星くんと別れてしばらくAVルームでアニメを見ながらぬいぐるみを作っていたけれど、ふと時間を見ると既に夕方になっていることに気がついた。
午後6時。夕食が7時からなので、もうそろそろ移動しておいたほうがいいだろう。
ぼくは特に、植物園の散水を夕食前に終わらせておかないといけない。
「そういえば…… 散水する時間はみんなに知らせてないな」
もし誰かがいるときに散水を初めてしまったら大変だ。
植物園の入り口に散水する時間を張り出しておいたほうがいいだろう。
「なら倉庫かな……」
張り紙を作るために倉庫へ行くことにしたぼくは、増えたぬいぐるみたちを腕に抱えて歩き出す。ぼくの周りだけなんだかファンシーな雰囲気になっているような気もするし、正直近寄りがたいんじゃないかな。
今なら超高校級のアロマセラピストじゃなくて、超高校級のハンドクラフターとかに勘違いされそうだ。
おっと、腕の間から手のひらサイズのイルカが飛び出した。
…… 倉庫で紙袋も一緒に探すべきかもしれない。
倉庫でときおりぬいぐるみを取り落としながらも目的のものを見つけ、回収していく。張り紙用に紙とペン。けれどセロハンテープや紙袋はどうしても見つからなかった。
ポロポロとぬいぐるみを落としては拾い、落としては拾い、と繰り返していると、ぼくは後ろから声をかけられた。
「香月さん、どうしたの?」
「え、あ、最原くん……」
恥ずかしいところを見られてしまったようだ。
こんなところを天海くんが見たらきっと微笑まし気な目をされながら手助けをされるだろうな。そしてますます妹っぽいと言われるのだ。
それを考えると相手が最原くんで良かったのかもしれない。彼はお願いさえすれば秘密を話すことなんてないだろう。探偵は個人情報を守れる人じゃないと勤まらないだろう。
「最原くん、その、今のは見なかったことにしてほしいな……」
「…… うん、でも少し持つよ。なにを探してるの?僕が知ってるものなら場所が分かるかもしれない」
「えっと、セロハンテープと、紙袋だよ。植物園に張り紙がしたくて…… それと、このぬいぐるみの持ち運びが大変だから」
少し目を泳がせながら答えると、最原くんは 「セロハンテープはないみたいだけど、その代わりになりそうなものなら知ってるよ」 と言いながら歩き出す。
「あ、ありがとう」
ぼくが慌ててそれについて行くと、随分と分かりづらい位置にそれはあった。
「これ、ビニールテープならここに置いてあるんだよ」
最原くんが指し示した場所を見ると、確かに色とりどりのビニールテープが置いてあった。
セロハンテープがないとは…… 本当に肝心なときで足りない倉庫だな。
別にビニールテープでも支障はないからいいけれど。
「よく知ってたね、助かったよ」
ぼくが言うと、最原くんは困ったように頬をかきながら少し間を置き 「ええと、倉庫は赤松さんと一緒に調べたんだ。だから見覚えがあって」 と話す。
「赤松さんと…… 仲、良いよね」
「ええ、そ、そう見える…… ?」
「え? だっていつも一緒にいるし…… 2人とも、ずっと前から友達だったみたいに仲良く見えるよ」
最原くんは照れたように頬を自分の手で挟んで 「そっか……」 と呟く。乙女かよ。
最原くんはどこか嬉しそうに、噛みしめるようにしていたけど、ぼくが見つめていることに気がつくとハッとして 「そ、それなら香月さんたちも仲良く見えるよ」 と誤魔化すように言った。
「ぼくたち…… ?」
「うん。天海くんと、白銀さんと、キミ。はたから見てるとすごく仲良く見えるよ」
そう言われて考える。
確かにここ4日間一緒にいる期間が長いのはあの2人だ。
そして、ぼくもそれは好ましく思っている……と思う。だからなんだか第三者にそう言われると嬉しい。
今度はぼくが照れる番だった。
「そ、それはともかくとして…… 紙袋がどこにあるかとか、知ってるかな? 代用品でもいいけど……」
誤魔化すように目的のものを尋ねる。
すると最原くんは苦笑して 「紙袋なら購買部にあるよ」 と教えてくれた。
