月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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― アルテミシアを胸に抱く ―
硝子細工の鳥かご


 ぼくは、ぼくだ。

 他の誰かなんかじゃない。

 ぼくはこの〝 ダンガンロンパ 〟の主人公。

 なあ、そのはずだろう? ぼく。

 

「あなたの名前を教えてください」

「……」

 

 ぼくの名前は―― 香月(かづき)(るい)だ。

 アロマセラピーが趣味の、女子高生。

 

 ぼくはそう、超高校級のアロマセラピスト。

 

 

 

 

 

「……」

 

 目を覚ますと、ぼくの目の前は分厚いガラスで覆われていた。

 ぼうっとしたまま…… まるで数日感寝ていたかのような倦怠感。

 寝すぎると逆に疲れてしまうような、そんな不快感が体を圧迫する。

 

 …… ああ、違った。どうやらぼくは狭いところに閉じ込められているみたいだ。そのせいで体が箱型になってしまいそうな窮屈感に悲鳴をあげている。

 

「んぅ……」

 

 腕を上げて、ガラス板を押す。

 すると案外簡単に外すことができた。

 開放的になったため体を起こし、伸びをする。胸いっぱいに息を吸い込めば湿った空気と草花の匂いで肺が満たされる。

 嗅いだことのある花の香りがする。

 …… あれ、ぼくってこんなに鼻が良かったっけ?

 

「ええっ!?」

 

 状況把握をしようと、下を向いたら思わず変な声が出た。

 なぜならぼくの体は色付きのガラスで出来た棺に納められていたのだから。まるで死人にするようなそれにぼくは驚きしかなかった。

 この棺が芸術作品のように美麗なものであるとしても、まだ生きている人間を棺に入れる趣味はいささかおかしい。

 …… いや、率直に頭おかしい。

 

 それから、着ている服もなんだか変だ。

 ワインレッドのブレザーにタイトスカートみたいな少し際どい格好。襟元を止めているいくつかのピンを摘んで取ってみると、なにやら薔薇と月を組み合わせたような意匠になっている。この制服の校章だろうか? 普段ズボンばかりだからタイトスカートなんて使わないし、とても違和感がある。

 そもそもぼくの高校はこんな制服じゃない…… ポケットを探ってみるといたるところにアロマオイルのビンが入っているみたいだ。

 確かに芳香浴は好きだけれど、こんなに常備するほどではないし…… と、ブレザーの大きなポケットを探ると端末が入っていた。

 

「えっと…… ? モノパッド?」

 

 モノパッド。そして白黒のカラー。

 見覚えのある組み合わせにそこはかとない不安を抱きつつ、タッチして起動する。

 すると、【 香月泪 】 とぼくの名前がまず浮かび上がって画面が現れる。パスワード機能はないようで、端末にはマップや通信簿。持ち物。それから着せ替え機能なんかのオプションが表示されていた。編集した内容をリセットする項目もある。

 いくつかのメール機能や、他の端末へちょっとしたメッセージを飛ばす機能なんかもある。

 けれど、外部のネットには繋がっていないようだ。

 

 マップを表示してみると、いくつか黄色い光の点が現れた。

 もしかして、ここに行けば他の人に会えるのだろうか?

 

 でも……

 

 

ー!!

 

 

 驚きを抑え、ぼくは考える。

 この状況。そして突如現れたツートンカラーのクマ。覚えのある、シチュエーション。そして…… 受かってしまった〝 ダンガンロンパ 〟の書類選考。

 もしかして、ぼくがこうして記憶を持っている状況はとてもまずいのでは?

