月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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後半は有料会員様限定動画(嘘)

 ※ 後半ラブアパートにつき恋愛要素注意!!

 

 

「こ、こんなに疲れるなんて……」

 

 各自で作ったお昼ご飯を食べたあと、ぼくは自室のベッドに寝そべっていた。

 まさか、ストレッチを教えてもらうつもりが基礎体力作りの運動とバドミントン対決になるとは思わないだろう。

 ちなみにアンジーさんと夢野さんには勝ったけど、当然天海くんと茶柱さんには負けた。ぼくがアンジーさんに勝てたのは彼女も運動が得意じゃなかったからだ。夢野さんは元からあんまりやる気がなかったので言わずもがな。けど、遊びに参加してくれただけでも進歩していると思う。

 前までの夢野さんだったら多分 「めんどい」 の一言で済ましているだろうし。ここまで変化したのはアンジーさんの影響だね。宗教の力ってスゲー。

 

「ちょっと休もう……」

 

 そうして、ぼくは白銀さんが迎えに来るまでゆっくりとお昼休みを過ごした。

 別に白銀さんに起こしてもらおうとか、そんなことは考えてなかったんだけど…… 結果的にぼくは彼女のノックの音で目を覚ました。

 眠っていたので軽く髪と服を整えてから扉に向かう。

 目覚めは相変わらず良いままだった。

 

「ふわ……」

 

 軽い欠伸を噛み殺して扉を開ける。

 そこには白銀さんがいて、 「夕食は一緒にどうかな? 私も作るから」 と誘ってくれる。

 もちろんぼくもそのつもりだったので一緒に食堂へ向かった。

 

「そういえば天海くんは?」

「ああ…… 今日は香月さんと別れたあとはカジノで遊んでたみたいだよ」

 

 カジノか…… 思ったより楽しかったのかな。スロット以外にもいろいろあったし、息抜きにはちょうどいいのかもしれない。

 天海くんはメダルを全部なくすようなやり方はしなさそうだし、適度に遊ぶのにはちょうどいいだろう。

 ギャンブル…… という点では思うところがあるけど、どちらかというとカジノというよりゲームセンターという印象が強いからなあ。

 ゲームセンターで遊ぶ天海くん…… なんとなく、格好も相まってお似合いな気がする。そういう学生いそうだよね。

 

「天海くんってゲーム上手なんだよね…… 少し見てたけど、簡単なやつは全部Sランククリア! …… って、Sランクって分かる? 最高の評価ってことなんだけど」

「うん、分かるよ。ちょっとならその手のゲームもやったことあるし」

「そっか、良かったよ…… もし知らなかったらショックを受けてたかも…… ほら、私ってオタクだから…… そういうの知らない人に出会ったことないっていうか……」

 

 まあ、うん。言いたいことは分かったよ。

 自分が当たり前に知っていることを相手が知らないっていうのはショックだよね。

 

「それで、天海くんは全部制覇しちゃったの?」

「うん、しかもすごいんだよ! 管理してるモノスケに交渉して易しい難易度しかなかったのを、最高難易度のイジワルまでできるようにしてもらったんだよ。そこでもSランクを次々と……」

 

 ちょっと話が長くなりそうだな…… まあいいか。

 難易度が最初は易しいしかなかったってことは、章が…… つまり犠牲者が出るたびに解放される仕組みだったんだろう。

 それを全部完璧にクリアしてみせて交渉したと。

 …… よっぽどほしい景品でもあったのかな? それもメダルがたくさん必要なやつ。うーん、そんなに荒稼ぎするほどの景品ってあったかな?

 

「景品、なにをもらうんだろう……」

「うーん、それは知らないかな。夕食の時間が迫ってたから、メダルをモノスケに預けて結局交換はしなかったみたい」

「そっか」

「あ、そうそう…… カジノといえば最原くんも暇なときは入り浸っているみたい」

「最原くんも……」

 

 見るからにらしいというか…… あ、いや、これは偏見だな。

 それなら百田くんとかギャンブルに大失敗していそうなイメージあるし、星くんはタバコ…… じゃなくてシガレットくわえながら稼いでそうだ。

 あと、真宮寺くんが霊的な力で荒稼ぎしてそう。

 いや、これも偏見だな、うん。やめておこう。

 

「結構みんな遊びに行ってるみたいだね。新しい場所だからか、手がかりがないかを探しているみたい」

「なるほどね」

 

