月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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自由行動④

 決意を新たに、ぼくは胸の前で拳を握る。

 天海くんはそんなぼくの事情なんて知らないはずだけど、なんだか微笑ましげに見てくる。

 棺は見れば見るほど確かに芸術的で、美しいデザインだ。

 ただの棺にしては凝ってるとは思ってたけど、まさかこれがぼくの記憶を引き出すきっかけになるとはね…… 例のライトみたいなのも見えなかったし、思い出したこの記憶だけは本物のはずだ。

 逆に言えばそれ以外の記憶は多少疑ってかかるくらいのことをしないといけないということだけど…… この記憶のほとんどが偽物かということはなるべく考えたくないな。

 まずはあのライトがどんなものなのか、それが分からないとどうしようもないし…… そのためには入間さんの協力が必要だけど、ぼくにはあんなアクの強い人に交渉できるほどの気概がない。

 モノクマに教えてもらう? 無理無理。そうなればこちらが記憶を嘘だと思っていることがバレる上に教えてもらえるか分からない。嘘を教えられる可能性もある。

 あいつはコロシアイのルールには従ってるけど、それ以外のことでは嘘つきだからね。賭けの1つにもならない無駄な徒労に終わる。

 

 …… うん、詰んでるよね。

 

 まず、ぼくにできることはなんだろう?

 いつもなら自由時間はお茶を飲んで芳香浴でもしながら考え事をしているけど、ぼく自身がなにか行動に移すのなら夜中出歩くことになるのかなあ。

 

「どうしたんすか?」

「え?」

「難しい顔してるっす。なにか、悩んでる顔っすね」

「え、えーと…… ぼくにも、なにかできることはないかなって思ってたんだ。ここに来て分かったのはやっぱり謎だけだし……」

「なら、この棺のことをアンジーさんに聞いてみるのはどうっすか?校章が入ってますし、なにか分かるかもしれないっす」

 

 アンジーさん本人に聞いてみる、か。

 でもそれって。

 

「不安っすか?」

「う、うん。正直…… 本人に聞くって怖いよ。それでもし〝 バレてしまったのならしょうがないねー、死ね! 〟って言われたらやだなって」

「はは、なんすかそれ。アンジーさんの真似っすか?」

 

 下手なのは百も承知だよ。

 それに彼女はこんなこと言わない。そんなことは知ってる。

 こんなのただのおふざけだ。

 

「うん、でももし彼女が〝 あちら側 〟だったら嫌だなって思っちゃって」

「…… そうやって尻込みしてても、進展はいつまでもないと思うっす」

 

 言いにくそうに天海くんに言われて、ぼくはハッとした。

 ぼくはなにかしたいとは思っていても、なにも行動できていない。

 少しの勇気を出すだけでやることはいくらでも見つかるはずなのに、それに手を出すのが怖くてなにもやらない。

 多少怖くても、吃っても、ちゃんと確認はしないといけないよね。

 そうだよね。あれも怖い、あれもやだって思ってたら一歩も進めない。

 

「…… アンジーさんを探そう」

「ええ、そっすね。探しましょうか」

 

 確かめないと。

 多分今の彼女は知らないだろうけど…… 聞かずに詳細不明になるより、聞いて事実を確定させてしまうほうがずっと堅実だ。

 聞かずにもやもやしてるだけじゃシュレディンガーの猫となにも変わらないよね、うん。

 

「えっと、マップは…… あれ、アンジーさんと茶柱さんと夢野さんが体育館にいる?」

 

 モノパッドのマップ機能を呼び出して確認してみれば女子3人が揃って体育館にいるようだった。

 ぼくのモノパッドを上から覗き込みながら、天海くんは 「行ってみるっすか?」 と提案する。

 

「3人……」

 

 ぼくはアンジーさんが1人じゃないことに少しだけ動揺した。

 いや、普通そうだよね。自由時間は誰かと過ごしているのが当たり前だ。

 茶柱さんと夢野さんはともかく、アンジーさんも一緒とは。

 アンジーさん、いつも神様がどうとか言ってるから1人でいることも多いし、あわよくば彼女だけに話が訊けると思ってたんだけど…… 世の中上手くいかないなあ。

 

「この分だと、話を聞くのはもう少し後かな…… 約束を取り付けられたらいいんだけど」

「お茶の約束でもして、ついでに訊けばいいっす」

「そうだね…… ぼく、頑張ってみるよ」

 

 天海くんがまたぼくの頭を撫でた。

 正直ちょっと撫ですぎだと思う。あまり触れられるのは好きじゃない…… けど、悪い気はしない。なんでだろう。

 真摯に応援されて嬉しいからだろうか。

 彼がぼくのやりたいことを知らないとしても、応援してくれているから嬉しい。

 

 そうして2人で体育館に移動した。

 

「キェェェェェェェ!」

 

 わっ、と驚いて声を出す。

 体育館の中では茶柱さんがなにやら声を張りながら演舞のように動き回っていた。

 夢野さんとアンジーさんはそれを遠巻きにして見ているようだ。

 でも周りになにやら小物が置いてあるところを見るに、夢野さんもなんらかのパフォーマンスをやっていた可能性がある。

 あの面倒臭がりな彼女がそうするとは意外だ。2人の影響だろうか?