 普通はこんなイレギュラー起こらないはずけれど…… でも、こうやって出てきたクマたちに相談する気は起きない。

 そんなことをしたらどうなるかなんて、分からないからだ。

 ひょっとしたらすぐさまあの棺に逆戻りかもしれない。それは嫌だ。

 

「ねえ、きみらはなに? ここはどこなの…… ? ぼくはなんでこんなところに……」

 

 周りは鬱蒼と生い茂った草花でいっぱいだ。

 花の匂いは好きだからいいけれど、この場所がどこだかを知らないとどうしても不安になる。

 

「うおっ!? いきなり質問だとぉ!?」

「積極的な子は大好きよ!」

「ワイらのことはどうでもええんかいな」

「お、オイラまだ心の準備が! すー、はー」

「おお、おお。深呼吸は大事やで」

「……」

 

 なんだこいつら。

 

「よーし! 質問に答えるよ! …… で、質問ってなんだっけ?」

「もうモノタロウったら! アタイらのことと、この学園のことよ!」

 

 いや、なんだこいつら。

 

「オイラたちはモノクマーズだよー! オイラがモノタロウで」

「ミーが超地獄級にクールなモノキッドだぜッ」

「アタイはモノファニーよ!」

「ワイはモノスケ言いますねん」

「……」

「こっちの緑の子はモノダムだよ。いじめを受けていて初対面の人には心を開かないんだ…… ねー、モノダムー!」

「……」

「ガビーン!」

 

 とりあえず、こいつらに口を開かせてはいけないことがよく分かった。

 

「で、ここはどこなの?」

「ここは才囚学園。キサマラ17人の超高校級のためだけに作られた学園なのよ!」

「ギフテッド制度で、将来有望株になりそうな高校生に色々な特権が付いてくるのが〝 超高校級 〟の称号なんやな。キサマもそうなんやからもう知ってるやろ」

 

 制度…… ? なるほど、今回のダンガンロンパでは希望ヶ峰学園に通う生徒をそう呼ぶのではなく、才能ある高校生を政府側から選んで〝超高校級〟の称号が与えられ、その人たちはみんなの憧れになるってことか。

 特権ということはお金も優遇されたりするのだろうか。あとは、なんだろう?

 まあいいや。みんなその称号を持っているのだから、細かいところなんて別に気にしないだろう。

 

「やることがないのなら、他のみんなと挨拶するといいわよ! それじゃあ……」

 

 

 

 

 ぼくは……

 端末をもう一度開き、通信簿の欄を見る。

 いつもゲームならここにそれぞれの生徒の情報が載っているはずだ。それはきっと裏番組となっても変わらないだろう。

 

 

 

 【香月(かづき) (るい)

 

 超高校級のアロマセラピスト

 

 誕生日 2月28日

 星座 うお座

 身長 168㎝

 体重 53kg

 胸囲 86㎝

 血液型 AB

 

 好きなもの 芳香浴

 嫌いなもの ドリアン

 

 

 

 まあ、兼ね正解だ。

 匂いのきついものは苦手で、ぼくの部屋にはいつも芳香浴用の加湿器が置いてある。自分でブレンドもしていたし、なんなら資格の勉強もしていた。

 けれどそれは趣味でしかなく、超高校級なんて呼べるものではなかったはず。プロの方がもっとすごいし…… ぼくよりアロマセラピーが好きな女子高生だってもっといるはずだよ。

 まったく、自分から応募した幸那ならまだしも…… なんでぼくが。

 それに、気がついたらここにいたってことは攫われて来たってことだ。ご丁寧に記憶を奪われて。

 …… でも、なぜぼくには〝 ダンガンロンパ 〟が分かるんだろう?

 攫われたときの記憶がないのに、どうしてその記憶だけが残っているんだ?

 …… 謎だらけだし、今それを紐解く材料もない。

不安だけれど、進まないことにはどうにもならないんだよな。

 

「他の生徒…… か」

 

 ぼくは改めて周りを見渡した。

 ここは恐らく植物園の中だ。頭上にも遠くにもガラスが見える。温室のようになっているのかもしれない。

 ぼくがいるのは一番入り口近くか、もしくは一番奥まった場所。

 真ん中辺りに鳥籠のような建物が見えるが、扉らしきものは見えないのでこちらが裏なのかもしれない。やはりぼくがいるのは一番奥か。

 近くにはステンドグラスのように綺麗なガラスの棺。植物のカーテンに、勿忘草。それと、ラベンダーの香りが鼻をくすぐる。ぼくの一番好きな香りだ。

 ちょうど棺に陽の光が差し込んでいて幻想的な雰囲気だ。

 まるで、手厚く誰かを葬ったような場所。

 気分がいいかと問われればまったくそんなことはない。

 いくら綺麗でも、死者扱いは悪趣味というべきものだ。

 

