翌日、いつものように身支度を終えてから食堂に向かった。
今日でこの学園にやってきてからもう9日目となる。そして、この10日にも満たない期間でコロシアイが2回も発生し、結果的に4人も死んでいるということになる。早い、あまりにも期間が早すぎる。
平常時なら余程のことがない限り一生関わりのなかったはずの殺人がこの9日の間に2度も起こるなんて非現実的すぎる。
でもそれが現実に起きてて、今ぼくの身に起きていることの真実なんだよね……
食堂に集合して食事をするなんてルールなんてもうなくなったも同然だけど、未だ朝の時間に切り替わってすぐは時間のズレこそあれどみんなが集まる。
今日もそれは変わらないようだった。白銀さんと一緒に食堂に着けば既に天海くんは来ているし、入間さんやキーボくんも一緒に来ている。入間さんはどうやらバランス栄養食らしいけど…… 研究教室でなにか熱中してることでもあるのだろうか。キーボくんに関しては食事の必要がないはずだから彼女につられて来ているだけかもしれない。
ただ、食堂に来ることで全員にその生存を知らせているという点ではありがたいかもしれない。
1番気になっていた春川さんといえば、赤松さん、百田くん、最原くんと一緒に端の方で黙々とジャムを塗ったトーストを頬張っている。
一応この場に出てきてくれているようで少し安心した。
なにもしない、やろうとしないぼくが心配したところで春川さんには迷惑かもしれないけど、どうしても彼女が自分から殺人を犯すような人には見えないから。責められるべきではないと思うんだ。
「転子ー、なに食べるかー?」
「アンジーさん、一緒に作りましょうか」
そそくさとキッチンへ消える2人を見送って席に着く。
生徒会なんて発足した2人だけど、具体的にはどうするんだろうか。彼女たちは学園から脱出することを諦めて、この生活をより良いものにするとかなんとか言っていたけど、本当に諦められるようなものなんだろうか…… アンジーさんの笑顔はとても可愛いんだけど、考えの表層を読むどころか想像することすらできないから、正直不気味に見えてしまうし、ちょっと苦手だな。
茶柱さんも、前は比較的考えが分かりやすかったけど、今は分からなくなってしまった。感情が殺されてしまったのではないかというくらい静かで、浮き沈みがほとんどなくなっている。前とは大違いでまるで別人になったように変わってしまった。大切な友人を理不尽な理由で亡くしてしまったから、無理もないけど……
対して、王馬くんとゴン太くんは隣同士でそれぞれ菓子パンと果物を朝食代わりに食べているみたい。朝から嘘ばっかりついているみたいでゴン太くんがときおり 「ええ!?」 と大きな声で驚くのが聞こえてくる。なに話してるんだろう。
今のところは春川さんに突っかかっていく様子は見られない。昨日の流れを見ていた身としてはまた殺伐とした雰囲気になってほしくないし、それは良いんだけど…… 春川さん自体も王馬くんのことは完全に視界から消してるみたいだし。
表面上はとても平和に全員が集合し、そして食事をとっている。
けど、ぼくの予想が正しければそろそろ〝 動機発表 〟がされる頃だと思うんだよね……
なんとなく久しぶりな登場の仕方にため息を吐く。
食堂の端のほうからモノクマーズが沸いて出てきたんだ。
「由々しき事態だわ!」
モノファニーの言葉に少しイラッときたけど抑えこむ。
モノクマ側の子に雪染先生の台詞をパクられるなんてちょっと許せない。許せないけど、もしかしたらパクリとか関係なく本来の意味で使っている可能性もなくはないから口には出さないよ。口にはね。
「てぇーへんだてぇーへんだー!」
「底辺だ底辺だぜー!」
「なんやモノキッド、ちゃうこと言うてへんか?」
「……」
とりあえず、なにか彼らにとって焦るようなことが起きているらしい。さっさと具体的なことを教えてくれないとみんな興味を失っちゃうと思うよ。現に春川さんを囲む会を開いてる赤松さんたちはほぼ無視してるし。
「それで、なにが大変なんすか?」
一向に話し始めずざわざわするだけのモノクマーズに天海くんが尋ねると、そのタイミングで待ってましたと言わんばかりにモノクマが登場した…… んだけど、なんとクマ耳が2倍以上の大きさの丸くて大きな耳に変化し、赤いズボンを履いている。どこぞの会社に全力で喧嘩を売っているようなパクリ具合になっている。ちょっと、これ消されるぞ。
「ハハッ、大変なことになりました!」
その笑い方は危ないからやめなさい。
「とある筋からリークがありました! オマエらの中になんと〝 ニセモノ 〟が混じっていると言うのです!」
今のモノクマは誰よりもニセモノ臭いと思うんだけど、そこのところどうなの?
