月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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2章裁判― かがみじごく ―

 

 

「ふざけないでください!」

 

 声の元に視線をやれば、茶柱さんが顔を伏せて怒りに震えていた。

 

「なんですかそれ。自分のせいだから受け入れるって言うんですか? こっちは投票を間違えれば全員死ぬんですよ! 惑わすようなことを言わないでください!」

 

 それは信じたくないという思いと、信じたうえで困惑する思いが混じり合った怒声だった。

 

「状況証拠だけなら、揃ってるけど……」

「決定的な証拠はないっすね」

 

 なんとも消化不良。後味の悪い。

 合っているのか、それとも間違っているのか、自分の出した答えに自信を持って正解だと言えるかといえば、そんなことはない。

 もしも間違っていたら、真宮寺くんの言葉が全て嘘だったら?

 そう思うと不安でならない。

 

 不安が伝染していく。

 そんな中で、茶柱さんは真宮寺くんになにもかもを吐き出すように言葉を浴びせていた。

 

「転子はっ、この気持ちのやり場をどうすればいいんですか!」

 

 目を見開いて、怒りを声に宿しながら、般若のように見える彼女なのだけど、不思議とその内で泣いているような…… そんな複雑な表情で叫ぶ。

 

「アンジーさんもなにか言ったらどうですか! あなたは謀られたんですよ!? 騙されたんです! そのせいで夢野さんが!」

「転子…… アンジーもね、ちゃんと神様に相談してたらよかったと思ったんだよ。アンジーが気づかなかったから、秘密子が神様に呼ばれちゃったんだねー」

「なっ、別にアンジーさんを責めてるわけじゃ…… 全てはあなたを騙したそこの男死が悪くて…… でも……」

 

 眉を下げて目を伏せるアンジーさんは、いつものように神様を語っているのになんだか様子がおかしい。

 自分が悪いと、夢野さんを一人置いて人を呼びに行った自分が悪いと言いたいのか。

 不思議な雰囲気を纏っている彼女はいつもと同じように少しだけ笑みを浮かべて話すけど、どこか無理をしているようにも見えて…… そこでやっと、ああこの人も虚勢を張っているのかもしれないと思い至った。

 

 空気がどんよりと、曇っていく。

 

「ごめんネ」

「謝られたって! 嬉しくなんてないんですよ! あなたが謝るべきは転子じゃないんです! どうして分かってくれないんですか!?」

「死んだ人を蘇らせることなんてできない。それは僕が1番知っていることだヨ」

「身内に恋慕してるあなたと一緒にしないでください! 大事な、大事な友達だったんです! 憧れの人だったんです! …… これからだってもっと仲良くなれたはずだったんです!」

 

 感情的にまるで言葉の洪水みたいに茶柱さんは口撃(こうげき)する。真宮寺くんはそれを全て受け止めながら、切なげな表情をした。

 こんな場でなければ女性のように綺麗なその顔で、痛ましげに眉を下げる。

 

「僕には謝ることしかできないヨ」

 

 人の感情ってのはかなり厄介だと思う。

 いくら謝られても、きっと彼が酷い目に遭っても、彼女は満たされない。気持ちのやり場なんて、どこにもないんだ。

 

 泣きながら般若の仮面を被り続ける茶柱さんを誰かに似ていると感じて、やつと気づく。

 そうか、前回の裁判でぼくはああなっていたのか。

 

 犯人も、経緯も違うけど、間違いなく前回のぼくと同じで。

 星くんの矜持を守ろうとして、嘘をついて、反抗して、やり場のない怒りにどうすればいいか分からなくなった。

 あれは、そんなぼくと同じなんだ。

 

 そう思うと、彼女を諌めることなんてとてもできやしない。

 

「あーもうめんどくさいなぁ…… はい、締め切りー! 投票タイムだよー!」

「ご、強引だー!?」

「お父ちゃんお涙頂戴展開とか嫌いやからな」

「う、うう…… 美しい友情ね…… タオル持ってきてちょうだい!」

「鼻かむときはなぁ! モノタロウのマフラー使えばいいぜ!」

「あらちょうどいいわね!」

「ええ! やめてよう! お気になんだから!」

「イジメ、ヨクナイ」

 

 投票、タイム?

