月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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見当たらない名前?

 3人で相談した結果、気になる場所を調べてまわることにした。

 食堂から近いのはどこだろうか。まずは中から回ろうかな。

 

「あ、ごめんね……」

「ううん、こちらこそ急に開けてごめん」

 

 白銀さんが扉を開ける前に向こう側から開かれて、そんなやりとりが聞こえてくる。

 どうやら赤松さんが食堂に戻ってきたみたい。

 

「あれ、赤松さん1人だけ?」

 

 ぼくが思わず疑問を口にすると彼女は少し恥ずかしそうに 「いつもくっついて歩いてるわけじゃないよ?」 と言った。

 確かにそうかもしれない。

 

「仲良いですから、セットのイメージがあるんすよね」

「それは…… 最原くんは大切な友達だから」

 

 聞きようによっては彼が絶望しそうなことを赤松さんが言う。本人も照れながら言っているから恐らく特別だとか、そういう感情を肯定も否定もしていない複雑な心境なんだろうね。

 友達以上恋人未満というか…… まだ気持ちが曖昧というか、ちょっとそういう関係憧れるや。

 

「ま、まあ、でもここで待ち合わせしてる事実はあるんだけどね!私の研究教室なら〝 愛の挨拶 〟でも演奏しながら待てるんだけど……」

 

 喫茶店とかで聞くことのある曲…… だったかな。多分聞けば分かるんだと思うけど。

 その曲を選ぶ辺り彼女の心情がなんとなく分かるな。

 

「最原君はどちらにいったんすか?」

「えっとね、前に図書室に仕掛けをしたって話はしたよね?」

「うん、首謀者対策でカメラを仕掛けてたんだっけ?」

 

 白銀さんが思い出しながら言葉にすると、それに赤松さんが答えるように 「それ以外にもある仕掛けをしてあるんだけど……」 と続ける。

 

「それ以外にもなにかしてるの?」

「うん、これだけは私たちだけしか知らないよ。首謀者があの隠し扉を使ったかどうかを判別する方法があるんだけど…… 最原くんはその確認をしに行ってるんだよ。その間、私はアンジーさんたちにイベントの演奏を頼まれたから、少し話してたんだよね」

 

 ああ、イベントに演奏はつきものだもんね。

 あれ、でもピアノ演奏だけでいいんだろうか…… 本人たちがいいなら問題ないんだろうけど。ドラとか使わないのかな? 多分倉庫にもないだろうけど。

 

「っていうか、それってアンジーさんたちの話がなかったら2人で行動してたってことだよね」

「うう……」

 

 顔を真っ赤にして俯いた赤松さんの反応で、その予想が正しいと分かってしまうね。

 まだ1週間も経っていないのに、恋って突然くるものなんだなあ。

 

「なるほど、最原君だけ確認できるものなんすね?」

「う、うん! そうなんだよ! すごいよね! あれで自分の才能を卑下してるなんてもったいないよ。私はもっと自信を持っていいと思うんだけど……」

 

 被せるように言って恥ずかしさを誤魔化しているように感じる。これ以上突っ込んだことを話したら可哀想かもしれない。

 

「なら、図書室は行かなくても良さそうっすね」

「うん、2人がこれだけやってるなら調べ尽くされてそうだしね」

 

 役割分担というやつだね。隠し扉は気になるけど、探偵の最原くんが管理しているなら大丈夫だろう。万が一があったとしても、赤松さんも一緒に行動しているから、そう迂闊なことはしないだろうし。

 2人以上で固まって動いているなら、その中に首謀者が混じっていたとしても動きにくくなるはずだ。

 そう考えると…… 最近は入間さんといるとはいえキーボくんは怪しい。ロボットだし、首謀者の手先という可能性も十分あり得る。

 キーボくんが違ったとしても入間さんが首謀者で、知らないうちにカメラの映像を拝借してたり回路をいじって意識を奪った状態で操ったり…… 出来ちゃいそうなんだよなあ。

 王馬くんはよく分からないし…… 首謀者ならあんなに引っ掻き回したりするものなのかなあ、と疑問が先に立つ。

 真宮寺くんは1人のほうが多いけど、ここしばらくは夢野さんを観察する行動が目立つ。ストーカーみたいで正直怖いんだけど、赤松さんに話を聞くと 「悪い人ではないんじゃないかな? 民俗学の話も面白いし」 と返ってくる。保留。

 ゴン太くんは1人でいることが多いけど…… あれで裏があったらぼくは泣く。降参だ。

 春川さんは元から群れるのが嫌いみたいな雰囲気があるし、もし首謀者だったらあそこまで孤立しようとするのはかえって目立ちすぎる。今も百田くんは彼女に付きっ切りでどうにかこうにか団体行動をさせようと必死だ。

