問題児たちが異世界から来るそうですよ?―笑う自由人―   作:カゲショウ

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シホ「シホです!」
ジョン「ジョンです!」
ジン「じ、ジンです」
リリ「リリです!」
シホ「今回は急遽ゲスト一人迎えて!」
ジョン「『教えて? ジン=ラッセル!』はっじまっるよー!!」
シホ「まずはともかく今回来てくれたゲストの紹介だよ!」
リリ「皆さんこんにちは。”ノーネーム”所属で、最近剣士様の付き人みたいな事をさせてもらってるリリです」
ジン「そういえば、最近リリはいっつも剣士さんの傍にいるよね」
リリ「だって剣士様はお世話のし甲斐があるもん」
シホ「リリの母性本能が働いた結果だねー。まぁ分からなくもないけど」
ジョン「何か剣士さんと一緒にいると面白い事あるし、飽きないんだよな」
シホ「そうそう! いっつも何かやらかしてくれるし!」
リリ「そうなの! ちょっと困ったところもあるけど、一緒にいて楽しいの!」
ジン「リリ、悪いことは言わないんだけど、ちゃんと叱る時は叱ってね?」
シホ「そんな事より早くコーナー始めよう!!」
ジン「シホは絶対に剣士さんの悪い影響を受けてきてるね」
ジョン「ジン、諦めようよ。きっとあの頃のシホはもう戻ってこないから……」
リリ「それでジン君。今日はどんな事を教えてくれるの?」
ジン「えっと、前回はどこまで話したっけ?」
シホ「鼠取りの男には色んな解釈があって、時代や場所によって鼠取りの男が何を象徴してるのかが違うって話」
ジョン「で、自然災害とかを擬人化したもの以外もあるよって話」
ジン「…………あぁ、そうだったね」
リリ「? ジン君、急に暗い顔してどうしたの?」
ジン「うん。何でもないよ。大丈夫。授業を始めよっか」
ジョン「それで、その擬人化したもの以外ってどういう事?」
ジン「えっと、鼠取の男が自然災害や事象の象徴って事は話したと思うんだけど、それって結局人を示したものじゃないよね」
シホ「うん。少年十字軍とかは人って捉え方もできるけど」
ジン「まぁそうだね。でもその場合鼠取りの男が主体じゃなくて、あくまで群体が主体だからちょっと違うかも」
リリ「じゃあどういう事なの?」
ジン「えっと、所謂一つの概念というか思念というか……。つまり、その……」
シホ「つまりなんなのさ」
ジン「つまり、ろ…………」
ジョン「ロールケーキ?」
シホ「蝋燭?」
リリ「浪人生?」
ジン「どれも違うよ!? ロリコンの事だよ!!」
ジョン「え? ロリコン?」
シホ「ジンが?」
ジン「僕は年齢的に厳しくない!?」
シホ「冗談だよ、じょーだん」
ジョン「声は割と本気だったけどね」
リリ「あはは……」
ジン「……話し戻すね。正確には鼠取りの男は、ウィリアム・マンチェスターの著書"炎のみに照らされた世界"では精神異常の小児性愛者だったって言われてるんだ」
ジョン「ショウニセイアイシャって何?」
ジン「恋愛対象……と言うより、その、性的な衝動を僕たちのような小さな子供に向けてる人の事だよ」
シホ「それってロリコンじゃないの?」
ジン「ロリコンって言うのはロリータ・コンプレックスの略語で、主に女児が恋愛対象になってる人の事を指すから小児性愛者とはちょっと違うんだ」
リリ「へー」
ジン「それで、マンチェスターによると、事件は1484年の6月20日に起こって、130人の児童を"口に出すのも憚られる目的"の為に誘拐したって断言してるんだ」
シホ「それってえっちな事?」
ジン「多分ね。連れ去られた子供の中には遺体も見つかってない人や、五体をバラバラにして……要は手足とかをバラバラにされた人たちが森の繁みや吊り下げられてるのが見つかってるらしいよ」
リリ「バラバラってそんな……。そんなの、酷いよ……」
ジン「そうだね……。正直この話が事実だったらぞっとするよ」
ジョン「事実だったら?」
ジン「うん。今までの天災だったとかそういう話も事実かは疑わしいんだけど、マンチェスターの話には裏付けられる証拠がなかったんだ。だからこの説はあんまり有力な説とは言えないんだ」
リリ「そ、そうなんだ。なんかちょっとほっとしちゃった」
ジョン「まぁ、この話が事実だったら直せる病気とかいつ起こるか分からない天災とかよりイメージつきやすいから怖いよな」
ジン「今一番有力視されてる説は子供たちが街を作る為に親を捨てて町を出て、男はその運動のリーダーだったって説だから、鼠取りの男が必ずしも畏怖の象徴ってわけじゃないから安心して」
シホ「…………解せないね」
ジョン「シホ?」
リリ「シホちゃん、何が分からないの?」
シホ「ジン君はこの話は証拠がないから怖い話じゃないんだよね?」
ジン「え、まぁ、うん」
シホ「…………じゃあなんで言いよどんでたの?」
ジン「あー……」
ジョン「確かに。ただそれだけの話ならジンが言いよどむわけないもんな」
リリ「ジン君、何か他に理由でもあるの?」
ジン「あー、うん。君たちが気づかなかったなら普通に流したい話題なんだけど……。言わなきゃダメ?」
シホ「だーめっ♪」
ジン「やっぱり? 何となく分かってたけど……」
ジョン「で、結局何で言いよどんでたんだ?」
ジン「いや、だってさ。ロリコンとか小児性愛者とか聞くととある人物が連想されるだろうなぁって思って……」
ジョン「とある」
リリ「人物?」
ジン「心当たりないならいいんだよ。一応風評被害を防ぐためだったし――」
シホ「あ、剣士様のことか」
ジン「そろそろ本編を始めようか。前座で尺取りすぎるのもいけないからね。うん、そうしよう」
ジョン「え、ちょ、ジン!?」
ジン「それでは本編をお楽しみください!!」
リリ「ロリコン……小児性愛者……剣士さん…………ふふっ」
ジン「………………………………ぇ?」


