月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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霊と礼と麗と

 食堂から最原くんと赤松さんが仲良くどこが怪しいかを話しながら退席していくと、みんなもそれぞれ動き出したようだった。

 そうして、なにかを思い出したように百田くんが辺りを見回し、 「王馬の野郎どこ行きやがった」 と1人呟いている。

 校舎側の扉からは赤松さん達が出て行くところしか見てないし、もしかしたらみんながそちらに注目している間にでも裏口から抜け出したのかもしれない。

 不思議と荒れることなく話は済んだけど、我慢してただけだったのかも。百田くんがそんなに我慢できる人だとは思ってなかったな。それともなにか理由があるんだろうか…… 想像つかないな。

 モノクマーズの登場でうやむやになっただけかもしれないが。

 

「さて、ぼちぼち見て回るっす。お2人はどこだと思いますか?」

「今までのパターンだと…… 3階のトリックアートが気になるよね。地味に、毎回上に行けるし…… 4階もあるんじゃないかな」

「そうだね。あの魔法の鍵もゲームに出てくるようなデザインだったし、きっとあそこに使うんだよ。あとは…… 巻物…… ハンマー…… 巻物なら中庭の、あの、忍者の像みたいなやつに使うとか?」

「ハッタリくんだよね…… 懐かしいなあ」

 

 最原くんはどこから行くんだろうか…… まあいいや。

 確かに中庭のほうが早いだろうし、順当に下から上へ行けばいいんだろうけど、本当にあのハッタリくん像が正解だとは限らないわけだしね。

 先に解放が確実だろう4階を目指すべきかもしれない。

 

 みんなが散り散りになっていくのに合わせ、ぼくらも食堂を出る。

 自然と足は階段のある方へと向いて、3人で仲良く上がっていく。幸いすれ違う人がいないため横並びに並んで歩いた。

 

「にしても、一体何階まであるんすかね」

「外観から推測すると6階まであると思うんだよね…… まだあの機械が工事してるみたいだったし…… 音が聞こえないのが地味に驚きポイントだよね」

 

 毎回内装を作ったりしているのだろうか。

 そうなると事件が起こって学級裁判が終わるまでの数日間に1階ペースで作っていることになる。それはそれで仕事が早すぎる気もするな。

 というか、6階まである学校というのもすごい。大体は4階から5階くらいの間で別棟があるというイメージがある。ぼくの通っていたところは昼間部と夜間部で棟が違ったし。

 

「だまし絵のところは…… 確かぼくらが使った休憩スペースの近くだったっけ」

「そうそう、ゴン太くんの研究教室の近くから階段を登ったらすぐだよ」

「春川さんの研究教室がある場所っすね」

 

 辿り着いてみればだまし絵はもう跡形もなく、細かいドット柄の破片が落ちているくらいで奥に階段が続いているのが見えた。

 〝 継母に命令されたシンデレラ 〟ごっこをしながら細かい瓦礫を拾うモノファニーを横目に、ぼくらは手伝うなんてこともなく初めてとなる4階へと足を踏み入れた。

 

「うわ……」

 

 思わず声が出てしまう。

 それだけ4階の雰囲気がガラリと変わっていたからだ。

 今まではカラフルでポップな見た目だったり、草が生い茂っていてもコンクリートで作られた校舎の廃墟程度だったが、4階ではその雰囲気が旧校舎然としている…… と言えばいいだろうか。

 床は木造で、一歩足を踏み入れればぎいと悲鳴をあげるような軋みかたをした。驚いて階段に足を戻してしまったが、もう一度そっと足を踏み入れる。

 やっぱり軋みはあるけど、さすがに床が抜けるほど酷いわけじゃないようで、白銀さんに手を引かれて少し進んでいく。

 

「うーん、この旧校舎っぽさ。ホラーだね…… 出たりして」

「ははっ、まさかそんなことはないっすよ。お化け屋敷っぽいのは否定できないっすけど」

「なんか不気味な音楽が流れてないかな? 今までと違いすぎて怖いんだけど……」

 

 微かに音楽が響いている気がする。

 今まではこんな風にBGMみたいなのはなかっただけに旧校舎を模したお化け屋敷という印象が強まっていく。

 モノクマたち、遊んでるわけじゃないよな? いったいなんなんだよもう……

 

