ぼくたちが食堂にやってくると、真っ先に良い香りが鼻をくすぐり…… それから視界に入る異様な光景が変なギャップを作り上げていた。
「夢野さん…… その水槽はどうしたの…… ?」
東条さんがテーブル上に用意したシチューよりもまず、夢野さんのそばの床に置かれた水槽が気になった。
他にも、それぞれ着席しているそばの床に荷物が積み上げられている。
多分みんなが見つけてきた凶器とやらなのだろう。
凶器…… ? と思うようなものまで含まれているけど、どうなのかな。ぼくはモノクマが部屋に来ていたからすぐに分かったけれど、みんなはどうか分からないし、それっぽいものを見繕って来ているだけかもしれない。
…… 極論、凶器を部屋に秘蔵して違うものを持ってきている人もいるかもしれない。
そんな風にしか思えない自分に首を振り、夢野さんの返答を待つ。
水槽の中には手のひらにも収まらないくらいの銀色の細長い魚が複数泳いでいる。
見たことない魚だけど、あれはいったい…… ?
ぼくの個室に水槽なんてなかったから確実に凶器の類だと思うけど。
「んあー? これはゴン太が運んでくれたのじゃ。あやつが持っているのは本だけだったからのう」
「いや、そういうことじゃないと思うよ…… ?」
白銀さんがツッコミながらぼくの腕を引き、隣同士の席に誘導される。天海くんは向かい側の席に行って、実質男女で向かい合わせになっているような組み合わせになった。
奇数で余る誕生日席には女子が1人余るためか赤松さんが座っている。
最原くんはその近くで、百田くんがその隣。
ぼくたちは研究教室でゆっくりしていたので、結果的に最後に席に着き、東条さんから配膳される。
席順はテラス側に男子、向かって左から最原くん、百田くん、ゴン太くん、天海くん、王馬くん、星くん、真宮寺くん、キーボくん。
廊下側に女子で左の誕生日席が赤松さん。続いて東条さんの席と思われる空いた席が1つ、春川さん、白銀さん、ぼく、夢野さん、茶柱さん、アンジーさん、入間さんだ。
【席順】
最 百 獄 天 王 星 真 キ
赤
東 春 白 香 夢 茶 夜 入
テーブルに置かれているのははシチューに温野菜、それにフランスパンがスライスされ、それぞれの皿に取り分けられている。
温かく、心が安らぐような香りを漂わせている。ぼくはこんなにも心が落ち着く料理を見たことがない。アロマセラピスト形無しだ。
「辛気臭ぇ話し合いは後だ後! 今は東条が用意した夕食に集中しようぜ!」
「言い出したのはあんたなのに」
春川さんは座席の後ろに立てかけた刀らしきものに視線を移し、ため息を吐いた。
ビニール袋に入れられている金色のそれには見覚えがある。
モノクマによるただのネタなのか、文字通り真剣なのか分からないが妙に似合うそれが彼女の凶器だろう。
「また荒れちまう前に腹ごしらえくらいはしといたほうがいいだろ」
真実をクールに言い放った星くんに注目が集まる。
確かに、凶器の話など…… 話し合いの最中に険悪な雰囲気になって、誰かが出て行ってしまうような事態になりかねない。
そうなってしまう前に全員で美味しいご飯を食べたほうがいいだろう。
「ご飯は温かいうちに食べるものよ」
ああ、そっか。そうだよね…… そういうものか。
「そんな話をしていたらご飯が不味くなっちゃいますし!」
「食事の味は話なんかに左右されないはずですが」
「うわっ、キー坊は空気読めないよなー。人間ってのは気分が悪くなると同じ味でも違って感じるくらい複雑なんだよ。自分が東条ちゃんのご飯食べれないからって嫌味なの?」
王馬くんが至極真っ当な正論に余計な一言を加えて返すと、キーボくんは怒ったように声をあげた。