19話 おや、魔王と登場のお知らせです

昨日の十六夜達が起こした騒ぎ、及び魔王襲来の話を聞いてからの翌日、耀が見事決勝進出を果たした大会の決勝戦が行われようとしていた。

その開会宣言の為に黒ウサギは舞台の中央に立ち、息を豊満な胸一杯に吸い込んで観客席に満面の笑みを向ける。

『長らくお待たせいたしました! 火竜誕生祭のメインギフトゲーム"造物主達の決闘"の決勝戦を始めたいと思います! 進行及び審判は"サウザンドアイズ"の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギが務めさせていただきます♪』

満面の笑みを振りまく黒ウサギに会場からワッと歓声が上がる。そして、それ以上の奇声が舞台を揺らした。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお月の兎が本当にきたああああああぁぁぁああああああああああああ!!」

「黒ウサギぃいいいいいいいいいいい! お前に会うために此処まで来たぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「なんか迷ったんだけどここ何処ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「今日こそスカートの中をみてみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおお!!」

割れんばかりの熱い情熱を迸らせる観客たち。実に六割の観客が似たような事を叫んでいる。

流石の黒ウサギも笑顔を見せて手を振りながらも、へにょりとウサ耳を垂れさせて怯んだ。

十六夜達とは少し違った危険。形容し難い身の危険を黒ウサギは感じたのだろう。実に気の毒である。

「…………………………………………。随分と人気者なのね」

観客の六割が熱狂的な歓声を上げる中、あくまで冷静な残り四割のグループである飛鳥は生ゴミの山を見るような完全に冷めきった目で観客席を見下ろす。その視線の先には、選手よりもサンドラよりも妙な存在感のある『L・O・V・E 黒ウサギ♥』の文字があった。