 こんな中途半端なところで? クライマックス推理だってやってない…… いや、これは現実だ。そんなこともあるだろう。

 もしかしたら今までの作品だって、クライマックス推理をゲーム化するときに付け加えただけなのかもしれないし…… そもそも冷静に考えたらリアルでそんなことする人いるわけないよな。

 あれ、もしかしてまともに議論になるのもわりと運が良い方だったりするのかな。

 いきなり16人…… 今回は17人たけど、そんな人数を1つ所に放り込んで仲良くできるほうが稀かもしれない。

 コロシアイを強要されて共通の敵ができなければまとまることすらできるか怪しいな……

 

 それはそれとして、モノクマに投票タイムと言われてしまっては拒否することはできない。

 投票しなければ待つのは死、なのだから。それもおしおきとか被害者としてではなくただの冷たい機械に殺されるだけ…… 死に方に花を求めるのもどうかと思うが、これがダンガンロンパだというのなら、そんなおまけみたいな死に方ごめんだよね。

 自分もそれに含まれるのがやや複雑だけど、意識的に。

 

 過去見せしめは何度もあったけど、よほどのことがない限りキャラが見せしめされることはない。初代みたいな仕掛けがあるならまだしも、ただ本当にエキストラのように殺されるだけじゃあそのキャラだけ印象が残らないから仕方ないと言えば仕方ない。

 …… そういうダンガンロンパらしくない展開を起こした人間達が破棄されてる可能性については、ノーコメントだ。恐ろしくてそんなこと考えたくもないよ。

 

 さて、ぼくは当然真宮寺くんに投票だ。なにせ彼を犯人だと糾弾したのはぼくだからね。意見を曲がるわけにはいかない。

 端末上の彼の顔写真に触れて投票ボタンを押す。

 見れば、真宮寺くんも早々に投票を終えたのかただ虚空を見据えているだけになっていた。

 

「さて、投票が終わったようですね。それでは、さっそく結果発表にいきましょう」

 

 モノクマが前回と同じようにボタンを押すと、すぐさま裁判場の頭上から大きなモニターが降りてくる。 「結果発表」 だ。

 

 

 赤松

 天海

 入間

 王馬

 香月

 キーボ

 獄原

 最原

 白銀

 真宮寺 | | | | | | | | | | | | |

 茶柱

 東条

 春川

 星

 百田

 夢野

 夜長

 

 

「投票の結果、クロとなるのは誰か!? その答えは正解なのか不正解なのかー!?」

 

 結果発表画面が切り替わり、電子ルーレットが表示される。

 可愛らしいみんなのドット絵がここでしか見られないのは少し残念だ。このドット絵に悪い印象しか抱かなくなってしまう。

 もちろん、ルーレットは真宮寺くんのところで停止した。

 

「アーハッハッハッハ!」

 

 モノクマの高笑いと共に、ルーレットからたくさんのメダルが排出される映像が流れ、途中でぷっつりと途切れる。

 結果発表は終わったけど、画面は突然ぶつ切りにされるので少しびっくりする。モノクマはせっかちなのかもしれない。

 

「いろいろと言いたいことはあるけど大正解でーす! 夢野秘密子さんを殺したクロは、〝 超高校級の民俗学者 〟真宮寺是清クンなのでしたー! 」

 

 その言葉にまずぼくが得たのは、安堵だった。

 

「最低、だな」

 

 独り言のように呟いて唇を噛む。

 これから殺される人が確定したというのに、安堵してしまうなんて。

 

「あの、地味に…… 投票数が足りなかったような、気がするんだけど……」

 

 その言葉に急いで顔を上げた。

 モニターはすでにしまわれてしまって、事実確認はできない。

 