 ざく、ざく、と土を踏みしめて歩き出す。

 どこもかしこも植物だらけ。それもアロマセラピーに使うような植物たち。

 ちょっと考えてみれば生花からアロマオイルを抽出する方法が頭の中に浮かんでくる。やはりそこは超高校級か。なんだか不思議な感覚だ。

 

 自分が自分でないようでなんとなく不安になってくるな、これ。

 

 暫くすると石畳が敷き詰められた洋風の道に出た。

 ぼくは道から外れた場所にいたらしい。

 そして中央の鳥籠に近づき、反対側に回るとそこには真っ赤な扉が存在していた。

 赤い扉は歴代でも〝 学級裁判場 〟への入り口としてよく使われる象徴だと思う。何十もある作品のうち、2のような特殊な環境でない限りこの赤い扉が地獄への入り口だ。

 金属製の扉を開いて中に入ると、そこには先客がいた。

 

「あら?」

 

 銀髪で、片目を隠した綺麗な女の人がこちらを振り返る。

 エプロンドレスのような、蜘蛛の巣柄が散ったクラシカルな装いをしていて、頭の上には黒いヘッドドレスをしている。

 メイドさんをゴシック風にアレンジしたらちょうどこんな感じだろうか?

 待って、どんな才能か考えてみよう……

 うん、やっぱり見た目からするとメイドさんかな? もしくは秘書さんだ。

 こうやって初めて会うキャラクターの才能を当てるのはダンガンロンパの醍醐味だけれど、まさかこうして本当に会うことになるとはね。

 憧れるような、そうでもないような…… ぼくもここでは超高校級なんだ。怖気ついている場合じゃない。

 

「や、やあ…… こんにちは。きみも、その…… もしかして超高校級の…… ?」

「ええ、そうよ。初めまして。私は〝 超高校級のメイド 〟東条斬美よ。同じ超高校級に会うのは初めてなの…… 会えて嬉しいわ」

 

 ああ、失敗した。

 くそう、ぼくがそんなに気さくに話せるわけないだろ…… !

 自然に、自然に……

 

「ぼくは〝 超高校級のアロマセラピスト 〟香月泪だよ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ひと息ついて続ける。

 

「あなたはアイリスの花がとても良く似合いそうだ。とても、暖かい香りがするよ。人を安心させる香りだ」

 

 って、なにを言ってるんだぼくは!?

 でも…… 印象は本当にアイリスなんだよな。あの銀髪に紫のアイリスはとてもよく映えそうだ。絵になる…… というか。

 

「ふふふ、そう言ってもらえて光栄だわ。なにかあったら私を頼ってちょうだい。なんでも力になるわ」

「ありがとう。そう言ってもらえるとぼくも心強いよ」

「ふふ、メイドだもの。当たり前のことよ」

 

 更新されたモノパッドを軽く操作して見ると、しっかりと通信簿のページが追加されている。

 東条斬美…… 誕生日は、5月10日。なるほど、メイドの日か。細かい。

 5月10日の誕生花はアイリスだよな…… 偶然にしては、できすぎている。これはぼくの才能の一環なんだろうか?

 人を見るだけで誕生花を想起するって? なんだそれ。

 

「私たちを攫った人間がどんな目的でこんなことをしているかは分からないけれど…… 私はみんなのために尽力するつもりよ。あなたも、私になにをさせるかよく考えておくといいわ」

「あはは、本場のメイドさんなんだね」

 

 なるほど、メイドにも日本製のきゅるきゅるしたのもいるけれど、彼女はやはり本場のメイドなんだな。

 でも、だからこそ怖いところもある。まさか、誰かに殺人依頼をされて実行したりしないよな…… ?