(これも日本の外の異文化というものなのかしら…………頭を柔軟にして受け入れないと……)

ふぅと息を吐いて観客席〈げんじつ〉から一度目を逸らす。

しかし、彼らが熱狂するのも飛鳥だって少しは理解している。

事実、黒ウサギは可愛い。その事に関しては文句は言わないし、逆に可愛くないという者がいれば小一時間その可愛さを説いて分からせてやってもいいとさえ思っている。

だがそれでも、あそこの領域にはたどり着かないだろうと飛鳥は思うのであった。

十六夜はその有象無象の観客席の声を聞いて、ハッと重要な事を思い出し神妙な顔つきになる。

「そういや白夜叉。黒ウサギのミニスカートを絶対に見えそうで見えないスカートにしたのはどういう了見だオイ。チラリズムなんて趣味が古すぎるだろ。昨夜語り合ったお前の芸術に対する探究心は、その程度のものなのか?」

「そんな事を語り合っていたの?」

身内にもあの観客席にいる者達と変わらない馬鹿がいたのだが、彼女の馬鹿じゃないの? という言葉はバカ二人二人には届くはずもなかった。

その馬鹿の片割れである白夜叉は、双眼鏡にくらいついていた視線を外して不快そうに十六夜を一瞥する。その表情は十六夜に対する……志を同じくする者に対しての明確な落胆の色が見え隠れしていた。

「フン。恩師も所詮その程度の漢であったか。そんな事ではあそこに群がる有象無象と何ら変わらん。おんしは真に芸術を解する漢だと思っておったがの……」

「……………へぇ? 言ってくれるじゃねえか。つまりお前には、スカートの中身を見えなくすることに芸術的理由があると言うんだな?」

無論、と白夜叉は幼い顔立ちをした頭を縦に振る。まるで決闘を受けるかのような気迫で白夜叉は凄む。

「考えてみよ。おんしら人類の最も大きな動力源はなんだ? エロか? 成程、それもある」

白夜叉はかっと目を見開いて一気にまくしたてる。

「だが時にそれを上回るのが想像力! 未知への期待! 知らぬ事から知る事への渇望!! 小僧よ、貴様程度の漢ならばさぞ足数々の芸術品を見てきたことだろう!! もう一人の小僧が足元にも及ばない程に、だ。そしてその中にも、道と言う名の神秘があったはず!! 例えばそう! モナリザの美女の謎に宿る神秘性ッ!! ミロのヴィーナスの腕に宿る神秘性ッ!! 星々の海の果てに垣間見るその神秘性ッ!! そして乙女のスカートに宿る神秘性ッ!! それらの圧倒的な探究心は、同時に至る事の出来ない苦渋! その苦渋はやがて己の裡においてより昇華されるッ!! 何物にも勝る芸術とは即ち――――己が宇宙にあるッ!!」

ズドオオオオオオオオオオオオン!!

