月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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自由行動②

 昼食の後、そういえばゲームルームの奥には行ったことなかったなと思い、ぼくは移動した。

 あの奥はどうやらAVルームになっているようで、DVDがたくさんあるらしい。もう少し羊毛フェルトでぬいぐるみを作ろうと思うのだけど、1人で黙々と作業するのも集中が切れてしまいそうだし、なにか見ながらでもやろうとここに来たというわけだ。

 あんまり静かな場所でも集中力が切れてしまうから。

 

「あ、星くん……」

 

 AVルームに行く前に、星くんを見つけて声をかける。

 もしかして、いつもここにいるのかな?

 ぼくもここに来てからはずっと植物園か自室にいたから、人のことは言えないけど。

 初めて会ったときも確かここだったな。

 

「AVルームに行くのか? それともここのゲーム機か? 残念だがここのゲーム機は使えねえな。断線してる」

 

 あ、それは知ってる…… というか、星くんは自分に用があるとは思わないのか。

 まあ、〝 俺に関わるな 〟って言ってるくらいだからな……

 

「AVルームに行こうと思うんだ…… 羊毛フェルトのぬいぐるみを作るのにも、1人だとかえって気が散っちゃいそうで……」

「ああ、食堂にも持ってきていたな。好きなのか?」

 

 星くんの視線は、心なしかぼくが持っている羊毛フェルトのヒマラヤンに向けられている……

 

「ううん、今朝購買部で見つけて…… 白銀さんに教えてもらって始めたんだ。結構おもしろくて熱中しちゃって…… 超高校級のアロマセラピストなのに変だと思う?」

「…… いや、思わねえさ。新しい趣味の発見はいいことなんじゃねえか?」

 

 あ…… 星くんにこんな話題振るべきじゃなかった。

 星くんは自分の才能を否定してしまっているんだよね…… いや、否定なのか? 結局ぼくは彼にあったことをよく知らない。

 知っているのは、自らの才能を使ってなにかをして、囚人になってしまったということだ。

 その結果、彼は〝 俺を殺せばいい 〟なんて言っている。彼は、死にたいのか…… ?

 

「そっか…… その、星くんは…… なにか趣味とか、ある?」

「…… しいて言うなら、散歩だな」

 

 ぼくも、どうしてそのまま会話を続けているのかは分からない。

 彼は1人にしてほしいと常々言っているんだから、さっさとAVルームに行ってしまえば良かったのに。

 だけど、少なくとも今会話している星くんは穏やかそうだ。

 やはりぼくには彼が恐ろしい犯罪者には見えない。

 

「散歩か…… 早朝なら、散歩してもらってる犬とか、見回りしてる猫とかが見れるよね」

「ああ、そうだな」

 

 肯定する星くんの目元は心なしか柔らかいような気がする…… 食堂でも視線を感じていたような気がするし、もしかして…… ?

 

「星くんって、猫が好きだったりする?」

「…… 変か?」

「いや、そんなことないよ。猫可愛いよね」

「ああ、あのしなやかな体、アーモンド型の瞳、気まぐれなところもいいな…… っと、男がこんなこと言うのはクールじゃねぇな」

「ううん、可愛いものは可愛いでいいと思うよ」

「そうか」

 

 やたら視線を感じると思ったら、やっぱり猫が好きなんだな。

 まあ、やたらと言っても気になるほどではなかったんだけど…… 人に関わるなって言っている星くんからの視線だから気づいただけなんだよな。

 

「…… その、この場で立ったまま話してるのもなんだし……… …一緒になにか見ない?」

「…… なにか勘違いしてるのかもしれねぇが、俺に関わってもいいことなんざねぇぞ」

「えと、ぼくはただ…… その……」

 

 言いよどんで、ぼくは言葉を選ぶ。

 

「ぼくは、きみがなにをしたのかを知らない。きみがどうしてそこまで〝死にたい〟のかも分からない…… だから」

 

 そこまで言って、ぼくの言葉は星くんに遮られた。

 

「別に、俺は〝 死にたい 〟わけじゃねーさ」

 

 ぼくは、てっきり彼が死にたいからあんなことを言ったんだと思っていた。だから、それを聞いて面を食らってしまい、口を閉じる。

 

「意外か? あんなことを言ったからな…… 勘違いしても仕方ねーか」

 

 星くんはそう言って首を振る。〝 クールじゃねぇな 〟なんて、会って数日のぼくでも分かる口癖を付け加えて。

 

「星くんは…… 〝 死にたい 〟わけじゃなかったの? なら、なんであんなことを……」

 

 地雷かもしれない。

 それでも、尋ねずにはいられなかった。

 

「俺にはもうなにも残っていない。生きる意味ってやつもな……」

「生きる…… 意味……」

 

 生きる意味がないってことと〝 死にたい 〟ってこととはイコールじゃない…… のか?