 ぼくらの性格がある程度割れているのならばそうならないように行動するだろうし、春川さんも可能性は低い。

 

 …… 正直、ぼくも疑っている人は何人かいる。

 けど確証が持てないから全部保留にしているんだ。もう少し証拠を集める必要がある。これはダンガンロンパの舞台。対決するなら、それは裁判場でだ。

 

「……」

「香月さん、難しい顔してるよ」

「…… ? あ、えっと、ごめん」

 

 考え込んでいたら白銀さんが目の前で手をひらひらと振った。

 ついつい考えていると手も足も止まってしまう。

 

「それじゃあ、どこに行く?」

「そっすね、なら同じような場所でゲームルームとAVルームはどうっすか?」

「調べてないんだっけ、そうだね」

「新しい場所は? 確かゴン太くんの研究教室も開いたんだよね」

「なら、次は3階も含めて探索っす」

 

 話しながら移動し、赤松さんに手を振る。彼女も快く振り返して見送ってくれた。

 そして、廊下の途中で走る最原くんを見かけたので 「赤松さんが待ってるよ」 と一言。彼は 「ありがとう!」 とだけ言いながらすぐさま食堂の方へ向かっていった。思ったよりも遅くなっちゃったのかな。

 

「廊下は走っちゃダメなんだよー!」

「そういうキサマも走っとるやないかーい!」

「みんな走ってる時点で同罪だわー!」

 

 そんな最原くんを追ってるらしい3匹のクマともすれ違う。モノキッドとモノダムがいないので、別行動か、いじめてる真っ最中か…… ともかくぽてぽてと可愛らしい足音を残してモノクマーズも食堂の方へ行った。

 

「図書室に隠し扉があるんすから、こっちのゲームルームか…… 本命はAVルームの奥っすね。そっちにもなにかあるかもしれないっす」

 

 天海くんがそう言って、ゲームルームを通り越してさっさとAVルームに入っていく。図書室の隠し扉のある方向とAVルームのスクリーンの場所は、地図を重ね合わせれば同じような位置にある。怪しいと思うのも無理はないと思う。

 天海くんが扉を開けっぱなしにして奥を調べているので、ぼくはゲームルーム内を調べることにした。広さはAVルームと同じくらいだし、どっちを調べても効率はいいだろう。

 

「じゃあ私はこっちの映像に変なものがないか見ておくね」

 

 奥を中心に調べている天海くんとは違い、白銀さんは手前側のラックに置かれたDVDケースを調べ始めた。

 

「なにこれ…… 五十音順でもないし、雑すぎて地味に気になるかも……」

 

 どうやら軽い整理整頓まで始めてしまったみたい。

 うん、本棚とか並びがバラバラだと気になる気持ちは分かるよ。

 あれでは時間がかかりそうだね。今日中に全部調べられればいいんだけど。

 

「ゲーム機は……」

 

 スタートボタンを押してみる。動かない。

 やっぱりゲーム機の電源は木の根っこに邪魔されたり切断されてしまっていて使い物にならない。ゲーム機…… ってことだから、なにかあるかと思ったんだけど。

 

「えっと……」

 

 ゲーム機についているのは定番の◯△□×のボタンと、1から9までの数字のボタンに十字に動かせるレバー。あとなにかを切り替えするようなボタン…… 格闘ゲーム機とかこんな感じだっけ? あんまり見たことないから違うかもしれない。見た目だけはゲームセンターにあるようなやつだと思う。ボタンがかなり多いような気はするけど。

 

「……」

 

 ちらっとAVルームを見る。

 2人は集中してこちらを見ていない。

 

「えっと、て、適当に数字でもいれようかなあ」

 

 わざとらしく呟いて、電源の入っていないゲーム機に番号を入力する。その番号はもちろん、ダンガンロンパという作品にとって大事な数字。

 

 〝 11037 〟

 

 ただしキーパッドには〝 0 〟がないので、代わりに◯ボタンを押すようにする。

 そうして入力した途端、ゲーム機に電源が入った。

 

「…… っ、と」

 

 悲鳴を押し殺して、震える手でゲーム機の◯ボタンを押す。

 映像が切り替わり、 「あなたの名前を入力してください」 と出る。まだ中を見ることはできないみたいだ。

 ここで自分の名前を入れるのは怖いけど、他の人の名前を入れるのはまるで生贄にするみたいで嫌だ。自分の名前を入力してみるしかないだろう。

 

「かづき、るい…… っと」

 

 〝 ERROR 〟

 

「えっ…… ?」

 