そんな効果音が幻聴で聞こえてきそうな雰囲気で言い切る白夜叉に、十六夜は硬直する。

「なッ……………己が宇宙の中に、だと…………!?」

自分の知らない新境地。未知のフロンティア。人類が初めて月に降り立った時のような、そんな衝撃を十六夜は受けた。

一方で、、スカートの中身を熱く語る白夜叉に十六夜とは別の意味の衝撃を受けるサンドラ一同。その顔には明らかに戸惑いの表情が浮かんでいる。

「し、白夜叉様……? 何か悪いものでも食べたのですか………!?」

「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」

「貴方はその子の視界にそこの馬鹿二人が映らないようにお願いね。何か悪影響があったらウチのロリコンに怒られるわ」

「…………貴様らのコミュニティにはまともな奴がいないのか?」

「少なくとも私以外では一人ぐらいしか知らないわ」

マンドラが不安そうなサンドラの顔をそっと隠し、呆れた顔で十六夜達を見る。その目は先程の飛鳥の目と同じくらい冷え切っていた。

しかしその位でへこたれる二人ではない。冷たい視線など、芸術を追い求める彼女には針ほどの痛みもない。小さな手で固い握り拳を作って、己の説法をこう締めた。

「そうだッ!! 真の芸術は内的宇宙に存在するッ!! 乙女のスカートの中身も同じなのだ!! 見えてしまえば只々下品な下着たちも――――見えなければ芸術だッ!!!」

再びズドオオオオオオオオオオン!! という効果音が聞こえるかのような顔で彼女は言い切った。

其処には本来あるべき乙女的な恥じらいは無く、外聞も介在しない。只々、ロマンの求道者が凹凸の殆ど黙視できない胸を大きく張って十六夜を睨んでいた。

その双眸には一点の曇りもない。右手には好敵手と認めた十六夜に差し出す双眼鏡が握られていた。

「この双眼鏡で、今こそ世界の真実を確かめるがいい。若き勇者よ。私はお前が真のロマンに到達できる者だと信じておるぞ」

「…………ハッ。元魔王様にそこまで煽られて、乗らないわけにはいかねえな…………!」

ガッ! と双眼鏡を受け取り、二人は仲良く黒ウサギのスカートの裾を目で追う。

きっと訪れる。そう信じてやまない、奇跡の一瞬を逃す事の無いように…………。

因みに飛鳥はというと、そんな二人を空気と思い、今から始まる耀の決勝戦に集中することにしたのだった。

十六夜も飛鳥も、そしてサンドラや観客席の人達もこの時は思いもしなかった。たった数十分後にこの決勝戦よりも"盛り上がる"ゲームが開催される事になるなど誰も思わなかったのだ……。

 

 

 

■□■□■

 

 

 

「…………負けてしまったわね、春日部さん」

「ま、そういう事もあるさ。気になるなら後でお嬢様が励ましてやれよ」

ゲームが耀の敗北という結果に終わり、気落ちする飛鳥と反対に軽快に笑う十六夜という対照的な反応が特別席では見られた。

飛鳥を励ます気配のない十六夜に代わって、中央に控えていたサンドラと白夜叉は励ますように声を掛けた。

「シンプルなゲーム盤なのに、とても見応えのあるゲーム。貴方達が恥じる事は何も無い」

「うむ。シンプルなゲームはどうしてもパワーゲームになりがちだが、中々堂に入ったゲームメイクだったぞ。あの娘は単独の戦いよりそちらの才能があるのやもしれんな」

そう、耀はとても奮戦していたのだ。上位コミュニティである"ウィル・オ・ウィスプ"に対して一歩も引かないどころか、敵の挑発をものともせず、逆に相手の冷静さを奪って最低限のやり取りで重要な情報を得てそれを生かす。これは中々できる事ではない。

結局は相手との力の差で負けはしたものの、相手のパートナーさえ抑える事が出来る仲間がいたのならば耀の勝利もありえただろう。

その事を十六夜も理解できているようで、ヤハハと笑いながら椅子に深く座りなおす。

「春日部にパートナーったらあのロリコンぐらいしか思いつかねえな」

「そう? 戦力的に考えても十六夜君が妥当じゃないかしら?」

「ヤハハ。俺の場合パートナーって関係にはならねえだろうな。なんせ俺も春日部も前衛タイプだしな」

「そう言われてみればそうね……」

十六夜と耀が互いに各個撃破に向かい、フォローするというのは少し違うというシーンが容易に頭に思い浮かんだのかあっさりと納得する。

無論、それなら自分がパートナーでもいいのでは? と思ったが、格上の相手には自分のギフトが効かない以上、今回の試合においても自分は足手まといになりかねないと気付き口にするのはやめた。