 微妙に入りづらいけど、勇気。勇気だ!話しかけてなにをしているのか、まずは訊こう。

 

「や、やあ? みんな…… えっとパフォーマンスでもしてるの?」

 

 もっといい言い方があっただろうに!

 

「香月さん! …… と天海さん。転子たちは息抜きのためのイベントを考えている真っ最中なんです!」

 

 息抜き? イベント? 一体なんのことだろう。

 ぼくの変な話し方にも触れずに茶柱さんは演舞をやめ、ひと息ついたようにタオルで汗を拭く。あ、これガチャの景品一覧にあったスポーツタオルかな?自分で当てたのか、それとも2人のどっちかから貰ったのか…… まあいいや。ぼくもプレゼントは贈ったり贈られたりしてるし。

 

「イベント…… ?」

「うむ、イケメンな神様からのお告げじゃ。ウチがお主らを元気づけてやろう!」

「にゃはははー、秘密子その調子でどんどんアゲていこー!」

「ぐぬぬぬ……」

 

 あの無気力な夢野さんが神様とか言ってる…… いつの間に入信したんだろう。彼女なら全部めんどいで済ませそうなのにな。

 

「神様…… っすか」

「お主のようなイケメンな神様かもしれんのう……」

「……」

 

 茶柱さんが非常に微妙な表情を見せている。

 彼女もくるくる表情は変わるが、特に微妙なときや嫌そうなときは独特な顔になる。元が可愛らしいからそんなに変じゃないけど……

 それにしても、なんでぼくまでこんなに微妙な気持ちになるんだろう?

 

「神様はともかく、それでイベントってなにやるの?」

「ウチのマジカルショーと……」

「転子のネオ合気道演舞ですね! アンジーさんは舞台の装飾などを買って出てくれたので、豪華なイベントになりますよ!」

 

 超高校級の3人によるイベントか。それは、豪華だね。

 …… でも合気道なのに演舞? 体育館に入ったときから思ってたけど、演舞? 合気道って大体カウンター技とか、受け流しに特化した武道のはずだよね。ネオ合気道は演舞もできるということか。

 自己紹介の通りやっぱり自己流なんだな…… これでよく国家的にギフテッドに選ばれたね。この世界の政府設定がよく分からないや。

 

「イベントっすか。あんなことがあったあとですし、みんなを元気づけるにはいい提案っすね。いつ公演するんすか?」

「まだ未定じゃ。計画の段階じゃからな。それにやることもなにも決めておらん」

「行き当たりばったりなのだー」

「近日中にはやりたいんですけどね…… それでどんな内容をやるかここで見せ合いっこしてたんですよ」

 

 なるほど。

 確か茶柱さんたちはぼくたちが棺の調査をしている時間はプールで遊んでたんだよね。ならそのときに仲良くなったのか…… そしてそんな僅かな時間で夢野さんは入信したのか…… それは彼女を慕っている茶柱さんも微妙な気持ちになるというものだ。

 

「…… あの、よかったら夢野さんのマジックって…… 見せてもらえないかな?」

「魔法じゃ」

「うん、その魔法。1度見てみたかったんだよ…… そういうのってテレビでしか見たことないから」

 

 テレビでも滅多に見たことないから余計に見せてもらいたい。

 マジックショーなんて人生で1度も見れる機会なんてないと思ってたから夢野さんと出会えて結構嬉しいんだ。

 

「…… う、うむ。そんな顔をされるとウチは弱い。お主を全力で喜ばせてやるわい」

 

 夢野さんは少し恥ずかしそうに帽子をずり下げて目線を伏せた。

 そんな顔って…… そんなに物欲しそうな顔でもしてたかな。

 

「きゃー! 夢野さんの魔法がもっと見られるんですね!」

「おー、がんばれー。ふれー、ふれー、秘密子ー」

「と、とくと見るがよいわ!」

 

 なんだか小動物みたいだ。

 帽子をポーン、と飛ばして彼女はそのままキャッチすると、帽子の中に手を突っ込む。

 ふんす、と得意げな顔をした夢野さんはそのまま手を持ち上げる。

 するとそこ手の上には真っ白な鳩が乗っていて、クルッポーと鳴き声をあげた。

 

「え、えっ?」

 

 あまりに自然に行われたものだからぼくは声が出なかった。

 だってさっきからずっと帽子は被っていたのに、鳩なんて入れていたら動きで分かるだろう。

 それこそ動物なんだから暑かったり息苦しくて暴れるだろうし。

 

「ぼ、帽子見せてもらってもいい?」

「うむ、よいぞ」

 

 今までの不信っぷりが嘘のようにぼくに近づき、気軽に帽子を渡してくれた。宗教ってすごいな。こんなにも人の心を軽くすることができるんだ。あんなに周りは全部敵ってくらいに疑ってかかってたのに。

 

「空気穴もないし…… 羽根ひとつ落ちてない……」

「そんなことになっておったらウチの頭が鳥の巣になるじゃろ」

 

 それもそうだ。

 

「うむうむ、よくやったぞポチ子」

 

 ポチ子!? え、それ鳩の名前…… だよね?

