月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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自由行動③

「美味しいもの食べよう!」

 

 そう言ったのは赤松さんで。

 

「ということは女子会なのですね!?」

 

 それにノッたのが茶柱さん。

 初日以来の突発的女子会の発生にぼくも含め女子全員が巻き込まれる形になった。

 

 男子たちが疎らに散って食堂から去ってしまってからの出来事だったので、全員でやろうにも女子のほうが人数が多く、結果的に女子会のようになったのだ。

 

 参加するのは赤松さんを筆頭に、一緒にいた最原くん。ぼくと白銀さん、それにネイルを教えてくれる天海くん。

 真っ先に女子会を喜んだ茶柱さんに、巻き込まれた夢野さん。マイペースに食堂に残っていたアンジーさんと、料理の片付けをしている東条さん。

 入間さんは 「テメーらとは違ってオレ様は忙しいんだよ!」 なんて言っていたが、赤松さんの 「大人数でいたほうが安全面でもいいんじゃないかな」 発言に残留を決定。

 真宮寺くんはまだ席に座っているのでお茶くらいはするんじゃないかな。人間観察が好き、みたいなことを言っているらしいし。

 

 キーボくんはいても会話以外にできることがないと言って部屋に戻った。

 百田くんは早々にいなくなってしまった春川さんを呼び止めに出て行ったが、戻ってくるかどうかは分からない。

 ゴン太くんはもう少し植物園で虫さんを探してみると言っていたし、王馬くんも女子会の話が出る前にいなくなってしまったので不参加。

 星くんはそもそも最初に出て行ってしまったし、彼が出て行ったのはこちら側が原因だ。呼び出すわけにもいかない。

 

 参加する男子は天海くん、最原くん、真宮寺くんの3人だけということとなる。ほら、女子会だ。

 

「じゃあ、さっそくお願いしてもいいかな天海君」

「了解っす。それじゃあ、ちょっと手を失礼させてもらいますね」

 

 白銀さんの手を取り、ネイルを始める天海くんを横目に 「えっと、女子会と言っても…… なにをするの?」 と尋ねる。

 まだそれぞれ好きに過ごしているだけだし、ただお茶しながら会話するだけでも楽しいが女子会と言ったらなにかするのでは? という思いがある。

 女子会なんてあんまりしないし、勝手が分からない。

 

「うーん、東条さん。お菓子ってあるかな?」

「なにが食べたいか、教えてくれれば作るわよ」

「…… つまり、ないんだね」

 

 東条さんはお皿を洗い終えてから手を拭き、外していた手袋をつける。

 メイドさんでたくさん水仕事をしているだろうに、手袋をつける前に見えた彼女の手はとてもしなやかで綺麗だった。

 どんなケアをすればあんなに綺麗な肌になるんだろう…… アロマに頼ってるぼくでもあそこまでにはなかなかならない。

 そういえば、赤松さんも普段ピアノを弾いているからか指先がとても綺麗だ。料理とか裁縫とか、したことあるのだろうか。

 

「なら、お菓子作りをみんなでやろう!」

 

 まあ、そうなるよな。

 拳を高く上げて、 「おー!」 と気合をいれる赤松さん。

 あの反応を見ると、やっぱりあんまり経験がないのかなと思う。

 だって初めての経験にワクワクする子供みたいな反応だし。

 

「嫌じゃ。うちはだらだらするために残ったのじゃ……」

「そーだ! テメーらと一緒にシコシコするために残ったんじゃねー!」

「キッチンにはー、あんまり人は入れないんじゃないかってー、神様も言ってるよー」

 

 確かに、キッチンで手分けして料理するとしてもあまり人数が入るわけにはいかない。

 ここのキッチンはそれなりに広いが、さすがに5人も6人も入るのは無理だ。

 

「クッキーならキッチンじゃなくても、食堂のほうで型抜きしたりできるんじゃないかな」

 

 提案したのは意外にも最原くんだ。

 型抜きだけなら夢野さんも面倒臭がらずにやってくれるかもしれないから、いい考えだと思う。

 混ぜたり焼いたりするのはやる気のあるぼくたちで回せばいい。

 