今のコミュニティの戦力で分けるなら十六夜と飛鳥、耀と剣士が一番ベストだと頭の片隅で理解する。

「確かにあの小僧ならおつむが多少弱いが、あの力はトリッキーさをうりとしているあの娘とは相性がいいだろうな」

「地形を変えられるなら素早い春日部にはうってつけだな」

白夜叉の言葉に軽く肩を竦める十六夜。飛鳥はおもしろくなさそうな顔をしていたが、やはりその通りだと思ってしまうので反論はしないし、難癖もつけない。

と、話がひと段落したのを見計らって、傍らで十六夜達の話を聞いていたサンドラがおずおずと白夜叉に問いかける。

「さっきから話題になってるロリコンさんとは、どんな方なんですか?」

「ほう、気になるか?」

「多少は。このような素晴らしいゲームをした人のパートナーとなりえる人物なのですから」

「確かに今の話だと凄い人のように聞こえるからの……」

ふむ、と少し考え込んだ後ににやりと悪戯好きの少年のような笑みを浮かべて言う。

「サンドラよ、よく聞け」

「は、はい」

「そやつはな………………名前の通りロリコンなのだっ!!」

「え、えぇ!?」

白夜叉の言葉に衝撃を受けるサンドラ。そんなサンドラの反応がお気に召したのか、白夜叉は演技がかった口調で言葉を続ける。

「奴は"ノーネーム"の子供が理由で加入して、ほぼ毎日コミュニティの子供たちを大人を見るのとは違う特別な視線で追い回し、過激なスキンシップをしているのだ」

「しせ……すきん……?」

「そうだ。毎日毎日子供と戯れるのを生きがいにして、夜に幼女を連れて徘徊してた事もあるんだぜ」

「はい……かい…………」

白夜叉の企みに気づいた十六夜が悪乗りして、大げさなリアクションと共に話す。それを聞いているサンドラの頭は処理堕ちして混乱しているのが見て取れた。

「かくいう私も出会いがしらに熱い抱擁をされての……。どうやら見た目が幼ければ誰でもいいようでな……」

「ほ、抱擁!?」

「そういや俺も、この前遂にコミュニティの子供と寝たって聞いたぜ。あれには流石の俺もビビったぜ」

「ね、寝た……!?」

「ええい! それ以上その下衆の話をするのはやめろ!! 耳が穢れる!!」

完全に混乱したサンドラを庇うようにマンドラが怒鳴り声をあげてサンドラを二人から引き離す。しかし二人の顔は不快さも不満気な雰囲気もなく、何処かやりきった職人のような表情をしていた。

マンドラは低俗なものを見る目で十六夜を見る。

「やはり"ノーネーム"には低俗な者しかいないようだな……」

「一応訂正しておくと、さっきの話は二人が誇張してるだけで本人はいたって普通のロリコンよ。それと、残念だけど貴方が思ってるほど低俗な人は居ないわよ」

マンドラの言葉にカチンときた飛鳥が若干の怒気を滲ませる。その口調が気に入らなかったのかマンドラも飛鳥に対して怒気を滲ませる。

今にも口論が起こりそうな雰囲気を察したのか、サンドラが落ち着いてくださいと気取った雰囲気がはがれた口調でなだめる。

「カカカッ。マンドラも冗談が通じない男だのぉ……。っと、どうかしたか? 小僧」

「ん? ああ、いやたいしたことは無いんだが……」

二人の喧騒など気にする素振りもなく、彼の視線は箱庭の天蓋に向けられていた。

そして視線を天蓋に向けたまま怪訝そうな表情で白夜叉に問う。

「…………白夜叉。アレはなんだ?」

「何?」

十六夜に釣られて白夜叉も上空へ目を向ける。観客の中にも十六夜と同じく異変を感じて者がいたのかにわかにざわつき始める。

遥か上空から、黒い雨のようにばら撒かれる真っ黒の封書。黒ウサギはすかさず落ちてきた封書を手に取り、開封して中身を読む。

「黒く輝く"契約書類"………………ま、まさか!?」

深紅の封蝋には笛を吹く道化師の印。その"契約書類"にはこれから始まる戦いの開会宣言が書かれていた。

 