 

「えっと、きみはどこで目が覚めた?」

「私はついさっき、ここでよ。そこのベンチに座って眠っていたみたい」

 

 東条さんが鳥籠の外を指差す。なるほど、よく見ればすぐそこにベンチがある。

 

「ぼくはこの奥で眠っていたみたいだ。そのあとにクマが五匹やってきて、いろいろ説明して帰って行ったよ」

「私も経緯は似たものね。もう少しここをまわったら外に出てみようと思うわ」

「そっか。ならぼくはこれで」

「ええ」

 

 鳥籠から外に出る。

 それから植物園の入り口付近に行くと木造の可愛らしい小屋が目に入った。立ち寄って、扉を確認する。扉には月桂樹とミスミソウらしきものが描かれている…… ぼくの誕生花だ。

 ということはこの植物園もだが、この小屋はぼくに関係があるのだろうか? ノブを回してみても鍵がかかっていて、入れそうにない。

 

 

ー!!

 

 

「わっ、な、なに!?」

 

 突然降って湧いたモノタロウにびっくりして一歩後ずさってしまった。

 

「そこはねー、キサマの研究教室なんだよ!」

「研究、教室…… ?」

「そう! この学園はキサマラのためだけの学園…… キサマラが才能を十分に発揮できるように、それぞれの研究教室があるんだよ! ここはその一つ!」

 

 ということは、ここは〝 超高校級のアロマセラピストの研究教室 〟ってわけだ。

 

「ぼくの研究教室ってことだよな。鍵は? まさかぼくが持ってるとか…… ? それともモノパッドを通す電子ロック式とか……」

「あ、ち、違うよ! ちょっとごたごたしてて…… 準備が遅れちゃったんだ。だから、まだ教室を解放できないんだよ。もう少し待ってくれればそのうち解放されるから!」

「そうか。なら、仕方ないな」

「じゃ、そういうことで!」

 

 

 

 

 …… だめだ、うずうずする。

 この場にある草花全部ぼくのものだなんて…… わくわくするじゃないか。しかも見た限り、園芸につきものの虫がいない。

 どうやって受粉しているのかが疑問だが、手を煩わされないのは良いことだ。

 早くアロマオイルを抽出してオリジナルブレンドを作りたい。

 いっそ全員をイメージした香水を使ったりして? もしかしたらシャンプーやリンスだって作ってしまえるかもしれない!

 さっきの東条さんだってぼくプロデュースの香りを身につけちゃったりして? これがゲームになったのなら、ぼくブレンドのグッズが出たりして? 生き残ればの話だけど!

 わくわくしないわけがないんだよ。

 

 …… 不謹慎か。こんなんじゃ幸那のこと悪く言えないな。

 胸糞悪い。なんでぼくはこんなことを考えてしまったんだ?

 やっぱり、なんだかぼくらしくない…… ぼくらしいって、誰が決めるんだろう? ぼくはぼくのはずなのに、おかしいな……

 

 ガラスの扉を開けて外に出る。

 振り返って見ると、そこには巨大なガラス温室が存在した。

 そして、見上げるような巨大な檻のようなものが遠目に伺うことができる。檻の下部は街影のようなシルエットの壁で、つるつるとして登ることはできそうにない。

 棺の外に鳥籠を内包したガラス温室が広がっていたと思ったら、その外にはこれまた学園の敷地と思われる場所を覆う巨大な鳥籠。

 厳重に閉じ込められすぎて笑えない。

 ぼくたちはまさに観賞用の籠の鳥か。この鳥籠をまた囲むように無数の視線が突き刺さっているに違いない。

 マジックミラーのスタジオをギャラリーが観察している姿が思い浮かび、そして幸那に見せられた生放送を思い出す。

 しかし、それにしては監視されている気がしない。

 

 …… なぜかと思ったら、そういえば歴代でも存在感を醸している監視カメラがないではないか!

 モニターはあるのに、おかしいな。

 今度の舞台はなんだ? 昔のアニメよろしくライトでちっちゃくされて、巨大なジオラマに入れられているとか?