「なっ、ち、違います! いちいち言い方が失礼なんですよキミは! ロボット差別で訴えますよ!」
「そういうのは脱出してから言えよなー」
「ここじゃ訴える場所もないし、裁判もできないよね……」
白銀さんが頬に手を添えて困ったように言うと、最原くんが 「学級裁判はあるけど……」 なんてとんでもないことを言ってしまう。
独り言のつもりだったみたいだけど、周りが静かなためか案外よくその落ち着いた声は響いた。
「最原ちゃん、人が言わなかったこと言わないでくれる?」
「あ、ご、ゴメン」
「弱気になるなって! メシが不味くなるからこれ以上の議論はおあずけだ」
「僕はできれば早く食事がしたいヨ」
「お・な・か・すいたよねー! 供物を早く寄越せって神様も言ってるよー」
「グイングインすんな! 髪がムチみたいにぃ! はうぅっ、おい誰かオレ様と席変われぇ!」
強気なんだか弱気なんだかよく分からない入間さんはアンジーさんのツインテールに翻弄されて顔を赤らめている。
アンジーさんの逆隣の茶柱さんには当たってないのに不思議だ。
誰も席を変わってあげないみたいなので、多分あのままだ。
「えっと、まだ食べちゃだめなんだよね? ゴン太知ってるよ!」
「じゃあ誰かが号令したほうが良いのかな?」
「それじゃあ赤松さんか百田君にお願いするっす」
「おう! じゃあ赤松から行くか!」
「え、私から?」
異議は…… なしだね。
なんだか照れ臭そうに赤松さんは立ち上がると東条さんに座るように促す。
食堂の隅に控えていたのでメイドとしての職務だろうけど、そこは妥協してもらわないといけないな。全員で食べる意味がない。
東条さんも最原くんの向かい側に座り、赤松さんを見る。
「えっと、まず東条さんメニューをお願い」
「本日は具沢山のクリームシチューに個別の温野菜、バゲットよ。お好みで組み合わせて召し上がってちょうだい」
「ありがとう。それじゃあ、いただきます!」
いただきます。
手を合わせてスライスされたバゲットを手に取る。
ほんのりと香るバジルが良いアクセントだ。カリカリに焼けていて、シチューと一緒にいただくとすごく美味しい。
入間さんなんかはパンを直接シチューにつけて食べたりしているけれど、なにも言うまい。食べ方は自由だ。
キーボくんはその間、退屈そうに辺りを見回しているだけだった。
なんだか申し訳なくなってくるけど、これは仕方ないと思う。
だって彼、充電くらいは自室でしてきてるだろうし。
温野菜はまだ温かく、シチューと合わせても体がポカポカとしてくるくらい美味しい。さすが超高校級のメイドだなあ。
「ごちそうさまでした」
特にトラブルもなく食べ終わり、食器を片付けて席に着き直す。
ここからが本題だ。気になっていたものとか質問もできるだろうし……
「おしっ、腹ごしらえも終わったことだし議題に移るか!」
百田くんが言ったことで、みんなが真剣な表情になる。
「それじゃあ言い出しっぺっつーことでオレからいくぜ。そのまま時計回りに見せて行って最原で最後だ」
異議はなし。
むしろこれで異議があったらびっくりするぞ。
「つってもな、オレも確信はできねー。見慣れないモンがこれしかなかったから持ってきたぜ」
百田くんがテーブルの上に乗せたのはプラスチックの小分けできる容器。中身は…… カプセル薬のようだ。
「これはまた、ベタだネ」
「毒薬ですか? それはまた姑息な…… 男死ならもっと正々堂々来るものじゃないんですか? それなら転子が投げ返してやります!」
「犯人が反撃されたら普通だめなんじゃないかな…… ?」
「それで現場や被害者に証拠が残るのが王道パターンっすね」