 驚いて、思わず声を漏らす。

 すぐさまもう一度自分の名前を入力してみるが、やっぱりエラー表示だ。

 

「首謀者の名前しか受け付けない…… とか?」

 

 それなら総当たりすれば首謀者が分かるんじゃないか? そう考えて赤松さんの名前を入れてみる。

 

 〝 認証 〟

 

 息を飲む。

 画面が切り替わると、そこには文章だけが表示された。

 

 〝 姉妹共にオーディションで合格 〟〝 妹は補欠に認定 〟

 

「あれ…… ?」

 

 この文章ではとても彼女が首謀者だとは思えない。

 画面をいくらか戻して今度は最原くんの名前で入力してみる。

 

 〝 認証 〟

 

 〝 事務所の人間が捜索願を提出中 〟〝 数ある事件を解決 〟

 

 やっぱり同じように名前が認証され、次の画面に映る。そして、その人物についての情報が少し知れるようになっているようだ。

 

 そうして全員試して……

 

「真宮寺くん……」

 

 〝 認証 〟

 

 〝 姉が死去 〟

 

 最原くんも事務所の人がいるみたいだし、全員誰かしら大切な人や物があるのが記入された情報によって分かる。

 

「兄弟持ち…… 多いな」

 

 現実逃避に近い独り言を漏らす。

 名前が認証されなかったのは、ぼくただ1人だった。

 

「なんでだ…… ?」

 

 考えても答えは出てこない。

 ぼくはちゃんとここにいる。なのに名前が認証されないのは…… なぜ? ぼくが首謀者? いやいや、そんなこと有り得ない。首謀者が関わった事件がすでに起きていて、そのときぼくは自分の意思でもって行動していた。棺で目が覚める前に自ら記憶を消した首謀者でしたーなんて、そんなことはないはずだ。

 そもそも最初は参加者じゃなかったとか? 寮の部屋もそうだけど、男女のど真ん中とか、17人目がどうのとか、特別とかなんとかモノクマーズも言ってたし…… 急遽ぼくが参加者の中に捻じ込まれたのだとしたら?

 それならいろいろとある違和感もある程度筋が通る気がする。

 だからこそぼくの記憶は無事だったのかもしれないし。

 

「……」

 

 見られていないことを確認してからゲーム機の電源をオフにした。

 

「2人はなにか見つかった?」

 

 そうして、なにも見なかったことにして2人を確認しにいく。

 わっ、白銀さんが整理整頓に熱中しすぎてすごいことになってる。見事な五十音順だ。

 あれ、でもこの一角だけ隔離されて…… ?

 

「っなんでこんなのが……」

「あー、見ちゃった? モノクマも律儀だよね。確かに私たちは思春期だけど…… 下世話っていうか……」

「いや、白銀さんがわざわざ隔離してくれたのに見ちゃったのはぼくのミスだね、ごめん」

「ううん、大丈夫?」

「うん」

 

 思春期の高校生には刺激の強いDVDだと思うよ、うん。

 鳥肌が…… 嫌な思い出がいろいろ脳裏を横切って不愉快なことになってしまった。モノクマめ……

 

「白銀さん、よく平気だね……」

「平気ではないよ? でも乱雑に整理されててゴン太くんが見ちゃったらと思うと…… 恐ろしいよ」

 

 なぜゴン太くんだけ名指しなんだろう?

 確かに彼が1番純粋でそういうのを知らなそうだけど。

 

「…… あ、なんでゴン太くんなのかって?」

「う、うん」

「えっとね…… わたし黒髪赤目のキャラが好きなんだよね。ゴン太くんや春川さんは素で黒髪赤目だから、すごくコスプレ映えしそうだなあって…… 勝手に思ってるだけだから、迷惑かもしれないけど」

 

 なるほど、だから他の人よりちょっと興味があるのかな。

 黒髪赤目のクールだったり怖そうなイメージで、ゴン太くんのあの純粋さはかなりのギャップ萌えかもしれない。

 

「ギャップがあるよね…… ゴン太くん。春川さんは見た目と雰囲気が一致してる気がするけど」

「そうそう! そうなんだよ! あのギャップがいいよね! 頑張って紳士を目指してるところなんか特に応援してあげたくなっちゃうっていうか……」

 

 白銀さんは急に早口になったと思うと 「しまった」 という顔をして目を泳がせる。困り眉になってこのまま暴走していいものなのか、と葛藤しているみたいだ。

 

「ああいう見た目のキャラって大体美女と野獣タイプか、俺様タイプが多いよね。そこにあの純粋で子供みたいな笑顔を見せられると…… 怖いイメージなんてすぐなくなっちゃうね」