 今の世の技術なら、そんなことも簡単にできてしまいそうで怖いな。

 目線を上から戻して周囲を見渡す。

 周りにはどこか既視感を覚える石像やら、長めの草がぼうぼうに生えている光景が目に入る。左右に道が続いているけれど、そこは落石? 瓦礫? によって塞がれていて通れそうもない。

 そしてそれを眺めている人物が一人。

 

「あ、あのこんにちは!」

「ん? おう、初めて会う奴だな!」

 

 ツンツンの髪に顎髭。ちょっと高校生には見えづらい人だ。

 なぜか左袖だけ腕を通した神秘的なジャケットを羽織っていて、その下にTシャツを着ている。あれは…… なんだろう。歌舞伎、なのかな?

 超高校級の俳優さんとか? 歌舞伎っぽい柄のシャツだし、演じる関係なんじゃないかな…… とぼくは予想する。

 

「オレは宇宙に轟く百田解斗だぜ! 泣く子も憧れる超高校級の宇宙飛行士だ!」

 

 へえ、宇宙飛行士ね。予想は大外れだけれど…… あ、ジャケットの裏地が宇宙ってことか。なるほど。

 

「ぼくは超高校級のアロマセラピスト、香月泪だ。桃の花言葉の一つは天下無敵…… か、なんだかきみにとっても似合う気がするよ。よろしくね」

「おお、なんだそれ格好良いな! でも人と喋ってるときに目を離すのは失礼だぜ?」

「ああ、ごめんね…… ぼく初対面でも人の誕生花がなんとなく分かるんだ。だからいちいちこれで誕生日を確認しちゃって……」

「ふーん、そんな特技があるのか」

 

 こっそりできずに確認した通信簿には4月12日の文字。

 この日の誕生花はアンズとモモ。男らしい見た目と性格からは想像もできないほど可愛らしい誕生花だね。

 アンズの花言葉は 「臆病な愛」 や 「疑惑・疑い」 「乙女のはにかみ」 だ。この 「乙女のはにかみ」 は桜よりも一足先にはにかむように咲くからつけられたものだね。

 モモはさっき彼自身に言ったように 「天下無敵」 と 「気立ての良さ」 「私はあなたのとりこ」 なんかだ。

 「天下無敵」 はモモが邪気除けになって不老長寿の象徴だからだね。

 モモの音が入る名前だし、こちらの方が重要なのだろうか。

 ダンガンロンパはある程度誕生花の意味なんかにも気を使っているときがあるから、こういう情報がぽんと出て来るこの頭は便利でいい。

 普段のぼくはこんな特技なかったし、全ての花言葉を網羅することなんて出来なかったからね。

 

「それにしても、宇宙飛行士か。あれ、でも宇宙飛行士って高校生でもなれるものなの? すごく厳しいイメージがあるんだけど」

「ああ、無理だ。そもそも試験を受けるのには大学卒業資格が必要になるんだ」

「えっ? でもきみって政府に見初められた超高校級の宇宙飛行士なんだよね」

「ほら、そこはあれだ…… 手先の器用に知り合いに頼んでこうちょいちょいっとな」

 

 つまり、偽造したんだな……

 そんなんで本当に試験パスなんかできるのかな?

 

「そりゃあ、めちゃくちゃ怒られたぜ。でも上の連中が面白いって言って採用してくれたんだ。もちろん、試験の方も文句なしの合格だったっつーのもある。オレだって夢を叶えるのに何年も待つなんてゴメンだからな! ありがたくその話を受けたんだ」

「随分とアクティブに夢を叶えたんだね」

「おうよ! 諦めなきゃ夢は叶う! 限界っつーものは自分で決めちまってるだけで、本来そんなもんは存在しねーんだよ。できると思えばできるんだ! だからテメーも諦めるんじゃねーぞ」

 

 うん? ぼくがなにを諦めてるんだ?