「お茶はどうするのかな? キッチンにあるもので揃えることもできるだろうけどネ」

「ジュース派の人もいるでしょうし、種類を多くするのがいいと思うっす」

 

 天海くんは白銀さんのネイルが終わったらしく、ネイルブラシその他の後片付けをしている。

 白銀さんはしばらくネイルを乾かす時間が必要なため不参加だ。

 だけど、茶柱さんは真宮寺くんや天海くん、最原くんを視界に入れると途端にジトっとした目になった。

 

「なんであなたたちもさらっと参加することになってるんですか?女子会ですよ? 男死はノーサンキューです!」

「ま、まあまあ…… せっかく残ってくれたんだし……」

 

 ぼくが多少のフォローを入れる。

 険悪とまではいかないが、先の星くんのことや明日の不安でみんなの間に悪い空気が漂っていたわけだし、それを払拭する意味でもこのお茶会は重要だ。

 雰囲気が悪いままタイムリミット当日を迎えるなんて怖いことはしたくない。

 表面上だけでも集団でいる安心感を得たいと思うのは、悪いことではないはずだ。

 

「男子が信用できないなら、目の届く範囲で監視するという手もあるヨ」

「むむ、確かに…… 個室でなにしてるか分からない男死よりは…… しかしせっかくの女子会が……」

 

 真宮寺くんは言いくるめるのがうまいな。

 茶柱さんの性格なら、なにかあったとき真っ先に疑うのが男子になるだろうし…… 全員が全員バラバラでいるよりお互いに監視する形になるこの場にいたほうが良い。

 ひとつ言っておくとすれば、ここに王馬くんがいなくて良かったということだろうか。

 彼がいたら、きっと 「アリバイが欲しいってことは殺人が起こるって思ってるの? それとも…… 自分が殺人するためにアリバイがほしいのかなー?」 みたいなことを言って、またギスギスとした雰囲気に戻っていたはずだ。

 

「ほっとけばいいじゃろ……」

 

 ごもっともだ。

 なにせ、追い出すのにも力はいる。言い合いになったら精神力使うし、少なくとも相手が嫌な思いをするだろう。

 下手に動機を作る必要はない。

 そんなんで動機になったらたまったものではないけれど。

 

「えっと…… お茶は種類あったほうがいいんだよね?」

「そうね、そのほうがみんな楽しめると思うわ」

「それじゃあ、ぼくは甘めのハーブティーでも持ってくるよ。アップルティーとかもね。甘いお菓子に甘いジュースもいいけど、さっぱりしたい人のために…… いや、ぼくのために、かな」

 

 余計な言い訳はなしだ。

 それに、朝の雨漏り分を捨てる時間も少しほしいからね。

 

「うちはミント系なら結構好きじゃぞ」

「ハッカが大丈夫なんですか! すごいですさすがです夢野さん!」

 

 あ、夢野さんハッカとか大丈夫な人なんだ…… 結構意外だった。

 

「俺は甘いやつのほうが好きっすね。果物系をよく選ぶのもそれが原因っすね……」

「あ、そうだったんだ……」

 

 見た目でそういうの平気だと思ってたけど、思い返せばライムとか甘めのお茶のほうが嬉しそうだったかも。

 もしくはコーヒー派とか…… ?

 

「香月さんが植物園までティーセットを取りに行くなら手伝うっすよ」

「え、あ、いいの?」

「ええ、約束しましたし…… 頼りにしてほしいっす」

「よ、よろしくね……」

 

 さすがにぼくも断っても無駄だって学習している。

 それに…… 悪い気はしない。もう友達…… だしね。

 赤松さんは 「ここから出たら友達になろう」 って言ってくれているけど、こうやって女子会したりしている時点で一部の人とは既に友達になれていると思う。

 男子たちはクラスメイトとか、知り合いって感覚のほうが強いけど、白銀さんや天海くん、赤松さんとは友達だと思いたい。

 最原くんはまだ〝 赤松さんの友達 〟って感覚だけど…… 10日もすれば積極的な赤松さんは全員と友達になれそうな気がするよ。

 それこそ、初日で最原くんと友達になっちゃった赤松さんなら、ここから出る頃にはカップルになってたりして…… なんてね。

 