 ええ…… さすがにそれは、って思って残り3人を見てみたら、天海くん以外は肯定的に微笑んでいた。天海くんは苦笑している。

 どういうことだよ…… 独特なアンジーさんはともかく、茶柱さんはもう少しこう、なんか思うところあると思ってたんだけど。

 

「夢野さんは可愛らしい名前をつけるんですね!」

 

 ああダメだこの人…… 夢野さんに関しては全肯定しちゃう。

 味方はやっぱり天海くんだけだよ……

 

「どうじゃ、香月よ」

 

 誇らしげは胸を張ってみせた彼女にぼくは先ほどの一瞬の出来事を思い出す。

 人生で初めてのマジック。しかも生だし、相手は超高校級。まるで本当に魔法を使っているみたいだった。

 やっと湧いてきた実感を噛み締めて頷き、ぼくは思わず夢野さんの両手を取っていた。

 

「…… うん、うん! ぼく初めてマジ、じゃなくて魔法なんて見たよ! ありがとう夢野さん!」

「そ、そうかそうか。喜んでくれてなによりじゃな」

 

 やっぱり夢野さんも生粋のエンターテイナーなんだな。

 人を自分のマジックで喜ばせるのが好きみたいだ。

 ぼくも初めて見たし、もっと彼女のマジックショー…… 彼女のいうところの〝 マジカルショー 〟を見てみたいな。

 だから、今回のイベントにはぼくも賛成だ。

 そういうときこそコロシアイに警戒しないといけないけど、全員で見張っていればなんとかなる…… かな。いや、落とし穴がありそうだ。

 きっちり目を光らせておかないと、2作目の最初みたいなことになりかねない。

 それこそ、ぼく1人で動いても被害者になりかねない…… それは嫌だ。そんなの最善の道ではない。

 …… そもそもぼくなんかに最善なんて選べるのだろうか。思考が凝り固まりすぎて空回りなんてことは。いや、考えちゃダメだ。ぼくがしたいことをすればいいんだろう。

 

 天海くんの協力があるのなら、あるいは犠牲を出さずに進むことが可能になるかもしれない。

 彼になら…… 話してもいいか…… ?

 でも…… まあ、いい。今はそれを決断するより、アンジーさんと約束を取り付けることのほうが大事だ。それか、この場で訊くか…… うん、一旦この場で遠回しに訊いてみるのが1番かな。

 

「アンジーさん、アンジーさん」

「んー、どしたの泪ー?」

 

 再び演舞の練習を始めた茶柱さんと、それを眺めながらジュースを飲む夢野さん。それを横目にアンジーさんはお祈りしていたみたいだけど、声をかけたらすぐに反応してくれた。

 

「泪も神様にお祈りするー?」

「えと、それは今度にしておくよ。えっとね、きみにちょっと聞きたいことがあるんだよね」

「聞きたいことー?」

「うん、きみって、ここに来てなにか……美術部の作品って作った?」

「作ってないねー、材料がないと神様もどうしようもないよねー」

 

 あ、そっか。まだアンジーさんは研究教室開放されてないもんね。

 芸術作品になりそうな材料なんて当然ないか。

 

 分かっていたことだよね。

 あの棺のことを彼女は知らない。

 それを今知れた。だからこの時点で目的は達成した。

 あれは彼女とは関係ないという結論となる…… 天海くん視点ではね。

 

 ぼくにとっては、まだ〝 前 〟の記憶があるので、彼女が関わっていないという結論には至れないけれど。

 

 もしかしたら、彼女と出身校が同じ人物がいただけかもしれない。

 そんな楽観的な予測を抱けるようになっただけだ。

 

 でも、これも立派な進展のひとつ。

 自ら動かなければ得られなかった予測と情報。

 

 うん、ぼくはまだやれる。

 

「そっか、アンジーさんの作品も見られるようになりたいな」

「違うよー、アンジーじゃなくて神様の作品だもん。でも、イベントが決まれば神様も張り切るって言ってるよー?」

「…… うん、楽しみにしてる」

 

 えっと、調査も探索も体力はいるよね。

 ちょうど体育館にいるんだし、茶柱さんに少しストレッチでも教わってみようかな。

 

「茶柱さん、基礎体力ってどうやってつければいいかな?」

「香月さん! 転子を頼ってくれるんですね! それではですねー……」

 

 最初は軽いストレッチと遊びから、ということでみんなでワイワイと遊んだ。

 疲れたけれど、楽しかったからかそんなにしんどくはない。

 

 * みんなとの絆が深まった! *

 

 

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