爪の中に引っ掻いた際の皮膚が残っていてDNA鑑定して…… ってやつだね。ダンガンロンパには科学捜査がないから、分かりやすい証拠が全てになるけれど……
「だああ、話を勝手に進めんな! これは毒薬じゃねえよ!」
「…… 違うのか?」
星くんが言うと、百田くんはすぐに頷いてカプセルを手に取った。
そして通常のカプセル薬のように左右にバラしてみせる。
「んあ? 中身が入っておらんのか?」
「外見だけかよ! まるでテメーらの頭ん中みたいだな!」
「そうだねー、中身空っぽなところなんか入間ちゃんにそっくりだよ」
「はぐうっ!? そ、そんな酷いぃ…… 脳みそ空っぽキモチィーッ! なんて思ってねーよぉ!」
「王馬君はそこまで言ってないと思うよ…… ?」
「立派な自白じゃな、哀れな」
「顔が哀れなテメーに言われたかねーよ!」
「んあ!? んあー! んあー、んあー!!!」
「ああっ! 夢野さんがショックで!?」
「神様に頼れば全部解決するって言ってるよー? いつもの1割引きでー」
「神様って、お金取るんだね……」
しばらく鳴き声しか発しなくなった夢野さんを茶柱さんとアンジーさんがなだめ、その場が終息する。
凶器1つ目からとんだトラブルだ。
「つまり…… 百田君の凶器は組み合わせが必須ということだネ」
「そういうことになるだろーな」
真宮寺くんがまとめてくれたので助かった。あのまま雑談に発展するかと思ったよ…… いつ終わるのかと不安になるじゃないか。
「次はゴン太だな」
星くんの言葉に促されてゴン太くんがテーブルの上に本を乗せる。
「ゴン太のは多分これだと思う……」
ええと題名は……
『紳士になりたいキミへ〜死への正しいエスコート編〜』
これはひどい。
「まだ読んでないんだけど、これだよね? きっと」
「大丈夫だとは思うけど、ゴン太君は読まないようにしといてね」
「コロシアイのハウツー本っすか?」
「あっ、春川さん読むのは……」
「馬鹿にしてるよ、これ」
春川さんが手に取って読み始めたが、恐れていたような洗脳効果はないらしい。ほとんど話に加わらなかったのに、こんなときだけ声をあげてしまうところに保身が見え隠れしていて自分が嫌になる。
…… 席がすぐ近く、だからね。
試しに遠目に見てみると、わずかだけど文章が読めた。
女性が容姿に悩んでいたら速やかにあの世へエスコートしてあげましょう。あなたが上手にエスコートしてあげれば次の人生では美人になり、勝ち組にのし上がれるかもしれません!
レッツリセマラ! 魂の洗浄! あなたの〝 優しさ 〟で救われる人がきっといます!
ふざけてるとしか言いようがないな、これは。
こんなものに騙されると思ってるなんて、ゴン太くんを馬鹿にしているようなものだ。元々モノクマのことはよく思っていなかったが、より一層軽蔑した。
「トリックみたいなのは載ってないみたいだから、読んでも平気なんじゃない?」
「へー、真っ先にそんなハウツー本読み始めるなんて、保育士なのに肝が据わってるねー春川ちゃん!」
「…… はあ」
鬱陶しそうにため息を吐いた春川さんは、そのまま本を閉じてゴン太くんに返す。
王馬くんのことは無視するようだ。
「まあまあ、次は俺っすね。かなり分かりやすかったっす。ほら」
彼が懐から出したのは、確かに分かりやすい凶器だった。
「…… 拳銃」
ぼくも思わず呟く。
テーブルの上に乗せられたのは映画などでもよく見る形の拳銃だった。
「これはリボルバーっすね。弾も5つ入ってたんで、一回抜いておきました。装弾数は6つなんで、1つ空砲になってたってことっすね。恐らく日本の警察に倣って……ってことだと思うっす」
…… 本当に?