 とにかく、先へ先へと行く前にひとつひとつの部屋を調べていくことにする。

 古いのは見せかけだけなのだろうし、別に床が抜けたりするわけじゃない。床が抜けたりなんてしたらそれこそ下まで真っ逆さまで死体発見アナウンスが鳴ることになるぞ。そんなんで学級裁判開いていたら明らかな事故死に全員困惑と怒りを隠せなくなってしまう。

 その場合床板を設置したモノクマーズの誰かか、設計しただろうモノクマがクロで満場一致だ。

 

 …… いや、ないだろうけど。

 

 まずは行き止まりになっているだろう場所からだ。

 行き止まりになっている奥には絵画が飾ってあり、中央には一際大きなものが飾ってある。その手前には一定の間隔で3箇所扉があり、同じような部屋が3部屋続いているだろうことが容易に想像できた。

 手前の部屋の扉を開けて中に入ってみると、外よりもかなり薄暗い。

 部屋の4箇所に設置されたロウソクの火だけがこの部屋を照らしているようだった。

 

「暗いっすね」

「うーん、やっぱりお化け屋敷だよね。ここまであからさまだと逆に怖くなくなってくるというか……」

 

 このロウソクが全部溶けたあとはどうするんだろうか。誰かが取り替えるのか? それともそんなことをしなくても永遠に灯り続けるとか…… 電脳世界説でいくとそれもありえる話だ。

 ここがリアルがどうかはぼくにだって分からない。どっちの可能性も探るべきだろうし、今度検証でもしてみようかな。

 

「ここ、窓もないし換気とかどうするんだろうね…… このロウソクが消えたら完全に真っ暗になりそうだし、あんまり1人でいたい場所じゃないね」

「そうっすね。なんとなく床も不安定な気がしますし…… これは床材を置いてるだけで固定はしてないみたいっすね。古い集落にある家とかはこういうのもたまにあるっす」

「へえ」

 

 敷き詰められているせいか置いてるだけとはとても思えないけど、天海くんが言うんなら多分そうなんだろうな。建築法としてどうなんだろう…… モノクマたちの手抜きじゃないよね?

 嫌だよぼく、こんなところで落ちるの。

 

「うーん、なんとなく隅の方が空いてる気がする…… 地味に床下があったりして」

「覗いてみるっすか?」

「ううん、わたしはいいかな…… 気になっただけで、見たいわけじゃないよ。ほら、こういうシチュエーションって床下にいるおばけとこんにちはしそうじゃない?」

 

 うらめしや、と手を幽霊のようにして白銀さんが言う。

 確かにこう、夜中にベッドの下を覗くような妙な恐ろしさがあるような……

 

「って、天海くん!?」

「ああ、やっぱり床下あるみたいっすね」

 

 すたすたと危なげなく端っこまで行った天海くんは体を屈めて床下を覗き込んでいる。ちゃっかりと部屋の中にあった燭台を手に持って床下を照らしているみたいだ。大丈夫? 燃えない? 火事にならない?

 …… どうやら火の扱いには慣れてるみたいで、そんな事態にはなりそうもないようだ。さすが冒険家。映画みたいに枝に油を染み込ませた布を巻いて松明にしたりできるのだろうか。ぼくの冒険家のイメージはだいぶレトロだけど、なんとなく天海くんは最新機器とか器用に使っていそうな気もする。レトロな冒険家イメージも似合うし、むしろどちらもできそうだ。

 

「しかし、床下が案外広いっすね。この4階、わりと高い位置にありそうっす。思い出しライトもまたどこかにあるでしょうし、一応他の2つの部屋も見といたほうがよさそうっす」

「そっか、なら次に移動しよう」

「あ、そうだ…… 天海くん。埃とか、大丈夫だった?」

 

 白銀さんが言ったことにぼくも少し反応する。

 薄暗いせいか真新しいか、古めかしい見た目そのままなのか、それすらも分からない。床に屈んでみている天海くんなら床下の様子と一緒にその判断もできるだろう。

 …… 埃が大量にあるなら天海くんにものすごく申し訳ないことをしたので次の部屋はぼくも見ようと思いつつ、立ち上がる彼に注目する。

 

「いや、綺麗なもんっすよ。この4階が新築なのは間違いなさそうっすね」

「なら、古そうに見せかけてるだけなのかも…… やっぱりお化け屋敷コンセプトなのかなあ」

 