 そんな雑談をしながら、食堂に入る。

 集まっている人はまばらだけど、みんな不安や恐れは感じていないようだ。おしおきの直後みたいに沈んだままの人はもういないみたい。

 

「なに、携帯食料で充分でしょ」

「いいや、そんなことはねぇな。しっかり食って栄養つけとかないとモノクマ共に対抗なんてできないからなあ!」

「なんで私に構うの。最原のほうが不健康そうなんだからそっちに行けば」

「おう! それもそうだな。なら春川、お前も一緒に行くぞ」

「は?」

 

 百田くんがどうやら、携帯食料を持って自分の研究教室に篭りに行こうとする春川さんを引き止めているようだ。

 その間に調べに行っている人でもいるのかな。

 

「関わらないでくれる?」

「ったく、なんでそう素っ気ないんだよ」

「必要がないから」

 

 いや、きっと彼は完全なる善意で行なっているんだろう。

 この隙に不意打ちしてる人はいそうだけどね…… さっきこの光景を見ながら離脱した王馬くんとかね。

 春川さんは早く振り切らないと研究教室の全容がバレちゃうよ。なんで秘密にしているのかは分からないけど。

 保育士らしいファンシーな教室だったりするのかな?彼女の趣味じゃないから恥ずかしいとか…… ?

 鍵がかからないというのも大変だな。

 

「はあ…… しつこい」

「あ、おい春川!」

 

 春川さんは無理矢理百田くんを振り切って出て行ってしまった。

 小走りだったのでわりと焦っていたんだろう。彼女のことだからこの時間に食堂に来るとは思っていなかった。

 もっと夜中とかに食料を…… あ、そっか夜時間は食料取りに来れないから仕方ないのか。だからあんな大量に携帯食料を持って行ったんだな。

 

「え!? 入間さん料理できるの!?」

「な、なな、なんだよぉ…… ! できたら悪いのかよぉ!」

「ううん、私やったことないから教えてもらってもいいかな? …… 最原くんに作ってあげたいし」

「うるせぇ貧乳ビッチ! 胸も貧相なら頭の中身まで貧相だな! このオレ様を利用できると思うなよ!」

「貧相じゃないもん! 入間さんの牛女!」

「う、う、牛ィ…… ? な、なに言いやがる。誰にでも搾られて喜ぶみたいに言うなよぉ!」

「そこまで言ってないよ!?」

 

 いつの間にか赤松さんも入間さんと仲良く…… 仲良く? なっているみたいだ。

 入間さんの対応にも慣れたものだ。それにしても、あれだけの罵倒をかいくぐってまで彼女に付き合えることを尊敬する。

 

「あ! そういえばゴン太くんはいないね」

 

 白銀さんが言う。

 確かに。全員がこの場にいるわけではないけど、あの人がいないと食堂が心なしか広く感じる。いつも大きな体を小さくして美味しそうにご飯を食べてたし…… どこにいるんだろう。自室かな。

 

「ゴン太クンならたくさん果物を持って帰りましたよ」

「あれ、キーボくん……」

 

 キーボくんって食べ物必要ないよね?

 

「なんで食堂にいるの?」

「っぐ、なんだかロボット差別されたような気がします…… 夕食会議を毎日開いていたんですから来るに決まっているでしょう! 今はやってないようですが…… 行ったほうがいいと内なる声も言っていることですし」

 

 なにそれ、キーボくんまで宗教? アンジーさんすごいな。

 ロボットの停止した先に行く場所なんてないだろうけど。そもそも普通の人間にさえあの世があるかどうか分からないのにさ。

 

「お、来ましたか」

「天海くん?」

 

 いないと思ってたら、キッチンにいたのか。

 彼はその手にオムライスを乗せた皿を持って、こちらにやってきた。

 

「さあ、どうぞ。できたてっすよ」

「え?」

 

 彼が皿をテーブルに置き、もう2皿持って戻ってくる。

 しっかり3人分のオムライスがテーブルに並んでいた。

 

「あちゃー、私たちも作るつもりだったけど、先を越されちゃったね」

「…… うん」

 

 料理までできるとか、天海くん本当にすごいな。

 

「いやー、まともな料理って久々なんで、味の保証はしないっすけど…… それでもいいなら食べてほしいっす」

 

 まともじゃない料理とはいったい。

 ぼくが疑問に思ったのが分かったのか、天海くんは苦笑して「外国を旅してたんで、旅の途中で覚えた即興料理とかのほうが得意なんすよ」と頬をかいた。

 

「現地調達とか、代用品を使った料理とか、その地域だけの独特な料理っすね」

「へえ……」

 

 忘れそうだったけど、彼は超高校級の冒険者だった。

 旅料理か…… ちょっと憧れるかも。

 

「いただきます」

 

 白銀さんと席について彼の料理を食べる。

 正直喫茶店で食べるような料理か、それ以上に美味しい。おしゃれな感じがする…… なんだか、普通のオムライスと違うような?

