月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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それぞれの課題

 

 とりあえず一度個室に戻り、課題を確認することにした。

 今までの動機から言って、今回の課題も個室に届けられているはずだ。

 天海くんと白銀さんもそれぞれ課題を確認するために個室へ帰っている。

 ぼくらの課題は才能が分かりやすいからなんとなくなにをするのかとか想像がつくけど、例えば王馬くんや百田くんなんかはなにが課題になっているのかすら想像できない。

 宇宙飛行士や総統の才能なんてどうやって証明するんだろう。宇宙飛行士は宇宙に行かないと証明できない…… のかな。

 宇宙旅行…… おしおき…… うっ、頭が。

 いやいや、よく考えたら百田くんはまだ訓練生だって言ってたか? なら、宇宙飛行士になるための試験をもう一度受けるとか、そういう感じになるのだろうか。

 それにしても王馬くんの総統の才能をどう証明するのかが本気で分からない。総統…… リーダー…… ううん、みんなを率いる…… っていうのは彼の性格では違うだろうし、影で操る…… とかか?

 まさか殺人教唆とか、指定されてなければいいんだけど。

 春川さんと合わせて、要観察かな。

 彼がそれに従うとは到底思えないけど、達成できずに死んでほしいなんてことも思ってないからさ。

 他の人はなんとなく想像できないこともない。

 

 そんなことをつらつらと考えながら個室内を見渡していると、どこからかピンク色の物体が飛び出てきた。

 

「わっ!」

 

 一瞬なにかと思ったけど、どうやらそれはモノファニーだったみたいだ。

 

「あっ! お邪魔して待ってたわ!」

「きみがいるってことは、動機のことについて?」

 

 邪魔するなら帰れとお約束なことを言うのもいいけど、説明はしてもらわないといけないからね。才能の証明…… ぼくの場合、今まで通りでいいのだと思ってたけど、違うのだろうか。

 

「それで、ぼくの課題は? いつもみたいに精油作ったりすればいい?」

「それもあるわ! でもね、キサマは〝 アロマセラピスト 〟なの! アロマでセラピーする職業の人なのよ! 自分を慰めているだけじゃいけないのよ! …… キャッ、アタイったら〝 自分で慰める 〟なんて、なんて破廉恥なことをー!」

 

 後半の言葉は置いといて、たしかにぼくは〝 超高校級のアロマセラピスト 〟だ。

 自分を落ち着かせるために始めた趣味だけど、それで他人の心を癒すことも目的としている才能…… なるほど。

 

「それでね、この学園には今、キサマの才能が必要な生徒がいるでしょう?」

 

 心当たりは、ある。

 心に傷を負って、別人のように大人しくなってしまった茶柱さんだ。

 彼女は心が弱ってアンジーさんの宗教により、頼りない足元を支えている状況だ。今のままではいつか崩れ落ちてしまいかねないし、アンジーさんとの共依存になってしまえば2人とも一気に崩れる可能性がある。

 アンジーさんが精神的に弱るところなんて想像もつかないから、共倒れについてはあんまり心配していないけど……

 

「つまり、ぼくの才能で茶柱さんを元気付ければいいの? 線引きが随分と曖昧なんじゃないかな」

 

 それに、ぼくは他人に対してセラピーと言えるようなことをしたことがない。自分の心を落ち着かせ、そして現実逃避のためだけに使ってきた。確かに人のイメージを香りとして形にすることもあるし、それをプレゼントすることだってある。けど、それとこれとは別だ。

 こんなに心の弱いぼくが彼女のカウンセリングをできるかなんて、結果は決まっている。

 

 それでも、やるしかないなら。

 

「課題のチェンジなんて、できないよね」

「それじゃあ才能の証明にはならないわ! ニセモノがどうにか駄々をこねているようにしか見えないもの!」

「だよね…… 認められない。なら、精一杯やるよ。判定は誰がするの?」

「それは秘密ね。教えたら意味がないもの! アタイもキサマのことは信じてあげたいけど、審査員の前でだけ取繕われても困るのよ」

「そっか、分かったよ」

 

 これでぼくの課題は判明した。

『茶柱転子へのアロマセラピーおよびカウンセリング』だ。

 誰かも分からない審査員に茶柱さんの心が回復したと判断されなければ、恐らく不合格になるだろう。そうなればぼくはエグイサルで速やかに処分される。

 うん、結構成否は分かりやすいな。

 あとはぼくの努力次第、か。あの変貌した茶柱さん相手だと思うと気後れしてしまうが、なんとかやるしかないだろう。

 