ぼくは頭から疑おうとする自分を頭を振って追いやり、不安を押し殺す。
そう言って1つ手持ちにしてるんじゃないかとか、そんなことを思うのはあまりにも失礼だ。
ともすれば世話を焼いて油断したところを殺されるんじゃないかなんて脳裏に浮かんだ自分を軽蔑する。
せっかく少し仲良くなったのに、そんなことで決別なんてしたら…… 今度こそぼくは潰れる。
追い詰められたときに自分が自分でいられるかどうかなんて、人は断言なんてできないと思う。だから、拠り所を残しておきたい。
「…… 白銀さん?」
「ううん、なんでもないよ」
そっと握られた左手が暖かくなる。
「大丈夫っすよ。なんなら誰かにボディチェックされても構わないっす」
「弾だけあったところでなにもできやしねぇさ。本体の管理をしとけば問題ないんじゃないか?」
「そうね、星君の言う通り管理さえしていれば危険はないわ」
結論が出たところでみんなの視線が王馬くんに移動する。
「オレ? あ、そっか…… えっと…… 多分これだと思うよ」
テーブルに出されたのはスプレー缶とライター。
確かにそれはぼくの個室になかったし、この組み合わせは危険だ。
けどそれよりも……
「なんだか妙に似合っている気がするネ」
「ゾンビ映画で活躍しそうな凶器だね……」
「男死らしくて実に似合いますね」
茶柱さんのは絶対皮肉だ……
「ええ、皆のオレのイメージってどうなってんの?」
「狼少年?」
「近所のクソガキだろ!」
「ダンガンチューブで地味にイタズラ動画あげてそう……」
「えっ、皆結構酷くない?」
散々な言われようだ。
ぼくは赤松さんの狼少年に同意しておく。
その後、スプレー缶はどうやら整髪料のようなのでそのうち使い切ってしまうことに決定した。
「俺はこれだな……」
苦々しげに星くんが出したのはテニスボールくらいの鉄球が1つ。
最原くんや赤松さんなど、何人かがハッとして痛ましそうな顔をしたのでぼくも察してしまう。
彼の犯罪歴とやらに関わりがあるのだろう。あまり触れることなく次の凶器へ進む。
「僕の凶器はこれ…… 東南アジアの部族に伝わる毒の吹き矢〝 ビーサ 〟のレプリカだヨ。まさかこんなところで目にするとは夢にも思わなかったけど……」
さすが真宮寺くん。詳しい。
「毒はこのビンに入った麻痺毒で、吹き矢に塗るハケもついてるヨ。随分と本格的だよネ」
毒か…… ぼくのベラドンナといい、百田くんの空っぽカプセルといい、やっぱりお手軽だからか多いな。
「キーボ君は?」
赤松さんが尋ねると、キーボくんは困った表情を出しながら大きめのビンに入った透明な液体を置いた。
「モノクマから渡されたんですが、普通の水よりちょっと重いだけのただの水って言われてしまったんですよね」
なんだそれは……
ぼくは知らなかったが、キーボくんの言葉で最原くんが 「もしかして……」 と声をあげる。
「それって、重水なんじゃないかな?」
「なんじゃそれは。ただの水ではないのか?」
「うん、元々水に含まれてる重水っていうのがあるんだけど、それだけを集めると普通の水の1.1倍重くなるんだ」
「それだけしか変わらないんですか?」
「うん、でも重水をたくさん飲んでしまうと人体に毒になって、気を失ってしまう。場所によっては……」
高いところで気を失ったりしたら大惨事だね。
「そんなものが普通の水にも入ってるんですか……」
「うん、でも含有量は本当にわずかだし、重水だけ飲んだとしても体重の数10%も飲まないと効果はないよ。ただ、体内水分量の30%を超えてしまうと死に至るはずだ。体内で処理できない物質だから、それだけを飲み続けるといつかは死ぬってことだよ」
普通に水を飲んでるだけでは何千リットルも飲まないといけない。何十年かかるか分からないな…… それに体重も増減するわけだし。
「とりあえず飲まなければいいんですね?」
「キー坊飲めないじゃん」
「ボクのことじゃありません!」
わちゃわちゃし始めた2人は置いといて、次だ。
「ほらよ」
「あ、うんじゃあ次行こうか」
「なんか他に反応ねーのかよぉ!」
胸からレンチを出してきた入間さんに王馬くんが真顔になり、全員がスルーを決定した。
レンチは立派な鈍器だからね、分かりやすすぎてかえってツッコミ所がない。
研究教室のネイルガンといい、本人とは裏腹に凶器は王道を行ってるよな。
「アンジーの凶器はこれだって神様が言ってるよー」
アンジーさんか出したのは既視感を覚える水晶玉っぽいガラス玉だ。
なんなんだよ、ネタ凶器か?