「じゃあ、ぼくたちは植物園に行ってくるよ。すぐに戻るけど、お菓子作りは先に始めてても大丈夫だよ」

「男死と2人きりなんて大丈夫ですか!? 香月さん、嫌だったら嫌と言うべきですよ!」

「えっと、心配してくれてありがとう茶柱さん。でも、天海くんなら、嫌じゃない…… よ」

 

 だんだんとすぼまっていく声に、後悔した。

 途中から恥ずかしくなってしまって顔を覆う。天海くんはしっかりと見ないフリをしてくれるので本当に助かった。

 

「最原君や僕じゃダメだってことだネ。それは残念だヨ。まあ、君達を観察しているほうが面白そうだからいいんだけど」

「最原には赤松がいるじゃろ」

「え、え?」

「そう見えるかな……」

 

 ぼくたちの余波を受けて最原くんが顔を真っ赤にしている。

 赤松さんは困ったようにしているが、満更でもなさそうだ。

 完全に巻き込み事故が起きている。申し訳ない。

 

「初対面同士なのに数日で盛ってんじゃねーよ! ま、まあ? このビーナスボディの完璧超絶美少女相手に尻込みする気持ちは分からないでもねーけどな! オレ様に手が届きそうもねーから妥協してやがるんだろ!」

「入間さん! それはさすがに失礼すぎるよ!」

「ひっ、ひぃ…… いきなり大きい声出すなよぉ……」

「もう! …… さっきまで静かだったのにって、なにそれ?」

 

 入間さんに対抗できるのはもう赤松さんだけだよ……

 出て行くタイミングを逃して話の流れを追うと、どうやら赤松さんは入間さんがいじっているものに気がついた様子だった。

 入間さんはなにやらラジコンのようなものを手元の工具やらでいじり倒している。

 

「オレ様がなにやっててもいいだろぉ……」

「それ、もしかしてドローン?」

「あー、それだ。倉庫にラジコンがあったからな。ドローンだったら簡単に作れるし、テメーらのあんなことやそんなことを撮影して弱味を」

「入間さん?」

「……」

 

 あ、目を逸らした。

 

「そろそろ、行くっすか」

「あ、ごめんね! つい……」

「面白いから見ちゃうっすよね、分かります」

 

 ようやく歩き出し、植物園へと向かう。

 赤松さんたちも、ぼくたちが動き出したことでキッチンへ行くのが見えた。

 多分戻って来るころには生地を冷蔵庫で休ませている段階になるんじゃないかな。

 そのくらいになればお茶を飲んでゆっくり話す女子会になるだろう。

 

 道中の会話は特になかったけど、不思議となにか喋らなくちゃなんて思うことがなかった。幸那…… 親友以外でそんな関係の子なんていなかったから、少し新鮮だ。

 いつもなら、〝 なにか喋らなくちゃ 〟とか、気まずい気持ちになってしまうのだけど……

 

「そういえば、甘いお茶って言ってたっすけど、どんなやつなんすか?」

「えっと、リコリスは砂糖の50倍の甘さがあるのに低カロリーなんだ。ただ、かなり甘いから使うのは少しだけ。喉の調子が悪いときとかにもいいんだよ。アロマにはほとんど使わないけど……」

 

 リコリス…… 甘草(かんぞう)は通常ならアロマには使わないハーブだ。むしろ漢方とかハーブティーとか、あとのど飴とかに使用されるものなんだけど…… ぼくなら、リコリスをアロマに転用できる。そんな気がするんだよな。

 超高校級のアロマセラピストだからなのか、アロマに向かない植物もアロマにできてしまいそうな、そんな自信が心の内側から溢れてきているんだ。

 

