ぼくは混乱していた。
「なんか、すごいとこっすね」
「一応娯楽…… のためなのかな」
ぼくの目の前には見たくもないピンク色の照明で彩られた石造りの建物。看板には 『Hotel KUMANAMI』 というふざけた名前が描かれている。入口のまえに置いてある看板には 『ご休憩』 『ご宿泊』 の文字。
正直近づきたくもなかった。
でも、ぼくは瞬時に察したものの2人は 「ふざけた名前なだけでなにかあるかもしれないし」 と普通に歩き出してしまったんだ。
だからついて行かざるを得なかった。
「よぉ姉ちゃん。ホンマにこれでええか?」
「きゃ! 良いって言ってるわよ! ねえ、早くしよ?」
「ガッハッハ! 金が物を言わす世の中やで〜!」
「待ってたぜー! 3人でおっ始めるんだ!」
「さ、3人…… 素敵だわぁ! さっそく入りましょ!」
「ギリィッ」
「……」
モノファニーとモノスケとモノキッドがなんか三文芝居をしながらホテルに入っていく。モノキッドがゴテゴテした鍵を使ってたけど、あれがないと入れないとか?
いや、入る気なんてないけど。いくら重要な証拠があるって言われてもぼくは絶対に行かない。絶対に。
「えーっと…… 地味に反応に困るんだけど」
「なんか、生々しいっすね。こんなとこ本当に必要なんすか?」
あ、よかった。天海くんの性格を考えると興味なさそうだけど、第一印象は〝 遊んでそうな人 〟だから…… もし興味あるなら距離を離そうかと思うところだった。
「キサマラ高校生の性欲は猿と同等だからなァ! お父ちゃんの厚い気遣いだぜ!」
「あ、戻って来たっす」
いらない、そんな気遣い。
「えっと、つまり今夜はお楽しみですねってことかな?」
「そういうことだ! ま、このラブアパートにはとある条件がないと入れないぜェ!」
「がっぽがっぽ稼いだもんしか入れへん場所や!」
「しこしこ用意して頑張ってね!」
「うふふ、アタシたちいいことしてるわ〜」
「……」
「あ、ごめんね香月さん。こういうの苦手だもんね?」
白銀さんに優しく手を繋がれる。
いつの間にか彼女のブレザーを掴んでいたみたい。情けない。こんなくだらない下ネタでダウンしちゃうなんて。
天海くんは 「子供って下ネタ好きっすね」 なんて苦笑しながらぼくの肩を掴んで回れ右をした。白銀さんも方向転換して目指すは反対側のカジノっぽいところだ。
…… ぼくたちは植物園から校舎に帰る前に中庭を一通り回っていたんだけど、その途中でこの場所を見つけたんだ。
校舎からまっすぐ行って階段を降りれば植物園の入り口だけど、藤棚のある道を左に曲がってすぐにお城の大きな両扉みたいなものがある場所があった。要するに寄宿舎の正面に見える場所。
そこはもともと開かなかったんだけど、さっき見たときは六角形のなにかをはめるような穴があったところに六角トランクかつけられていた。
きっとアイテムを任されたという最原くんが開けたんだと思う。
その先にあったのがこの、〝 ラブアパート 〟と〝 カジノ 〟だ。
道中で天海くんからゴン太くんが見つけた謎の文字のこととか聞いていたら、あの毒々しいピンクの照明を見て硬直してしまった。
そして、さっきのことが起こる…… と。
我ながら情けないなと自嘲して白銀さんの手を離す。
「ごめん、もう大丈夫だよ」
「そっか」
ちょっと残念そうな顔をしていたけど、ぼくはうじうじしてちゃいけない。あんまり依存すると万が一裏切られたときに再起不能になりそうだから。ないって思いたいけど。
とにかく、ぼくらはラブアパートのことはなかったことにしてカジノの中に入って見た。
そこには既にモノスケがいて、ホールの真ん中に立っている。
「ワイがここのオーナーや! よろしゅう」
煌びやかな内装を見渡し、モノスケを無視して3人で見て回る。
どうやら正面がモノクマメダルをカジノメダルに換金するところみたいだ。
その隣にはこじんまりとした景品交換所がある。
中にはいろいろある。シルバーピアスなんかは天海くんが好きそうだし、キャリーバッグに白銀さんが目を輝かせているし……
「…… 可愛い」
てんとう虫のブローチとテディベアが飾られているのを見て、思わず言葉が出た。
クロの章なんて名前のえっと、犯罪実録書とかコロシアイ四十六手なんて変なカルタまであるけど、かねがね良いプレゼントアイテムばかりだ。
あのステンレストレイなんて東条さんが好きそうだし、テニスボールなんてあるよ。2人が喜んでくれそうだなぁ…… なんて考えて途中で頭を振る。