 

「なにか隠し味でもあるのかな?」

「それは秘密っすね」

 

 あるんだ。

 アレンジ料理も得意ってことなんだな。すごいや。

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」

「おそまつさまっす」

 

 明日はぼくか白銀さんが料理するようにしないと。やってもらってばかりでは申し訳が立たない。

 

「それじゃあ…… もうそろそろ帰りますか」

 

 空はもう薄暗くなってきている。今日はかなり平和的に終わったな。

 この調子で日々続けばいいんだけど。

 

 ぼくは昼寝で少し目が覚めていたけど、それでも目を瞑った。

 明日もまた楽しい1日でありますように……

 

 

 

 ――

 ――――

 ――――――

 

 

 

 …… 愛の鍵を使用しますか?

 

 > はい

  いいえ

 

 

 

 ドアノブが、回った。

 

 

 

 ぼくは気がつくと、その部屋にいた。

 ゆっくりと目を開け、周りを見渡す。ぼんやりとしていてそこがどこなのか、しばし悩む。

 そして、頭の中に嫌なフラッシュバックが起こった。

 

「…… そうだ」

 

 ぼくはこの目に悪い赤とピンクの最悪な場所に連れて来られたんだった。

 父親は最近ずっとおかしなことを言っていて、お母さんはぼくが父親を取ったのだと言って罵倒する。そんな家が嫌で、でも幼馴染にはそんなことを隠して振舞っていた。

 

 けど、とうとう父親がぼくを無理矢理こんなところに連れてきた。

 鍵はとったからと部屋に放り込まれ、あの人はどこかに行ってしまい、ぼくは1人きりで鍵のかけられたこの部屋に震えながら待っていた。

 この最悪な時間が早く過ぎ去ってしまうようにと、必死に目を瞑って眠ってしまおうとしていたんだ。

 だけど、それも失敗した。誰かがこの部屋に入ってきたから。

 

 ああ、最悪な時間が始まる。

 でも、扉を開けたのは父親ではなかった。

 

 扉を開けて、驚いた顔をしているのは…… 幼馴染の天海くんだった。

 

「……」

「えっと…… なんで、きみがここに……」

 

 天海くんはぼくとこの部屋を軽く見回してから悩み出す。

 ぼくとしてはどうして彼がこんなところにいるのかが疑問だった。

 

「父さんが来ると思ってたけど……」

「お父さんっすか?」

「あ、いや、違うんだ…… なんでもないよ……」

 

 彼はなにかを理解しようとするようにぼくを観察して、慎重に言葉を選ぶように振舞っている。

 ぼくも、なんでこんなことになっているのか訳が分からなくて言葉が見つからない。

 

「こんな場所にいるのは、変だよね…… こんな…… 場所に、ぼくみたいな未成年がさ……」

「え? あ、そうっすね……」

 

 天海くんはまだなにかを把握できないような表情で返事をする。

 どうしたんだろう?そもそも、彼はなにをしに来たんだろう。どうして、この場所に入ることができたんだろう。鍵がかかっていたと思うのだけど。

 

「えっと、香月さんはどうしてここにいるんすか?」

「…… 無理矢理連れて来られたんだよ。今までは、きみに隠してたけど…… ぼく、お父さんに気に入られてるから。まだ一線は越えてないけど、きっともう、ダメなんだろうね」

 

 だから、本当は誰かに助けてほしかった。

 でも、それも望みはない。頼みの母は女として、ぼくが嫌いになった。親戚に頼れば気持ち悪がられ、ぼくが悪いとみんな言う。

 誰にも頼れず、誰も助けてくれず、怖くて自分から動くこともできずに取り返しのつかないところまであともう少し。

 崖っぷちに立たされたような、そんな状況。もう誰にも頼らない。頼れない。幼馴染の彼にはなおさらだ。巻き込みたくないという思いもあるし、なにより…… 知られたくなんてなかった。

 

