目覚まし時計で目を覚まし、体を起こすと手にぬいぐるみが触れてベッドから落っこちていった。
ラックの上にカクレモノクマよろしく飾っていたのだけど、溢れた分がどうやらあったらしい。
青く染色された羊毛で作ったハムスターをラックの上に置き直し、今度こそぼくは起き上がった。
「ん…… んぅ」
伸びをすると体が少し固まっているような感じがした。ちゃんとベッドで寝ているのに休んだ気があまりしないのは、まだここに慣れていないからだろうか。
なれる必要なんてないんだけどな…… と考えながら身支度を済ませる。
今日で5日目の朝。
タイムリミットは明日…… つまり6日目の夜だ。
それまでに殺人が起こらなければぼくたちは皆殺し。まさか本当にやるわけがないなんて思いが少なからずあるけど、どうなるかは分からない。
楽しいコロシアイを視聴者に見せたいと思っている連中が、一方的な虐殺なんて普通ならするはずがないんだ。
それでは趣旨が変わってしまうからだ。
ぼくたちが気にするべきなのは…… 言い方は悪いがお互いの動向。
皆殺しにされるかもしれない。そんな事実に怯えるみんなの心と、自分自身に対してだ。
自分自身すら極限状態に置かれればなにをするか、なにが起きるかなんて分からない。コロシアイなんて嫌だと思っていても、結局は黒幕をどうにかするために殺しという手段をとるかもしれない。
ぼくたちの中に〝 裏切り者が 〟紛れ込んでいる可能性もある。黒幕だって、高みの見物をしているか、間近で見守っているのかが分からない。
そんな疑心暗鬼。今日中か、明日中か…… 少なくとも、今日の朝食くらいは大丈夫だろうと食堂に向かう。
追い詰められるのは明日。6日目の夜時間前だ。
それまではきっと大丈夫…… でもタイムリミット以前に計画的な犯行を考えている人物がいるなら?
そんな不安がぼくの体に付き纏い、足取りを遅くする。
「…… ううん」
みんなを信じなくちゃ、なんて口先のことですら言えないなんて。
ぼくはどれだけ自分に自信がないんだか。
手の甲にラズベリーアロマを一滴乗せて気を落ち着かせる。
この時点ですでに緊張でどうにかなってしまいそうだなんて、だめだな。
「おはようございますっす香月さん」
「お、おはよう、天海くん」
後ろから声をかけられてビクリ、と肩が揺れる。
振り返って挨拶を返すと天海くんは苦笑しながらぼくの頭に手を乗せた。
そんなに青い顔でもしてたのか。いや、してたか。人に声をかけられて肩を揺らしてしまうくらいだ。ビビっているのは誰の目にも明らかだと思う。
「えっと、今日の予定はなにかあるっすか?」
気を遣ってもらっちゃってごめん……
「特に、考えてることはないよ」
こんなときは楽しいことをして気を紛らわせるのが1番だと思うけど、なかなか切り替えできないや。
「なら、食堂でお茶でもどうっすか? それか、植物園が落ち着くのならそっちの方がいいと思うっすけど……」
「…… うん、白銀さんも誘ってみんなでお茶しようか」
全員集まってわいわいできるのも、精神的な意味では今日が最後かも知れないし…… って、こうやってマイナスに考えるからだめなんだよな。なにやってるんだぼくは。
「あ、香月さんは今日も天海君と一緒なんだね」
「そういう最原君こそ、いつも赤松さんと一緒じゃないっすか」
「おはよう! 香月さん」
「おはよう、赤松さん」
男子2人が話している傍でこちらも赤松さんと挨拶をする。
赤松さんは今日も元気いっぱいだ。後ろに背負ったリュックって重くないのかな?