 特にそんなこと思ってないと思うけど。

 

「越えられない壁はねーんだ! オレたちはここから絶対に出ていく! んで、攫った連中を一発殴るんだよ!」

「攫われたって、まあ、そうなんだろうけど…… そんなこと、本当にできるのかな」

「ほら、それだ! できると思えばできるんだよ。そんな疑問に思ってるようじゃできなくなっちまうぞ!」

 

 なんというか…… 熱血なんだな。

 熱血系男子ってあまりダンガンロンパに出ないから新鮮だ。

 そこらのRPGじゃ主人公でもやっていそうな、そんな性格。

 熱苦しいし、大きなことを言って威勢がいい。でも、ちょっと控えめな性格の人間にはこれくらい強引な方が安心できるのかもしれない。

 この元気さに救われる日も、来るかもしれないな。

 …… って、その日が来ない方がいいに決まっているじゃないか。

 できればおまけモードとかの方がいいなあ。パンツあげるのは憚られるけど。

 

 そもそもこれ、本当に放送されてるのかな?

 幸那に聞いたとき、生放送は年単位で次が始まるまで時間がかかるけどオーディションは数ヶ月ごとに募集してるって言っていたけれど……

 その中でもゲームにまで卸せる内容ができるまで結構時間が必要みたいだし。

 この話を聞いたとき、ぼくは普通にゲーム作った方が早いだろなんて感想を抱いた。

 だから生放送のナンバーとゲームのナンバーが合わないこともあるとかなんとか……

 モノクマがまだ出てきていない現状、あまり詳しく推理できないから違和感を持つくらいしかできないな。

 これは、一体何回目なんだろう? 疑問は尽きない。

 

「えっと、百田くんはここを調べるの?」

「ああ、塞がれてるってことはオレたちに動き回ってほしくないってことだろ? ならその目論見ぶっ壊してやりてーと思ってな」

「そっか。ならぼくはもう少し他の人と挨拶してくるよ」

「おお、じゃあな!」

 

 瓦礫を動かそうとしている彼を背に、ぼくは両側に沿うように造られた階段を上がった。

 右側には藤棚の休憩所。更に奥に道が続いていて大きな門が見えるが、そちらは瓦礫で塞がれている。

 左側には学園とまではいかないが、大きな建物がある。

 正面には蔦やらなにやらで古めかしさを強調した学校っぽい見た目の建物。あれが今後の舞台だろうか。両脇に裏へ続く道がある。裏に倉庫でもあるのかもしれない。

 モノパッドでマップを見ると、そちらにも人がいるらしく黄色い点がある。

 ひとまずぼくは…… 藤棚の下にいる怪しい格好の人に話しかけてみることにした。

 

「藤が綺麗に咲いている…… ってことは、今は春なんだね。藤、富士、不死…… 音が似ていて縁起もいいから、かの藤原氏がその家紋に取り入れたとか。花言葉は〝 優しさ 〟とかあるけれど、ちょっと怖いのは〝 決して離れない 〟だね」

 

 

 半分は藤を眺めている男子に語りかけ、もう半分は独り言として零す。

 藤の〝 決して離れない 〟は、そのつるが太くて長く一度巻きつくと離れないことから来ている。

 藤を女性、松を男性と例えた文言も多いから…… 〝 死んでも離れない 〟とか女性の執着心を表すこともある。美しいけれど怖い、そんな花だ。

 

「色あひ深く花房長く咲きたる藤の松にかかりたる…… 清少納言も藤を目出度いものだと言っているネ」

「ええと…… 枕草子だっけ」

「そう、枕草子〝 めでたきもの 〟の冒頭にある一節サ。藤を女性、松を男性に例えているから、男性にしなだれかかる女性を松に絡みつく藤の様子で例えて美しいものだと表現しているんだよネ。そこまで知っていてこれは知らなかったのかな?」

「ぼくが分かるのは…… その、花の知識だけだから」

 

 ちょっと恥ずかしい。

 もう少し勉強しておけば良かったな…… 話題を変えよう。

 

「そういうきみは? とても詳しいね」

 

 会話をした限りだと…… 歴史家とか?