 きっと軽蔑されると思っていたから。

 嫌われてしまう。気持ち悪がられてしまう。彼にそんなことを思われたら、ぼくにはもう心の拠り所がなくなってしまう。

 

「今まで堪えて来られたのはきみのおかげだよ。ありがとう。でも、もういいんだ。気持ち悪いでしょ? 父はぼくの中に若い頃のお母さんをみてる。お母さんはぼくじゃなくて、父を見てる。そんなの、もういやなんだよ……」

「…… 香月さん、なにがあったのか話してくれないっすか?」

 

 天海くんが問いかける。

 その表情は、ああ、とても優しくて。ともすれば頼りたくなってしまうような求めていた救い。

 

「きみには妹がいるんだったよね」

「ええ、そうっすね」

「幼馴染だし、妹さんのことも知ってるけど…… いい子だよね。きみと同じように、とても優しい子」

「幼馴染…… そうっすね。きっとそうなんでしょう」

 

 ぼくが話すたびに、ぼくが扉が再び開かないかと怯えている事実に、彼は目をそらさずこちらを見据える。

 

「ねえ、天海くんも、ぼくじゃなくて妹さんを見てるんでしょ?」

「…… どういうことっすか」

 

 天海くんの声のトーンが低くなる。

 それに少しだけ恐れて一歩後ずさる。もう後ろはやたらと豪華なベッドしかない。

 

「きみはいつもぼくを妹みたいに可愛がってくれるよね。お世話を焼いてくれる…… 友人として。でも、それは違うでしょ?」

 

 衝動的な涙をこぼしながら、言う。

 ずっとずっと不満だったことを。ずっとずっと引っかかっていたことを。

 

「…… きみが見ているのはぼくじゃない」

 

 彼が見ているのは、妹さんだ。ぼくじゃない。

 誰も、ぼく自身を見てくれてなんかいない。ぼくは誰かの代わりとしてしか見てもらえない。

 

 そんなのは、もう嫌なんだ。

 

「きみがぼくを通して見ているのは、妹さんだ」

「……」

 

 思い当たる節があるように、天海くんはおし黙る。

 

「誰かの代わりになんか、なりたくないんだ。ぼくはぼくなのに、誰かと比べられるのも、重ねられるのも、嫌なんだ! そんなのもうたくさんなんだよ! だから」

 

 ―― 天海くんなんて、大嫌い

 

 致命的な一言を吐いて捨てる。

 じくじくと痛む胸中を無視して、突きつける。

 

 本当はずっと嫌だった。妹扱いされるのが、年下のように扱われるのが、世話を焼かれるのが、頭を撫でられるのが、その全てが、ぼくを同等に見てくれているわけじゃないと切り捨てられているようで、嫌だった。

 そんな本音をぶちまけてから、〝 言ってしまった 〟と後悔する。

 

 ああ、これで本格的に嫌われただろう。

 心の支えだった彼を、自分から拒絶した。

 生温く、柔らかい幸せを与えてくれていた彼を、大嫌いなどと言って。

 ぼくは最低だ。

 こんなもの、全部ぼくの我が儘なのに。

 

「確かに…… 俺は少し勘違いしてたかもしれないっす」

 

 気がつくと天海くんがすぐ目の前に迫っていて、驚いてぼくはその場に尻餅をつく。

 すぐ後ろがベッドだったからそこに座るだけになってしまったけれど、すぐ目の前。見上げれば天海くんが真剣な顔でぼくを見下ろしていた。

 

「香月さんの気持ちが聞けて良かったっす。じゃないと、ずっと俺は間違ったままだったと思うっすから」

 

 まるで、ぼくを愛しいものを見るような目で。

 

「でも、きみが見てるのは」

「そうっすね、キミを通して…… まだ見つからない妹たちのことを考えてました。それが失礼なことだと知っていながら、そうしてたっす。妹が見つかったらこんなことをしてあげたいって、そんな風に。それが嫌だったんすよね。当たり前っす。香月さんは香月さんっすから」

 

 どうしてぼくを受け入れようとしているの?

