月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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決意を抱く

 モノクマにより質問コーナー!どんどんぱふぱふ!

 

 ―― え、彼女の様子がおかしすぎる? イレギュラー? そんなものあるわけないじゃん!

 ―― だって、全部予定調和なんだからさ!

 

 

 

 

 

 

 光が眩しい。

 頭が痛い。

 この眩しさには少し覚えがある。

 もう、何度か受けたような気がする。

 けど、それが本当にこれと同じだったのかは…… 分からない。

 

 無理矢理頭の中から掘り起こされたような、そんな光景はぼくを混乱させた。

 

 それは、ぼくが必死に逃げている思い出…… いや、映像だ。

 逃げて、逃げて、逃げて、必死に走り回ってついに辿り着いた。

 超高校級の才能を持つぼくを狙う大勢の目から逃れるために、とある施設で自分自身の記憶や能力を催眠により低下させ、封印する。

 そうして超高校級ではない、ただの高校生として生きようとした記憶だった。

 

 あまりにもリアルで、ついこの前のように自然に思い出せる。

 ともすれば、本当にあったことのように感じてしまうくらいの記憶。

 

 最原くんと赤松さんが見つけて、アンジーさんが調査していたその機械の名前は〝 思い出しライト 〟だ。

 まるでメン・イン・ブラックのニューラライザー。

 宇宙人を目撃してしまった一般人にピカッと光を当て、その記憶を消去し、その後の説明により記憶の刷り込みをする〝 記憶でっちあげ装置 〟に酷似している。

 

 ぼくにはなぜだか〝 オーディション 〟に勝手に応募された記憶があるし、ここがダンガンロンパというゲームを作るためのリアルな会場だということも理解している。

 思い出しライトによって元からある記憶が上書きされないところを見ると、やはりモノクマたちもぼくに記憶が残っていることに気がついていないのか?

 

 みんなはどうやら思い出しライトの内容を受け入れてしまっているようだし、やはりこれもぼくしか知らないこと…… どこに監視カメラがあるか分からない以上迂闊なことを言って、モノクマにこの記憶のことを悟られるわけにはいかない。

 誰にも相談はできない。

 秘密にしているしかない。

 

 顔色がどんどん悪くなっていくのが分かる。

 こんなもの、1人で抱えられるようなものではない。

 なんにも構わずにぶち撒けられたらどれだけよかったか……

 

「やっぱり、超高校級狩りのことは思い出せても、それがなんなのかはさっぱりだね」

 

 そりゃそうだ。

 だってそんなものいない…… はずだ。現実に超高校級の存在だっていないんだから、なおさらそんなもの存在するはずがない。

 あるいは、モノクマたちがそうと言えるのかもしれないけど。

 いくら探偵だろうと記憶を刷り込まれてしまったのなら、前提が崩れてしまい推理もなにもあったものじゃない。

 

「ケッ、出かかったクソみてーに気持ち悪ぃな」

 

 前提が覆ってしまった。

 間違った嘘によってみんなの思考が誘導されていく。

 このコロシアイは超高校級狩りによるものだと、思い込みが深まっていく。

 

 こんなことで、本当にいいのか。

 ぼくは打ち明けるべきなんじゃないか。

 でも、怖い。怖いんだ。

 一度言ってしまえば、言わなかったことには戻らない。

 そうなってしまえばどうなるかも分からない。

 

 イレギュラーがバレる。

 それが1番怖いんだ。

 

「この中の首謀者に聞けばいいんだよ!」

 

 王馬くんが言う。

 そういえば、この場には春川さんはいない。

 赤松さんの説得は失敗に終わり、連れてくることができなかったからだ。

 唯一思い出しライトを受けなかった人間として、多少興味があるけど…… あの人にちゃんと話を聞いてもらえるかは自信ないかな。

 そもそも威圧感が凄くて話しかけられないかも。

 

「首謀者って…… 結局見つけられなかったんでしょ?」

「最原たちが図書室で張ってたらしいが、その前に事件が起きちまったからな」

 

 白銀さんが言って、百田くんが答えた。

 そう、未だに首謀者は見つかっていない。

 首謀者がいるかどうかも確定はしていない。ぼくが破棄した、証拠のせいで。

 

 …… どう考えても戦犯だ。

 ぼくはいいように首謀者に踊らされているのかもしれない。

 

「のんきに友達ごっこなんてしてたら足元掬われちゃうんじゃない?」

「テメェ!」

 