 軍服のようなカーキ色の制服に、長い黒髪、手に巻いた包帯に口と鼻を覆った黒いマスク。忍者とか軍人って言われても納得してしまいそうだ。

 …… 柳の下に立っていたら落ち武者にも見えるかもしれない。

 背がすごく高くて、これ自動販売機より高いんじゃないかなって思うくらいだ。ちょっと威圧感がある。

 けど、謎の話出しをしてしまったぼくに合わせてうんちくを語ってくれたところを見るにそんなに悪い人じゃない…… かな? 多分。

 

「僕の名は真宮寺是清…… 〝 超高校級の民俗学者 〟と呼ばれているヨ」

「あれ、民俗学? ならさっきの清少納言とかはあんまり関係ないような……」

「ああ、それはただ知っているだけだヨ。古いものを読むのが好きなのサ」

 

 納得した。

 なんか聞いたらなんでも答えてくれそうな雰囲気があるな、この人。

 

「あ、そうそう…… ぼくは〝 超高校級のアロマセラピスト 〟の香月泪だ。きみの誕生日は7月後半か8月後半じゃないかな?」

「正解だヨ。僕の誕生日は7月31日だ」

「その日の誕生花はルドベキアにユリの花…… ユリは理想の女性を表したり、女性に例えた花言葉が多いね。ルドベキアの花言葉は公平…… なんてパフォーマンスしても仕方ないかな」

「いいや、興味深いものを聞かせてもらったヨ」

 

 ユリにも精油はあるけれど、香りが結構強いんだよね。

 でも副交感神経や自律神経に作用するから女性の体調を整えたりするのに使えるはずだ。

 ルドベキアは和名で大反魂草。ヒマワリのような黄色の中心に茶色い花なんだけど、花びらが反り返っていて中心の部分が天に向かって突き出ているのが特徴だ。外国の花で一般的にはコーンフラワーなんて言われている。

 

「民俗学って言ったら、やっぱりいろんな村とか行くのかな? こう…… マンガの知識で申し訳ないんだけど、僻地とかに行って調べ物するイメージがあるんだよね」

「そうだネ。フィールドワークに行くことも多いヨ。そうだな…… 花一匁とか、かごめかごめってあるけど誰が発祥なのかどんな意味があるのかってほとんど分かってないでしョ? 民俗学はそういった伝統や、風習を思考面から解明していく学問なんだ。だから現地調査は大事なんだ。」

 

 あー、確かにその辺の歌って誰から教えられたのかとかまったく分からないな。大体は学校の先生とか、友達からとか教わっていくものだよね。だから余計誰に教えられたかって覚えていなかったりするんだ。

 似たような感じで、歌の起源ってどこからどう繋がっているかとかが遡りづらいのかな。

 そういう起源を探ったり、どんな目的で歌われていたか、どんな意味を持っていたのか…… ぐちゃぐちゃに絡まった紐を解いて謎を解明する学問。結構面白そう。

 

「僕はフィールドワークを通じて様々な人間を見てきた…… 嫉妬や憎しみ、すべての人間は醜い面も含めてとても美しいんだ」

「うん?」

 

 あ、これ駄目なやつだ。

 

「不謹慎だけど、僕は少し興味があるんだ。この困難な状況の中で、人間のどんな美しさが見られるかネ。クク…… クククク…… 人間っていいよネ」

 

 ぼくは鳥肌の立った腕を抑えて、足早にそこを去る。

 この感覚は覚えがある。何十も前のダンガンロンパを初見でプレイしたときのそれだ。

 どこぞの白ワカメのせいだけど、条件反射気味にこの手の人間は避けたくなってしまう。

 なんというか、危険な香りがする。

 

 とつとつと語り続ける彼に背を向け、ぼくは学校の玄関らしき場所へ向かった。

 

「遠慮せずに、もう少し君のことを聞かせてほしかったけど」

 

 謹んでお断りします。

 

 

 




・香月泪
 超高校級のアロマセラピスト。
 伺い見える性格が一話と少しズレているのは仕様。

・人物配置
 中の人は中に、外の人は最初から外にいたんじゃないかと。
 真宮寺は扉が解錠されてすぐ中に入り、最原赤松に外の檻についてぼんやりと教えたんじゃないかなーみたいな解釈です。
 あと、初期配置から動かないわけがないので最原赤松が遭遇した場所とはあえてズラしています。のちのちその場所に行くことになるという感じで。

・自己紹介イラスト
 マサキさんからいただいた支援絵でございます! ありがとうございました!
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