 さて、天海くんたちはどうかな。

 モノファニーが去って静かになった室内から出る。

 どうやら無意識に息を詰めていたようで、外に出たときに少しだけくらりとした。

 大きく息を吸って吐いて、深呼吸。緊張の汗が滲んだ首筋をさっと払い、横目に見えている赤髪が揺れた。

 臆病な気質はまったく変わらないけど、冷静に話を聞くくらいならなんとかなる。

 ただ…… 今回の動機は課題の難易度によって本気で命の危機だから話を聞くのが怖かった。素直に怖かった。それだけ。

 

 キイ、と僅かな扉の軋む音。

 視線をそちらに向ければ、白銀さんがちょうど同じタイミングで外に出てきたみたいだった。

 

「あ、白銀さん。課題は分かった?」

「そういうってことは、香月さんも分かったんだね。よかった」

 

 心なしか、白銀さんの頬が紅潮しているような気がする。

 興奮冷めやらぬといった感じだけど…… 課題で不安になってる感じではないし、もしかして彼女にとって苦にならないものだったのかな。

 いや、この反応はむしろ…… 課題にやり甲斐とか、嬉しさを感じている…… みたい?

 ああそうか、彼女の才能はコスプレイヤーだし、思う存分コスプレできることになったのかな? それなら確かに嬉しいだろうな。

 

「天海くんが来るまで待とうか」

 

 白銀さんの言葉に頷いて壁に寄りかかる。

 それから、10分程して天海くんが部屋から難しい顔をしながら出てきた。

 ぼくたちも5分から10分程度課題についての問答を部屋で行ったが!天海くんはさらに10分程度…… 計20分程度課題についての話をしていたことになる。もしくは、課題がなかなか見つからなかったとか、かな。

 

「先に言っておくっすね。俺はもう課題をクリアしちゃったっす。お2人はまだっすよね。だから、できれば俺の課題については1番最後に話したいんすけど」

「え!?」

「い、いいけど、地味に早いね。なにがあったの……」

「聞けば分かるっすよ」

「そっか……」

 

 どうせ後で説明があるはずなので、深くは聞かずまずはぼくから説明することにした。僅かな差で白銀さんよりぼくのほうが早く部屋から出てきていたみたいだからだ。1番遅かった天海くんを最後にするなら、似た条件で順番を決めたほうがいい。つまり出てきた順だ。

 

「ぼくはいつも通りでいいと思ってたら、ちょっと違ったんだよね。アロマセラピストだから、カウンセリングも成功させろってさ」

「それって、もしかして」

「うん、茶柱さんのことだね。しばらくは茶柱さんと一緒に行動してみようと思う。お茶会はできるか分からないから、無理にぼくを構わないでいいからね……」

 

 2人とも、無理に構ってくれてるわけじゃないのは充分分かってるけど、今回は命の危険もあるし、ぼくもあまり余裕でいられないと思う。2人にもやることはあるだろうし、ね。

 

「えっと、わたしはね…… 材料は自由に5種類指定して、その中からコスプレ衣装二種類の製作、撮影だね。クオリティの確認のためになるべく生徒全員が知ってるものを選んだほうがいいって言われたんだけど…… 候補が多くて…… 悩み中、だね」

 

 5種類の材料で衣装を2種類とか、ただでさえタイムリミットが短いのに酷すぎない? 白銀さんが幸せそうだから別にいいけど。

 カウンセリングも普通は数日で終わらないはずだ。

 

「最後は天海くんだね」

「よし、話すっす」

 

 天海くんは、壁に寄りかかる傍観態勢から体を起こし、話し出す。

 

「俺の部屋にはテスト用紙があったっす。といっても、文章じゃなくて写真が印刷してあるやつだったんすけど…… その写真が、いつどこで撮られたものかを当てるって内容だったんすよ」

 

 へえ、超高校級の冒険家らしい内容だな。

 

「問題はそう難しいものじゃなかったっす。というか、分からないほうがおかしい内容だったっす…… だって」

 

 

 

 ―― あの写真は全部、俺が過去に撮った写真そのものだったんすよ。

 

 

 

「しかも、世に送り出してない秘蔵写真まであったっす。モノクマはいったい、どこからあれを知ったのか…… それがさっぱり分からないんす」

 

 その言葉に、ぼくと白銀さんは凍りついた。

 

 

 





 本日2月28日は主人公、香月泪の誕生日となります。
 リアルに生まれた日ではなく、誕生花を月桂樹にするためこの日を選択しております。
 お誕生日おめでとう!

 来年からは誕生日小説が書ければいいなあ。
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