「ニセモノには特別な才能が一切ありません! 故にオマエラには今日を含めて4日間で自分の才能を証明してもらわなければならないのです! 4日間で才能を使ってボクらに証明することができなければ、ただちにエグイサルによって終了処分させられることになるでしょう!」
才能の証明…… ? それってつまり、春川さんの狙い撃ちも同然じゃないか…… 卑怯すぎる。そういう動機、ぼくは嫌いだ。強制されるようなものは後押しどころじゃないし、ぼくは初出のものでもスーパーダンガンロンパ2の4章の動機が好きじゃない…… ってなにファン目線で考えてるんだ。ついついそっちで考えてしまった。それだけ今回の動機は嫌いってことだ。
狙い撃ちなんて卑怯だ。それしか選択肢を与えない時点でスマートじゃないしゲームマスターとしての腕が疑われるね。
これは、首謀者やってる人を絶対に好きになれない。たとえこの中の誰かだとしても、たとえ白銀さんや天海くんが首謀者だとしてもこんな無茶苦茶な動機を課してくる人は嫌いだとはっきり言える。
百田くんや入間さんも理由は違えど文句を言ってるようだ。みんな不満が表情にありありと出ている。
王馬くんが春川さんのことを大袈裟に怖がったり、警告してみたりとまた喧嘩が勃発しそうなことをしているからこの流れを止めないと……
「…… ねえ、もし才能を発揮する前にコロシアイが起きたら課題はどうなるの?」
これは訊いておく必要がある。
コロシアイが途中で起きても課題が課されたままなら春川さんには暗殺を実行する道しかなくなってしまうからだ。
そうなったら暗殺してクロとして処刑されるか、黙ってエグイサルに処分されるかの二択になってしまう。そんな二択しかないなんてあんまりすぎる。そんなの魔女裁判と一緒だ。
「途中でコロシアイに発展した場合は保留になるよ! まあ、オマエラの中にニセモノがいるのは確定してるんだけどね。そうなったら精々ニセモノの存在に疑心暗鬼になるしかないよね。しっかりとこの期間に才能を証明して自分が本物だってアピールしておかないと疑われちゃうよね? うん」
なるほど、そこまで邪道じゃなかったか。少しだけ安心した。
どちらにせよ、春川さんは自分が殺すか、コロシアイが起きるのを待つかしないといけないわけだけど。
「ニセモノでも関係ないよねー。アンジー達は外に出る必要がないんだよ? 誰がニセモノでも仲良くすればいいだけなのだー」
「いやいや、才能を発揮しなきゃ殺されるんだぞ!?」
「んー、小吉と解斗と蘭太郎には難しい課題だねー。終一も大変ー? そういうのはどうするのー?」
ああ、総統と宇宙飛行士と冒険家、あと多分最原くんの探偵とかは確かに証明しづらいな。
「その4人はこっちで専用の課題を出すよ! それをクリアできたらニセモノじゃないって認めてあげるからね!」
「なるなるー」
アンジーさんや入間さんは研究教室があるから作品作り、茶柱さんは道場で誰か投げ飛ばせばいいのかな?
ゴン太くんは研究教室で虫の卵を孵化させればいいわけだし、ぼくはアロマオイル作り。白銀さんはなにかのコスプレ…… と。キーボくんは存在そのものが超高校級らしいから除外かな。
赤松さんはピアノ演奏をすればいいだけだし…… みんな一応大丈夫だと思う。
残るは春川さんの問題をどう処理するかだ。
「私は行く」
「ちょっと、春川さん!」
出て行く春川さんを追おうとした赤松さんは、すんでのところで最原くんに腕を掴まれ、引き留められる。
「最原くん…… ?」
「ご、ごめん…… でも、春川さんのことは信じたいけど、赤松さんになにかあっても僕は嫌だから」
「心配いらないよ?」
「…… ごめん」
「ここはオレに任せろ。テメーらの分まであいつを引っ張ってやるからな。知ってるか? 宇宙飛行士ってのは協調性のあるヤツじゃねーと務まらねぇ。人を纏めるのもオレの仕事だ」
そう言って百田くんが追って出て行く。
「おーい、ハルマキ!」
謎のあだ名を言い残して。
いつの間にそんな愛称をつけたの……
「ケッ、ニセモンにオレ様の才能が再現できるわきゃねーな」
入間さんも出て行く。
ああ、この流れ知ってる。結局全員食堂からいなくなっちゃうやつだ……
「天海君の課題はなんだろうね」
「分かりやすいのでお願いしたいところっすね」
新たな動機に気を落としながら、ぼくらはゆっくりと放置された食器類まで回収するのだった。
活動報告にて要望がありました、主人公からV3メンバーへの人物評価をanswerとして追記致しました。大変遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
次回更新の2月28日は主人公の誕生日となります…… といっても今回は特別なお話は書きません。ご了承くださいませ。
ティファさんより主人公の、カジノでメダル全部溶かしたと思われるイラストを頂きました!可愛いおぶ可愛いです……
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