「おいおい、まさか投票できなかったやつがいんのか!?」

「お、オレ様はちゃんとやったぞ……」

「ボクもです。ギリギリまで悩みましたが、内なる声が後押ししてくれました」

「え、ロボットって悩むの?」

「ボクだって悩みますよ! 生きてるんですから! この場で訴えますよ!」

「え、誰に? モノクマに? え?」

 

 確かにここ裁判場だけど、そういう場所ではないからね。

 

「最原くんも大丈夫だよね?」

「うん、もちろんだよ」

 

 不安気な赤松さんに最原くんが返す。

 白銀さんが気づいたということは彼女も投票してるんだろうし、天海くんも当然してるはず…… 前回ぼくにあんなこと、言ったんだから。

 

 春川さん…… 問題なし。ゴン太くん…… 間に合ってるはずだ。前回ちゃんとできてるわけだし。茶柱さんも困惑している。アンジーさんは…… ちょっと分からない。いつも不思議ちゃんだなとは思っているけど、今回はいつもより輪をかけて分からない。

 

 すわエグイサルの出番かなんてざわざわしてるモノクマーズもいるので、誰かが投票できてないのは確定してるはず。

 

 あとは……

 

「ねえちょっとー、どういうつもり?」

 

 不機嫌そうなモノクマの視線は、真宮寺くんに向いていた。

 

「保険をかけただけだヨ」

 

 それだけで、彼が投票を放棄したことを理解した。

 

「〝 2人 〟で死ぬために、保険をかけただけだヨ」

「クロのお姉ちゃんだけがおしおきされるとでも思ったの? 馬鹿なの? 体はキミなのにさあ!」

「あとはそうだネ…… こういうとき、モノクマがどう反応するのか観察してみたかったのもあるかな」

 

 火に油を注ぐ彼はこれから殺されるっていうのに涼しげな雰囲気でモノクマと話している。吹っ切れているのか。それとも、本当に心中することを喜んでいるのか。

 

「さて、どう対応するんだい?」

「エグイサルじゃなくておしおき優先ね」

「なるほどネ」

 

 とんとん拍子に話が進んでいるけど、このままモノクマを挑発していたら速攻で殺されてしまうんじゃないか?

 せめてもう少し話が聞きたいんだけど……

 

「あなたは、本当になんなんですか…… どうしてそんなに、平然としているんですか…… 意味が分からないですよ」

 

 心底意味が分からないと茶柱さんが彼に言う。

 

「死に急ぎたいなら巻き込まないで」

 

 冷たく突き放すように春川さんが言う。

 

「ンー、それじゃあ少しだけ昔話にでも付き合ってもらおうかな。僕のことを知りたいなら」

 

 推理ドラマで過去を話すのはお約束だよネ、なんて冗談を交えながら目元を細める。

 マスクが邪魔して分かりにくいけど、ふんわりと笑うように。心底愛しいものを語るように、けど扱いに困っているように、微笑む。

 女性だったら着物の似合う和風美人だったんだろうなあなんて場違いな感想が思い浮かぶほど、彼は諦めきっているようだった。

 

 

 

 ――

 

 

 それじゃあ話すヨ。

 ええと、きっかけはなんだったかなあ。

 そうそう、初めは気まぐれだったんだヨ。

 

「おはよう、姉さん」

 

 なんとなく、本当になんとなく毎朝身支度を整えるときに挨拶してみたんだよネ。

 遺影や写真を飾ってしばらく挨拶する人も存在するけれど、当時の僕にとっての遺影は鏡に映った僕自身だったんだ。

 遺影が残ってないわけではなかったけれど、それは動かないだろう?