 新築かあ。なら、ますます怖がる要素はなさそうだね。

 古いところだともしかしたら前にもコロシアイで使いました〜ってことがありそうだけど、新しいならそれもないし。おばけも出ない。

 せいぜい暗いのが苦手な人は嫌がるかな、程度か。

 

 次の部屋も、そして最後の3つ目の部屋もぼくと白銀さんが順番に床下を覗き込んでみたけど、人1人屈めば余裕で入れそうな床下が広がっているだけで特になにもなかった。

 思い出しライトも見つからないため次へ行くことにする。

 

 そうして廊下に出て、奥の絵画をもう1度注視してみるとあることに気がついた。

 

「あれ、ここって……」

 

 暗くて分かりづらいけど、どうやら真ん中の大きな絵画だと思っていたものは枠だけで、ハマっているのはただのガラスだ。奥には絵画だと思っていた工場の床のような、機械的な廊下に繋がっている。

 そういえば最原くんが金色のハンマーみたいなのも受け取っていたし、あれはここに使うのかもしれない…… もしかして、気づかないで行ってしまったのだろうか。あとで見かけたら声をかけておかないと。

 

「ここもある意味だまし絵っすね」

 

 ガラスに指を這わせながらあちら側を覗き込む天海くんが言う。

 彼も必要な道具は最原くんたちが持っていると分かっているせいか、無理矢理突破しようなどとは思っていないみたいだ。

 こんなところでガラスを生身で割ったりしたら危なすぎる。

 

 今はこの場所を後回しにして他の場所を探そうと踵を返す。

 次はここだと、今度は障子戸でできた部屋に入ろうとするが、板かなにかでバッテンに打ち付けられていて開けることができなかった。

 すぐさまどこからかモノクマが現れて説明をして去っていく。

 

「そこは超高校級の民俗学者の研究教室だよ! でも本人がいないのにわざわざ開ける意味なんてないでしょ? はあー、せっかく気合い入れて作ったのにさー。もったいないおばけが嘆き悲しんで自殺しちゃうね!」

 

 作ったのはモノクマじゃなくてエグイサルで工事してるモノクマーズだろうに…… というかおばけなのに自殺するとはこれいかに。

 ともかく、ここには入れないということだろう。星くんや東条さんの研究教室と同じだ。

 

 真宮寺くんの研究教室か…… どんな場所だったんだろうな。

 彼は姉への異常なほどの執着に目を瞑れば、民俗学者としての話が学者らしからぬ分かりやすさで面白かったから少し残念に思う。

 あんなことさえなければ、もっと話を聞いてみたかったなあ…… 冒険家で各地を行ってる天海くんとも、もしかしたら気が合ったかもしれないし。

 

「仕方ないっすね。もっと奥があるようですし、そっちに行きましょうか」

「…… うん」

 

 モノクマがああ言うからには、研究教室には本当に手がかりがないんだろう。あくまでぼくら生徒のために用意された部屋であり、学園の謎や脱出の鍵となることはないのか。

 学園の謎について調べることが許されているはずだが、それでも入れてもらえないとなるとやっぱりその辺のことと研究教室とは関係ないということだろうな。

 ぼくの部屋もあるのは趣味…… というか才能関連の物しかないし、植物園は元々学園の一部であってぼくの研究教室ではない。

 植物園に謎が隠されていることはあるかもしれないが、ぼくの部屋にはない。言外の態度でそう示されている。

 

 諦めて奥へ向かうと今度は真っ赤な壁に囲まれた廊下が続いていた。心なしか不気味なBGMの音量が増しているような気もするし、ますますお化け屋敷っぽい様相だ。

 大部分は赤だけど、黄色や、黒、ときおり元々の色なのか白が混じっている部分がある。

 まるでペンキの中身をあっちこっちにぶちまけたような感じだ。ストリートアートでもしようとして失敗したようでもある。

 照明が薄暗く赤色がぼうっ、と浮かび上がるように反射するのでより一層物騒な雰囲気が漂っている。

 途中に真っ赤な鳥居と、奥に三枚の白紙の掛け軸というなんとも雰囲気にあった場所もあったけど、特になにも起きる様子がなかったので、5階への道はあそこか、ガラスを割った奥の部屋か、どちらかなんだろうと当たりをつける。

