今日の朝食は、パン製造機を倉庫から発見した東条さんによるパン祭りだった。炊いたご飯もあったけど、まさかの米びつごと。
おかずはみんなの希望によりいくつかの大皿にそれぞれ乗せられ、そこから取り箸で取るタイプだった。
確かに、ひとりひとり盛られるよりもバイキングスタイルの方がたくさん食べる人とそうでもない人で分かれて良いかもしれない。
東条さんは本当にこれでいいのかと悩んでいたが、みんなが嬉々としておかず争奪戦を始めたので納得したようだった。
メイドとしてはきっちり1人ずつやりたいんだろうけど、それがみんなの要望だったからね。
それにしてもパン作りの機械とか、あの倉庫本当になんでもあるな。そのわりに欲しいものは見つからないなんてザラだし、よく分からないラインナップだよ。モノクマか製作陣の趣味か?それともコロシアイの隠蔽工作に必要そうなものだけ抜いてるのかな。
植物園の高い位置にある木の剪定をしたくても丁度いい長さの脚立がない。長い枝切り鋏もないし、あったのは先端が切れにくくなっているリーチの短い枝切り鋏だ。凶器じゃないよアピールか?
「ねえ、一通り調べたりしてなにもなかったんだからもう自由にさせてよ」
今日は朝食会での春川さんの言葉に賛同する人が多く、団体行動で調べてももうなにもないと分かったので全員自由な時間を取れることが決定した。やった、これでのんびりとできる。
ぼくは部屋か研究教室でのんびりするんだと意気込みながら食堂を後にした。天海くんが行動するよりも早く逃げたので追ってはこないだろう。久しぶりの1人行動は楽しみだ。
まずは今までの探索でちょくちょく発見していたメダルを手に購買部だ!
ダンガンロンパといえば購買部のガチャガチャだよな。ずっと楽しみにしてたんだよ。どんなラインナップになってるのかとか、ちゃんとぼく好みのアイテムがあるのかとか。
購買部の中にはもちろんガチャもあったけど、他の周りにあるやつもメダルで手に入ることが分かった。値段ついてるし。
適当に暇つぶし用の雑誌をメダル1枚で購入して、ガチャを回す。とりあえず2回だけ。
出てきたのは〝 マリーゴールドの種 〟と〝 ソーイングセット 〟
種はぼく向きかな。多分花言葉が絶望だからはいってるんだろうけど、マリーゴールドは可愛いから好きだし、問題ない。
よし、研究教室の周りに植えてみよう。
あとは…… ソーイングセットか…… 白銀さんにあげるか? いや、でも凶器とはいえ白銀さんは裁縫セットがあるしな。
棚に置いてある雑誌を見る。
「……ぬいぐるみ作りでも、してみるか?」
羊毛フェルトで作るぬいぐるみの雑誌や、普通のぬいぐるみの型が載っている雑誌もある。倉庫で少し材料を探して挑戦してみようかな。
「あれ、香月さん?」
「赤松さん」
ガチャでもやりにきたのかな?
そういえば主人公候補が誰かとか、分かってないや。今のところ赤松さんが最有力候補だけど…… どうだろ。
「じゃ、ぼくは行くよ」
「うん、またね」
ガチャの前を譲ってぼくは倉庫へ向かった。
「あった、羊毛フェルト」
それに生地も。
だから、なんであるんだ。本当に不思議な倉庫だな。
「あ、香月さんも裁縫するの?」
後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはたくさんの布を抱えた白銀さんがいた。
見つかっちゃったかなんて思ったけど、よく考えてみれば1番のお手本は彼女なんじゃなかろうか。
裁縫はできるほうだけど、羊毛フェルトはやったことがない。
白銀さんはどうだろう。
「白銀さんって羊毛フェルトできる?」
「小動物とか小さいモンスターとか、キャラクターが肩に乗せてる子なんかは作ったりするかなあ…… コスプレの完成度を上げるためにいろんなことに手を出してるよ。乗馬とか、剣道とかも習ったことあるよ。地味に器用貧乏だね」
白銀さんのプロ根性が凄まじい。
これだけやってコスプレするなんて、単純なキャラ愛とかだけじゃ済まない情熱を感じられる。もちろん、好きだからやるんだろうけど。
「え、じゃあコスプレしたままキャラ再現とかできちゃうの?」
「うん、既に好きなキャラでもやるときは全力で調べ上げて細部までこだわるよ」
なにそれすごい。
これは、人気になる理由も分かるよ。
だって頼めば台詞も言ってくれるだろうし、剣を使うキャラなら剣舞とかもしてくれるんだろ?
料金取るかは分からないけど、それでもキャラクターが好きな人は頼みに来るだろうな。リアルにやってきたキャラクター。
ダンガンロンパのリアルフィクションに反感を持っていたが、こういうリアルフィクションは素晴らしいと思う。
「1人でいるときに羊毛フェルトやってみようと思うんだけど、教えてくれないかな?」
「いいよ、やろうやろう! それじゃあ…… 部屋に行こうか」
あれ、なんでだろう。ぞわっとした。
「えっと、教えてくれるんだよね?」
「うん、もちろんだよ。その代わり…… 私の作った衣装着てほしいいなって」
「ぼく素人だよ!?」
「いいんだよ、絶対似合うから!」
「そういう問題なのか!?」
でも、報酬がコスプレ1回ならまだ有情か?