 僕は姉さんがいなくなってしまったことを信じたくなかったんだ。

 だから、動いて、微笑んで、相談に乗ってくれる姉さんがそこにいると思い込みたくなった。たったそれだけの、些細なきっかけなのサ。

 

 え、些細じゃない? 君たちにとってはそうかもしれないネ。

 僕にとってはそうだっただけの話だヨ。人それぞれ十人十色。だからこそ、美しいし観察しがいがあるのサ。

 

 …… 少し脱線したネ。

 姉さんの一周忌を迎える頃には、すっかり鏡の中の姉さんを心の拠り所にしていて、彼女に相談事をするようになった。

 姉さんはアドバイスをくれたし、昔のように慰めてくれたり、褒めてくれたり、僕の予想してないことまで言ってくれるようになったヨ。

 そのうち、気がつくとメモ書きと一緒にお弁当が作られていたり、僕の制服を仕立ててくれたときみたいに小物を作ってくれたりしていた。

 

 ああそうだヨ。この頃から既に姉さんは僕の中に〝 いた 〟んだネ。

 

 民俗学者としていろいろな場所を巡ると、人の縁が合うこともあるけれど、それで僕はいろんな人の連絡先も持っていたんだ。

 最初の異変は、その連絡先がごっそり減っていたことだったネ。

 大学の教授とか、フィールドワーク先の村の女性とか、とにかく女性に限定して連絡先が大幅に消えていたんだヨ。

 さすがに不審に思ったけど、連絡することも稀な人が多かったから申し訳ないけど縁の消費期限と思って諦めた。

 このときは端末の不具合のせいだと思って修理に出したりもしたネ。

 

 それからしばらくすると、僕は知り合う女性にことごとく距離を取られるようになった。

 …… ああ、このマスクも制服もそのときからしてたし、別にこれでひかれてしまったわけではないヨ。これでも普通に交流してたから。

 君たちも、分かるだろう? 今までずっと僕と交流してたんだし。

 うんうん、そうだネ。第一印象は怪しいんだけど、話すと意外と楽しい人だってよく言われるヨ。

 だけれど、急に距離を置かれるようになった。どころか音信不通になる人もいてね、僕には心当たりがなかったし不思議だったヨ。

 

 そしてそのうち…… なにかの理由で追われていて、僕は姉さんの友人に助けてもらったんだ。

 親切にしてくれていたヨ。でも、その生活も3日で終わりだった。僕に提案してきたんだヨ、せっかくの美人なんだから一度化粧でもしているところが見たいって。

 

 察しがつくでしョ?

 そう、僕は気がつくと風呂場にいて、血塗れのまま立っていたんだ。

 手にはノコギリを持っていたけれど、最初はなにが起きたのか分からなかった。

 目前にある解体中の塊がなんだったかを考えて、凍りついたヨ。

 でもそれ以上に、ふと鏡の中に見えた自分の顔に戦慄した。鏡には、曇っているのにいやにはっきりと笑みを浮かべた自分の姿が見えたのサ。

 

 僕は人に避けられるようになった原因をやっとそのとき自覚したんだ。

 それからは、姉さんをどうにかしようと行動を開始して…… 今の今まで忘れていたことから察するに、記憶を封じる手段を見つけられたんだと思う。

 でもそれも全て台無しだネ。

 

 

「これ以上被害を出す前に僕は死ぬべきだ」

 

 

 

 真宮寺くんは穏やかすぎる表情で、なんでもないように断言した。

 さっきから百田くんが 「オカルトなんて信じねーぞ」 と顔を青くして言っているけど、多重人格とオカルトはまた違うものだと思う。

 確かに真宮寺くんの語りは怪談みたいだけど。

 

「彼女と心中するなら本望だヨ」

 

 そんなことをマスクをしたまま涼しげな顔で言う真宮寺くんに、王馬くんがなにか言いたそうにした。

 げ、その前に茶柱さんが叫んだ。

 

「嘘を、言わないでください!」

 

 寂しげに目を細める彼に微塵も後悔や恐怖は感じられない。ただただ気持ちが凪いでいるように見える

 

「そんな話信じられません」

 

 しかし茶柱さんはどうしても納得がいかないみたいだった。

 

「そこまでするあなたが理解できませんし、したくはありません。けれど、あなたが本当に死にたいと思っているようには思えないんですよ! 男死の虚勢ですか? プライドですか? みっともないところを見せたくないんですか?」

 