『ギフトゲーム名:"The PIED PIPER of HAMELIN"

・プレイヤー一覧:現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に

         存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター:太陽の運行者・星霊 白夜叉。

・ホストマスター側 勝利条件:全プレイヤーの屈服。

・プレイヤー側 勝利条件:一.ゲームマスターを打倒。

             二.偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 "グリムグリモワール・ハーメルン"印』

 

「魔王が…………魔王が現れたぞオオオオォォォ――――!!!」

誰かが叫んだ。

 

 

 

□■□■□

 

 

 

――境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、貴賓室。

豪奢な飾り付けが施された貴賓室を、重苦しく殺伐とした雰囲気が支配している。

本来招くはずだった来客がゲームの外にいる為不在となっており、対等のゲームを定めるための交渉を謁見の間で行う訳にもいかないので、この貴賓室で行われる事となった。

部屋の中央を占拠する大きなテーブルの片側にサンドラ、マンドラ、ジン、十六夜と座っており、その対面には白と黒の斑のワンピースを着た少女と布面積の少ない白装束を着た女が座っていた。

彼女たちが何者なのか、そしてどうしてこのような状況になっているのかというと、説明するのは簡単だ。

斑の少女が今回ゲームを仕掛けてきた魔王で、今はそのゲームに対して異議申し立てをしている最中だという事だ。

(ふぅん? あの露出度激しい女が"ラッテン〈ネズミ〉"で何故かここに来てない軍服ん男が"ウェーザー河"。あとサンドラを倒した巨人が"シュトロム〈嵐〉"だったか? ならこのロリは……いや、後でいいか)

今はそこが重要ではないと判断した十六夜は一度思考を止める。

「それでは、これよりギフトゲーム"The PIED PIPER of HAMELIN"の審議決議、及び交渉を始めます」

厳かな声で黒ウサギが告げる。その瞬間サンドラ側の者達の身体が少しだけ強張った。

「ちょっといいかしら?」

が、斑の少女の静止が入り、出鼻を挫かれて身体に入った力が少しだけ脱力する。

「………………なんでしょうか?」

黒ウサギも同じなのか、少し不機嫌そうな様子で少女に応える。

しかし少女はそんなのお構いなしに薄く微笑んで黒ウサギに告げた。

「ごめんなさい。まだ此方のメンバーが揃ってないの。もう少ししたらその二人が来ると思うから、もう少しだけ待ってもらえるかしら?」

申し訳なさそうな顔で言う少女だが、少しだけこの雰囲気に対してのからかいが見て取れる。

それにマンドラも気づいたのか少女に対して棘を飛ばす。

「ふざけるなよ貴様。いきなりこのようなゲームを仕掛けて来ただけでも無礼であるのに、その上メンバーが揃ってないから待てだと? 随分と厚かましいではないか」

「だからわざわざこうやって下手に出てお願いしてるのよ? それに、そっちが四人ならこっちも四人出席するのが"対等"ってものじゃない?」

「ぐっ……!」

この場はゲームを対等に進めるための場だ。だから少女の言っている事はもっともである。

「…………おい、ちょっといいか斑ロリ」

「なにかしら」

十六夜の中で何かが引っかかり、その引っ掛かりを少女に投げかける。

「お前は後二人この場に来ると言ったな? だが俺の知る限り、お前のコミュニティでまともに話せそうなのはこの場にいないウェーザーぐらいだ。あと一人は巨人のシュトロムって訳じゃなさそうだし……。てめえはいったい誰を待ってるんだ?」