 王馬くんが体育館を出て行く。

 百田くんはそれを追おうとしたものの、途中でやめて首を振った。

 疑心暗鬼で迂闊な行動を起こすのも、からかい口調の彼に付き合うのも無駄だと思ったのかもしれない。

 

「で、でも大丈夫ですよね…… これ以上コロシアイなんて起こりません……」

「そんなの起こさせないよ!みんなを守るのがゴン太の…… 紳士のできることだからね!」

 

 紳士って言葉の意味、分かってるのかな。

 

「あんな光景を見て、それでもコロシアイをするなんて非合理的なことするはずがありませんからね」

「そうじゃな、ロボット一体で壁の一部を破壊するのが1番合理的じゃ」

「なんでそうなるんですか!?」

 

 おしおきのことを言っているのなら、まあそうだね。

 不用意なことをすればぼくみたいに、クロでなくともおしおきを受ける側になる。

 それでなくとも、あんな風に…… 矜持も才能の意味もズタズタに引き裂かれて無意味だと思い知らせるような悪趣味な処刑を、それも無駄に苦痛の長続きする処刑のリスクを負ってまで殺しをするのはどうかしてる。

 これで終息してしまえばいいんだけど…… それで終わらないのが、この世界だよね。

 

「いずれにせよ、今の僕らにできるのはこの生活を享受しながら脱出方法を探すことくらいだネ」

「またライトが見つかればー、もっと手がかりが手に入るって神様も言ってるよー!」

「そっすね…… けど、罠である可能性もありますし、次はもう少し考えてライトに当たることにするっす」

「うーん、映画を知ってるからどうも不安になるよね…… 地味に信用できないっていうか…… でも記憶は記憶だもんね…… そんな技術あるわけないし……」

「やっと手がかりが見つかったんだし、この調子で頑張ろうね! 信用する、しないはともかくとしてさ!」

 

 まあ、赤松さんの言うことも最もだ。

 手がかりの1つであることは変わらないわけだし。

 

「与えられた情報を信じる、信じないも勝手だネ」

 

 必要な物を取捨選択すればいい。

 様々な可能性を考え、どの線からも追えるようにすればいずれは正解に辿り着くかもしれないわけだ。

 前提が覆ってしまっていたらいくら追いたくても追えない線が出てくるかもしれない。

 それを考えればぼくの記憶はおあつらえ向きだ。みんなとは違う。

 みんなと違って、ここがダンガンロンパというゲームを作るためのステージにすぎないことを知っている。

 ひとつ、みんなの知らない前提を知っている。

 これがあるだけで随分違うから、だからぼくは1人だけでなんとかしないといけない……

 

 みんなを、助けたい。

 これ以上の犠牲なんて出て欲しくない。

 心は弱くても、折れたくても、死にたくても、ぼくの命はもうひとつじゃないから。

 あいつらに、モノクマに抗いたい。

 天海くんが、白銀さんが死ぬところなんて、絶対に見たくない。

 欲張りかもしれない。けど、抗うと今決めた。

 きっとモノクマはぼくの弱点を知り尽くしているし、先回りだってしてくる。やることなすこと全て裏目に出るかもしれない。

 それでも、〝 ぼくがやりたい 〟から。

 次々と体育館から出て行くみんなを見守りながら、その隅に立ち目を瞑る。

 胸の前で祈るように手をぎゅっと握りしめ、誓う。

 

 絶望に屈しない……とまでは言えない。

 きっとぼくは1番心が弱い。だから絶望に屈したとしても、最善の行動くらいは選択できるように言い聞かせる。

 

 〝 みんなにとって 〟最善の行動を。

 たとえそれが裏切りに見えたとしても、ぼくは東条さんのように……みんなのために行動しよう。

 

 胸の中に芽生えたちっぽけな決意を飲み込み、目を開ける。

 

 もうほとんどの人は体育館を出て行ってしまった。

 

「これからどうするっすか? 行くんすか?」

「え?」

 

 あ、ごめん話聞いてなかったや。

 

「大丈夫? えっとね、茶柱さんがプールで遊ばないかって……」

「その場合俺は行けないっすけどね」

 

 天海くんが苦笑してこちらを見つめる。

 そっか、茶柱さんの提案だから男子である天海くんは行けないのか。

 …… いや、ぼくもちょっと遠慮しようかな。

 だってまだ火傷のあとが残ってるし。そんな状態で水着着てもなあ…… 可愛らしい水着には憧れるけど、せめてひりつく痛みがなくなってからがいい。ぼくはあんまり泳げないしね。

 

「ううん、やめとく。泳げないし…… 白銀さんは?」

「行ってみようかなって。ほら、地味に息抜きは必要だし」

「香月さんはこのあとどうするんすか?」

「えっと……」

 

 どうしようかな。

 やっぱりぼくの謎の原点はあの棺だし、調べてみたいけど…… 部屋でいろんな可能性を書き出して整理するのでもいい。

 いや、そんなことしたら監視されているから筒抜けか?