 その瞳から、感情が高ぶったせいなのか涙がぼろぼろと溢れてきている。

 ときおり鼻をすすりながら、けど力強く口調を荒げて彼女の言葉は止まらない。

 

「あなたこれから死ぬんですよ!? 怖くないわけないでしょう!? それとも、それすらも押し殺していくつもりですか!? 別にあなたの心配なんてしてないんですよ! 夢野さんはあなたの訳の分からない恋のせいで苦しんだんです! いなくなってしまったんです! 少ししくらいその綺麗な顔崩してくださいよ! なんで満足そうなんですか! そんな顔されたら気も晴れないじゃないですか! どこにも、やりようがないじゃないですか!」

 

 茶柱さんは優しい人だ。

 犯人を憎んで、その報いを受けてほしいと思いつつ、溜飲を下げたいと思いつつ、けどそれが間違っていることだと理解してしまっている。

 気持ちのやり場がどこにもないんだ。犯人がこれから死ぬことに 「ざまあみろ」 なんて言うような性格ではない。だからこそ、やり場のない負の感情を持て余している。

 

「…… 僕だって、怖いヨ。ごめん。ごめんネ、茶柱さん」

「て、転子は、謝ってほしいわけじゃ……」

 

 帽子を引き下げ、真宮寺くんは俯いてしまった。

 茶柱さんもどうしたらいいのか分からないんだろう。人の感情って、複雑だよね…… 分かってても納得したくなくて、すごく頑固なんだ。

 

「ねえ、それまだかかる?」

「…… いや、もういいヨ」

 

 モノクマからの催促に真宮寺くんが答える。

 

「ま、待ってください! 転子はまだ言いたいことが……」

「僕から話すことは、もうないヨ」

 

 彼は身を翻してモノクマのほうへと歩いていく。

 

「なんで、自分から……」

 

 赤松さんが呆然として呟いた。

 

「僕と友達になるのはお勧めできないヨ。ごめんネ」

 

 彼は―― 笑顔だった。

 

「うんうん、スムーズに事が運ぶと進行が楽でいいよね! それが不満な人もいるだろうけど!」

 

 そんな人、いるわけないだろ…… これから、彼は死ぬのに。

 でも引き止められる人はいない。戸惑っているか、目を逸らしているか、成り行きを静かに見守っているだけだ。

 茶柱さんだけは最後まで、引き止めるように叫び続けていた。

 

「ちょっとつまらなくなったけど、お待ちかね! 裁判の花形! それでは、張り切っていきましょう。おしおきターイム!」

 

 モノクマのそばに立っていた真宮寺くんの足元に穴が開き、落下していく…… ああ、とうとう始まっちゃうのか。

 

 

 

 

 

 

【 真宮寺クンがクロに決まりました

 おしおきを開始します 】

 

 

 

 

 

 頭上のモニターにドットの真宮寺くんが連行されていく映像が流れる。

 多分ぼくたちのときもこれは流れたんだろう。

 それから映されたのは人が1人入れる程の球体で、両脇になにかが付いている。

 

 その上部が口を開け、落ちてくる真宮寺くんを受けとめた。

 中がどうなっているのかは分からない…… と思ったら、今度はモニターに見せつけるように側面が開く。

 

 ―― 中は鏡張りになっていた。

 

 そして、ガラスで出来た針が無数に突き出ていた。

 まるでアイアンメイデンのような…… そこに落ちた真宮寺くんは既に背中が傷つき血を流していたけど、すぐさま体を起こして鏡に手を添える。とても愛おしげに。

 そしてマスクを外し、口を動かした。その動きは間違いなく 「ね え さ ん」 と言っていた。

 

 馬…… の格好をしたモノクマーズに乗ってモノクマが登場する。

 騎士のような格好をしたモノクマが球体の口を全て閉じる。

 真宮寺くんは一度も鏡から目を逸らすことがなかった。

 

 馬役のモノクマーズに球体の両脇から伸びた鎖が取り付けられる。

 この辺で、既に嫌な予感がした。

 