 

 それから奥にあったのは黄色い鉄扉だ。

 少し赤く錆びているように見えるけど、多分それは見せかけでここも新しいんだろう。

 扉を開けようとしてみるけど、鍵がかかっているのかガチッと音がしてそれは叶わなかった。

 今までの研究教室は全て鍵などなく、それ以外の場所も鍵のかかる場所は寄宿舎くらいだったから驚いて思わず手を離す

 なぜここにだけ鍵がかかっているんだろう? 夢野さんの研究教室は既に解放済みだし…… 生きている誰かの部屋であるはずなのだけど。

 

 そう思っていると、中から声がかけられた。

 

「なにか用かー?」

 

 アンジーさんの声だった。

 ということは、ここはアンジーさんの研究教室か?

 

「あの、えっと、香月だけど…… 入ってもいいかな?」

「おっと、許可は取らないとダメっすね。天海蘭太郎っす」

「白銀だよ。初めての場所だから中を少しだけ見せてもらいたいんだけど、いいかな?」

 

 よく考えれば今まで許可を取らないと入れない場所なんてなかったな。

 赤松さんや夢野さんに少し申し訳ないことをしたかもしれない。人の専用の研究教室なのだから、普通許可を得てから入るべきだったよ。

 

「泪に蘭太郎につむぎなのかー。入っていいよー」

 

 内側から鍵を外す音が響いて、扉が開く。

 顔を覗かせたアンジーさんの奥には茶柱さんがどこを見るでもなく、座ってぼうっとしている。

 ここにいたのか、と思うと同時に彼女の溌剌さがすっかりなりを潜めていることに痛ましさを感じる。

 裁判のときは自らを奮い立たせて戦うことに協力してくれていたけど、大切な人を理不尽な理由で失い真宮寺くんが残酷なおしおきを受けた後でも、むしろ元凶がいなくなったことで感情の行き場を見失い、どうしたらいいのか分からなくなってしまったんだろう。

 いつも明るかった彼女がこうしてダメージを受け、心をどこかに置き去ってしまったように、抜け殻のようになっている姿はとても見ていられない…… それだけ夢野さんを本気で慕っていたということだ。

 

 横目に右隣にいる白銀さんを見上げる。

 次に左隣の天海くんを。

 この2人がいなくなることなんて、ぼくにはとても考えられない。

 そうなったとしたら、ぼくはどれほどのダメージを受けるのか…… 計り知れない。

 出会って1週間も経っていないはずなのに、こんなにも大切で心の支えになっている人たちをぼくは知らない。親友以来の、大切な人。

 そもそもぼくがこの場所に来るはめになった原因だとしても、親友を失ったとしたら…… ? そうしたら、きっとぼくは耐えられない。

 ぼくも耐えられない。壊れてしまうに違いない。乗り越えていくことなんて、到底できやしない。

 

「俺は、入らないほうがいいっすかね?」

「うーん、神さまは扉のとこで見張ってればいいって言ってるよー。あんまり転子を刺激しちゃうとメッてされちゃうかとねー」

 

 ただでさえ男性嫌いだった茶柱さんだ。

 今刺激したら彼女の精神的にもよろしくはない。

 アンジーさんの研究教室らしい場所はぼくと白銀さんで調べたほうがいいだろう。そう思って2人で足を踏み入れる。

 先に部屋の中に入ってから扉を軽く見ると、どうやらシリンダー錠が設置されていることが分かった。

 

 ペンキや石膏、それに奥にうず高く積まれたあれはなんだろう?

 疑問に思って訊くと 「ロウだよー。ロウ人形が作れるねー」 と軽い返事が返ってくる。

 

 その中にどこかで見たような石櫃が置いてあって、一瞬硬直する。

 

「…… アンジーさん、それは?」

「これー? 元々ここにあったよー。今は使い道もないし、神さまも道具をしまうのに使えばいいって言ってるねー」

「そ、そっか……」

 

 天海くんも白銀さんも気づいたらしい。それが植物園の奥にあるものとそっくりであることを。

 白銀さんもぼくがいないときに見つけてるだろうし…… ぼくがあれに対して密かな恐怖を感じていることもなんとなく察したのだろうか。白銀さんに手を繋がれて申し訳なくなる。

 だけどおかげで安心できた。

 

「えっと、どうしてここだけ鍵がかかるようになってるのかって分かる?」

「主は言いました。ここがアンジーの部屋だからと……」

 

 えっと、つまり?