 まだ監視の目がどうなってるか分からない以上、あんまり目に見える行動は取らないほうがいいのかもしれない。

 

「ちょっと、行きたいところがあるんだよね」

「そっすか…… その、俺もやることはありませんし、ついて行ってもいいすか? 図書室のことは最原君たちがまだ調査しているみたいですし」

「それじゃあ私はここでお別れかな? 倉庫で水着選んで来ないと」

 

 あ、水着は倉庫で確定なんだね。

 そして、また天海くんは来るんだね……

 別に断ることもできるけど、どうしようか。

 

「……」

 

 ぼくが見つめていると、彼は少しだけ首を傾けてみせた。

 困ったような笑みを浮かべている。その目に映っているぼくがあまりにも不安そうな、固い面持ちをしていたから、ああこれ心配してくれているんだなと悟った。

 そうだね。今は打ち明けることができないけど、1人じゃないってだけで心強くなれるかもしれない。

 

 2人の分まで生きろって言うんだから、少しくらい協力してもらおう。

 彼がいないとすぐに心が折れかけるからね。

 ぼくの決意ってやつは柔軟性なんてなくて、きっとポッキリいきやすいし。添え木になってくれるっていうのなら、喜んで歓迎する。

 

 とりあえず、モノクマに対抗することを決めたのだから疑心暗鬼はもうやめだ。

 たとえ隣にいる2人のどちらかが首謀者であっても、お構いなしに利用してやるくらいの気概じゃないときっとハッピーエンドなんてやってこない。

 

「うん、植物園で調べたいものがあるからさ。一緒に来てくれると嬉しいよ」

「分かりました。とことん付き合うっすよ…… 元気出たみたいですし」

 

 もふもふと頭を撫でられる。

 これ、正直言うと苦手なんだけどなあ。緊張して強張った体を意識してほぐし、首を振る。

 それがなんだか犬のように見えたのか、彼は笑ってそのまま前を行く。

 

「あ、待って!」

「えっと、私は赤松さんたちについていくから…… またね、香月さん」

「うん、またね。その…… ありがとう」

 

 ぼくがそう言うと、白銀さんは目を丸くした。

 そして、穏やかに 「どういたしまして」 と告げる。

 ぼくは少しだけ恥ずかしくなってそのまま天海くんに激突するように走った。もちろん、途中で減速して体当たりはせずにいたけれど。

 彼はそんなぼくを見て手を差し出した。隣同士で、手を繋ごうと差し出される。けど、ぼくはそれが気恥ずかしくて、手じゃなくて彼のシャツの袖を摘んだ。

 

 家族に向けるような穏やかな笑み。

 まるで本当に彼の妹になったみたいだ。

 いや、ちょっと恥ずかしいよね、うん。あんまり深く考えないようにしよう。

 

 そうして、ぼくらは一緒に植物園に向かった。

 ぼくといえば植物園。植物園の手がかりといえば、やっぱり棺だ。

 北に、北にと向かい、整備された道を逸れて脇道に入る。

 脇道というよりももはやコースを外れたエリア外のような場所だ。

 これがゲームならば、道筋のないこのエリアは決して入ることができない。そんな隠し部屋のようなところ。

 そこに、棺がある。

 

「一応知ってはいたっすけど…… ここに用っすか?」

「うん。ここはぼくが目覚めた場所なんだけど…… 話に聞く限りみんななにかの中に入っていて目覚めたんだよね?」

「そっすね。学園の中で目覚めたみんなは大体ロッカーに入ってたらしいっす」

「僕の場合は…… あれだ」

「棺の中…… っすか。それはちょっと気の毒っすね」

「だよね」

 

 なんて軽く言葉を交わしながら棺を調べる。

 なんてぼくにぴったりな棺なんだろうか。まるでぼくのために(あつら)えたかのような大きさ。それに、周りに咲く花々。真っ黒だけれど、どこか芸術性を感じる棺のデザイン。

 棺に掘られたなんらかのデザイン。

 これら全てが謎で…… って、そういえば、このデザイン。見覚えがあると思ってたんだけど、なんなのかは覚えてないんだよね。

 

「天海くん、これってなんだと思う?」

 