2人はもういない。いないんだ。
「…… いいのが結構あるっすね」
「う、うん。そうだね」
「ああ、あれレイヤー御用達の高級キャリーバッグ! すごい、すごいよ! 不思議なくらい衣装やコスメを収納できるから便利なんだよ…… こんなところでも見られるなんて……」
「キサマラ無視するんやない! メダル交換せぇへんぞ!」
しばらくそうして好きなものを眺めていると、モノスケが間に入ってぷんすこ怒りだした。
天海くんはそれを宥めながらモノスケに 「学園の各所にあるメダルっすよね?」 と訊く。
「そうや! そのモノクマメダル1枚につきカジノメダル10枚に交換するのがあの換金所や」
「メダル1枚で…… っすか」
「どうや? キサマラも稼いでいかんか?」
天海くんは少し考えると 「10枚交換してほしいっす」 と言い出した。
ぼくらはまさか彼が遊ぶために交換するとは思っていなかったから、白銀さんと2人で目を白黒させる。
天海くんは苦笑しながら 「結構こういうのは好きなんすよ」 と言ってモノスケからメダル100枚を受けとる。それから、なにやらモノスケと話していたと思えば、モノスケは 「ええで!」 と言って手招きしながら地下に降りて行った。
「ちょっとだけやってみるっすか」
「え、本当にやるの?」
「ええ、息抜きできるようになるのはいいことっすから」
「じゃあ私は見てるね」
「ぼくも……」
ゲームといってもどんなものがあるか分からないから、上手くできるかの自信はない。
そうして、ぼくらはモノスケを追うように地下へ降りた。
地下はカジノらしくゲームが置かれているけど、ゲーム自体でカジノらしいものはスロットマシンだけだった。
他はどちらかというとゲームセンターにありそうなものだ。
モノモノスロットは見る限り、難易度が分かれてるみたいで一つ星から三つ星まである。
他は、指定された色の魚を連続ですくい続ける〝 SAKE NO TUKAMIDORI 〟に実際にゲーム機の車に乗りながらするドライブゲームの〝
サケノツカミドリは本当にすくうわけじゃなく、ちゃんとゲーム機になってるので集中すればなんとかなりそう。
でも、ドライブゲームはしたことないからなあ。ブロック崩しも正直あまり自信がない。
「…… じゃあ、俺はこれをやらせてもらうっす」
天海くんは無難にスロットを選んだ。
ただし、三つ星の1番難易度が高いと思われるやつだ。恐らく当てたらすごいのだろうけど、初めてなのに大丈夫かな?
彼は余裕のある表情で椅子に座り、ちょっと猫背のままスロットをいじり始める。
そしてメダルを7枚入れる。ALL BETだ。
ますます心配になって後ろから見ていたけど、天海くんは相変わらず落ち着きながらスロットを回す。
それからしばらく見つめていたと思うとすぐに止める。
モノタロウで揃っていたのでメダルが20枚増える。
「え、いきなり?」
白銀さんの声が漏れた。
「はは、ちょっと遊んだことあるだけっすよ。目押しには自信あるっす」
続けて天海くんはモノクマーズを1匹ずつ一通り揃え、1回につき20枚獲得した。
さらにはなにかの代替となるワイルドを使わずにモノクマーズを完全に揃えてメダルが200枚も出てきた。
これで400枚近くになったこととなる。10回も行かないのに、すごいや。
天海くんはなおも回す。
今度は7が全て揃った。メダルが1000枚も出てくる。
ぼくらはメダルを置く場所がなくなってきて、困った。モノスケが大慌てで追加のボックスを持って来てくれるようだ。
まるでパチンコ店みたいに天海くんの周りに箱の山ができている。これで失敗してないのがすごすぎるよ。
「…… っと、ここまでにするっすか。すぐに景品回収しちゃいましょう」
「すごい、すごいよ天海くん!」
「ゲーセンの勇者になれちゃうよね、これ……」
「絵面は完全にパチスロっすけどね」
結局、天海くんは十数分で3500枚も手に入れてしまった。
途中からはモノクマーズがメダルの代わりに小切手を渡しながら 「大変だから改造の余地ありだねー」 なんて話しているのを聞いた。
多分今後はある程度まとまったメダルは小切手に変換されて出てくるようになるだろうな。
こんなに荒稼ぎされるとは思ってなかったんだと思う。
「おんやあ? ダンナ、まだまだダンナはこれからですよ。こうなったらもう全景品をかっぱらうくらい稼ぐしかないんじゃないですかね?」