曰く、ガチャガチャの景品を詰めるための袋が置いてあるのだそうだ。
購買部に行ったのは今朝が初めてだったので知らずにいた。ここで聞けて良かった。
「よかったら僕も一緒に行くよ。いろんな場所でメダルも見つけたし、またガチャガチャに挑戦しようと思ってたから」
最原くんの同行が決まって一度倉庫を出て、隣の部屋へ入る。
相変わらず雑多な印象を受ける場所だ。この場所にある雑貨みたいなものの中に掘り出し物でも混ざっていないかな? と思ったが、どうやらインテリアとして固定されているようだ。だから購買部の奥にも入れそうにはない。
幸い奥に扉なんてなさそうだから、この奥に隠し部屋……な んてことはないと思う。
「そこに紙袋があるでしょ?」
最原くんの言葉に従って探してみれば、確かに紙袋が置いてあった。
ご丁寧に 『ご自由にお持ちください』 というプレートがかかっているので、案外分かりやすかったように思う。
最原くんは未だにガチャガチャをやり続けているけど……
「ガチャガチャ、好きなんだね」
ぼくがポツリ、とそう零すと最原くんはガチャガチャから視線を外さずに 「だって、醍醐味だしね」 と、なんでもないように言った。
確かに、ダンガンロンパの醍醐味といえばガチャガチャもその1つだよな……
「え?」
そこまで思って、ぼくは声をあげた。
「どうしたの?」
「醍醐味って、ガチャガチャが?」
別にガチャガチャをダンガンロンパの醍醐味の1つに数えるのがおかしい、という意味ではない。
なぜダンガンロンパを知らないはずの彼が、これを醍醐味などと言ったのか。
わずかな不信感を滲ませながらぼくが聞き返すと、彼は少し言い淀んだ。
まさか…… 嫌な予感がぼくを襲う。
「え…… えっと…… こういう雰囲気のお店に…… たとえば酒屋さんとか駄菓子屋とか、そういうところにあるガチャガチャって、思わず回しちゃったりしない?」
けれど、ぼくの危機感は杞憂だったことが分かる。
詰めていた息を吐き出し、ほっと安堵した。そうだよね、ぼくが余計なことを知っているから不審に思えただけで、最原くんのその言葉を聞けば普通はガチャガチャが好きなんだなとしか思わないか……
「いや、あんまりガチャガチャってやらないから意外に思っただけだよ。変なこと聞いてごめん」
「ううん、ちょっと恥ずかしい趣味だったかな……」
そんなことないと思うけど。ぼくなんて引きこもってアロマ焚いてるのが趣味だし。
彼の言葉にはとりあえず 「そんなことないよ」 と返して笑いかえす。
「あ、そうだ最原くん。せっかく教えてもらったわけだけら、なにかお礼するよ。ぼくだけだったら夕食に間に合わなかったかもしれないから」
「え?」
ぼくが話題転換にそう振ると、最原くんは 「気にしなくてもいいのに」 と言いながら悩み始めた。
大抵こういうことを言われたときは、遠慮しても無駄だと分かっているんだろう。とても潔い。
「それじゃあ、その…… 香月さんが持ってる黄色い猫のぬいぐるみをもらえるかな?」
「え、これ?」
ぼくの持っているメダルを渡そうと思っていたけれど、最原くんからご指名されたのは赤松さんをイメージした黄色い猫のぬいぐるみだ。
左耳の位置にピンク色の音符マークをくっつけてあり、人懐っこい笑みを浮かべた自信作。
本人に見せるのも恥ずかしいし、部屋に飾ろうと思ってたけどある意味納得のいく選択だった。
「それ、香月さんが作ったんだよね?みんなの分もあるの?」
「う、うん……」
ぎこちなく頷くと、最原くんはどこか嬉しそうに 「そっか」 と呟いた。
「動物じゃなくて、デフォルメされたぬいぐるみとかもきっと可愛いんだろうね」
「それは要望なのかな…… ?」
「えっ、あ、違うよ。そんな図々しいことは……」
でも本音なんだね。
「ま、まあ、…… 見てみたいなとは思うよ」
「そっか」
ひとまず、猫のぬいぐるみだけ渡す。
「またなにかお願いするときがあったら、作るよ」
「ゴ、ゴメン…… ありがとう」