 ぼくが疑問に思ったのが分かったのか、どこからともなく2匹分の 「おはっくまー!」 が響いてきた。

 

「それにはオイラたちが答えるよ!」

「あのね、夜長アンジーさんは1人で集中しないと、創作活動ができない子なの!」

 

 モノタロウ、モノファニーからの回答にアンジーさんを見やると、うんうんと頷きながら「 よく知ってるねー」 と肯定する。

 

「偉大なる神さまと一体化するには、人や雑音をシャットアウトしないといけないからー。にゃははー、神さまは恥ずかしがり屋さんだから人前だとアンジーとひとつになってくれないんだー」

「へーまるでAV男優だね!」

「どこが!? 真逆よ!?」

「…… 男死」

「え? え、え!? お、オイラのプリティボディを触ってもなにも出てこないよ!?」

「きえええええええ!」

「も、モノタロウー!」

 

 モノタロウとモノファニーがいつものように軽いやり取りをしていると、突然立ち上がった茶柱さんがモノタロウをひっ掴み、雄叫びをあげながら扉の外に向かって全力投球した。あれは危害を加える判定になるのか…… ?

 

「え、エグイサ」

「茶柱さんは今、心神喪失の状態っす。この状態の人に不用意なことを言うほうが悪いっすよ。普通の状態ならここまでのことはしません。処分はやりすぎになるっすよ」

 

 強い声で制する天海くんに、叫びかけたモノファニーがちょっと悩んでから 「今回だけよ! 優しいアタイに感謝してよね!」 と言う。

 

 よかった。今ので茶柱さんが殺されちゃうかと思った……

 

「ねー、ねー、それよりアンジーの部屋には必ず鍵が必要なんだけど、モノクマーズは物知りだよねー? どうして知ってるのかなー?」

「え!?」

 

 不意打ちだったからか、モノタロウが廊下で声をあげる。モノファニーもこれには言い澱み、 「そ、それはぁ……」 と詰まったように口を噤んだ。

 

「それにここにある画材とか彫刻用具って、ぜーんぶアンジーのお気に入りのヤツだけどそれもよく知ってたねー?」

「ええとなんて返せばいいんだろう。オイラアドリブには弱いんだ」

「お、落ち着いて。アタイのほうが弱いわ」

 

 説明義務を押し付け合う2匹に変わってその場に緑色の影が現れる。

 モノダムだ。前と比べると随分おしゃべりになったみたいで、アンジーさんの前に立つとまっすぐ目を見ながら答える。

 

「オラ達ハキサマラノ事ヲナンデモ知ッテルンダ。キサマラト仲良クシタイカラネ」

「仲良くー?」

「ウン、ダカラコレモ渡シテオクヨ」

 

 殺し合わせてるやつがなにを言うんだか……

 モノダムはアンジーさんに恐らくここのシリンダー錠の鍵と思われるものを2つ渡してすぐさま帰っていく。

 アンジーさんはそれを見送ってから、 「んー、これは転子が持っててねー」 と片方の鍵を茶柱さんに手渡した。

 多分、いつでもここに避難してきていいってことだろう。今の茶柱さんを放っておくといつの間にか殺されていそうでなんだか怖いからね。アンジーさんもそう思ったからこそ、鍵付きの部屋へ入ることを許可したんだろうな。

 

「その代わりアンジーが制作してるときは静かに見学してるだけにするよー? 気配を消していないふりしてれば集中できなくもないって、おせんべい食べながら神さまも言ってるからー。ね、転子。それでいい?」

「……」

 

 静かに頷く。

 本当に以前とは悪い意味で大違いだ。痛ましい…… 今は信頼してるんだろうアンジーさんと一緒にそっとしておいたほうがいいのかもしれない。

 

 ぼくらはこのアンジーさんの研究教室にもう1つあった、スライド錠になっている裏口を確認してから部屋を出た。

 

 

 あの2人は大丈夫だろうか…… そんなことで頭がいっぱいになる。

 でも考えていても仕方ないし、あれは時間が解決するしかないだろう。

 

 そうしてぼくらは、最原くんを探しつつ今度は中庭に行ってみようと超高校級の美術部の研究教室から離れていった。

 

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