をした顔と春日部無表情な顔が見えた。
……とりあえず運んでもらったお礼をするか。
「えっと……オレを運んできてくれたのは誰なんだ?」
「私……」
春日部が小さく手を上げる。
「そうか。ありがとな春日部」
お礼を言うと、春日部は少し驚いた表情をした。
「……さっきの聞こえてたの?」
「おう。こいつが逆廻でこっちが久遠だろ?」
人差し指で逆廻、久遠と指差す。
すると二人も少し驚いたような顔をしたが、逆廻はさっきと同じ顔、久遠はさらに呆れた顔になった。
「で? 寝坊助さんの名前はなんていうのかしら?」
久遠に話題を振られた。ならば答えるしかないな!
オレはいつものように顔にへらへらした笑いを浮かべた。
「天野剣士だ。基本自由に過ごしてるので、オレの行動にツッコミいれてると疲れるのでよろしくー」
「ハハハ! 面白れぇなお前」
「いやいや、逆廻程じゃないよ」
ハハハと笑いあうオレと逆廻。いいなぁ、こんな人と笑い合うのって……。
「私たちも笑う?」
「遠慮するわ……はぁ……」
隣りで久遠がため息をついている。そんなため息ばかりついてると幸せが逃げるぞ?
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「……この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」
「春日部もな」
「全員だろ」
(全くです)
……何処からか同意の意見が聞こえるな。
そこで、ふと十六夜がため息交じりに呟いた。
「仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」
物陰に隠れていた何かがガサッと音を立てて飛び跳ねた。
「なんだ、あなたも気づいていたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの二人も気づいてたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「人の視線には敏感なんでな」
「…………へぇ? 面白いなお前ら」
軽薄そうに笑う十六夜の目は笑っていない。つか恐えな逆廻。
理不尽な召集を受けた三人は腹いせに殺気の籠もった冷ややかな視線を出てきたウサミミの生えた愉快生物に向ける。
ちなみにオレはそんなことはしていない。何故かって? 眠いから。
「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたらうれしいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「眠いな……」
「あっは、取りつくシマもないですね♪」
バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギ。
しかし、その目は冷静に四人を値踏みしていた。
すると春日部は黙って黒ウサギの隣に立ち、
「えい」
「フギャ!」
黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、力いっぱい引っ張った。あ、あれ生えてるんだ。
「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ? このウサ耳って本物なのか?」
今度は逆廻が右から久遠は左からウサミミを掴む。
「ちょ、ちょっと待―――」
みんなほどほどにねー。
オレは心の中でそう言って黒ウサギがいじられる姿を終始眺めることにした。
「いい天気だなぁ……」
「ちょっと! 助けてくださいよぉおおおおおおおおおお!」
□■□■□
「あ、あり得ない。あり得ないのですよ……まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは……学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス……」
「いいからさっさと進めろ」
うるうると涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。うん、よかったね。
オレたちは黒ウサギの前の岸辺に思い思いに座り込み、話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。
ちなみにオレは春日部の右横に座って半分寝てる。
黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて言った。
「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います!
ようこそ"箱庭の世界"へ! 我々は皆様にギフトを与えられたものたちだが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召還いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです! 皆様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその"恩恵"を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」
「そうなんだ……」
『普通の人間ではない』という部分につい反応してしまった。
でもまだ『人間』か……なんか嬉しいな。
両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手した。
「まず初歩的な質問からしていい? 貴女の言う"我々"とは貴女を含めた誰かなの?」
「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある"コミュニティ"に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
すっぱり断る逆廻。こういうところ凄いな、こいつ……。
「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの"主催者"(ホスト)が提示した商品をゲットできると言うとってもシンプルな構造となっております」
「……"主催者"って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として前者は自由参加が多いですが"主催者"が修羅神仏名だけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。"主催者"次第ですが、新たな"恩恵"(ギフト)を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て"主催者"のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者はかなり俗物ね」
久遠がすっぱりと切り捨てる。
ま、確かにその通りだから何も言わないけど。
「俺からの質問だ。ゲーム自体はどうやって始めればいいんだ?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
久遠が黒ウサギの発言に片眉をピクリと上げる。
「……つまりギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
お? と驚く黒ウサギ。
それにしてもみんなこの話が理解できるなんて凄いな。オレはもう頭がパンクしそうなほどなのに……。
「なぁ、春日部」
「何? 天野?」
「オレ、少し寝るから話が終わったら起こしてくれ」
そう言うと春日部は右手でサムズアップしてきた。これはOKの証なのか?
ならいいや、寝よう……。
主人公が居眠りキャラに見えますが、ただやることがないだけです。はい。
次はもっと頑張ります。