とりあえずこれも鈍器だということで結論が出た。
「申し訳ないんですけど、凶器らしきものはなかったんですよね…… でも見慣れないものはあったので持ってきました」
茶柱さんが出したものにぼくは目を見開いた。
「あ、スズランだね。環境を良くしないと咲いてくれないやつ。地味に難しいんだよね。懐かしいなあ。何度放置してラフレシアが咲いたか覚えてないよ……」
白銀さんの言っていることも分かってしまうが、ともかく彼女がこれを凶器と思っていないのは大問題だ。
「スズランには毒があるよ」
「えっ、そうなんですか!?」
彼女が出してきたのはスズランが活けられた花瓶。花瓶の中には水も入っているみたいだから、確定だ。
さっきの最原くんみたいに、これはぼくが注意喚起しないといけない。
「スズランの毒は全草…… 全ての部位にある。特に花と、根っこ。それに、スズランが活けられた水にも毒が溶け出していて中毒になることもある」
誰も指摘しないまま、この事実を知っている人が活けられた水でお茶なんか淹れてみろ。それを飲んだ人物は確実に死に至る。
逆に言えば、これを指摘しないでいたらぼくにチャンスがあったということになるが…… 指摘することでぼくに人を殺すつもりがないことのアピールも兼ねる。
無駄に疑われたくはないから。
「なるほど、少々もったいないですが捨てるしかありませんね……」
「そうだね、花は綺麗なんだけど…… 誰かが水を入れ替えていてもきっと気づけないから」
茶柱さんはさっと、花瓶の水を流しに捨てに行き、スズランをキッチンにあったらしいゴミ袋に入れて席に戻った。
「で、食事前にも訊いたけど…… 夢野さん。その魚はいったいなに?」
「知らん」
潔い……
「…… どっかで見たことあると思ったんすけど………… それ、カンディルじゃないっすか?」
おっと、天海くんか知っていた。
どこかの国で見たことでもあるのかな。
「カン…… なに?」
「カンディルっすよ赤松さん。ピラニアよりも現地の人に恐れられてる魚っす」
ピラニアよりも? 魚で危ないといったらサメとかピラニアくらいしか分からないから実感が湧かないな。
「ピラニアは映画なんかで見るほど人間には襲いかからないっす。臆病な性格ですし、基本死んだ肉しか食わないんで。でもカンディルは違います。こいつは他の魚のエラなどから侵入して血を吸い、肉を食い荒らしながら暴れまわります。人間相手でも同じことっすよ」
お、思ってたよりも怖かったな……
「穴という穴から侵入、食い荒らしながら進みます。魚自体に返し針みたいなものがあるんで掴んでも引き抜けないらしいっす。取り除くには手術が必須になりますね」
「エロ同人みてーな魚だな」
「入間さん、少し黙って」
「なんだよバカ松、オレ様に命令しようなんざいい胸してるじゃねーか!」
「度胸…… だよね?」
「お、おおおお、魔法に取り入れようと思ってたが、やめておくかのう……」
賑やかな声を背景に、夢野さんはめちゃくちゃ震えて水槽から距離をとった。
「…… 茶柱さん。スズランの花を水槽に浮かべてみて」
「え? あ、そうですね! それならこの魚たちも対処できますか!」
スズランの毒は水に溶けるので、そのうちカンディルも死ぬだろう。
「次は泪の番だよー!」
「ぼくのは、このベラドンナの実だよ」
テーブルにビンを置いて説明する。
「ブルーベリーと誤認して中毒死した例もある毒だよ。絶対に食べないように。東条さんも、なるべくブルーベリーは食卓に出さないでね。ぼくなら見分けられるけど、万が一のことがあるから」
「承知したわ」
さくっと説明が終わり、白銀さんに移る。
「私のは多分、この裁縫セットだと思う」
白銀さんが出したのはごくごく普通の裁縫セット。
ならばこれは組み合わせ必須か。真宮寺くんの吹き矢の毒なんかは塗るタイプだから針に塗って…… とかありそうだね。
「女子は進むのが早くていいな……」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう!」