もしかして最原くんって奥手なのかなあ……
だからこそ赤松さんと相性が合うんだろうけど、果たして進展があるかどうかは怪しいところだ。
「あ、もうすぐ夕食の時間だね……」
気まずそうに最原くんが言う。
確認すれば既に6時半を過ぎていた。
「香月さんも、このまま食堂に行くの?」
「ううん、ぼくは先に植物園の雨漏り捨てて来なくちゃ」
今日は昼間に3人で集まることがなかったため、朝の雨漏りがまだ残っているはずだ。
急いで張り紙を作ったら、それを張りに行くついでに雨漏りの水を捨てなくちゃいけない。
そして夕方の散水を済ませて、夕食後の就寝時間前にはまた水を捨てに行くんだ。
こう考えると、やはり昼に1度水を捨てた方が効率が良かったかもしれない。
「それじゃあ、またあとで。遅れちゃったらごめんね」
「うん、またあとでね。遅れたら、僕から一応理由を話しておくよ」
「ありがとう」
最原くんと別れて食堂ではなく、玄関の方へ。
幾人かとすれ違いながら、ときになにをしに行くのかと訊かれつつ植物園へ。
研究教室に入ると、誰もいないためか少しだけ閑散としているように感じた。それだけ、2人と一緒にいた時間が長かったのか。
内装はまったく変わっていないというのに、誰とも一緒にいないだけでこんなに感じかたが違うなんてな……
「よっ、いしょっ……」
水がなみなみと注がれたバケツは結構重たくて、天海くんはよくもこんなものを軽々と胸の位置まで持ち上げられるなと感心する。
一回で流しに持って行くのは困難なうえ零しそうなため、いったん作業台となっているテーブルに置く。
それからもう1度持ち上げてやっと流しへ。
テーブルに少しだけ跳ねた分を拭き取り、倉庫で見つけた用紙にペンで散水時刻を書き込む。散水は結構長くて、30分ほど行われる。その間植物園に入るには傘が必要だ。
ただ、東条さんが起きる時間は6時だと分かっているものの、いつ頃散水しているかは知らないので予測込みで書くしかない。
・午前6時前後〜午前7時前後
・午後6時半〜午後7時前後
大変ご迷惑をおかけしますが、散水中に植物園へ入りたい方は傘をお持ちください。
香月 泪
これで、よし。
ぼくは白いビニールテープと、先の丸いハサミを持って外に出る。
それから、散水装置から散水を開始してすぐに走った。
また傘を持って来るのを忘れてしまったのだ。今度倉庫へ行ったときに傘を探しておかないと。
植物園の外に出て、入口のガラス扉に張り紙する。
ビニールテープはまた使う機会があるかもしれないから、持って帰ってしまおう。もう新品じゃないし、倉庫に戻すわけにもいかないし。
もうすぐ夕食の時間だ。
今夜の夕食はみんなで東条さんにお願いしたオムライス!
ぼくはデミグラスソース派だけど、ケチャップでもいける派だ。こういうところに個性というか、性格が出るのでみんながどちらを食べるのかも気になるところだ。
ぼくは急いで食堂へ向かった。
「おう香月! お前が最後だぞ!」
「ご、ごめんね!」
食堂に入ると、席から立った百田くんがこちらに手を振った。
ぼくはすぐに白銀さんと夢野さんの間に座り、乱れた息を整える。慣れないのに走ったりするもんじゃないな。
「大丈夫だよ。地味に集まるのが早かったけど、まだ7時前だから」
「みんな東条のオムライスが楽しみなんじゃな……」
そんなぼくに白銀さんと夢野さんが声をかける。
よかった、まだ時間は大丈夫だったんだな。
「おーし、全員集まったな? 夕食会議を始めるぞ!」
「はーい、ねえ百田ちゃん。今日は特になにもしてないんだから意味ないと思うよ」
「いいじゃねーか! 夕食会議って言葉になにか感じるものがあるだろ?」
つまり、ロマンを感じる字面に言ってみただけ…… ってことかな。
「まあまあ、なにか調べたりしてる人もいるかもしれないし…… 夕食中に情報交換するくらいならいいんじゃないな」
「ようは駄弁ってろっつーことだろ? ならそれでいいじゃねーか! オレ様は無駄なことするつもりはねーけどな」