 

「難しいか?」

 

 ぼくは首を振った。

 

「なんとなくだけど………… よく知らないぼくがきみにとやかく言う資格なんてないしね」

「資格とか、そんなことは言うもんじゃねーぜ」

 

 その言葉にハッとしたと同時に、反射的に言葉を出していた。

 

「生きる意味…… っていうのも、ぼくにはよく分からないよ。それだって、全員意味なんて考えて生きているわけじゃないと思う。それこそ、きみが言ってる、資格とか…… それと変わらないよ」

「……」

 

 踏み込みすぎたか…… ?

 

「まさか、反対に諭されるとはな…… 俺もまだまだだな」

「それに、さっき星くん散歩が好きって言ってたよね」

「ああ、囚人の身じゃできねーが……」

 

 しまった…… !

 で、でも今はこうしてしがらみもないわけだし…… って、なんでぼくはこんなにおせっかいを焼こうとしているんだろう……

 

「前はしてたんだよね。それに…… 皮肉なことではあるけど、今はこうしてぼくらもいるんだし、その、才能以外のことをして楽しんだっていいと思うんだ……」

「あんたみたいにか」

「う、うん……」

 

 ぼく、こんなにおせっかいするような性格じゃないんだけどな あ…… こういうのは友達の、幸那のすることだったのに。影響でもされちゃってるんだろうか。

 ぼくに全力で関わってくる幸那もこんな気持ちだったのかな……

 そう思うとなんだか親近感…… 星くんには迷惑かもしれないけど。

 

「おせっかい、だったかな…… ぼくもこんな風におせっかいされてたから、つい気になっちゃって……」

「ふん、まあいい。ところで、AVルームには行かなくていいのか?」

「あっ、忘れてた……」

 

 ぼくが慌てて言うと、星くんは少しだけ微笑んで部屋へ行くことを促した。

 でも、ここまで会話していて1人で行くのもなんだかもやもやする。

彼には迷惑かもしれないが、ダメ元で提案してみることにしよう。

 

「えっと、星くんが良かったらだけど…… なにか一緒に見ない?」

「諦めてなかったのか」

「うん、だって星くんって、初日からずっとここにいるんだよね? もしくは自室に…… ここってなにもないでしょ? つまらなくないのかなって」

「ああ、こうして日がな1日ぼうっとしているのも堀の中じゃできねーからな…… 大して気にしてなかったが」

「なにもしてないんじゃますます気が滅入ってくるだろうし…… 星くんもぼくと一緒に羊毛フェルトやってみない?」

 

 ぼくがわくわくしながら訊いてみるが、星くんの反応はあまりよくない。元々スポーツ少年だし、細かいことは苦手なのかな。

 

「手先は器用じゃねーんだ」

「な、ならせめて一緒になにか見ない?」

「なんで俺にこだわる? 天海や白銀と見ればいいじゃねーか」

 

 あ、そっか…… そうだね。

 ぼくだって1人の時間を求めて天海くんたちから逃げてるんだった。

あまりしつこいと嫌だよね。配慮不足っていうか、自己中心的だったな。

 

「ううん、無理に誘ってごめん」

「…… 付き合うのは一本だけだ」

 

 その言葉でぼくは勢いよく顔を上げた。

 

「そ、それって……」

「…… まだまだだな」

 

 一緒に見てくれるってこと、だよね。

 押せ押せにしすぎた結果だと思うとすごく申し訳ない。今後はちゃんと気をつけなくちゃ。

 

「えっと、なにを見ようか……」

「気が早いぜ。ちゃんと中見てから決めろ」

「うん…… !」

 

 ぼくは嬉々としてAVルームに入った。

 今までずっと立ち話をしていたから、少し疲れちゃったし…… 星くんと一緒にいる間は羊毛フェルトやらないで、ちゃんと映像に集中しよう。

 さっき話していたことだし…… 星くんは動物が好きだよね。

 

「スポーツ系……」

「…… 好きにすればいい」

「あ、動物映像ベスト100なんてものもあるよ!」

「好きにすればいい」

 

 よし、これにしようかな。

 スポーツ系のときよりも気にしているみたいだし。

 

「よし、これにしよう。えっと、DVDプレイヤーは……」

「あれじゃないか?」

「ありがとう、星くん」

 

 1つ席を空けて星くんと座席に着き、スクリーンを見る。

 これだけ大きなスクリーンで見られる動物映像なんて素敵だよね!