次は春川さん…… と言っても皆もう分かっている。
さすがに大荷物だからね。
「ビニールは外さないでよ。この塗料手に着くから」
エセ水晶玉といい、この〝 金塗りの真剣 〟といい、初代のオマージュだよね? 視聴者か、ゲーム化した際のプレイヤー向けサービスかなにかなのかな。
一応真剣らしいが、鞘も塗料がべったりついているのでガッツリ証拠が残る仕様だ。誰も使おうなんて思わないだろう。
キッチンのほうに置いたら臭いが移りそうなので、保管する場所は反対側のほうがいいだろうな
「私はこれね」
東条さんがキッチンから持ってきたのは先端の毛がナイフか針山のようになったデッキブラシだった。
「メイドにデッキブラシは似合うけど…… そこは大量の投げナイフとかが良かったなあ」
某ゲームには隠し武器にデッキブラシなんてこともあったか。
でも白銀さんの気持ちも分かる。銀髪の完璧メイドと言ったらナイフだよね。
デッキブラシからはナイフ状の刃が10本、2×5で並んでいる。
実用性はなさそうなロマン凶器か、刺突凶器ってところかな。
「次は私かあ…… ええとね……」
珍しく歯切れの悪い赤松さんは、少し迷った末に何枚かの紙をテーブルに出す。
よく見ると、それは楽譜だった。
『モノクマ特製葬送曲』
これはまたひどい。
「冒涜だよ! 音楽の冒涜だよこんなの! しかも〝 月光 〟に似てる音階が多いし! そこは葬送行進曲じゃないの!?」
突っ込むべきところはそこなのか?
「赤松さん、落ち着いて」
「すー、はー」
最原くんがなんとか落ち着かせることに成功したが…… これは仕方ない。
ぼくも麻薬入りアロマなんて渡されたら怒る自信がある。
まさか本当に音楽だけで殺すなんてできるはずがないので、なにか他にあるのかもしれないけれど……
「ふう…… じゃあ最後は最原君だね」
「うん…… これも分かりやすいけど……」
最原くんが出したものも、やはりガラス瓶だった。
「モノクマを呼び出して確認してみたら硫酸だって言ってたよ」
シンプルに危ない物がきたな。
これは管理さえしっかりして割ったりしなければ問題ない…… かな?
「これで最後だな! おっし、入り口からすぐに見える場所に台を設置して全員で確認できるようにしておくぞ。ゴン太、手伝ってくれ」
「うん! ゴン太頑張るよ!」
それから順調に台の設置も済み、周りに囲いまで作られた。
若干祭壇のようになっているが仕方ない。
「それじゃあ今日はこれで解散だな」
百田くんが宣言すると、疎らに人が散って行った。
赤松さんたちも少し相談すると早々に食堂から立ち去る。
「香月さんはどうするっすか?」
「え、ぼく? えっと、今からだと散水しても朝、雨漏りで溢れちゃうから……このまま部屋に戻って寝ようかな」
「あ、なら香月さんも寮に戻るんだね。一緒に帰ろうか」
白銀さん、天海くんの間に挟まれてそのまま寮まで連行される気分を味わう…… と言っても、2人と話すのは楽しいんだけどさ。
ぼくは2人と別れ、部屋に戻ると真っ先にアロマを焚いてベッドに沈み込んだ。
それから、片手間に目覚まし時計を7時半に設定し枕を抱きしめる。
ぼくは低反発よりも少し固いくらいが好みだなあ……
ベッドに沈んだ体は不安と緊張からかドッと疲れが増して動くのも億劫になってしまい、電気を消すことすら面倒で瞼がゆるゆると落ちてくる。
だめだ、眠い。
おやすみなさい、と小さく呟いてぼくは意識を手放した。
・モノクマ特性葬送曲と似ている音階
Q. 赤松さんだから月の光じゃないの?
A. 月光で合っています。
・凶器リスト
【個人凶器】
最 硫酸
百 空っぽのカプセル薬
獄 殺人ハウツー本
天 リボルバー(弾5)
王 スプレー&ライター
星 鉄球
塩 痺れ毒の吹き矢
キ 重水
入 レンチ
夜 エセ水晶玉
茶 スズランの花瓶
夢 カンディル
香 ベラドンナの実
白 裁縫道具
春 金塗りの真剣
東 デッキブラシ(鉄)
赤 モノクマ特製葬送曲
【研究教室凶器】
アロマセラピスト 不明
発明家 ネイルガン
ピアニスト 不明