「そうねぇ……端的に言えば迷子よ」

「迷子だと?」

「そう、手のかかる迷子よ…………………。ふふっ、どうやらウェーザーが連れて来たみたいね」

少女がそういうと貴賓室の扉の向こうから微かに話し声が聞こえてくるのに気付いた。

十六夜達五人は少女から視線を外して扉の方に注意を向ける。

『ったく、何でてめぇは先に行かせたのに迷子になってんだよ』

『人波に流されて、な……』

『何で少しカッコよさげに言ってんだよ……』

『え、こういうキャラで通せって事じゃないの?』

『ちっげーよ! なんでお前そんなに面倒くさいんだよ!』

『まぁまぁ落ち着けきなよ上座衛門君』

『だから俺は上座衛門じゃねーって言ってんだろ!』

『あ、あそこの扉じゃない?』

『話聞けっての! というかその一つ手前の扉だ馬鹿野郎』

『馬鹿って言った方が馬鹿だって習わなかったのかよ!』

『人の名前未だに覚えられねぇ奴にはぴったりだろうが』

扉の向こうから聞こえてくる声は、この非常事態に似つかわしくない随分と低レベルな会話だった。

この事に少女の口角がひくっとつり上がったが、自分の優位な立場を崩さないためにも何とか平静を保つ。

この状況で"ノーネーム"の面々は困惑していた。

「この声……凄く聞き覚えのある声なんですが」

「奇遇ですねジン坊ちゃま。ウサギもそんな気がするのです」

「……というか、多分気のせいじゃないぜ」

十六夜の言葉と共に貴賓室の扉が開かれる。

開かられた扉の向こうには軍服の男ともう一人、十六夜と同じくらいの少年が立っていた。

その少年はこの世界には不釣り合いな、所謂制服と呼ばれる白いシャツと紺のブレザーを着ており、しわの寄ったスラックスを穿いている。そしてぼさぼさの寝癖頭に何がおかしいのか分からないがへらへらとした笑みを浮かべていかにも軟派そうな雰囲気をしている。

「……随分遅かったじゃない」

「わり。コイツ探すのに手間取ってた」

軍服の男が少女に謝りラッテンの隣に腰掛け、少年は空いている少女の隣に腰掛ける。

「其処の金髪の奴。あと一人が誰か知りたいって言ったわよね」

十六夜の眼は驚きに見開かれており、ジンと黒ウサギに至ってはあいた口が締まりそうにない様子だ。

「本人が来たから自己紹介させてあげるわ。ほら、早くしなさい」

「え、あ、うん」

どうも気の抜けるような声で返事をして、少しだけ声のトーンを落として黒ウサギたちに告げる。

 

「オレはコミュニティ"グリムグリモワール・ハーメルン"所属のハンバーグだ。以後よろしく」

 

貴賓室の空気が凍りつく。誰もが声を発しない。

少年があれ? と首をひねって疑問符を浮かべるとなりで、少女が頭を押さえて大きくため息を吐いた。

「…………彼は私たちのコミュニティ所属のハンバートよ」

その言葉の後にジンと黒ウサギから少女へ同情の眼差しで慰められたのは十六夜しか気づかなかった……。




どうもお久しぶりです、カゲショウです。

いや~ほんとお久しぶりです。受験も無事第一志望に合格しまして、またこうやって執筆できるようになり本当に嬉しいです(笑)

色々お待たせしてしまったようですが、ここから頑張って一気に火竜誕生祭編を終わらせていきたいと思います!!

さて、今回まで結構飛ばし飛ばしで執筆してきましたが、ようやくペストたちが出ましたね。作者としてはひと山越えた気分でいます。
剣士が出てからはそんなに長くないと思うので、どうかお付き合いください。
そういえば剣士出るって言ったのに出てきませんでしたね。どうしてでしょう(すっとぼけ)

それでは次回もお楽しみください!
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