 十字の真ん中にHのマーク。十字は少し崩れていて尻尾みたいな模様になっている……

 

「…… これは」

「どうしたの?」

 

 天海くんは大きく目を見開いて、言葉を失う。

 ぼくも、その次の言葉を聞いてリアクションの1つも返すことができなかった。

 

「これ、アンジーさんの校章じゃないっすか?」

 

 言葉の1つだって漏らさず、ただ口からは空気だけが抜けていく。

 見覚えがあるはずだ。だって、その模様はアンジーさんの黄色いコートの背中にいつもあったんだから。

 

 この棺がやたらと芸術的なのも、当たり前だ。

 だってアンジーさんは超高校級の美術部なのだから。

 

 校章があるだけで確定ではない。けど、アンジーさんが作ったらしい棺がここにある。

 それもぼくにピッタリなサイズで?

 どうして? なんのために?答えは……

 

 

 ―― 全部、全部ぼくが悪かったんだ

 ―― ぼくがあの子にあんなことさえ教えなければ…… そうすれば、こんなことにはならなかったんだろう……

 

 あ、頭が痛い。どうして…… どうして…… どうして……

 

 だから懺悔をさせてほしい。今、この瞬間に。

 

 思い出してはいけない。

 そんなもの、思い出す必要はない。

 こんな可能性は知らない。

 

 ―― ごめん……幸那(ゆきな)

 

 親友への懺悔。

 それは……

 

 ―― 先に死ぬぼくを、許して

 

 ぼく自身の、死に際。

 

 ―― 「ここにいるってことは、キミが首謀者なんすか?」

 

 絶望。

 振り上げられる魔の手。

 その前に、飲み込んだ毒の数々。

 

 ああ、そうだ……

 

 ぼくは1度、死んでいる。

 ぼくは……

 

 ――チュートリアルのはずなのにおしおきのないダンガンロンパなんてつまんないだろ? …… だから

 

 ――だから、

 

 

―― 「ざまあみろ」

 

 

 ぼくは、みんなが助かる最善の道として、自殺を選んだ。

 なんのひねりもない自殺ならば、おしおき対象がいなくなる。

 だから、そんなつまらない放送は誰も見ない。

 そう考えたから。

 

 死ぬ決意をした。

 

 でも、今こうしてぼくは生きている。

 どうなったのか、どうやっているのかは分からないけど、ぼくは戻ってきてしまっている。

 そして、2度目のぼくは自殺を選ばなかった。

 なぜか。きっと、心の中でそれが徒労に終わってしまったことを悟っていたからに違いない。

 でも、そのせいでこうして2人もコロシアイの犠牲者が出た。

 

 思い出した。

 この棺は、あのあとアンジーさんが作ってくれたものなのだろう。

 他ならない、死んでしまったぼくのために。

 

 ……

 

「香月さん… …どうしたっすか?」

「…… ごめん、ぼく頑張るよ」

「……」

 

 天海くんはしばらく沈黙して、それから 「よく分からないっすけど」 と前置きをして言う。

 

「頑張るのも大切っすけど、無理はしないでほしいっす」

「…… うん」

 

 あのときほどの勇気は持てない。

 ぼくの心は1度折られた。

 何度台無しにしようと、モノクマはそれを乗り越えてぼくらに絶望を与えてくるだろう。

 何度も、何度もへし折られる。

 けど、もう負けたくない。

 

 唇を噛みしめる。

 もし、もしぼくが行動することでなにかを起こせるのならば…… それに賭けてみるしかない。

 

「ねえ、天海くん。ぼくと友達でいてくれる?」

「…… 香月さんがなにを思っているのかは分からないっすけど、俺らは友達っすよ」

 

 少し困惑しつつもぼくを受け入れてくれる彼の笑顔を見ていたら、なにがあっても最善の行動でみんなを助ける。

 

 …… そんな決意を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ・なにか起こせたなら
 1話のタイトルは?

・主人公
 逆行? 転生? 記憶の書き換え? 実は別人? それとも……
 そもそも才囚学園はバーチャルかリアルか、それによっても考察が分かれるでしょう。
 どうぞ、お好きなように解釈してください。
 人の解釈を聞くのも私は好きです。

 ・ハッピーエンドに
 2週目バッドエンド前提絶望不可避

 * けど、あなたの小さな願いと決意で…… 彼女の幸せな3周目を迎えることができるかもしれない。
 * 紅鮭団に期待しよう。

 6章の〝 セーブ 〟演出が明らかに某地下のゲームの影響を受けてると考えているので少しだけリスペクトしてみました。
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