「喋る友達がいないの間違いじゃないのー?」
「うぐぅっ、そ、そんなことねーよ! な、なあ赤松…… あ、赤松? そ、そんなっ、違うよな? ね、ねえ答えてよぉ……」
王馬くんの言葉に入間さんが大ダメージを受けて、赤松さんに同意を求めたけれど…… 赤松さんは困ったようにそっと視線を外したあと、しょうがないなあとでもいうように 「席が遠いから……」 と答えた。
確かに、赤松さんはキッチン側の端でお誕生日席。入間さんは食堂の入り口側…… ぼくたちと同じ並びのキッチン側から1番遠いところに席がある。
仲が良かったとしても物理的におしゃべりできない距離だ。
「話し相手ならボクがしましょうか? どうせ暇ですし」
「し、しかたねーなぁ。この天才的頭脳のオレ様と話せてどんどん学習しやがれ。い、いっぱい、いろんなことを教えてやるから……」
入間さんの向かい側に座っていたキーボくんが助け舟を出すと、入間さんは安心したように萎れたアホ毛をピンと伸ばして威勢を取り戻した。
いや、なんだか怪しい雰囲気に茶柱さんがアレルギーを発症したように 「いくら女子と言えど、そういう雰囲気は転子苦手です……」 と夢野さんにくっついた。
入間さんは尊大さと下ネタか暴言がデフォだと思ってたけど、後ろにカッコ意味深が付きそうな話しかたもするんだね。新しい発見だった。
しなくていい発見だった気もするけど。
「それじゃあ話はまとまったか?」
百田くんがタイミングを見計らって言う。
全員の前にはまだなにもかかっていないまっさらなオムライスが置かれていた。
小鉢にサラダとドレッシング、野菜たっぷりのスープと定食のようになっている。
それぞれの近くにはデミグラスソースとケチャップの入った器が真ん中に置かれている。何人かで共有して使うもののようだ。
オムライスは全て出来立てのようにホカホカで、今にもとろとろふわふわの中身が溢れ出てきそう。
思わずごくり、と息を飲む。今日も東条さんの料理はとても美味しそうだ。
「料理は温かいうちに召し上がってほしいところよ」
「東条もこう言ってることだし、夕食を始めるか。今日の挨拶担当はオレだな。それじゃあ東条、メニューを頼む」
「ええ、今日はみんなからの要望でオムライスよ。デミグラスソース、ケチャップ、ホワイトソース…… 好きなソースで食べてちょうだい。それとサラダ、ミネストローネと野菜たっぷりコンソメスープの2種類よ。こちらもお好きな方を選んでちょうだい」
「美味いメシが食えるのは東条のおかげだな! いつもありがとよ。それじゃあ、いただきます!」
いただきます。
呟いてデミグラスソースを取り、少しかける。ソースの入った器は次に白銀さんへ回した。
ナイフでオムライスに切れ込みを入れれば、張り詰めていた卵からとろとろとした中身が溢れ出す。ふわふわなそれをチキンライスとともに口に運べばさすが、お店に出てきそうな美味しさが口いっぱいに広がる。
うん、本当に東条さんのご飯は美味しいな。
「食材は神様の思し召しだけどー、美味しいご飯は斬美のおかげだねー」
「いえ、食材はモノクマが用意しているようですが……」
「神様に祈れば神様特製の食べ物が出てくるよー、品質ランダムでー。お供え物をすれば良い品質のものがもらえる確率が増えるのだー」
「神様の慈悲も課金ガチャの時代か…… 世知辛いのう。ところでどれくらいお供えをすればいいのかが気になるんじゃが……」
「それ、結局地味にむしりとられるやつだよね…… クワバラクワバラ……」
「にゃはははー」
「夢野さん!? 東条さんには敵いませんが、美味しいご飯は転子も提供してみせますよ! 食材の質もいいですが、料理に込める真心も大事だと思うんです! これなら転子は誰にも負けません!」
夢野さんは課金をするタイプか……
それにしても茶柱さんは一途だなあ。あれってやっぱり、そういうことなんだろうか…… 茶柱さんがいきなり夢野さんにくっつき始めたのはいつだったかな。原因がさっぱり分からない。
茶柱さんに直接訊けば教えてくれるだろうか。