いつのまにかモノクマーズの中にモノクマが混じっていて、天海くんに悪魔の囁きをする。
「いや、目的は達成したんでもういいっす」
けど、彼はそれを切り捨てた。
「ガーン! ッチ、しけてるなぁ……」
「こういうのは引きどきってものがあるっすから」
引きどきって…… 十分長く荒稼ぎしてると思うけど。
モノクマはそれを聞いて 「あー、つまんねー」 と言いながら去って行った。
こういう人がお金持ちになるんだろうなぁ…… あと、天海くんって結構運が良いほうなんだな。目押しの実力かもしれないけど。
「それじゃ、景品交換しに行くっすか」
「なにか欲しいものでもあったの?」
「まあ、いろいろと」
なにか含んだように笑いながら階段を上っていく彼に続く。
「ちょっと待っててくださいね」
そう言って天海くんは景品交換所に向かう。
「3000枚くらいの景品なんてあったか…… ?」
「うーん……」
2人で悩んでいると、天海くんかカラカラとなにか音を立てながらこっちにやってきた。
白銀さんはその姿を見て一瞬で目を輝かせ、息を飲むという矛盾した行動を起こした。
それは、天海くんが彼女の絶賛していた〝 レイヤー御用達のキャリーバッグ 〟を持っていたからだ。
困惑するぼくらに天海くんは 「お待たせっす」 と言ってキャリーバッグを渡した。なんてスマートなんだ。こんなときにプレゼントなんて…… なんて言葉は出てきすらしなかった。
素直に白銀さんは喜んでいる。
「ま、まさかここでも相棒に会えるなんて…… ! 感動だよ! ありがとう天海くん!」
「で、香月さんはこっちっすね」
ぽふん、と渡されたのはテディベア。首にリボンの巻かれた可愛らしいクマだ。モノクマとは似ても似つかない可愛らしさ。もふもふのそれを胸に抱いて彼を見上げると、 「てんとう虫のブローチと迷ったんすけど、ずっと見てましたから」 と笑顔で言われた。
途端に顔が熱くなって、思わず胸に抱いたクマに顔を埋めた。
…… 素直に嬉しい。
「ありがとう…… 一生大事にするよ」
「はは、大袈裟っすよ。どういたしましてっす」
顔をクマに埋めながら横をチラッと見ると白銀さんがほっこりと微笑ましそうに笑っていた。恥ずかしい。
「やっぱり香月さんって可愛いものが好きなんだね」
「…… うん」
「喜んでもらえて嬉しいっす」
「あ、えっと、天海くんは? 天海くんはなにと交換したの?」
話題を変えたくてぼくは必死に話を振る。
すると察してくれたのか、天海くんがすぐに 「これっすよ」 となにかの雑誌を見せてくる。
〝 机上トラベル紀行 〟だ。確かに、彼は超高校級の冒険者だから旅行が好きなんだよね。
あれ、ということは、もしかしてさっき彼が言っていたスロットを遊んだことがあるってもしかして、ラスベガスじゃ…… ? いや、さすがにないよね?
「さて、目的も果たしましたし、もう少し中庭を探索してみるっすか」
「そうだね…… あ、さっき遠目にだけど、裏庭に行く右側の道に茶柱さんがいたと思うよ」
「え、そうなの? ぼく気がつかなかったよ」
「実はこのメガネはね、強すぎる視力を下げるための特殊なガラスでできてるんだよ!」
「えっ?」
嘘…… だよね?
「もちろん嘘だよ。迷われると地味に困っちゃうよ」
「あ、ああ、そうだよね。うん。」
「うんうんその調子」
「えっと、なにが?」
天海くんと白銀さんは目を合わせて頷く。
ぼくはいつの間にかクマから顔を上げていた。
「ううん、なんでもないよ。行こっか」
「まだまだ時間ありますし、のんびり周るっす」
ちゃっかりまた白銀さんに手を繋がれ、慌ててついていく。
クマを片手に抱えながら引っ張られる右手と、先頭で朗らかに笑う天海くんを交互に見てぎゅっと唇を引き結ぶ。
不安は彼らに追い出されてしまったみたいだ。
あんまり湿っぽくても、東条さんたちにたしなめられそうだしね。
ぼくは自然に綻んだ口元をそのままにして、笑った。
・テニスボール
軽率に星くんに渡してキレられたのは私だけじゃないですよね?
・天海の幸運さ
育成計画では狛枝や苗木という所謂〝 幸運枠 〟と同じく幸運特化なステータスです。99レベルで基礎が201。ちなみに最原は50。百田で70。白銀、真宮寺、セレスで100です。
こう見るとすごいですね。
主人公は恐らく忍耐と素早さ高めのバラエティタイプかな。罪木ちゃんと同グループ。