「あとでゴン太君とアンジーさんに協力してもらえるかな…… そこだけ地味に心配だよ」
「えと、2人はなんで?」
「アンジーさんには牛っぽい頭蓋骨を作ってもらいたいんだよね。ゴン太君にはそれ使ってコスプレしてほしくて…… もちろん報酬はつけるよ!」
「あの、それってもしかして……」
魔法使いの…… いや、なにも言うまい。
だいぶ嬉しそうだし、仕方ない。午前中いっぱいは付き合おう。
材料を手にぼくの部屋に移動して、やり方を教わる。
針でちくちくする作業は細かくてなかなか上手く行かないがやりがいがありそうだ。まずは猫でも作ろうかな。
白銀さんはぼくに一通りコツを教えると、自分の作業を開始した。やはり作っている衣装はあれだ…… 嫁の………… うん。
アドバイスを求めれば手を止めて手伝ってくれるし、良いお師匠様なんだけどな。
「初めてなんだよね?」
「う、うん」
「すごいよ香月さん。初めてのときって顔がスプーになったり上から叩いた顔みたいになったりするのに、ちゃんと仕上がってる」
褒められているはずなのになんでだろう、とても複雑な気分だ。
作った猫は目がくりくりとした子猫のアメリカンショートヘアだ。 次は長毛種も作ってみたい。
針金の骨組みはもうできるようになったから、今度はもう少し大きめに作ろう。
「長毛種の猫ってどうやったらいいかな」
「ああ、長い毛は土台を作って、後から貼り付けていくんだよ。尻尾とか、毛並みをふわふわにしたいときもそんな感じだね。土台ができたら教えてね」
「うん、頑張るよ」
ちくちく、ちくちく、と針で差し込みながらどんどん羊毛フェルトを追加していく。
硬くなりすぎないように、ふわふわに…… これがなかなか難しい。
顔も崩れないように整えなければならないんだけど、針の穴が大きく残ってしまったりなんだり調整を繰り返すたびに少し頭が大きくなりすぎてしまったり大変だ。
最終的にはものすごく時間をかけて両手に乗るサイズのものができた。これに長毛の毛を追加していくんだ。
「目はこれを使うといいよ」
「ありがとう、白銀さん」
受け取ったのは人形なんかに使う目玉のパーツ。
出来上がったヒマラヤンは青目のくりくりした可愛らしい作品になった。うん、初めてにしては上手くできたと思う。
「だいぶ時間かかっちゃったな」
「羊毛フェルトは土台を作るのも時間がかかるもんね…… 私のほうも有意義な時間を過ごせて良かったよ」
そう言った白銀さんの手元には、もう殆ど下縫いが終わった衣装がある。これからミシンで本縫いに入るのだろう。
「どうしたの?」
「えっ、あ…… えっと……」
思わず見とれていた。
あんなに可愛い衣装、着れるのか…… なんて。
「可愛い衣装、だよね」
少し照れながら言うと、白銀さんは 「だよね、だよね!」 と嬉しそうに頷いて頬に手を添えた。
「もしかして、可愛い衣装好きなのかな?」
「…… うん」
俯いて答える。
一人称からやっぱり勘違いされるよね。
普段着は男物が多いけど、可愛いフリフリした衣装とか好きだ。
見てるだけで幸せになれるし、なにより楽しそう。
「なら、可愛い衣装をたくさん作るね。私以外で着てくれる人がいるなんて嬉しいよ! 衣装は着られてこそだから」
そうだよね、作られたものは使われてこそだ。
観賞用だけにするのはもったいないよ。
「それじゃあ、お昼ご飯食べに行こうか」
「お昼はなんだろうね……」
2人で話しながら食堂に移動する。
さきほど作った羊毛フェルトのヒマラヤンを胸に抱えているので、行く先で人目を惹くようだ。
食堂の片隅にでも置かせてもらおうと思う。
「うん?」
どこからか視線を感じる。
食事を取りながら確認してみたら、それは星くんからだった。
自分を殺せばいいなんて言っていた彼を思い出す。万が一のこともあるし、そんな発想はできるなら止めておきたいが、彼の意思は強い。
そんな意思の強い彼でも目を惹かれる、ぼくが作ったヒマラヤン。
…… 猫、好きなのかな?
いい機会だ。
昼食のあとで接触してみようか、なんて。
〝 ツウシンボ 〟に白銀つむぎの情報を追記致しました
【白銀つむぎ】
*3 そのコスプレへの情熱は、剣道や乗馬、裁縫に小道具作りなどにまで向いている。教えるのも丁寧だし、ファンがたくさんいるのも納得の人だ。可愛い衣装を着せてもらえる約束をした。多分コスプレ衣装なんだろうけど、ぼくの可愛い服好きを初めて打ち明けた人だから、楽しみにしていたいと思う。