「分かってくれるの!? 香月さんってもしかしてお仲間だったりする!?」

 

 がっしりと肩を掴まれて困惑する。

 

「えっと…… あんまり詳しいわけじゃないけど、それなりに好きだよ」

「それでもいいんだよ! 好きって言ってくれるだけでいいの! わたしは歓迎します!」

 

 いきなり敬語になった彼女をどう落ち着かせようか考えていると、天海くんが苦笑いしながら会話に入ってくる。

 

「まあまあ、白銀さん。香月さんがびっくりしてるっすよ」

「ああ、ごめんね…… ついつい熱くなっちゃって」

「ううん、気持ちは分かるよ。好きなことは語りたくなっちゃうよね」

「はあ…… こんなにオタに寛容でいてくれる人だったなんて…… 女神かな……」

「白銀さん、大丈夫…… ?」

「うん、大丈夫。ごめんね、地味に興奮しちゃったかも。語彙力が死んでた……」

 

 語彙力が死ぬってどういうことなんだろ…… 言葉が出ない、とか?

 うん、それっぽいな。ぼくもダンガンロンパオタクではあるけど、いわゆるチャンネラーではないからなあ。

 いや、もしかしてぼくが最近のネタ分からないだけだったりする…… ? SNSは最低限だったし…… 下手に親にバレると大変だったからな。

 

「なにか収穫はあったっすか?」

「ううん、特におかしなDVDはなかったよ。モノクマの趣味が悪いってことと、わたしたち向けのものがあったってことくらい」

「…… こっちもやっぱり電源が入らなくて、ゲーム機は使い物にならなかったよ。植物の根で電気供給もままなってないって問題だよね?」

「そうっすね…… この建物中にある植物もなんなのか分かりませんし、謎だらけっす」

 

 この植物…… 根っこやら葉はいたるところに生い茂っているけど、1番大きな幹はどこにも見当たらない。学園内に生えているのだから大元がどこかにあるはずなんだけど…… かといって、学園の上に向かって巨大な樹木がそびえ立っているわけでもないし、謎だ。

 そもそも学園内に植物が入り込んでいるのがおかしいんだけど。

 

「アロマセラピストとして言わせてもらうけど、この樹木だけじゃなんの樹かは特定できないよ。それに、虫がいないのにどうやって受粉しているのかも謎のままだ。虫がいなければ風で飛ばすか、人工授粉でもしないと植物は育たないし…… 植物が生い茂っている現状は理屈だけで考えるとあり得ない状態…… だと思う」

「やっぱり虫がいないのは変だよね……」

「ゴン太くんが嘘をついてるって可能性はなさそうですし、仮に嘘ならお手上げっす。俺らには虫1匹見当たりませんし」

「ないない、ゴン太くんが嘘をついてるのは絶対ないよ…… あってほしくないよ」

「だね」

 

 全員一致でゴン太くんを怪しい人物とは見なしていないようだね。よかった。

 

「モノクマに聞いてみるとか?」

「…… それは嫌だな」

「そっすね、それは最終手段にしときましょう」

 

 白銀さんの提案ももっともだけど、ぼくはちょっとね。

 またこの2人の前で言われるかもしれないし、それはできるだけ回避したい。

 

「なら、ゴン太くんにも訊いてみる? 超高校級の研究教室も開いてるんだよね?」

「そのはずっすね」

「虫がどれだけいるかどうかは分からないけど…… ゴン太くんにももう少し話を聞きたいかも」

「じゃあ、次はゴン太くんの研究教室っすね。本人は…… いるみたいっす。急いで移動しちゃいましょう」

 

 モノパッドを素早く確認した天海くんがゲームルームを出る。

 続いて部屋を出て行く白銀さんの後ろを歩きながら、ぼくは1度だけ振り返る。

 

 あのゲーム機はいったいなんだったんだろう。

 みんなの名前はパスワードなのか? それとも別のなにかなのか?

 解明すれば、首謀者に関するなにかが分かるのだろうか。

 

 もし、ぼくの知らないところでぼくがなにかをしているのなら…… 自分自身さえ、信用できなくなってしまうかもしれない。

 

「ううん」

 

 さっと青ざめた顔を振って、2人の後を追いかける。

 こうも謎が増えてばかりだと参ってしまう。

 得体の知れない不快感が背筋を這っていく…… あれ、モノクマってこんなに怖かったっけ。

 

 自分の全てが本当なのか、分からないのがどうしようもなく怖かった。

 

 

 

 

 

 




・「なら、図書室は行かなくても良さそうっすね」
 なん図書回避。

 一人称小説なのに主人公が1番謎に包まれているようです。
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