 

 最初は無難な犬の映像から。

 鼻の頭に乗せたおやつを食べる鼻パクや、おやつキャッチが下手くそすぎておもしろい顔になっている映像。

 インコと猫、うさぎと大型犬などの意外な仲良し兄弟。

 ぎっしりと鍋に詰まった猫たちが幸せそうな顔で寝ている映像。

 場所が変わり外国、群れから離れた草食動物の子供を育てようとする雌ライオンのドキュメンタリー……

 動物園でしか見られないような動物と過ごす人たち……

 

「かわいい……」

「ああ」

 

 白銀さんに言わせれば〝 語彙力溶けた 〟状態で上映は続く。

 

「サーバルキャットは飼育許可がいるはずだが……」

 

 映像の中では日本人らしき人がヒョウのような見た目の大きな猫と戯れている。

 

「すごーい」

 

 思わず呟いて、ハッとする。

 急いで目を逸らしたが、星くんが笑いを抑える声が聞こえた気がした。気のせいかもしれないので、確認はしない。

 

 最後は動物の赤ちゃん特集だ。

 犬、猫から始まり徐々に大型の動物の映像に変わっていく。

 放牧された馬が声をかけただけで飼い主らしき人へ駆け寄っていく映像なんか、結構驚いた。

 一般的なヒヒーン! なんて鳴き声はあげずに飼い主が近づくだけで低くブブブ、なんて鳴いて甘える。

 よく見れば瞳は優しげだし、大きな動物のはずなのに不思議と怖いイメージが払拭された。

 仔馬でこれなのに、大人の馬はもっと大きいのか。

 小さなゾウが甘えて緩く鼻を巻きつける様子や、猫とさほど変わらない大きさの小さなライオンやトラ、パンダにコアラ……

 次々と可愛らしい映像が続いていく。

 

 軽く視線を移して横を見れば、彼はとても穏やかな表情をしていた。

 〝 俺を殺せばいい 〟なんて険しい顔をして言っていた彼は、その低い声も相まってとても大人っぽいけれど、動物の戯れを見ている彼はぼくが抱いた第1印象とそう変わらない様子だった。

 子供っぽいわけではないんだけど、必要以上に大人っぽく見える部分が見えないせいか……

 

「盗み見はいい趣味とは言えないぜ」

「えっ、あっ、ごめん……!」

 

 慌てて視線を映像に戻す。

 少し気まずい雰囲気になったけど、映像が終わる頃には再びほんわかとした雰囲気に戻っていた。

 

「それじゃ、俺はこれで」

「うん、付き合ってくれてありがとう」

「…… ああ」

 

 後ろ手に振られた手に、ぼくも同じように手を振り返して席に深く深く沈み込んだ。

 なんだか少し疲れた…… けれど前より少しだけ彼のことが分かった気がする。

 相変わらず彼の犯した罪というのは分からないけど…… 少なくとも、星くんが〝 死にたい 〟と思ってあんなことを言ったんじゃないと分かった。それだけで十分だ。

 生きる理由なんて考えてみたこともなかったけれど…… ぼくは、なにかあるだろうか…… ?

 

「…… 友達がいなかったら、ぼくも無気力になってたかもしれないな」

 

 強引にあの家から連れ出されて、困惑しきりだった日常を思い出す。

 彼とぼくとを一緒にするのは絶対違う。

 でも、今日彼が少しでも楽しいって思ってくれたのなら…… ぼくも嬉しいな。

 

 

 

 

 

* 絆のカケラをゲットした!*

 

 

 

 

 

〝 ツウシンボ 〟に星竜馬の情報を追記致しました

 

 

 

 

 

 【星竜馬】

 *2 〝俺を殺せばいい〟なんて物騒なことを言っていた彼はどうやら死にたいわけじゃないみたいだ。〝生きる理由がない〟っていうのはよく分からないけど、日常の楽しみが明日あるとは信じられない……って思うとかなり深刻だと思う。そんな彼も動物は好きらしい。自己紹介のときからクールなイメージがついていたけど、可愛い一面もあるみたいだ。迷惑じゃなければ、もう少し話をしてみたい

 

 

 

 

 

 

 

 





・星竜馬
 クールだけど可愛い一面もある……そんな星くんが好き。星斬コンビの落ち着いた大人の雰囲気が特に好き。
 生きる理由はない。でも死にたいわけではない。矛盾しているようでしていない想いが特徴ですね。
 クリア後に好きになりましたが、通信簿がもう少しパロディ抑えめだったならもっと好きになるのが早かったかな…… と思います。死んでからじゃ遅いんです……
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