 当たり散らして、その上ぼくは汚れている。まだなにもされてはいないが、遠からずそうなるだろう。

 だから早くぼくなんかのことを忘れて、天海くんは天海くんで恋人の1人でも作ればいいんだ。

 ぼくみたいなお荷物がいたら、天海くんの人生が台無しになってしまう。

 だから今ここで切り捨ててほしかった。

 今後彼にはぼくを忘れて、幸せになってほしかったから。

 

「香月さんのことはまだそこまで詳しく知らないっす。でも、少しだけ悲観的で、可愛いもの好きで、とっても優しい子だってことは知ってるっす。これからもきっと知っていくことになるっす。いや、違うっすね。俺は知りたいっす。きみをなにがここまで苦しませたのか。臆病なキミが安心していられるように…… って、ちょっとくさい台詞っすかね」

 

 はは、と軽く笑って彼がしゃがみこむ。

 そしてベッドに座ったままのぼくの手を取った。

 彼は真摯にぼくを見てくれている。なら、ぼくも望みを言わないと。答えないと。だから、しっかりと彼の目を見ながら…… 口に出す。

 

 「ぼくを、〝 ぼくだけ 〟をなんて我が儘は言わないから…… 誰かの代わりじゃなくて、ちゃんとぼくを見てほしいんだ」

 

 本音に次ぐ本音。もう1つの〝 願い事 〟

 

「本当は、ずっと助けてほしかった」

 

 誰にも言えなかった。叶わないと思っていた願い事。

 

「ここから、ぼくを助けて」

 

 ぼくの手を握ったまま天海くんは頷く。

 

「約束するっす。必ず、香月さんを助けてみせるっすよ」

 

 天海くんは照れたように 「またくさい台詞っすよね」 と笑いながらぼくの手を引き、立ち上がらせる。

 

 今度は別の意味の涙が出てきた。

 ぐすぐすと泣きながら、必死に手でこする。そんなことをしたら次の日目が腫れちゃうな、なんて思いながら。

 

「それじゃあ行くっすか。こんなところ早く出ちゃいましょう」

 

 彼の手に引かれてぎこちない足取りで歩く。

 遥か遠くにあるように思っていたこの部屋の出口はすぐそこにある。

 

 ずっとずっと、憧れていた。

 小さい頃見たお話の中のプリンセス。囚われのお姫様は、王子様がやってきて助けてくれる。そして文句なしのハッピーエンド。

 でも、いざ体験してみるともういいかな…… と思う。

 だって過程が不幸すぎて、もう2度と体験なんかしたくないから。

 夢は所詮夢だったということだ。プリンセスなんて柄でもないし、憧れというものは届かないものなんだから。

 

 だけど、今度ここに来るのだとしたら…… こんな悪趣味なホテルごめんだけど、もし次があるのだとしたら。

 

「きみ以外は、嫌だな…… なんて」

「どうしたんすか? いきなり」

「ううん、なんでもないよ…… ありがとう、天海くん」

「どういたしましてっす」

 

 そうしてドアノブが捻られた。

 扉が開き、そして……

 

 

 

 ――

 ――――

 ――――――

 

 

 

「…… ん、うっ…………」

 

 目を覚ましてて体を起こすと、自分の頬をなにかが流れていって、やっと自分が泣いていたことを知った。

 

「あ、れ…… ぼくなんで泣いてるの…… ?」

 

 後から後から溢れ出す涙に困惑しながらごしごしと拭う。

 でもなぜだか、不思議と嫌な涙じゃない気がした。

 

「嬉しい…… ?なんで?」

 

 幸せな夢でも見たのだろうか。

 

「確か…… 誰かと大事な約束をしたような……」

 

 内容は思い出せない。けど無性に天海くんに会いたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ( …… こいつらいつもオムライッス食ってんな )

 ・ラブアパ
「ぼくを、〝 ぼくだけ 〟をなんて我が儘は言わないから…… 誰かの代わりじゃなくて、ちゃんとぼくを見てほしいんだ」

 という台詞が恐らくフルボイス部分になるんでしょう、きっと。
 原作もそうですが、女性陣のラブアパはアウト描写が多くてよく通ったな…… と思ってばかりです。

 香月泪のラブアパテーマは 「背景事情」 と 「プリンセス願望」 の合わせ技です。女の子なら1度は憧れるよね、きっと。
 女の子らしさに憧れている彼女はこういう妄想。背景事情が絡むので赤松さんラブアパと同じく、理想の役を天海くんに重ねているわけではなく、天海くん自身を理想の相手として描写しています。
 赤松さんの妄想が最原くん以外に想定されていないように、です。
 だから他の人が相手のラブアパはもう少し違った内容になると思います。多分ね。
 恋愛描写苦手な人は申し訳ありません。タグ追加したほうがいいのかな…… ?
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