「はあはあ……」
少年は息も絶え絶えの中、夕闇に彩られた町影を少女を背負いながら足下が覚束ないまま歩き続けた。
だが、それは今の少年にとってはマシな状況であった。
少なくとも、先ほどまで少年がいた炎と破壊、そして、狂気に包まれていた地獄よりは今、少年が歩いている町は当てがないと言うことを除けば断然救いがあったのだ。
何よりも少年が背負っている守りたいと願っている少女を害する存在がないに関しては少年にとっては最も優先度が高い。
「この子だけでも……この子だけでも……」
少年はうわ言のように口を動かす。
それは身体が限界を迎えても心で動かそうと自分に言い聞かせるように。
既に視界がぼやけ、服も体も灰で薄汚れ、脚が悲鳴をあげ、正気を失いつつも少年はただ少女を少しでも安全な所へと運ぼうとする。
少年が歩みを止めずにいた時だった。
「……?!」
少年は長年の経験故に危機を感じて歩みを止めた。
少年が目に入れたもの。
それは自分たちを囲むように立っていた集団であった。
少年はその時、敵意を出して威嚇するよりも絶望を感じていた。
少年を囲む人間たちは黒服にサングラスと言った明らかに一般人ではない装いであった。
長年の間に培った、いや、培わずにいるしかなかった考察力で明らかに自分たちが彼らの標的であると少年は理解してしまったのだ。
そして、何よりも
「あ、ああ、ぁあぁああぁああ……」
少年にとって最大の絶望は彼らの所属しているであろう組織の名前だった。
今、少年は彼らの名札に書かれている組織、いや、正確にはそれに関わる強大な勢力の暴虐から逃れて来たばかりなのだ。
なのに自分の目の前に自分、いや、自分たちを狙いに来た人間たちがよりにもよってその組織の人間なのだ。
少年は遂に心が折れ膝を屈した。
身体を心で今まで支えて来たが、安住の地が存在すると微かなありもしない希望を糧に歩み続けていたことでそれが失われたことでその心すらも熱を失ったのだ。
少年は迫り来る終わりをどこか夢を見ているかのような虚ろな心で迎えようとしたが
「……お兄ちゃん……」
「……!」
少年を現実へと引き戻す華細い声を耳にしたことでギリギリのところで踏み止まった。
少年は慌てて自らが背負っている少女の方へと振り向くが少女は目を覚ましていなかった。
どうやら、無意識のうちに少年の恐怖と絶望を感じ取って少女は少年の身を案じて声を出した様らしい。
少年は少女の声を耳にして少女の優しさを思い出した。
碌なことがなさ過ぎた人生の中で少女とその家族がくれたものは余りにも少年にとっては過ぎたるものであった。
それを思い出し少年は
「頼む……!!」
目の前の人間たちに心からの叫びをぶつけた。
「この子だけは……
「……!?」
少年は涙を流しながら背負っている少女の命乞いをした。
「俺はどうなってもいい……!!
でも、この子は本当に優しい子なんだ……!!
俺なんかと比べちゃいけない程に優しい子なんだ……!!
だから、お願いだ……!!」
少年は少女のことを助けて欲しいと叫び続ける。
涙を流しながら叫ぶ。
屑の自分はどうでもいい。
でも、この優しい少女だけはと乞う。
惨めだと笑え。
愚かだと笑え。
見っともないと笑え。
どんなに見下しても嘲っても踏ん反って大笑いしてもいい。
それでも少年は少女を助かるならばと思った。
それほどに少年にとっては少女は、いや、少女と既に失ってしまった少女の家族は大切なものであった。
「お願いします……お願いだから……」
既に少年は正気ではなかった。
相手が取引材料のない自分の言葉など聞き容れないし、裏切者の自分に慈悲を与えることはないとも理解している。
いや、それを認めたくなくて世界の法則すら壊して少女が助かるのならばと声を出し少年は少女を助けて欲しいと願い続ける。
その時だった。
「安心したまえ」
とある声が聞こえて来た。
少年はその声の主を目に入れようと顔を上げた。
いや、正確にはその声の主の目を見ようとした。
すると
「我々は君にもその少女にも危害を加えるつもりはない」
その声の主は確かに宣誓した。
そして、少年は確かに見届けた。
その言葉が偽りではなく男が約束を違えない相手だと言うことも。
「そうか……ありがとう……」
それを聞き容れて少年は限界を迎えていた身体と心をこれ以上動かす必要がないと理解し意識を失った。
「彼らを保護しろ」
「はい」
少年と約束を交わした青年はすぐに少年と少女に保護する指示を出した。
そして、同時に怒り、いや、憤りを感じた。
アークファイブはもう少し各次元の時系列をはっきりして欲しかった。
本当に二次創作泣かせです。