2人と合流して食堂に向かう。
途中で少し困っている白銀さんとも合流。ネイルがなかなかできない環境なので仕方ないけど、それで赤松さんがネイルブラシを持っていたのもすごいや。
天海くんがそういうの得意らしくて、朝食後食堂に残ってネイルを直してあげるらしい。
最原くんはこの機会に覚えようとしてるのか、赤松さんのそばにいたいのか、彼も食堂に残るらしい。
「おーし、全員揃ったな! おいおい、なに辛気臭せー顔してんだ! まだ時間は1日半もあるんだ! それまでにモノクマ対策を決めりゃいいんだ!明日は作戦会議するからな! 絶対来るんだぞ!」
「百田ちゃんの言いたいことは分かったからさー、校長先生みたいな長い話するのやめてよね」
百田くんが長く話してるといつも王馬くんが突っかかっていくな…… まあ、お腹空いてるから同感なんだけど。
「おう、そうだったな。それじゃあ、今日はゴン太が挨拶だ」
「え! あ、そうだよね。うん、分かった。ゴン太頑張るよ」
「ゴン太ー、ふぁいとー! ふぁいとー!」
アンジーさんの声援に慌てて立ち上がったゴン太くんは、倒しそうになった椅子を直して照れ笑いを浮かべる。
こういうのは慣れてなさそうだもんね。
「えっと、最初はご飯のメニューだよね…… 東条さん、お願いするよ」
「ええ、今日はパン各種とオートミール、果物とサラダを用意しているわ。知っている限り苦手なものは入れていないはずだけれど、なにか苦手なものがあれば教えてちょうだい」
「えっと、えっと、いただきます!」
いただきます。
気合の入ったそれになんだか微笑ましくなった。
今日も美味しい食事が食べられて嬉しい限りだね。
無事に食べ終えたころ、誰かがポツリと呟いた。
「でも、明日死ぬんじゃろ……」
ただでさえいつもよりも静かだった食事の場は、その一言でシン、と静まり返る。
魔女っ子帽子を深く、深く目深に被った夢野さんは食べ終わった皿にカラン、とスプーンを置いて不安を吐露した。
「だっ、大丈夫ですよ! 夢野さんが不安なら転子が必ず守りますから! だから、だからそんなに悲しいことをおっしゃらないでください…… 転子たちはきっとみんなで外に出ることができます」
不安を表に出した瞬間に集められる夢野さんへの視線。
自分に向けられたものではないのに、なぜだか恐ろしい。
けれど、それも茶柱さんの言葉で霧散する。夢野さんにはこれだけ心配してくれる友達がいるのだ。
ぼくにも…… 視線を横にズラすと、ぼくに気がついた白銀さんがこちらを向き微笑む。
ぼくはそれに安心してか、釣られてへにゃりと笑う。
暗くなりかけていた雰囲気がそのおかげで少しだけ明るくなった。
「作戦会議といっても具体的な案がないとどうもネ…… あの機械…… エグイサルをどう攻略するのかが重要だヨ」
「どうにかすんだよ! 協力すれば不可能なんてことないだろ!」
「つまり、なにも考えてないんでしょ。楽観的すぎるんじゃない?」
百田くんの言葉はすごく頼もしいんだけど、それを信用しろと言われても疑い深いぼくや、合理主義っぽいキーボくん、クールな春川さん辺りは受け入れがたいだろう。
明日死ぬかもしれないのに、前日の今日でもなく明日になってから作戦会議するというのもそれに拍車をかけているように思える。
「ッチ、せっかく美味い飯食いに来てんのに台無しじゃねーか! テメーらはお花見中に会議始めるリーマンか!?」
「微妙に例えが分かりづらいよ入間さん!」
分かるような、分からないような……
つまり楽しい時間に関係ないお堅いことしてんじゃねーよってことかな。
「今はできることも少ないし、せめて調べ回るくらいしかできることはないんじゃないかな……」
最原くんが事実確認のように言うと、 「ああ、今のところはな」 と星くんが同意した。
「ああ、今度は死ぬって言わないんだ」
春川さんが呟くと、 「それってどういうこと?」 と王馬くんが彼女の方へ向く。
「どういうこともなにも、星は〝 殺せばいい 〟って言ってたでしょ。今は言わないんだって思っただけだよ」
その言葉にぼくは少しだけ反感を覚えた。
彼が死にたくてああ言ったわけではないと、もう知っているから。
彼も死ぬより、できればぼくたちと一緒に外に出たいのだと言っていたから。
でも、みんなはそれを知らない。
あの言葉を聞いてしまったら、普通は自殺願望があるのだと思うものだ。昨日のぼくのように。
「ふん、好きに解釈すればいいさ…… 最終手段には変わらないからな。東条、いつも美味い朝食を感謝する」
そう言って星くんは食堂から出て行ってしまった。
少々短くてすみません。
あと2、3話で非日常編に辿り着く予定でございます。
ネイルブラシイベントは原作よりも少しズレている気がしますが、お気になさらず。