「ぼくならアロマにできるよ。難しい行程が必要だけど」

「さすがは超高校級っすね」

 

 雑談をしながらティーセットを用意する。

 甘いリコリスティーと、すっと爽やかなペパーミントティー。

 ミントティーのほうは念のためアレルギーがないか簡単なテストをしてもらうけど、ぼくの作ったらしいパッチテストなら10秒で済むから楽だ。

 らしいというのは、研究教室の〝 成果 〟と思われる棚に入っていたからだ。

 まだぼくはなにも試したりしていないしね。

 作ったのは現在所持していない精油を数種類くらいだ。

 本格的に始めるなら、きっとタイムリミット後になるだろう。

 

「それじゃあ戻ろうか」

「そうっすね」

 

 天海くんは前に言ってくれた通りに雨漏りの水を捨ててくれた。

 やっぱり水一滴溢さずに運べている。すごいや。

 

「戻って来た…… よ?」

 

 そこには驚きの光景が広がっていた。

 

「おー、おー、ダ最原も立派なモンがそびえ立ってるじゃねーか!」

「ちょっと! やめろって…… 入間さん!」

 

 声だけ聞くと入りたくなくなるが、実際の光景は最原くんの帽子を入間さんが持っているというものだ。

 見れば最原くんにも赤松さんと似たようなアンテナが立っている。

 歴代主人公みたいな露骨なものじゃない、柔らかい見た目のアンテナだ。

 でもかなり嫌がっているようだし、止めたほうがいいと思うけど…… ぼくが割って入っても意味ないな。入間さんから取り返すなんて器用なことできないし。

 

「なにやってるんすか……」

 

 と、言って天海くんは入間さんの背中から伸びる腕の機械から帽子を取り返す。

 

「なにすんだよ! オレ様はただダ最原の帽子を拾ってやっただけだぞ!」

「もう入間さん!面白がって返そうとしなかったでしょ! ありがとう天海くん!」

「あ、ご、こめん。ありがとう天海くん。それと、赤松さんも」

 

 赤松さんが先に天海くんから帽子を受け取り、ポスッと最原くんの頭に乗せる。

 

「帽子、どうしたの?」

 

 お茶を用意しながら経緯を聞くと、どうやらお菓子作りを手伝っている最中に頭をぶつけて落としてしまったそうだ。

 それを入間さんが背中のリュックから手のマシーンで拾ったらしいか、面白がって返さなくなってしまったらしい。

 あのマシーンはモノモノマシーンで手に入った景品を改造したものらしく、今朝出来上がったのだとか。

 

 …… ということは入間さんあんまり寝てないとか?

 テンションが高いのは深夜ハイだったりするのだろうか。

 

 それから、順調にお菓子作りは進んで全員分のクッキーができた。

 途中、途中でお茶を飲みながらわいわいやってると、前よりもみんなと距離が縮まった気がする。

 入間さんが自分の胸を模したクッキーを作っていてドン引きしたり、いろいろトラブルはあったが平和的にお昼を迎えることに。

 ついでに手伝う気のある女性陣で東条さんと料理を作り、お昼ご飯ということにした。

 

 お昼ご飯は、こういうときに共同で作られる定番のカレーだ。

 肉も野菜もゴロゴロと豊富に入っているし、甘口と中辛で作ってある。余れば夕食で食べたい人に配膳するか、夜食として持ち帰れるようにしておけばいい。

 ずっと料理は東条さんに任せているので、彼女に料理を教わりながらやってみた。

 普段よりも楽にしてもらっていて良かったんだけど、彼女は休んでいるより働いている時間のほうが好きみたい。

 かなり遠慮されてしまったが、茶柱さんと赤松さんが押し切って結局みんなでカレーを作ったし。

 

 ぼくは余ったクッキーを簡単に包装して、懐に入れる。

 他のみんなは何枚もクッキーを食べていたのに、遠慮して微笑ましく見守っていた保護者みたいな彼女にお土産だ。

 

 夜、彼女に渡そう。いつものお礼に。

 

 

 

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