 馬上から甲高い音が鳴る。

 モノクマが笛を鳴らした途端に、始まりの合図と言わんはかりに馬は猛然と駆け出した。

 

 

 

 

 

 

超高校級の民俗学者 おしおき

 

『かがみじごく』

 

 

 

 

 

 整備されていない荒野を馬が球体を引きずり回す。

 鏡でできているはずなのに、不思議とどんな衝撃が加わっても割れてしまうことがなかった。

 それに、そのほうがいい。あの中がどんなことになっているかなんて考えたくもない。考えないほうがいい。

 小さな切れ目でもあるのか、ガタガタと引きずられる度に地面に真っ赤な血の足跡がつく。

 

 そして長い長い時間、馬が疲れようが容赦なく鞭を入れて走らせていたモノクマからストップがかかり、その進行が止まった。

 球体からはもはや流れるものもない。いい汗かいたとばかりにモノクマが頭をタオルで拭き、こちらに向かってピースサインをする。

 

 それからだんだんカメラが引いていくと、真っ赤な血を絵の具に一筆書きで描かれたモノクマの地上絵が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 ……ナルシストだと皮肉っているのだろうか。相変わらず悪趣味だよね。

 唯一の救いは、彼と彼女が顔を合わせながら一緒に逝けたことか? 果たして、互いの死に顔を見ながら死んでいくのがいいことなのかは分からないけど。

 

「ちっとも気が晴れませんよ…… こんな形で…… 嬉しいわけがないじゃないですか……」

「…… 転子」

 

 裁判の終わりが告げられ、まばらに解散していく中ぼくは後ろ髪引かれるように寄り添う2人を振り返った。

 

「香月さん、今はそっとしておいてあげたほうがいいっす」

「…… そうだね」

「複雑、だよね…… でも気持ちの整理をつけるのに、わたしたちがなにか言っても余計だもんね」

 

 2人に促されるままにエレベーターに乗る。

 茶柱さんとアンジーさんは後から帰ってくるだろう。

 

 今は放っておくしかない。

 

 …… ぼくの望んだ通り、事件が起きて動機ビデオについては有耶無耶になった。

 問題は王馬くんだけど、なんか返してもらえるように説得しないとなあ。

 

 少しの現実逃避をしてから2人と部屋の前で別れ、そのままベッドに入る。もうすぐ夜明けだ…… もう疲れた。なにも考えたくない。

 

 ああ、でも。

 

 ―― しばらく、お肉食べれなくなりそうだなあ。

 

 なんて、酷いことを考えながら目を閉じる。

 

 ごめんなさい。

 ぼくを殺そうとした人だけど、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ――――

       |

       心の隙間にまつり縫い ――|

       |

   ――――

 

 

 

 

 非日常編 終

 

残り13人

 

 

 

 

 

 

なりきりグロスを手に入れた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ・おしおき
 江戸川乱歩の鏡地獄 + 童話の 「ガチョウ番の娘」 に出てくる処刑方でした。
 姉に否定されてないからおしおきとしては優しいほう。
 姉の人格を否定したり、消そうとしなかったのは両方とも病んでることに変わりなかったからです。もちろんもれなく真宮寺も狂っていました。
 最初おしおきを考えるとき塩の柱にでもしてやろうかと思ってましたけど、さすがにセンスが問われるのでボツ。



 さて、今回も推理にご参加いただき、ありがとうございました!
 杭で吸血鬼を連想してくださった方はかなり惜しいところでした。真宮寺くんが姉への想い故に自分を惑わす悪を退治しようとした…… かなりいいところついていたのでヒヤリとしました。その発想大好きです!
 真相は矢印が逆だったため、女の嫉妬による犯行となりました。
 思い出しライトの特性上、また似ているようで違う趣向の人物が出るかもしれませんね。
 今後も原作との違いを是非お楽しみくださいませ!

・タイトル
 語感重視系タイトルです。心の隙間を無理やりくっつけた結果は…… ご覧の通りでございます。
 飾りは文字を釘で打つイメージとなっておりました。


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