「そうっす、ゴン太君は飲み込み早いっすね」
「そ、そうかな?ありがとう」
前の席から聞こえた会話につられてそちらを見ると、ゴン太くんは隣の天海くんに紳士としての正しいマナーをレクチャーしてもらっていた。
そのまま周囲を見ても、人それぞれに食事を楽しんでいる様子が伺える。
王馬くんは露骨にケチャップを避けながらホワイトソースをたくさんかけているし、それを入間さんにからかわれてドン引きしている。
食事中に下ネタはやめてくれ、とその真顔が物語っているが入間さんはどこ吹く風。そのうち報復されそうではらはらする。
星くんと目が合うとウインクされた。可愛らしい仕草のはずなのにクールに感じるのは相手が星くんだからだろう。
キーボくんは入間さんの話に適当に相槌を入れながら所在なさげにしていたようだ。けれど、前日よりもずっと楽しそうだった。話し相手がいるとやはり違うのか。
今は王馬くんと入間さんの言い争いというか、一方的な言葉責めをどうにか止めようとしている。お疲れ様です。
真宮寺くんは話しながらよりも黙って食事をする人のようで、ゆっくりとスプーンを自分のマスクに近づけ…… って、彼どうやって食べてるんだ?
疑問に思って少し観察してみたものの、マスクに触れる直前でスプーンの中身が消えているようにしか見えない。どんな技術だよ。
目が合うと首を傾げられた。いや、そんな反応されてもね…… すぐさま目線を逸らしたぼくは、ヘタな女の子よりも所作が美しい彼の謎がどんどん深まっていくのを感じた。
もともと不気味な感じで不思議な雰囲気な人だったけど、ますます分からなくなってしまったよ。いったいどうなってるんだ、あれ。
アンジーさんはケチャップで写実的なペンギンをオムライスに描いているらしい。茶柱さんがべた褒めしているのが聞こえた。
さっきの課金制神様ガチャの話は終わったらしい。
春川さんはやたらと食べるのが早く、ぼくが半分食べ終える頃には既に口元を拭って 「ごちそうさま」 と隣の東条さんに言っていた。
そんな賑やかな夕食も終わり、各自解散したあと……
ぼくはまた植物園に来ていた。雨漏りを寝る前に捨てておかなければ朝に東条さんが散水したときバケツの水が溢れてしまう。
再び重たいバケツを持って…… と思ったら、横からバケツを攫われてしまう。
なんだか見覚えのある展開に後ろを振り返ると、そこには笑顔の天海くんがいた。
「あ、天海くん……」
「俺、手伝うって言ったっすよね?それとも、迷惑…… っすか?」
迷惑なんかじゃない。
でも、天海くんといるとなんだか落ち着かないから、どうしても避けてしまうというか……
「ありがとう、天海くん」
「お節介だったらすみませんっす」
「ううん、ぼくが慣れてないだけだから」
嘘だ。
世話を焼かれるのは友達の幸那で慣れている。
そんな誤魔化しに天海くんは嫌な顔ひとつせず、水を流しに捨てる。
「それじゃあ行きましょうか」
「うん……」
やっぱりなんだか落ち着かない。
なんだろうこれは。
ぼくがこんなことを相談されたら絶対に 「恋じゃない?」 と返答すると思うが、それとも違うような、合っているような…… 微妙な感じ。
これは、怯え?
なにに対して? 天海くんに対して?
どうして? いや、まだそうと決まったわけじゃない。
彼といると安心するのも確かだ。
ぼくは、なにかを…… 恐れていた?
しかし、彼とは初対面のはずだ。それとも、やはりぼくもみんなと同じように消された記憶でもあるのだろうか。ここへ来るまでの過程以外で。
謎は、尽きない。
・謎
自分のことを1番知っているのは自分だと、どうして言えるのでしょうか? それって所詮自惚れなのかもしれません。
・神様
カード制だったり課金制だったり会員制だったり。
マサキさんから香月泪イメージイラストver.2をいただきました!
過去のものもこちらに変更させていただいたのでよろしくお願いします。
いつも素敵なイラストをありがとうございます!!
【挿絵表示】